支配株主による締出しの場面における特別委員会の あり方
著者 寺前 慎太郎
雑誌名 同志社法學
巻 65
号 5
ページ 1581‑1666
発行年 2014‑01‑31
権利 同志社法學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000014647
( )支配株主による締出しの場面における特別委員会のあり方同志社法学 六五巻五号一五一
支 配 株 主 に よ る 締 出 し の 場 面 に お け る 特 別 委 員 会 の あ り 方
寺 前 慎 太 郎
目次第一章 問題の所在第二章 デラウェア州における特別委員会 第一節 序 第二節 合併を利用した締出しと特別委員会 第一款 合併を利用した締出しに関する判例法理の概要 第二款 特別委員会に関する判例の変遷 第三節 公開買付けを利用した締出しと特別委員会 第一款 公開買付けを利用した締出しに関する判例法理の概要 第二款 特別委員会に関する判例の変遷 第四節 小括
一五八一
( )同志社法学 六五巻五号一五二支配株主による締出しの場面における特別委員会のあり方 第三章 デラウェア州における判例法理の分析・検討 第一節 序 第二節 特別委員会の構成 第一款 特別委員会に必要な人数 第二款 特別委員会のメンバーの独立性 第三節 特別委員会の権限 第一款 支配株主との交渉に直接関係のない権限 第二款 支配株主との交渉に直接関係のある権限 第四節 小括第四章 わが国における望ましい特別委員会のあり方 第一節 序 第二節 特別委員会の構成 第一款 人数・メンバーの選定方法および属性 第二款 特別委員会のメンバーとして求められる独立性 第三節 特別委員会による交渉をめぐる問題 第一款 交渉の必要性 第二款 交渉権限の付与に伴う解釈問題 第四節 小括第五章 結語 一五八二
( )支配株主による締出しの場面における特別委員会のあり方同志社法学 六五巻五号一五三 第一章 問題の所在 支配・従属会社間でおこなわれる企業買収 )1
(においては、買収者と対象会社の支配株主が同一の者となる。そのため、支配株主は、理論上、対象会社の取締役会と株主総会に対する影響力を利用して、自らに有利な買収対価を設定すると同時に、それを対象会社に承認させることが可能になる
)2
(。このことは、買収から生じる便益を少数株主に適切に配分することを支配株主が怠り、少数株主の利益を害する可能性があることを意味する )3
(。会社法が制定されてからは、株式買取請求権(会社法七八五条など)が、このような事態に対処するための救済手段として利用されることが多くなっ
)4
(た
)5
(。 株式買取請求権が行使された際には、﹁公正な価格﹂の算定が問題になるが、その方法は、最高裁判所の最近の決定によってほぼ固まったといえる。これを簡単にまとめると、次のとおりである。まず、争いの対象となる組織再編によって企業価値が増加したかどうかが判断の分かれ目となる。ここで、(ア)企業価値の増加が生じない場合には、その組織再編の承認に関する株主総会決議がなければ、買取請求の対象となる株式(以下、﹁対象株式﹂とする)が買取請求権の行使日に有したであろう価格が、﹁公正な価格﹂となる )6
(。他方で、(イ)企業価値の増加が生じる場合、﹁公正な価格﹂は、原則として、組織再編の条件が公正なものであれば、対象株式が買取請求権行使日に有していると認められる価格であるとされる )7
(。次に、(イ)の場合に組織再編の条件が公正であるかどうかについては、組織再編の当事会社間に特別の資本関係があるか、つまり、組織再編が支配・従属会社間でおこなわれているものかどうかが重要な要素となる。このとき、当事会社間相互に特別の資本関係がない事案では、会社法上の手続が適切におこなわれている限り、原則として、当事会社の経営陣と株主の判断が尊重され、実際に定められた組織再編の条件は公正であると判断される )8
(。
一五八三
( )同志社法学 六五巻五号一五四支配株主による締出しの場面における特別委員会のあり方
このように、組織再編の場面における﹁公正な価格﹂の算定方法は、近時の最高裁決定によって、その大枠が固まってきたといえるが、このような算定方法については、いまだに不明確な部分も残されている )9
(。本稿との関係では、特に、最高裁判所が支配・従属会社間でおこなわれる組織再編の場面における算定方法についての判断を示していないことが注目される。 これについては、会社法制定後の学説では、主にデラウェア州の判例法理を参考にして、買収過程に着目する見解が有力に主張されてきた )₁₀
(。すなわち、支配・従属会社間での買収が争いの対象となった場合、裁判所は、そのようなタイプの買収に伴う利益相反を緩和・解消し、買収条件の公正さを担保するために利用される各種措置(以下、﹁利益相反回避措置﹂とする)が有効に機能したかどうかを審査することによって、争いの対象になっている買収が独立当事者間でおこなわれる買収と同視できるかということを判断すべきであるということである。そして、このような見解によれば、裁判所が審査対象となった買収は独立当事者間取引と同視できると判断した場合には、買収の当事者間で形成された合意が尊重され、そうではない場合には、裁判所が独自に﹁公正な価格﹂を算定することになるとされる。このような見解の影響もあってか、下級審の決定のなかには、﹁公正な価格﹂を算定する際に、利益相反回避措置を考慮要素に含めるものもみられる )₁₁
(。 このような見解に対しては、以前から検討課題が残されていると指摘されていたが )₁₂
(、著者は、次の二つの理由から、この見解について再検討すべきであると考える。第一に、買収過程に着目する見解が主張され始めた当時と現在とでは、デラウェア州の判例法理に違いが見られる。ここ三年ほどの間に、デラウェア州衡平法裁判所は、支配株主による締出しに対して、経営判断原則を適用し、買収当事者の判断を尊重する余地を拡大しようとする動きを見せてきた )₁₃
(。このようなデラウェア州での動向は、最高裁判所の判断に基づくものではないことから、これが判例法理として定着するかは、 一五八四
( )支配株主による締出しの場面における特別委員会のあり方同志社法学 六五巻五号一五五 現時点において明らかではない )₁₄
(。しかし、わが国の学説において、デラウェア州の判例法理が支配・従属会社間での企業買収についてのルール形成に与えている影響の大きさを踏まえると、近年のデラウェア州における判例法理の動向を見過ごすわけにはいかないだろう。 第二に、これまでの学説の多くは、利益相反回避措置の詳細にそれほど注意を払ってこなかったように思われる。つまり、買収条件の公正さを担保するためには利益相反回避措置を利用すべきであるということまでは、たびたび主張されてきたが、その利益相反回避措置が効果的に機能したと裁判所に判断されるための具体的な要件は、ほとんど議論されてこなかったように思われるのである。利益相反回避措置に求められる具体的な要件が明らかになっていなければ、支配・従属会社間での買収において当事者間の合意を尊重する余地が認められていたとしても、それによって実務に生じる恩恵はそれほど大きくない。よって、先に述べた有力な見解にしたがうとしても、利益相反回避措置が効果的に機能するために必要な条件について、検討をおこなわなければならないことに変わりはない )₁₅
(。 そこで、本稿では、上場会社を対象とした支配・従属会社間での買収において利用される利益相反回避措置のうち、近年わが国において注目を集めている特別委員会の構成・権限について検討をおこな )₁₆
(う )₁₇
(。その際、比較法の対象として、デラウェア州法を取り上げる。デラウェア州法は、企業買収についての判例・学説の蓄積が多いだけでなく、先に述べた有力な見解の基礎となっていることから、特別委員会の構成・権限について検討する際にも、わが国に対して有益な示唆を与えてくれると考える )₁₈
(。 本稿の構成は、次のとおりである。まず、第二章において、デラウェア州の判例法理における特別委員会の位置づけについて確認をおこなう。そこでは、近時のデラウェア州での動向を踏まえたうえで、締出しに利用される取引形態によって判決を分類することにする。そして、そこでの内容を整理・分析し、わが国への示唆を探るのが、第三章である。
一五八五
( )同志社法学 六五巻五号一五六支配株主による締出しの場面における特別委員会のあり方
ここで得られた示唆をもとに、第四章では、わが国での特別委員会の望ましいあり方について検討をおこなう。第五章は、本稿のまとめである。
第二章 デラウェア州法における特別委員会
第一節 序 一九八三年の
W einberger
判決 )₁₉(以降、デラウェア州では、利益相反の要素を伴う企業買収(支配株主による締出しなど)において、独立取締役で構成される特別委員会(
sp ec ia l c om m itt ee
)を利用することが一般的になった )₂₀(。この
W einberger
判決は、現在においても、支配株主による締出しに関する判例法理の基礎となっている。しかしながら、この判決が出された当時から現在まで、デラウェア州における支配株主による締出しに関する判例法理は、変化してきており、つい最近まで、少数株主を締め出すために合併を利用する場合と公開買付け(と略式合併)を利用する場合とで、審査基準が大きく異なっていた。ここで、その概要を簡単に述べると、次のとおりである )₂₁(。 合併を利用した締出しに対しては、完全な公正さによる審査が徹底される。この完全な公正さによる審査では、原則として、被告が取引(合併)の公正さを立証しなければならない。しかし、特別委員会の承認や少数株主の過半数による承認といった利益相反回避措置がとられていれば、立証責任が被告から原告に移転し、原告が取引の不公正さを立証しなければならない。このような立場は、内在的強圧性(
in he re nt c oe rc io n
)と呼ばれる概念によって正当化されている。なお、完全な公正さによる審査の結果、支配株主には巨額の損害賠償が命じられることがある )₂₂(。 一方で、支配株主が少数株主を締め出す方法として公開買付けを利用した場合には、締出しに対する審査基準が、常 一五八六
( )支配株主による締出しの場面における特別委員会のあり方同志社法学 六五巻五号一五七 に完全な公正さであるとは限らない。たとえば、
Siliconix
判決の基準によれば、少数株主に十分な情報が提供されており、少数株主の締出しを目的としておこなわれる公開買付けが強圧性を生じさせていなければ、非常に緩やかな判断基準が適用される )₂₃(。このような公開買付けを利用した締出しに対する判断枠組みは、経済的にみればまったく同一の結果をもたらす合併を利用した締出しに対するものよりも、少数株主にとって不利なものであるといえる。もっとも、こちらの判断枠組みは、その後の判決によって、徐々に変化してきており、そこでは、後述するように、独立当事者間での買収の場面との整合性が重視されている )₂₄
(。 このように、支配株主による締出しに対する審査基準は、二〇〇〇年ごろから、二つの取引形態によって分裂しており、近年の判決や学説では、その分裂に対処しようとする動きが活発になっていた。 また、現在、合併を利用した締出しに関する判断枠組みについては、後述する
MFW
判決 )₂₅(によって大きな揺らぎが生じている。この
MFW
判決では、支配株主が、特別委員会の承認と少数株主の過半数による承認の両方がなければ、締出しをおこなわないということをあらかじめ約束していた場合には、その締出しには、完全な公正さではなく、経営判断原則が適用されると判示された )₂₆(。これは、有力な学説 )₂₇
(や現時点での公開買付けを利用した締出しに対する審査基準とほぼ同様のものであると評価でき、この判決によって、支配株主による締出しに対する審査基準の統合は、ほぼ達成されたといえるかもしれない。もっとも、このような評価が正当かどうかは、
MFW
判決の判断が今後も維持されるかどうかにかかっている。そして、これについては、デラウェア州最高裁判所の判断を待つほかない。よって、今後も支配株主による締出しに関するデラウェア州法の立場を注視する必要がある。 以上のように、デラウェア州における支配株主による締出しに関する判例法理は、いまだ流動的な状況にあり、特に取引形態によって、裁判所による審査の内容や過程に違いが見られる。そのため、デラウェア州における特別委員会の一五八七
( )同志社法学 六五巻五号一五八支配株主による締出しの場面における特別委員会のあり方
役割を把握するためには、現時点では、判決を争いの対象となった取引形態ごとに分類した上で検討することが有益であると考える。そこで、本章では、合併を利用した締出しの場面における特別委員会について判断した判決と、公開買付けを利用した締出しの場面における特別委員会について判断した判決を、節を分けて確認したい。
第二節 合併を利用した締出しと特別委員会
第一款 合併を利用した締出しに関する判例法理の概要 前節で簡単に言及したように、支配株主による締出しに対する判断枠組みは、
W einberger
判決 )₂₈(によって確立された。同判決は、支配株主による合併(
m er ge r
)に対する審査基準として、完全な公正さ(en tir e fa irn es s
)を採用した。この審査基準を満たすためには、審査の対象となる合併が、手続と価格の両方において公正でなければならないとされた )₂₉(。 さらに、
W einberger
判決の著名な脚注七によって、手続の公正さ、つまり、公正な取扱いについての審査がおこなわれる際には、合併の過程が独立当事者間での合併と同視できることが重要な要素のひとつであるとされ、特別委員会の利用は、そこでの強力な証拠になる、ということが示された )₃₀(。その後、一九九四年の
L ynch
判決によって、特別委員会の利用によって生じる法的効果は、審査基準の変更ではなく、立証責任の転換に過ぎない、ということが判例法理として確立された )₃₁(。 これら二つの判決が示した判断枠組みのもとでは、合併を利用した締出しが裁判所によって審査される場合、特別委員会の存在は、立証責任の所在と公正な取扱いに関する評価という二つの部分で大きく影響を与えることになる。そして、判例の蓄積によって、特別委員会に与えられるべき権限やメンバーの独立性についても、その内容が緻密化されて 一五八八
( )支配株主による締出しの場面における特別委員会のあり方同志社法学 六五巻五号一五九 きた。次款では、これに関する判決をいくつか取り上げ、特別委員会の役割という観点から、これまでの判例法理の展開を確認する )₃₂
(。
第二款 特別委員会に関する判例の変遷一.伝統的な判決の立場 合併を利用した締出しの場面における特別委員会の役割については、
L ynch
判決においても、重要な判断がなされている。同判決は、先に述べたように、合併による締出しが審査される場合に、利益相反回避措置が利用されていれば、立証責任の転換が生じることを判示したが、これと同時に、特別委員会を利用することによって立証責任の転換が認められるための要件についても言及している。そこで、本款では、このようなL ynch
判決の判断から確認することにする。L ynch
判決において、デラウェア州最高裁判所は、特別委員会の承認による立証責任の転換が認められるためには、ただ特別委員会を設置すれば良いというわけではないことを明らかにした。つまり、立証責任の転換が認められるためには、①支配株主が合併の条件を指図してはならないということ、および、②特別委員会が独立当事者間での交渉と同視できるほどの真の交渉力を持っているということの二つの要件が満たされなければならないのである )₃₃(。そして、同判決では、特別委員会は、対価に関する最終的な決定をおこなう際に、提示した対価に応じない場合には敵対的買収を仕掛けるとの脅しを支配株主から受けていたことから、②の要件が満たされていないと判断され、立証責任の転換は認められなかった )₃₄
(。 このように、
L ynch
判決によれば、特別委員会による立証責任の転換が認められるためには、特別委員会の交渉力の程度が決定的な考慮要素となる。そして、このことは、以後の判決においても、たびたび強調されてきた。たとえば、一五八九
( )同志社法学 六五巻五号一六〇支配株主による締出しの場面における特別委員会のあり方
デラウェア州最高裁判所の判決である
Tremont
判決がこれにあたる。Tremont
判決 )₃₅(
︹事案︺
T re m on t
社は、デラウェア州法に基づいて設立された会社であり、スポンジ状チタンなどの製造をおこなっていた。また、 NL社は、ニュージャージー州法に基づいて設立され、二酸化チタンの製造・販売から多くの収益を獲得していた。本判決で争われた取引がおこなわれた当時、この二社は、どちらもV alh i
社(と同社の支配株主であるSim m on s
)によって支配されていた )₃₆
(。 一九九一年、
V alh i
社は、課税上および財務書類上の便益を得るために )₃₇(、NL社株式の保有割合を減少させることを検討し始
め、その売却先を探し始めた(以下、ここで売却の対象となったNL社株式を﹁本件株式﹂とする)。そして、同年九月一八日
に、
V alh i
社の社長であるSn et ze r
は、T re m on t
社の社長兼CEOであるM ar tin
に、本件株式の売却(以下、﹁本件取引﹂とする)についての提案をおこなった。本件取引についての提案を受け、
M ar tin
は、B ou sh ka
、St aff or d
およびSt ein
の三名をメンバーとする特別委員会を設置し、この特別委員会に本件取引についての評価を委ねた。もっとも、この三名については、過去にSim m on s
や彼の支配する会社 と一定のビジネス上の関係を持っていたという事実が認定されており、その独立性には疑問が投げかけられていた )₃₈(。また、特別委員会は、財務アドバイザーと法務アドバイザーとして、
C on tin en ta l
社と、T ho m ps on & K nig ht
社のL em on
をそれぞれ雇 った。しかし、これらのアドバイザーも、その独立性が十分に担保されていたわけではなかった )₃₉(。 同年一〇月八日から一九日にかけて、
B ou sh ka
とSt ein
は、各種アドバイザーとともに、NL社の担当者とV alh i
社から個 一五九〇( )支配株主による締出しの場面における特別委員会のあり方同志社法学 六五巻五号一六一 別におこなわれたプレゼンテーションを聞き、一九日の午後から各種アドバイザーとの協議をおこなった。さらに、それから 一〇月末にかけて、特別委員会は、本件取引を検討するために、二度会合を開いた。しかしながら、特別委員会のメンバーのうち、これらすべての会合に参加していた者は、
St ein
だけであった )₄₀(。
当初、
V alh i
社が提案した本件株式の売却価格は、一株あたり一四・五〇ドルとされ、この提案には、本件株式の流動性を高めるための条項は、一切含まれていなかった。その後、特別委員会による交渉やSt ein
とSn et ze r
の間で個人的におこなわれ た交渉を経て、最終的には、本件取引の条件として、次のものが定められた。すなわち、①本件株式の対価を一株あたり一一・七五ドルとすること、②本件株式に伴うNL社の第四四半期の配当(八〇万ドル相当)はV alh i
社が受け取ること、および、③
T re m on t
社には、投資の流動性確保のための一定の権利(登録請求権および共同売却権︹th e re gis tr at io n an d co -s ale rig ht s
︺)が与えられることである。このような条件が定められた本件取引は、一九九一年一〇月三〇日に、特別委員会によっ てT re m on t
社の取締役会に勧告され、同日中に、取締役会による承認を受けた )₄₁(。 以上のような事実関係において、
T re m on t
社の株主であるK ah n
は、V alh i
社やT re m on t
社の取締役などに対して、株主代 表訴訟を提起した。この訴訟において、K ah n
は、主に、本件取引の条件が不公正であると主張し、本件取引の無効や原状回復的損害賠償(re sc iss or y d am ag es
)を求めた )₄₂(。
原判決は、本件取引条件の公正さに対する審査基準として、完全な公正さを採用した。そして、本件においては、特別委員会は、メンバーの独立性にはやや問題があるものの、本件取引条件についての交渉において十分な役割を果たしたとの判示が
なされ )₄₃
(、公正さについての立証責任は、被告から原告の
K ah n
に転換された。K ah n
は、そこでの立証責任を果たすことができなかったことから、彼の請求は認められなかった。このような原判決に対して、
K ah n
は上訴をおこなった。デラウェア州最高裁判所は、本件における特別委員会について次一五九一
( )同志社法学 六五巻五号一六二支配株主による締出しの場面における特別委員会のあり方
のように判示し、原告への立証責任の転換を否定した。
︹判旨︺
﹁⋮立証責任の転換という便益を受けるためには、支配株主は、社外取締役によるうわべだけの特別委員会を設置することよりも多くのことをおこなわなければならない。むしろ、その委員会は、支配株主が取引の条件を指示していなかったこと、お
よび、委員会が﹃独立当事者間で(
at a n a rm s-l en gt h
)﹄真の交渉力を行使したことを示すように機能していなければならない )₄₄(。﹂ ﹁われわれの見解では、
T re m on t
社の社外取締役で構成された特別委員会は、必要な情報が与えられ、積極的であり、独立 当事者間取引(an a rm s l en gt h tr an sa ct io n
)まで十分に近づけたという衡平法裁判所の決定は、記録により支持されない。B ou sh ka
とSt aff or d
が、独立性が最も疑わしいメンバーであるSt ein
が特別委員会の本質的な機能を果たすことを認めること によって、委員会のメンバーとしての責任を放棄したことは、明らかである。とりわけ、St aff or d
がアドバイザーや委員会の同僚との会合をすべて欠席したことによって、彼は、迅速な動きを見せる交渉の力学において、少数株主の利益を保護する者としての適格を失った。同じく、特別委員会のアドバイザーを雇い入れる際の状況は、提供されたアドバイスとともに、特別
委員会の実効性に深刻な疑義を生じさせる。 われわれの見解では、まとまった量のNL社株式の購入を交渉するために設置された特別委員会は、独立して機能していな
かった。三名の取締役全員が、
Sim m on s
や彼の支配下にある会社とこれまでに密接な関係にあり、その結果として、多額の金銭的な報酬を受け取ったり、Sim m on s
が支配する会社の取締役会で影響力のある役職を引き受けたりした。三名の取締役のうち、
St ein
は、申立てによれば、最もSim m on s
に恩義を受けた者である。一九八八年に、St ein
は、NL社へのコンサルタントとして、一个月あたり一万ドルの支払いを受け、賞与で三二万五千ドルを超える額を受け取った。特別委員会のアドバイザ 一五九二( )支配株主による締出しの場面における特別委員会のあり方同志社法学 六五巻五号一六三 ーは、依頼者の独立性を高めることにほとんど効果を持たなかった。財務アドバイザーである
C on tin en ta l
社は、St ein
によっ て推薦され、すぐに特別委員会本体によって雇われた。過去には、C on tin en ta l
社と関連のある銀行は、Sim m on s
が支配する会社から多額の報酬を受け取ったこともあり、本件取引時点には、当時のSt ein
の使用者と密接な関係にあった。特別委員会の法務アドバイザーは、NL社と
T re m on t
社の顧問弁護士によって推薦されたことにくわえ、以前、転換社債の発行に関連してV alh i
社に、そして、V alh i
社との買収提案に際してNL社に雇われたことがあった。その設置の段階から、特別委員会は、NL社株式の購入という
T re m on t
社の決定において客観的な外観を創出するような方法で、運営することができなかった。当裁判所が、以前、取締役の独立性を定義する際に述べたように、﹃一般的に独立性に関 わるのは、⋮ある者が義務を履行することに対する注意、注目および個人的な責任意識(th e ca re , a tte nt io n an d se nc e of in div id ua l r es po ns ib ilit y
)である。﹄記録は、St aff or d
とB ou sh ka
のいずれも、自らに独立取締役の地位を与えるために必要な﹃注意、注目および責任意識﹄を有していなかったことを十分にあらわしている。その結果として、申立てによれば特別委員会の中で︹支配株主との︺距離が最も近いメンバーである
St ein
は、事実上、メンバーが一名だけの委員会になった。⋮St ein
は、 提案された取引の価格と付随的条件に関わるM ar tin
とのすべての交渉をおこない、そして、残りの二名のメンバーが参加することなく、それをおこなった。﹃もし、メンバーが一名だけの委員会が利用されようものなら、そのメンバーは、皇帝の妻のように、疑惑を招かないような者であるべきである。﹄ 記録は、特別委員会の独立性の欠如によって、十分な情報を持っている状態を維持する義務を履行しないことを取締役に認
めていた雰囲気が、どのようにして高められたか、という例を十分に示している。最も注目に値するのは、三名すべての取締役が特別委員会のアドバイザーとの情報共有のための会合に出席しなかったことである。特別委員会が、アドバイザーとの意
見交換を通じて、
V alh i
社からの提案の妥当性、および、本件取引をT re m on t
社により便益をもたらすものにするために取締一五九三
( )同志社法学 六五巻五号一六四支配株主による締出しの場面における特別委員会のあり方 役会が要求すべき条件は何かということを探求することができるように、これらの会合が予定された。
B ou sh ka
は、二酸化チタン市場の将来に関する独立した分析を要求し、ある者が命じられたものの、それに関する報告書が、NL社株式の購入について一〇月三〇日におこなわれた特別委員会の決議の前までに、読まれることはなかった。個々の取締役による活発な過程へ
の参加が不十分であったことは、意見交換を著しく制約し、特別委員会全体が本件取引の本質的な側面に関する決定的な認識を得ることを妨げた。要するに、われわれは、特別委員会が、支配株主との取引を妨げる責任を自分から転換することを被告
に認めるようには、運営されていなかったと結論づける )₄₅
(。﹂
Tremont
判決は、先に引用した判旨の冒頭部分からわかるように、支配株主が完全な公正さによる審査において立証責任の転換を受けるためには、単に特別委員会を設置すれば良いというわけではないということを確認した。この判示内容は、表現に多少の違いが見られるものの、L ynch
判決の判示と同一のものである。 また、特別委員会に要求される交渉力についての判示にくわえて、Tremont
判決は、特別委員会が十分に機能したと判断される条件についての示唆を与える。この判決の事案においては、特別委員会は十分に機能しなかったと判断されたが、その根拠として、大きく分けると、次の四つの点が挙げられている。すなわち、①特別委員会のメンバーのうち、St ein
以外の二名が、特別委員会の活動を熱心におこなわなかったこと、②特別委員会のメンバー全員とアドバイザーが支配株主から独立しているといえなかったこと、③①の結果、実質的には特別委員会のメンバーがひとりだけになってしまっていたということ、および、④各種アドバイザーを通じた情報収集や特別委員会のメンバー間での情報の共有が十分におこなわれなかったことである。 このTremont
判決と同様に、特別委員会を利用しているにも関わらず、被告である支配株主に不利な判断が示され 一五九四( )支配株主による締出しの場面における特別委員会のあり方同志社法学 六五巻五号一六五 た判決として、次の
Emerging
判決が挙げられる。Emerging
判決 )₄₆(
︹事案︺
E m er gin g C om m un ic at io ns
社(以下、﹁ECM社﹂とする)は、通信事業を主に営んでいる会社であり、その株式は、アメ リカン証券取引所に上場していた。同社の株式の五二%は、デラウェア州法に基づいて設立されたLLCであるICC社によって保有されていた。そして、ECM社の会長兼CEOであるP ro ss er
は、ICC社のすべての持分を保有することで、ECM社を支配していた。 一九九八年一月ごろ、
P ro ss er
は、ECM社と、ICC社がすべての持分を保有するLLCであるIn no va tiv e
社の統合を検 討し始めた。もともと、この統合は、合併によっておこなわれる予定であった )₄₇(。しかし、ECM社の株式が市場で過小評価されていたことから、両社の統合は、現金を対価とする公開買付けと合併を組み合わせた二段階の買収でおこなうことになった
(以下、﹁本件非公開化﹂とする)。当初提示された本件非公開化の対価は、公開買付けと二段階目の合併のどちらも、ECM社株式一株あたり九・一二五ドルであった。
本件非公開化の提案を検討するために、ECM社は、特別委員会を設置した。特別委員会は、
G oo dw in
、V on dr as
およびR am ph al
の三名で構成されたが、それぞれの拠点が離れていたことから、この三名全員が揃った会合や電話会議は、一度もお こなわれなかった。そのため、P ro ss er
との実際の交渉と各種アドバイザーの選定は、ほとんどG oo dw in
に委ねられていた。そのG oo dw in
は、法務アドバイザーと財務アドバイザーとして、P au l H as tin gs
社とH ou lih an
社を選定し )₄₈(、
In no va tiv e
社やP ro ss er
との交渉に臨んだ。一五九五
( )同志社法学 六五巻五号一六六支配株主による締出しの場面における特別委員会のあり方 交渉にあたって、
H ou lih an
社は、ECM社を財務的な観点から調査したが、その際、同社に関する最新の業績予測が与えら れなかった )₄₉(。他方、その最新の業績予測は、
P ro ss er
陣営には提供されていた。そのため、特別委員会とそのアドバイザーは、財務情報の面において不利な立場にあった。それでも、特別委員会(主にG oo dw in
)は、P ro ss er
との交渉で対価を三度引き 上げさせることに成功し、本件非公開化の対価は、一株あたり一〇・二五ドルとなった。さらに、G oo dw in
は、対価を一株あたり一〇・五〇ドルまで引き上げようとしたが、P ro ss er
が資金繰りの都合によりその金額は出せない旨を述べたことにより、交渉は打ち切られた。もっとも、裁判所によって、
P ro ss er
は一株あたり一一・四〇ドルまで提示することができたということが認定されている )₅₀(。また、特別委員会内での情報伝達の方法として、
P ro ss er
の秘書を経由するという方法が利用されていた )₅₁
(。 その後、特別委員会は、
H ou lih an
社からフェアネス・オピニオンを取得し、ECM社の取締役会に本件非公開化を承認するように勧告した。この勧告を受けて、ECM社の取締役会は、一段階目の公開買付けで少数株主の過半数からの応募があるこ
とを条件に、本件非公開化を承認する旨の決議をおこなった。 一九九八年八月一八日、ECM社は、本件非公開化の実行を公表し、同月二四日に、
In no va tiv e
社による公開買付けが開始した。この公開買付けには、ECM社の少数株主の過半数からの応募があり、同社の取締役会が定めた条件は満たされた。そして、一〇月一九日に開催されたECM社の臨時株主総会で、本件非公開化の二段階目に予定されていた合併は、ECM社の
社外株式の過半数によって承認され、同日にその効力が生じた。 ECM社の株主である
B ric ke ll
社とG re en lig ht
社は、ECM社、ICC社、In no va tiv e
社などに対して、信認義務違反に基 づくクラス・アクションを提起した )₅₂(。デラウェア州衡平法裁判所は、
In no va tiv e
社、ICC社、P ro ss er
およびR ay no r
に対して )₅₃(、裁判所の裁量で算定された公正な価格(一株あたり三八・〇五ドル)と実際に本件非公開化で支払われた対価(一株あた 一五九六
( )支配株主による締出しの場面における特別委員会のあり方同志社法学 六五巻五号一六七 り一〇・二五ドル)との差額である二七・八〇ドルを損害賠償として支払うことを命じた。
本判決には、このような結論に至る過程で、特別委員会に関する次のような判示がある。
︹判旨︺ 本判決では、本件非公開化に対する審査基準が完全な公正さであることは争われなかったために、立証責任の所在が最初の
争点となった。これについては、最新の業績予測が特別委員会や少数株主に開示されていなかったことを理由として、原告への立証責任の転換は認められなかった )₅₄
(。
これに続いて、裁判所は、本件非公開化の公正な取扱いを審査した )₅₅
(。その際、特別委員会については、まず、次のことが判示された。
﹁公正な取扱いについてのあらゆる分析における決定的な側面は、少数株主の利益の代表が十分であったかということである。本件において、その問題は、特に決定的なものである。なぜなら、ECM社の取締役会の過半数は、
P ro ss er
から独立しておらず、少数株主に代わって交渉をおこなうために、特別委員会を任用する必要が生じたからである。不幸にも、特別委員会のメンバーの過半数も、独立性を欠いており、そして、申立てによれば独立であるとされた、特別委員会のメンバーの一人は、
少数株主の利益を擁護する者として有効に機能したわけではなかった。 ⋮⋮︹買収グループの一員であった
P ro ss er
以外の︺ほとんどの取締役も、P ro ss er
から経済的に恩義を受けているため、 十分に役割を果たせなくなるほどの利益相反(dis ab lin g co nfl ic ts
)を抱えていた。﹃個人的関係またはその他の関係を通じて支配者から恩義を受けている﹄取締役は、その者からの独立性を欠く )₅₆(。﹂
次に、裁判所は、ECM社の取締役が
P ro ss er
からどの程度独立していたかということを審査した。特別委員会のメンバー一五九七
( )同志社法学 六五巻五号一六八支配株主による締出しの場面における特別委員会のあり方
であった三名については、それぞれ次のような判示がなされた。
まず、
R am ph al
については、P ro ss er
からの独立性が否定されたが、その際に指摘された事実は、次のとおりである。すなわち、P ro ss er
から多額のコンサルティング報酬を得ており、その金額が彼の総収入の二〇%を超えることもあったこと、特 別委員会のメンバーとしてP ro ss er
の提案に反対すると、R am ph al
の義理の息子であるSa nd er s
とP ro ss er
のコンサルティング契約が危うくなる可能性があったこと、および、本件非公開化終了後に、Sa nd er s
とともに、In no va tiv e
社の取締役に任命されたことである )₅₇
(。 そして、
V on dr as
については、ECM社の取締役として毎年一〇万ドルの報酬を受領していること、特別委員会の役務に対 する報酬として一万五千ドルを受領していること、および、本件非公開化終了後も引き続き、P ro ss er
が支配する会社の取締役としての便益を獲得できることが考慮された結果、彼の独立性は否定された )₅₈(。
なお、
G oo dw in
についても、V on dr as
と同様の事情があったと認定されたものの、裁判所は、彼の独立性を否定しなかった )₅₉
(。 その後、裁判所は、特別委員会が有効に機能していなかった点に言及した。その根拠としては、次の三点が指摘された。す
なわち、①
P ro ss er
が最新の業績予測を特別委員会やそのアドバイザーに提供しなかったために、特別委員会は本件非公開化の対価について積極的に交渉することができなかったということ、②P ro ss er
が自分の財務状況を偽ったことにより、G oo dw in
が本件非公開化では一株あたり一〇・二五ドル以上の対価を引き出すことができないと誤解したこと、および、③G oo dw in
の不注意により、特別委員会のメンバー間での情報交換にP ro ss er
の秘書を利用したことによって、本件非公開化の 当事者間での情報格差が広がったことである )₆₀(。 このように、特別委員会については、公正な取扱いについての審査において、多くの不備が指摘された。しかしながら、裁 一五九八
( )支配株主による締出しの場面における特別委員会のあり方同志社法学 六五巻五号一六九 判所は、その不備(とりわけ上記③)の存在に関わらず、個々のメンバーが違反した義務は、注意義務を超えるものではない、 という判断を下した。そのため、
G oo dw in
ら特別委員会のメンバーは、定款に定められた免責規定の適用を受けることが認められ、彼らに対する原告の請求は退けられた )₆₁(。
Emerging
判決では、特別委員会に関して、メンバーの独立性と、それがうまく機能していたかどうかということについて判断がおこなわれた。 ひとつ目のメンバーの独立性については、この事案において特別委員会のメンバーであった三名のうち、半数を超える二名が否定的な判断を受けた )₆₂(。そこでは、それぞれのメンバーごとに、ECM社の実質的な支配株主である
P ro ss er
からの独立性が審査された。ここで考慮された要素は、さまざまなものが含まれており、一括りに述べることはできないが、金銭的な要素以外の要素が排除されているわけではない。 二つ目の点については、判旨の部分で挙げた①~③が考慮された結果、特別委員会は有効に機能していなかったという結論が導かれた。このような結論を導くことになった主要な原因は、特別委員会と支配株主との間で本件非公開化について交渉がおこなわれた際に、両者の間に生じていた情報格差を埋めることができなかったことにあると思われる。そして、このような両者の間に残された情報格差が特別委員会の交渉力を弱めたのである。このEmerging
判決は、特別委員会が支配株主との交渉に必要な情報(とりわけ対象会社に関する情報)を十分に把握していなければならないということを示したといえる。 ここまでに確認したTremont
判決とEmerging
判決とは異なり、完全な公正さによる審査がおこなわれながらも、特別委員会が十分に機能したと判断された判決として、次のCysive
判決がある。一五九九
( )同志社法学 六五巻五号一七〇支配株主による締出しの場面における特別委員会のあり方
Cysive
判決 )₆₃(
︹事案︺
C ys iv e
社は、一九九三年にC ar bo ne ll
が設立したIT関連会社であり、一九九九年以降、自社の株式をNASDAQに上場 していた。C ys iv e
社株式の上場後、C ar bo ne ll
は、自分の親族と上場前から雇い入れていたCFOのL un d
とともに、同株式の三六%(別に発行されていたオプションも含めると四〇%)を支配していた )₆₄(。
二〇〇〇年以降、
C ys iv e
社は、事業戦略の見直しを検討し始め、C ar bo ne ll
は、C ys iv e
社をソフトウェアの開発・販売をおこなう会社に変更することを決定した。その際、K or in
、G illi s
およびH ole c
の三名が、独立取締役として新たに選任された。これら三名の取締役については、選任されるまで
C ar bo ne ll
との面識はなく、それぞれが自分の事業で成功しているために、C ys iv e
社の取締役としての報酬額が総収入額に占める割合はそれほど高くないことが、認定されている )₆₅(。
もっとも、
C ys iv e
社のソフトウェアの開発・販売会社への変更は思うようには進まなかったことから、独立取締役から事業 の売却が提案され、C ys iv e
社は、B ro ad vie w
社の助言を受けながら、事業の売却先を探した。しかし、C ar bo ne ll
とL un d
の協力があったにも関わらず、市場の状況が良くなかったことから、実際にC ys iv e
社を買収しようとする者が現われることはなかった。 このような状況を受けて、二〇〇三年四月二四日、
C ar bo ne ll
は、独立取締役たちに書面でC ys iv e
社を自ら買収する意思が あることを伝えた(以下、C ar bo ne ll
による買収のことを﹁本件MBO﹂とする)。その書面には、本件MBOについて交渉をおこなうために、独立取締役で構成される特別委員会を設置し、その委員会が自分たちで各種アドバイザーを雇い入れることを求める旨が示されていた。 この
C ar bo ne ll
からの要請にしたがい、翌日、C ys iv e
社の取締役会は、G ills
とH ole c
の二名で構成される特別委員会を設置 一六〇〇( )支配株主による締出しの場面における特別委員会のあり方同志社法学 六五巻五号一七一 する旨の決議をおこなった )₆₆
(。この決議によって、特別委員会には、本件MBOの評価と会社の売却手続をおこなう権限が与え
られた。また、特別委員会は、財務アドバイザーとして、引き続き
B ro ad vie w
社を採用し、同社の補助として、C B IZ
社を新たに雇い入れた。さらに、法務アドバイザーとして、P ot te r A nd er so n & C or ro on
社が雇い入れられた。同年四月三〇日、
C ar bo ne ll
は、本件MBOの受け皿となる会社であるSn ow br id
社を代表して、特別委員会に本件MBO契約の草案を提示した。この草案では、①本件MBOの対価を一株あたり三・〇一ドルとすること、および、②契約内容に四〇〇万ドルの違約金条項といわゆる
N o- sh op
条項を含めることが提示されていた。その後、Sn ow br id
社は、本件MBOについて公表した。この段階で、いくつかの会社がC ys iv e
社の買収に興味を持ったようであるが、ここでも、実際に買収をおこなう 会社は現われなかった。 特別委員会とSn ow bir d
社との間では、数多くの会合が開かれ、何度も契約書が更新された。その結果、当初Sn ow bir d
社(
C ar bo ne ll
)が提示してきた一株あたり三・〇一ドルの対価は、三・二二ドルまで上昇し、違約金の金額は当初の四〇〇万ドルから一六五万ドルまで下がり、そして、N o- sh op
条項は撤廃された )₆₇(。ここでの交渉の詳細は本判決で明記されていないが、
両者の間でおこなわれた交渉は、﹁真に、お互いに敵対心を持ち、活発なものであり、そして、
C ys iv e
社の一般株主を代理する特別委員会により、誠実におこなわれた﹂と評価されている )₆₈(。
二〇〇三年五月二九日、特別委員会は、
C B IZ
社とB ro ad vie w
社から対価に関する意見を聞き、本件MBOの条件について審査をおこなった。この時点で、本件MBO契約には、特別委員会の立場とC ar bo ne ll
の議決権行使を連動させる条項が含ま れていた )₆₉(。その後、特別委員会は、取締役会に本件MBOを勧告することを決議した。この特別委員会による勧告を受けて、
C ys iv e
社の取締役会は、C ar bo ne ll
とL un d
を除く、すべての取締役の一致を得て、本件MBOを承認した。なお、これ以降の期間においても、特別委員会が引き続き買収提案を勧誘することは認められており、トライアル開始時も、その勧誘は続け
一六〇一