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博 士 ( 理 学 ) 木 下 雅 恵

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Academic year: 2021

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博 士 ( 理 学 ) 木 下 雅 恵

    学 位 論 文 題 名

    T    ●   ●   ●   .

Transmission mechanlSmofVlSualinformation     ●

    lntheoptiCteCtumofrainbOWtrout

( ニ ジ マ ス 視 蓋 に お け る 視 覚 情 報 伝 達 機 構 )

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  視覚は動物が外界からの情 報を得るための最も重要な感覚である,視覚情報に基づいた 行動を制御する脳領域として は「視蓋」が知られており,視蓋は網膜からの視神経線維の 投射領域である.この構造は 全ての脊椎動物において保存されているが,魚類においてよ く発達しており,視蓋の機能 を研究するためには魚類が材料として適している.しかし,

これまでの魚類視蓋の研究は 細胞レベルでの解析を欠いており,網膜からの投射線維の入 カを受け取る神経細胞さえも 確定されていなかった.

  そこで本研究では,魚類の 中でも代表的な脳構造をもつニジマスを用いて,網膜からの 入カを受ける神経細胞を同定 し,この細胞を中心とした魚類の視覚情報処理機構を細胞レ ベルで解析することを目的と した,

  第1章で は, 視神 経線 維か らの入カに対する視蓋の応答 を2次元観察し,網膜からの 入 カを受ける神経細胞を推定するため,視蓋スライスに対する膜電位の光学的測定を行った.

その結果,視神経線維への電 気刺激によって視蓋に脱分極が生じ,この脱分極は,まず視 蓋の層構造に平行な方向に伝 播した後,垂直な方向に伝播することを見出した.垂直方向 の伝播はシナプス後細胞の応 答と判断された.したがって,樹状突起を層構造に垂直に伸 ぱしている視蓋脳室周囲層ニ ューロンがシナプス後細胞であると考えられた.また,アン タゴニストを用いた薬理学実 験から,視神経線維から放出される神経伝達物質はグルタミ ン酸であることも確かめられ た.

  第2章では,この視蓋脳室周 囲層ニューロンが持っグルタミン酸受容体のタイプを調 べ るため,視蓋スライスに対す るカルシウムイメージング法を用いた薬理学実験を行った.

その結果,グルタミン酸なら ぴにイオンチャネル型グルタミン酸受容体のアゴニストの投 与によって,脳室周囲層ニュ ーロンの細胞体でカルシウム濃度上昇が観察された,このこ とから,視蓋脳室周囲層ニュ ーロンがイオンチャネル型グルタミン酸受容体を介して,グ ルタミン酸作動性の伝達を受 けることが示された.また,視蓋脳室周囲層ニューロンがイ オンチャネル型グルタミン酸 受容体をもっことを組織学的に示すための実験も行った.ま ず ,NMDA受 容体 およ ぴAMPA受 容体 サブ ュニ ット 遺伝 子の 部 分配 列を クロ ーニ ングし . それをもとに加situハイブリダイゼーションを行ったところ,視蓋脳室周囲層ニューロンの 細 胞体 には これ らの 受容 体サ ブユニツ卜のmRNAが局在することが示された.さらに, 免 疫 組織 化学 染色 法に より ,NMDA受 容体 およ ぴAMPA受 容体 サ ブュ ニッ トタ ンパ ク質分 子 が,視蓋脳室周囲層ニューロンの樹状突起の分布する領域に局在していることがわかった.

こ れら の結 果か ら, 視蓋 脳室 周囲 層ニ ュー ロン は機 能的 なNMDA受容 体お よびAMPA受 容 体を持っていることが示され た.

267

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  哺乳 類 の海 馬な どで は,NMDA受容 体お よびAMPA受容 体を 介し た グル タミン酸作動性 シナ プス伝達において,活動依存性に伝達効率の長期増強が認められる.したがってニジ マス 視蓋の視神経線維と視蓋脳室周囲層ニューロンとのシナプスにおいても上記のような 可塑 性が観察される可能性がある.それを確かめるために, 第3章では視神経線維の電気 刺激 によって生じる集合興奮性シナプス後電位の経時変化を,細胞外記録法で記録した.

その 結果,1.0 Hz 20回の視神経線維への連続電気刺激によって,集合興奮性シナプス後電 位 は増 強 され 少な くと も2時間 持続 し た. さら に,NMDA受容 体の アン タゴニスト(APV) を投 与するとこの長期増強は完全に抑制された.これらの結果から,視神経線維と視蓋脳 室周 囲層ニューロンとのシナプスでは,視神経線維の活動に依存して伝達効率の長期増強 が 起 こ り , そ れ に はNMDA受 容 体 の 活 性 化 が 必 要 で あ る こ と が 明 ら か に な っ た ,   視 蓋にはゴナド卜ロピン放出ホルモン(GnRH)産生ニューロンの投射が存在し,近年,

ニ ジマ ス 視蓋 脳室 周囲 層ニ ュー ロン の細 胞体 にGnRH受 容体 のmRNAが局 在することも示 され ている.Gr瓜Hは性成熟や性 行動と関係の深いペプチドホルモンであるが,脳内にお いて ,グルタミン酸などの神経伝達活動への影響などはまったくわかっていない.そこで 第4章で は,G瓜Hによ る視 神経 線維 と 視蓋 脳室周囲層ニ ューロンとの情報伝達における 神経 修飾機構について解析を行った,まず,視神経線維を電気刺激した際に生じるシナプ ス後 電流をパッチクランプ法により視蓋スライス上の脳室周囲層ニューロンから記録した.

グ ルタ ミ ン酸 受容 体アンタゴニストにより抑制されるこ の電流の振幅は,GnRHを投与す ると 増大し,GnRH受容体のアンタゴニストの共投与によって抑制されることがわかった.

すな わち,G凪Hが脳内の神経情報伝達に対して修飾的に関与することが始めて示された.

また ,パッチ電極にトレーサーを入れることで,電流の記録と同時に形態の解析も行った,

その 結果,脳室周囲層ニューロンはその形態から少なくとも2種類に分類された.そのう ちの1種類は視蓋内に終末する軸 索を持っていた.このことは脳室周囲層ニューロンが同 じ種 類のニューロンも含めて近隣のニューロンの樹状突起にシナプス接続している可能性 を示 している.ちなみに,もう1種類は軸索の追跡はできなかったが,視蓋の外ヘ投射し てい る可能性が考えられた.

  最 後に視覚情報入カを受ける視蓋脳室周囲層ニューロンのうち,視蓋の外へ情報伝達す るニ ューロンを同定し,その伝達先を調べるために,第5章では視蓋からの投射を受ける 脳部 位を同定して逆行性トレーサーを注入して,そこに投射している脳室周囲層ニューロ ンを 染色した.その結果,視蓋脳室周囲層ニューロンの中には視蓋前域,浅視蓋前域核大 細胞 部,半円堤,峡核の少なくとも4部位に投射するニューロンが含まれることがわかっ た. 他科の魚類ではこれらの部位に側線感覚や視覚の入カがあることが知られており,特 に峡 核は逃避行動にも関わると考えられているため,視蓋脳室周囲層ニューロンヘ伝達さ れた 視覚情報は最終的に他の脳領域へ伝達され,行動に影響することが考えられる.また,

浅視 蓋前域核大細胞部からは内側縦束核にある前運動ニューロンヘの投射が認められたこ とか ら,脳室周囲層ニューロンで処理された情報が,浅視蓋前域核大細胞部を介して行動 に影 響することが示唆された.

  以 上の研究結果は,視蓋の脳室周囲層ニューロンが視神経線維からの入カを直接受け取 るだ けでなく,視覚情報処理の中心的な役割をになっており,このニューロンにおいて情 報の 重み付けや複数の情報の統合が行われ,統合された情報はさらに行動の制御領域へと 伝達 されることを示している.本研究で明らかになった脳室周囲層ニューロンを中心とした 視蓋 の情報処理機構は,視覚情報から行動を生み出すシステムの新しいモデルとして,脊 椎 動 物 に お け る そ の メ カ ニ ズ ム の 解 明 に 大 き な 貢 献 を 果 た す も の で あ る ,

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学位論文審査の要旨

     学位論文題名

Transmission mechanism of visual information     in the optic tectum of rainbow trout

(ニジマス視蓋における視覚情報伝達機構)

  視覚は動物が外界からの情報を得るための最も重要な感覚である.視覚情報に基づぃた行動を制御 する脳領域に「視蓋」があり,視蓋は網膜から視神経線維の投射を受ける.この構造は全ての脊椎動 物において保存されているが,魚類においてよく発達しており,視蓋の機能を研究するためには魚類 が材料として適している.しかし,これまでの魚類視蓋の研究は細胞レベルでの解析を欠いており,

網 膜 か ら の 投 射 線 維 の 入 カ を 受 け 取 る 神 経 細 胞 さ え も 確 定 さ れ て い な か っ た ,   そこで本研究では,魚類の中でも代表的な脳構造をもつニジマスを用いて,網膜からの入カを受け る神経細胞を同定し,この細胞を中心とした魚類の視覚情報処理機構を細胞レベルで解析することを 目的とした.

  第1章では視神経線維からの入カに対する視蓋の応答を2次元観察し,網膜からの入カを受ける神 経細胞を推定するため,視蓋スライスに対する膜電位の光学的測定を行った.その結果,視神経線維 への電気刺激によって視蓋に脱分極が生じ,この脱分極は,まず視蓋の層構造に平行な方向に伝播し た後,垂直な方向に伝播することを見出した.この垂直方向の伝播は層構造に垂直に伸びている視蓋 脳室周囲層ニューロンの樹状突起上を伝わったと考えられた.また,アンタゴニストを用いた実験か ら, 視 神 経 線維 か ら 放 出さ れ る 神 経伝 達 物 質 はグ ル タ ミ ン酸 で あ る こと も 確 か めら れ た.

  第2章ではこの視蓋脳室周囲層ニューロンが持っグルタミン酸受容体のタイプを調べるため,視蓋 スライスに対するカルシウムイメージング法を用いた薬理学実験を行った.その結果,グルタミン酸 ならびにイオンチャネル一型グルタミン酸受容体のアゴニストの投与によって,脳室周囲層ニューロン の細胞体でカルシウム濃度上昇が観察された.また,視蓋脳室周囲層ニューロンがイオンチャネル型 グルタ ミン酸 受容体をもつことを組織学的に示す実験も行った. NMDA受容体およびAMPA受容体サ ブュニットについてin situハイブリダイゼーションおよび免疫組織化学染色を行ったところ,視蓋脳     ー269―

朗 央

郎 一

悦 明

達 雅

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室周 囲層ニューロンの細胞体にこれら受容体サブュニットのmRNAの局在が認められ,視蓋脳室周囲 層 ニ ュ ー ロ ン の 樹 状 突 起 が 分 布 す る 領 域 へ の タ ン パ ク 質 分 子 の 局 在 が 示 さ れ た .   NMDA受容 体およ びAMPA受 容体は哺 乳類の 海馬な どでの可塑性に必要な分子であるため,視神経 線維と視蓋脳室周囲層ニューロンとのシナプスにおいても同様の可塑性が観察される可能性があった それを確かめるために,第3章では視神経線維の電気刺激によって生じる集合興奮性シナプス後電位 の経時変化を細胞外記録法で記録したところ,視神経線維への連続電気刺激により集合興奮性シナプ ス後 電位は増強されることがわかった,さらに,NMDA受容体のアンタゴニストを投与すると,この 長期 増強は完全に抑制され,この長期増強にNMDA受容体の活性化が必要であることが明らかになっ た.

  視蓋にはゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)産生ニューロンの投射が存在し,近年,ニジマス視 蓋脳 室周囲層 ニュー ロンの 細胞体 にQlRH受容 体のmRNAが局在することも示されている.そこで第 4章では,GnRHによる視神経線維と視蓋脳室周囲層ニューロンの情報伝達における神経修飾機構につ いて解析を行った.まず,視神経線維を電気刺激した際に生じるシナプス後電流をパッチクランプ法 により視蓋脳室周囲層ニューロンから記録した.グルタミン酸受容体アンタゴニストにより抑制され る この 電 流の振 幅はQlRHを 投与す ると増 大し, ―受容 体のアン タゴニ ストの 共投与 によっ て抑 制さ れることがわかった.すなわち,GnRHが脳内の神経情報伝達に対して修飾的に関与することが 始めて示された,また,パッチ電極にトレーサーを入れ,電流の記録と同時に形態の解析も行った.

その結果,脳室周囲層ニューロンには視蓋内に終末する軸索を持っタイプと,視蓋内に終末が認めら れないタイプの2種類が存在することがわかった,

  最後に,視覚情報入カを受ける視蓋脳室周囲層ニューロンのうち視蓋の外へ情報伝達するニューロ ンを同定し,その伝達先を調べるために,第5章では視蓋からの投射領域にトレーサーを注入して,

そこに投射する脳室周囲層ニューロンを染色した.その結果,視蓋前域,浅視蓋前域核大細胞部,半 円堤,峡核の少なくとも4部位に投射する視蓋脳室周囲層ニューロンが存在することがわかった.ま た,浅視蓋前域核大細胞部からは内側縦東核にある前運動ニューロンへの投射が認められたことから,

脳室周囲層ニューロンで処理された情報が,浅視蓋前域核大細胞部を介して行動に影響することが示 唆された.

  これを要するに,以上の一連の結果は,視蓋脳室周囲層ニューロンが視覚情報処理の中心的な役割 をになうことを示している。本研究で明らかになった脳室周囲層ニューロンを中心とした視蓋の情報 処理機構は,視覚情報から行動を生み出すシステムの新しいモデルとして,脊椎動物におけるそのメ カニズムの解明に大きな貢献を果たすものである。

  よ っ て 著 者 は , 北 海 道 大 学 博 士 ( 理 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る 資 格 ある も の と 認め る 。

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