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木製品の樹種同定と年代測定 : 常三島遺跡第19・20次調査出土木製品の樹種

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Academic year: 2021

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第 4 章 木製品の樹種同定と年代測定 201

第 4 章 木製品の樹種同定と年代測定

第 1 節 常三島遺跡第 19・20 次調査出土木製品の樹種

       中原計(鳥取大学地域学部)

1.試料内容

 今回樹種同定を行った試料は、常三島遺跡第 19 次調査(地域連携プラザ地点)出土の杭 3 点と同 遺跡第 20 次調査(フロンティア研究センター地点)出土の下駄 1 点、桶側板 2 点である。所属時期 はいずれも 17 世紀代の可能性が高い(本章第 2・3 節)。

2.同定方法

 剃刀(フェザー S 青函両刃、青函片刃)を用いて、木口面(横断面)・柾目面(放射断面)・板目面(接 線断面)の 3 断面の切片を徒手により作成し、ガムクロラール(抱水クロラール、アラビアゴム粉末、 グリセリン、蒸留水の混合液)で封入し、プレパラートを作成した。作成したプレパラートを光学顕 微鏡(ニコン ECLIPSE-E200)で観察し、同定した。

3.同定結果と考察

 杭は 3 点ともツガ、下駄はヒノキ、桶は 2 点ともスギであった(第 27 表・第 158・159 図)。以下 に各種の解剖学的特徴を記す。 ツガ (Abies マツ科) 垂直・水平のいずれの樹脂道をも持たない針葉樹材。早材から晩材への移行は急で年輪幅は一般的 に狭い。放射組織は放射仮道管と放射柔細胞からなる。放射柔細胞の壁は厚く、じゅず状末端壁を有 する。分野壁孔はスギ型で 1 分野に 2 ~ 4 個存在する。放射組織は単列で、2 ~ 20 細胞高である。 スギ(Cryptomeria japonica D.Don ヒノキ科スギ亜科)

垂直・水平のいずれの樹脂道をも持たない針葉樹材。早材から晩材への移行はやや急で、晩材の幅 が比較的広く、年輪界は明瞭である。樹脂細胞が晩材部に接線状に散在している。放射組織はすべて 放射柔細胞からできており、分野壁孔はスギ型で 1 分野に 2 個存在する。放射組織は単列で多くは 10 細胞高以下である。

ヒノキ(Chamaecyparis obtusa Sieb.et Zucc ヒノキ科)

垂直・水平のいずれの樹脂道をも持たない針葉樹材。早材から晩材への移行は緩やかで、晩材部の 幅はきわめて狭い。樹脂細胞が晩材部に接線状に散在している。放射組織はすべて放射柔細胞からで きており、分野壁孔はヒノキ型で 1 分野に 2 個存在する。放射組織は単列で、1 ~ 15 細胞高である。

(2)

202 近世の杭の用材は、マツ属を中心に、比較的重硬で油分が多く水湿に強い樹種が使われる傾向にあ る。常三島遺跡のものはツガであったが、ツガ属も重硬な材であり、江戸時代には比較的利用の多い 樹種である。 近世の下駄の用材は、西日本での集成を行い、傾向をまとめた研究(本村・高橋 2009)によると、 針葉樹ではヒノキ・ヒノキ科、スギなど、広葉樹ではクリ、モクレン属、ケヤキなどが利用されてい る。針葉樹のほうが多く使われており、その中でもヒノキが最もよく利用されている。徳島城下町では、 スギの出土例が多いが、次いでヒノキ・ヒノキ科が使われており、傾向に当てはまっているといえる 桶は、上水利用のための施設とみられる SX402(石組み遺構)の下部で検出されたものである。東 京都汐留遺跡では、上水施設を構成する井戸枠には主にヒノキ属が使われ、時期が新しくなるにつれ て、スギなどを使うようになっていることが明らかにされている。このことからヒノキ属ができるだ け使われ、ヒノキの不足により、スギやマツ属が代用された可能性が指摘されている(吉川・吉田 1996)。また上水施設には、マツ属は松脂の問題から使用部位をある程度限定して利用していたこと も明らかにされている。徳島城下町遺跡では、上水施設の調査事例はあまり多くないため、傾向は明 らかではない。ただ、本事例では、スギが用いられていることから、生活用水利用のための施設とし ての用材選択と考えられる。

参考文献

島地謙・伊東隆夫 1996『図説木材組織』地球社 本村充保・高橋敦 2009「遺跡出土下駄に関する製作技法および使用樹種に関する基礎的研究-西日本出土資料を中心 として-」『橿原考古学研究所紀要 考古学論攷』第 32 冊 吉川洋子・吉田敏久 1996「汐留遺跡における上水施設」『汐留遺跡』第 3 分冊 汐留地区遺跡調査会 第 27 表 常三島遺跡第 19・20 次調査出土木製品一覧 No. 製品名 樹種 調査次数(地点名) 出土遺構 時期 遺物番号 1 杭 ツガ(マツ科) 19(地域連携プラザ) SD1 17世紀 第23図1 2 杭 ツガ(マツ科) 19(地域連携プラザ) SD1 17世紀 第23図2 3 杭 ツガ(マツ科) 19(地域連携プラザ) SD1 17世紀 第23図3 4 下駄 ヒノキ(ヒノキ科) 20(フロンティア研究センター) SX402 17世紀 第75図6 5 桶 スギ(ヒノキ科スギ亜科) 20(フロンティア研究センター) SX402 17世紀 第76図1 6 桶 スギ(ヒノキ科スギ亜科) 20(フロンティア研究センター) SX402 17世紀 第80図9 第1節 常三島遺跡第 19・20 次調査出土木製品の樹種

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第 4 章 木製品の樹種同定と年代測定 203 No.1 ツガ(マツ科) 木口 ×40 柾目 ×100 板目 ×100 No.2 ツガ(マツ科) 木口 ×40 柾目 ×100 板目 ×100 No.3 ツガ(マツ科) 木口 ×40 柾目 ×100 板目 ×100 第 158 図 常三島遺跡第 19 次調査出土木製品の顕微鏡写真

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204 第 159 図 常三島遺跡第 20 次調査出土木製品の顕微鏡写真 No.4 ヒノキ(ヒノキ科) 木口 ×40 柾目 ×100 板目 ×100 No.5 スギ(ヒノキ科スギ亜科) 木口 ×40 柾目 ×100 板目 ×100 No.6 スギ(ヒノキ科スギ亜科) 木口 ×40 柾目 ×100 板目 ×100 第1節 常三島遺跡第 19・20 次調査出土木製品の樹種

参照

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