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博士論文審査報告書

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Academic year: 2021

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早稲田大学大学院国際情報通信研究科

博士論文審査報告書

論 文 題 目

Application of Magical Realism in Cinema:

Depicting Cultures and Traditions

マジカル・リアリズムの映画への応用

―文化と伝統の表現―

申 請 者 YEO YEE HAENG

楊 毅恆

国際情報通信学専攻 マルチメディア表現研究 II

2013 年 2 月

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本論文の主題を構成するマジカル・リアリズムは、文学や絵画において確立された芸術表現の 一手法である。文学作品におけるマジカル・リアリズムの表現は、日常の現実世界の中に僅かな 非現実的要素が加わることで、リアリティある幻想的世界観を表現する手法として確立されてい る。この手法を用いた文学作品は、ラテンアメリカや東南アジア、日本などの地域において多く 見受けられ、死者が現実の日常に自然に現れたり、異なる伝統や文化を違和感なく乗り越えられ る特色がある。

映画分野においても、これまでに多くの映画作家たちがマジカル・リアリズムによる表現を試 みているが、映画表現の概念あるいは技法としては未だ確立されていない。映画は、国家、言語 や文化の障壁を越えて社会の奥深くまで浸透する特性を持ち、それが商業目的か芸術目的かに拘 らず、異文化理解の基盤となるポテンシャルを持つ。言い換えれば、映画は異なる伝統や文化間 において共通の感情を共有できる芸術形態であると言える。従ってマジカル・リアリズムの映画 への導入は、世界を観察するための極めて有効なツールとなる可能性が高い。そしてそれは、国 籍や文化背景に関係なく、全ての観客の間に感情的な繋がりを形成する表現手段となり得る。

本論文は、以上のような背景の中で、マジカル・リアリズムの表現手法を映画に応用するため に有効な方法について研究を行い、その実践として映画制作を行うことによって、日本、マレー シア、タイ等異国間の異なる文化・伝統の融合や結合を試み、地域や国籍の境界を越えた映画表 現の可能性を実証するものである。なお、本論文は英語で執筆されている。

以下、各章ごとに概要を述べ、評価を加える。

第1 章“Introduction”では、本研究の背景と研究対象を明らかにし、本論文の目的及び構成

を示している。マジカル・リアリズムは、映画の文脈においては、比較的曖昧であるため、より 多くの例をあげ説明し、認知度をより深くしている点が評価される。

第 2 章“Background”では、マジカル・リアリズムの概念と、世界の映画においてどのよう

に使用されているか、また、歴史と幻想が交じり合う影響力についてや政治的批判としてのマジ カル・リアリズムの役割について述べている。以上から、本研究の位置づけを明確にしている点 が評価できる。

第3章“A Filmmaking Experiment”では、本論文研究を目的として自身で制作した作品群を

総合的にまとめ、どのようなマジカル・リアリズムの要素を用いて物語を語るメソッドを実践し たかについて分類整理し、その要素を3つのカテゴリーに分けて目的と方法論を明確に関連付け ている。このことは、次章以下で述べるそれぞれの作品の制作意図にとってマジカル・リアリズ ムがいかに有効であったかを分析評価するのに役立ち、新規な方法論として評価できる。

第4章“Crossing Cultural and National Barriers with Magical Realism”では、第3章で類 型化された第一の要素、「マジカル・リアリズムを用いて、異なる文化あるいは国家間の社会的政 治的境界を交差させる」と云った意味を包含して撮った作品を3作品挙げ、それぞれの、マジカ ル・リアリズムの使われた箇所、意図、根底の意味などについて分析している。

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分析された作品と概要は、下記の通りである。

4.1 『フリーティング・イメージ』(2008 年)異化効果の技法を用いて、日常生活を再評価し たエッセイ映画で、巧みにマジカル・リアリズムが適用されている。

4.2 『Love Suicides』(2009年)川端康成のマジカル・リアリズムの短編小説「心中」から触 発されたショート・フィルムで、マレーシアの政治的寓話を取り扱った優れた作品である。作品 は、論文の一部としてDVDで添付されている。

4.3 『Woman on Fire Looks for Water』(2009年) 迷信的な信仰と漁村の村人たちの伝統を擬 人化して、マジカル・リアリズムを表現している。

第5章“Bridging History and Time with Magical Realism”では、第3章で類型化された第 二の要素、「マジカル・リアリズムを用いて、歴史と時間の橋渡しを行う」を意図して制作された 作品を3作品挙げ、それぞれのマジカル・リアリズムの使われた箇所、意図、根底の意味などに ついて分析している。

取り上げた作品と概要は、下記の通りである。

5.1 『金魚』(2009 年)川端康成の「伊豆の踊子」と「カナリヤ」から触発された作品。完全 分割スクリーンの手法で、死者によるマジカル・リアリズムの表現をより効果的にしている。作 品は、論文の一部としてDVDで添付されている。

5.2 『Exhalation』(2009 年) 二人の女の想いとともに、死んだ男の幻影が現れる。白黒とカ ラーの映像が、マジカル・リアリズムの表現を強調する。作品は、論文の一部として DVD で添 付されている。

5.3 『春のノスタルジア』(2012 年) 母親と恋人の記憶を失わせまいと森に隠れ潜む死んだは ずの男。無常観と思慕というテーマを、マジカル・リアリズムの手法を使って、生け花や俳句と いった伝統文化の中に効果的に融合させている。

第6章“Magical Realism for Transcultural Storytelling”では、第3章で類型化された第三 の要素、「異文化間のストーリーを物語るためのマジカル・リアリズム」に着目した分析である。

異文化について全く新しい美学的思想に基づいてストーリーを作成し、それらの共通点と関連性 に基づいて一つに融合されている。

分析は、下記の5作品について行われている。

6.1 『インハレーション』(2010 年)マジカル・リアリズムに基づく、マレーシアの政治状況 を批判する映画である。日本の日常がマレーシアの少女の逃避のシンボルとして描写される。作 品は、論文の一部としてDVDで添付されている。

6.2 『水の中の少女』(2011年) 超自然的なマジカル・リアリズムの物語で、近隣国マレーシア

とタイの複雑な関係を寓話にしている。

6.3 『冬の断片』(2011 年)非時系列な方法を用いて、過去と現在、現実と夢、日本とマレー シア、そして3月11日の大震災にも言及するストーリーである。作品は、論文の一部としてDVD で添付されている。

6.4 『Now』(2010年)と『誰かが私の夢を見ている夢を見た』(2011年)マレーシアの中国

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文化の伝統的な図像解釈学と日本の建築が広範囲に描かれる。

6.5 『泥棒の第2の人生』未制作の長編。マレーシアの都市部と農村の社会的解釈が描かれる。

第4章、第5章、第6章の各節の終わりに、映画祭での招待、受賞リストと共に、映画学者、

批評家等の評価、論評を掲載しているが、マジカル・リアリズムの具体的な有効性を明確化した ことが高く評価されている。また、作品自体の芸術性についても高い評価を得ている。

第7章“A Final Experiment on Applying Magical Realism in Cinema”では、論文の最終研 究にあたるもので、第 4章、5 章、6 章のコンセプトを融合して『生まれ変わった鹿の夢』とい う長編映画の脚本を提案している。マレーシア、インドネシアならびに日本の1世紀に渡る時間 と広範囲に及ぶ歴史を行き交う物語である。この壮大なマジカル・リアリズムの表現は、大きな 可能性を示唆しており、その成果が期待される。脚本は、本論文の一部として添付されている。

第8章“Conclusion”では、本論文で得られた成果をまとめると共に、今後の課題を述べ、マ

ジカル・リアリズムの物語表現の無限の可能性について言及している。

以上、本論文は、著者の一連の芸術実践の根底にある創造基盤とその過程で得られた知見につい て論じ、実践作品化したものである。ここで論じられた『マジカル・リアリズムの映画への応用―

文化と伝統の表現―』は、マジカル・リアリズムの表現手法が、映画世界においても伝統や世界観 の相似性及び異質性を表出するのに適していることを明らかにし、また、その実現の方法論を示し、

それらの有効性を実証している。これは、マルチメディア分野の映像制作表現に新たな地平を創出 するものとして高く評価する。

国際情報通信学において、技術とコンテンツ・サービスは車の両輪としての役割を果たすという 観点から、著者の一連の芸術実践活動およびそれをまとめた本論文は、国際情報通信学の発展に寄 与するところがきわめて大きい。よって博士(国際情報通信学)の学位を授与するに値するものと 認められる。

2013年2月6日

審査員:

主任 早稲田大学教授 安藤 紘平 早稲田大学教授 工学博士(新潟大学) 佐藤 拓朗 早稲田大学教授 坂井 滋和 早稲田大学教授 博士(人間科学)(早稲田大学) 河合 隆史 早稲田大学教授 博士(国際情報通信学)(早稲田大学) 中村 清

早稲田大学教授 JUNKERMAN John 東京芸術大学教授 堀越 謙三

参照

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