ミクロ相分離構造を有する高分子材料の物理性発現機構Physical mechanism of polymer materials with microphase-separated structure
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(2) HPCI Research Report 1. 研究の背景と目的 熱可塑性エラストマー(Thermoplastic Elastomer: TPE)は、両端が樹脂で中央がエラストマーの トリブロック・コポリマーである。相分離構造を形成し樹脂相を物理架橋点としたエラストマー として機能する。しかし実 TPE 材料の相分離構造は複雑で物性発現機構も全て理解できていない。 前課題(hp130056)で実 TPE である SIS 材料の相分離構造を高分子の SCF 法と粗視化分子動力 学法を連携しビーズ・スプリング(BS)高分子モデルを発生した。本課題では BS モデルの引張 シミュレーションを行い、応力発生メカニズムを調べた。 2. 計算モデル 2.1 熱可塑性エラストマーのモデル 既に理想的な ABA 熱可塑性エラストマーの報告はなされている[1]。本課題に利用した材料の モデルは、実在の熱可塑性エラストマーSIS(QuintacⓇ)である。この材料は、TEM 観察と SPring-8 における小角・超小角 X 線散乱による構造解析から、メソスケールにおいて、対称 SIS のミクロ 相分離構造を有する海相に S’を主とする島相を形成する相分離構造を形成していることがわか っている[2]。 2.2 高分子の SCF 計算による相分離構造 SIS の相分離構造を高分子の SCF 法を利用するコード OCTA/SUSHI にて計算した[3,4]。計算は 初期揺らぎから最安定構造を求める静的な SCF 計算を用いた。本課題では、SUSHI が HDF5 フ ォーマットでセグメント密度場を出力できるよう改良し、AVS で等値面出力を可能とした。計算 により得られた S 相の 3 次元等値面を図1に示す。 2.3 粗視化分子動力学計算 上節で説明した SCF 法で得られた SIS の相分離構造に対して NDBMC(Node Density Biased Monte Carlo)法を適応し図2に示す粗視化 MD 用の BS モデルを生成した。. 図1 SCF 計算による SIS の相分離構造. 図2 NDBMC 法で発生した SIS の BS モデル. HDF5/AVS 出力(赤:S, 青:I). (青:S, 緑:I) 45.
(3) HPCI Research Report BS モデルは Kremer-Grest モデルとした[5,6]。このモデルは、第(1)式に示す LJ 粒子間ポテンシ ャルと第(2)式に示す FENE ボンドポテンシャルからなる。 12 6 6 12 ij ij ij ij U ( r ){r rij ,cut } 4 ij r r r r ij ,cut ij ,cut LJ ij. 2 1 2 r U (r ){r R0} kR0 ln 1 2 R0 ch. (1). (2). ここで、 rij ,cut はカットオフ長である。 ij 1 、 ij 1 とし(ε、σ はそれぞれエネルギー と長さの無次元単位)、表1のカットオフ長とした[1]。FENE ボンドポテンシャルにおいては k 30.0 / 2 、 R0 1.5 とした。また、温度kBT=0.4ε、密度 ρ=0.85、時間ステップ dt=0.01τ(τ は時間の無次元単位)とした。利用したポテンシャル・パラメータを表1に示す。 表1 Cutoff distances of the Lenard-Jones interaction parameter of SIS [1] Pair of beads. Cut off distance [σ]. S-S. 2.5. S-I. 1.5 1/6. I-I. 2 ≒1.122. 3. 並列計算の方法と効果(性能) 3.1 SUSHI の改良(RIST による支援) SUSHI については、前課題にて C++のポインター” * ”を利用した演算の記述は”[ ]”を利用した 表記にしなければコンパイラーの最適化がかからないことが判明していた。本課題にてこの点を 変更したところ、5123 メッシュを利用した SCF 計算においては、約 9%速度が向上した。. 3.2 Node Density Biased Monte Carlo(NDBMC)法の並列化 NDBMC 法は SCF 法で計算した粗視化 MD 用の個々のビーズの密度に対してモンテカルロ法 を実行し、ビーズの座標を決定してゆく方法である[1]。粗視化 MD のみで相分離構造を発生する のは非常に長い計算時間を要するので現実的に無理であり、NDBMC 法が有効な方法となる。し かし、これまでのコードは NDBMC 法が並列化されておらず、本課題のために Flat MPI を利用し て並列化した。この並列化方法は、並列化用に領域分割した各小領域において個々のプロセスが NDBMC を行うが、 鎖が小領域を跨いで存在するので小領域の境界にビーズ用の糊代領域を設け、 糊代領域に存在するビーズ情報を隣接する小領域を担当するプロセス間で共有する方法である。 3.3 LAMMPS の並列化(RIST による支援) LAMMPS 実行については、コンパイルとコンパイル実行後のテストにおいて、RIST からの多 大な支援を受けた。. 46.
(4) HPCI Research Report 4. 研究成果 4.1 散乱関数 SCF で計算した相分離構造が実際の試料の相分離構造に合致しているか調べるため、計算した 構造における S セグメント密度の散乱関数と、SPring-8 にて測定した小角 X 線散乱関数を比較し た。比較した結果を図3に示す。まず、実試料からの散乱であるが、SIS と SIS’の構造を変化さ せた 3 つの試料全てにおいて、2 つのピークが存在する。これらの試料はスチレン量を 48w%と 固定し S’の鎖長を変化させたものであるが詳細なレシピは公開できない[2]。第 1 ピークは S’鎖 の長さによりピーク位置が変化することから、SIS’のマクロ相分離構造によるものと予想され、 第 2 ピークはその影響をあまり受けないことから、大きく構造を変化させていない SIS のミクロ 相分離構造に由来するものであると予測した。図3の中に赤い細線で示すのがシミュレーション による散乱関数であり、これらの 2 つのピークの出現を良くとらえており、想定した 2 つの試料 (青、赤)からのプロファイルに良い一致を示している。さらに、各 S 成分に分割した図4に示 す散乱関数からも、第 1 ピークは明らかに S’ドメインからの散乱であり、第 2 ピークは SIS や SIS’の S 鎖からの散乱と第 1 ピークの 2 次散乱が合わさったものであることがわかった。このよ うに実験では判別の難しいブロック鎖間の散乱を大規模シミュレーションからの散乱関数によ り判別することができた。. 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0. 図3 小角 X 線散乱実験と計算からの散乱関数の比較. 図4 計算の散乱関数の分離結果. 実験は SPring-8 を利用、赤い細線が SCF 計算結果. 各 S ブロック鎖毎に分離、計算は無次元化 しているので、各軸の単位は arbitral なもの. 4.2 熱可塑性エラストマーの BS モデルの引張シミュレーション LAMMPS を利用して Flat MPI 4096 コア並列により引張シミュレーションを行ない応力歪曲線 (S-S カーブ)を得た。まず、応力に対する引張速度 v の影響を調べると図5となった。引張速 度が速いと応力は増大する。応力が安定する遅い速度が望ましいが、CPU 時間の制約上 v は 0.1 と 0.02[σ/τ]を選択した。これらの条件で引張・引き戻しシミュレーションを行った結果を図6に 示す。応力は 100%延伸まで急に増大し、その後の増加量は低減し、ほぼ直線状の増加を示した。 47.
(5) HPCI Research Report 引き戻しにおいて、応力は急に低下し、0%まで引き戻す間に応力は負の値を示した。実材料の SIS ではヒステリシス・ロスは小さく、復元性に富む材料となっており、このシミュレーション 結果は、実験的に作成したキャスト・フィルム(マクロ相分離後期の構造を有する材料)の応力 歪曲線に近いものであった。. 図6 S-S 曲線(ヒステリシス曲線). 図5 応力の引張速度依存性. 引張速度は上が 0.1 と下が 0.02[σ/τ]. 4.3 構造解析 応力に対するボンド(ビーズ間ベクトル)の配向を調べるため、ボンドベクトルの応力方向に 対する規格化立体角内密度 D(θ)を調べた。これは、配向方向とボンベクトルのなす角度を θ とし θ の周り±Δθ/2 内の立体角内に存在するボンド数密度を平均立体角内密度 n/2π(傾きを見るので 立体角範囲は 0~2π)で規格した値である。ここで、n は対象とする構造の全ボンド数である。Δθ は 0.005π とした。図7に示すのが v=0.1[σ/τ]、歪 200%における、各高分子鎖ブロックの D(θ)であ る。b_all が全ボンドベクトル、b_SIS と b_SIS’が各鎖種毎、対称 SIS のブロック中のボンドをそ れぞれ b_S(対称なのでひとつ) 、b_I、非対称 SIS’のブロック中のボンドをそれぞれ、b_S”、b_I’、 b_S’として示した。b_SIS と b_I、また、b_SIS’と b_I’はほぼ一致している。全体として b_all は、 θ=0、つまり完全に配向方向に向いたボンドの密度が最も高く、配向方向に対して垂直である θ=π/2 でのボンドの密度が最低となっており、応力方向にボンドベクトルが配向するという想定 される結果となった。高分子種毎にその特徴をみると、b_SIS’が b_SIS より配向している。各鎖 種内ではゴム成分である b_I と b_I’がより配向している。次に、図8に示すのが図7から歪 100% にまで引き戻した場合の D(θ)である。延伸時と異なり逆配向となり、押しつぶされた状況にあり、 引き戻しにおける大きなヒステリシス・ロス発生の原因がここにあることがわかった。次に、ボ ンド伸長が応力に与える影響を調べるために、v=0.02[σ/τ]、歪 200%におけるボンド長分布を調べ ると図9となった。各鎖種とブロック種による差異を認めるのは難しいが、SIS 鎖の I 鎖の伸び が最も大きかった。. 48.
(6) HPCI Research Report. 図7 規格化立体角内密度 D(θ). 図8 規格化立体角内密度 D(θ). 歪 200%、引張速度 0.1[σ/τ]. 図7から歪 100%への引き戻し後 引張速度 0.1[σ/τ]. 200%伸長において、SIS’鎖の配向が SIS より大きいことから、長い S’鎖による大きな S ドメイ ンを形成する SIS’鎖が応力により変形を多く受け、脆性的な変形を主に受けているといえる。こ の混合 SIS は構造材料としても優れており、この結果から、構造材料として機能発現の要因が非 対称 SIS’によるものであることが推定できる。また、ボンド伸長では対称 SIS の I 鎖がわずかに 長いことから、主にゴム弾性を発生させているのは対称 SIS であると予想される。よって、SIS’ が構造材、SIS がゴム弾性を発揮してそれぞれの役割を果たし、全体として優れた材料特性を発 揮していることが解明できたといえよう。. 図9 ボンド長分布 歪 200%、引張速度 0.02[σ/τ] 鎖長はより長く、かつ引張速度はより遅い方が精度のよいシミュレーションとしては望ましい。 しかるに、両パラメータは CPU 時間の制約上現実的に利用できるものを選択している。しかし、 本課題の大規模モデルによる結果は、異方性を排除し、相分離している実材料の S-S カーブを定 性的ではあるが精度よく計算したものといえる。何故なら、表示した応力値はバッチ・アベレー ジではない瞬間値であり、かつ X, Z 方向への異方性がほとんど無いことを確認している。. 49.
(7) HPCI Research Report 5. まとめと今後の課題 高分子のSCF法の計算結果から粗視化MD用BSモデルを作成するNDBMCの計算を並列化し、 実在熱可塑性エラストマーSIS の初期構造作成から粗視化 MD による引張計算を「京」上で 4096 コアを用いて大規模並列計算できることを実証することができた。大規模計算によりシミュレー ション結果の変動が小さく、明確な結果が得られたといえ、 「京」利用によるメリットは大きい と結論できる。しかるに、より高速な演算が可能であれば引張速度を低下させ、さらに計算精度 を向上することができるといえる。今後より高速なスーパー・コンピュータの出現を望むところ である。. 参考文献 [1] T. Aoyagi, T. Honda, M. Doi, J. Chem. Phys. 117, 8153 (2002). [2] 高柳篤史、仲摩雄季、前田太志、小田亮二、橋本貞治、本田隆、高分子論文集 72, 104 (2015). [3] T. Honda and T. Kawakatsu "Computer simulations of nano-scale phenomena based on the dynamic density functional theories: Applications of SUSHI in the OCTA system" in "Nanostructured Soft Matter", A. V. Zvelindovsky, ed., (Springer-Verlag, Berlin, 2007) 461-493. [4] 新化学技術推進協会、 高分子材料シミュレーション OCTA 活用事例集 化学工業日報社 (2014), http://octa.jp (2015). [5] 本田隆、腰山雅巳、高野宏、大宮学、森田裕史、萩田克美、平成 24 年度地球シミュレータ 産業戦略利用プログラム利用成果報告書 91 (2013). [6] K. Kremer, G. S. Grest, J. Chem. Phys. 92, 5057 (1990).. 50.
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