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H. pylori 除菌後に発見される胃癌の臨床的特徴

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 医 学 ) 園 田 範 和

学 位 論 文 題 名

H.pyloTi 除菌後に発見される胃癌の臨床的特徴 学位論文内容の要旨

[背景と目的]

  胃癌は″. pyloriの持続感染を背景として、長期にわたる炎症が続き、遺伝子変異が蓄積 されて、やがて発癌に至る。分化型胃癌、未分化型胃癌ともに″. pyめ灯感染粘膜から発癌 することがほとんどで、炎症のない胃粘膜から胃癌が発生することは稀である。従って、

″・ガめガ感染は胃癌の最も重要な危険因子であると言える。このため、Hガめガ除菌によ って胃粘膜の炎症が改善すると、胃癌の発生や発育進展に影響を及ばすと考えられる。胃 発癌を除菌群と対照群で比較検討した報告から、″.ガあH除菌による胃発癌予防効果が示 されている。一方、″.剛たW除菌後の経過観察中に、胃癌が発見されることも少なくない。

  現在、消化性潰瘍を中心に除菌治療が盛んに行われ、今後、除菌後の経過観察症例が増 えていくと予想される。そのため、除菌後に発見される胃癌の特徴を明らかにすることは、

それらの症例を経過観察していくうえで重要である。そこで、当科にて″・ガめガ除菌後に 発 見 さ れ た 胃 癌 と 非 除 菌 胃 癌 を 臨 床 的 に 比 較 し 、除 菌 後 胃癌 の 特 徴を 検 討 した 。

[対象と方法]

  1995年から2009年まで の問、北海道大学第三内科にて除菌治療がなされ、除菌治療後1 カ月以上経過後に迅速ウレアーゼ試験、培養法、尿素呼気試験、病理組織学的検査にいず れか複数の″.ガめガ診断法にて除菌成功と判断され、その後も″.ガ加f陰性が確認されて いる追跡可能であった1271例(男性776例,女性495例)を対象とした。平均観察期間は平 均39.4カ月で あった 。除菌対象疾患は胃潰瘍472例、十ニ指腸潰瘍280例、胃十ニ指腸潰 瘍50例 、 慢性 胃 炎70例 、 機能 症 デ ィス ペ プ シア90例 、胃癌97例 、胃ポ リープ100例、

MALTリ ンパ 腫90例 、 その他22例であ った。除 菌治療 後、1カ月、2カ月 、6カ 月、1年後 に内視 鏡検査を 行い、 その後も 毎年行 った。除 菌成功後に胃癌が発見されたのは17症例 18病変であり、16病変が早期癌であった。除菌治療がなされていない同時期に診断された 胃癌症 例は277症例で 、除菌後の早期胃癌と年齢、性別、胃癌進行度をマッチングさせて 無作為に抽出した早期胃癌32病変を非除菌胃癌とし、除菌後早期胃癌との比較対象とした。

除菌後胃癌の累積発現率および除菌対象疾患毎の累積発現率はKaplan‐Meier法で解析した。

胃 癌 は 「 胃 癌 取 扱 い 規 約 」 に 基 づ ぃ て 腫 瘍 サ イ ズ、 肉 眼 的形 態 、 組織 学 的 分類 、 潰瘍合 併の有無 を検討 した。背景胃粘膜については、UpdatedSydnりSystemに基づいて検 討した。

[結果]

  ″・ガ め灯除菌 後に発 見された胃癌は、17症例18病変で、男性14例、女性3例、年齢は 53歳から78歳まで 、平均年 齢は67.2歳であった。且剛めガ除菌治療から胃癌発見までの 期間は24日から4015日で、平 均1306日で あった。 胃癌の累積発現率は4.8%で平均年率 は0.4%であった。背景疾患による累積発現率では、胃癌13.8%、胃潰瘍813%、MALTリ ンパ腫2.6%、胃ポリープ2.4%であり、慢性胃炎、十二指腸潰瘍からの発癌を認めなかつ     ―20ー

(2)

た。

  除菌後胃癌と非除菌胃癌において、部位、組織型、治療法には有意差を認めなかったが、

腫瘍 サイズは除菌群9.8士5.6mm,非除菌群17.3+10.2mmと除菌群で有意に小さく、陥凹型 が除 菌群の方で有意に多かった。背背景胃粘膜の比較では、除菌後胃癌では好中球浸潤、

単核 球浸潤が幽門部大彎と胃体部で、萎縮は幽門部小彎、胃角部で、腸上皮化生は胃角部 において有意に低値を示した。

[考察]

  ″・ガめガ除菌治療による胃癌予防効果は、胃潰瘍症例に対する介入試験や内視鏡的粘膜 切除 を施行された早期胃癌症例に対する除菌治療の介入試験によって、除菌群での胃癌発 生率 が低いことが報告されている。その検討と比較すると、本研究での累積胃癌発現率は 比較 的高値であった。原因として経過観察期間が短い症例が多く、見逃し癌が多く含まれ ていた可能性が考えられる。

  疾 患別の発癌頻度は、本検討において、胃癌、胃潰瘍、MALTリンパ腫、胃ポリープの 順で あり、慢性胃炎、十二指腸潰瘍からの発症を認めなかった。以前の報告においても、

同じ″. pylori感染者の中でも胃発癌のりスクは異なり、特に一度胃癌を発症した症例にお ける 異時性多発癌の発癌リスクがもっとも高く、十二指腸潰瘍のりスクが非常に低いこと が示 されている。今回の検討においても、これまでの報告と同様であり、疾患毎による胃 癌リスクは除菌治療後も継続することが確認された。

  また、″,ガめ灯除菌治療により、酸分泌能が回復することが報告されている。それによ って 、酸分泌亢進が除菌治療後に発見される胃癌の形態に変化を与える可能性が考えられ る。 除菌治療前後で胃癌の形態が隆起型から平坦型や陥凹型へ変化をきたしたとの報告も ある 。また、除菌によって、細胞増殖能や腫瘍促進因子の低下をきたし、腫瘍自体の発育 速度 に影響を与え、腫瘍増殖が抑制された可能性を指摘する報告もある。本検討に船ける 除菌 後胃癌のサイズが小さく、陥凹型が多いとの形態学的特徴は、除菌による発育進展の 抑制、除菌後の酸分泌能の回復が関与している可能性を示唆するものと考えられる。ただ、

今回 の検討では、除菌時に内視鏡検査で検出できる大きさであったが、発見されなかった 見逃 し癌、除菌時には内視鏡的には検出できない大きさで存在していた潜在癌、除菌後、

新たに発生してきた新生癌の区別は不能であり、今後のさらなる検討が必要と考えられる。

[結語]

  今回の検討によって、″.ガめガ除菌後の胃癌はサイズが小さく隆起型が少ない傾向を示 した 。Hガめガ除菌による胃癌の 発育進展の抑制および除菌後の胃内環境変化に伴う形態 変化の可能性が示された。

21ー

(3)

学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

H. pylori 除菌後に発見される胃癌の臨床的特徴

  Helicobacter pylori(以下Hpylori)感染は、胃癌の重要な危険因子である。胃発癌を除菌 群と対照群で比較検討した報告から、″. pylori除菌による胃発癌予防効果が示されている。

一 方 、 ″ . pylori除 菌 後 の 経 過 観 察 中 に 、 胃 癌 が 発 見 さ れ る こ と も 少 な く な い 。   今後、除 菌後の経 過観察 症例が増 えてい くと予想 され、 除菌後に 発見される胃癌の特徴 を 明らか にするこ とは、それらの症例を経過観察していくうえで重要であると考えられる。

申 請者は 、除菌後 に発見 された胃 癌と非 除菌胃癌 を臨床的 に比較 し、除菌後胃癌の特徴を 検討した。

  北海道大 学第三内 科にて 除菌治療 を行い 、除菌成 功と判 断され、 追跡可能であった1271 例 か ら17症 例18病 変 の 除菌 後 胃 癌の 発現 を認め た。その うち16症 例が早期 癌であ った。

非 除菌胃 癌症例か ら、除 菌後の早 期胃癌 と年齢、 性別、胃 癌進行 度をマッチングさせて無 作 為に抽 出した早 期胃癌32病変を非 除菌胃 癌とし、 除菌後 早期胃癌 との比較対象とした。

除 菌後胃 癌の累積 発現率 および除 菌対象 疾患毎の 累積発現 率と、 早期癌について、腫瘍サ イ ズ、肉 眼的形態 、組織 学的分類 、潰瘍 合併の有 無を比較 検討し た。また、背景胃粘膜に ついても検討した。

  胃癌の累 積発現率 は4.8%で平均 年率は0.4%で あった 。背景疾 患による累積発現率は、

胃 癌 、 胃 潰瘍 、MALTリ ンパ 腫 、 過形 成ポ リープ の順であ り、慢 性胃炎、 十二指腸 潰瘍か ら の発癌 を認めな かった 。除菌後 胃癌と 非除菌胃 癌の比較 では、 腫瘍サイズは除菌群で有 意 に小さ く、陥凹 型が除 菌群の方 で有意 に多かっ た。背背 景胃粘 膜の比較では、除菌後胃 癌で、組織学的胃炎の改善を認めた。

  以上から 、除菌後 発見さ れる胃癌 は、腫 瘍サイズ が小さ く隆起型 が少ない傾向を示した こ と、今 後、除菌 症例を 経過観察 してい く上で、 内視鏡検 査時に サイズの小さい陥凹病変 に注意を払う必要が示唆された。

  公開発表 では、学 位論文 内容の発 表の後 、副査松 野吉宏 教授より 、設定が厳密でないコ ン トロー ルとの比 較検討 で、除菌 後胃癌 の方が小 さいこと を結論 づけることができるのか と の質問 があった 。申請 者はそれ に対し て、コン トロール が厳密 でないことは、この検討 の 問題点 ではある が、そ れまでの 文献か ら除菌後 胃癌は発 育が遅 れるとの報告があり、こ の ため小 さく発見 される 可能性が あるこ とを述べ 、今後の 検討と して内視鏡の頻度を合わ せ て観察 、比較す ること も必要と 述べた 。次に申 請者は除 菌によ り胃癌の形態が変化する こ と に 関 して 、 胃 内のpH環境 の 変 化が 原因と 考察して いるが、 除菌後 新たに出 現した 癌 で は、そ の考察が 当ては まらなぃ ので憾 との質問 があった 。それ に対して、申請者は、除

22

博 学

正  

  吉

香 藏

浅 武

授 授

教 教

査 査

主 副

(4)

菌時に既に存在していた潜在癌と除菌後新たに出現した新生癌を区別することは不可能で あり、今回の除菌後胃癌.は全て潜在癌の可能性があり、そのため、除菌後胃癌が、胃酸の 影響を受けている可能性があることと、″.pyloriが増殖能を亢進させることやアポトーシ スを抑制している文献を提示し、除菌によって、それらの影響が排除され、形態変化につ ながっている可能性が示唆されると回答した。

  続いて、副査武藏学教授より、除菌後胃癌の形態の違いは、除菌によって、腫瘍の増殖 能が落ちることと、二次的なサイトカインの影響が排除される可能性とどちらの影響が大 きいのかとの質問があった。申請者はどちらの可能性もあり、複合的な要因が関与してい るのではないかと回答した。次に除菌後胃癌の境界が不明瞭になっている原因に関する質 問があった。申請者はそれに対して、腫瘍の平坦化が原因として考えられると答え、腺種 で の 検 討 で は 除 菌 に よ っ て 、 境 界 が 不 明 瞭 に な っ た と の 報 告 を 引 用 し た 。   最後に主査浅香正博教授より、今回の除菌後胃癌は、見逃し癌が多いのか、除菌時に存 在していて、成長が遅れて発見された癌が多いのかとの質問があった。申請者は、除菌診 断後2年以内に発見された症例には、見逃し癌が多く含まれている可能性があるが、5年 目以降の癌では、進行が遅れて発見された潜在癌の可能性があることを述べた。その後、

松野教授より早期胃癌の発育、進展についての研究の有用性に関するコメントがあった。

  本研究は、除菌によって胃癌の発症をすべて抑制できないことを示し、その原因として、

除菌時の胃癌の見逃しの他、除菌によって胃癌の発育が遅れるケースも存在することを明 らかにしたもので、今後の除菌症例を経過観察していく上での一助になることが期待され る。

  審査員一同は、これらの成果を高く評価し、申請者が博士(医学)の学位を受けるのに十 分な資格を有するものと判定した。

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