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テロリストの心理的特性に関する研究の現状と展開

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テロリストの心理的特性に関する研究の現状と展開

著者 越智 啓太

雑誌名 東京家政大学研究紀要 1 人文社会科学

巻 44

ページ 209‑217

発行年 2004

出版者 東京家政大学

URL http://id.nii.ac.jp/1653/00009153/

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テロリストの心理的特性に関する研究の現状と展開

  越智 啓太

(平成15年10月2日受理)

The Study of Terrorist Personality:

    Past, Present and Future

   OCHI, Keita

(Received on October 2,2003)

キーワード:テロリズム,テロリスト,捜査心理学

Key words:terrorism, terrorist, investigative psychology

1.問 題

 東西冷戦の終結は,世界的な平和でなく,逆に,小・

中規模な紛争の増加をもたらした.そして,それに呼応 して,テロリズムもまた,増加傾向にあるように思われ る.もちろん,その代表的な事案は,2001年9月11日の アメリカ同時多発テロであるが,この事案と前後して,

いくっもの重大なテロリズム事案が発生している.この ような動向は,テロとは縁遠いと考えられている我が国 でも例外ではなく,ペルーにおける日本大使公邸立てこ もり事件,エジプトのルクソールにおける観光客虐殺事 件,そして,オウム真理教による地下鉄サリン事件など,

世界的にみても重要なテロ事案が我が国やその国民を巻 き込んで発生している.

 テロリズムは,国家や政府,その他の権力組織に対す る,実力行使であり,それは,場合によっては,社会を 変革し,改良するための最後の手段として,歴史的には 評価される場合もある.事実,社会主義革命の一環とし て行われた一連のテロ行為に関しては,多くの国家や知 識人がそれを支持したという事実もある.しかし,現代 型のテロ行為の多くは,一般の市民を巻き込むことや,

また,彼らを意図的に殺害する場合も多く,たとえ,そ の背景に社会変革への動機づけがあったとしても,一市 民から見れば単なる大量無差別殺人と区別できないもの である.そのため,我々は,このようなテロリストの行 動を事前に予測し,被害を未然に防ぎ,また,テロが発

生した場合には,早急に犯人やテロ組織を検挙する必要 がある.

 さて,対テロリズム戦略の立案においては,しばしば,

心理学者への期待が言及される.最近では,国内でほと んど唯一,テロ研究を行っている組織である東海大学平 和戦略国際研究所の榎彰教授や東海大学政治経済学部の 首藤信彦教授がこのような見解を述べている(榎,1998:

首藤,1998).また,アメリカ,イギリス,他のヨーロッ パ諸国では,古くから,政治心理学の一分野として,テ ロやテロリストについての研究を心理学者が行ってきた

(クレンショー,2003),これらの研究が,対テロリスト 戦略において本当に意味のある成果を生み出してきたか

ということにっいては議論もあるが,少なくとも,実証 的,理論的にその心理的な側面にっいて検討されてきた ことは確かである.

 ところが,本邦では,現在まで,テロに関する学術的 な研究は心理学分野ではほとんど行われていないし,紹 介もされていない.そこで,本論文では,テロに関する 心理学的研究の分野のうち,テロリストの個人特性に関 する研究に焦点を当て,その現状と今後の展開について 検討してみたいと思う.

2.テロリストの個人特性に関する研究

文学部心理教育学科 犯罪心理研究室

 テロリストについて論じる場合,まず,対象とするテ ロ行為にっいてなんらかの定義をしておく必要がある.

 テロについては,いままでも多くの定義が提案されて きた.その多くは,国際政治的な観点にもとついたもの である(Smith,1994;宮坂,2002).ただ,いま心理学

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越智 啓太

的にこの問題を論じようとすると,このような定義は必 ずしも有効なものではない.そこで,とりあえず,個人 の欲求に基づくものでなく,国家やイデオロギー(宗教)

のたあに,国家やあるイデオロギー集団に対して個人に よって行われる破壊活動(直接の攻撃対象が特定個人だ としてもその対象はあくまで国家やイデオロギー集団で ある場合)をテロリズム,それを起こす個人をテロリス

トとして,議論をすすめることにしたい.

 さて,このようにテロを規定した場合,問題になって くるのは,どうして,集団やイデオロギーの目的のため にある個人がこのような,場合によっては自分の命を犠 牲にするような行為を行い得るのか,ということになっ てくる.

 この問題に対しては大きく分けて二っの対立するアプ ローチがある.ひとつは,テロリストは個人的にテロと 親和的な特別な心理的な特性を持っており,テロ行為は,

このような個人特性が原因で生じるというものである.

ここでは,なんらかの異常な性格をもったテロリスト像 が語られる.もうひとっは,テロは個人的な現象でなく,

社会的な現象であり,社会要因によって引き起こされる というものである.ここでは,社会の流れの中で否応な く,テロをおこなうことになる存在としてのテロリスト 像が語られる.本論では,これら両アプローチにっいて 比較して検討してみる.

2−1.テロリスト特有の個人特性があるという仮説

(1)テロリストの属性に関する実証研究

 テロリストは,何らかの特有な属性を持っているか,

という問題に関する研究のもっとも基本的な形は,多く のテロリストを調査し,その属性に関して集計するとい うものである.政府の資料,報道資料,テロリストとの インタビューなどを通していくっかの研究が示されてき た(Hudson,1999).例えば, Kolinsky(1988)は西ド イッの右翼テロリストを,Weinberg&Eubank(1987)

はイタリアの女性テロリストを,Crenshaw(1981)は FLN(アルジェリア民族解放戦線)のテロリストを,

Corrado(1981)はイタリアのIRTのテロリストを,

Hewitt(2003), Combs(2003)は,アメリカで発生した テロ事案のテロリストを,Smith(1994)は,アメリカ の右翼と左翼を,Strentz(1988)は,アメリカの左翼系 テロリストと中東の右翼系テロリストを対象にして研究 を行ってきた.

 このようなアプローチの古典的で代表的な研究として は,Rusel1&Bowman(1977)があげられる.彼らは,

1966年から1976年のテロの第1世代で活動した世界中の テロリストについて,その社会的属性のデータを収集し て分類した.その結果,以下のような典型的なテロリス ト像が抽出されたという.「年齢は20歳代前半であり未 婚の男性(80%以上が男性)である.出身階層は,中流 から上流で,その多くは大学教育を受けている(しかし,

卒業はしていない).大学時代にテロリストグループに リクルートされた場合が多い.都市部に居住する.健康 で強靱であるが,見かけは平凡であり体格もとくに優れ ているわけでもない.一般に現在の社会体制からは異端 視されていると認知しており,現在の社会から正当に遇 されていないという不満を持っている.」

 このような典型的なテロリストのプロファイルは,多 くの研究で同様な結果が得られている.しかし,時代や 地域にかかわらずテロリストが,これらの特性を持っと いう考えは,ただしそうではない.例えば,近年のテロ リスト,とくに,イスラム過激派の自爆テロではこのよ うな特性は必ずしも当てはまらないという指摘もある

(Lelyveld,2001;Combs,2003).事実,アメリカ同時 多発テロの犯人グループは,従来の研究よりも平均年齢 が高く,研究者を驚かせた.

(2)テロリスト精神疾患仮説

 次に,テロリスト精神疾患仮説にっいて検討してみよ う.これは,テロリストは,何らかの精神疾患にかかっ ているという見方である.ここで取り上げられるのは,

サイコパス,ソシオパス,パラノイアなどの人格障害で あることが多い.

 例えば,イタリアのIRTを対象に研究を行った,

Corrado(1981)は,テロリストは,自らのテロ行為に おいて,全く同情をみせずに,無関係の一般市民を殺害 することが出来るが,このような行為は,他人に対する 共感性の欠如というサイコパスの特徴に合致していると 指摘している.また,Hacker(1976)は,テロリストの 中には,社会変革をおもな動機とするものもいるが,単 に精神的に不安定な暴力的な人間が,暴力の実行の際の スリルや,パワー感覚を目的として犯罪を行うタイプが あるとしている.MacDonald(1991)は, ETAの女性 テロリストのうちのひとりが,殺人を犯したことがない という一方で, やっら を殺したときの満足感を語っ たことをあげ,ひとっの主題にっいて矛盾したことを語

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る背景には何らかの精神障害か人格障害があるのではな いかと指摘している.さらに,Laqueur(1999)は,職 業軍人でさえ殺人は困難であり,それができるようにな

るたあには相当な訓練を必要とするという事実を指摘し て,それほどの訓練なしに,しばしば残虐な方法で,殺 人を実行可能であるテロリストは,何らかの人格障害を 持っているに違いないと指摘している.彼は,その具体 的な例として,1997年のエジプトルクソールにおける外 国人殺害テロをあげている,この事件の実行犯は,非常 に残虐な方法で,日本人を含む一般の観光客を殺害した.

また,サイコパスのテロリストとして,多くの研究者が 共通して指摘するのが,Nezar Hindawiである.彼は,

1986年に自分の子供を妊娠した婚約者に爆発物を持たせ て,ヒースロー空港から飛行機に搭乗させようとしたの である.

 Laqueur(1999)は,テロリスト=精神疾患仮説にっ いて,このような仮説があてはまるのは,最近のテロリ ストだけであり,歴史的に常にこのような傾向が見られ たわけではないということを指摘している.例えば,彼 は,1870年代から1970年のテロリズムでは,無関係な一 般市民の犠牲は極力回避するといった考えがテロリスト 側に存在することが多く,このようなテロリストは精神

疾患ではなかっただろうと述べている.また,

Ferracuti(1982)は,テロリスト=精神異常仮説は,テ ロ集団に属して,社会的信念の元にテロ行為を行うテロ リストよりは,個人で活動するテロリストのほうにより 当てはまると指摘している.彼は単独のテロリストの具 体例として,連続爆弾犯であるUnabomberをあげてい

る.ただし問題なのは,Unabomberを含めたこの種の 犯罪が果たしてテロといえるのか,それとも単なる殺人 かということであろう.

 このような立場から,テロリストを分析している研究 としては,ほかにCooper(1978), Pearce(1977)などが ある.

(3)テロリズムの生物学的要因仮説

 テロリストについての生物学的仮説は,何らかの生物 学的要因,例えば,脳や神経系の異常,内分泌系の異常 がテロリズムと密接に関連しているという考えである.

 例えば,Hubbard(1983)は,脳内伝達物質の異常と,

テロリズムの関連にっいて指摘している.彼は,とくに,

ノルエピネフリン,アセチルコリン,エンドルフィンの 異常がテロリストには見られるとしている.このような

異常によって彼らは,覚醒状態が持続し,これが攻撃行 動やアジテーションに結びっくというのである.彼は,

「テロは心理学的な現象ではなく,生理学的な現象であ る」という.この仮説と同様な指摘をしている研究者と して,ほかには,Oots and Wiegele(1985)やStrasbourg 神経化学センターの生化学者のMandelがいる. Mandel は,GABAとセロトニンのレベルが低いことが,狂信 的な宗教的信念と関連することを示しているという

(Reich,1998).このような脳レベルの説明は,素人受 けするため,いっの時代にも存在する.しかし,脳内の 伝達物質というミクロな現象とテロリズムという高度に 社会的な現象を安易に結びっけているという点では,こ れらの説は大きな問題点を持っているといわざるを得な い.脳内の生理学的なレベルからものがいえるのは,せ いぜい,攻撃性が,高まるといったレベルの話であろう.

(4)テロリストは特有のパー一ソナリティを持つという仮説  精神医学的な診断基準に合致するような精神異常はな いが,テロリストには特有のパーソナリティ傾向が存在 するというの一連の考え方が存在する.これらの説にっ いて概観してみよう.

 まず,Knutson(1981)によるネガティブアイデンティ ティ仮説がある.彼は,クロアチア人のテロリストのケー スを分析し,社会体制によって,自己の目標や欲求の達 成が妨げられていることが,彼らにネガティブなアイデ

ンティティとフラストレーションを生じさせ,それが元 になって彼らがテロリストになるといった説を展開した.

 次に,Pearlstein(1991)によるナルチシズムパーソ ナリティ仮説がある.これは,精神分析の枠組みにもと つくものである.彼によれば,テロリストがテロ集団の 一員となり,それと一体化し,その思想に従って行動す

ることによって,彼らは自己のネガティブなパーソナリ ティの側面に直面することを回避しているという.っま り,一種の防衛機制として集団と一体化しているという のである.確かに,国家的なレベルの問題に対するテロ 組織に自己を一体化させることは小さな存在である自 己を覆い隠し,拡大する効果を持っていると考えられる.

そして,ひとりの自分では味わえないパワー感覚や,

コントロール感覚を得ることが出来る可能性がある

(Crayton,1983).

 また,この流れの研究の中で,比較的多くの研究者に 受け入れられているものとして,サディズム正当化仮説 がある.これは,テロリストの行動は,基本的には衝動

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越智 啓太

的な攻撃性に基づくものであり,イデオロギーは,自己 の行為を正当化するために利用しているのに過ぎないと いうものである(Post,1990).つまり,テロリストには まず,サディストであるという人格特性が最初にあり,

それがある特定の社会情勢の中におかれ,テロという存 在を知ると,自己の持っているそのような特性を満足さ せるためにテロ活動に参加していくというのである.

Laqueur(1999)もまた,一部のテロリストはそもそも サディストで,暴力や残酷を好むのであり,その正当化 のために,テロリストを志願すると述べている.

 さらに,精神分析の影響をうけた理論と考えられるが,

生育史や家族関係が,テロと密接に関係しているという 説もある.たとえば,Kent and Nicholls(1978)は,幼 児期における両親からの虐待が,テロ行為の原因である

というモデルを提案している.これによると,このよう な虐待に対する攻撃的な反抗が両親自体でなく,別の対 象に向けられた(転移)状態がテロリズムだというので

ある.このような流れの説は,政治的社会化の問題とも からめて議論される場合が多い.例えば,アイデンティ ティ確立の問題とテロ組織への参加の関係について言及 する論者もいる(Silke,2003).

 そのほかにも,テロリストに典型的な家族関係が存在 するとする研究者は多い.Hubbard(1971)は,テロリ ストはハイジャックに魅せられやすいと指摘しているが,

ハイジャックを行うテロリストには,暴力的な父親と宗 教にはまった母親,仲の良い妹がいるなどの共通した特 性があると指摘している.

2−2.テoリストに特有な個人特性は存在しないという    仮説

 前節で述べた諸仮説が基本的には,個人的な特性がテ ロを左右する要因であるといった考えであったのに対し て,別の研究者たちは,テロを引き起こすのは,テロリ ストの個人的な問題なのではなく,むしろ,社会的な要 因が最も大きな原因であるという.この説に従えば,テ ロリストは,自らの心理的な特性によって,テロ行動に 従事したというよりも,社会情勢の流れの中でテロに巻

き込まれてしまったというイメージのほうが強いことに

なる.

(1)テロリストの正常性を示す実証研究

 このような説の研究者は,テロリスト=精神疾患説に 反対するために,テロリストがとくに精神疾患をもたな

い正常な人間であることを実証的に明らかにしようとし た.例えば,Morf(1970)は,カナダのFLQを対象と した研究で,Haskin(1984)は,北アイルランドのテロ リストを対象にした研究で,このような結果を報告して いる.個々のテロリストを詳しく分析した研究としては,

Rasch(1979)のものがある.彼は, Baader−Meinhofの 11人のメンバーを対象にした研究で,彼らが,パラノイ ア,サイコパスなどを含めた精神障害や神経症にかかっ ている可能性は全くないということを示した.

 また,Lyons and Harbinson(1986)は,統制群のあ る研究を行っているという意味で興味深い.彼は,政治 的な動機を持っ殺人者(これをテロリストと定義)47名 を,政治的でない動機の殺人者59名と比較した.その結 果,テロリスト群の被験者のほうがむしろ,精神的に安 定しており,異常な心理的な兆候も少ないということを 示した.このような研究を包括的にレビューしたSilke

(1998)は,「多くの研究者は,テロリストは基本的には ごく普通の人間であるという説を支持している」,と述 べている.

 さらに,テロの個人特性のうち,とくに精神異常仮説 は,テロリストが残虐な行為を行えることを根拠とする ことが多いが,社会心理学の研究が示してきたのは,人 は集団圧力や,命令下にある場合にはいとも簡単に残虐 な行動を行うことができるということであった(Milgram,

1973).このような実験事実も,テロリストの個人特性 仮説に疑問を投げかけるものである.

(2)テロの社会学的モデル

 テロの社会学的モデルがその根拠とすることの多い学 説は,相対的剥奪仮説とフラストレーションー攻撃仮説

(あるいは不快感情一攻撃仮説)である(MaCauley and Sega1,1987).

 相対的剥奪仮説は,ある個人がある社会体制の中で,

「本来自分が得られるはずのものが得られていない」と 感じることが,その個人の不満やフラストレーションを 引き起こすというものである.そして,このようにして ひきおこされたフラストレーションや不快感情が,暴動 やテロなどの攻撃を生むというのが,フラストレーショ ンー攻撃仮説である.社会的剥奪理論の興味深い点は,

剥奪の絶対量でなく,相対量が社会的不満を決定してい るとするところである.テロの原因としてしばしば,貧 困が取り上げられるが,この説によれば,絶対的な貧困 があることよりも,自分たちと同じ立場であるべき別の

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集団と比較して自分たちが相対的に貧困であることが重 要であるというのである.それゆえ,テロリストとなる のは,社会的に抑圧された貧しい層の人間であるよりも,

抑圧されている社会的なカテゴリーに属しているが,そ の中では恵まれている人間が中心になるというのである

(Caplan,1970).実際,テロリストには,貧困層の中 からの数少ない大学進学者が多いことがしばしば指摘さ れている.また,この仮説では,「自分が剥奪されてい る」という感覚であるよりも「自分たちの社会的カテゴ リー(例えば,黒人やイスラム教徒など)が社会的に剥 奪されている」と感じる場合にフラストレーションを生

じやすいとしている(自分が剥奪されていると感じるこ とはこれとは反対に,うっや頭痛,胃痛,不眠などのス トレス症状と関連する).この説は,暴動やテロを含む 反社会運動にっいてはいくつかの研究で実証的に検討さ れている(Abeles,1976;Gaskell&Smith,1984).こ れ以外にも,テロ現象を説明するためには,アノミー理 論などの,社会構造と逸脱行動の関連にっいての諸理論 的枠組みを使用することが可能である.

(3)テロ対策実務からのアプローチ

 テロ対策の実務において,明らかにされているのは,

テロリストの行動を予測する場合,犯人のパーソナリティ や精神病理的な特性はあまり役に立たないということで ある.それは,これらの理論の多くが,犯人のセクトや 所属集団を捨象して理論化されているからだ.実際のテ ロリストの行動は,そのテロリストがどのような人間な のかではなく,彼らがどの所属集団に属するかについて の情報で最も良く予測できる(Smith,1994).

 なぜなら,テロリストは,その所属集団内で,闘争方 法を学習し,訓練し,行使するものであるし,どのよう な方法のテロが許容され,どのような方法が許容されな いのかにっいてもその集団内で決定されるからである.

また,その技術力に関してもテロリスト個人の問題であ るよりも,テロ集団の特性に依存している問題である.

たとえば,爆弾を製造する技術力のないテロ集団は,爆 弾テロを行う可能性が低いのは当然であるし,過去に爆 弾製造についてのノウハウがあれば,そのタイプの爆弾 を使用する可能性は高い.また,自爆というテロ行動を する集団は比較的限られており,攻撃対象もテロ集団に よってほぼ限定される.例えば,日本の新左翼テロ集団 の場合,その手口から,所属集団を割り出すことは比較 的容易であるといわれる,また,自爆テロなど自己の生

命を犠牲にする襲撃方法はとらないと思われる.っまり,

テロを論じる場合には,テロリストがどのような人間で あることよりは,どの集団に属しているかということが 重要になるというのである.このような考えも,テロリ スト個人よりはそれが属する集団を重視するという意味 で一っの社会説であるということが出来る.

3.テロリストの個人特性に関する研究の問題点と限界  以上,テロリストについての個人特性仮説と社会仮説

にっいて概観してみた.個人特性説はテロ行為の責任を 個人に媛小化しているという方向性を持っていることや,

多様なテロ行為の背景を個人に帰してしまい社会的な問 題点から目をそらすことになりがちであることなどから,

問題点が多いと指摘されることが多い.また,社会仮説 は,個人特性仮説のアンチテーゼとして論じられている 場合が多いことからより説得力が大きいのも事実である.

 では,テロリストを個人特性で論じていくのは,劣っ たアプローチなのであろうか,必ずしも,そうではない であろう.実際の対テロ戦略において,対象となったり,

交渉の相手方となったりするのは,結局のところ特定の 個人だからである.社会的なアプローチは,テロといっ た社会問題自体に介入するためにいかなる社会政策を行 うかという文脈では有効に使用可能かも知れないが,具 体的なテロ行為の犯人をどのように割り出していくか,

また,それらのテロリストに対してどのように対処して いくかについてはほとんど役に立たないといっても過言 ではない.それゆえ,捜査心理学的なアプローチによる テロ対策においては,社会学的な方法論よりも個人特性 説にもとついて進めていくほうが有効であると思われる.

 しかし,現在の個人的特性仮説は,テロ行為について 過度に単純化している傾向があり,不十分なものである のも確かである.例えば,従来,テロリストの個人的特 性説において,テロリストの多様性という問題は比較的,

軽視されてきた.テロリスト=サイコパス説といった説 があり,サイコパスのテロリストも存在するのであろう が,ひとっいえることは,すべてのテロリストがサイコ パスであるといった主張は明らかに誤りであるというこ とである(テロリスト=サイコパス説を唱える研究者も ここまで極端な主張はしていない場合が多い).そのた め,現在提案されているステレオタイプ的なテロリスト=

個人特性理論は,対テロリスト戦略においては,あまり 有効性はないと思われる.

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越智 啓太

 このような場合,有効なのは,テロリストのタイポロ ジーの導入である.これは,テロリストをいくっかのタ イプに下位分類し,それぞれの特性ごとに検討していく というものである.ある領域の犯罪者をタイプ分けし,

それぞれの特性を明確化していくことは,プロファイリ ング研究においてすでにその有効性が確認されている.

テロリストやテロリズムの分類としては,従来,政治学 者によるものがいくつか提案されてきた.例えば,宮坂

(2002)は,領土的テロリズム,政治的テロリズム,宗 教的テロリズム,社会争点テロリズム,個人妄想テロリ ズムといった分類を提唱している.しかし,テロリスト 単位で見てみると,同じ政治的テロリズムの中にもさま ざまなタイプのテロリストが存在する.連合赤軍事件に おける,永田洋子と板東国男,オウム真理教事件の麻原 彰晃(教祖)と遠藤誠一(地下鉄サリン事件の犯人の一人),

政治家暗殺者でも,山口二矢とジョン・ヒンクリー・ジュ ニア(レーガン大統領を暗殺しようとした)は,全く異 なったタイプのテロリストである.そこで,個々のテロ リストを中心としたより心理的な観点からのモデルを構 築していくことが必要であろう.

 このようなタイポロジーの枠組みを示した研究として は,1981年に行われたドイッ内務省の研究がある.この 研究では,ドイッ人テロリスト220人を対象に分析が行 われ,不安定,非抑制的,共感性がなく,冷淡で,自己 中心的な極端に外向性の高いテロリストと,偏狭で,疑 り深く,攻撃的で,防衛の強い神経症タイプのテロリス トの2っのタイプのテロリストリーダーがいることが示 されている(Horgan,2003).また, Hacker(1976)は,

テロリストを,Crazy, Criminal, Crusaderの3種類に 分類し,それぞれのタイプにっいての交渉可能性,テロ

リストが人質をとって立てこもった場合の人質の生存可 能性などについての分析を行っている.しかし,対テロ

リスト戦略の文脈から考えると,ドイッの分類は類型が わずか2種類で十分でなく,Hackerの分類は,

Crusader以外の2っの類型は実質的にはテロリストと いうよりも単なる犯罪者であり,テロをタイプ分けした ことにはならないという問題点を持っている.対テロ戦 略においては,フォロワーも含めて,もう少し細かくテ

ロリストを類型化していくことが必要だと思われる.

 そこで,従来の研究やテロリストにっいての記事や分 析を整理してみたところ,次のような6種類の類型がで

きるのではないかと考えられた.

 ①使命型:自らある思想や宗教に共鳴し,その思想を 実現するために殺人もやむを得ないと考えるタイプ,社 会文化的影響が大きい.犯人はテロ集団に属している場 合が基本である.いわゆる学生運動時代の運動主導者や 日本赤軍メンバー(主に幹部),宗教的テロ集団の幹部 などがこのケースである.このタイプの行動は,テロリ スト個人の特性よりもテロ集団の行動規範がどうである かに依存する度合いが大きいと思われる.②使命型(個 人行動タイプ):使命型ではあるが,集団に属さず,マ スコミなどの影響で,その思想に感化され,個人として テロ行為を行う場合である.このタイプは古くから存在 したが,今後は増加していく可能性があると思われる.

例えば,アメリカの中絶反対論者の産科医対象のテロで は,組織化されず個人でテロ行動を行っているものも多 いと考えられる.本邦では,山口二矢などが該当するだ ろう.このタイプの行動予測や交渉に当たっては,単な る使命型と異なり,そのテロリストの個人特性が重要に なってくると思われる.③妄想型:妄想主導のタイプ.

その考えが妄想などの精神疾患に主導されているもの,

社会文化的な影響よりも個人的な原因が大きい.人格崩 壊の程度はさまざまであるが,妄想性の人格障害,誇大 妄想,統合失調症,反社会的人格障害などの可能性があ る.宗教的なテロの場合,教祖や上層部はこのタイプで ある可能性も大きい(もちろん違う場合もある).この タイプの行動予測や交渉に当たっては,まず精神疾患の 有無とそのタイプ,進行状態を把握することが必要であ ろう.④職業型・兵士型:このタイプのテロリストは,

ある集団に属し,そこで,自らの役割を果たすことによっ て自己実現を果たすが,自らが受け持った職務がたまた まテロ行為であるだけであり,有能な兵士,あるいはビ ジネスマンであるというものである.このタイプは,あ る政治思想にコミットしている場合もあるが,基本的に は職務としてテロを行っているに過ぎない.精神疾患の 可能性は少ないと思われる.例えば,金賢姫などがこれ に該当すると思われる.交渉は,ビジネスライクなもの のほうが,心情に訴えるようなものよりも有効だと思わ れる.⑤追従者:リーダーから,マインドコントロール を受け,あるいは命令や感化を受けてその指示に従って テロ行為を行うもの.依存性などの個人特性と集団斉一 性などの社会的影響力などに依存する.追従者は,自殺 テロをする可能性があり,その点留意した捜査や交渉が 必要となる.また,意思決定権のあるリーダーよりも態

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度は柔軟性を欠く.学生運動系のテロ,宗教系のテロ,

左翼・右翼系のテロを含あ,本人は自分が追従型である と考えていることは少ないが,多くのテロリストは実質 的にはこのタイプであると思われる.⑥パワー型:この タイプは,基本的には,自分が社会に対して何らかの影 響を与えることができるという,パワー感覚を確認する ためにテロ行為を行うものである.国家や社会に対する 政治的なメッセージを発する場合もあるが,その主張の ために犯罪をしているというよりは自らの行為を正当化 するため,あるいは,単なるゲームとしてイデオロギー を援用していると思われる.このタイプは,基本的には 単独で犯行を行う.Unabomberはこのタイプであろう.

このタイプのテロリストは,知的水準が高い場合も多く,

今後,サイバーテロ(Rogers,2003)や化学生物兵器テ ロなどの犯罪者として現れてくる可能性がある.

 今後は,ζのような心理学的な類型化と行動分析と,

各テロ集団,セクトにっいての情報収集と,行動分析を いかに統合して,対テロリズム戦略をとっていくかが捜 査心理学のひとっの課題となるであろう.

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Abstract

  In the present paper, two types of approaches to psychological traits of terrorists were reviewed:ahypothesis that supposes there are some psychological traits peculiar to terrorists, and ahypothesis that supposes no such traits and that ordinary people become terrorists in comection with their social background. In fact both of them would be partially correct. Because the terror−

ism is a complex phenomenon and the motives of terrorists are miscellaneous, it is important to classify terrorists and divide into classes in order to analyse terrorism/terrorist psychologically.

It is supposed that the e脆ctive measures against terrorism will be available by examining not only the classi丘cation mentioned above but information of each terrorist group which they belong.

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