博 士 ( 水 産 科 学 ) 徐 賢 珠
学位論文題名
Long − term fiuctuationslngrOWth , SurViVal , and populationdynamiCSOfChumSalmon ,〇刀 C 〇ダ霞ッ勿C カZ ムS カ¢勿 intheNorthPaci 丘 clinkingtoclimatechanges
( 長期的な 気候変動 とりンク したシロ ザケ〇ncorhynchz,ts皰勿の成長,
生 残および 個体群動 態に関す る研究)
学位論文内容の要旨
海 洋生 態 系は ,気候 変動やエ ル・ニー ニョなど の自然要因 と温暖化 や乱獲な どのヒュ ーマ ン ・イ ン パク トによ り常に攪 乱されて いる複雑 でダイナミ ックな不 確実性の 高いシス テム で ある 。 亜寒 帯海域 に広く分 布するサ ケ属魚類 は環北太平 洋生態系 に茄ける キースト ン種 お よび 生 態系 サービ スとして 貢献し, そのバイ オマス変動 は長期的 な気候変 化とりン クす ることが知られている(Kaeriyama 2008; Drinkwater etむ.2009)。シロザケ,ベニザケおよびカ ラ フト マ スの3種 の 環 境収 容 カは , 亜 寒帯 海域 生態系の生 産カに影 響を及ぼ す冬季ア ルー シャン 低気圧の 勢力(ALPI)とりン クして変 動する。また,サケ属魚類の密度依存効果は,バ イ オマ ス と環 境収容 カの変動 と関係す ることが 報告されて いる。し かし,環 境変動が どの よ うな メ カニ ズムに 基づきサ ケ属魚類 の生活史 パターンや 個体群動 態に影響 を及ばす のか に っい て は, 必ずし も十分明 らかでな い。本研 究では,温 暖化やレ ジームシ フトなど の長 期 的な 気 候変 動によ り変化す る海洋生 態系にシ ロザケはど のように 適応して いるかを ,鱗 形 成, 成 長お よび生 残率など の生活史 パラメー タおよび個 体群動態 の長期的 な変動か ら明 らかにすることを目的とする。
主論文 は英文で 書かれ,「GENERAL INTRODUCTION」,「気候変動とシロザケの鱗形成」,
「アジ ア系シロ ザケの鱗形 成と成長 の時空間 変化」,「気候とりンクしたシロザケの成長,
生 残 率 と 個 体 群 動態 に 関 する 長 期 的変 動 」お よ び 「GENERAL DISCUSSION」の5章 か らな ‑ 901一
る。第1章では,長期的を気候変動とサケ属魚類の資源量との関係,研究対象種であるシ ロザケの鱗形成と体成長との関係,日本系シロザケの分布と回遊ルートなどより本研究の 背景をレビューするとともに研究目的を明確にした。
第2章では,1984‑1998年に回帰した韓国産シロザケの鱗分析の結果,海洋初期生活期の 鱗形成は沿岸域の動物プランクトン.バイオマスの時系列変化と,海洋生活2年〜4年目の 鱗形成は生息域であるべーリング海の動物プランクトン・バイオマス変動とりンクするこ とを示した。本章の結果は,1988/89年レジームシフトによる海洋生態系のポトム・アップ 制御を支持する。
第3章では,鱗分析と成長バックカルキュレーション法により,1984‑1998年に北海道の 石狩川と韓国のナムダエ川ヘ回帰したシロザケの成長パターンに関する時空間変動を明ら かにした。両河川のシロザケは,(1)沿岸離脱時の体サイズに差がぬいこと,(2)夏季まで にオホーツク海ヘ回遊するが,その移動サイズはナムダエ川系(20 cmFL)の方が石狩川系(12 cmFL)より大型であること,(3)オホーツク海から最初の越冬場所である北西亜寒帯環流域 への移動期には両者の体サイズに差がみられないこと,(4)回帰親魚の体サイズは,密度依 存効果により両個体群とも1980年代以降減少傾向を示すが,その傾向はナムダエ川系より 石 狩川系シロザケの方が顕著であることが分かった。また,ANCOVA分析の結果,親魚の FLと回帰数との間には(1)負の直線関係があり,(2)メタ個体群レベルと種レベルでは等 質性が見られ,(3)個体群レベルでは異質性を示すことが分かった。この結果は,密度依存 効果が個体群レベルでは顕著に観察されるが,メタ個体群間および種内では顕著でないこ とを示唆している。
第4章では,1945―2005年に石狩川ヘ回帰したシロザケ親魚の鱗分析と成長バックカリキ ユレーションにより,シロザケの体成長と生残率に関する生活史パラメータと個体群動態 の長期的な変動を分析し,それらの変動メカニズムに関与する種々の要因,特に気候変動 指数との関係からパス・モデルを用いて生態学的解析を行った。北海道系シロザケは,越 冬期を除く海洋生活期において1年目が沿岸域とオホーツク海,2年目以降がべーリング海
に 生 息 す る (浦和2000)。 北海 道系 シロ ザケの 生残 率は ,降 海時 の体 サイ ズと ,オ ホー ツ ク 海に 茄け る体 成長 との間 にそ れぞ れ顕 著な 正の 相関 を示 した 。こ のことは,サケ属魚類 の 生 活 史 に お け る 降海 時 と 最 初 の 海 洋 越 冬 期 の2つ の ク リ テ ィ カ ル 死 亡 期(Healy1982;
Beamish etal.2004)によく対応しており,シロザケは降海時の体サイズが大型であり,オホ ー ツク 海で の成 長が よく大 型で 最初 の海 洋越 冬期 をむ かえ るほ ど生 残率が高いことを示唆 し て い る 。 石狩川 シロ ザケ4歳 魚の 成長 偏差の 長期 的変 動を みる と,1980年代 後半 以降 , オ ホー ツク 海(1年目)における成長は著しい増加傾向を示したのに対し,べーリング海(2
〜4年目)では,特に3年目の成長がその逆の傾向を示した。
これらの結果を,パス・モデルから解析した。北海道系シロザケの沿岸離脱後の生残率は,
オ ホー ツク 海で の成 長量(Gl)に 直接 依存 して おり ,Glと直 接的 な因 果関係をもっパラメー タはオホーツク海における夏―秋季の表層水温(SST。)であった。またSST。に直接影響を及ぼ す パ ス は 地 球表層 気温 の偏 差(SAT)であ り、こ れま で有 カと 考え られ てい た気 候変 動指 数
(e.g.,ALPI,PDO,AO,SI,OH)とは因果関係が認められなかった。またSATは直接的にALPI ヘ , 間 接 的 にPDOヘ影 響を 及ば すこ とも 分かっ た。 これ らの こと は,1980年代 後半 以降 , 地 球の 温暖 化(SAT)が直接SST。に影響を及ぼし,その結果が北海道系シロザケのオホーツク 海 での 成長 増加 をも たらし ,最 初の 海洋 での 越冬 期に おけ る死 亡率 の軽減に寄与し,結果 的 に生 残率(SR)を高め,個体群サイズ(PS)を増大させたことを意味する。またパス・モデル は,゛3年目のべーリング海における成長(G3)の減少は水温環境(SSTB)や餌環境(ZP)と関係せ ず ,PSと直 接的 な因 果関係 が認 めら れる こと ,G3は回 帰親 魚の 大き さ(FL)に直接影響する こ とを 示し た。 この ことは ,北 海道 系シ ロザ ケの べー リン グ海 での 成長減少と回帰親魚の 小 型化 がべ ーリ ング 海にお ける 海洋 環境 では なく ,個 体群 の密 度依 存効果に起因すること をあらためて示したことに按る。
最 終 章 のGENERAL DISCUSSIONで は , 以 上 の 結 果 に 基 づ き 総 合 的 に 考 察 し ,シ ロ ザ ケ の 生 活 史 と 個体群 動態 に影 響を 及ば す要 因を 温暖 化,SSTや 環境 収容 カな どの 外発 的要 因 と ,密 度依 存効 果な どの内 発的 要因 に分 け解 析し た。 その 結果 ,シ ロザケの生活史と個体
群動態は,地球の気候変動に伴う海洋環境の変化に影響されるが,(1)特に温暖化が直接オ ホーツク海のSSTに作用し,Glを促進し,それが結果的にSRを高めていること,(2) SR の上昇がPSを増大させ,べーリング海の限られた環境収容カの中で密度依存効果をもたら していること,(3)その密度依存効果は,個体群レベルでは顕著であるが,メタ個体群レベ ルおよび種レベルでは著しくぬいと結論づけられた。
本研究成果は,これまでのような個体群レベルや種レベルの水産資源管理に限界があるこ と,複雑でダイナミックな不確実性の高い生態系をモニターしつつ持続可能な生態学的資 源管理に取り組むことの重要性を示唆しており,地球温暖化時代に次世代の水産資源を確 実にするために役立っものと期待される。
学 位 論 文 審 査 の 要旨 主 査 教 授 帰 山 雅 秀 副 査 教 授 桜 井 泰 憲 副 査 研究 室 長福 若雅章 副 査 准教 授 工 藤秀明
学位論文題名
Long − term fluctuationslngrOWth , SurViVa1 , and populationdynamiCSOfChumSalmon ,〇刀C 〇ア緲刀C カ勿 S カ¢勿 intheNorthPaci 丘 clinkingtoclimatechanges
( 長 期 的 な 気 候 変 動 と り ン ク し た シ ロ ザ ケ 〇ncorhynchus ketaの 成 長 , 生 残 お よ び 個 体 群 動 態 に 関 す る 研 究 )
海洋生態系は,気候変動やエル・ニーニョなどの自然要因と温暖化や乱獲などのヒューマン・インパ クトにより常に撹乱されている複雑でダイナミックな不確実性の高いシステムである。亜寒帯海域に広 く分布するサケ属魚類は環北太平洋生態系におけるキーストン種および生態系サービスとして貢献し,
そのバイオマス変動は長期的な気候変化とりンクすることが知られている。シロザケ,ベニザケおよび カラフトマスの3種の環境収容カは,亜寒帯海域生態系の生産カに影響を及ぼす冬季アルーシャン低気 圧の勢力(ALPI)とりンクして変動する。また,サケ属魚類の密度依存効果は,バイオマスと環境収容カ の変動と関係することが報告されている。しかし,環境変動がどのようなメカニズムに基づきサケ属魚 類の生活史パターンや個体群動態に影響を及ばすのかについては,必ずしも十分明らかでなぃ。本研究 では,温暖化やレジームシフトなどの長期的な気候変動により変化する海洋生態系にシロザケはどのよ うに適応しているかを,鱗形成,成長および生残率などの生活史パラメータおよび個体群動態の長期的 な変動から明らかにすることを目的とする。
主 論 文 は英 文 で 書か れ ,5章 か ら な る。 第1章「GENERAL rNTRODUCTION」では ,サケ属 魚類の バイオマスと長期的な気候変動との関係,鱗形成と体成長との関係,日本系シロザケの分布と回遊ルー トなどより本研究の背景をレビューするとともに研究目的を明確にした。第2章「気候変動とシロザケ の鱗形成」では,海洋生活期におけるシロザケの鱗形成が動物プランクトン・バイオマス変動とりンク し,1988/89年レジームシフトによる海洋生態系のボトム・アップ制御を支持する結果を示した。第3 章「アジア系シロザケの鱗形成と成長の時空間変化」では,シロザケの鱗分析,成長バックカルキュレ ーショ ン法お よびANCOVA分析 の結果 ,シロザ ケ回帰 親魚の体 サイズは密度依存効果の影響を受ける が,その密度依存効果は個体群レベルでは顕著に観察されるが,メタ個体群間および種内では顕著でな いことが示唆された。
第4章「気候とりンクしたシロザケの成長,生残率と個体群動態に関する長期的変動」では,1945‑2005 年(約60年間)に石狩川へ回帰したシロザケ親魚の鱗分析と成長バックカリキュレーションを行い,
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シロザケの体成長と生残率に関する生活史パラメータと個体群動態の長期的な変動を分析し,それらの 変動メカニズムに関与する種々の環境要因指数との関係をパス・モデルを用いて解析した。北海道系シ ロザケの生残率は降海時と最初の海洋越冬期の2つのクリティカル死亡期によく対応しており,シロザ ケは降海時の体サイズが大型であり,オホーツク海での成長がよく大型で最初の海洋越冬期をむかえる ほど生残率が高いことが知られた。パス・モデルの解析結果,北海道系シロザケの沿岸離脱後の生残率 は, オホーツ ク海での成長量(Gl)に直接依存しており,Glと直接的な因果関係をもっパラメータはオ ホーツク海における夏|秋季の表層水温(SST。)であった。またSSToに直接影響を及ぼすパスは地球表層 気温の偏差(SAT)であり,これまで有カと考えられていた気候変動指数(e.g.,ALPI,PDO,AO,SI,OFDとは 因果 関係が認 められなかった。これらのことは,1980年代後半以降,地球の温暖化(SAT)が直接SST。 に影響を及ぼし,その結果が北海道系シロザケのオホーツク海での成長増加をもたらし,最初の海洋で の越冬期における死亡率の軽減に寄与し,結果的に生残率(SR)を高め,個体群サイズ(PS)を増大させた と考えられる。またパス・モデルは,3年目のべーリング海における成長(G3)の減少が水温環境(SSTB) や餌 環境(ZP)と 関係せず,PSと直接的な因果関係が認められること,G3は回帰親魚の大きさ(FL)に直 接影響することを示した。このことは,北海道系シロザケのべーリング海での成長減少と回帰親魚の小 型 化 がべ ー リ ング 海 にお ける海 洋環境で はなく, 個体群 の密度依 存効果 に起因す ること を示す。
最終 章「GENERAL DISCUSSION」では, 以上の 結果から シロザケ の生活史と個体群動態に影響を及 ばす要因を温暖化,SSTや環境収容カなどの外発的要因と,密度依存効果などの内発的要因に分け解析 した。すなわち,シロザケの生活史と個体群動態は,地球の気候変動に伴う海洋環境の変化に影響され るが ,(1)特 に温暖 化が直接 オホー ツク海のSSTに作 用し,Glを促進し,それが結果的にSRを高めて いる こと,(2) SRの上昇がPSを増大させ,べーリング海の環境収容カの中で密度依存効果をもたらし ていること,(3)その密度依存効果は,個体群レベルでは顕著であるが,メタ個体群レベルおよび種レベ ルでは著しくないと結論づけられた。
本研究は,これまでのような個体群レベルや種レベルの水産資源管理に限界があること,複雑でダイ ナミ ックな不 確実性の高い生態系をモニターしつつ持続可能な生態学的資源管理に取り組むことの重 要性を示唆しており,地球温暖化時代に次世代の水産資源を確実にするために役立っものと評価した。
よ っ て 審 査 員 一 同 は 申 請 者 が 博 士 ( 水 産 科 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る 資 格 の あ る も の と 判 定した。
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