国語科の主張
著者 木下 聡美, 小野 祐一郎, 繁田 美帆
雑誌名 研究紀要 : 共に創りあげる授業
巻 20
ページ 4‑4
発行年 2020‑03
出版者 静岡大学教育学部附属静岡中学校
URL http://doi.org/10.14945/00027136
静岡大学教育学部附属静岡中学校 研究紀要 (第20号)
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国語科の主張
木下聡美 小野祐一郎 繁田美帆
1 教科で育みたい人間像
人は一人では生きていけません。一人一人が豊かで幸せに暮らす社会を実現するためには,他者との深 いかかわりが求められます。そのためには,自分の考えを相手に伝えたり,相手の考えを受け止めたりし ながら,よりよい人間関係を構築していくことが必要です。そこには,先人達が築き上げてきた言語文化 を基にした豊かなコミュニケーション力が欠かせません。
ここで言う豊かなコミュニケーション力とは,事実(叙述)を正確にとらえたうえで,自分が意図した ことを正確に伝えるためにどのような言葉を選択するのかという,言葉を吟味しながら他者に伝える力と,
他者の発した言葉に込められた思いを的確に理解しようとする,言葉を吟味しながら受け止める力の両方 を含みます。言葉の吟味とは,自他の思いや考え,さらには捉えまでを慮って比較・判断することであり,
結果として想像力や感受性を高め,他者との対話を通して自分について考えることにつながっていきます。
私たちは,子どもたちが言葉を介して,豊かなコミュニケーション力を育み「よりよい人間関係を構築 できる人間」に成長してほしいと願っています。
2 教科ならではの文化
私たちは文章を読んで感動したり,誰かの話に涙したりすることがあります。それは,心揺さぶられた 経験や思いを他者と共有したいという願いが込められた言葉が,聞き手の心に実感をもって響いてくるか らでしょう。そして,試行錯誤を繰り返して生み出された文章の構成や,精選された言葉に込められた語 り手の思いは,時代を越えてもなお共感されたり,問題提起したりすることもあるはずです。
普段行われる何気ない会話はもちろんのこと,歌,演劇,テレビ,インターネット,本,新聞など,私た ちが生きる世界は言葉があふれています。それらの言葉をどのように感じとるかは,その人が生きてきた 中で培ってきた言語感覚やさまざまな経験が大きな影響を与えているでしょう。私たちは自分の思いや考 えがより正しく他者に伝わるように言葉を吟味したり,他者の言葉を適切に受けとることができるように 言葉の意味を考えたり,多くの情報を様々な視点から捉え直したりすることがあります。さらには,作品
(言葉)にふれて抱いた思いを他者と伝え合うことで,自分の考えを深め,価値観を広げていくこともあ ります。私たちは作品(言葉)の世界に浸る営みを繰り返すことで言語感覚を磨き,創造力を育んだり,
感受性を豊かにしたりしていくのではないでしょうか。このように「創造力や感受性を働かせて作品(言 葉)の世界に浸る営み,言葉を吟味しながら自分の思いを発信していく営み,そしてそこから自分自身を 見つめ直していく営み」が「国語科ならではの文化」であると考えます。
3 授業づくりで大切にしていること
国語科ならではの文化を味わうためには,子どもたちがさまざまな作品と出会い,そこにつづられた言 葉を吟味することで,筆者や語り手,登場人物などの思いや考え方にひたることが大切だと考えています。
そこで私たちは,「題材化」を大切にして実践してきました。題材化とは,授業者が作品や教材(物語,
説明文,短歌等の詩歌,新聞記事等の言葉を用いて表現されたもの)と子どもたちをつなぎ,教科ならで はの文化を味わうことができるような授業を構想することです。魅力的な題材に子どもたちが出会い,本 質にせまる問いを共有することで,繰り返し叙述に戻って自分の考えの根拠を探したり,仲間の発言に耳 を傾けたりしながら主体的に取り組んでいくことができるでしょう。そして,問いを追求していく過程で は,仲間の考えを引き出したり,自分の考えを広げたりしていくような対話が生まれます。そのような学 びを繰り返していくことで,言葉に対する感性や表現力を磨き,題材に対する捉えや,自分の中にある物 事に対する価値観さえも変化させていくことにつながるはずです。
さらに,仲間と共に言葉を吟味しながら語り合い,考えを深めていくことを味わった経験のある子ども は,異なる考えをもつ他者の存在が自分にとって必要不可欠であることや,人と人との結びつきの大切さ を実感していくでしょう。言葉を吟味し,相手の思いや考えを慮るような豊かなコミュニケーション力を 育んでいくことで,子どもたちがよりよい人間関係をつくっていくことを願い,授業を構想しています。