博士(農学)松永宗幸 学位論文題名
テンサイOwen 型細胞質雄性不稔ミトコンドリア機能の解明 学位 論文内容の要旨
雌 性 両 生 花 異 株(gynodioecy)は 、 雌 花 個 体 と 両 生 花 個 体 が 集 団 の 中 に 混 在 す る も の を 指 す 。 雌 性 両 生 異 株 は 被 子 植 物 の140種 以 上 に 見 ら れ る と い い 、 雌 性 花 株 に お い て 雄 機 能 が 失 わ れ て い る メ カ ニ ズ ム が 注 目 さ れ て き た 。 細 胞 質 雄 性 不 稔 性(CMS)は 、 雌 性 両 生 花 異 株 を 引 き 起 こ す メ ジ ャ ー な メ カ ニ ズ ム の ー つ で あ り 、 遺 伝 学 的 に は ミ ト コ ン ド リ ア ゲ ノ ム 上 の 雄 性 不 稔 誘 発 遺 伝 子Sと 、 核 の 稔 性 回 復 遺 伝 子 り の 相 互 作 用 に よ り 説 明 さ れ る 。 す な わ ちSの 存 在 下 で は 雄 性 不 稔 と な る が 、 こ れ はRfが あ る と 発 現 し な い 。 CMSは 、 一 代 雑 種 種 子 生 産 に 用 い ら れ る 農 業 上 重 要 な 形 質 で あ り 、 こ れ ま で に さ ま ざ ま な 植 物 種 でCMSの 発 現 メ カ ニ ズ ム の 解 析 が な さ れ て き た 。Sは 植 物 種 毎 に 異 な り 、 由 来 不 明 な 配 列 で 形 成 さ れ る が 、 機 能 が 明 ら か に な っ た 例 は 少 な い 。Rfも ま た 多 く の 植 物 で ク ロ ー ン 化 さ れ て い る 。 大 部 分 は 、 馴 囲 訳 産 物 の 蓄 積 を 阻 害 す る こ と が 示 さ れ て い る 。
テ ン サ イOwen型 CMSで は 、CMS原 因 遺 伝 子 Sと 稔 性 回 復 遺 伝 子 Rflが ク ロ ー ン 化 さ れ 特 徴 付 け が な さ れ て き た 。CMS原 因 遺 伝 子Sと し て 、atp6の5 末 端 伸 長 領 域 で あ るpre跏 ア6が ク ロ ー ン 化 さ れ た 。p胞 駈06翻 訳 産 物 は ミ ト コ ン ド リ ア 内 膜 で ホ モ オ リ ゴ マ ー を 形 成 す る 。 さ ら に 、 葯 で 強 く 発 現 す る 足 灯 の 作 用 に よ り 、preSATP6ホ モ オ リ ゴ マ ー | ま 、 よ り 分 子 量 の 小 さ な タ ン パ ク 質 複 合 体 に 組 み 替 え ら れ る こ と が 観 察 さ れ た 。 こ の 組 み 替 え は 、 preSATP6が RFlタ ン パ ク 質 と 結 合 す る 結 果 で あ る 。 以 上 の よ う に 、 テ ン サ イCMS原 因 遺 伝 子 翻 訳 産 物 は ホ モ オ リ ゴ マ ー 形 成 と い う 点 で 他 植 物 種 のCMSと 類 似 す る が 、 ´ ザ と の 関 係 が ユ ニ ー ク で あ る 。 す な わ ち 、CMS原 因 遺 伝 子 産 物 の 高 次 構 造 と 雄 性 不 稔 性 発 現 の 関 係 が 強 く 示 唆 さ れ る シ ス テ ム で あ る 。 そ の た め 、CMS原 因 遺 伝 子 産 物 の ホ モ オ リ ゴ マ ー 形 成 の 意 義 を 調 査 す る こ と が 可 能 で あ る と 考 え た 。 第2章 で は 、p朋 駈06がCMSに 関 わ る 新 た な 証 拠 を 得 る べ く 、 未 解 析 で あ っ たNミ ト コ ン ド リ ア 固 有 転 写 産 物 を 生 ず る ゅ ぬ 遺 伝 子 座 の 発 現 解 析 を 行 っ た 。 第3章 で は 、 単 離 ミ ト コ ン ド リ ア を 用 い た 生 化 学 的 解 析 を 行 い 、CMSミ ト コ ン ド リ ア の 特 徴 付 け を 試 み た 。 第4章 で は 、j靜 とp朋 ぬ ヶ6と の 相 互 作 用 を 意 義 づ け る べ く 、 稔 性 回 復 と 呼 吸 の 関 連 を 調 査 し た 。
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ミ ト コ ン ド リ ア 固 有 転 写 産 物 を 生 ず るrpB3遺 伝 子 座 の 発 現 解 析
本 研 究 で は 、 CMSミ ト コ ン ド リ ア で 失 わ れ て い るrps3の3 UTRに つ い て 調 査 を 行 っ た 。 研 究 の 過 程 で 発 見 し た 偽atp9がRNA編 集 に 与 え る 影 響 に つ い て も 調 査 し た 。 rps3な ら び にatp9の 編 集 部 位 な ら び に 頻 度 と も に 影 響 を 受 け て い な い こ と が 示 さ れ た 。 RPS3翻 訳 産 物 の 蓄 積 量 も 変 わ ら な い 。
テ ン サ イCMSミ ト コ ン ド リ ア ゲ ノ ム に は 、 正 常 と 異 な る 転 写 パ タ ー ン を 示 す6つ の 領 域 が 見 っ か っ て ` ゝ た 。 そ れ ぞ れ 、cox2. coxl、atpl、aゆ 鼠orf324‑rpsj3丶 お よ び 印s3で あ る 。 今 回 の 結 果 に よ り 、 こ れ ら 全 て の 遺 伝 子 座 の 解 析 が 終 了 し た 。 総 合 的 に 、 pre馳 ゆ ぢ がCMS原 因 遺 伝 子 で あ る と い う 結 論 に 変 更 は な い 。
肥 大 根 に お け る Owen型 細 胞 質 雄 性 不 稔 性 ミ ト コ ン ド リ ア の 機 能 解 析 CMSテ ン サ イ と 正 常 テ ン サ イ の ミ ト コ ン ド リ ア 機 能 を 比 較 し た 。 肥 大 根 か ら の 単 離 ミ ト コ ン ド リ ア を も ち い た ミ ト コ ン ド リ ア 機 能 解 析 を 行 っ た 。BN・PAGEとingelア ッ セ イ を 組 み 合 わ せ た 活 性 染 色 で は 、 各 ミ ト コ ン ド リ ア 呼 吸 鎖 複 合 体 に 違 い は 認 め ら れ な か っ た が 、 酸 素 電 極 に よ る 解 析 に よ れ ばTK81.MSミ ト コ ン ド リ ア で は 、ADP′O比 にTK81| Oと 違 い が な い ま まState3で の 呼 吸 速 度 が 亢 進 し て い る こ と が 示 さ れ た 。 State3に お け る 呼 吸 速 度 の 上 昇 が 核 遺 伝 子 型 背 景 で は な く 、 細 胞 質 の 効 果 で あ る こ と は 、Owen型 細 胞 質 を も つ 別 な テ ン サ イ の デ ー タ か ら 明 ら か で あ っ た 。 ま た ぃ ず れ の CMSミ ト コ ン ド リ ア もRCRの 数 値 が 上 昇 し て い た 。 加 え てCMS株 で ミ ト コ ン ド リ ア 膜 電 位 が 低 下 し て い る こ と も 示 さ れ た 。 こ れ ら の 結 果 は 、 ミ ト コ ン ド リ ア の 酸 化 的 リ ン 酸 化 経 路 が 活 性 化 し て い る こ と を 示 唆 す る 。
ミ ト コ ン ド リ ア 呼 吸 に 対 す る 稔 性 回 復 遺 伝 子 丑 ぬ の 効 果
R丘 を 強 く 発 現 す る 細 胞 は 、 葯 に 限 ら れ て お り 、R丑 の 効 果 を 葯 を 用 い て 調 べ る こ と は 難 し い 。 そ こ で 、 馳 を 発 現 す る 形 質 転 換 培 養 細 胞 を 作 出 し 、 機 能 解 析 を 行 っ た 。Dr 窃3 を 発 現 す る 培 養 細 胞 の 呼 吸 活 性 は 非 形 質 転 換CMS培 養 細 胞 、 も し く は コ ン ト ロ ー ル と 比 較 し て 低 下 す る 傾 向 に あ っ た 。 葯 に お い て は 、CMSテ ン サ イ の 呼 吸 速 度 は 正 常 テ ン サ イ よ り も 明 ら か に 高kユ こ と が 分 か っ た 。 こ れ は 、 単 離 ミ ト コ ン ド リ ア のState3に お い て 観 察 し たCMSテ ン サ イ と 正 常 テ ン サ イ の 違 い に 極 め て よ く 似 て い る 。 さ ら に 稔 性 回 復 し た 葯 で は 呼 吸 は 低 下 す る 。 一 方 で 芽 生 え に お い て は そ の よ う な 差 異 は 観 察 さ れ な か っ た 。 こ れ ら の 結 果 か ら 、 呼 吸 速 度 の 亢 進 はpreSATP6ホ モ オ リ ゴ マ ー に よ り 引 き 起 こ さ れ て い る こ と が 示 唆 さ れ た 。
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学位論文審査の要旨 主査 副査
副査 副査
准 教 授 久 教 授 三 教 授 貴 准 教 授 阿
保 友 彦 上 哲 夫 島 祐 治 部 純
学 位 論 文 題 名
テンサイOwen 型細胞質雄性不稔ミトコンドリア機能の解明
本論文は83 頁からなる和文論文であり,図21 と表6 を含む,別に,参考論文5 編が 添えられている.
細胞質雄性不稔(CMS) は,一代雑種種子生産に用いられる重要な農業形質である.テ ンサイにおいてはCMS 原因遺伝子が単離され,翻訳産物の生化学的な特徴付けがなされ て い た が , CMS を 弓 I き 起 こ す 機 構 に つ い て は 不 明 で あ っ た . 本研究では,テンサイCMS ミトコンドリア機能の解明を試み,テンサイCMS の発現 機 構 に つ い て 検 討 し た . 得 ら れ た 結 果 は 以 下 の よ う に 要 約 さ れ る ,
1 , ミ ト コ ン ド リ ア 固 有 転 写 産 物 を 生 ず る rps3 遺 伝 子 座 の 発 現 解 析 CMS ミトコンドリアゲノムには,正常と異なる転写パターンを示す6 つの領域が見つ かっていた.それぞれ,cox2, coxl ,atpl, atp6, or:f324‑rps13, およびtps3 である,
CMS ミトコンドリアで失われているrps3 の3 U ′rR について調査を行った.研究の過程
で発見した偽atp9 がRNA 編集に与える影響についても調査した,rps3 ならびにatp9 の
編集部位ならびに頻度ともに影響を受けていないことが示された.RPS3 翻訳産物の蓄積
量も変わらないことが示された.今回,CMS 遺伝子の候補として残っていた.zps ワ遺伝子
座 の 解 析 を 終 了 し , 最 終 的 に 麟 ゆ ガ が CMS 原 因 遺 伝 子 で あ る と 結 諭 付 け た ,
2 , 肥 大 根 に お け る Owen 型 細 胞 質 雄 性 不 稔 性 ミ ト コ ン ド リ ア の 機 能 解 析 CMS テンサイと正常テンサイのミ卜コンドリア機能を比較した.肥大根からの単離ミ 卜コンドリアをもちいたミトコンドリア機能解析を行った,BN‑PAGE とin gel アッセイ を組み合わせた活性染色では,各ミトコンドリア呼吸鎖複合体に違いは認められなかった が , 酸素 電 極 によ る 解 析によれ ば TK81‑MS ミトコ ンドリア では, ADP/O 比 にTK81‑0 と違いがないままState3 での呼吸速度が亢進していることが示された.State3 における 呼吸速度の上昇が核遺伝子型背景ではなく,細胞質の効果であることは,Owen 型細胞質 をもつ別なテンサイのデータから明らかであった.またいずれのCMS ミトコンドリアも RCR の数値が上昇していた.加えて CMS 株でミトコンドリア膜電位が低下していること も示された.これらの結果は,ミトコンドリアの酸化的リン酸化経路が活性化しているこ とを示唆する,この成果は,これまでに考えられていたCMS の発現メカニズムに一石を 投ずるものである.
3 ,ミトコンドリア呼吸に対する稔性回復遺伝子々fl の効果
元臼を強く発現する細胞は,葯に限られているが丑ロの効果を葯を用いて調べることは 難しい.そこで,Rfl を発現する形質転換培養細胞を作出し,機能解析を行った.or む碧 を発現する培養細胞の呼吸活性は非形質転換CMS 培養細胞,もしくはコント口ールと比 較して低下する傾向にあった.葯においては, CMS テンサイの呼吸速度は正常テンサイ よりも明らかに高いことが分かった.これは,単離ミトコンドリアの State3 において観 察したCMS テンサイと正常テンサイの違いに極めてよく似ている,さらに稔性回復した 葯では呼吸は低下する.一方で芽生えにおしゝてはそのような差異は観察されなかった,こ れらの結果から,呼吸速度の亢進はpre 脚`P6 ホモオリゴマーにより引き起こされている ことが示唆された,この成果は,機能不明であったpre &虹P6 ホモオリゴマーの機能に新 たな知見を与えるものである.
本研 究 の 成果 は ,テ ン サイ Owen 型 CMS ミ トコンド リアの機 能解明と植 物 CMS 研究 に寄与するところが大きく,学術面で高く評価できる.
よって審査員一同は松永宗幸が博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格を有するも のと認めた.
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