意味重視のアウトプット活動が
学習者の教授言語に対する好みに与える影響
山口学芸大学 岩中 貴裕 山口学芸大学 中垣 謙司
Abstract
This paper tries to clarify how meaning-focused output activities would influence Japanese English learners’ preferences for instructional language. Seventy-nine undergraduates were employed as the participants. Based on whether they were engaged in meaning-focused output activities, the authors put them into two groups: The Output (+) group and the Output (-) group.
Both groups took an English course taught by one of the authors. Only the Output (+) group had opportunities to produce meaning-focused output. To clarify the participants’ preferences for instructional language, a questionnaire called Student Preferences for Instructional Language (SPIL) was employed. SPIL is a scale designed to measure student preferences for instructional language. The analysis of the data shows that the Output (+) group would like the teacher to use English more in class than the Output (-) group. The authors then argue that the readiness for teaching English in English gradually develops and that learners of English should be provided opportunities where they negotiate for meaning since when they are at a rudimental level.
1. はじめに
1.1 研究の背景
平成 25 年度より高等学校で現行学習指導要領が施行された。これに伴い高等学校の英語 の授業は英語で行うことが基本となった。しかし,そもそも英語の授業を英語で行うという ことはどういうことであろうか。筆者らはこれまで中学校から大学まで多くの英語の授業を 参観する機会に恵まれてきた。日本人英語教員による素晴らしい実践例も見られたが,中に は英語で授業を行うことのみが目的になってしまっている授業も見られた。筆者らが問題で あると感じた英語の授業は次の2つのパターンに分類される。
まず一つ目は従来日本語で行っていたと思われる授業を,その内容を検討することなしに そのまま英語で授業を行っている事例である。授業を英語で行うということは文法説明を英 語で行うということではない。卯城 (2014, p. 25) に現在分詞の用法を英語で説明している 授業の例が紹介されているが,筆者らも同様の授業を参観したことがある。文法という抽象 的な概念を英語で説明できるだけの英語力を教員が持っているということは素晴らしいこと であるが,このような授業で学習者がコミュニケーションのツールとして英語を用いること
1
『中国地区英語教育学会研究紀要』 No. 48(2018)
が出来るようになるとは考えられない。
もう一つは授業のかなりの部分が英語で行われているが,テキストの解答確認に授業の大 半が費やされているタイプの授業である。例えば以下のようなやり取りが教員と学習者間で 行われていると,表面的には英語で行う英語の授業が成立する。
(After listening to a CD track)
教員:
OK class, look at the questions on page 4. Please answer them. What should be the answer to Question 1?
生徒:
The answer is (a). Tom did not feel well.
教員:
That’s right. OK, let us go on to the next question.
授業の大半がこのような活動に終始する授業が学習者の英語運用能力向上に貢献するとは 考えられない。英語で授業を行うということは,教員による説明中心の授業を学習者による 活動中心の授業へと転換することを意味している。上記の
2
つのタイプの授業はこれを考慮 していない。授業を英語で行うということは多くの人々が考えているほど単純なことではな い。近年,英語を用いて教科内容を教えるという試みが様々な国や地域で注目されているが,これも入念な計画と準備無しに行ってしまうと英語力は期待していたほど伸びず,教科の力 は下降するという結果を招いてしまうことがある
(Warrington, 2008)
。第二言語習得は目標言語の学習環境が母語習得の環境に似ている時に効率的に起こると考 えられている
(Krashen, 1982; Long, 1990; Swain, 2000)
。つまり,(1)
形式ではなく意味に 注意が向けられている,(2) i+1
インプットに触れる機会がある,(3)
不安の少ない場面で目 標言語を意味のやり取りのために使用する機会がある,という3
つの条件が満たされる必要 がある。意味を重視したアウトプット活動を経験することは,学習者の英語運用能力の向上 のために欠かすことができないと筆者らは考えている。学習者が伝えるべき内容を自ら考え それを目標言語で伝えるという活動が持つ学習効果は非常に大きい。英語学習者の中には授業を英語で行うことに対して頑なに拒否反応を示す者がいる。しか し彼等の英語力が必ずしも低いわけではない。筆記試験で測定できる英語力は高いが,英語 の授業を英語で行うことに対しては否定的という学習者が相当数いる。
教授言語に対する好みに影響を与える要因のひとつとして学習者のこれまでの英語学習経 験が挙げられる。岩中・岩井
(2016)
は学習者の教授言語に対する好みに影響を与える要因 を明らかにするために9
名の大学1
年次生を対象に半構造化インタビューを実施している。収集したデータを分析し,以下の傾向が認められると指摘している。
(1)
高校時に大学入試対策を重視した英語の授業を受けていた学習者は,英語で行う英語の 授業に対して否定的な反応を示す。(2)
表現(
発表)
に重点を置いた英語の授業を受けたことがある学習者,意味重視の活動を取 り入れた英語の授業を高校時代に受けたことがある学習者は英語で行う英語の授業に対 して肯定的な反応を示す。英語で行う英語の授業に対するレディネスは実際に英語を使用する経験を通して徐々に育 まれると考えてよいだろう。日本語を教授言語
(Medium of Instruction
,以下MOI)
として,英語について説明することを中心とした授業ではなく,学習者が意味のあるアウトプット活
動,意味交渉に従事する機会が英語の授業で確保されなくてはならない。
1.2
研究上の問い上述の議論に基づき,以下の研究上の問いを形成した。本稿は以下の研究上の問いに答え,
その結果に基づき学習者の教授言語に対する好みがどのようにして形成されるのかについて 考察を加えることをその目的とする。
(1)
意味重視のアウトプット活動に従事することは学習者の教授言語に対する好みにどのよ うな影響を与えるのか。(2)
英語力が低い学習者は英語で教える英語の授業に対して肯定的な反応を示すようになる のか。2.
調査2.1
調査参加者日本国内の大学に通う
79
名の学部生を調査参加者として調査を実施した。調査は筆者ら が担当した授業内で行った。2013
年度に高校に入学し現行学習指導要領で英語の授業を受け ている。この79
名の調査参加者を2
つのグループに分けた。79
名の内の17
名は,英語で の発表を主目的とした授業を受講していた。この17
名をアウトプット(
+)
とする。残りの62
名をアウトプット(
-)
とする。調査参加者のグループごとの内訳を表1
に,調査参加者 のCEFR
の基準に基づいた英語力1) を表2
に示す。表
1
調査参加者の内訳グループ名 人数
(
人)
必修英語クラス 発表を重視したクラス アウトプット(
+) 17
○ ○アウトプット
(
-) 62
○ ×表
2
調査参加者の英語力B1 A2 A1 A1
未満 合計アウトプット
(
+) 1 6 10 0 17
アウトプット(
-) 1 15 31 15 62
合計2 21 41 15 79
2.1.1
必修英語クラス英語による基礎的なコミュニケーション能力を養うことを主眼とした授業である。自己紹 介,電話でのやり取り,故郷の紹介等の身近なトピックを英語で表現することを重視した授 業である。日本人英語教員が担当しているが,授業は基本的に英語で行われている。
2.1.2
発表を重視したクラスグループでの話し合い,スピーチ,プレゼンテーションを通して英語運用能力を高めるこ とを目標とした授業である。英語母語話者と日本人英語教員が共同で担当している。英語の みを
MOI
として授業を行っている。2.2
データ収集方法アンケートとインタビューによってデータ収集を行った。アンケートは両方の授業が
15
回終了した時点で実施した。本研究ではStudent Preferences for Instructional Language
(
以下,SPIL)
と呼ばれるアンケート調査紙を使用した。SPIL
は調査参加者の現在の英語力や中学校入学以前の英語学習経験の有無などについて確認する前半部分と,
MOI
に対する 好みや期待を調査する後半部分で構成されている(Carson
,2015)
。SPIL
の前半部分にある3
つの質問に対して調査参加者がどのように回答したのかを分析対象とする。(1)
あなたは英語の先生に授業中にどの程度,日本語を使って説明してもらいたいと思いま すか。(A) 0%
(B) 20%
(C) 40%
(D) 60%
(E) 80%
(F) 100%
(2)
あなたはすべてのことが英語で行われる英語の授業についてどう思いますか。(A)
とても望ましい(B)
望ましい(C)
どちらともいえない(D)
いや(E)
絶対いや(3)
主に英語だけで教えられる英語の授業は,あなたの学習意欲を高めると思いますか。(A)
とてもそう思う(B)
そう思う(C)
どちらともいえない(D)
そう思わない(E)
まったくそう思わない上記の
3
つの質問に対してすべて(A)
を選んでいた2
名に対して,約15
分間の半構造化 面接を実施した。両名ともアウトプット(
+)
の学生である。3.
結果3.1
日本語の使用割合質問項目
(1)
の回答結果を表3
,図1
に示す。表
3
日本語の使用割合0% 20% 40% 60% 80% 100%
アウトプット
+
3 6 5 0 3 0
17.6% 35.3% 29.4% 0% 17.6% 0%
アウトプット
-
0 7 25 21 8 1
0% 11.3% 40.3% 33.9% 12.9% 1.6%
図
1
日本語の使用割合2)(A) 0% (B) 20% (C) 40% (D) 60% (E) 80% (F) 100%
アウトプット+ 17.6 35.3 29.4 0 17.6 0 アウトプット- 0 11.3 40.3 33.9 12.9 1.6
0 20 40
%
60各グループの調査参加者が,英語の授業において日本語の使用をどの程度求めているかは 表
3
,図1
に示した通りである。これらの差をχ二乗分析により検討した。その結果,χ2(5,
N = 79) = 22.279
,p
<.01
であり,グループ間で日本語の使用割合に対する希望が異なっていることが示唆された。また
Cramer’s V = .53
であり,効果量は大であった。3.2
すべてが英語で行われる授業質問項目
(2)
の回答結果を表4
,図2
に示す。表
4
すべてが英語で行われる授業(A) (B) (C) (D) (E)
アウトプット
+
3 6 6 2 0
17.6% 35.3% 35.3% 11.8% 0%
アウトプット
-
0 13 24 22 3
0% 21.0% 38.7% 35.5% 4.8%
(A)
とても望ましい(B)
望ましい(C)
どちらとも言えない(D)
いや(E)
絶対いや図
2
すべてが英語で行われる授業各グループの調査参加者が,すべてが英語で行われる英語の授業についてどのように思っ ているかは表
4
,図2
に示した通りである。これらの差をχ二乗分析により検討した。その 結果,χ2(4, N = 79) = 15.414
,p
<.01
であり,グループ間ですべてが英語で行われる授 業に対する反応が異なっていることが示唆された。またCramer’s V = .44
であり,効果量は 中程度であった。3.3
学習意欲の向上質問項目
(3)
の回答結果を表5
,図3
に示す。表
5
学習意欲の向上(A) (B) (C) (D) (E)
アウトプット
+
2 11 4 0 0
11.8% 64.7 23.5% 0% 0%
アウトプット
-
3 18 21 17 3
4.8% 29.0% 33.9% 27.4% 4.8%
A B C D E
アウトプット+ 17.6 35.3 35.3 11.8 0 アウトプット- 0 21 38.7 35.5 4.8
0 20 40
%
60(A)
とてもそう思う(B)
そう思う(C)
どちらともいえない(D)
そう思わない(E)
まったくそう思わない図
3
学習意欲の向上各グループの調査参加者が,主に英語で行われる英語の授業が学習意欲の向上に貢献する かどうかについてどのように思っているかは表
5
,図3
に示した通りである。これらの差を χ二乗分析により検討した。その結果,χ2(4, N = 79) = 11.571
,p
<.05
であり,グルー プ間で差があることが示唆された。またCramer’s V = .38
であり,効果量は中程度であった。3.4
半構造化面接先述のように
3
つの質問項目すべてに対して(A)
を選択した調査参加者が2
名いた。英語 力は1
人がCEFR
でB1
程度,もう1
人がA1
程度であった。この2
名に対して半構造化面 接を実施した。これまでに海外へ行ったことがあるか,大学で受けている英語の授業に対し てどのように感じているのか,中・高等学校で受けた英語の授業で印象に残っている授業が あるか,3
つの質問に対してなぜ(A)
を選択したのか等を確認した(
補遺参照)
。インタビュ ーデータは文字化し,そこから具体的な証言(
バリエーション)
を抽出し,傾向を明らかに することを試みた。分析結果の概要を表6
に示す。表
6
半構造化面接の概要調査参加者 英語力 渡航経験 大学の授業 印象に残っている中・高の授業
O+(10)
3)B1
有り 楽しい 有りO+(16) A1
無し 楽しい 無しO+(10)
は中・高等学校の時から英語は好きな教科でどちらかと言えば得意であったと回答した。印象に残っている授業についての説明を求めると,授業で経験した活動内容を具体 的に説明した。一方,
O+(16)
は中・高等学校の英語の授業については具体的な内容等を思 い出すことができなかった。英語が嫌いだったわけではないが,印象に残るような出来事も なかったようである。大学で現在受けている英語の授業に対しては両方とも好意的に捉えていた。その理由とし
て
O+(10)
は授業内容そのものに言及した。O+(16)
は先生の話を聞くだけでなく,自分たちがペア,グループで主体的に活動する時間帯が授業内にあることを評価していた。今まで に受けた英語の授業と授業のやり方が異なることを好意的に捉えていた。
A B C D E
アウトプット+ 11.8 64.7 23.5 0 0 アウトプット- 4.8 29 33.9 27.4 4.8
0 20 40 60
%
80O+(10)
は中・高等学校でコミュニケーション能力を育む英語教育を受けていたことが窺 えた。大学に入学した時点で英語の授業を英語で行うことに対する抵抗感はなかったようで ある。これに対してO+(16)
は,大学で英語の授業を受けている内にMOI
に対する考え方が 変わってきたようである。以下,O+(16)
がどのように回答したのか具体例を紹介する。(1)
日本語の使用割合・すべてが英語で行われる授業(
下線は筆者による)
面接者:授業の後で答えてもらったアンケート,○○君は,日本語はゼロパーセントって 選んだんだけど,それで間違いない?
O+(16)
:はあ。面接者:どうしてかな。
O+(16)
:えっと,何となく…
先生と△△先生4) の授業5) は全部英語で行われていたけど,慣れたら別に困らなかったし
…
中途半端に日本語使うくらいなら別にゼロでもい いのかなって…(
以下略)
面接者:△△先生,授業中、かなりハイスピードで話すけど全部理解できた?
O+(16)
:いや,全然,さっぱり分からなかったです。(
笑)
面接者:困った?不安だったでしょ?
O+(16)
:最初は…
でも分からない時は他の人に聞けばいいだけだし。だんだん慣れたみたいな感じで
…
面接者:だんだん英語が聞き取れるようになったっていうこと?
O+(16)
:ではなくて,授業そのものに…
分からなくてもそんなに心配しなくてもいいのかなって思うようになって
…
面接者:ん?どういうことかな。よく分からないんだけど。
O+(16)
:△△先生は質問したらジェスチャーとか使いながら分かりやすく説明してくれたし,先生も助けてくれたし。確認とかを英語でするのは難しかったけど,下手で も話そうとしていたら△△先生にちゃんと伝わったし。
面接者:スピーキングに自信がついた?
O+(16)
:(
沈黙)
単語つなげるだけとがジェスチャーで適当にやってるだけなんで。でも結構伝わるんだなって。自信
…
文法とかちゃんとやったらもっと自信がつくかも。O+(16)
の英語力は高くはなかったが,授業では積極的に英語を使用していた。意味のやり取りのために英語を使用し,コミュニケーションでの成功体験を重ねることによって英語 で行う英語の授業に対する肯定的な態度が育まれたと考えられる。
(2)
学習意欲の向上(
下線は筆者による)
面接者:じゃあアンケートのこの質問。ここ,「とてもそう思う」を選んでるんだけどどう してかな。
O+(16)
:えっと,まず楽しかったんで,授業が。面接者:大学の英語の授業?
O+(16)
:はい。面接者:どういうふうに?
O+(16)
:英語をこんなふうに本当に使うことってこれまでたぶん,ええと,なかったんで。なんか,ちょっとイメージが変わったっていうか
…
面接者:イメージが変わった?
O+(16)
:はい,使ってみたら結構通じる…
△△先生が分かってくれたんで。基本とか全然できてないなあっていつも思ってるんですけど,でも,なんか嬉しかったです。
面接者:高校の時とは違う?
O+(16)
:はい,(
中略)
英語でプレゼンって言われてええって思ったけど,やってみたらなんとかなったし。
(
中略)
英語で授業って,分からなかったらどうしようって思う かもしれんけど何とかなるし,だったら英語でやった方が多分ためになる…
楽し いと思うんで。O+(16)
の英語力は大学生としては標準よりやや劣る水準である。しかし,英語の授業を英語で行うことに対して肯定的な反応を示していた。
一般的には英語力の高い学習者の方が英語で行う英語の授業に対して肯定的な反応を示す 傾向がある。これまでの調査からは,
B1
以上の学習者とA2
以下の学習者で反応が大きく異 なることが分かっている(
岩中他, 2015)
。しかし,授業内で意味のやり取りを重視した活動,達成感を感じることができる活動に従事することによって,英語力が低くても英語で行う英 語の授業に対するレディネスが育まれることを
O+(16)
の発言は示唆している。3.5
まとめ調査参加者に対して行ったアンケート,及び半構造化面接から得られたデータを分析した 結果は以下のように纏めることができる。
(1)
意味重視のアウトプット活動に従事することによって英語で行う英語の授業に対する肯 定的な態度が育まれる。(2)
授業内で意味のやり取りを重視した活動に従事しコミュニケーションを成功させること によって,英語力が低い学習者であっても英語で行う英語の授業に対して肯定的な反応 を示すようになる可能性がある。4.
考察英語で教える英語の授業
(Teaching English in English
,以下TEE)
に対する態度に影響 を与える要因のひとつとして挙げられるのが学習者の英語力である。英語力が高くなればTEE
に対する抵抗感が低くなるという説明は理にかなっていると言えよう。英語力に自信が あれば授業が英語で行われても何とかなると学習者が考えるのは自然なことである。しかし 今回の調査から,TEE
に対する態度に影響を与える要因がもう一つあることが分かる。TEE
に対するレディネスと考えてよいだろう。これは目標言語で意味のやり取りを行い,コミュ ニケーションを成功させるという体験を積み重ねることによって徐々に育まれていくと考え られる。英語力が低い学習者に対する英語の授業では,説明のために日本語を介入させることはあ る程度,仕方がないことであろう。しかし,英語力が低い学習者に対しては
TEE
が不可能 ということではない。授業の中に目標言語を意味交渉のために使用する機会を取り入れるこ とによって,TEE
に対するレディネスを育てていくことは可能であると筆者らは考えている。O+(16)
の発言のみを根拠として結論することはできないが,今後の英語教育の在り方を考える上で,考慮すべき要因である。英語力の低い学習者に
TEE
を実践する際は,理解可能なインプットを提供しながら目標言語を意味のやり取りのために使用する機会を授業内に取 り入れることが大切である。ここで大切なことは教師の説明等を一度ですべて理解する必要 はないということである。
O+(16)
は母語話者教員による英語での説明をすべて理解できて いたわけではない。分からない時はコミュニケーション方略等を用いて英語力不足を補って いた。これによりインプットが理解可能になったと考えられる。最後に発表を重視したクラスで用いたアウトプット課題と今後求められる研究について触 れておきたい。表
2
に示したように調査参加者の英語力は高いとは言えない。しかし,大学 生は仮に英語力が低くても大学生に相応しい思考を持っている。英語で行うから高度な内容 は扱えないというスタンスは教育上,望ましくない。発表を重視したクラスではこの点を考 慮し,認知負荷の高い課題を与えた。例を一つ挙げる。Directions: Compare and contrast how things are the same and how they are different from your generation to older generations like your parents, grandparents and maybe beyond. Examples could be diet, education, sports, medicine, entertainment, technology, etc.
調べた内容を紹介するだけでなく,収集した資料を分析,評価して自分の考えを英語で述 べるように指導した。つまり調査参加者が「分析する」,「評価する」,「創造する」という高 いレベルの思考に従事するように配慮した
(Anderson et al.
,2001)
。アウトプット(
+)
の 調査参加者はこのような課題に積極的に取り組んでいた。彼等の英語力を考慮すればかなり 難易度が高かったはずである。高いレベルの思考を求めるアウトプット活動に従事すること が学習者の中間言語の発達にどのような影響を与えるのかについては稿を改めて扱う。本稿では,
15
回の授業が終わった時点で実施したアンケート結果を根拠としてアウトプッ ト(
+)
とアウトプット(
-)
の比較を行った。意味重視のアウトプット活動がTEE
に対す る肯定的な態度の育成に貢献することを示すことができたが,さらなる調査が必要である。意味重視のアウトプット活動を行うことによって
TEE
に対する肯定的な態度が育まれたと いう解釈と同時に,TEE
に対して肯定的であった学習者が発表を重視したクラスを受講した という解釈も可能だからである。授業開始時と終了時の2
時点でデータを収集して,調査参 加者の変化を明らかにする研究が必要である。また教授言語に対する好みに影響を与える要 因は他にもあると考えられる。今後の課題としたい。謝辞
本研究は
JSPS
科研費26284080
および平成28
年度山口学芸大学学長裁量経費の助成を受けたものである。
注)
1) SPIL
の前半部分にアンケート回答者に現在の自分の英語力を申告させる項目がある。こ れに従って調査参加者の英語力を判断した。2)
アウトプット(
+)
とアウトプット(
-)
間で調査参加者の数が大きく異なるため,数値 同士をグラフ上で比較するという方法は避けた。各回答を選んだ参加者の数を割合に変 換し,それをグラフ上で比較している。他の質問項目についても同様の処理をしている。3)
調査参加者は番号で表記してある。O+(10)
はアウトプット(
+)
の10
番目の調査参加者という意味である。
4)
授業担当の英語母語話者教員を指している。5)
表1
における「発表を重視したクラス」のことを指している。引用文献
Anderson, L., Krathwohl, D., Airasian, P., Cruikshank, K., Mayer, R., Pintrich, P., Raths, J., & Witlrock, M. (2001) A taxonomy for learning, teaching, and assessing: A revision of Bloom’s taxonomy of educational objectives. London, UK: Longman.
Carson, E. (2015). Introducing a new scale: Student preferences for instructional language (SPIL). JACET Chugoku-Shikoku Chapter Research Bulletin , 12 , 19-36.
Krashen, S. (1982). Principles and practice in second language acquisition . Oxford, UK:
Pergamon Press.
Long, M. (1990). Maturational constraints on language development. Studies in Second Language Acquisition , 12 , 251-285.
Swain, M. (2000). French immersion research in Canada: Recent contributions to SLA and applied linguistics. Annual Review of Applied Linguistics , 20 , 199-212.
Warrington, S. (2008). Concerns with content-based instruction (CBI) in Asian EFL contexts. The Buckingham Journal of Language and Linguistics , Vol. 1 , 129-141.
岩中貴裕,ウィリーイアン,岩井千秋,岩井千秋,高垣俊之,小西廣司,カワモトジュリア,
カーソンエレノア
(2015).
「日本人大学生の教授言語に対する好みと期待-外国語とし ての英語の授業におけるL1
使用に対する態度」『香川大学教育研究』第12
号,117-128.
岩中貴裕
,
岩井千秋(2016).
「日本人大学生英語学習者の教授言語に対する好みと期待-半構造化面接による定性データに基づいて-」『全国英語教育学会第
42
回埼玉研究大会発 表予稿集』126-127.
卯城祐司
(2014)
『英語で教える英文法-場面で導入,活動で理解』東京:研究社.
補遺:半構造化面接の質問項目
(1)
海外に行ったことがありますか。ある場合:いつ,どこに,どれくらいの期間,どのような目的で行きましたか。
(2)
大学の英語の授業は楽しいですか楽しい場合:どういうところが楽しいのですか。
楽しくない場合:なぜ楽しくないのですか。