セラミックスの破壊強さとその評価法に関する研究
著者 谷口 佳文
発行年 1991‑09‑28
URL http://hdl.handle.net/2297/30535
白====:=豊} }州〜
姜……1……姜…妻……美嚢……萎……董菱裂……
一割
戯}}
博 土 論 文
セラミックスの破壊強さと その評価法に関する研究
金沢大学大学院自然科学研究紅
谷口 {圭)之
目 次
第1章緒論 ・…1・・・・・…1川111・1・・…1・・...1。....I・..・.1、・_
1.1 研究の背景 … 1111・l1111・1・川・、・.1.・・、.・・.、.・_・.■・一1.
1.2 従来の研究の概要 ・・ll・1・ll・・… 川… l1111・・H・川11…1
1.3 本論文の構成 ・I・.・・1・・・・・・・・・・・・・・・・・・… I・.・・・・・・・・…1
第1章の参考文献 ・… 1・・ll・1・・H・・… 1・・11・1・川・1川111・1・■・・1・
1
1
2
8 10
第2章 セラミックスの曲げ強度とそのぱらっきの解析 1・..・…川・…
2.1 緒言 ・川・… 1川一 . . 一 I II . . I
2.2 強度試験 ・1川・1・・1・ 川 川 川 . . .
2.2.1 供試片 ・・・・・・・… 1… …川・・.・、・._、.、.._・.・.・
2.2.2 実験方法 川1・1・1・H・川・・ll・1・1・・・・・・・・・・・・・…..
2.3 実験結果および考察 ,・… .■.・1・.・・1… 1… ll..・・1・……・
2.3.1 ワイブル統計による強度分布の表示 ・・l1川・1・1川・.1
2.3.2 真応力の分布 ・・・・… 1・・・… 1・… 1・1・11 I . .
2.3.3 欠陥寸法と破壊強度の関係 ・・・… .・1…… …・1・11・.
2.3.4 有効体積とワイブル係数の関係11・・川1・H・lll…・・…
2.4 緒言 ・川・・川・・川1・・llll・川川1… 1・川・・1・l111…lll 第2章の参考文献 H川・1・…・・.・.… 1… .・ll… .・1・1・川・・1・川1
14 14 15 15 15 17 17 25 35 38 41 43
第3章 セラミックスの強度分布シミュレニション …1・….…1川川
3.1 緒言 ・川・・… 1・・1・ 川 川 H. 川川 I. . .
3.2 計算モデル ・川・1川・11・・… 川… 1・・11 . .. . .I .
3.2.1 試験片のモデル 川・・1… l H・・1・1川1・川・・1・川…
3.2.2 強度の計算法 1・川・川・・・・・・・・・・・… …・・………
3.3 強度分布関数の表示式の定式化 ・・川・川・川・・・・・・……1・
3.3.1 一様引張りの場合の強度分布関数 ・・・・・・・…….・1…
3.3.2 応力勾配がある場合の強度分布関数 H川・川川・…・
3.4 強度に下限値が存在しない場合の計算結果および考察 ・・…・・
45 45 46 46 49 52 52 54 57
3.4.1 引張りおよび曲げ強度の分布 1・川・・… .・・I・1・…1・・
3.4.2 平均強度と有効体積の関係 川.川・・1川・・川・1・・…
3.5 強度に下限値が存在する場合の計算結果および考察 …・・川1 3.5.1 引張りおよび曲げ強度の分布 1・旧1・1・1・… …川・l1 3.5.2 平均強度と有効体積の関係 ・・・・・・… 1・・・… …・・…・
3.6 緒言 ・・lH 1 ・ 川 川H . ...川川 川. 川. 川 川 第3章の参考文献 ・… 川… …・・・・・・・・・・・… 1・・川・・・・…1… 1・・
第4章 セラミックスの酌内応力拡大係数の簡便評価法 ・川・Il…・・1・・
4.1 緒言 川… 川川… 川1・・川・1川・ll・… 川 .川川.H 4.2 動的応力拡大係数の簡便評価式の導出 ・・・・… .川1川・・・…
4.2.1 衝撃三点曲げ試験片の変位と曲げモーメント .・川・1・・
4.2.2 動的応力拡大係数の評価法 ・・・・・・・・… 一・… 川I・…・
4.3 数値計算例 11・・1・・.・・. .. 川 I .I I川 . I
4.4 支持点反力の推定法 ・一・川… 1■・・.・■・… 1・川川.・ll・・川 4.5 緒言 1・川.川川 .. 川 . 川.. .. . .. 川 川 川H 付録(両端自由はりの衝撃応答関数) … ….H・・1・・1・1・・…川・・1・
第4章の参考文献 1・・.・・川…… …・・… ∵1・川… 川.……川・
57 62 64 64 71 73 75
76 76 77 77 80 81 86 91 92 103
第5章の参考文献 ・1・1・・1・・・… @ 1・1・・・… 1・・・… l1・・… 1… 1・・1… 130
第6章 アルミナの静的および動的破壊じん性値の評価 ・…一…・…・
6.1 緒言 ・…… ………… .・・・・・・… …1・・…1.・・………
6.2 実験方法 ・…… .・…… 1・・・・・… .・・1・・・・・… ………・1 6.2.1 供試片 ・…・・…・… 1・.・・・… H、川・・.、.、__...
6.2.2 静的三点曲げ試験 ・・・・・… .・・・・・・・・・・… ………・・
6.2.3 衝撃三点曲げ試験 ・・… .・・1・・… 一・・・… … . 川 6.3 実験結果および考察 … …・…・・・・・・・・… …・・川・一・・・…
6.3.1 静的破壊じん性値の測定結果 ・…・・1・………1・.…
6.3.2 動的破壊じん性値の測定結果 ・・・・・… ….… …・・…
6.4 緒言 H… …・・.・・…・…・・・・… .・・… …・・・… 1・..・・…
第6章の参考文献 ・・…..川・・・・……・・.…1・1・.・・・・….・・・・・…
第7章 総 括
謝 群
131 131 132 132 136 137 138 138 144 152 153
1 . . . . ・・・…@ 1・・・・・・・… 1… 155
・・・・・・・・… 1・1・・1… 1・・・・… 1… 1・… 11・・・・… 1・1・1・1・・1… 159
第5章 動的破壊じん性試験におけるオーバーハングの影響 1…Hl・…
(エポキシ試験片による検討)
5.1 緒言 ・.・.… . . 川 . 川川 .川川
5.2 実験方法 ・・・・… .・・… ・. . ... . . . 川 . ..
5.2.1 供試片 … 川川・川 ・ . . 川 I I
5.2.2 衝撃三点曲げ試験による動的破壊じん性値の測定法 … 5.2.3 衝撃引張り試験による動的破壊じん性値の測定法 ・川・
5.3 実験結果および考察 ・・1… 1・1・・・・・・・・・・… 川・川・・ ・H
5.3.1 衝撃三点曲げ試験結果 … 川・1川川・… 1・・……・・
5.3.2 衝撃引張り試験結果 ・・… 川・・・・… ..・. ... H..
5.4 幸吉言 ・・・… .. H. . ...... H .. ... .. .. . .
105
105 106 106 107 111 113 113 125 128
幸百■章 竈者 託言
1.1 研究の背景
近年,耐熱性,耐食性,耐摩耗性等に優れた各種のセラミックスが開発され,
金属,高分子材料と共に工業材料として利用されつつある{u.例えば,古くか ら使用されているアルミナは,点火プラグを始めとして工具,精密機器など各種 の分野で優れた実績を築いている.また,ジルコニアは他のセラミックスに比べ 高い破壊じん性値を有し,ハサミや包丁といった日常用品にまでその用途が広が っている.これらの酸化物系セラミックスに対し,窒化ケイ素,炭化ケイ素など の非酸化物系セラミックスは優れた高温特性を持つことから,ガソリンエンジン のターボチャージャーロータ(2},ディーゼルエンジンの副燃焼室川など高温用 部材として実用化されている.さらには,自動車エンジン{4) {5),ガスタービ
ン{6)I{7)のセラミックス化への研究開発も,現在,活発に進められている.
しかしながら,セラミックスはじん性が低くがつ強度のばらつきが大きいとい う欠点を同時に有し,この特性が主要な構造用部品への適用の大きな障害となっ ている.セラミックスは,金属材料に比べ硬くてもろい材料である.そのため,
塑性変形による局所的な応力集中の緩和はほとんど無く,その強度は内部や表面 に存在する欠陥に極めて敏感である.この構造敏感性が強度のぱらっきの原因で あり,信頼性を低下させる大きな要因となっている.したがって,セラミックス を広範な構造用部品として実用化するためには,製造から加工にいたるプロセス を厳密に制御しできるだけ大きな欠陥が生じないようにすると共に,その基本的 な特性である強度のぱらっきならびに破壊じん性の評価技術の確立が重要な課題
となってくる.
セラミックスの強度は内在する欠陥寸法に依存して大きくぱらっくため,その 応用に際して強度分布の確率統計的な取扱が不可欠である.現在,セラミックス の強度のぱらつきを表示する方法として,最弱リンク説に基づくワイブル分布
(8}が最も広く利用されている.ワイブル統計によれば,寸法や負荷方法の異な る試験片の強度データの予測や平均強度と有効体積の関係を表すことが可能であ
り,また,その分布の形状母数(ワイブル係数)は強度のぱらっきの程度を表す
指標として用いられている.この理論は,ワイブル係数が試験片寸法や負荷方法 に依存しない材料定数であることを前提としている.しかし,近年の研究におい てワイブル係数を一定とする仮定が疑問視されるデータ(9卜 川が報告されるよ うになり,これらの実験データを説明するためには,強度のぱらっきをさらに正 確に表す評価手法が必要となっている.
また,破壊じん性値は基本的な強度特性の一つであり,構造物の安全性を確保 するためには,その値を正確に把握しておく必要がある.セラミックスの静的荷 重に対する破壊じん性値の測定については,理論的,実験的に数多くの研究がな され,いくつかの測定法が提案されている.そして,これらの測定法の中から,
絶対評価法としてSEPB(Si㎎1e瓦dge Precracked Bea㎜)法{川一1引,簡便法とし てIF(Indentati㎝Fracture)法の2つが取り上げられ,ファインセラミックスの 破壊じん性試験方法JIS R1607一、。。。として規格化されている{川.一方,ガスタ ービンロータのように高速条件下で使用される部材や衝撃負荷を受ける構造物で は,動的破壊じん性値の評価が重要となってくる.セラミックスの動的確壌じん 性値の測定は,主として衝撃三点曲げ試験により行われているが,静的破壊じん 性値の測定結果に比べその数は極めて少ない.また,衝撃三点曲げ試験では負荷 時の試験片の支持点からの浮き上がりの問題(1ハI{18)なども指摘されており,
標準的な測定法はまだ確立されていないのが現状である.
セラミックス機械部品の強度設計においては,強度のばらつきが大きく,かっ もろいという特殊性の考慮が必要であることの他,疲労特性,熱衝撃特性など多 くの解明すべき点が残されている.本研究は,これらの諸問題点の中から上記の 強度のぱらっきと破壊じん性(特に動的破壊じん性)に焦点をあて,その評価法
に関して吟味,検討することを主な目的としている.
1.2 従来の研究の概1要
セラミックスの強度特性に関して,近年,多くの報告がなされるようになって きた.ここでは,これらの中から本研究の主目的である強度のぱらっきと破壊じ ん性の評価法に関するこれまでの研究を通観してみる.
(1)強度のぱらっきの評価に関する従来の研究
セラミックスの強度の確率統計的解析には,最弱リンクモデルに基づく次のワ イブル分布が使用されている{川.
σ■σ凹
・(σ・)・1一…1一∫、( )州 (1・1)
σ0
ここで,P(σ。)は破壊確率,σ。は試験片内の最大応力,σは試験片内の応力,㎜,
σ。,σ。は,それぞれ形状母数(ワイブル係数),位置母数,尺度母数,Vは試 験片の体積である.通常はσ、・Oとして,
σf
P(σf)=1−exP庄一( )㎜V,1 (1.2)
σ0
V、・∫。(σ/σ。)ndV (有効体積)
が用いられる.式(1.1),(1.2)は,それぞれ三母数ワイブル分布,二母数ワイブ ル分布と呼ばれている.なお,セラミックスの強度分布は二重指数分布に従うと いう主張もある{州が,二重指数分布では低確率域において強度が負になり,現 実のデータと合致しなくなる.そのため,二重指数分布による強度データの整理 はほとんど行われていない.
一般に,試験片寸法が大きくなると大きな欠陥を含む確率が増加し,強度は低 下する.このような強度の寸法効果は,式(1.2)の有効体積V,を用いて次式で表 すことができる{川.
高/6■・(V,1/V,。)1/㎜ (1.3)
ここで,6■,高は異なる2種類の試験片の平均強度,V、。,V。。は有効体積であ る.また,表面欠陥が破壊の起点となる場合には,有効表面積をS。。,S、。として,
同様に
撮/高・(S,、/S、。)1/口 (1.4)
と表される.松井{22)は,常圧焼結室化ケイ索の四点曲げ,ねじり,引粥り試験 を行い,式(1.3)によって寸法効果を説明できることを示している.一方,松末
らは,ホットプレス窒化ケイ素伽,,常圧焼結炭化ケイ素および反応焼結窒化ケ イ素 川を用い,三点曲げ強度試験結果から式(1.3)あるいほ式(1.4)によって有 効体積の異なる試験片の強度の推定を試みているが,推定値と実験値は一致しな い場合が多いようである.これらの二母数ワイブル分布による取扱いの他に,強
度分布を三母数ワイブル分布で表示したときの寸法効果に関する研究もDanie1 2引・{2引ら,Seshadri{27)らによってなされている.
式(1.2)〜(1.4)からわかるように,ワイブル統計により寸法効果を説明するた めには,ワイブル係数皿を正確に求めることが重要である.また,ワイブル係数 は強度のぱらっきの度合を表す指標でもあり,セラミックス材料の晶質向上のた めの目標値としても使用されている{州.この値は材料定数であると考えられて おり,限られた数の試験データから母集団のワイブル係数を推定する方法につい て検討が行われている.川合ら{州はモンテカルロシミュレーションにより,ワ イブル係数の推定値の平均と標準偏差が試料数によってどのように変化するかを 示し,精度良く推定するためには40本以上の試料数が必要であることを示してい
る.松井{州は有効体積の異なる数種の試験片の平均強度から,式(1.3)の関係 を利用してワイブル係数を推定する方法を示している.鈴木ほ1)によって提案さ れた方法も,基本的な考え方は松井の方法と同じである.また,田中ら{32ザ
{州は,三母数ワイブル分布の各種母数推定法(最ゆう法,最小二乗法,3点法,
相関係数法)の推定精度を比較し,その結果,相関係数法が最も良好な結果を与 えることを示している.
セラミックスの破壊は,内部,表面あるいはかどに存在する欠陥が破壊の起点 となるが,上に述べた研究成果は,これらのうち一種の破壊の起点のみから破壊 が生じる場合の単一モードワイブル分布に関するものである.しかし,強度試験 では,試験片毎に破壊の起点が異なることが多い.セラミックスの内部欠陥は製 造プロセスに由来する材料固有の欠陥であるのに対し,表面,かどに存在する欠 陥には,内部欠陥が切断されたことにより表面に現れたものの他に,加工あるい は環境に起因する損傷が含まれる.したがって,表面あるいはかどに存在する欠 陥は内部欠陥とは性質の異なった分布となり,それゆえ,複数の種類の欠陥が破 壊の起点として混在している場合には,特に多重モードワイブル分布を適用する ことが必要となってくる{州.多重モードワイブル分布の母数の推定法に関して は松尾らの研究がある(州、{州.しかし,強度分布を多重モードワイブル分布 で表示するためには,破壊の起点を特定することが必要であり,また,母数推定 のための計算が煩雑であることから,通常は単一モードワイブル分布で処理され,
それを適用した報告はほとんど見あたらない.
ところで,セラミックスの強度試験には種々の方法があるが,試験法の簡便さ から曲げ試験が一般に行われている.しかし,曲げ試験のように試験片内に応力 勾配がある場合には必ずしも応力の最大点で破壊が生ずるとは限らず,最大応力 点からずれた位置で破壊が生ずる{州一州.そのため最大応力を用いた破壊強 度は,真の破壊強度よりも大きく評価されることになる.また,破壊力学的取扱 の点からも,真の破壊強度が必要になる場合が多い.セラミックスの強度は.
JIS R1601一、。。、によって最大応力で表示することが定められている 40}が,上記 の観点から,破壊位置における真の破壊応力を知ることも重要である.ぜい性材 料の破壊応力と破壊位置の確率論的取扱にはFi㎜ieら{川の研究があり,さらに,
松尾ら{42,によって多重モードワイブル分布に拡張した定式化が行われている.
また,松尾らはこの理論を応用し,破壊位置データからのワイブル係数の推定法
{43),破壊源となった欠陥寸法の分布の推定法{44卜{州についても論じている.
以上,ワイブル統計による強度のぱらっきの評価に関して述べてきた.しかし,
ワイブル統計では,ワイブル係数が試験片寸法や負荷方法に依存しない材料定数 であることを前提としているが,最近の報告にはその仮定が疑問視されるデータ がいくつか報告されている.例えば,大司ら{川はホットプレス窒化ケイ素の三 点曲げ試験と引張り試験を行い,両試験から得られたワイブル係数には明かに差 があることを示している.Bansa1ら{9グ{川,山田ら{1u,原田ら{川の実験で も,有効体積の相違によりワイブル係数が異なることが報告されている.これら の実験結果によると,有効体積の減少に伴ってワイブル係数は増加する傾向がみ られる.また,曲げ試験結果のワイブルプロットは破壊確率が約10完を境に勾配 が異なり,そのため,強度データは低確率域でワイブル分布からずれを生じるこ
とが指摘されている{12〕一州.これらの問題点に関して,大司らO引は説明を 試みているが,明確な結論はまだ得られていない.
(2)破壊じん性値の評価に関する従来の研究
セラミックスの静的破壊じん性値の評価法に関しては,数多くの研究がなされ,
いくつかの測定法,評価式が提案されている.これまでに行われた測定法には次 のものがある.
・SEN8(Sing1e醐ge Notched Be㎝)法{ ,
・DT(Doub1e Torsi㎝)法{州・{川 ・DCB(Doub1e Canti1ever Beam)法(川 ・㎝(Chevr㎝Notched Bea㎜)法{州
.CSF(C㎝tro11ed Surface F1州)法(53) {川 ・SEPB(Sing1e Edge Precracked Bea皿)法{川・(州 ・IF(Indentati㎝Fracture)法
以上のうち,DT法は,主に応力拡大係数とき裂進展速度の関係を求めるのに用い られる.IF法は,試験片表面にビッカース圧子を押し付け,生じた圧こんとき裂 の長さから破壊・じん性値K。を求める簡便な方法であるが,破壊じん性値の計算式 には,次のような多くの式が提案されている.
・L舳nらの式(州
(K。/H.a0 5)(H。/E)0 5・O.028(c/a)一L5
・三好らの式{州
Kc・O.018(E/H。)0.5P/c1・5
・Harsha11らの式(州
Kc=(κ、十λ=、)P/c1.5 κ。十λ=、=0,058
・田中の式{州
K。・O.0725P/c1−5
・AnStiSらの式 川
K。・O.O16(瓦/H。)o・5p/c1・5
・Ev㎝sらの式{川
K。・(0,055/3)(3瓦/H。)o・4H.ao・4109(8.4a/c)
ただし,Eはヤング率,H。はビッカース硬さ,Pは圧手押し込み荷重,cはき裂長 さの半長,aは圧こんの対角線長さの半長である.
このように種々の方法が提案されており,各種試験法,評価式による破壊じん 性値の比較も行われている{州 {62, {6引.しかし,いずれの試験法,評価式を 利用すれば良いのか混乱をきたしていたが,最近,JIS R1607一。。。。で,SE開法を 破壊じん性値測定法の基本とし,IF法はSEPB法に準じる試験法とすることが規 定された.なお,JISではIF法の計算式として
K。・0,018(E/H。)0 5P/c1 5
が採用されている.
一方,セラミックスの動的破壊じん性値の測定例は,静的破壊じん性値の測定 例に比べ極めて少ない.セラミックスの動的確壌じん性値の測定には,計装化シ
ャルピー試験および落錘試験による衝撃三点曲げ試験が主として行われている.
計装化シャルピー試験による測定には,Abeら,小林らの研究がある.Abeら
(64}は,各種炭化ケイ素切欠き試験片の動的破壊じん性値を測定し,静的な場合 も動的な場合も破壊じん性値はほぼ同じであることを示している.しかし,破壊 じん性値は,荷重一時間曲線の最大荷重から静的な公式を用いて算出した値であ り,慣性力による動的効果は考慮されていない.また,小林ら{川I{66,は,
Impact Resp㎝se Curve法を適用し,窒化ケイ素と部分安定化ジルコニア子き裂 試験片の動的破壊じん性値を測定している.そして,いずれの試験片も応力拡大 係数速度が105〜10叩Pa/m/secの範囲で,動的破壊じん性値が急激な上昇を示す
という結果を得ている.
落錘試験によるセラミックスの動的破壊じん性値の測定は,Mendirattaら{川 による研究が最初のようである.Hendirattaらは,ヌープ圧子によって導入した 半円状き製を持っホットプレス窒化ケイ素を使用し,室温と130ポCにおける動的 破壊じん性値の評価を試みている.同様な実験が,G㎝czyら{6引によって行われ ているが,いずれの実験も静的公式により破壊じん性値を求めたものである.
最近,坂田ら{69)は,落錘式の一点曲げ試験装置を開発し,室温から1200℃ま での温度範囲で炭化ケイ素切欠き試験片の動的破壊じん性値を測定している.そ の結果,炭化ケイ素の破壊じん性値には負荷速度ならびに温度依存性がほとんど 見られないことを示している.さらに,アルミナおよびアルミナージルコニア複 合材料の動的破壊じん性値も測定し,負荷速度の増加と共に破壊じん性値は上昇 するという結果を得ている{70}.また,岸ら{川.(72,は,試験片のき裂先端近 傍に貼付したひずみゲージから直接動的破壊じん性値を求めるひずみゲージ法を 用いて各種セラミック材料の破壊じん性値の負荷速度依存性を調べている.その 結果によると,アルミナ,ジルコニアは,負荷速度の増加と共に破壊じん性値は 上昇するが,窒化ケイ素,サイアロン,炭化ケイ素では,負荷速度に関係なくほ ぽ一定となっている.窒化ケイ素に対するこの結果は,先の小林らの結果とは異 なる傾向である.
これらの研究によって,代表的な構造用セラミックスの破壊じん性値の負荷速 度依存性はある程度明かとなった.しかし,中には互いに矛盾する結果も見られ,
動的破壊じん性値の標準的は評価法の確立が必要であると思われる.
1.3 本論文の構成
本研究は,セラミックスの構造用部材への実用化に際して大きな障害となって いる「強度のぱらっぎが大きい」,「もろく衝撃に対して弱い」という欠点に着 目し,その強度特性の評価法について実験的,理論的に検討することを目的とし ている.本論文は7つの章から成り,第2章と第3章で強度のぱらっきの評価,
第4章〜第6章で動的破壊じん性値の評価を取り扱っている.以下,各章の内容 についてその概要を述べる.
第2章『セラミックスの曲げ強度とそのぱらっきの解析』では,常圧焼結窒化 ケイ素および部分安定化ジルコニア角棒とジルコニア丸棒の三点曲げ試験を行い,
その破壊強度のぱらっぎ特性について,ワイブル統計により種々の観点から確率 統計的検討を加えている.強度分布を多重モードワイブル分布あるいは単一モー ドワイブル分布で表示したときの母数を用い,応力および破壊位置の確率論によ って真応力の分布(破壊位置における応力で強度を表したときの分布)および破 壊位置の分布を推定し,実験値との比較を行っている.また,破壊の起点となっ た欠陥の寸法と強度との関係について破壊力学的観点から考察している.次いで,
ジルコニア丸棒を用いて,試験片寸法,負荷方法を変えて曲げ試験を行い,有効 体積の相連によるワイブル係数の変化を調べている.そして,その関係について,
欠陥寸法と強度との関係を基に定性的説明を試みている.
第3章『セラミックスの強度分布シミュレーション』では,強度分布特性をワ イブル統計では十分に説明できないような実験データが報告されるようになって きたことから,計算機を用いたセラミックスの破壊シミュレーションにより各種 寸法試験片の三点曲げ,四点曲げ,引張り強度の分布を求め,寸法効果による強 度分布および平均強度ρ変化について検討している.計算モデルは,強度に下限 値が存在しない場合(強度の下限値が0となる場合)と強度に下睡値が存在する 場合を扱っている.さらに,シミュレーションモデルに対する強度分布関数を導
出し,ワイブル分布に代わる強度分布の表示式を提案している・そして,この強 度分布表示式を基に,寸法効果によってワイブル係数が変化する理由および有効 体積と平均強度の関係について検討している.
第4章rセラミ・ソクスの動的応力拡大係数の簡便評価法』では,衝撃三点曲げ 試験によりセラミックスの動的破壊じん性値を求める場合に必要となる動的応力 拡大係数の簡便評価式を導出している.導出した簡便式には,衝撃負荷時の試験 片の支持点からの浮き上がりおよび支持点と再接触後の反力が考慮されている.
動的応力拡大係数の評価法にはKishi㎜otoら(川の方法を利用し,Timoshenkoは り理論に基づき解析を行っている.そして,B6h㎜eら{川の実験結果を対象に,
動的応力拡大係数の簡便式による評価および動的有限要素解析を実施し,実験値,
有限要素解析結果との比較によりその有効性を示している.さらに,一般の衝撃 三点曲げ試験では支持点反力の測定が困難な場合が多いことを考慮し,支持点反 力の推定法も提案している.
第5章『動的破壊じん性試験におけるオーバーハングの影響』では,衝撃三点 曲げ試験片の標準的な寸法がまだ定められていないことから,オーバーハングの 相違による衝撃負荷時の試験片の動的挙動の変化(動的応力拡大係数,破壊開始 時間および試験片の支持点からの浮き上がり時間の変化)を,エポキシ試験片を 用いて調べている.動的応力拡大係数の測定には,動光弾性法とひずみゲージ法 を利用し,これらの測定結果と第4章で導出した簡便式による計算結果との比較,
検討をしている.次いで,衝撃引張り試験により動的破壊じん性値を測定し,衝 撃三点曲げ試験により得られた値との比較も行っている.
第6章『アルミナの静的および動的破壊じん性値の評価』では,第4章と第5 章の検討結果を基に,三点曲げ試験によるアルミナの静的および動的破壊じん性 試験を行い,破壊じん性値の負荷速度依存性について調べている.静的確壌じん 性試験では三点曲げ試験法とIF法による測定値の比較をすると共に,三点曲げ試 験法による静的破壊じん性値の測定の際に観察された荷重とき裂先端近傍のひず みとの関係について検討を加えている.また,衝撃三点曲げ試験では,動的応力 拡大係数の測定値と簡便式による計算値との比較を行っている.
第7章r総括』では,本研究により得られた主要な研究成果および緒論を総括
して述べてい・る.
第1章の参考文献
(1)例えば,奥田博,平井敏雄,上垣外修己編, 構造材料セラミクス (1987)
オーム社.
(2)伊藤高根,日本機械学会講習会教材 構造用ファインセラミックスの設計
技術 ,No.890−77,p.1(1989).
(3)河本洋,機械の研究,40,131(1988).
(4)河村英男,日本学術振興会将来加工技術第136委員会第3部会第32回研究会 資料,p.21(1989).
(5)小松康彦,日本機械学会東海支部第61回講習会教材{新素材の用途拡大と その信頼性 ,p.10(1988).
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第2章
2.1 繕 言
セラミックスの曲げ強度と そのぱらっきの解析
第1章に述べたように,構造用セラミックスは金属材料に比べ優れた機械的性 質を有する反面,極めてもろく,強度のばらつきが大きいという欠点を同時に持
っている.そのため,セラミックス構造部材の信頼性を確保するためには,強度 のぱらっきの確率統計的解析が不可欠である.従来,セラミックスのようなぜい 性材料の破壊の確率的取扱にはワイブル分布が一般に用いられ,強度のぱらっき 特性や寸法効果を説明する理論として知られている.
本章では,このワイブル統計解析により,常圧焼結窒化ケイ素(Si.N。)角棒,
部分安定化ジルコニア(PSZ)角棒およびジルコニア(ZrO。)丸棒の三点曲げ強度試 験データについて種々の観点から確率続計的検討を加えた結果を示している.
セラミックスの曲げ強度は,試験片内に生ずる最大応力(以下,公称応力と呼 ぶ)で表示することがJIS R1601一。。。。で定められている.ここでは,先ず公称応 力で各試験片の強度を表示したときの強度分布に多重モードワイブル分布あるい は単一モードワイブル分布を適用し,その母数の推定を行った.一方,曲げ試験 のように試験片内に応力勾配がある場合には,必ずしも応力の最大点で破壊が生 ずるとは限らず,最大応力点からずれた位置で破壊が生ずる.すなわち,最大応 力点から少しずれた位置に大きな欠陥が存在すれば,そこが破壊の起点となる.
この破壊位置のぱらっきおよび破壊位置における応力(以下,真応力と呼ぶ)で 試験片の強度を表したときの強度分布を公称応力の分布データから推定し,実験 値との比較を行った結果も示している.
さらに,走査型電子顕微鏡により破壊の起点となった欠陥の大きさを調べ,欠 陥寸法と強度との関係について検討した.また,ZrO。丸棒については,スパン長 さを変えた三点曲げ試験および四点曲げ試験を行い,寸法効果によるワイブル係 数の変化を調べた.そして,ワイブル係数が有効体積によって変化する理由につ
いて,欠陥寸法と強度との関係を基に定性的説明を試みた.
2.2 強度試験 2.2.1 供試片
供試材は,Si.N。角棒(日本特殊陶業(株)製),PSZ角棒(東レ(株)製),
Zr0。丸棒(大竹碍子(株)製)である.Si.N。,PSZ角棒の三点曲げ試験片寸法は いずれも断面4x5㎜,長さ24㎜で,試験片の各面はお200のダイヤモンド砥石で研 削されている.
Si.N。,PSZ角棒については,IF(Indentation Fracture)法,CSF(Contro11ed Surface F1州)法およびSENB(Sing1e瓦dge Notched Bea皿)法を用いて破壊じん性 値の測定を行った.これらの破壊じん性値測定用試験片には,研削後さらに次の
ような加工を施した.IF法とCSF法による測定に供した試験片表面は粒度1μmの ダイヤモンドペーストで研磨し,その表面にビッカース圧子により圧こんを導入
した.また,一部の試験片については,圧こん導入後,真空中にて80ぴCで2時間 保持後炉冷という熱処理を行い,CSF法による測定(CSF(HT)法として区別する)
に供した.SENB法に用いた試験片には,幅約O.2㎜の切欠きを導入した.
Zr0。丸棒試験片は直径2.65㎜,長さ25㎜と45㎜の2種類である.この試験片は,
押出し成形後焼結したままのものであり,表面研削は施していない.
2.2.2 実験方法
(1)曲げ試験
Si.N。,PSZ角棒の三点曲げ試験は,図2.1に示すようにスパン2L・20㎜で行った.
L L
y X
2L
b=4mm
2h=5mm 2L=20mm口豆 以
図2.1 Si。出,PSZ角榛試験片の形状寸法
L L
X
2L
2R=2.65mm
2L=16mm
図2.2 Zr0。丸棒試験片の形状寸法
負荷速度は,10㎝Pa/sec(公称応力)である.破断後,走査型電子顕微鏡により 破壊の起点となった欠陥を観察すると共に,その欠陥の大きさおよび位置(図 2.1のx,y方向の位置)を測定した.
長さ25㎜のZrO。丸棒の三点曲げ試験は,図2.2に示すようにスパン2L・16㎜で行 った.負荷速度は,2㎝Pa/sec(公称応力)で,破断後の破壊位置は図2.2のx方 向について測定した.長さ45㎜の試験片では,スパンを30㎜とした三点曲げ試験 および外部スバン30㎜,内部スパン10㎜とした四点曲げ試験を行った.
(2)破壊じん性試験
IF法による破壊じん性値K。の測定は,ビッカース圧手押し込み荷重PをSi.N。で は98,196,294,392,49㎝の5とおり,PSZでは196,294,490,980Nの4とお りに変えて行った.IF法には,従来,多岐にわたる破壊じん性値の評価式が提案 されているが,ここでは次のAnstisらの式{u,三好らの式ωおよびNiiharaら の式(3工により算出した.ビッカース圧子を試験片表面に押し込むと,Si.N。には メディアンクラック(図2.3(a)),PSZにはPa1㎜qvist型クラック(図2.3(b))が 生ずる{引.AnStiSらの式と三好らの式はメディアンクラックに対する評価式で あり,Niiharaらの式はPa1nWist型クラックに対する評価式も含んでいる.
AnStiSらの式
K・・0,016(E/H・)o・5p!c1・5 (2.1)
三好らの式
K・・O.018(E/H・)o・5p/c1・5 (2.2)
撃撃撃P
P→糾←1
1 1 ・
u
■・一一一・
(O) (b)
図2.3 ビッカース圧手押し込みによるメディアンクラック(a)と Pa1nqvistクラック(b)
Niiharaらの式
・メディアンクラック (c/a≧2.5)
(Kcφ/Hva0 5)(Hv/Eφ)0.4=O.129(c/a)一1.5 (2.3)
・Pa1mqvist型クラック (9/a≦2.5)
(Kcφ/Hva0 5)(Hv/亙φ)0.4:O.035(9/a)一0 5 (2.4)
ここで,a,c,2は図2.3に示すとうりで,Fはヤング率,H。はビッカース硬さ,
φは係数(φ≒3)である.
CSF法およびSENB法では,三点曲げあるいは四点曲げ負荷を与え破壊じん性値 を測定した.三点曲げ試験はスパン20㎜,四点曲げ試験は外部スパン20㎜,内部 スパン10㎜として行った.
なお,以上の試験はすべて室温大気中にて実施した.
2.3 実験結果および考察
2.3.1 ワイブル統計による聴度分布の表示
(1)Si.N。,PSZ角棒の三点曲げ強度分布
Si.N。,PSZ角棒の三点曲げ強度のワイブルプロットを,それぞれ図2.4と図2.5 に○印で示す.図の強度は公称応力で表した値であり,累積破壊確率は次の平均 ランク法によってプロットしている.
N
」
⑪
」 コ
←
O
←
O
一、
.OO
.o
◎
1
」 99.599 9590 70 50 30 10 51 0.5
Si3N4
O
OO O
99,5 99 ^90
×95
70」
⑩
一三」 50
。 30 ト
←◎
10>
←1=1 5 石
O
.◎
化 13
0.5
400
図2.4
500 600 700 800 900 1000
Stress σMPo
,
Si.N。角棒の三点曲げ試験における 公称応力のワイブルプロット
PSZ o O
◎
◎
◎
0
700
図2.5
800 900 1000 1100 1200 1300
Stress σ,MPo
PSZ角棒の三点曲げ試験における 公称応力のワイブルプロット
i
P一・ (25)
n+1
ただし,nはデータ数,iは順序数(強度を小さい順に並べた順序),P、はi番目 のデータの累積破壊確率である.試験片本数はいずれもn・20である.
各試験片の破面を走査型電子顕微鏡により観察した結果,内部欠陥,表面欠陥 およぴかどに存在する欠陥の3種類の破壊源より破壊が生じていることが確認さ れた.破面観察より得られたSi.N。とPSZの破壊の起点とその度数を表2.1に示す.
このように,複数の破壊の起点が混在する場合には,破壊強度の分布P(σ。)は 次式の多重モードワイブル分布によって表される川.
P(σf):1−exp(一ΣBi) (i=1,2,3) (2.6)
i
Biは破壊の危険度(Risk of RuPture)と呼ばれ,二母数ワイブル分布を適用する と,Biは次のようになる.
B1=V、(σf/σo1)ml B2:A、(σf/σ02)m2
B3=L、(σf/σ03)m3 (2.7)
ここで,mi,σ。i(i・1,2,3)は,それぞれ形状母数(ワイブル係数),尺度母数 であり,添字iは,1:内部,2:表面,3:かどを表している.また,V、,A、,L、は,
表2.1 Si.N。,PSZ角榛試験片の 破壊の起点とその度数
Frequency Type of fracture
@ Orユ91n Si3N4 PSZ
Subsurface 8 4
Surface 1 9
Corner 7 4
Indistict 4 3
Tota1 20 20
それぞれ,有効体積,有効表面積,有効長さで,図2,1に示す形状寸法の三点曲 げ試験片の場合には,次式により与えられる.
y、・2bhL/(皿。斗1)2 A,・2bL/(㎜。斗1)
L。・4L/(㎜・十1) (2.8)
なお,上式の有効表面積A、は,はりの側面からの破壊を無視できるものとして底 面からの破壊のみを考慮して算出している.
破壊の起点が1種類の場合に対する単一モードニ母数ワイブル分布では,最ゆ う法あるいは最小二乗法によって母数皿,σ。の推定を容易に行える{6}が,多重 モードワイブル分布の母数mi,σ・iの推定にはこれに比べ煩雑な計算を伴う.松 尾らは,多重モードワイブル分布の母数推定法について検討し,実験で得られた データ量によっていくつかの方法を提案している{7卜{9}.その中で,本実験の ように破壊の起点と破壊応力(公称応力)が既知の場合には多段最ゆう法{ηの適 用が可能であり,また,この推定法が最も高い精度で母数を推定できることが明 らかにされている.以下に,多段最ゆう法による母数推定法の概要を示しておく.
強度分布が多重モードワイブル分布で表されるとき,破壊応力と破壊の起点が 全て既知であるデータに対するゆう度関数Lは次式で与えられる.
n! 3 L・ n L1 3 i:1
1]1(ni!)
i:1
n 3 nI
L1=nhi(σfリ)n nR一(σflj)
j・1 1・1j・1 1≠i
ただし,
i :破壊の起点の種類(i・1,2,3)
ni :破壊の起点がiのデータ数
n :総データ数(n二n、十n。十n。)
σ。リ:破壊の起点がiの試験片の強度(j・1,2・…ni)
R量 :信頼度, R一・eXp(一B一)
(2.9)
dRi dBi
h、 :密度関数, hl・一 ・ exP(一Bi)
dσ。 dσ。
である.式(2.9)のゆう度関数が最大となる,すなわち・各Liを最大にする母数 の組(mi,σ。i)が最ゆう推定量となる・
例えば,内部欠陥が破壊の起点である場合(i・1)について考えると・式(2・9)の L、は次のようになる.
n1 n2 n3
L、:nh1(σf,j)nR、(σ、2j)nR、(σf3j) (2.10)
j・1 j・1 j・1
両辺の対数をとると,次式となる・
n1 n2 n3
2nL、:Σ9nh、(σ、、j)十Σ9nR1(σf2j)十Σ9nR1(σf3j) (2.11)
j・1 j・1 j・1
上式に
σfij
R、(σ、、、)=exp圧_( )㎜1V、】 (2.12)
σ01
σfij
h、(σ、、j)=㎜、σ。、一n1σfij㎜1 1V,exp庄一( )m1VJ (2.13)
σ01 を代入すると,
nl n
gnL1:n、(2n皿r㎜19nσo、十2nV,)十(皿1−1)Σ9nσf1j−V。σ01一㎜1Σσf」n1 j・1 j・1
(2.14)
となる.式(2.14)の値を最大にする㎜、,σ。。を求めるため,
agnL。 δ9nL、
・O, ・O (2・15)
a㎜。 aσ01
とおくと,次の最ゆう方程式が得られる・
n
Σσfj皿12nσfj n. n, j・1
一十Σ2nσf1j−n1 :0
㎜1 j二1 n Σσ。j口1 j:1 V. n
σo、:(一 Σσfj口1)1/口1 (2・16)
nl j=1
式(2.16)の第1式からn。が求琴り,これを第2式に代入するとσ。、が計算される.
表面欠陥,かど部の欠陥が破壊の起点となる場合(i・2,3)についても,同様な操 作により最ゆう方程式を求めることができる.
以上述べた多段最ゆう法は,破壊の起点が全て既知である場合に適用が可能で ある.しかし,表2.1に示すように,本実験で得られたデータには破壊の起点が 不明なデータが含まれている.このように破壊の起点が不明なデータが含まれる 場合の母数の推定には,EMアルゴリズム{8}が利用できる.EMアルゴリズム による母数推定の手順は,次のとおりである.
(i) 破壊の起点が既知のデータのみを集めて,多段最ゆう法により㎜、,σ。、
(i・1,2,3)を求め,山,σ。iの初期値を仮定する.
(ii)破壊の起点が不明なデータに対して,応力σ、で破壊したという条件下で の各破壊の起点に対する破壊原因確率δi(i・1,2,3)を次式により求める.
(Eスナッフ ) λ一(σ。)
δi: (2.17)
3
Σλi(σ。)
i:1
ここで,λi(σ。)は故障率で hi(σf) dB一
λ1(σ・)・ ・ (2.18)
Ri(σ。) dσ。
である.
(iii)破壊の起点が不明なデータを含む場合のゆう度関数は次式で与えられ,
n1 3 nI n.
Ll:mi(σ川)■ml(σ川)■hi(σ。、)δlR、(σ、、)用 (2.19)
j=1 1:1j:1 j=1 1≠i
L量を最大にする山,σo量を
a2nLl a2nL1
:0・ ・O (2.20)
a山 aσ。量
とおいて求める.(Mステップ)
ただし,n・ほ破壊の起点が不明なデータの数である.
ゆう度開教が式(2.19)で与えられるとき,例えば内部欠陥からの破壊に関
(iV)
する最ゆう方程式を示すと次のようになる.
n n
Σδ1.jΣσfj−olgnσfj n δ。.j n j:1 j:1
Σ 十Σδ1.9nσfj一 :0 j・1 ㎜。 j・1 .n
Σσ。j回1 j=1
V. n
σoI:( Σσfj皿1)1/皿1 (2.21)
n j=1 Σδ。.j j:1
ここで,nはデータの総数(n・n。州。十n。十n。),
、、、、、/l ::ll,ll .lll、加州,)
λ。.j
/λ、、、λ、、、、,.、(j:n州n・十 ...n)
㎜1 σfj O12 σf」
λ1j: ( )u1−1V、 , λ2j:一( )㎜2−1A。
σ01 σ01 σ02 σ02 ㎜3 σfj
λ3j: (一)皿3−1L. (2.22)
σ03 σ03
である.
δiの算出に用いた㎜i,σ。iの仮定値と(iii)で求めた山,σ。iが等しくな るまで(ii),(iii)の計算を繰り返す.
このEMアルゴリズムを用いて多段最ゆう法により算出した母数の推定値を
表2.2 多段最ゆう法による母数の推定値
報eibu11oodu1us Sca1e Paraneter SPecinen
正ffectiveソ。1une iarea,1en8th)
山 n2 ■, σ01 σ02 σ0, V. 糺 L.
961 2.21 2.12 17.9 1026
Si3N4 8.5
PSZ 24.0 12.6 16.2 1183 1414 1347 0.32 5.89 2.33