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学 位 論 文 要 旨

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Academic year: 2021

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(1)

(別紙様式第3号)

学 位 論 文 要 旨

氏名: 岩永 史子

題目: Studies on growth characteristics and survival strategies of Alnus japonica

(ハンノキ(Alnus japonica)の生育特性と生存戦略に関する生理生態的研究)

温暖多雨な日本には河川や湖沼、湿地など多くの水辺域があり、その周辺には独特 の種組成や構成を持つ河畔林や渓畔林、および湿地林などの水辺林が成立している。

湿地を含むそれら水辺域の植生は、その特異な種組成と群集構造の複雑さが特徴とし て挙げられ、一般にその他の植生と比べて種多様性が高い。とくに湿地においては、

すでに国内の多くの干潟、および湿地・湿原が、動植物の生物多様性の保全を目的と した「ラムサール条約湿地」に登録されている。釧路湿原は国内で最初にラムサール 条約湿地に登録され、国内でもっとも広い湿原面積を持つ日本を代表する湿原である。

釧路湿原の約

80

%はヨシ・スゲ群落が占め、湿原の辺縁部には湿地林が成立している。

ハンノキ(Alnus japonica)は日本の代表的な湿地林構成樹種であり、釧路湿原の湿地 林にも多く生育している。近年、湿原周辺の土地利用の変化や水路改変工事の影響を 受けて、徐々に湿原面積が減少しており、あわせて急激な湿原の植生変化も危惧され ている。

本研究では、釧路湿原に成立する湿地林において主要な構成樹種の生育特性の調査 と、生理特性の解析とを併せて行った。具体的には、まず(1)釧路湿原に調査区を 設置し、湿地林構成樹種の分布および生育状況と環境条件の比較考察を行った。次に

(2)湿地林構成樹種の実生苗を用いて、異なる冠水条件下での成長および光合成活 性の測定や、形態変化の観察を行い、冠水ストレス耐性に関わる生育特性および生理 的特性の解析を行った。さらにこれらの結果を、著書「Adaptative strategies of wetland

species

」(現在査読中)としてまとめ、釧路湿原の湿地林における植生変化、もしく

は環境変化に対する植生変化に関して、湿地林構成樹種の生育特性、あるいは生理特 性を背景とした解説および提言を行った。

湿地の重要性がますます広く認知されるなかで、湿地林構成樹種を生理生態的に解 析した調査研究はきわめて少ない。本研究は、釧路湿原における植生のうち特に湿地 林において、構成樹種の生育特性と環境要因との関連を生理生態的に解析したもので ある。この新規性・独創性は湿地林構成樹種の分布、および生育におよぼす環境要因 の影響を、生理学的なストレス耐性・適応性機構解明の視点から詳細に解析したとこ ろにある。

釧路湿原に隣接する達古武湖周辺に永久調査区を設置し、樹高と胸高直径の毎木調 査を行うととともに、地盤高、pH、さらに土壌の酸欠状態を示す指標となりうる土 壌酸化還元電位

(Eh)

の測定を行った。その結果、地盤高の低下とともに土壌

Eh

の減 少を確認した。調査区内にはハンノキを優占種としてヤチダモ(Fraxinus mandshurica)、

ミズナラ(

Quercus crispula )、カラコギカエデ (Acer ginnala)

などが分布している。地盤 高が低く、土壌

Eh

が低下した場所ではハンノキとヤチダモのみが湿地林を構成して

(2)

いた。地盤高および土壌

Eh

は湿地中心に向かってさらに低下し、同様に冠水深も増 加するが、これにともなって両種の樹高と胸高直径も減少しており、もっとも冠水の 深い場所には低樹高のハンノキのみが分布していた。

釧路湿原での植生調査から冠水深度および冠水期間がハンノキの分布および成長に 影響を与えていることが示唆された。そこでハンノキの実生苗を用いて、(実験

2-1

)異 なる冠水深度がおよぼす影響、および(実験

2-2)

異なる冠水期間がおよぼす影響、の

2

種の実験を行い、冠水環境におけるハンノキ実生苗の成長と光合成活性の測定および形 態変化の観察を行った。

(実験 2-1,2)では冠水条件下のハンノキ実生苗において、水際部

における幹の肥大促進と不定根および萌芽シュートの発達促進が認められた。より深い 冠水区での光合成活性は処理後一時的に減少したが、不定根形成を主とする形態変化と ともに回復した。これらの結果から、ハンノキの冠水耐性には形態および組織構造の急 激な改変が極めて重要な役割を果たしており、それらの変化は

4

週間以上の継続的な冠 水条件下で誘起されることが明らかになった。また

2

週間以下の短い冠水条件下では、

酸欠によって低下した根系の機能復活が光合成回復の主要因となっていることを認め た。

植生調査(1)の結果から、ほぼ等しい冠水耐性と形態的順化能を持ちながらも、分布 域がやや異なるハンノキとヤチダモに着目し、両樹種の冠水耐性の微妙な差異を検討し た(実験

3)

。実験には両樹種の実生苗を用い、4月、7月、および

9

月の異なる時期に おけるストレス環境への反応性、および生育特性の樹種間比較を行った。その結果、ハ ンノキはすべての時期に成長および形態変化を示したが、ヤチダモの成長および形態変 化は7月には鈍化し、

9

月にはほとんど認められなかった。この結果、ハンノキでは形 態変化が成長期間を通じて進行するが、ヤチダモは成長初期の限られた時期にのみ現れ ることが明らかになった。

土壌冠水が植物におよぼす主なストレス要因は、酸欠によるエネルギー獲得の抑制と、

根圏に蓄積する有害物質の影響である。冠水によって生じた植物内の酸欠を緩和し、成 長と生存を維持するために植物は様々な形態的、生理的変化を示す。ハンノキの冠水耐 性獲得には不定根形成や通気組織の発達などの形態変化が非常に重要であることがわ かった。すなわち成長活性の低下した時期の冠水ストレスに対して、ヤチダモは形態変 化を示せず、ストレス環境に適応できなかった。これに対しハンノキは、生育期間中、

常に高い適応能を維持していた。この結果は、湿原におけるハンノキが、他の樹種と比 べてより冠水の深い環境でも生育可能であることを説明するものである。

釧路湿原の湿地林におけるハンノキの更新には、萌芽更新が主な更新形態と考えられ ている(新庄

1985)。本研究で設置した調査地でも同様に、萌芽によって更新したとみ

られる複数樹幹のハンノキが多く分布していた。モデル実験では冠水条件下でハンノキ の萌芽や不定根形成が促進され、また冠水深度の変動にこのような形態変化の幹上の位 置が変動した。これらの結果は、水位が異なっても、萌芽の発達や不定根形成が幹や根 株のあらゆる部位で起こりうる可能性を示唆している。ハンノキの冠水耐性に関わる主 要な形態変化は

4

週間以上の冠水環境で発達することから、水位の安定した冠水環境で は、ハンノキは恒常的な成長を維持できる。しかしながら釧路湿原では、季節や場所に よって水位の変動があり、同樹種はこれに応じてさまざまな形態的変化を示すため、多 様な構造を持つハンノキ林が形成される。ハンノキの分布と生育特性についてさらなる 考察を行うためには、形態変化と植物の内的条件、とくに代謝系や植物ホルモンとの関 連についてより詳細な研究が必要である。

参照

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