博 士 ( 獣 医 学 ) 能 登 恒 寿 学 位 論 文 題 名
胃酸分泌と潰瘍再発におけるgastrin の関与 及び新規抗腫瘍薬の作用
学位論文内容の要旨
摂食時の胃酸分泌には、胃粘膜中のhistamine含有(ECL)細胞とgastnn含有細 胞からそれぞれ放出されるhistamineとgastrin、およぴ迷走神経終末から放出 されるacetylcholineの3者が関与している。このうち、gastrinの関与の程度は 長い間不明であったが、最近選択的なgastrin拮抗薬(CI−988)が開発されたこと で 、これを 検討するこ とが可能になった。また、gastrinは胃酸分泌亢進作用 以 外 にECL細胞に 対する栄 養効果を 持ち、慢 性的な高gastrin血症によ りECL 細 胞の過形 成が起こる 可能性が 報告され ている。 抗潰瘍薬のomeprazoleなど の 持続的胃 酸分泌抑制 薬を長期 間投与す ると、そ の投与終了後に胃酸分泌の 異 常亢進( 胃酸分泌リ バウンド )が起こ り、潰瘍 再発の一因となる可能性が 指 摘 されてい る。この 原因とし て高gastnn血症 に起因す るECL細胞の 過形成 等 が考えら れるがその 詳細は不 明である 。これを 明らかにするためには、胃 酸 分泌リバ ウンドの実 験系をっ くり、潰 瘍再発と の関連を検討する必要があ る 。Gastrinは胃酸 分泌抑制の程度に比例して血中に放出されるため、作用時 間 の短い胃 酸分泌抑制 薬は長い抑制薬よりも高gastrin血症を起こしにくいこ と が期待さ れ、そのた め胃酸分 泌リバウ ンドを起 こしにくい胃潰瘍治療薬と なる可能性がある。
本 研究の目的 は先ず選 択的gastrin拮抗 薬を用い て摂食時 の胃酸分 泌への gastrlnの 関与の程 度を調べ、次いで胃酸分泌抑制薬の投薬中止による胃酸分 泌 リバウン ドと胃潰瘍 再発の関 連性を検 討し、田 辺製薬(株)で開発された 作 用 持続の短 い胃酸分 泌抑制薬 であるT‑330の 胃潰瘍治 療におけ る有用性を 調べることである。
1.ウレタ ンで麻酔 したラット の胃内に 生理食塩液3mlを注入して胃壁を伸展 し 、 機 械 的 刺 激を 加 えて 胃 酸 分泌 を 引き 起 こ した 。 この 分 泌 は選 択 的 gastrin拮抗薬(CIー988)で影響を受けず、血中gastrin濃度も変化しなかった が、両側 迷走神経 切断(vagotomy)により 消失した。これらのことから、こ の分泌は 迷走―迷 走神経反射 によって 引き起こされたこと、gastnnの関与 はないことが示唆された。
2.次に、 麻酔ラッ トの胃内にpeptone溶液3mlを注入し、胃壁の機械的ならび に化学受 容器を刺 激して胃酸 分泌を惹 起させた。この分泌は血中gastnnレ
ベル の上 昇を 伴い 、CI‑988で約50%抑制された。このことから、peptoneは gastrinを 放 出 さ せ 、 こ れ が 胃 酸 分 泌 に 関 与 する こ と が 示 唆 さ れ た 。 3. vagotomyはpeptoneによる胃酸分泌を消失させたが、血中gastrinレベルの上 昇には影響を与えなかった。このことから、peptoneによる胃酸分泌もまた 迷走 ―迷 走神 経反 射によって引き起こされたものであること、さらに迷走 ―迷走神経反射による胃酸分泌はgastrin分泌よりも下流で起こると考えら れた。
4.ラットにomeprazole(150mg/kg/day)を4週間経口連続投与すると高gastrin血症 が発 現し た。 投与 終了4日目に血中gastrln濃度は通常レベルに戻ったが、
胃 酸 分 泌 は 有 意 に 亢 進 し て い た ( リ バ ウ ン ド ) 。 そ の 時の 胃 粘膜 中の histamine含 量は 有意に増加しており、ECL細胞の過形成が起こっていると 推察された。
5. omeprazole連続投与により作成した胃酸分泌リバウンドモデルラットでは acetylsalicylic acid潰瘍モデルが有意に増悪し、一方、塩酸投与による胃粘 膜障害は抑制された。
6.T−330はラ ット 胃粘膜膜小胞のH+/K+−ATPase活性を濃度依存性に抑制し た。 そのICso値は75 pMであづた。またラット十ニ指腸内にTー330 (0.6〜 10mg/kg)を投 与し たと ころ 胃酸 分泌 とH+/K+ーATPase活性は用量依存性に 抑制され、そのカ価はomeprazoleより約4倍強かった。
7. T‑330(10mg/kg,id)およびomeprazole (40mg/kg,id)による胃酸分泌抑制と ォ/ぐ―ATPase活性阻害の持続時間を比較したところ、T‑330の場合は両作 用 とも24時 間後 には 消失 した が、omeprazoleの 作用 はまだ 残っ てい た。
T‑330およびomeprazoleを3,10および30mg瓜g/dayの用量でラットに3カ月間 連続 経口 投与 した ところ、omeprazoleは10mg瓜g/day以上で血中gasmn濃度 を上昇させたのに対して、T一330の場合は30mg爪g/dayになって初めてこの 効果がみられた。
以 上、 本研 究で 得ら れた 成績か ら、1)gastrmは摂食時の胃酸分泌の一部 に関 与す るこ と、2)咼gastrm血 症に 起因する胃酸リバウンドが胃潰瘍再発 の一因となりうること、3)作用持続の短い胃酸分泌抑制薬T−330が高gastrin 血 症 を 起 こ し にく い 胃 潰 瘍 治 療 薬 に な り う る こ と が 明 らカ ゝとな った 。
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 助教授
中 里 幸 和 斉 藤 昌 之 葉 原 芳 昭 伊 藤 茂 男
学 位 論 文 題 名
胃酸分泌と潰瘍再発における gastrin の関与 及び新規抗腫 瘍薬の作用
本 研 究 は 、 選 択 的 なgastrin拮 抗 薬 を 用 い て 摂 食 時 の 胃 酸 分 泌 へ のgastrinの 関 与 の 程 度 を 調 ベ 、 次 い で 胃 酸 分 泌 抑 制 薬 の投 薬 中 止に よ る 胃酸 分 泌 リパ ウ ン ド と胃 潰 瘍 再発 の 関 連 性 を 検 討 し 、 作 用 持 続 の 短 い 胃 酸 分 泌 抑 制 薬 、T丶1330の 胃 潰 瘍 治療 に お ける 有 用 性を 調 べ る こ と を 目 的 と し て 行 わ れ た 。
1. ウ レ タ ン で 麻 酔 し た ラ ッ ト の 胃 壁 伸 展 に よ る 胃 酸 分 泌 は 、 選 択 的gastrin拮 抗 薬 (CI‑988)の 影 響 を 受 け ず 、 血 中gastrin濃 度 も 変 化 し な か っ た が 、 両 側 迷 走 神 経 切 断 (vagotomy)で 消 失 し た 。
2. 麻 酔 ラ ッ ト のpeptoneに よ る 機 械 的 ・ 化 学 的 刺 激 は 、 胃 酸 分 泌 を 引 き 起 こ し 、 血 中 gastrinレ ベ ル の 上 昇 を 伴 い 、Cト988に よ っ て 約50% 抑 制 さ れ た 。Vagotomy後 胃 酸 分 泌 は 消 失 し た が 、gastrinレ ベ ル の 上 昇 は 変 わ ら な か っ た 。
3. ラ ッ ト にomeprazole(150mg/kg/day)を4週 間 経 口 連 続 投 与 す る と 高gastrin血 症 が 発 現 し た 。 投 与 終 了4日 目 に 血 中gastrin濃 度 は 通 常 レ ベ ル に 戻 っ た が 、 胃 酸 分 泌 は 亢 進 し て い た ( リ パ ウ ン ド ) 。 そ の 時 胃 粘 膜 中 のhistamine含 量は 有 意 に増 加 し てい た 。 リ バ ウ ンド モ デ ル ラッ ト で は、acetylsalicylicacid潰瘍 モ デ ルが 増 悪 し、 一 方 塩酸 投 与 に よ る 胃 粘 膜 障 害 は 抑 制 さ れ た 。
4.T一330は ラ ッ ト 胃 ミ ク ロ ソ ー ム のH十/K十 ―ATPase活 性 を 濃 度 依 存 性 に 抑 制 し た 。 ま た ラ ッ ト 十 二 指 腸 内 へ のTー330投 与 は 、 胃 酸 分 泌 とH゛/K゛ −ATPase活 性 を 用 量 依 存 性 に 抑 制 し 、 そ の カ 価 はomepraZ01eの 約4倍 強 か っ た 。
5.Tー330(lomg/kg) に よ る 胃 酸 分 泌 抑 制 とH゛/K゛ イ 汀Pase活 性 阻 害 は24時 間 後 に は 消 失 し た が 、omepraZ01e(40mg/kg) の 作 用 は ま だ 持 続 し て い た 。3力 月 間 連 続 経 口 投 与 で は 、omepraZ01eは10mg/kg/day以 上 で 血 中gastrin濃 度 を 上 昇 さ せ た が 、 ′ 卜330 の 場 合30mg/kg/dayで 初 め て こ の 効 果 が 現 れ た 。
以上、本論文では、1)gastrinは摂食時の胃酸分泌に関与すること、2)高gastrin血 症に起因する胃酸リバウンドが胃潰瘍再発の一因となりうること、3)作用持続の短い胃 酸分泌抑制薬T―330が、高gastrin血症を起こしにくい胃潰瘍治療薬になりうること、
を明らかにした。これらの成果は、胃潰瘍の薬物治療に関して新知見を提供するものであ る。よって、審査員一同は、能登恒寿氏が博士(獣医学)の学位を受ける資格が十分ある と認めた。