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第 第
7
章章ニ
ニョ ョロ ロ語 語の の声 声調 調
梶 梶 茂茂樹樹
1. 始始めめにに
ニョロ語 (Orunyôro) はウガンダ西部に話されるバンツー系の一言語であ
る。話し手の数は、2014年のセンサスを元にしたという Eberhard et al. (2019)
によると967,000人である。一般に小さい言語の多いアフリカにおいては大き
な部類に属する。筆者は2008年からこの言語を現地調査している。
ウガンダ西部には、本稿で対象とするニョロ語 (JE11)1 をはじめ、トーロ語
(JE12)、アンコーレ語 (JE13)、チガ語 (JE14) など幾つかの系統的に近く、お
互い似た言語が話されているが、声調言語のタイプとしてはお互い異なる(梶
2006, Kaji 2010)。ニョロ語の声調言語としての特徴は、いわゆる2型の言語で
あるということである。つまり、単語を構成する音節数に関わりなく、声調の パターンは2つしかない。こういった言語を声調言語と呼ぶかどうかは大きな 問題があるが、ここではその問題には立ち入らず、近隣言語との関係上、声調 と呼ぶことにする。
本稿は名詞類2の声調を考察の対象とする。もう1つの重要な語類である動 詞は、その変化形において、時制標識など幾つかの構成要素が高声調を持つ場
1 ニョロ語などの分類記号はMaho (2009) によるものである。
2 名詞類とは名詞類接頭辞を取る語類のことで、すべての名詞と動詞の不定形(=動 名詞)、そして多くの品質形容詞が含まれる。その形態論的構造は、Aug-NPr-Stemで ある。本稿で用いる略語は次の通り。Aug: augment(一種の冠詞)、NPr: nominal prefix
(名詞類接頭辞)、PPr: pronominal prefix(代名詞類接頭辞)、SPr: subject prefix(主 語接頭辞)、PresProg: present progressive(現在進行形)、TM: tense marker(時制辞)、
NearFut: near future(近未来)、Poss: possibility(可能)、FV: final vowel(動詞語尾母 音)、Perf: perfective(完了語尾)、SubRel: subject relative(主語関係節)、ObjRel: object relative (目的語関係節)、TBU: tone bearing unit(声調負荷単位)、TRU: tone realization unit(声調実現単位)。
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合があり、構成要素の総和から成る変化形は必ずしも2型の枠に収まらない3。 従って、動詞の変化形の声調のパターンは本稿の対象とはしない4。ただし、
動詞の不定形は名詞の一種(動名詞)であり、本稿の考察範囲である。また、
動詞構造における声調の機能に関して、6節で一部触れる。
2. ミミニニママルルペペアア
一般にバンツー系諸語は声調の語彙的機能は弱い。ニョロ語のように2型だ とさらに機能は狭まるが、それでも (1) に示したような語彙的ミニマルペア が存在する5。(1) の発音は単独で発音した場合のものである。なお、本稿での ニョロ語の表記は IPA 簡略表記である6。高平板調 H (high) はアキュートア クセント記号、低平板調 L (low) はマークなし、下降調 F (falling) は山型ア クセント記号、そして上昇調 R (rising) は逆山型アクセント記号で表す。
(1) a. ênda 9,107 腹sg.,pl.
3 ただし、3節で見るように、ニョロ語の2型の特徴は単語の終わり2音節に現れて おり、この2音節に限って言えば、動詞の変化形も2型である。
4 動詞活用全体の包括的な分析は別稿で用意している (Kaji in preparation)。
5 以下の議論は (Kaji 2015, Kaji 2018b) に基づく。
6 ただし基底形や形態素表記の場合は、必ずしも発音表記とはなってない。
7 ニョロ語はクラス言語であり、名詞は幾つかのクラスに分かれている。名詞のあと の数字は名詞のクラス番号である。名詞のクラスは、クラス1とクラス2、クラス1a と クラス2a、クラス3 とクラス4、クラス5 とクラス6 のように2つがペアとなり、それ ぞれ名詞の単数形と複数形を表す。ただしクラス9とクラス10 のように単複同形のも のや、単数形だけしか用いられないもの、また複数形だけしか用いられないものもあ
る。なお (1) の名詞の形態論的構造は(1’)のようである。それぞれの名詞は、要素が
Aug-NPr-stem の順に並んでいる。声調については3節で述べる。
(1’) a. e-ń-da 9,10 腹sg.,pl.
e-n-dá 9,10 虱sg.,pl.
b. e-ki-tébe 7, e-bi-tébe 8 (学校の)クラスsg.,pl.
e-ki-tebé 7, e-bi-tebé 8 大きな椅子sg.,pl.
c. e-ń-go 9,10 ヒョウsg.,pl.
e-n-gó 10 塀pl.
d. e-ki-énda 7, e-bi-énda 8 腸sg.,pl.
e-ki-endá 7, e-bi-endá 8 90 sg.,pl.
e. e-n-ʤúma 9 侮辱sg.
e-n-ʤumá 10 果 物 の 種pl.
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éndâ 9,10 虱sg.,pl.
b. ekitêbe 7, ebitêbe 8 (学校の)クラスsg.,pl.
ekitébê 7, ebitébê 8 大きな椅子sg.,pl.
c. êŋgo 9,10 ヒョウsg.,pl.
éŋgô 10 塀pl.8 d. ekjênda 7, ebjênda 8 腸sg.,pl.
ekjéndâ 7, ebjéndâ 8 90 sg.,pl.
e. enʤûma 9 侮辱sg.
enʤúmâ 10 果物の種pl.
3. 基基底底形形とと音音声声形形
声調は (1) の例からもわかるように、単独形では、2音節語だと、FL と HF、 そして3音節語だと LFL と LHF、そして4音節語だと LLFL と LLHFのよ うになる。2音節語、3音節語、4音節語とも特徴的なのは最後の2音節で、
最後の2音節は FL と HF の2種類しかない。音節数が増えると単語は長く
なっていくが、長くなるのは FLとHFより前の部分で、それらはすべて L で ある。本稿では便宜上、最後2音節が FL のものを A型、そして HF のもの を B型と呼ぶ。動詞の不定形は動名詞であるが、パターンは1つで A型とな る9。
(1) の発音は単語を単独で発音した場合のものである。ニョロ語は単語を単 独で発音した場合と、そのあとに付加形容詞などをつけて発音した場合とでは 発音が異なる。単独での発音というのは、単語の前後にポーズをつけての発音 ということである。ポーズ、とりわけ単語のあとのポーズは発音に大きな影響 を及ぼす。(2) は、(1) の単語に所有形容詞 -ánge10「私の」をつけた場合の発
8 単数形はorúgô 11である。
9 ただし、いわゆる単音節動詞はokúljâ「食べる」のように B型となる。この点につ
いてはKaji (2018) 参照。
10 ニョロ語の形容詞も名詞同様、接頭辞を持ち、その接頭辞は、形容詞が修飾する名 詞のクラスに対応した接頭辞を取る。-ánge「私の」の取る接頭辞は PPrである。形容 詞がどのクラスの接頭辞を取っても声調のパターンは同じである。
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音を示す。「私の」のような付加形容詞は名詞の後に来る。
(2) a. A型 énda jâŋge 9 私の腹sg.
B型 éndá jâŋge 9 私の虱sg.
b. A型 ekitébe kjâŋge 7 私のクラスsg.
B型 ekitébé kjâŋge 7 私の大きな椅子sg.
c. A型 éŋgo jâŋge 9 私のヒョウsg.
B型 éŋgó zâŋge 10 私の塀pl.
d. A型 ekjénda kjâŋge 7 私の腸sg.
B型 ekjéndá kjâŋge 7 私の90 sg.
e. A型 enʤúma jâŋge 9 私の侮辱sg.
B型 enʤúmá zâŋge 10 私の果物の種pl.
付加形容詞を付けて、名詞の後のポーズを外すと、A型では最後2音節が FL から HLへ、そして B型では HFから HH へ変化する。それでは、(1) の単 独での発音と、(2) のポーズを除去した場合の発音とでは、どちらが基本であ ろうか。答えは、(2) がより基本に近いが、基底形とは異なる。基底形は (3) の ようである。
(3) a. A型 énda 9 腹sg.
B型 endá 9 虱sg.
b. A型 ekitébe 7 クラスsg.
B型 ekitebé 7 大きな椅子sg.
c. A型 éngo 9 ヒョウsg.
B型 engó 10 塀pl.
d. A型 ekjénda 7 腸sg.
B型 ekjendá 7 90 sg.
e. A型 enʤúma 9 侮辱sg.
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B型 enʤumá 10 果物の種pl.
基底形では、最後2音節が、A型の単語は HL、そして B型の単語は LH と なる。最後2音節より前はすべて L である。それでは (1) と (2) の形はどう いうことであろうか。(1) においては、A型はポーズの前で終わりから2音節 目の H が F となる。最後の L は L のままである。そして (2) では、ポー ズが取れると本来の形が現れる。B型は本来最後の音節に H を持つのである
が、この H は (1) のようにポーズの前では、最後の音節では実現されずに、
1つ前の音節で実現される。いわゆる H の予期 (anticipation) が起こるわけで ある。そして元々の場所である最後の音節に F として痕跡を残す。この B 型は、(2) のようにポーズが外れると、最後の音節の H は本来の場所で現れ るが、H の予期は起こったままになる11。語末という場所は、様々な対立が中 和されやすい場所である。ドイツ語やロシア語などでは阻害音の有声と無声の 対立が中和され、語末では無声子音のみが現れる。ニョロ語でも長母音は語末 では実現できず、短母音として現れる。H がポーズの前で語末を避けるとい うのも語末の持つ特殊な性質のせいである。
4. 音音節節ごごととののパパタターーンン
ニョロ語ではモーラではなく音節が声調を考える場合の単位となるが、その ことは4節で詳述することにして、本節では各音節ごとのパターンを示すこと にする。なお、以下の例では音節数は Aug を除いて数えてあるが、例自体に
は Aug を付けてある12。Aug の声調は L である。ニョロ語では A型、B型
とも1音節の単語はない。
11 これは B型の H が本来の語末から1つ前の音節に移る過渡期的段階を示してい る。
12 ニョロ語では、述語名詞には Aug が付かないため Augを外すと、それが名詞1 個からなる文と取られるためである(3人称では肯定文ではコピュラは必要ではない)。
a. ekitâbu 7 「本」
b. kitâbu 7 「(それは)本である。」
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(4) a. A 型
2音節語 obúne 14 肝臓 3音節語 amazíga 6 涙
4音節語 ekiragíro 7, ebiragíro 8 法律 5音節語 orukanakána 11, enkanakána 10 牛の喉袋 6音節語 amatangatangáno 6 交差点 7音節語 obutaikiranganíza13 14 逆 8音節語 例なし
b. B 型
2音節語 omutwé 3, emitwé 4 頭 3音節語 orubirá 11, embirá 10 体の内紐 4音節語 ekitagatá 7, ebitagatá 8 温泉
5音節語 akanajanaká 12, obunajanaká 14 キノコの1種 6音節語 ekitabuʤugutá 7, ebitabuʤugutá 8 山猫の1種 7音節語 例なし
8音節語 例なし
(4) は A 型、B 型のそれぞれについて名詞の基底の声調パターンを音節ご と示したものである。ニョロ語ではあまり長い名詞はない14。B 型では7音節 語になると例がないし、A 型も7音節語の obutaikiranganíza 14「逆」というの
は、動詞 -ikiranganiz-「協力する」に否定の -ta- を加えた -ta-ikiranganiz-「協
力しない」からの派生名詞である。以下 (5) に、(4a) の A 型の名詞の単独で の発音、そして (6) に (4a) の A 型の名詞に所有形容詞 -ánge「私の」を付 けた場合の発音を示す。また (7) に (4b) の B 型の名詞の単独での発音、そ
して (8) に B 型の名詞に所有形容詞 -ánge「私の」を付けた場合の発音を示
す。
13 ニョロ語には、ai、au、oi、ei の4つの二重母音があり、音韻的に1つの単位とし て機能する。
14 ここでは複合名詞は含めない。
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(5) a. /obúne/ 14 → obûne 肝臓 b. /amazíga/ 6 → amazîga 涙 c. /ekiragíro/ 7 → ekiragîro 法律
d. /orukanakána/ 11 → orukanakâna 牛の喉袋 e. /amatangatangáno/ 6 → amataŋgataŋgâno 交差点 f. /obutaikiranganíza/ 7 → obutaikiraŋganîza 山猫 (6) a. /obú-ne bu-ánge/ 14 → obúne bwâŋge 私の肝臓 b. /ama-zíga ga-ánge/ 6 → amazíga gâŋge 私の涙 c. /eki-ragíro ki-ánge/ 7 → ekiragíro kjâŋge 私の法律 d. /oru-kanakána ru-ánge/ 11 → orukanakána rwâŋge 私の牛の喉袋 e. /amatangatangáno ga-ánge/ 6 → amataŋgataŋgáno gâŋge 私の交差点 f. /obutaikiranganíza bu-ánge/ 7 → obutaikiraŋganíza bwâŋge 私の山猫 (7) a. /omutwé/ 3 → omútwê 頭
b. /orubirá/ 11 → orubírâ 体の内紐 c. /ekitagatá/ 7 → ekitagátâ 温泉
d. /akanajanaká/ 12 → akanajanákâ キノコの1種 e. /ekitabuʤugutá/ 7 → ekitabuʤugútâ 山猫の1種 (8) a. /omutwé gu-ánge/ 3 → omútwé gwâŋge 私の頭 b. /orubirá ru-ánge/ 11 → orubírá rwâŋge 私の体の内紐 c. /ekitagatá ki-ánge 7 → ekitagátá kjâŋge 私の温泉
d. /akanajanaká ka-ánge/ 12 → akanajanáká kâŋge 私のキノコの1種 e. /ekitabuʤugutá ki-ánge/ 7 → ekitabuʤugútá kjâŋge 私の山猫の1種
ニョロ語では声調の変化は通常終わりの2音節のみである15。とりわけ終わ りから2音節目の声調は重要である。問題となるのは、その音節構造である。
(4) の例はすべて終わりから2音節目が1モーラの軽い音節であったが、(9) と
(10) に、A 型名詞の、最後2音節目が長母音あるいは2重母音からなる2モ
15 ただし4節で述べるように、H の予期が終わりから3音節以前に起こる場合があ る。
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ーラの重い音節の例を示す。(9) は語幹が2音節、(10) は語幹が3音節の例で
ある。(9a) と (10a) は音韻的に長母音を含むもの、(9b) と (10b) は半母音化
とそれに伴う代償延長で母音が音声的に長くなるもの16、そして (9c) と (10c) は鼻音複合が後続するため前の母音が音声的に長くなるものである。(9d) と
(10d) は2重母音を含むものである。それぞれの → の右側の形は単独で発音
した場合のものである。(9) (10) を見ると、終わりから2音節目が2モーラの 重い音節の場合も、1モーラの軽い音節の場合同様、基底の H は単独では F として現れることがわかる。そしてポーズが外れると、(11) (12) のように基 底の発音が現れる。
(9) a. /ama-ɲáre/ 6 → amaɲâle 精液 b. /omu-tʃwézi/ 3 → omutʃwêzi 伝統的神 c. /omu-kúndi/ 3 → omukûndi 臍 d. /eki-kóíkjo/ 7 → ekikóikjo 謎々
(10) a. /eki-sinzíro/ 7 → ekisinzîro17 かかと b. /en-kuhwáhwa/ 9,10 → enkuhwâhwa 脇下 c. /en-taʤúmba/ 9,10 → entaʤûmba ホロホロ鳥 d. /eki-karáíga/ 7 → ekikaráiga 古着 (11) a. /ama-ɲáre ga-ánge/ 6 → amaɲále gâŋge 私の精液 b. /omu-tʃwézi gu-ánge/ 3 → omutʃwézi gwâŋge 私の伝統的神 c. /omu-kúndi gu-ánge/ 3 → omukúndi gwâŋge 私の臍 d. /eki-kóíkjo ki-ánge/ 7 → ekikóíkjo kjâŋge 私の謎々
16 (9b) /omutʃwézi/ と (10b) /enkuhwáhwa/ におけるwであるが、これはそれを含む音
節が [tʃwê]、[hwâ] と長くなることから、本来 /u/ あるいは /o/ のいずれかの母音で
あると考えられるが、形態素内部にあり交替を示さないので、どちらであるか決める ことができない。ここでは wで書いておく。
17 ekisinzîroとはほとんど聞こえない。鼻音複合の前の母音が音声的に2モーラ分長
くなるのは、その音節が HあるいはFで発音される場合で、この場合の様にLだと半 長となる。
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(12) a. /eki-sinzíro ki-ánge/ 7 → ekisinzíro kjâŋge 私のかかと b. /en-kuhwáhwa i-ánge/ 9,10 → enkuhwáhwa jâŋge 私の脇下 c. /en-taʤúmba i-ánge/ 9,10 → entaʤúmba jâŋge 私のホロホロ鳥 d. /eki-karáíga ki-ánge/ 7 → ekikaráíga kjâŋge 私の古着
次に、B型の名詞の場合を見てみよう。ニョロ語では単語全体の長さは原則 関係ないので、(13) では単語の長さは区別せず、(13a) に終わりから2音節目 が音韻的に長母音を含むもの、(13b) に半母音化とそれに伴う代償延長で母音 が音声的に長くなるもの、(13c) に鼻音複合が続いたため前の母音が音声的に 長くなるもの、そして (13d) に2重母音を含むものを示す。それぞれの → の 右側の形は名詞を単独で発音した場合のものである。(14) は、所有形容詞
-ánge「私の」が付加されたポーズが外れた場合である。
(13) a. /aka-ibebé/ 12 → akaibébê 鷹
b. /eki-enʤú/ 7 → ekjénʤû 熟れたバナナ c. /omu-ʤungú/ 1 → omuʤúŋgû 白人
d. /em-baizí/ 9,10 → embáízî 斧 (14) a. /aka-ibebé ka-ánge/ 12 → akaibébé kâŋge 私の鷹
b. /eki-enʤú ki-ánge/ 7 → ekjénʤú kjâŋge 私の熟れたバナナ c. /omu-ʤungú u-ánge/ 1 → omuʤúŋgú wâŋge 私の白人
d. /em-baizí i-ánge/ 9,10 → embáízí jâŋge 私の斧
(13) を見ると、終わりから2音節目が2モーラの場合も、1モーラの場合同様、
基底の最後の LH は単独形では HF となり、そして (14) のようにポーズが
外れると HH となることがわかる。(14) の出力で名詞の最後が LH とならな
いのは、終わりから2 音節目に、1 モーラの場合同様、H の予期が起こって いるからである。
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5. 音音声声的的変変異異
3節でニョロ語名詞の基底声調形とその音声的実現形を見てきたが、ニョロ 語の音声的実現にはしばしば変異を伴う。まず第一に、H の予期が A 型名詞 にも表れる場合があるということがある。例えば「ニョロ人」であるが、これ は単独形では、通常 (15a) のように、終わりから2番目の音節に H があり、
それが単独形では F となって現れるが、しばしば (15b) や (15c) のような発 音も聞かれる。(15b) は終わりから2音節目の H がその1つ前の音節に予期さ れたもの、(15c) は、(15b) からさらに進んで本来の H が消えたものである。
本稿が対象としているニョロ語ホイマ方言では、(15b) のような発音はカジュ アルなものと考えられている。そして (15c) のような発音も聞くことがある が、これはホイマ地方の北にあるマシンディ地方の話者に多い発音である18。
また、(16) のように、H の予期が起こっても本来の H が消えない単語も多
い。
(15) a. omuɲôro 1, abaɲôro 2 ニョロ人 b. omúɲôro 1, abáɲôro 2 ニョロ人 c. omúɲoro 1, abáɲoro 2 ニョロ人
(16) a. ekimûli 7, ebimûli 8 ~ ekímûli 7, ebímûli 8 花 b. akalêʤu 12, obulêʤu 14 ~ akálêʤu 12, obúlêʤu 14 顎 c. enkokôra 9,10 ~ enkókôra 9,10 肘
d. enziramîra 9,10 ~ enzirámîra 9,10 ニシキヘビ
しかし注意すべきは、A 型の H の予期も、(17) のように、終りから2音節 目あるいは3音節目のどちらか一方あるいは両方が2モーラの重い音節の場合 は生じないことである19。また (18) のように、単独形ではなく、付加形容詞 などが後続してポーズが外れた場合も H の予期は生じない。(18) では所有形
18 ホイマ地方において (15a) (15b) のような発音が聞かれた場合、改めて聞き直すと、
インフォーマントは (15a) の発音に訂正するのが普通である。
19 生じない発音を*で示す。
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容詞の -ánge「私の」が付加した場合である。
(17) a. omurûndi 3, emirûndi 4 (*omúrûndi 3, *emírûndi 4) ふくらはぎ b. ekisoŋgêzo 7, ebisoŋgêzo 8 (*ekisóŋgêzo 7, *ebisóŋgêzo 8) 犬歯 c. akahumîzi 12, obuhumîzi 14 (*akahúmîzi 12, *obuhúmîzi 14) 鷹 d. ekisinzîro 7, ebisinzîro 8 (*ekisínzîo 7, *ebisínzîro 8) 踵 (18) a. ekimúli kjâŋge 7 (*ekímúli kjâŋge 7) 私の花
b. akaléʤu kâŋge 12 (*akáléʤu kâŋge 12) 私の顎 c. enkokóra jâŋge 9 (*enkókóra jâŋge 9) 私の肘
d. enziramíra jâŋge 9 (*enzirámíra jâŋge 9) 私のニシキヘビ
このように、A 型名詞の H の予期は大々的に起こるものではない。終りか ら2音節目が1モーラの場合も、通常は、すでに見てきた (1) (5) や、また (19) のように全く起こらないのである20。
(19) a. ekinâga 7, ebinâga 8 鍋 b. omugûha 3, emigûha 4 ロープ c. ekisisâni 7, ebisisâni 8 絵 d. ɲamagôja 1a, baɲamagôja 2a 白子
A 型名詞における音声的問題のもう一点は、単独形において、終りから2音 節目が1モーラの場合、F が音声的に明確でない場合があるということである
21。これは、あとで述べる B 型の最後の音節の F が弱いことと相まって、A
20 このタイプのHの予期が大々的に起こるのは、ホイマから南に500km近く行った ところで話されているチガ語である。
21 ニョロ人がFと認識しているかHと認識しているかは分からない。いずれにして も書き取るのは非ネーティブ話者の調査者であるので、調査者がどう聞くかが問題と なる。ここでは、非ネーティブ話者はついついHと聞いてしまうことがあるというこ とである。ただ、こういった揺れも名詞の後に付加形容詞を付けポーズを除去するとH となるので、単独では本来 Fであると理解できる。そこで改めて単独形を聞いて確認 するということになる。
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型と B 型の区別を困難にするものである22。ただし終りから2音節目が2モー ラの場合は区別は明瞭である。
(20) a. /oru-lími/ 11 → [orulîmi] ~ [orulími] 舌 b. /oru-tége/ 11 → [entêge] ~ [entége] ひかがみ c. /eki-ʤúʤu/ 7 → [ekiʤûʤu] ~ [ekiʤúʤu] ツエツエ蠅 d. /omu-ɲankómo/ 1 → [omuɲaŋkômo] ~ [omuɲaŋkómo] 囚人 (21) a. orulími rwâŋge 11 (*orulímí rwâŋge 11)23 私の舌 b. orutége rwâŋge 11 (*orutégé rwâŋge 11) 私のひかがみ c. ekiʤúʤu kjâŋge 7 (*ekiʤúʤú kjâŋge 7) 私のツエツエ蠅 d. omuɲaòŋkómo wâŋge 1 (*omuɲaòŋkómó wâŋge 1) 私の囚人
音声的変異は B型名詞にも起こる。まず第一に、最終音節の F が単独形で はほとんど L となることがあるということがある。(22) 参照。
(22) a. /omu-twé/ 3 → omútwê ~ omútwe 頭 b. /oru-birá/ 11 → orubírâ ~ orubíra 内紐 c. /eki-tagatá/ 7 → ekitagátâ ~ ekitagáta 温泉 d. /en-gegé/ 9,10 → eŋgégê ~ eŋgége ティラピア
終わりから2音節目が2モーラの重い音節の場合は、単独形では最終音節の Fがほとんど L のようになるということに加えて、終わりから2音節目のH が F となる場合がある。(23) 参照。
(23) a. /aka-ibebé/ 12 → akaibébê ~ akaibébe ~ akaiběbe 鷹
b. /eki-enʤú/ 7 → ekjénʤû ~ ekjénʤu ~ ekjěnʤu 熟れたバナナ
22 この点はニョロ語のような2型がどのようにしてトーロ語のような1型に変化する のかを説明するものである (Kaji 2018)。
23 *印は、もしB型名詞だったらこうなるというものである。
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c. /omu-ʤungú/ 1 → omuʤúŋgû ~ omuʤúŋgu ~ omuʤǔŋgu 白人 d. /em-baizí/ 9,10 → embáízî ~ embáízi ~ embaízi 斧
しかしながら、こういった音声的変異も、単語の後に何か来てポーズが取れ ると消えることは (8) (14) で見た通りである。
6. 音音節節かかモモーーララかか
ニョロ語の声調実現単位 TRU24 はモーラではなく音節である。これがはっ きりするのは、終わりから2音節目が2モーラの場合である。例えば (9a) の
amaɲâle「精液」の場合を見てみよう。筆者は [a] を 2 つの短音ではなく 1
つの長母音と見ている。従って、それを含む [ɲâ] は1音節2モーラである。
[a] を2個の短母音として見るならば、それは声調実現単位 TRU を音節では なくモーラと見ていることになる。もしそうだとするとこの単語は amaɲáale と表記でき、終わりから3つ目の単位に H があることになる。そうすると終 わりから3つ目に H があるのは終わりから2音節目が2モーラの単語のみで
あり、amazîga「涙」のような終わりから2音節目が1モーラの単語の場合は、
終わりから 3 つ目の単位に H が行くことはない(ただし、(15) で掲げた
omuɲôro 1/2 ~ omúɲôro 1/2 ~ omúɲoro 1/2「ニョロ人」のような音声的変異の場
合を除く)。これは要するに、上記2つの場合は相補分布をなしているという ことになる。ではどちらがより基本かという問題があるが、長母音を1つの母 音と考えた方が、いずれの場合も、終わりから2音節目に H があるというこ とで、一貫した記述が可能となる。実際、amaɲâle「精液」の /a/ とamazîga
「涙」の /i/ は全く同じ動きをしている。どちらも単独形では F となり、ポ
ーズが外れるとHとなるのである。
(24) a. /amazíga/ 6 → amazîga 涙 (=5b) b. /ama-zíga ga-ánge/ 6 → amazíga gâŋge 私の涙 (=6b)
24 声調実現単位 TRU と声調負荷単位TBU の違いに関しては、梶 (2019) 参照。
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(25) a. /ama-ɲáre/ 6 → amaɲâle 精液 (=9a) b. /ama-ɲáre ga-ánge/ 6 → amaɲále gâŋge 私の精液 (=11a)
以上述べたことは他の2モーラ音節にも当てはまる。例えば、(9d) の
ekikóikjo「謎々」であるが、終わりから2音節目の [oi] は2つの短母音ではな
く1つの2重母音である。この /oi/ も amazîga「涙」の /i/ と全く同じ動きをす るのである。すなわち、単独形では F となり、ポーズが外れると H となる のである。
(26) a. /eki-kóíkjo/ 7 → ekikóikjo 謎々 (=9d) b. /eki-kóíkjo ki-ánge/ 7 → ekikóíkjo kjâŋge 私の謎々(=11d)
以上、A型の単語の例を示したが、B型でも同様である。(28) の /e/ そし
て (29) の /ai/ の動きは (27) の短母音 /i/ の動きと並行している。(23) に見
られる音声的変異形、すなわち akaiběbe「鷹」や embaízi「斧」のような、最 初のモーラが Lのものは、2つの短母音が別々の動きをしているのではなく、
H の予期のパワー不足と見るべきである。つまり 2モーラの前半部分を上げ る力に欠けているのである25。
(27) a. /orubirá/ 11 → orubírâ 体の内紐 (=7b) b. /orubirá ru-ánge/ 11 → orubírá rwâŋge 私の体の内紐 (=8b) (28) a. /aka-ibebé/ 12 → akaibébê 鷹 (=13a)
b. /aka-ibebé ka-ánge/ 12 → akaibébé kâŋge 私の鷹 (=14a) (29) a. /em-baizí/ 9,10 → embáízî 斧 (=13d) b. /em-baizí i-ánge/ 9,10 → embáízí jâŋge 私の斧 (=14d)
25 これはエネルギーの節約である。ただ、こういった発音をしても他と混同されるも のはないので、問題は生じない。
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7. 声声調調のの機機能能
声調の機能には語彙的なものと、文法的なものとがある。語彙的なものはす でにミニマルペアとして (1) で示したので、ここでは文法的なものに限定す る。これには、(30) で示した5つがある。
(30) 1. 時制・アスペクト・ムードの表現と区別
2. 形容詞の付加的用法と述語的用法の区別
3. 動詞の関係節の形成
4. 動詞の従属節の形成
5. 同一指示代名詞構文の形成
(30.1) の時制・アスペクト・ムードの表示に声調は大きな役割を果たすが、
最小対は (31) のもののみである。(31a) では動詞 -gend-「行く」の声調は A
型で現れ、(31b) では B 型となっている26。
(31) a. Tukugênda.
tu-ku-génd-a we-PresProg-go-FV
我々は出かけている。
b. Tukugéndâ.
tu-ku-gend-á we-Poss-go-FV
我々は出かけるかもしれない。
(30.2) の形容詞の付加的用法と述語的用法の区別とは、例えば (32) のよう
なものである。(32a) (32b) とも名詞の後の形容詞 -ange は「私の」を意味す るが、その声調は、(32a) の付加的用法では -ánge のように A 型であるが、
26 動詞の不定形はA型であり -gend-「行く」は単独形ではokugêndaとなる。
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(32b) の述語的用法では -angé のように B 型となる。(32b) でコピュラ(繋
辞)は必要ではない。
(32) a. ekitábu kjâŋge 7 ekitábu ki-ánge book NPr7-my 私の本sg.
b. Ekitábu kjáŋgê. 7 ekitábu ki-angé book NPr7-mine 本は私のだ。
(30.3) の動詞の関係節の形成は、(29.2) の形容詞の付加的用法と述語的用法
の区別と似たところがある。ニョロ語は、関係節の動詞主語接頭辞として PPr を取る多くのバンツー系諸語と異なって、非関係節文に用いられる SPr をそ のまま主語接頭辞として用いる。従って、例えばクラス1の主語接頭辞は関係 節構文も非関係節構文も同じく a- となる。これを区別するのが動詞における 声調の違いである。従って、ニョロ語では関係節構文は原則、声調によって表 されると言ってよい。(33) と (34) の2例掲げる。
(33) a. agenzêre a-gend-ére
he/she-go-Perf [SubRel]
出かけた人sg.
b. Agenzérê.
a-gend-eré he/she-go-Perf
彼(女)は出かけた。
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(34) a. aragênda a-ra-génd-a
he/she-NearFut-go-FV [SubRel]
近々出かける人sg.
b. Aragéndâ.
a-ra-gend-á
he/she-NearFut-go-FV
彼(女)は近々出かける。
ただし、すべての関係節構文が、声調によってのみ区別されるわけではない。
関係節に限定性が加わると、主語接頭辞がクラス2の ba- のように CV 構造 をしていると限定性を表すために Aug が付く27。従って、(33) (34) を複数形 にしてかつ Aug によって限定性を加えると、(35) (36) のように、もはや声調 のみによるミニマルペアではなくなる。
(35) a. abagenzêre a-ba-gend-ére
Aug-they-go-Perf [SubRel]
その出かけた人々 b. Bagenzérê.
ba-gend-eré they-go-Perf
彼(女)らは出かけた。
(36) a. abaragênda a-ba-ra-génd-a
Aug-they-NearFut-go-FV [SubRel]
その近々出かける人々
27 主語接頭辞がクラス1 の a- のように母音1個だと Aug は付かない。その場合は、
Aug が付かない形で限定性、非限定性の両方を表す。
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b. Baragéndâ.
ba-ra-gend-á they-NearFut-go-FV
彼(女)らは近々出かける。
(30.4) の動詞の従属節の形成とは、例えば (37a) のような例である。(37a)
で「~の時」を表す obu はあってもなくてもよい。(37a) が従属節であるこ とは、obu ではなく動詞形 ŋ́kugênda 自体によって示されている。この ŋ́kugênda「私が出かける時」の形は、「私は出かける」を意味する (37b) の ŋkugênda とは声調のみによって区別されている。
(37) a. (obu) ŋ́kugênda obu ń-ku-génd-a
when I-TM-go-FV [ObjRel]28 私が出かける時
b. Ŋkugênda.
n-ku-génd-a I-TM-go-FV 私は出かける。
(30.5) の同一指示代名詞構文の形成は紙面の都合上ここでは十分述べ得な
いが、1例を示す29。(38a) は通常の完了文である。この動詞形に何かを後続さ
せると、単独では akiŋgîre となっていた動詞形の H が消えて akiŋgire とな
る。(38b) では目的語 orwîgi「ドア」を後続させているが、(38c) のように
kurúŋgî「きちっと」のような副詞を後続させても同じである。この現象は音 声的に説明できるものではなく、非常にアドホック(文法的)なもので、すべ てのテンス・アスペクト・ムードで起こるわけではない。完了形や遠過去など
28 この従属節は目的語関係節と同じものである。Kaji (2018c) 参照。
29 この点については Kaji (2021) 参照。
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限られた変化形でのみ起こるものである。
問題は、目的代名詞を用いた場合である。(38d) のように目的代名詞を用い ても動詞に何も後続しない場合は、動詞形は H を保つ。これは (38a) のよう に目的代名詞がない場合と同様である。しかし (38e) のように動詞に何かが 後続すると、動詞形は (38b) 同様、H を失う。ところが、(38f) のように、目 的語名詞が用いられ、目的代名詞がその目的語名詞と同一指示の場合は動詞の H が保たれるのである。このような同一指示代名詞構文は、目的語名詞の限 定化のために用いられる30。
(38) a. Akiŋgîre a-king-íre he/she-close-Perf 彼(女)は閉めた。
b. Akiŋgire orwîgi.
a-king-ire orwígi he/she-close-Perf door
彼(女)はドアを閉めた。
c. Akiŋgire kurúŋgî.
a-king-ire kurungí he/she-close-Perf well
彼(女)はきちっと閉めた。
d. Arukiŋgîre.
a-ru-king-íre he/she-it11-close-Perf
彼(女)はそれを閉めた。
30 これはバンツー系の幾つかの言語で言われる conjoint/disjoint の問題と関係して いる。例えばルワンダ語についての Ngoboka & Zeller (2017) の論考を参照。
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e. Arukiŋgire kurúŋgî.
a-ru-king-ire kurungí he/she-it11-close-Perf well
彼(女)はそれをきちっと閉めた。
f. Arukiŋgíre orwîgi.
a-ru-king-íre orwígi he/she-it11-close-Perf door
彼(女)はそのドアを閉めた。
8. 終終わわりりにに
最後にニョロ語の声調言語としての特徴をまとめれば、(39) のようになる。
(39) a. 名詞類は、いわゆる2型を示し、単語が長くなってもパターンは2つ
のみである。
b. TRUが音節であって、2型の特徴に関連する音節が、短母音を含む軽
い音節であるか、あるいは長母音や2重母音を含む重い音節であるか
に関係なく、声調は同じ振る舞いをする。
c. 単独形では最終音節のHの予期が起こるが、名詞のあとに単語が続き
ポーズが取れても、予期されたHは消滅しない。
d. 動詞の変化形は名詞と異なりA型のみの1型であるが、それでも、動
詞活用において声調は大きな役割を果たす。
以上のうち、(39a) の2型に関する部分は、この地域の言語の声調の歴史に 係る重要な事柄であり、稿を改めて論じたいと思っている。
謝 謝辞辞
本稿は東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所で開催された共同研究 プロジェクト「アフリカ諸語の声調・アクセントの総合的研究」(2016 ~ 2018
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年度、研究代表者:梶 茂樹)の成果の一部である。研究会の席で、また論文 草稿段階でコメントをいただいた方々に感謝を申し上げる。また共同利用共同 研究課題「バントゥ諸語のマイクロ・バリエーションの類型的研究 (2)」の成 果の一部でもある。
参 参考考文文献献
Eberhard, David M., Gary F. Simons and Charles D. Fennig (eds.) (2019) Ethnologue: Languages of the World. Twenty-second edition. Dallas, Texas: SIL International.
梶茂樹 (2006)「ハヤ語、アンコーレ語およびトーロ語の声調の比較、特にト
ーロ語の声調消失に関連して」『言語研究』129: 161-180.
Kaji, Shigeki (2010) “A comparative study of tone of West Ugandan Bantu languages, with particular focus on the tone loss in Tooro” ZAS Paper in Linguistics 53:
99-107.
Kaji, Shigeki (2015) A Runyoro Vocabulary. Kyoto: Shoukadoh.
Kaji, Shigeki (2018a) “Do we need to postulate a different tone pattern for monosyllabic verbs in Nyoro?” Acta Humanistica et Scientifica, Universitatis Sangio Kyotiensi 51: 189-205.
Kaji, Shigeki (2018b) “From Nyoro to Tooro: historical and phonetic accounts of tone merger.” In Haruo Kubozono and Mikio Giriko (eds.) Tonal Change and Neutralization. pp.330-349. De Gruyter Mouton.
Kaji, Shigeki (2018c) On the homology of the object relative construction and the subordinate form in Nyoro verb conjugation. Paper presented at the 7th International Conference on Bantu Languages (Sintu7). Cape Town.
梶茂樹 (2019)「テンボ語の声調-そのパターンと文法的機能-」本書所収.
Kaji, Shigeki (2021) “High tone deletions and coreferential objects in Nyoro verb conjugations” Acta Humanistica et Scientifica, Universitatis Sangio Kyotiensi 54.
Kaji, Shigeki (in preparation) Nyoro Verb Conjugations.
22
Maho, Jouni Filip (2009) NUGL online: the online version of the new updated Guthrie list, a referential classification of the Bantu languages.
https://brill.com/fileasset/downloads_products/35125_Bantu-New-updated-Guthri e-List.pdf. [Retrieved on October 14, 2020]
Ngoboka, Jean Paul and Jochen Zeller (2017) “The conjoit/disjoint alternation in Kinyarwanda.” In Jenneke Van der Wal and Larry M. Hyman (eds.) The Conjoit/Disjoint Alternation in Bantu. pp. 350-389. Berlin: Moton de Gruyter.