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シェーグレン症候群の

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 歯 学 ) 中 川 靖 子

学 位 論 文 題 名

シェーグレン症候群の B 細胞における 転写因子E2A ‑Id3 の発現異常

学位論文内容の要旨

【背景】 シェー グレン症 候群(以下SS)は、外分泌腺に対する自己免疫反応により腺組織 の破壊と機能障害により生じる眼・口腔などの乾燥症状を主症状とし、同時に抗SS‑A‑ SS‑B 抗体など の自己 抗体産生 や高ガ ンマグロ ブリン 血症が認められる自己免疫疾患である。

  SSの唾液腺病変部では、導管上皮細胞の増生・化生と上皮細胞聞へのりンパ球の浸潤が 認められ る。初 期の浸潤 細胞はCD4陽性T細胞 が中心 で、浸潤 巣が大 きくなる とB細 胞が 浸潤・増殖して濾胞様構造となる。リンパ濾胞の形成に伴ってりンパ球が増殖し、濾胞周 辺の辺縁 帯にり ンパ球層 が形成され、悪性リンパ腫、特にB細胞リンパ腫に進展すると考 えられている。

  また、導管上皮と腺房細胞、浸潤リンパ球の一部にアポトーシスに陥った細胞が認めら れ 、 腺 破 壊 に ア ポ ト ー シ ス を 介 し た 細 胞 障 害 の 関 与 が 示 唆 さ れ て い る 。   SSの血液検査所見の特徴には、血沈亢進、高ガンマグロブリン血症や抗核抗体、抗SS‑A. SS‑B抗体、 リウマト イド因 子などの多彩な自己抗体の産生が認められる。また、末梢血B 細胞では、過剰な活性化、メモリーB細胞の減少および形質細胞への過剰分化が認められて いる。

  B細胞の異常活性化と形質細胞への過剰分化の原因についてはいくっかの知見があり、活 性化T細胞か らのCD40L‑CD40を 介した活 性化や 、B細 胞におけ るBcl‑2などの過 剰発現、

最近ではBAFF/BL|ysなどの関与も示唆されている。これらの知見より、B細胞の分化異常 がSSの病態に影響していることが示唆される。

  B細 胞の 分 化 に関 与 す る 転写 因 子 にはPU.1、EBF、Pax.5、E2Aなど がある 。E2Aは helix.loop.hehx(HLH)型転写因子で、活性化B細胞をメモリーB細胞や形質細胞に分化 させる役割を担っている。

  Id3は、核内蛋白で細胞の分化、細胞周期のコントロール、アポトーシスに重要な役割を 果たして いるId( 血hibitDrofDNAbinding)蛋白 のひとっであり、E2Aと結合するー方で 塩基 性 領 域を 欠 く ため にDNAと 結 合 でき な ぃ 。こ れ に よりId3はE蛋 白のDNA結合を阻 害 し て 、 E2Aに よ る り ン パ 球 分 化 を 抑 制 す る 役 割 を 果 た し て い る 。   最近Id3欠損マウスにおいて、涙腺および唾液腺組織にりンパ球浸潤が認められること、

血清中に 抗SS‐Aおよび 抗SS―B抗体が検出されること、Id3欠損マウス由来の骨髄細胞、

T細胞を同系の放射線照射したマウスに移植するとSS様の病態が誘導されることが示され、

SSの 病 態モ デ ル と考 え ら れ た。 そ こ で、E2Aお よ びE2Aの機能 を阻害す る核蛋 白Id3に

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着目し、SS患者の末梢血におけるId3およびE2Aの発現の検討を行った。

  【 方 法 】SS患 者34人 ( 男 性4人 、 女 性30人 ; 平 均 年 齢54.7歳 ) の 末 梢 血 よ りCD19 陽 性B細 胞 を 分 離 し 、E2Aお よ びId3 mRNAの 発 現 量 を 半 定 量real.timePCRに て 調 ベ 、 健 常 人 ( 男 性7人 、 女 性28人 ; 平 均 年 齢44.9歳 )と 比 較 し た。 ま た 、 対照 疾 患 と して 関 節 リ ウ マ チ ( 以 下RA)9名 ( 男 性2名 、 女 性7名 ; 平 均 年 齢60.4歳 ) 全 身 性 エ リ テ マ ト ー デ ス ( 以 下SLE)9名 ( 男 性2名 、 女 性7名 ; 平 均 年 齢37.8歳 ) にお い て も 同様 の 検 討 を行った。

  【 結 果】SS群 は健 常 群 と 比較し 、Id3の中 央値( 範囲) は健常 群1.78(0.26〜6.80)、

SS群O.63(0.06〜3.97)で 有意に低 値を示 した(p 0.0002)。対 照疾患群ではSLEが中央 値(範囲)O.62(0.17〜1.20)で健常群に対して有意に低値を示した(p二二ニO.0005)。一方、

E2Aの中央 値(範 囲)は 健常群0.73(0.13〜2.23) 、SS群0.76(0.n〜3.58)で有意差は 見られなかった。

  SS群 全34例 中 、 乾 燥 を 主 症 状 と す る1次 性SSが18名 、 関 連 疾 患 の 合 併 が み ら れ た2 次 性 SSが16名 で あ っ た 。 合 併 疾 患 の 内 訳 はRAが7例 、SLEが5例 、RAと SLE両 方 が 4例 だ っ た 。 こ の 分 類 に 基 づ ぃ て 、 各 群 のId3mRNAの 相 対 的 発 現 量 を 比 較 した が 、1次 性 SS群 と2次 性 SS群 と の 間 に お い て 、Id3発 現 量 に 有 意 差iま 認 め ら れ な か っ た 。   臨 床 症 状 に お い て は 、 血 沈 と 唾 液 腺 造 影 所 見 でId3mRNA発 現 と の 相 関 が 見 ら れ た 。

【 考 察 】SS患 者 由 来B細 胞 に お い てB細 胞 分 化 を 阻 害 す る 核 内 蛋 白 を コ ー ド す るId3 遺伝 子 の 発 現を 検 討 し たと こ ろ 、 健常 群 と 比 較し 有 意 に 低下 し て い た。 こ れに より、SS患 者 に お い てId3のE2A抑 制 作 用 が 減 弱 し てB細 胞 の 分 化 が 促 進 さ れ 、 メ モ リ ーB細 胞 の 減 少、B細胞の活性化および形質細胞の過剰分化を生じると考えられた。

  ま た 、Id3発 現 量と 唾 液 腺 造影 所 見 と の間 に 、 逆 相関 が 認 め られ 、Id3発 現低 下 に よ るB 細胞分化異常が唾液腺炎や腺破壊に関与する可能性が示唆された。

  対 照 疾 患 群 に お い て は 、SI亅E群 に お い てId3発 現 の 低下 が 見 ら れた が 、RA群 で は 有 意 差 は み ら れ な か っ た 。SLEはSSと 同 様 にB細 胞 の 分 化 亢 進 が み ら れ る 疾 患 で あ り 、 自 己 免 疫 疾 患 に お け るB細 胞 の 分 化 異 常 に 共通 し た 機 序と し て 、Id3の 発 現 異 常が 存 在 す る可 能性が考えられた。

  末 梢 に お い て 、B細 胞 は 濾 胞 に 局 在 す る 濾 胞B細 胞と 辺 縁 帯 に限 局 し て 存在 す る 辺 縁帯 B細 胞 に 分 か れ る 。Id3とE2Aの バ ラ ン ス がE2A優 位 に な っ て い る 場 合 は 濾 胞B細 胞 へ 、 Id3優 位 に な っ て い る 場 合 は 辺 縁 帯B細 胞へ の 分 化 が促 進 さ れ る。 し た が って 、SS群で の Id3発 現 の 低 下 は 濾 胞B細 胞 増 殖 を 促 進 し、 抗 体 産 生細 胞 へ の 分化 お よ ぴ 胚中 心 の 形 成を 促進すると考えられる。

  今 回 の 研 究 で 、我 カ は 初 めて ヒ ト のSSで もId3発現 の 低 下 を認 め た 。 何ら か の 原 因に よ っ てId3の 発 現 が 低 下 しE2AとId3の バ ラ ン ス が 破 綻 す る と 、B細 胞 分 化 の 異 常 促 進 お よ びク ラ ス ス イッ チ の 進 行、 形 質 細 胞の 増 加 が 生じ 唾 液 腺 炎の 慢 性 化 をき た して いると 考え ら れ る 。E2A.Id3を 制 御 す る 機 構 は い ま だ 不 明 であ る が 、E2A.Id3の 発 現バ ラ ン ス の制 御は新たなSSの治療法になる可能性がある。

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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主査   教授   井上農夫男 副査   教授   北川善政 副査   教授   進藤正信

副査   教授   小池隆夫(医学研究科)

学 位 論 文 題 名

シ ェ ー グ レ ン 症 候 群 の B 細 胞 に お け る 転 写 因 子 E2A ‑Id3 の 発 現 異 常

審 査は 、 審 査担 当 者全 員 の出席の 下に行わ れた。最 初に申請者 より提出 論文の概 要が説 明され 、その後 、申請者 に対し提 出論文と それに関連 した学科目について口頭試問が行わ れた。 以下に、 論文の要 旨と審査 の内容を 述べる。

   シ ェ ーグ レ ン症 候群(以 下 SS) は、外 分泌腺に対 する自己 免疫反応 によって 生じる腺 組

織の破 壊と機能障 害により、眼・口腔などにおこる乾燥症状を主症状とし、同時に抗SS‑A .

SS ― B 抗 体 など の自 己抗体産 生や高ガ ンマグロブ リン血症 が認めら れる自己 免疫疾患 であ

る。 SS の 唾液腺病変 部では、 導管上皮 細胞の増 生・化生 と上皮細 胞問へのりンパ球の浸潤

が 認 め ら れ る 。 初 期 の 浸 潤 細 胞 は CD4 陽 性 T 細 胞 が 中 心で 、 浸 潤巣 が 大き く な ると B 細

胞 が浸 潤 ・増 殖 して濾胞 様構造と なる。また 、末梢血 B 細胞では 、過剰な 活性化、 メモリ

ー B 細 胞 の 減 少 お よ び 形 質細 胞 への 過 剰 分化 が 認 めら れ てお り 、 B 細 胞の 分 化異 常 が SS

の 病態 に 影響 す る とさ れ てい る 。 B 細 胞の 分化 に関与す る転写因 子のーっ に E2A がある 。

E2A は helix − loop ― helix (HLH) 型転写因 子で、活 性化 B 細胞 をメモリー B 細胞や形 質細胞

に 分 化 さ せ る 役 割 を 担 っ て い る 。 ま た 、 E2A の 阻 害 蛋 白 で あ る Id3 は E 蛋 白 の DNA 結 合

を 阻害 し て、 E2A に よる り ンパ 球 分 化を 抑 制する 役割を果 たしてい る。近年 Id3 欠損マウ

ス にお い て、 涙 腺およぴ 唾液腺組 織にりンパ 球浸潤が 認められ ること、 血清中に 抗 SS − A

お よび 抗 SS‑B 抗体 が 検 出さ れ るこ と 、 Id3 欠 損マウス 由来の骨 髄細胞、 T 細胞を同 系の放

射 線照 射 した マ ウ スに 移 植す る と SS 様 の 病態 が 誘導 さ れ るこ と から 、 Id3 欠 損マウス は

SS の 病 態 モ デ ル と 考え ら れ てい る 。そ こ で 、本 研 究は Id3 と E2A に 着 目 し、 SS 患 者 の 末

梢 血 に お け る Id3 と E2A の 発 現 異 常 に っ い て 検 討 し た も の で あ る 。

  SS 患 者 の 末 梢 血 よ り CD19 陽 性 B 細 胞 を 分 離 し 、 E2A お よ び ld3 mRNA の 発 現 量 を 半定

量 real ― time PCR にて調べ、健常人と比較した。また、対照疾患として関節リウマチ(以下

RA) 全 身 性 エ リ テ マ ト ー デ ス ( 以 下 SLE) に お い て も 同 様 の 検 討 を 行 っ た 。

   そ の 結果 、 SS 群は 健常群と 比較し、 Id3 は有意に低 下してい ることを 明らかに した。一

方 、E2A に は有 意 差 は見 ら れな か っ た。 こ のこ と よ り、 SS 患者 に おい て 、 Id3 の E2A 抑制

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作用が減弱してB 細胞の分化が促進され、メモリー B 細胞の減少、B 細胞の活性化およぴ 形質細胞の過剰分化を生じると推定した。また、末梢において、Id3 とE2A のバランスが E2A 優位 になっている場合は濾胞 B 細胞ヘ、Id3 優位になっている場合は辺縁帯B 細胞へ の分化が促進される。したがって、SS 群でのId3 発現の低下は濾胞 B 細胞増殖を促進し、

抗体産生細胞への分化および胚中心の形成を促進すると考えた。対照疾患群においては、

SLE 群が健常群に対してId3 は有意に低値を示したが、RA 群では有意差はみられなかった。

SLE は SS と 同様に B 細胞の分化 亢進がみられる疾患であり、自己免疫疾患における B 細 胞の分化異常に共通した機序として、Id3 の発現異常が考えられる。臨床症状においては、

Id3 発現量と唾液腺造影Stage との問に逆相関が認められることから、 Id3 発現低下による B 細胞分化異常が唾液腺炎や腺破壊に関与すると考えた。

   本研究は、ヒ卜の SS においてId3 発現が低下していることを初めて明らかにした。また、

何らかの原因によってId3 の発現が低下しE2A と Id3 のバランスが破綻すると、B 細胞分 化の異常促進およぴクラススイッチの進行、形質細胞の増加が生じ唾液腺炎の慢性化につ ながることを示唆した。現在、 E2A とId3 とのバランスを制御する機序は明らかにされて いないが、今後、この点を解明することによりSS に対する新たな治療法を開発できると 考えている。

   論文について概要が説明された後、各審査員より、本研究の背景、方法、結果、考察お よび関連の研究について質問がなされた。論文提出者は、CDld3 の発現とSS の重症度に関 連はあるか、◎局所における Id3 の発現を調べることができるか、◎ SS における局所臓器 特性と全身性臓器非特異性をどのように考えるかなどいずれの質問に対しても明確かっ的 確 に 回 答 し 、 さ ら に 今 後 の 研 究 に つ い て も 発 展 的 な 将 来 展 望 を 示 し た 。    試問の結果、本論文はヒトの SS において Id3 発現が低下していることを明らかにした点 において新規性が高く、今後の歯科医学の発展にも大きく貢献すると評価した。さらに、

学位申請者は、本研究を中心とした専門分野はもとより、関連分野についても十分な学識 を有していることを審査員一同が認めた。

   よって、学位申請者は博士(歯学)の学位を授与される資格を有するものと認めた。

参照

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