【学位論文審査の要旨】
【審査結果】
本論文は,完全型Mirror Writingの女性の臨床例について,彼女の協力,承諾を得て行っ た諸研究を記録するとともに,本例が従来のMirror Writing発現メカニズムに関する諸仮説 では説明できないことを論じ,さらに本例で得られた知見を Mirror Writing で有名な
Leonardo da Vinci,Lewis Carrollと比較考察した意欲的な論文である.本論文の主たる成果
は次の通りである.
(1) 非常に稀である完全型Mirror Writingの女性の臨床例について,彼女の協力,承諾を得 て,治療の過程で行動観察,fMRI,タキストスコープを用いた心理学実験を行い,学術的 に極めて貴重なデータを提示した.
(2) Mirror Writing発現メカニズムは解明されておらず,多くの仮説が提唱されているが,そ
れらの諸仮説を体系的に整理するとともに,従来の諸仮説では本例のMirror Writing発現を 説明できないことを示した.
(3) Leonardo da VinciとLewis CarrollのMirror Writingと本例との比較考察を行い,共通点や 相違点について論じた.
(4) (2)と(3)の考察から,Mirror Writing発現を促進する要因は単一とは限らず,複数の要因の
組み合わせにより総量がある一定限度に達したときに発現するという考えを提唱した.ま た,Mirror Writing促進要因として,すでに報告されている laterality,脳損傷,薬物,心因 性要因,環境要因,学習などに加えて,不思議の国のアリス症候群と脳幹性前兆がある片 頭痛を加えることを提唱した.
Mirror Writingの発現メカニズムの解明は,今後の医学や脳活動・機能を測定するテクノ
ロジーの更なる発展を待たなければ容易には明らかにされない課題であり,多くの問題を 残している.
しかし,担当したMirror Writing発現者を治療とともに実験により詳細に検討してその記 録を積み上げた本論文の学術的価値は高く評価される.平成29年12月14日の公開審査に おいても,中野光子氏の高度な学識と見識が確認されると同時に,本研究がこの分野にお いて大きく貢献していることが確認された.よって審査員一同は,中野光子氏に博士(心 理学)の学位を授与することが適当であると判断した.