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博士論文審査報告書

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Academic year: 2021

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早稲田大学大学院 環境・エネルギー研究科

博士論文審査報告書

論 文 題 目

企業における環境経営戦略の動向分析に関する研究

Research on trend analysis of the corporate eco-management strategy

申 請 者

伊藤 由宣

Yoshinori ITO

2013年 2月

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1

近年の企業を取り巻く情勢の変化は急である。なかでも地域環境の維持・向上や温暖化対応等、さまざま な環境問題に対して企業の責任が問われており、その解決に向けての要請や期待が高まっている。

企業は、これらに応えつつ継続的な利益の確保や企業価値向上を図らねばならないが、環境経営戦略の 立案にあたり意思決定上で必要となる情報は、現状においては経営者に対して必ずしも十分に提供され ているとはいえない状況にある。一方で、これまでの企業評価では、主に財務的観点である売上や利益 などが共通の指標として利用されてきたが、近年では環境会計をはじめとして環境負荷や環境配慮を計 量し、それを指標とする新たな視点が定着し始めている。しかしながら、持続可能性を志向する企業として、

これらの指標をどのように活用し得るのかについては、十分な検討がなされていない。

環境対応が要請される時代にあって、企業に求められるのは、高い企業価値を維持すること、環境対策と 財務の良好なバランスを取ること、そのための最適な資源配分を行うこと、さらに環境配慮企業として認 知されることなどである。こうした状況にあって、環境対策と財務のパフォーマンスについての従来研究で は、環境規制がイノベーションを誘発して企業競争力を高めるというポーター仮説が主流ではあるものの、

パルマーなど否定的な見解もある。また、環境投資とイノベーション効果の関係では、環境規制による革 新投資が促される可能性を示唆しているが、標準的なモデルの確立までには至っていない。

本研究では、このように実態把握や体系化がなされていない企業での環境経営戦略に対して、持続可能 性への要請が強まるなかで、今後いかに対応すべきかを追究し、統合的な動向分析を行っている。収集・

整理した情報を基に業種や産業グループなどの企業属性を基本として企業規模やホールディングスなど の企業形態によるさまざまな分析を行うとともに、環境経営に対する企業行動の特性を明らかにするため にモデル化や定量化の手法を開発・検証している。

第1章は、序章であり、研究の背景や目的を述べている。企業の環境経営の実態やその戦略に関する既 往の研究ならびに取り組みを調査・分析し、今後の方向性や問題点を整理している。

第2章では、企業活動の結果としての環境と財務のそれぞれのパフォーマンスが相互にどのように影響し 合うのか、その関係性を明らかにすることを目的とし、国内製造業 19 業種約 400 社を対象とした解析を行 っている。環境パフォーマンスデータとして日経の環境経営度調査を、また財務パフォーマンスには公開 財務データを、それぞれ 2005 年から 2010 年の過去6年間分を収集し、解析に用いている。環境評価の指 標は汚染対策や環境経営推進体制等の5つの視点であり、各 100 点満点のスコアで評価され一方、企業 価値は株価をベースとした市場価値から算出されるトービンのq-1 で判断している。分析手法としては、相 関分析や主成分分析、さらにモデルを構築のための重回帰分析などを取り入れている。

環境と財務の相関分析の結果では、ROA と市場価値との相関が高い一方で、環境経営推進体制と ROA の相関は低く、環境経営への取り組みは短期的な業績の向上には結びつかないことが示されている。ま た、研究開発費売上比は環境指標としての製品対策と、設備投資費売上比は汚染対策にそれぞれ影響 を及ぼしていることを明らかにしている。

次いで個別企業の位置付けと特性の確認のために主成分分析を実施しており、そこでは第1主成分とし ては環境配慮、第2主成分では企業価値と ROA などが中心となること、両主成分ともに高い企業は環境・

財務の両パフォーマンスにおいてバランスのとれた対応がなされていると考えられ、こうした企業の割合

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は多くないこと、さらに企業規模別や産業別にも特徴的な分布形態があることなどを示している。このよう に本論文では、これまでの企業の環境への取組みが企業価値に好影響を与えているという概観的な分 析からさらに進んだ詳細な解析を行っており、評価される。

第3章では、環境政策として掲げられる規制的と情報的の2つの手法が企業の環境経営にどのような環 境を与えるかについて検討している。規制的手法には汚染対策等を関連させ、情報的手法には環境経営 推進体制を割り当て、さらに財務指標としては ROA とトービンの q-1 を取り上げている。解析には共分散 構造分析を適用し、データに対するモデルの適合度は CFI や AIC などで提示される指標により判断を行っ ている。

結果として、食品業界をみると環境規制が財務に対してコスト負担増といえる-0.2 で影響し、情報開示の 要請はブランド効果ともいえる 0.38 のプラスに作用する結果となることなどを明らかにしている。また、業 種ごとの結果をみると石油、ゴム、鉄鋼、非鉄などの基礎素材が食品と同様の傾向をみせていることなど も確認している。このほか、以下の諸点も見出している。すなわち、企業規模別でみると環境規制では、

大規模は中堅に比べて財務への影響が 2~3 倍の負の影響を及ぼしているものの、企業価値への影響 は大きくなく、ROA では一定の成果を残している。また産業グループ別では、基礎素材は加工組立と比べ て規制要因が環境対策に好影響をもたらす度合いは少ないが、一方で財務へは負の影響が大きくなって おり、基礎素材はより環境規制によって財務的負担が高まっているといえる。

これまでは環境と財務の両パフォーマンスの相互関係については、規制的と情報的の両手法が総合的に 企業価値の向上に寄与するとされていたが、本研究によって企業属性や形態等により固有の特性を持つ ことが確認され、その意義は大きいといえる。

第4章では、イノベーションに対する投資行動が企業価値に対して、どのような影響をもたらすのかについ て、その要因をモデル化し、企業属性ごとに検証することで特性を明らかにしている。

投資モデルの構築においては、環境対策と投資行動、イノベーション効果、財務指標の4つのファクターを 構造化し、それぞれの影響度合いを明確にするために19の組み合わせのモデルから最も適合度の高い モデルを抽出する方法を採用している。大きく4つの型に分類されるモデルは逐次的な直列から統合、複 合へと複雑化させており、業種や企業の特性を表すものと考えられ、環境規制への対応やイノベーション 施策などが標準化されている業種はシンプルな直列となり、企業ごとの差別化が求められる業種になる ほど複雑化すると想定している。

解析の結果として、大規模企業では潤沢な資金力でイノベーションを先行させているものの、環境対策が 財務にマイナスの影響を及ぼすモデルが合致しており、一方、中堅企業では環境対策が先行し、最低限 での環境対応を取りつつも、その投資が財務にマイナス影響をもたらしているモデルが選ばれるなどのこ とを明らかにしている。産業グループ別では、生活関連は複合型で環境対策がイノベーションに影響を与 えているのに対し、基礎素材と加工組立はイノベーションが先行する同一モデルとなっているものの、そ の影響は異なっており、それぞれ基礎素材は先の大規模企業の特性に類似し、加工組立は中堅規模の それと同様な傾向を持つことなども示している。また、非鉄、窯業、化学などの基礎素材が標準的な直列 型に、電機や印刷などの加工組立が複合型になり、基礎素材はコスト削減志向のプロセスイノベーション

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で、加工組立や生活関連は製品イノベーションで対応している可能性が考えられ、当初の想定に近い結 果が確認されている。

第5章では、わが国の社会的責任投資(SRI)の現状を分析するとともに、そのなかでの環境配慮の位置 付けを明確にし、その結果を基に SRI の今後のあり方について提案を行っている。データは第2章で構 築・活用したものと同一であり、これに国内 SRI ファンドの情報を付加している。

多くの企業は SRI の 1 ファンドから選定されているのみであり、SRI の選定方針が明確になっていないこと や 2010 年度では電機、自動車、医薬品などの業種が多く選定されていることなどを示している。また SRI 選定企業と非選定企業に関する要因ごとの比較では、企業価値と環境および財務のパフォーマンスとも に選定企業が上回っているが、前2者ではその差はさして大きくないことを示している。第2章で示した主 成分分析の結果と比較すると、環境と財務の両者にバランスの取れた企業の割合は、SRI 選定企業では 全社平均より多くなっていることも確認している。一方で回帰分析によると、SRI 選定企業の環境経営推進 体制の要因がマイナスに影響していることから、過剰な環境投資による企業価値の毀損傾向があること、

製品配慮や温暖化対策はプラスに作用し、企業価値を高める傾向にあることなども示している。さらに、

SRI 選定企業の特性についての要因分析では、小規模企業でも環境を含めた要因で選定されるケースも みられるが、実態としては企業属性、財務、環境の3つの関連要素において企業規模や財務的指標が選 定要因の中心であり、環境関連の要素は重要視されていないことなどを明らかにしている。

こうした現状を踏まえ、今後の SRI の方向性を提案している。

第6章では、本論文のまとめとして本研究で得られた成果を要約するとともに、今後の研究の展望につい て述べている。

本論文では、2005 年から6年間のわが国の製造業に関する環境と財務のパフォーマンスデータ等を活用 し、個別企業や産業別、企業規模別の環境経営戦略について、さまざま視点から動向を分析している。す なわち、環境と財務の両パフォーマンスの相互の関係や環境政策として取られる規制的手法と情報的手 法が企業の環境対応や財務状況にどのような影響を与えるかを明らかにしている。加えて、投資配分をイ ノベーション効果の視点を加味してモデル化し、その適合度から企業行動や影響度を考察している。また、

SRI の現状分析とその中での環境の位置づけを明確にし、今後の SRI の発展のための方向性を示してい る。

以上、要するに本論文は種々の解析手法を駆使して現在のわが国の企業の環境経営戦略を分析し、多 くの有用な情報を提供したものであり、今後の環境経営の進展ならびにそれを通じた企業の発展に寄与 するところ大である。よって、博士(学術)の学位論文として価値あるものと認める。

2013年2月

(主査)早稲田大学教授 永田 勝也 早稲田大学教授 友成 真一 早稲田大学准教授 博士(工学) 早稲田大学 小野田 弘士

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