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英語学士力と教育改善モデル   大学英語教育担当者の役割

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  英語学士力と教育改善モデル(田中)

論  文

英語学士力と教育改善モデル

   大学英語教育担当者の役割   

 

田   中   宏   明

(京都学園大学経営学部論集 第21巻第 1 号 2011年10月 73頁〜102頁)

 要約:本稿では私立大学情報教育協会英語学教育 FD/ICT 活用研究委員会 の議論に基づいて,英語学士力の定義と具体的な授業改善モデルを提案してい る。今日の国際社会では,企業の海外進出の進展,国際ビジネスの促進や実践 的な異文化理解が求められている。それにともない英語を中心としたグローバ ル戦略としての言語教育政策,教育現場でのあらたな教育目標の設定や教育方 法の改善・開発が課題となっている。大学は,学習結果を生涯学習に繋げるた めに,知情意の総合力を育む教育を行い,世界のどこへ行っても自分で暮らし ていける人材育成を行い,伸びたいと思う学生が伸びられる教育を提供しなけ ればならない。その実現のためには,質保障のための 3 つのポリシーを具体化 した学問の社会化を行い,英語関連科目においても,学際的な教育の提供と学 生たちの継続的な自律学習を支援するための 4 年間を通したカリキュラムデザ インを作成し,協働教育と協働作業を促進させるべきである。授業デザインと しても,協働して課題解決にあたれるような教育環境を創造して,学生たちの アティチュードやモチベーションの持続性なども考慮に入れた授業をめざすこ とが大切であり,指導にあたっては上級学年生をファシリテータとして指導者 に加えて,組織的かつきめ細やかな教育を行う必要がある。それによって 1 単 位75時間の学習が補完され,教育の質保障が実現されるのである。

 キーワード:高大接続と社会接続・新学習指導要領と学問の社会化・ 3 つの ポリシー(アドミッションポリシー・ディプロマポリシー・カリキュラムポリ シー)・英語学士力と教育改善モデル・協働教育と協働学習・ICT の活用と効

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は じ め に

 今日の国際社会は,その名が示すとおり,国境や言語の枠組みを越えて活動 が進展しており,それにともない企業のグローバル化だけでなく,すべての人 びとの日常生活のボーダレス化もいっそう加速している。国内では少子高齢化,

円高,震災の影響による電力不足などにより,企業の海外進出の進展にともな う国際ビジネスの促進や異文化理解のために,世界共通言語としての英語の役 割が多方面でいっそう重要となってきている。日本国内の大学に留学してくる 学生たちの優秀さや言語運用能力の高さを見ても,我が国においても英語を中 心としたグローバル戦略としての言語教育政策や,教育現場でのあらたな教育 目標の設定や教育方法の改善・開発が求められていることは明らかである。

 そのためには,これまでの各国事情や異文化を理解・体験する国際理解教育 から,国際社会において地球的視野に立って,主体的に行動するために必要と 考えられる態度・能力の基礎を育成して協働作業を行える国際教育へと発展さ せていく必要がある。今後の高等教育の在り方としては,世界のどこへ行って も自分で暮らしていける人材育成が必要であり,自分で伸びたいと思う学生が 伸びられる教育を提供しなければならない。言語ができなければグローバル社 会で仕事ができないといえるので,とりわけ,英語教育の改革が重要である。

そのキーワードは「学問の社会化」であるといえる。社会で活用できる知識と 実践を合わせた言語能力を養成することが肝要である。また,教育に際しては,

対面による教育とインターネットやソーシャル・ネットワーク・サービス

(SNS)などを活用した自律学習とを組み合わせることが大切である。

 そこで,本稿では私立大学情報教育協会英語学教育 FD/ICT 活用研究委員

1 ) 1 )

1 ) 文部科学省初等中等教育における国際教育推進検討会「初等中等教育における国際教育推進検 討会報告―国際社会を生きる人材を育成するために」2005年 8 月 3 日。

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  英語学士力と教育改善モデル(田中)

会の議論に基づいて,英語学士力の定義と具体的な授業改善モデルを提案する ことにより,文部科学省(以降文科省)が推進している教育振興計画の具体化 について検討したい。その際には,文科省によって求められた 3 つのポリシー

(アドミッションポリシー・カリキュラムポリシー・ディプロマポリシー)を 達成する上で, 2 年間の教養課程ではなく大学 4 年間を通じた英語学士力の育 成という視点で検討したい。

 また,大学英語教員の役割に関しては,学際的な教育の提供と学生たちの継 続的な自律学習の支援という面で,協働教育と ICT の活用を検討する必要が ある。協働教育とは教育をそれぞれ個々の教員だけで行うのではなく教育集団 として行う方法であり,多様な教育と多岐にわたる評価測定を通じて,社会で 活用できる知識の伝授を行う必要がある。その際には,教育集団間,教育集団 と学生,そして学生間による教室の内外を問わないオンライン・オフライン環 境を実現させ,協働教育や協働作業などを円滑に行い,教育効果を高める必要 がある。英語学士力の質保証の実現では,協働教育集団と協働作業集団のいず れにおいても ICT を活用した授業改善が不可欠である。授業デザインとして は,グループ学習やコラボレーション学習,プロジェクト学習のように,協働 して課題解決にあたれるような教育環境を創造して,学生たちのアティチュー ドやモチベーションの持続性なども考慮に入れたものをめざすことが大切で ある。

 また,学習結果を生涯学習に繋げ,知情意の総合力を育む必要があるので,

大学の授業の在り方も大いに改善されるべきであろう。指導にあたっては上級 学年生や大学院生などをファシリテータとして指導者に加えて組織的な教育を 行い,達成度の測定評価に関しては担当教員だけでなく他の教員や外部の専門

2 ) 2 )

2 ) 現在,私立大学情報教育協会英語学教育 FD/ICT 活用研究委員会の副委員長を務めており,

同協会では英語学士力及び学士力を達成するための ICT を活用した授業モデルを検討している。

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家などを加える必要がある。その際には情報機器やネットワークなどの ICT インフラを活用することが効果的で,それによって 1 単位75時間の学習が補完 されるのである。なお,英語学士力に基づいて今回検討した授業改善モデルは,

4 年間の大学教育の終了時点での質保障をめざしたものであり,今後 5 年くら いのスパンで実現可能なものとなることを想定している。

Ⅰ.日本の英語教育施策

 日本における英語教育に関する議論は以前から多々あった。古くは小渕首相 の私的諮問機関において,大学の国際化と同時に英語教育についても踏み込ん だ議論を行っていた。この議論に沿った形で,当時の文部省は高校において

「高等学校指導要領」の改訂を行い,多くの大学においても1991年の大学設置 基準の改定(大綱化)以降多様な英語教育改革が実施されてきた。しかし今日 に至っても十分な果実を生み出せていないというのが現実ではないだろうか。

 文科省により,「英語指導法改善の推進に関する懇談会報告」(2001年),「『英 語が使える日本人』の育成のための戦略構想」(2002年),それに基づいて「『英 語が使える日本人』育成のための行動計画」(2003年)が策定された。2003年度 から高校ではスーパー・イングリッシュ・ハイスクールの制度などを活用して,

英語教育の実践事例の共有化を推進して「よりよい授業づくり」の支援が行わ れてきた。2008年 7 月には中学・高校における新教育課程推進のための「幼稚

3 ) 3 )

4 ) 4 )

5 ) 5 )

6 ) 6 )

3 ) 文科省による中学校学習指導要領の改定が2008年 3 月(実施は2012年度),高等学校の指導要 領の改訂が2009年 3 月(実施は2013年度)と決定されたため,新学習指導要領に基づいて学習した 生徒が大学に入学してくるのが 7 年後である。そのため, 5 年先を見据えた授業改善モデルとした。

4 ) 「21世紀日本の構想」懇談会の第 1 分科会(世界に生きる日本)において,国際対話能力(グ ローバル・リテラシー)の項目で,インターネットと英語を世界共通語として捉え,英語を第 2 実用語(公用語)にするという提案がなされた。

5 ) 19年度までの 5 カ年で,中等教育から高等教育まで一貫した施策として「英語が使える日本 人」を育成する体制を確立するための指針であり,国として取り組むべき施策を行動計画として 取り纏めたものである。

6 ) 新学習指導要領に基づく中高教育の実施において,「国際化の進展に対応し,外国語による日

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  英語学士力と教育改善モデル(田中)

園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善」に ついての答申が出された。

 文科省がまとめた「教育振興基本計画」(2008年 7 月)では,大学教育に関し て,次のように記されている。「教養と専門性を備えた知性豊かな人間を養成 し,社会の発展を支える」と謳われ,具体的には ①社会の信頼に応える学士 課程教育等を実現する。具体的な施策として「社会からの信頼に応え,求めら れる学習成果を確実に達成する学士課程教育の質の向上」「共通に身につける 学習成果の明確化と分野別教育の質の向上」「高等学校と大学との接続の円滑 化」があげられている。 ②世界最高水準の卓越した教育研究拠点を形成する とともに,大学院教育を抜本的に強化する。 ③大学等の国際化を推進する。

④国公私立大学等の連携等を通じた地域振興のための取組などの社会貢献を支 援する。 ⑤大学教育の質の向上・保証を推進する。具体的には,「事前評価 の的確な運用」「共通に身につける学習成果の明確化と分野別教育の質の向上」

「大学評価の推進」など。 ⑥大学等の教育研究を支える基盤を強化する。

 大学は国の基本計画を受けて,「特色ある大学教育支援プログラム」(特色 GP)や「現代的教育ニーズ取り組み支援プログラム」(現代 GP)を実施し,私 立大学情報教育協会などにおいても,多くの教員が共有できるeラーニングの 促進とコンテンツの開発およびアーカイブの整備,産学連携サイバ・ユニバ−

7 ) 7 ) 8 )

8 )

9 ) 9 )

常的な会話や簡単な情報交換などの基礎的,実践的コミュニケーション能力がどの生徒にも必要 になってきている」と謳われている。この観点から,中学・高校での外国語科目を必修とし,高 校段階については「聞くこと」「話すこと」「読むこと」「書くこと」の 4 つの領域を有機的に関 連付けて実践的コミュニケーション能力の育成に重点を置き,内容の改善が図られている。

7 ) 文部科学省ホームページ http://www.mext.go.jp/a̲menu/keikaku/080701/002.pdf     改正教育基本法においては,第 7 条に新たに大学に関する規定が設けられ,その基本的な役割

として,教育と研究とを両輪とする従来の考え方が改めて確認されるとともに,教育研究の成果 を広く社会に提供することにより,社会の発展に寄与することが明確にされた。

8 ) 「教育振興基本計画」の第 3 章「今後 5 年間に総合的かつ計画的に取り組むべき施策」の中の 基本的施策の基本的方向 3

9 ) 私立大学情報教育協会が中心となって各分野別に CCC(Cyber Campus Consortium―サイ バー・キャンパス・コンソーシアム)を形成し,ファカルティ・ディベロップメントに求められ

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シテイ構想の実験計画などが並行して進められてきた。

 中学校学習指導要領の改訂が2008年 3 月(実施は2012年度),高等学校の指 導要領の改訂が2009年 3 月(実施は2013年度)に行われ,新学習指導要領に基 づいた授業がスタートする。高校新指導要領では,「英語の授業は英語で行 う」ことが明記され,「自らの考えなどについて内容的にまとまりのある発言 が出来るようにすること」を求めている。

 主な改訂内容は下記の通りである。

〈教育の目標に新たに規定された内容〉

能力の伸長,創造性,職業との関連を重視  公共の精神,社会の形成に参画する態度  生命や自然の尊重,環境の保全 

 伝統と文化の尊重,それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛し,他国を尊 重し,国際社会の平和と発展に寄与する

○学力の重要な 3 つの要素の育成

基礎的な知識・技能をしっかりと身に付けさせる

知識・技能を活用し,自ら考え,判断し,表現する力をはぐくむ 学習に取り組む意欲を養う

○道徳教育や体育などの充実により,豊かな心や健やかな体を育成する  

「ゆとり」か「詰め込み」ではなく,基礎的・基本的な知識・技能の習得と 思考力・判断力・表現力等の育成の両方を行う

【基礎的・基本的な知識・技能の習得の重視】

10)

10)

る ICT 活用法,教員の教育力,教育支援体制など教育改善に関する問題をテーマとし,FD 研究 者による Web サイトでの事例報告や発表を行ってきている。また,大学間連携による授業の共 同化,教材の共有化,eラーニング支援専門人材の育成を振興している。

10) 文部科学省ホームページ「新学習指導要領・生きる力」改訂の基本的な考え方。http://www.

mext.go.jp/a̲menu/shotou/new-cs/index.htm

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  英語学士力と教育改善モデル(田中)

 社会の変化や科学技術の進展等に伴い子どもたちに指導することが必要な知 識・技能について,しっかりと教える

つまずきやすい内容の確実な習得を図るための繰り返し学習を行う

【思考力・判断力・表現力等の育成の重視】

 各教科等の指導の中で,観察・実験やレポートの作成など,知識・技能を活 用する学習活動を充実する

教科等を横断した課題解決的な学習や探究的な活動を充実する

Ⅱ.英語学士力の背景

 英語学士力を含めた分野別学士力の定義を検討する際には,先に述べた文科 省による大学教育へのこれまでの提言を再検討した。英語教育の議論は,2003 年の文科省による答申「仕事で英語が使える日本人構想」に端を発し,2008年 の教育振興基本計画をうけて中央教育審議会の「学士課程教育の構築に向け て」の答申が基礎となっている。学士課程教育の構築に先立って,文科省は各 大学にアドミッションポリシー・カリキュラムポリシー・ディプロマポリシー の明示を求めた。これら 3 つのポリシーは,個別の大学等の枠を越え,大学教 育の質保障のための教育改善の取組や教員の教育力の向上などの基盤の強化を めざすために設定されるものである。

 アドミッションポリシーとは,高等学校と大学との接続の円滑化を図ること を目的としている。換言すれば,中等教育と高等教育の連携をめざしたもので あり,各大学で入学前および入学後に必要とされる教育を志願者に明示するこ とにより,中等教育と高等教育での一貫した学びと大学教育へのスムースラン ディングを図るものである。

 カリキュラムポリシーとは,学士課程で身につけるべき学習成果達成のため の教育内容・方法を示したものであり,カリキュラムデザインの根幹をなすも

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のである。分野別教育の質の向上・保証を行うために,それぞれの教育分野の 学習成果や到達目標を設定することが重要であり,国際的通用性の確保にも留 意する必要がある。学習者である大学生はこのポリシーにより,なにをどのよ うに体系的かつ系統的に学べばよいのかを理解できるのである。

 ディプロマポリシーとは,卒業認定も含めた厳格な成績評価システムを確立 し,卒業時点での教育の質保証を行うものである。これには各科目の到達目標 にそった評価測定が必要である。このようなポリシーに基づいて,分野別学士 力を大学教育の質保障のために確立させることが肝要である。

 英語学士力に目を移すと,次のような項目に関する検討が必要となる。

① 英語学士力の定義と範囲

② 英語学士に必要な知識(英語を実用的に使用するための基礎知識)

③ 英語学士に必要な技能(基礎知識を基にした運用可能な技能)

④ 英語学士に必要な知的能力

上記の方針に従い,英語学士力の定義と範囲を次のように示したい。

 英語学士力は,大学学士課程教育の成果として客観的に説明・測定・実行で きる

 英語学士力は,現実の学習成果ではなく,社会的要請に基づく知識・技能・

能力である

英語学士力は,学生が自ら自覚し,またその学習成果として実行可能である 英語学士力は,広く長く継続的な知識・技能・能力の一課程である

英語学士に必要な知識としては次のように示したい。

語彙数・文構造・メタ言語能力と意味表現形式知識・異文化知識とする。

英語学士力に必要な技能としては次のように示したい。

聴く技能・読む技能・話す技能・書く技能

英語学士に必要な知的能力とは,上記の知識と技能を組み合わせて社会的に実

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  英語学士力と教育改善モデル(田中)

現可能な知的能力であり,次のように示したい。

コミュニケーション能力  批判的思考力  情報検索能力

異文化理解能力  協働作業能力  責任分担能力  自己管理能力  これらの点を踏まえて,基盤となる英語学士力を作成し,それに基づいたプ ラットフォームであるコア・カリキュラムの作成がなされると,日本の大学英 語教育がより実効性のあるものになると考えられる。教員の役割もこれまでの ドリル型であるプログラム教育から問題解決型であるプロジェクト教育へと変 わっていく必要がある。つまり,技能を磨くことが目的ではなく,学生各人が めざしている課題探求とその解決を行うための自律型学習者を育成することが 目的であり,教育方法もマネジメント型やトップダウン型から協働教育型へと 転換する必要がある。協働教育というのは,英語教育担当者だけでなく専門教 育担当者や実務家・専門家を加えた教育集団が一体となって行う教育を指す言 葉である。教育担当者間の協働教育と学生間の協働作業が成立してはじめて学 士力の達成が可能となるのである。指導に当たっても,従来の対面型教育を大 切にしながらも,eラーニングや ICT を活用したハイブリッド型教育で,個 別指導やグループ学習を重視していくことが必要であろう。

 到達目標や評価の測定にあたっても,単なるアチーブメントではなくアウト カムによる測定を重視し,社会の要請に応える基準によって測定されることが 重要である。このような教育環境のもとで,あらためて企業で行われている入 社後の企業内研修の意味を考え,社会が求める英語力とは何であるのかという

11)

11)

12)

12) 13)13)

11) これらの能力は,最近では社会人基礎力や就業力とも呼ばれ,大学生のキャリア形成能力とし て明示されているものと通じる。

12) プラットフォームとは,教育を行う上での共通の教育目標や教育方法などが記されたものであ り,協働教育のベースとなるものである。

13) コア・カリキュラムとは,教育目標の達成のために必要な共有カリキュラムの中心部分とその 測定評価基準が示されたものである。代表的なものに,EU の言語政策の基盤となっている CEFR があり,そこには言語レヴェルや Can-do リストなども示されている。

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視点で英語学士力を検討する必要がある。つまり評価測定の対象となるアウト カム項目と測定方法を社会的要請という視点で再検討する必要がある。

 そこで問題となるのが,英語学士力の目標達成に向けた学修における大学英 語教育担当教員の役割である。その役割は,大学 4 年間のうち前半の 2 年間の 教養課程教育を担当する EGP 教員と,後半の 2 年間の専門課程教育を担当す る ESP 教員にしばしば仕分けられ,その橋渡しをする教育が求められてきた。

しかし,学士力とは 4 年間を通じた教育課程によって獲得される能力であり,

EGP 教員と ESP 教員を分けるのではなく,その協働作業により学生を支援し ていくシステム創りが大切なのである。これまで EGP 教員はしばしば中等教 育のファンデメンタルの不足を補うリメディアル教育の担当者としての役割を 担ってきたが,ESP 教育担当者と協働して英語学士力を身につけさせる支援 者となる必要がある。

Ⅲ.英語学士力の重要性

 大学教育には専門知識の伝授や研究者の育成といった高等教育機関独自の教 育がこれまで求められてきた。しかし,現代では大学のユニバーサル化にとも ない多様な学生を対象とした幅広い教育が求められており,大学教育は中等教 育機関との連携や卒業後の社会活動との連携が図られたものでなければならな い。また,学問の専門性を重視しながらも幅広い総合教育型へシフトすること により,学生たちは将来遭遇する課題探求や問題解決を図ることができる知識 と実践能力を養うことが大切となっている。合わせて,教室や授業内で学ぶべ

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14)

15)

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14) EGP とは English for general purposes のことで教養課程の英語教育を指し,ESP とは Eng- lish for specific purposes のことで,たとえば医学や薬学のような専門教育課程の中で行われる 英語教育を指す。

15) リメディアル教育とは,大学教育を受ける前提となる基礎的知識などを大学生が入学前後に学 び直す補習教育を指す。

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  英語学士力と教育改善モデル(田中)

きことと社会生活の中で学ぶべきことを融合させて,生涯にわたって自律学習 を継続できる意欲ある人材の育成が求められているのである。

 将来の大学教育を検討する上で重要な示唆は,文科省が中央教育審議会答申

「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改 善」を受けて,2010年11月に作成した中学校向けの資料「今,求められる力を 高めるための総合的な学習時間の展開」の「第 2 章 今,求められる力を高め るための学習指導」に示されている。この学習指導に基づいて教育を受けた生 徒たちが 7 年後には大学に入学してくるのである。したがって,大学は 5 年程 度のスパンで到達目標・授業計画・評価測定方法などを一体とした教育改善を 進め,あらたな社会人を輩出できるようにしなければならない。

 第 2 章 「今,求められる力を高めるための学習指導」には,下記の事項が 記されている(抜粋)。

1 .探究的な学習

  探究的な学習とは,問題解決的な活動が発展的に繰り返されていく一連の学 習活動である。

2 .協同的な学習

  総合的な学習の時間においては,特に,他者と協同して課題を解決しようと する学習活動を重視する。それは,多様な考え方をもつ他者と適切にかかわ り合ったり,社会に参画したり貢献したりする資質や能力及び態度の育成に つながるからである。

3 .体験活動の重視

  総合的な学習の時間では,体験活動を適切に位置付けた横断的・総合的な学

16)

16)

17)

17)

16) コミュニケーション能力を高める教育やインターンシップ教育なども,この一環である。

17) 文 部 科 学 省 ホ ー ム ペ ー ジ http://www.mext.go.jp/component/a̲menu/education/detail/̲

̲icsFiles/afieldfile/2011/02/17/1300459̲1.pdf

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習や探究的な学習を行う必要がある。

 ①【課題の設定】体験活動などを通して,課題を設定し課題意識をもつ  ②【情報の収集】必要な情報を取り出したり収集したりする

 ③【整理・分析】収集した情報を,整理したり分析したりして思考する  ④ 【まとめ・表現】気付きや発見,自分の考えなどをまとめ,判断し,表現

する

 ⑤【多様な情報を活用して協同的に学ぶ】

 ⑥【異なる視点から考え協同的に学ぶ】

 ⑦【力を合わせたり交流したりして協同的に学ぶ】

  総合的な学習の時間の改訂の趣旨を実現するためには,問題解決的な活動が 発展的に繰り返される探究的な学習とすること,他者と協同して課題を解決 する協同的な学習とすることが重要である。加えて体験活動を重視するとと もに,思考力・判断力・表現力等をはぐくむ言語活動の充実を図ることが欠 かせない。さらには,各教科等との関連を意識した学習活動を展開すること などを踏まえ,学習指導を行うことが大切である。

4 .言語活動の充実

  思考力・判断力・表現力等の育成を図る上で,体験したことや収集した情報 を,言語により分析したりまとめたりすることを,問題の解決や探究活動の プロセスに適切に位置付けることが大切である。

5 .各教科等との関連

  各教科等で身に付けた知識や技能を総合的な学習の時間において活用するこ とによって,身に付けた知識や技能は確かになり一層生きて働くようになる。

一方,総合的な学習の時間での学習活動やその成果が,各教科等の学習活動 への意欲を高めたり学習を促進したりする。総合的な学習の時間と各教科等 との関連を意識した学習活動を工夫することが大切である。

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  英語学士力と教育改善モデル(田中)

 したがって,英語学士力を検討する際には,中学および高校で「今,求めら れる力を高めるための学習指導」を受けて入学してくる大学生を対象とするこ とが重要である。比較的多数の賛同を得られる英語学士力を作成することがで きれば,その学士力の獲得に求められる到達目標およびガイドラインを CEFR や他の Cando リストのような測定基準プラットフォームに作成して,多くの 大学で実施可能なコア・カリキュラムの作成や,コア・カリキュラムに基づく カリキュラムデザインのあり方も検討できるからである。

Ⅳ.英語学教育における学士力

 これまで述べてきた経緯にしたがって,私立大学情報教育協会英語教育 FD/ICT 活用研究委員会において,英語学教育の学士力を下記のように策定し,

3 つの授業モデルを設定した。 1 は総合的な英語教育, 2 は国際コミュニケー ションや異文化理解教育, 3 は専門教育担当者と英語教育担当者が協働で進め る教育をイメージした。

英語学教育の学士力

1  .英語の基本語彙や基本文法をもとに,より高い技能と運用能力を身に付け ている。(総合的な英語教育)

2  .英語で情報を理解して考えをまとめ,対話を通じて情報・意見などの交換 ができる。(国際コミュニケーションや異文化理解教育)

3  .専門分野の必要性に応じて,適切なレヴェルの英語語彙・英語表現を使用

18)

18)

19)

19)

18) CEFR とは,EU が設計したヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR―Common European Frame- work of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment)である。これは欧州評議会 が推進する言語教育・学習として,「学習者中心」の考え方や,「自律した学習者」という概念が 取り入れられ,母語話者となることよりは英語を共通語として用いて海外の人びとと多様なコミ ュニケーションができ,異文化を理解し自文化を伝える姿勢を養うことを目的としている。Can- do リストに関しては,日本英語検定協会が作成した「英検 Cando リスト」などがある。

19) 私立大学情報教育協会2010年度第 4 回英語教育 FD/ICT 活用研究委員会(2011年 2 月15日)

検討資料

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できる。(専門教育担当者と英語教育担当者が協働で進める教育)

 授業モデルごとに,教育目標,到達度,測定方法などを下記のように定めた。

 【到達目標】

1  .英語の基本語彙や基本文法をもとに,より高い技能と運用能力を身に付け ている。(総合的な英語教育)

 【コア・カリキュラムのイメージ】

 語彙,文法,表現など  【到達度】

 ①  大学入学時までに培った語彙力を前提に,さらに必要な語彙を獲得し,

活用できる。

 ②  大学入学時までに培った文法知識を活用して,英語でより適切な表現が できる。

 ③ 日常的な話題を読み・聞き,口頭や文章で伝達することもできる。

 ④  社会の身近な話題について英語で意見を述べ,発表・質問することがで きる。

 【測定方法】

  ①〜④は,英語の語彙力・文法知識,技能,能力の達成度を客観的試験およ び Cando リストなどにより,確認する。

 【到達目標】

2  .英語で情報を理解して考えをまとめ,対話を通じて情報・意見などの交換 ができる。(国際コミュニケーションや異文化理解教育)

 【コア・カリキュラムのイメージ】

 英語による多様なコミュニケーションなど

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  英語学士力と教育改善モデル(田中)

 【到達度】

 ①  英字新聞やインターネット上の英文情報などを概括的に理解し,また英 語文献を精読できる。

 ②  英語版ラジオやテレビ番組などを視聴・鑑賞して,番組の概要を伝達し,

意見交換できる。

 ③  様々な英語使用者と口頭や文書で自分なりの表現を用いて意見交換する ことができる。

 【測定方法】

  ①〜③は,教員などによる評価,日本国内で普及している外部試験や各大学 の多様な試験,および学習ポートフォリオなどにより,確認する。

 【到達目標】

3  .専門分野の必要性に応じて,適切なレヴェルの英語語彙・英語表現を使用 できる。(専門教育担当者と英語教育担当者が協働で進める教育)

 【コア・カリキュラムのイメージ】

 専門基礎分野の語彙,英語論文作成の基本表現など  【到達度】

 ①  専門分野における英語文献や英語の講義・講演などを概括的に理解でき る。

 ②  専門分野におけるテーマについて自分の考えを英語で作成し,発表する ことができる。

 【測定方法】

  ①と②は,専門分野の教員と連携して,試験やプレゼンテーションなどによ り,確認する。

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 このような「英語学教育における学士力」のまとめに到達するまでには次の ような議論があった。

 コア・カリキュラムの策定にあたっては教育の社会的必要性を検証する。産 業界からの大学教育への期待と,その求める人材像を反映させる。将来の日本 社会を形成できる人材の育成を行い,ボトムアップ型ではなくプルトップ型の 教育をめざす。キーワードは,教育の社会性,学生のコラボ,デジタルコンテ ンツの活用とした。また,大学入学までに培う語彙力を3000語程度として設計 した。

 教育対象としては,中高である程度の基礎力ができている学生と,不十分な 学生とに分けた指導を考える。後者の学生に比較的短時間で基礎力を身につけ させて,策定した授業モデルに参加を促す方向で教育を進める。まず,単語や 知識の量が足りない学生には単語を与えるだけでは語彙が増えないので,多読 多聴のような大量のインプットが表現の理解や文法の理解を促進させるのに有 効な手段であると考え,グループ学習やeラーニングなどにより学習させる。

語学力の伸長には時間がかかるので,授業外の課題を与えるような方策もとる。

学生を積極的に参加させるために,ネットのリソースを使うこと,グループ ワーク,ピアワークも必要であり,ICT を介在させる。その結果,英語で情 報を理解して考えをまとめ,対話を通じて情報・意見などの交換ができる基礎 能力を養成し,自律学習能力へと繋げることが重要である。

 評価と測定方法に関しては,英語の語彙力・文法知識,技能,能力の達成度 を客観的試験,Cando リスト,学習ポートフォリオ,プレゼンテーションな どにより確認する。測定者は担当の教員だけでなく,関連分野の教員,実務家

20)

20)

20) 日本英語検定協会(英検)を例にとると,高校中級程度となっている準 2 級で3,600語程度,

高校卒業レヴェルとなっている 2 級で5,100語程度と記されている。大学英語教育協会(JACET)

英語語彙研究会は JACET 8000 LEVEL MARKER を開発して英語の文章の単語を JACET8000 の 8 つのレヴェルに分けて表示している。

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  英語学士力と教育改善モデル(田中)

や専門家なども加え,知識だけでなくその運用力であるアウトカムの評価にも 力を注ぐべきである。同時に評価測定のプラットフォームを事前に準備するこ とが望ましい。

Ⅴ.英語学士力に基づく教育改善モデル

 今回,私立大学情報教育協会英語教育 FD/ICT 活用研究委員会で検討した 英語学士力に基づく授業モデルのコンセプトは, 5 年先でも運用可能な授業モ デルを作成するということであった。

 作成上の視点として下記の 3 点を重視した。

① 教員だけが教えるのではなく,学生も協働して学べるようにする。

②  教員が一方的に教えるのではなく,学生側も意見を述べる対話型授業が学 生に意欲を与える。

③  2012年度の中学の学習指導要領では,探求的な学習,協同的な学習,体験 活動の重視,言語活動の充実などの基本的な考え方が示されており,特に探 求的な学習においては,課題の設定,情報の収集,整理・分析,まとめ・表 現など新しい技法を学ぶことになる。このような新課程の学生に対応したモ デルを作成する。

④  到達目標,到達度,測定方法を一体として考えることにより,コア・カリ キュラムのイメージを明確にし,カリキュラムデザインの作成へ寄与するこ とを目指した。その際には,特に測定手段と測定対象を重視することとし,

前者に関しては科目担当者だけでなく協働教育に携わる集団により行い,測 定対象をアチーブメントではなくアウトカムとした。

⑤  授業方法に関しては,英語運用能力のさらなる向上をめざす学生を対象と する授業では英語を用いた英語教育とし,教養英語(English as general pur- poses)と専門英語(English as special purposes)の橋渡しではなく融合を目指

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すこととした。そして,社会科学系や理系の学生などを対象とした英語論文 作成やプレゼンテーション能力の育成を必要とする学生を対象とする授業モ デルを検討した。次に前述した授業モデルのうち, 2 (国際コミュニケーシ ョンや異文化理解教育)と 3 (専門教育担当者と英語教育担当者が協働で進 める教育)について詳しく述べる。

英語教育における教育改善(モデル 1 )

 この授業モデルの趣旨は,教育目標 2 (英語で情報を理解して考えをまとめ,

対話を通じて情報・意見などの交換ができる)を具体化した。国際コミュニ ケーションを通して,多国間の共通の土壌の上に立って,互いの違いを認め合 いながらも協力し合ってその克服に努力し,ともに理解し合い,分かち合うこ とを目的としている。また,国際教育は,単なる国際理解を超えて,多文化共 生社会としての国際社会の一員として,地球的視野に立って,主体的に行動す るために必要な態度・能力の基礎を育成する教育である。このような視点に立 って,異文化学生との協働プロジェクトとしての英語発信・プレゼンテーショ ン活動の意義を教育モデル化したものである。

1  .英語の基本語彙や基本文法をもとに,より高い技能と運用能力を身に付け ている。

2  .英語で情報を理解して考えをまとめ,対話を通じて情報・意見などの交換 ができる。

3  .専門分野の必要性に応じて,適切なレヴェルの英語語彙・英語表現を使用 できる。

1 .到達度として学生が身につける能力

①  英字新聞やインターネット上の英文情報などを概括的に理解し,また英語

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  英語学士力と教育改善モデル(田中)

文献を精読できる。

②  英語版ラジオやテレビ番組などを視聴・鑑賞して,番組の概要を伝達し,

意見交換できる。

③  様々な英語使用者と口頭や文書で自分なりの表現を用いて意見交換するこ とができる。

2 .授業デザイン 2 ‑ 1  授業のねらい

 英語で「読む・書く・聞く・話す」の 4 技能のバランスが図られていないた め,社会で積極的に英語を用いることができなかった。多くは英語検定試験

(TOEIC・TOEFL など)対策や技能向上だけを目指す学びであって,英語を実 用とする学びとなっていない。

 そこで,本モデルは,英語による文章作成や口頭発表などを行う発信型学習 活動を通じて,学習内容の定着と実践的運用能力の向上を図るとともに,国際 社会で英語を用いて積極的に参画できる態度を促進する教育を目指すことに した。

2 ‑ 2  授業計画

 英語を手段としてコミュニケーションを行い,英語を用いて世界に関与でき ることを到達度評価の基準として考える。短期間での学びではなく,英語の基 礎から応用を含めて 4 年間を通した教育計画を策定し,卒業時点で学習成果を 質保証できるようにする。実践的な英語運用能力を実現するために,英語の授 業に加え,他の授業科目との関係性の中で授業を組み立てる。また,社会や世 界への関与を醸成できるように,インターネットを通じて学びの成果を公表し,

社会の意見・評価を踏まえて振り返りを行う学習の場を提供する。なお,英語 によるコミュニケーション力を高め,現実的な英語使用の場面を増やすために,

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授業はできるだけ英語で行うことが必要である。

2 ‑ 3  ICT を用いた授業シナリオ  以下に授業シナリオの一例を紹介する。

①  この授業は,基礎の語彙と文法及び英語の一般的な文章構成法を理解し,

活用できることを前提としている。到達していない場合には,学習管理シス テムのサイトにおいてグループ単位で教員及びファシリテータを介して,学 生の能力に応じたeラーニングを行う。

②  グループ学習や協働学習を通じて,学習管理システム上に英語で情報を収 集・まとめさせるとともに,英語によるスピーチ,プレゼンテーション,デ ィスカッション,ディベートなどを体験させて,グループで課題別に学習成 果を中間的にまとめ発表させる。

③  他のグループの成果を相互に評価・論評し,学習管理システム上などでそ れらの成果や評価・論評を参考にしながら学習成果を改良する。

④  学習管理システムや対面で他の教員,ネイティブ・スピーカー,実務者,

専門家などから外部評価を受け,実際に使える能力を客観的に点検し,振り 返りを通じて英語学習の改善策を考えさせる。

⑤  実際の活動場面,あるいは録画や成果物を学生同士で相互評価させるとと もに外部評価を加える。

2 ‑ 4  ICT を用いた学習内容

 以下に,学習内容の一例を紹介する。

①  システムに掲載したグループの課題に必要な専門用語や文型等を含む英語 表現を学ぶ。

②  eラーニング,メール,TV 会議等を通じて効果的な英語コミュニケーシ ョンの技法を学び,対人・異文化交流を体験する。

③  課題に対する発表を教室およびネット上で行い,相互評価や外部評価を通

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  英語学士力と教育改善モデル(田中)

じて論理的な思考方法と発想法を学ぶ。

2 ‑ 5  ICT を用いた学習方法

 以下に,学習方法の一例を紹介する。

①  英語による課題の理解に必要な基礎知識を獲得するために,システム上で 他の授業科目と連携して学ばせる。

②  グループ学習などの意見交換を行い,システム上で課題をまとめ,公開し,

学生間で学びあう。

③  システム上に学習成果を掲げ,外部の専門家を通じて評価を行い,論理的 思考や発想法を学ばせる。

④ eポートフォリオや授業録画などを利用して学習した成果を振り返らせる。

2 ‑ 6  ICT を用いて期待される効果

①  グローバルな情報に積極的に接することができ,多様な英語情報を理解・

分析して学びに活用することができる。

②  世界中の人々と英語でさまざまな問題についてオンライン・オフラインで 意見交換し,理解を深めることができる。

③  外部の意見や評価をネット上や対面で受けることで,発表の論理性や発想 について振り返りができる。

2 ‑ 7  ICT を用いた学習環境

①  学内外での授業交流,意見交流するための SNS などのプラットフォーム が必要である。

②  eポートフォリオシステム,ネット上での学びを支援するファシリテータ が必要である。

③  外部に情報を公開し,意見をもとめる際の注意事項,誹謗・中傷等への対 応策を決めておく。

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3 .運営上の問題及び課題

①  他の授業科目との連携が実質的に図られるようにするため,大学の学部・

学科のガバナンスとして,教員同士による授業協力のシステムを構築するこ とが不可欠となる。

②  グループ学習を積極的かつ円滑にするため,上級学年生や大学院生による ファシリテータを大学のガバナンスとして制度化し,学生目線での相談・助 言が実現できるようにする。

③ 外部評価者の選定と依頼,外部評価の方法を考慮する必要がある。

④  卒業時の学習成果の到達度評価について,大学・教員間で基準を申し合わ せておくことが必要となる。

英語教育における教育改善(モデル 2 )

 教育改善モデル 2 では,英語教育における学士力の到達目標 3 (専門分野の 必要性に応じて,適切なレヴェルの英語語彙・英語表現を使用できる)を実現 するための教育改善モデルを提案する。

1  .英語の基本語彙や基本文法をもとに,より高い技能と運用能力を身に付け ている。

2  .英語で情報を理解して考えをまとめ,対話を通じて情報・意見などの交換 ができる。

3  .専門分野の必要性に応じて,適切なレヴェルの英語語彙・英語表現を使用 できる。

1 .到達度として学生が身につける能力

① 専門分野における英語文献や英語の講義・講演などを概括的に理解できる。

 アカデミック・ボキャブラリー(各分野共通の570語彙)と分野別に頻度の

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  英語学士力と教育改善モデル(田中)

高い専門語彙を理解し,活用できる。

 分野に特有な表現方法(文型,慣用表現,文章構成法)を理解し,活用で きる。

②  専門分野におけるテーマについて自分の考えを英語で作成し,発表するこ とができる。

 分野に必要な教養と専門知識を習得し,利用できる。

 専門分野について英語で理解し,英語で発表できる。

2 .授業デザイン 2 ‑ 1  授業のねらい

 英語の学びが運用能力の技法に偏向しているため,専門分野を学ぶために必 要な英語力が身についていない。これまでの英語教育の多くが英語検定試験

(TOEIC・TOEFL など)対策や技能向上だけを目指す学びであって,英語 を実用とする学びとなっていない。

 そこで,本モデルでは,専門分野をグローバルな視点で理解できるようにす るため,国際的な動向や考えを英語で理解し,英語で表現・発信できる能力を 目指すことにした。

2 ‑ 2  授業計画

  4 年間または 6 年間のカリキュラムを通じて,専門分野で英語を活用できる 能力を身に付けさせるために専門科目と英語の統合授業を前提とする。英語で 専門分野のレポートを作成し,発表できることを到達度の評価基準として考 える。

 このため専門教員と英語教員が連携して指導を行うプラットフォームを構築 し,専門知識は専門教員が,英語は英語教員が対等な関係を保ちながら協働教 育を展開する。また,学生にはグループ学習による学びの場と,インターネッ

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トを通じて学びの成果を公表する場と,社会の評価を受けて振り返りを行う場 を提供する。

2 ‑ 3  ICT を用いた授業シナリオ  以下に授業シナリオの一例を紹介する。

①  この授業は,基礎の語彙と文法及び英語の一般的な文章構成法を理解し,

活用できることを前提としている。到達していない場合には,学習管理シス テムのサイトにおいてグループ単位で学生の能力に応じたeラーニングを 行う。

②  プラットフォーム上で専門と英語の教員が授業内容・役割分担など協働授 業の運営について意識合わせを行う。

③  授業はグループ学習での学び合いを積極化するため,上級学年生によるフ ァシリテータを導入する。

④  英語による学習成果の通用性を点検・確認するため,学習成果を社会に公 表して,外部の助言を求める。

⑤  学習到達度の確認は,グループ発表にどのように各個人が関与したかをe ポートフォリオ上で相互評価させ,専門知識と英語表現について,それぞれ 専門教員と英語教員がチェックする。

2 ‑ 4  ICT を用いた学習内容・方法

 以下に ICT を用いた学習内容・方法の一例を紹介する

①  専門分野の基礎知識をある程度理解した上で協働授業を行う。理解の確認 はネット上の小テストで理解度を点検させておく。理解度が不足している場 合にはeラーニングで再学習させる。

②  学習内容に即した英語コンテンツを提示してグループで予習させ,学習管 理システム上に掲載させる。

③  専門分野の教員と英語教員が,講読すべき原書やネット上の英語情報につ

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  英語学士力と教育改善モデル(田中)

いて事前に打ち合わせを行い,オンライン・オフラインで学習者が効果的に 習得できるようにする。

④  授業ごとに発展学習を課して専門分野の英語語彙・表現の定着をはかる。

その際にファシリテータが学習支援を行う。

⑤  発展学習の成果は,グループでの発表や大学間での相互評価を行い,優れ た成果をネット上で発信し,通用性を確認させる。

2 ‑ 5  ICT を用いて期待される効果

① 理解度が不足している部分を繰り返しeラーニングで再学習できる。

②  学びの通用性についてグローバルに点検・確認ができ,学びを国際的な基 準で判断できる。

③  自立的に学びを展開し深めることに積極的に取り組む姿勢を身に付けるこ とができる。

2 ‑ 6  ICT を用いた学習環境

① 学内外での授業交流,意見交流するためのプラットフォームが必要である。

②  国際社会に開かれた大学間のコンソーシアムを計画し,インターネットを 通じて学生の学びの成果が公表され,社会から評価が受けられる仕組みの構 築が必要となる。

③ eポートフォリオシステム,ネット上での学びを支援するファシリテータ が必要である。

3 .授業運営上の問題及び課題

①  専門教員と英語教員が協働で授業設計・運営が可能となるよう大学ガバナ ンスとして,教員同士による授業連携の仕組みを組織的に構築することが不 可欠となる。

②  学内・学外を通じた教員同士のコンソーシアムを形成するために,大学と

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しての組織的な支援が必要となる。

③  グループ学習を積極かつ円滑にするため,上級学年生や大学院生によるフ ァシリテータを大学のガバナンスとして制度化し,学生目線での相談・助言 が実現できるようにする。

④  国際社会に情報を公開し,意見をもとめる際の注意事項として,人種・宗 教・文化などの適切な表現についてガイドラインが必要となる。

Ⅵ.教員の役割と ICT の活用

 教員の役割は大きく分けて 2 つある。ひとつは協働教育を行う教育集団の コーディネートであり,もうひとつは学生集団に対する教育サポートである。

そのためには,教員の教育力開発も今後は必要である。

 前者に関しては,まず教育集団のメンバーを決定する必要がある。授業の目 的や到達目標および評価測定などがメンバー構成を決定する重要なファクタで ある。協働授業を行うメンバーが学内の教員だけでよいのか,あるいは学外の 専門家や実務家も加えたほうがよいのかを判断する必要がある。たとえば,国 際交流の促進や異文化理解などに関しては,各国の事情に詳しい教員や国際関 係分野の教員が加わることも興味深い。具体的には,アメリカンスタディーズ のようなものをイメージすればよいであろう。評価測定に関しては,地域社会 のニーズや社会的要請に応える大学教育の推進を図るために,教育集団以外に もその領域で活躍している NPO 関係者や企業関係者に加わっていただくこと も可能であろう。評価測定担当者は授業に直接加わらなくとも,協働教育集団 のアドバイザーやコメンテータとして授業計画などにも参画することが可能で

21)

21)

21) アメリカンスタディーズとはかつてアメリカ研究の中心的役割を果たした学問領域で,その後 ジャパンスタディーズなどの派生領域も生み出した。研究領域としてはアメリカの政治経済,歴 史,文化,宗教,民族などがあり,それらを学際的かつ統合的に研究することによりアメリカの 実態を探ろうとする学問である。

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  英語学士力と教育改善モデル(田中)

ある。協働授業を行う教育集団が多様であれば,より高い教育効果や多様な評 価測定も可能となり,eポートフォリオシステムの構築などにより評価測定結 果をネット上で公表して,あらたなグループでの発表や大学間での相互評価に もつなげることもできよう。将来は国際社会に開かれた大学間のコンソーシア ムの形成なども考えられる。そうすれば学びを国際的な基準で判断することも 可能となる。授業集団の意見交換はオンライン・オフラインを通して行われる。

最終的には到達目標,授業デザインを構成する授業のねらい,授業計画,授業 シナリオ,学習内容とその方法,期待される効果,学習環境などに関して事前 に電子掲示板などを活用してプラットフォームを作成しておくのが望ましい。

もちろん機会を持てるのであれば,対面での意見交換を交えたほうがなおよい。

このような活動が学内・学外を通じた教員間のコンソーシアムの形成にも役立 つであろう。

 教育サポートとあえて述べたのは,授業が教員によるトップダウン方式で行 われるのではなく,学生目線で行われる必要があるからである。協働教育集団 によって行われる実際の授業は,上級学年生や大学院生からなるファシリテー タを活用して,グループ学習や個人指導の形態で行われることが望ましい。そ れにより学生目線での授業運営やきめ細かい個人指導も可能となり,ファシリ テータを務める上級学年生や大学院生にとっても学習の振り返りとして有益で あるからである。教育担当者はオンラインやオフラインでファシリテータと授 業計画や授業内容について綿密に打ち合わせを行い,学生へのフィードバック に関しても担当の教員が行うものとファシリテータが行ったほうが望ましいも のを仕分けながら,学生たちのグループ学習による課題確認作業の継続的な進 展を促したり,基礎学力が欠けている学生にはeラーニングなどを活用した指 導を行ったりすることにより,効果的な学習が可能となるであろう。また,オ ンラインで他の関連した科目との合同授業などを取り入れることができれば,

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より学際的な授業運営も行える。

 上述した協働教育と協働作業を支えるのが ICT である。ICT の活用に関し ても,有効な効果を得るためには,協働教育と協働作業の 2 面から検討する必 要がある。協働教育に関しては,授業運営と評価測定のいずれでも ICT は大 きな役割を担う。授業運営における ICT の活用は,授業モデルの中でも触れ たように,協働授業者が授業設計やプラットフォームを作成および運営する際 のコミュニケーションツールとして必須である。協働教育に携わる者は学部の 垣根を越えた学内の教員,学外の専門家や実務家であり,対面(オフライン)

で時間と場所を共有することはさほど容易ではない。したがって,協働授業の 授業計画やシナリオ作成は,ネット上のプラットフォームや電子掲示板を活用 してオンラインでも組織運営を行うことが効率的であり,かつ有意義である。

 また学習支援にあたっても,ファシリテータとの意見交換やコンセンサス作 りに ICT は有効であり,学生たちのeラーニングの支援にも活用することが できる。協働作業の面ではグループ学習を行う意見交換の場や課題探求のため のグローバルな情報を積極的に収集して課題をまとめ,公開し,学生間で学び 合うのにも ICT は必須の道具である。その結果,外部の意見や評価をネット 上でも受けることができ,発表や発想について振り返りが可能となる。このよ うに学生たちの協働作業に関わる部分では,課題探求やグループ学習の意見交 換を通して ICT を活用したネット上での学びの支援を行い,自律的に学びを 展開し深めることに積極的に取り組む姿勢を身に付ける際のツールとして不可 欠であるだけでなく,発表や授業録画などを利用して学習成果の振り返り学習 の道具としても有効である。このような自律学習により, 1 単位に対して75時 間の学習が必要であるという定めにも合致するのである。

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  英語学士力と教育改善モデル(田中)

お わ り に

 大学英語教育に携わっている教員が大学における中等教育のリメディアル教 育担当の役割から脱却し,英語学士力の目標達成やジェネリックスキルとして の社会人基礎力の育成に向けた学修支援者になるためには,協働授業と協働学 習に基づいた授業改善を行っていくことが重要である。これまで述べてきた授 業モデルを実施に移す際には,英語学士力を達成するための授業改善や授業方 法の開発だけでなく,次の 2 つの課題を解決することが必要である。すなわち,

教員による FD(Faculty Development)活動の進展と,大学執行部等のガバナ ンス部門からの協力である。

 協働教育では,ICT などを活用して,教育内容のコアやミニマムに関する 検討を行ってプラットフォームを作成し,実際の授業運営にあたって定期的に 確認を行い,多様な学生たちを効率的に指導できるよう努めることが大切であ る。それには授業に携わる教員だけでなく学内外の有識者を含めた組織的な教 育を行う必要があり,大学組織体としての FD 活動が欠かせない。それにより 大学教育の質保障(ディプロマポリシー)が可能となり,学生たちが体系的かつ 系統的に学修を進めることができるカリキュラムポリシーが成り立つのである。

FD には多様なものがあり,これらを有機的な結合させることにより,はじめ て大学全体の 3 つのポリシーの実現と質保障をめざす教育が成立し,かつ多様 な評価測定が可能となるのである。

 大学のガバナンスに関しては,大学組織(執行部)のリーダーシップが必要

22)

22)

22) 主 な FD に は 次 の よ う な も の が あ る。AD(administrative development ― 高 大 連 携),CD

(curriculum development―カリキュラム関連),ED(educational development―シラバス&授 業設計),ID(instructional development―授業改善,教育方法および研究情報),OD(organiza- tional development ― 教 授 会 等 に よ る FD お よ び SD の 推 進 支 援),PD(professional develop- ment―外部専門家を加えた統合的 FD)

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であり,資金コスト,人員コストや時間コストなどの資源配分などの面におい て,学士力の達成のために努力を惜しむべきでない。たとえば,本稿で述べて きたように,協働教育や協働作業を行うには教育集団の元に上級学年生や大学 院生からなるファシリテータを置き,学生目線で支援を行っていくことも重要 である。また,教員はノルマのコマ数などが定められていることが多いが,協 働教育などを行う際にはかなりの時間コストも必要である。また,協働教育者 や評価測定者として学部を越えた教員による作業や,学外の専門家や企業人な どに協力を依頼することも多々あるだろう。そのような資金コストや人員コス トも必要となろう。その意味で,学士力の達成や授業改善は高コストになる可 能性が高いが,教育の質保障を謳うならば,大学組織のリーダーたちが率先し て改革・改善を進めていくガバナンスが求められているのである。

参考文献

「私立大学教員の授業改善白書」公益社団法人私立大学情報教育協会。2011年 5 月。

「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」中央教育審議会。

2011年 1 月。

「高等学校学習指導要領解説―総合的な学習の時間編」文部科学省。2009年 7 月。

「今,求められる力を高める総合的な学習の時間の展開(中学校編)」文部科学省。

2010年11月。

「学士課程教育の構築に向けて」文部科学省。2008年12月。

「情報倫理教育の学士力考察」情報倫理教育振興研究委員会。2010年 1 月。

参照

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