展能 力向 上機 会を 与え さえ すれ ば、 植民 地化 によ り彼 らに 加え た害 悪に 対す る宗 主国 の加 害責 任が 相殺 され ると い う主 張も 道徳 的に 不当 であ る。 第四 に、 富裕 諸国 によ る過 去の 植民 地支 配が 旧植 民地 の経 済発 展に 与え た有 利な 影響 を喜 んで 強調 する ミラ ーの 姿勢 は、 富裕 諸国 が貧 窮諸 国に 押し 付け てい る現 在の 世界 秩序 が貧 窮諸 国に 与え てい る不 利な 影響 を重 視す るこ と には 消極 的な 彼の 姿勢 と、 困惑 させ るほ ど著 しい 対照 を示 して いる
。例 えば
、彼 の言 う﹁ 経済 的成 功伝
﹂の 一つ
、 現在 のイ ンド につ いて
、そ の近 年の 著し い経 済発 展が 英国 の植 民地 支配 のお かげ であ ると いう 主張 には 躊躇 なく 賛 同し なが ら、 独立 後長 く続 いた イン ドの 貧窮 と、 経済 発展 が進 む現 在も 取り 残さ れて いる 膨大 な数 のイ ンド 貧困 層 の悲 惨な 境遇 に対 して
、英 国の 植民 地支 配の 負の 遺産 に加 えて 現在 のグ ロー バル な政 治経 済制 度が 加害 的影 響を 与 えて いる とい う主 張に は懐 疑的 距離 をと ると いう
、非 対称 な﹁ 事実 認識
﹂に ミラ ーが コミ ット して いる こと を彼 の 上記 言明 は示 唆し てい るが
、こ れは 英国 を含 む先 進諸 国の 自己 正当 化欲 求に よる 不公 正な 認知 的偏 向で ある と言 わ ざる をえ ない
。世 界貧 民に 対す る世 界秩 序の 加害 的影 響に 関す る事 実的 主張 が論 争的 だと した ら、 旧植 民地 社会 の 現在 の経 済発 展に 対す る植 民地 支配 の遺 産の 有利 な影 響に 関す る事 実的 主張 も、 少な くと も同 程度 に論 争的 であ り、 前者 を確 証さ れて いな いと して 斥け なが ら、 後者 をあ たか も確 証さ れた かの よう に断 定す るこ とは でき ない
。
﹁陽 の沈 む所 なき 大英 帝国
﹂と して
、か つて 世界 の広 大な 地域 を植 民地 化し た英 国の 知的 中心 たる オッ クス フォ ード 大学 の教 授で ある ミラ ーが
、現 在、 ここ に見 たよ うな 露骨 に不 公正 な立 証責 任の 操作 によ って 植民 地主 義の 全 般的 有益 性を 推断 する 言明 を平 然と なし うる とい う事 実は
、世 界正 義の 問題 に関 して 先進 諸国 知識 人が 陥り やす い 自己 欺瞞 を象 徴す るも のと して 銘記 され てよ い。
⑵
ミラ ーに 限ら ず、 富裕 諸国 の制 度的 加害 責任 を限 定す るこ とを 望む 人々 によ って なさ れる ポッ ゲへ の常 套的 反論 は、 現在 の世 界秩 序の 世界 貧困 への 因果 的寄 与に 関す る彼 の経 験的 主張 の立 証に 彼が 成功 して いな いと いう もの で ある
。こ の点 で、 精妙 な議 論を 展開 して いる のは
、ジ ョシ ュア
・コ ーエ ンで ある
。彼 は、 制度 的加 害是 正論 が前 提 する 世界 秩序 の変 更に よる 世界 貧困 問題 の解 消可 能性 の経 験的 立証 につ いて 次の よう な批 判的 留保 を加 える
。彼 は、
﹁道 徳的 損害 をそ れ自 体が 生み 出さ ない よう な程 度の 世界 規則
︵g lo ba lr ul es の︶ 変更 によ って
、若 干の 世界 貧 困問 題が 除去 でき る﹂ とい う﹁ 通例 テー ゼ︵ Co nv en ti on al Th es is
︶﹂ と、
﹁高 々富 裕層 の所 得の 微減 を伴 う程 度の 小 規模 な世 界秩 序の 変更 によ って
、ほ とん どの 世界 貧困 問題 が除 去で きる
﹂と いう
﹁強 いテ ーゼ
︵S tr on gT he si s︶
﹂ とを 区別 し、 ポッ ゲの 主張 は後 者だ とし た上 で、 前者 は異 論な く一 般的 に受 容さ れう るが
、後 者は 論争 の的 であ り、 ポッ ゲは 後者 を立 証で きる だけ の経 験的 証拠 を提 示し てい ない と批 判す る。 また
、国 際資 源特 権や 国際 借款 特 権を 廃止 ない し制 限す る制 度変 更が 世界 貧困 問題 の改 善に 対し ても ちう る影 響も 不確 かで ある とす る︵ 参照
、 Co he n2 01 0︶
。 ポッ ゲの 制度 的加 害是 正論 は、 先進 諸国 が貧 窮途 上国 に押 し付 けて いる 現在 の世 界秩 序が 世界 貧困 問題 の唯 一の では ない にし ても 主要 な因 果的 要因 にな って いる と主 張す るか ら、 現在 の世 界秩 序を 構成 する 制度 に適 切な 変更 を 加え れば
、世 界貧 困問 題の 完全 な解 消で はな いに して も、 少な くと も大 幅な 改善 がも たら され るで あろ うこ とを 前 提し てい る。 コー エン はこ の前 提の 経験 的立 証に ポッ ゲが 成功 して いな いか ら、 彼の 制度 的加 害是 正論 は破 綻す る と主 張し てい るわ けで ある
。コ ーエ ンは ミラ ーほ どで はな いに して も、 世界 貧困 問題 解決 に関 して
、世 界秩 序変 革 の効 果を 限定 的に 見る こと によ って
、貧 窮途 上国 の国 内的 要因 をよ り重 要視 する 観点 を示 唆し てい ると 言え るだ ろ う。 かか るコ ーエ ンの 批判 に対 する ポッ ゲの 反論 の主 たる 論点 は次 の三 つで ある
︵参 照、
。︶ 第
Pogge 20 10b: 17 5-191
一に
、世 界貧 困問 題に 対す る制 度変 更の 因果 的影 響の 経験 的証 拠を 現在 の社 会科 学が 十分 提供 して いな いの は、 説 明的 ナシ ョナ リズ ムを はじ めと して 制度 的加 害を 無視 する 通念 が支 配的 であ った ゆえ に生 じた
﹁研 究偏 向︵ re -se ar ch bi as
︶﹂ によ る。 彼の 制度 的加 害是 正論 の目 的の 一つ はこ の研 究偏 向を 克服 して
、制 度的 加害 に関 する 研究 を促 進す るこ とに ある
。第 二に
、現 在利 用可 能な 経験 的証 拠は
、彼 の強 いテ ーゼ を決 定的 答申
︵a co nc lu si ve ve r -di ct と︶ して 証明 する には 十分 でな いに して も、 それ を支 持す る証 拠の 反対 証拠 に対 する
﹁優 越︵ pr ep on de ra nc e︶
﹂ を示 すに は十 分で ある
。コ ーエ ンは ポッ ゲや 他の 論者 が提 供し てき た強 いテ ーゼ を支 持す る経 験的 証拠 にほ とん ど 注意 を払 って いな いだ けで なく
、コ ーエ ンが 挙げ たこ のテ ーゼ に対 する 反対 証拠 は乏 しい と同 時に 信憑 性の 弱い 典 拠に よる
。結 局、 コー エン は﹁ 決定 的証 明﹂ とい う極 めて 重い 立証 責任 を制 度的 加害 是正 論に 課す こと によ って そ れを 斥け よう とし てい る。 第三 に、 世界 貧民 の窮 状が 極め て悲 惨で あり
、か つ制 度的 変革 によ りそ れを 大幅 に緩 和 でき ると 考え るに 足る
﹁証 拠の 優越
﹂が 存在 する にも 拘わ らず
、決 定的 証明 がな いこ とを 理由 に、 なす べき 制度 変 革に つい て判 断停 止す るの は、 実践 的文 脈に おい ては
、極 めて 反道 徳的 であ り、 それ は﹁ 例え ば、 鉛製 錬所 の排 出 物質 が近 隣村 の子 供の 間で 重大 な精 神発 達障 害を 惹起 して いる こと の証 拠が 単に 優越 して いる だけ の場 合に は、 鉛 製錬 所を 稼動 させ 続け ると いう よう なこ とが
、極 めて 反道 徳的 であ る﹂
︵
︶の と同 様で ある
。
Ibid., 18 2
以上 のよ うな 経験 的立 証問 題に 関し て、 私見 を述 べて 本稿 を締 め括 りた い。 第一 に、 制度 的加 害是 正論 の狙 い は、 前節 で見 たよ うに
、先 進諸 国の 負担 を限 定・ 緩和 する こと によ りそ れが 課す 義務 の受 容可 能性 を高 める こと に では なく
、逆 に、
﹁不 当に 重い 負担 なく して
﹂と いう よう な積 極義 務に 伴う 負担 回避 口実 を排 除し て先 進諸 国の 世 界貧 民救 済義 務の 規範 的拘 束力 を強 化す るこ とに ある から
、強 いテ ーゼ に含 まれ る、 必要 な制 度変 更の 先進 諸国 に とっ ての コス トの 小さ さの 主張 は制 度的 加害 是正 論の 本質 的構 成要 素で は
( )
ない
。世 界貧 困問 題解 決の ため の制 度変
11
更が 先進 諸国 の制 度的 加害 を是 正す る消 極義 務で ある なら
、そ のコ スト が大 きく ても 先進 諸国 はそ の履 行を 拒否 で
きな い。 もち ろん
、世 界貧 困問 題の 大幅 な緩 和に 必要 な制 度変 更コ スト が小 さけ れば
、か かる 制度 変更 に対 する 先 進諸 国の 抵抗 は弱 まり うる から
、実 践的 戦略 とし ては コス トの 小さ さの 主張 に意 義は ある かも しれ ない
。し かし
、 この 付加 的主 張は
、コ ーエ ンに おけ るよ うに
、制 度的 加害 是正 論に 対す る経 験的 立証 要求 の加 重化 の口 実に され う るか ら、 実践 的戦 略と して も再 考の 余地 があ る。 第二 に、 ポッ ゲが 指摘 する
﹁研 究偏 向﹂ が是 正さ れて 制度 変更 効果 に関 する 経験 的証 拠が より 豊富 に提 供さ れる に至 って も、 経験 的主 張は 可謬 性を 免れ えな いが ゆえ に、 反証 可能 であ って も決 定的 な検 証可 能性 は標 榜し えな い から
、彼 の言 うよ うな
﹁決 定的 答申
﹂に 到達 する こと は不 可能 であ ろう
。し かし
、経 験的 主張 の決﹅ 定﹅ 的﹅ 証明 は係 争 問題 に関 する どの 立場 にと って も不 可能 であ る以 上、 この
﹁判 断の 負荷
﹂は ポッ ゲに もそ の批 判者 にも 等し く課 さ れて いる
。両 者に でき るこ とは 論敵 の立 場を 支持 する 証拠 に比 して 優﹅ 越﹅ 的﹅ であ ると 考え て無 理の ない よう な経 験的 証拠 を提 示す るこ とで あり
、こ の現 実的 レベ ルで の立 証責 任は ポッ ゲだ けで なく 批判 者も 共有 して いる
。﹁ 証拠 の 優越
﹂に 関す るポ ッゲ の議 論の 詳細
︵
に︶ はこ こで は立 ち入 れな いが
、私 には 説得 的に 思わ
( )
れる
。い
Ibid ., 18 2-191
12
ずれ にせ よ、 批判 者が 反対 証拠 を十 分に 提示 する こと なく
、単 にポ ッゲ の経 験的 証拠 を決 定的 証明 に足 りな いと し て斥 ける のは 不公 正な 立証 責任 転嫁 だろ う。 コー エン がポ ッゲ の経 験的 立証 の不 足を 指弾 して
﹁社 会科 学は それ ほ ど易 しく ない
︵S oc ia ls ci en ce is no tt ha te as y︶
﹂︵
と︶
﹁お 説教
﹂し なが ら、 自ら は﹁ お手 本﹂ にな る
C oh en 20 10: 25
よう な十 分な 社会 科学 的分 析を 提供 せず
、﹁ 社会 科学 の困 難さ
﹂を もっ ぱら ポッ ゲの 立場 を斥 ける 根拠 にで きる と 想定 して 済ま して いる のは
、こ の不 公正 な立 証責 任転 嫁の 顕著 な例 であ る。 第三 に、 制度 的加 害是 正問 題を めぐ る経 験的 主張 の決 定的 証明 が不 可能 であ るに も拘 わら ず、 我々 はこ の問 題に 関し てど の立 場を とる にせ よ、 判断 停止 でき ず、 態度 選択 をせ ざる を得 ない
。し かも
、﹁ 合理 的な 疑い
﹂を 一切 排 除す るほ どの 立証 責任 を論 敵に 一方 的に 転嫁 して 済ま すと いう 不公 正な 手段 を超 えた 仕方 で判 断し なけ れば なら な