早稲田大学大学院国際情報通信研究科
博士論文審査報告書
論 文 題 目
セルラ移動体通信システムにおける
高効率無線チャネル割当制御方式に関する研究 Study on Highly Efficient Radio Channel Allocation for
Cellular Mobile Communication Systems
申 請 者
大西 健太
Onishi Kenta
国際情報通信学専攻 ワイヤレスシステム研究 II
2013 年 2 月
現在のモバイル通信システムは、周波数利用効率を向上する観点からセルラ方式を採用 している.セルラ方式は、広い地域を細かくセルで分割し、各セル毎に基地局を設置し、
セル間でチャネル間干渉が影響を及ぼさない範囲で同一周波数チャネルを繰り返し利用す ることで、ユーザ端末に対して大容量、高品質、高速の通信サービスの提供が可能となる.
しかし、セルラ方式では、同一周波数チャネルを繰り返し利用する場合、セルの境界近傍 で通信をしているユーザ端末に干渉が生じ通信品質が劣化する.適切な無線周波数チャネ ル割り当て方式によりセルラシステム全体の通信品質を向上させることが必要である.
無線周波数チャネル割当方式は無線アクセス制御方式によって決定される.従来の無線 アクセス制御方式では大容量化を目的として符号分割多重(CDMA: Code Division
Multiple Access)方式が採用された.しかし、CDMA方式では通信容量を増大することはで きたが、高い通信速度を実現することはできなかった.近年、高速で大容量のモバイル通 信システムを実現することを目的として、直交周波数分割多重(OFDM: Orthogonal Frequency Division Multiplexing)方式が無線アクセス制御方式として用いられるように なってきた.OFDM方式では、近傍のセルからのチャネル間干渉の影響により、セル境界 付近に位置するユーザ端末とセル中心付近に位置するユーザ端末では通信品質が異なる.
また、ユーザ端末の移動状況や周囲の環境により通信品質は異なる.従って、OFDM方式 では、全てのユーザに均等に高品質のサービスを提供することができない.しかし、ユー ザ端末が受ける通信サービスの種類を考えると、例えばビデオ通話などのリアルタイムの ストリーミングは通信サービス速度の維持が重要であるが、一方でユーザが意識せずにア プリケーションがバックグラウンドで定期的に行う通信では、通信品質が劣化した場合で も遅延が許容されるためユーザの利便性はあまり損なわれない.即ち、全てのユーザがあ まねく通信サービスを享受するために、全ての通信サービスに一様な通信品質を保証する 必要はない.本論文では、一定以上の通信品質を保証できるユーザ端末のサービスには優 先的に通信チャネルを割り当て、保障できないユーザには通信チャネルを割り当てないこ とで、モバイル通信システムの通信品質を最大化できることを明らかにしている.
ユーザ毎の通信品質を保証し、モバイル通信システムの通信容量を最大化することは、
ユーザ毎の通信速度の保証を条件としたシャノン限界による通信容量の最大化問題として 捉えることができる.通信容量の最大化問題は近傍のセルからの干渉信号の影響と、セル 内信号との信号対干渉雑音比(SINR: Signal to Interference plus Noise Ratio)を求めな がら、一定の通信品質を有するユーザ端末の回線を維持し、ユーザのセル内での位置を逐 次変化させることで解析することができる.本論文では、セル間干渉下において、ユーザ
に一定の通信チャネルが保持されている中での排他制御によるリソース割当方式と、各ユ ーザの通信容量を保証する帯域保証動的チャネル割当方式について明らかにしている.ま た、基地局間多入力多出力(MIMO: Multiple Input Multiple Output)アンテナにおける 帯域保証リソース割当方式について通信容量、通信品質、通信速度の結果を示し、全ての ユーザに均等のサービスを提供する方式と比べて本方式が優れていることを明らかにして いる.
本研究は、OFDMを用いたモバイル通信システムにおいて、各ユーザ端末のサービスに 対して必要な通信容量や通信速度を保証した通信を提供するための周波数チャネル割当方 式に関する研究である.以下、各章の内容について述べる.
第1章は「緒言」であり、本研究の背景、目的、並びに論文の概要について述べている.
特に、近年のモバイル通信サービスと通信品質の関係について明らかにしている.
第2章は、「セル間の信号干渉の対策」と題して、本研究の前提となっている従来のセル 間干渉対策について述べている.本章では最初に、近傍のセルで同一周波数を使用するこ とで発生するセル間干渉の影響について解析している.次に、干渉を低減する周波数チャ ネル割当方式として、各基地局で近傍の基地局とは異なる周波数帯域を固定的に使用する 静的チャネル割当(FCA: Fixed Channel Allocation)方式と、各基地局で使える周波数帯域 を固定せずに、ユーザ端末の通信状況に従って各ユーザ端末で使用する周波数帯域を適応 的に決定する動的チャネル割当(DCA: Dynamic Channel Allocation)方式があることを述 べている.動的チャネル割当方式は、トラヒックや無線品質の状況に応じていずれの周波 数チャネルでも自由に割当てることができるため、セルラシステム全体の周波数帯域を有 効に活用することができることを明らかにしている.
第3章は、「排他制御によるチャネル割当方式」と題して、、近傍の基地局から送信され る信号が互いに干渉する場合には、通信品質に応じて、それらの信号を排他的に利用する 方式を提案している.従来方式ではチャネル数を保証することから、ユーザ端末の通信要 求が増大するにつれて干渉が増加し、システム全体の通信品質、通信速度が小さくなる.
本章では、大きな干渉の要因となるユーザ端末の通信を抑止することで、それ以外のユー ザ端末の通信速度の改善が図られることが示されている.、さらに、モバイル通信システム 全体の通信容量の改善が可能であることを明らかにしている.ここで、排他制御によるチ ャネル割当方式の有効性は計算機シミュレーションにより検証されている.本章では、高 トラヒックなセル間干渉雑音下において各ユーザ端末やシステム全体で高品質で高速度サ ービスが提供できることを明らかにしたことから、高い貢献度が得られたものと認められ
る.
第4章は、「帯域保証動的チャネル割当方式」と題して、基地局間干渉環境下において、
各ユーザ端末のチャネル数のみでなく、各ユーザ端末の通信速度を保証する基地局間チャ ネル割当制御方式について提案している.本章では、第3章で述べた方式の排他制御が近 傍の個々の基地局からの干渉電力の大きさのみにしか考慮してなく、個々のユーザ端末の 通信速度を十分に保証できない課題があることを述べている.そこで、通信品質が悪いユ ーザ端末の通信を行わず、個々のユーザ端末の通信速度を保証することができる方式を提 案しその手順について示している.、また、保証すべき通信速度の大きさに対する個々のユ ーザ端末のSINR特性やシステム通信容量を評価している.さらに、第3章で示した方式 や従来提案されている方式と比較しながら、本方式の有効性を示している.、本章では、セ ル間干渉下において通信品質を維持できるユーザ端末の通信回線を保持し、通信品質を維 持できないユーザ端末の回線を切断しながら、通信チャネル割り当てを効率的に実現でき ることを明らかにしたことから、高い貢献度が得られたものと認められる.
第5章は、「基地局間MIMOにおける帯域保証リソース割当方式」と題して、複数基地 局間連携MIMOによるJoint Processingを用いた通信方式において、個々のユーザ端末の 通信速度を保証するリソース割当方式が提案されている.従来の基地局間MIMOの研究で は、チャネル品質が悪く通信速度が得られにくいユーザ端末に対して大きな電力を割当て ており、システム全体として非効率な周波数チャネル割当方式となっていた.また、従来 の基地局間MIMOにおいてはユーザ端末が要求している通信速度を必ずしも保証できない 課題があることが述べられている.本研究ではMIMOを用いて通信品質が悪いユーザ端末 の通信を行わないことで、個々のユーザ端末の通信速度を保証するための方式について示 されている.Joint Processingを用いた複数基地局間連携MIMOの計算機シミュレーショ ンにより、ユーザ端末の通信速度が保証できることを示している.また本章では、保証す べき通信容量の大きさに対する個々のユーザ端末の通信速度とシステム全体の通信容量が 評価されている.さらに、従来提案されている方式と比較し、本方式の有効性が示されて いる.本章では、第4章で述べた帯域保証チャネル割当方式に、基地局間MIMOを適用す ることでモバイル通信システムの通信容量、通信品質、通信速度の向上に有効であること を明らかにしていることから、高い貢献度が得られたものと認められる.
第6章は、「結言」であり、本論文で得られた成果についてまとめて考察している.
以上要するに、本論文はセルラシステムが、本来有する近傍のセルからの同一チャネル 間干渉の影響で生ずる通信容量や通信品質の劣化を、個々のユーザ端末の負担とするので
はなく、個々のユーザ端末の通信品質に応じて通信チャネルを排他的に割り当てる制御と 帯域保証チャネル制御を行うことで、高効率モバイル通信システムが実現できることを示 した.今後のモバイル通信システムはより高速で大容量化が進められており、ここで明ら かにした高効率無線チャネル割当制御方式により、セルラシステムの大容量化、高品質化、
高速化の指針を示せたことの意義は大きい.よって、国際情報通信学の発展に寄与すると ころ極めて大であり、本論文は博士(国際情報通信学)の学位論文として価値あるものと 認める.
2013 年 2 月 13 日 審査員
主任 早稲田大学教授 工学博士(新潟大学) 佐藤 拓朗 早稲田大学教授 工学博士(東北大学) 嶋本 薫 早稲田大学教授 博士(工学)(早稲田大学) 松本 充司 早稲田大学教授 工学博士(東京大学) 津田 俊隆