低降伏点鋼を用いた境界梁ダンパーの研究
(その 2 実験結果の評価)
正会員 ○佐藤 宏貴*1 同 黒瀬 行信*2 同 熊谷 仁志*3 同 島崎 和司*4 鉄筋コンクリート構造 損傷制御設計
境界梁 低降伏点鋼 根巻型接合部
びており、アンカーボルトの伸びによる抜出しが原因である と考えられる。No.3、No.4 試験体は No.1、No.2 試験体に比 べ根巻部の伸びが若干大きいが、全試験体ほぼダンパー部で 伸びている事がわかる。ダンパー部軸方向変形の割合の違い は、ベースプレート・アンカーボルトの有無、根巻部断面形 状の違いによると考えられる。
1. はじめに
本報告はその1 に引き続き、地震応答の低減を目的とした 境界梁ダンパー部材に関するものである。その 2 ではその 1 の実験結果を詳細に検討し、境界梁ダンパー部材の設計時の 評価方法について考察する。
2. 実験結果・考察
1) 荷重−変形関係の包絡線と計算値の比較
図 1 荷重−変形関係の包絡線と計算値の比較 0
100 200 300 400 500 600 700
0 10 20 30 40 50 60
水平変位(mm)
荷重(kN)
No.1 No.2
No.3 No.4
計算値1 計算値2
計算値3
ダンパー降伏
(計算値1,2)
根巻主筋降伏(計算値2) 図 1 に荷重−変形関係の包絡線と計算値の比較を示す。最
大荷重は No.4 試験体が大きいが、これはフランジ断面が他 の試験体よりも大きいためだと考えられる。図中の計算値は 境界梁を単一の梁と考え、初期剛性をSRC梁とし、RC 梁と してのひび割れ荷重、降伏荷重、剛性低下率を鉄筋コンクリ ート構造計算規準1)を参考に計算し、RC梁の荷重−曲げ変形 関係を求め、それにダンパー部の曲げ変形、せん断変形分を 加えることにより算出したものである。計算値1 はダンパー 部ウェブの降伏後のせん断剛性を 0、計算値 2(規格降伏点 強度)、計算値 3(実降伏強度)は 1%としたものである。根 巻部主筋降伏後の剛性は0 とした。モデルとしては、梁端の 鋼材断面を無視した No.3 試験体に近いと考えられる。計算 値2では荷重が約550kNの位置で根巻主筋が降伏しているが、
実験結果では根巻主筋は降伏していない。計算値 2,3 で本試 験体の荷重−変形関係が設定できると考えられる。
-600 -400 -200 0 200 400 600 800
-3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6
ダンパー端部水平変形(mm)
荷重(kN)
No.1試験体
-600 -400 -200 0 200 400 600 800
-3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6
ダンパー端部水平変形(mm)
荷重(kN)
No.2試験体 2) 荷重−ダンパー端部水平変形関係
0 1 2 3 4 5
1/200 1/100 1/50 サイクル
軸伸び変形(mm)
0 1 2 3 4 5
1/200 1/100 1/50 サイクル
軸伸び変形(mm)
0 1 2 3 4 5
1/200 1/100 1/50 サイクル
軸伸び変形(mm)
0 1 2 3
1/200 1/100 1/50 サイクル
軸伸び変形(mm)
図 2 に荷重−ダンパー端部水平変形関係を示す。変形はダ ンパー端部 30mm の位置に水平方向に取り付けた変位計によ り計測した。ダンパー支圧によるめり込み変形、ダンパー引 き抜きによる回転変形、ダンパー端部曲げ変形・せん断変形 が含まれるが、主にダンパー端部のせん断変形と、支圧によ るめり込み変形から成ると考えられる。この図ではスリップ 性状が顕著に顕れている事から、荷重−変形関係のスリップ 性状はダンパー支圧によるめり込み変形、ダンパー引き抜き による回転変形が主因であると考えられる。
-600 -400 -200 0 200 400 600 800
-3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6
ダンパー端部水平変形(mm)
荷重(kN)
No.4試験体 -600
-400 -200 0 200 400 600 800
-3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6
ダンパー端部水平変形(mm)
荷重(kN)
No.3試験体
図 2 荷重−ダンパー端部水平変形関係 根巻部軸方向変形 3) 軸方向変形
図 3 に軸方向変形を示す。ダンパー部軸方向変形はダンパ ー区間の鉛直変形を測定したもので、ダンパーの抜出し、ウ ェブの伸びが計測値に表れていると考えられる。根巻部軸方 向変形はスタブ間の鉛直変形からダンパー部軸方向変形を引 いたもので、根巻部の軸方向変形、および根巻・スタブ接合 部での軸方向変形が含まれていると考えられる。全試験体で 軸方向に伸びているのが確認できる。伸びは No.1〜No.3 試 験体はほぼ同程度であるが、ベースプレートとアンカーボル トが有るNo.2試験体がやや小さい。No.4試験体は大きく伸
ダンパー部軸方向変形
図 3 軸方向変形 No.3試験体
No.2試験体 No.4試験体
No.1試験体
Study on Coupling Beams Using Low Strength Steel Part 2 : Evaluation of Test Results
SATOU Hiroki, KUROSE Yukinobu KUMAGAI Hitoshi, SHIMAZAKI Kazushi
4) ひずみ分布
図 6 にウェブ・せん断補強筋ひずみ分布(3 サイクル
R=1/400)を、図 7 に鉄骨フランジ・アンカーボルト、根巻
主筋ひずみ分布(9 サイクル R=1/100)を示す。各歪分布横 軸は歪測定位置参照図に示すように、ダンパー中心を基準位 置0mmとし、根巻部が100mmから500mm、それ以降がスタ ブ(耐震壁)になっている。ウェブは主ひずみの値をとった。
図 6 では全試験体でダンパー部が降伏(降伏点ひずみ約 1000 μ)している。また、せん断補強筋は中子筋のひずみとの平均 であるが、全試験体ほぼ等しい値をとっている。No.4試験体 は鉄骨の埋め込みが無く、すべて RC でせん断力を負担する ため、根巻頂部でせん断補強筋のひずみが大きい。図 7 では、
No.1、No.2 試験体は No.3 試験体に比べ、根巻内鉄骨フラン ジのひずみが大きく、根巻主筋のひずみが小さいことから、
鉄骨部分での負担応力が No.3 試験体より大きいと考えられ る。また、No.2 試験体は鉄骨端部にベースプレート、アンカ ーボルトが取り付けられているため、鉄骨端部でひずみが大 きくなっている。No.3、4 試験体では根巻主筋のひずみが大 きくなっており根巻部の変形が大きくなっていると考えられ る。No.4試験体のフランジ・アンカーボルトは大きなひずみ になっている。
5) 変形成分比
図 8 に変形成分比の変形量に伴う変化を示す。ダンパー支 圧によるめり込み変形は実測値、ダンパー部変形は上下根巻 頂部の水平変位差から、根巻部曲げ変形は曲率から、根巻部 せん断変形は根巻部変形から根巻部曲げ変形を引く事により 求めた値である。図 8 では、根巻部の鉄骨埋め込み長さの減 少に伴い、No.4 試験体に向かうほど曲げ変形の割合が増加し ている。その分ダンパー部の変形が少なくなり、履歴形状に 影響を与えていると考えられる。また、No.4試験体ではダン パー端部の支圧めり込み変形成分が大きくなっている。
6) 等価粘性減衰定数
図9に等価粘性減衰定数(heq)を示す。比較のため同図中 にアンボンドX型配筋梁2)の等価粘性減衰定数(heq)を示す。
大変形時(部材角 R=1/100、1/50)のエネルギー吸収能力は X 型配筋梁と変わらないが、中地震程度からのエネルギー吸 収を想定した R=1/200 変形角では倍以上のエネルギー吸収能 力を有している。くり返し時にはスリップ性状が大きくなる 事でheqが低下している。
3. まとめ
本試験体の復元力特性は合成部材として算定が可能である と考えられる。荷重−変形関係では大きな違いは見られない が、応力伝達や変形成分では各試験体でやや異なり、ダンパ ーの抜け出し・支圧による変形がスリップの要因となる。
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
1/200 1/100 1/50 0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
80%
90%
100%
1/200 1/100 1/50 0%
10%
20%
30%
50%
60%
80%
90%
100%
1/200 1/100 1/50 0%
10%
20%
30%
40%
50%
60 70%
80%
90%
100%
1/200 1/100 1/50
70% 70%
ダンパー端部支圧めり込み変形
根巻部せん断変形40%
%ダンパー部変形
図 8 変形成分比 根巻部曲げ変形
No.1試験体 No.2試験体 No.3試験体 No.4試験体
歪測定位置参照図
0 100 500 800 1400
位置(mm)
0 200 400 600 800 1000 1200
0 200 400 600 800
位置(mm)
歪(μ)
No.1ウェブ No.2ウェブ No.3ウェブ No.4ウェブ No.1補強筋 No.2補強筋 No.3補強筋 No.4補強筋
No.3 No.4補強筋
図 6 ウェブ・せん断補強筋 ひずみ分布(3 サイクル R=1/400)
-500 0 500 1000 1500
0 200 400 600 800 1000
位置(mm)
歪(μ)
No.1フランジ No.2フランジ No.3フランジ No.4フランジ No.1主筋 No.2主筋 No.3主筋 No.4主筋
図 7 鉄骨フランジ・アンカーボルト、根巻主筋 ひずみ分布(9 サイクル R=1/100)
0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25
1/400 1/200 1/100 1/100 1/50
等価粘性減衰定数
No1 No2 No3 No4 X型配筋
1/50 (heq)
1/100 1/200
R=1/67
【参考文献】
1) 日本建築学会:鉄筋コンクリート構造計算規準・同解説1999
2) 島崎他:損傷低減を目的としたエネルギー吸収型 X 型配筋梁の開発
(その2−その3)、 A I J 2 0 0 2 大会
3) 熊谷他:鉄骨梁および鋼材ダンパーで連結された連層耐震壁架構に関す る研究、AIJ工学年次論文報告集21-1、pp.355-360、1999
部材角
*1 神奈川大学 工学部建築学科
*2 清水建設(株)設計本部 副部長 博士(工学)
*3 清水建設(株)技術研究所 主任研究員
*4 神奈川大学 工学部建築学科 助教授 博士(工学)
Graduate Student, Kanagawa University Deputy General Manager, Design Division, Shimizu Corporation, Dr. Eng.
Senior Research Engineer, Institute of Technology, Shimizu Corporation Associate professor, Kanagawa University, Dr. Eng.
図 9 等価粘性減衰定数(heq)