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赤崎眞弓*

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Bulletin of Faculty of Education,Nagasaki University:Curriculum and Teaching1993,No。20,67−81

中学校技術・家庭科「家庭生活」に 関する理論的一考察

赤崎眞弓*

(平成4年10月30日受理)

  ATheoreticalStudyinaregion Kateisei:katu

(Home Science) of Industrial Arts and Homemaking

Mayumi AKASA:KI

(Received October30,1992)

1.はじめに

 平成元年に示された学習指導要領によって,中学校技術・家庭科では,ふたつの領域が 新設された。ひとつは,情報化社会の到来を反映して設置された「情報基礎」であり,も

うひとつは,「家庭生活」である。

 この「家庭生活」領域の指導内容は, 「家族と家庭,生活と家庭の経済,家庭の仕事の 計画と実践などの学習を通して,自己の生活と家族の生活との関連を図る立場から家族及 び家庭生活の在り方について理解させるとともに,消費者としての自覚を育て,健全な家 庭生活を目指して実践する態度を養うことができるよう」1)構成されている。これまで,

このような内容の学習は,技術・家庭科に設置されている「被服」や「食物」などの他の 領域において部分的に学習されていたが,思春期にさしかかる発達段階の生徒にとっては 最も重要だと考えられる家族に関する事柄は現在に至るまで指導内容として取り上げられ ていない。

 したがって,小学校「家庭」,中学校「技術・家庭」,高等学校「家庭」の家庭科とし ての一貫性から考えると,中学校では欠落していた部分であり,領域の設置については家 庭科関係者の問でも高く評価されている。

 しかし, 「家庭生活」領域の具体的な指導内容や指導方法,他の領域との関連,技術・

家庭科での一領域としての存在価値,領域履修上の考え方や方法については,いろいろな

*長崎大学教育学部家庭科教育教室

(2)

問題が指摘されている。

 そこで,本研究では,これらの問題点を整理しぞ問題り解決策を導きだすとともに,授 業実施に必要とされる理論面について考察を行ったので報告する。

2. 「家庭生活」領域新設の経緯

 学習指導要領の改訂にともなって,中学校技術・家庭科に「家庭生活」領域が新設され,

男女ともに学習することになった。

 今回の教育改革は,欧米諸国に追いつくことを目標としてきたこの100年問の教育の総 まとめとして現れた今日の教育の現状から,21世紀の教育を模索する動きの中で生まれた ものである。その動きは,1984年(昭和59年)に臨時教育審議会(以下,臨教審と書く)

が「我が国における社会の変化及び文化の発展に対応する教育の実現を期して各般にわた る施策に関し必要な改革を図るための基本方策について」の諮問を受け,1989年(平成元 年)3月に学習指導要領が改訂されたことで,その方向が決定されたといえる。その経緯

を表1にそって述べる。

 2.1臨時教育審議会2)

 通常,教育の改革については文部大臣の諮問機関である中央教育審議会がその任にあたっ てきたが,今回は臨教審による審議が1984年から1987年まで4年間なされ,21世紀への教 育はいかにあるべきかの提案がなされた。

 1985年の第1次答申によって教育改革の基本方向が示された。その中では教育の現状と して近年の教育をとりまくさまざまな現象が述べられ,それらが起こる要因や背景が分析 され,次のような教育改革の基本的考え方が打ち出された。①個性重視の原則,②基礎・

基本の重視,③創造性・考える力・表現力の育成,④選択の機会の拡大,⑤教育環境の人 間化,⑥生涯学習体系への移行,⑦国際化への対応,⑧情報化への対応,である。

 家庭生活を学習対象とする技術・家庭科では,子どもの多様な個性への配慮,家庭,学 校,地域の間の協力が重要であり,親の養育態度,子育ての方針,就業形態の変化,母と 子のきずなや父親の影響力の不足,しつけの不足など,家庭における教育機能が低下して いる現状をふまえた指導が行われなければならないということになった。

 さらに,第2次答申では,教育の活性化とその信頼を高めるための改革として家庭の教 育力の回復について述べている。この家庭の教育力の回復について,いわゆる「学校教育 における家庭科」と「家庭教育」とは異なるのであるから,家庭科には関係ないという考 え方もあろうが,教育機関として大きな力を持つ学校教育が,家庭の教育力回復のための 一端を担わねばならなくなっている状況になっていることが読み取れる。最終答申までの

4つの答申の中で,「家庭」科に関して言及しているのはこの答申だけである。

 すなわち,初等中等教育の改革では教科等の改善の基本方向について家庭科の内容と取 り扱いについて,「③「技術・家庭」,「家庭一般」については,技術や技能の習得の観 点や,例えばよき家庭を築くための学習など家庭の教育力の活性化の観点から,その内容 を見直すとともに,共通必修にわたる内容と生徒の興味・関心に応じ選択し得る内容とに 区分して履修するなど,履修の方法等に検討する必要がある。」と示されている。さらに,

(3)

     赤崎:中学校技術・家庭科「家庭生活」に関する理論的一考察        69

これらの教育改革のためには,家庭・学校・社会の連携が大切であることにも言及して

いる。

         表1 各答申・報告書一覧

年,月.日 タイトル及び「家庭生活」関連内容 機   関

1984.9.5 臨時教育審議会へ諮問 内閣総理大臣

「我が国における社会の変化及び文化の発展 に対応する教育の実現を期して各般にわたる 施策に関し必要な改革を図るための基本方策

について」

1984.ll.14 審議の経過の概要 その1 臨時教育審議会 1985.4.24 審議の経過の概要 その2 臨時教育審議会

1985.6.26 第1次答申 臨時教育審議会

教育の現状 基礎・基本の重視 教育環境の人間化

1985.7.5 プロジェクト・チーム設置(①〜④) 文部省教育改革推進本部 1985.9.10 教育課程審議会へ諮問 文部大臣

「幼稚園,小学校,中学校及び高等学校の教 育課程の基準の改善について」

1985.9.10 第1回審議会 教育課程審議会

1986.1.22 審議の経過の概要 その3 臨時教育審議会

1986.4.23 第2次答申 臨時教育審議会

家庭の教育力の回復

初等中等教育の改革 家庭科の内容 生涯学習のための家庭・学校・社会の連携

1986.5.1 課題別プロジェクト・チーム改組(①〜⑥) 文部省教育改革推進本部

③初等中等教育の改革

1986.10.20 中間まとめ 教育課程審議会

1987.1.23 審議の経過の概要 その4 臨時教育審議会

1987.4.1 第3次答申 臨時教育審議会

1987.4.7 課題別プロジェクト・チーム改組(①〜⑧) 文部省教育改革推進本部

③初等中等教育の改革

1987、8.7 第4次答申 臨時教育審議会

1987.12.24 幼稚園,小学校,中学校及び高等学校の 教育課程審議会 教育課程の基準の改善について(答申〉

1989.3.15 学習指導要領改訂 文部省

(4)

 2.2教育課程審議会

 教育課程審議会(以下,教課審と書く)は臨教審が第1次答申を公表した1985年の9月 に発足し,臨教審の第2次答申(1986年)を受けた形で「中間まとめ」を公表した。その 中で家庭科改訂の基本方向が示され,ここで初めて仮称ではあるが「家庭生活」という領 域の名称が使われ,必修領域としての位置づけがなされた。このことは1989年に公表され る学習指導要領の内容とほぼ同じである。

 2.3領域編成の視点と問題点

 家庭生活領域の設置は,二つの点から評価できる。ひとつは,男女が共に学ぶ領域であ ること,ふたつめは,家族や家庭生活についての内容が指導されることである。

 技術・家庭科は,1980年度までは女子向き・男子向きとして,内容的にも履修形態とし ても男女分かれていた。1981年度からは,相互乗入れと称して,家庭系列・技術系列から それぞれ男女1領域以上の履修が決められたが,履修形態として男女一緒である必要はな かった。

 内容についても,1962年の職業・家庭科から技術・家庭科への教科名変更以来30余年,

中学校では家庭生活に必要とされる衣・食・住に関する技術の習得が目指され,家族や家 庭生活に関する内容は教育課程上設置されておらず,家庭科の小・中・高一貫性から考え ると,中学校においてのみ欠落した部分であった。したがって,1975年の国際婦人年を契 機として,高等学校家庭科とともに男女必修の履修形態なり,小・中・高一貫した指導内 容となったことは評価できる。

 ところで,教育課程上設置されていなかったからといって,家族や家庭生活についての 授業は行われていなかったのではない。この領域の学習は重要であるとの認識は高く,保 育領域や「家庭・家族」として自主的に教育内容に組み込んでの授業実践は行われており,

日本家庭科教育学会をはじめ,家庭科教育研究者や民間教育研究団体などでも,家族や家 庭生活は重要な教育内容として構想されていたのである。

 家庭生活領域の設置について,家庭科関係者の間でまとめられたのは,1977年度版の学 習指導要領が実施される1981年度より3年も前の1978年である。すなわち,教員養成大学・

学部教官研究集会,家庭科教育部会の1975年度から1977年度までの研究3)の成果として,

新しい家庭科の領域の編成が提案されていた。

 そのなかで, 「家庭はもともと,人間自身を生産し育てる場所であり,生活とは人問自 身の生命を存続させていくための営みであることを考えるならば,まず第一に家庭を構成 する人間について取り上げる領域として,家族がぜひとも必要である。さらに人間が生き る上で,時間や空間,金銭や物資などの資源とどうかかわるかという問題を取り上げるの が家庭経営の領域である」と述べ, 「被服・食物・住居などについてのばらばらな領域だ けでは, 「家庭生活」についての学習にならないことを明示しておかなければならない」

と家庭生活領域の必要性を強調している。

 このように教育課程上設置されていなかった領域ではあるものの,その重要性から長年 研究がおこなわれ,構想が練られてきた領域ではあるが,その実施には多くの問題点があ

る。

 まず,35単位時間の領域としては,内容が盛りだくさんであること,それから,内容と

(5)

赤嫡:中学校技術・家庭科「家庭生活」に関する理論的一考察 71

の関連で履修学年を1年に限定すべきかどうかということである。4)また,他の領域との 関連についても,内容の面からと選択履修の面からの問題が考えられる。5)

 前者の問題については,内容,履修学年共に,小学校,高等学校との関連から判断しな ければならないが,生徒の実態がそれぞれ異なることから,学年の指定を取り外すことを 提案する。履修させる生徒の実態に応じて,また教師の指導観や保護者ら地域の期待に応

じて自由に編成できるように,教師の主体的編成能力を発揮させる必要がある。

 さらに,後者の問題については,内容に関しては,家庭生活領域の学習目標に教師自身 がウエイトづけして,それを中心に編成し直すことも可能である。たとえば,人間関係に ウエイトをおく,家庭の仕事にウエイトをおく,家庭経済・消費者教育にウエイトを置く,

環境問題・生活と地域との関連にウエイトをおく,などである。今後,このような授業を 計画・実施・評価していかなければならない。

 次に,他の領域との関連については,実践的・体験的な学習ということで,家庭の仕事 を実習として家庭生活領域のなかに入れられたこと,つまり,必修領域と選択領域との関 連から,問題が具体的に出てきそうである。もっとも,どの領域を必修にするかについて は,学習指導要領作成の際もかなり問題になったようである。最初の頃は, 「家庭生活」

「食物」 「被服」 「木材加工」 「機械」 「電気」の6領域必修が考えられていたようであ る。6)必修領域以外のどの領域を選択するかは,それらの指導内容との関連をよく吟味し てからでなければならず,必修選択をあわせた領域,つまり,その学校独自のカリキュラ ムがそれぞれに作られることになる。したがって,各校のカリキュラムによって,内容は 組み変えられるべきである。そして,そのことが生徒の個性を重視した多様なカリキュラ

ムであるといえるのではなかろうか。

3.家庭生活領域の特徴

 3.1 「生活」の重視

 1989年に行われた学習指導要領の改訂では, 「21世紀に向かって,国際社会に生きる日 本人を育成する」という観点に立って,

①豊かな心をもち,たくましく生きる人間の育成を図ること。

②自ら学ぶ意欲と社会の変化に主体的に対応できる能力の育成を重視すること。

③国民として必要とされる基礎的・基本的な内容を重視し,個性を生かす教育の充実を   図ること。

 ④国際理解を深め,我が国の文化と伝統を尊重する態度の育成を重視すること。

をねらいに,さまざまな改訂が行われた。

 その改訂におけるキーワードは「生活」だと考えられる。すなわち,小学校では生活科 が新設され,中学校「技術・家庭」では家庭生活領域が新設された。さらに,高等学校家 庭科では「生活技術」 「生活一般」の2つの科目が増設された。

 これらの教科・領域・科目の名称として「生活」という語句が使われたのは, 「生活」

に関する教育が重視されてきたからにほかならない。その背景には,生活環境のはげしい 変化があげられ,それらに「生活」そのものあるいは学校教育が対応しきれなくなったこ

とがあげられる。

(6)

家族の生活に 役立つ布など を用いた簡単 な物の製作

生活時間の為 効な使い方

家族の一員と して家庭の仕 事に協力

家庭における 家族の仕事や 役割

自分の立場や 役割

自分の分担す る仕事の工夫

快適で安全な 住まい方

気持ちよく住

住居の働き

になれ切汚適やた質じ掃材応清

身の回りの整 理整頓

近隣の人々の 生活

収納の仕方の 工夫

身の回りの品 物の活用

不用品やごみ の適切な処理

第 5 学 年 第 6 学 年

図1 小学校「家族の生活と住居」,中学校「家庭生活」の指導内容の時系列的関連         (ISM教材構造チャート作成システムにより作成)

(7)

m  :    **t i   =   iCf t ) 1 s    "' +*'  ‑*   73 

    ** 

(8)

 生活環境の変化のうち,物質的な豊かさや生活の細分化などの進展は,生活レベルとさ ほどずれが生じないような速さで進展してきた。しかし,マスメディアや印刷技術等の発 展による情報化は,その速さと変化がかなりきびしく,生活には情報化に対応できない状 況があらわれてきている。

 このような状況を内在,あるいは表出しながら,さまざまなことの総体が生活としてあ らわれるのである。したがって,個人の生活を,ひとつの総体としての生活としてとらえ ることのできる能力と,個人の生活の位置を地球規模全体の中でとらえることのできる能 力とが必要とされる。さらに,情報の収集・選定の能力よりも情報の発信者としての能力

も必要とされる。

 これまでの学校教育では,教科内容としてあるひとつの側面からの学習指導が行われ,

それらの教科間の関係づけや分析・統合の力,生活への適用力については学習者個人にま かされていた。しかし,さきに述べたように生活の実態が複雑にな りすぎた今日では,人 問の活動の総体としての生活そのものをより身近におき,教科指導も,それらとの関連を 意識しながら行わなければならない状況になっているといえる。

 もっとも, 「生活」という言葉のつけられた各教科・各科目・各領域における指導内容 については,現実社会の生活実態とのずれが見られ,それらを学習することによって生活 が抱えている問題を解決する1ための力がつけられるかどうかについては疑問が残る。しか

し,今回の改訂で生活という言葉が多く使われたことは,生活と教科指導との関連が求め られていると言ってもよかろう。

 家庭科でも,時代のあるいは環境の変化に対応できる生活能力を育成するばかりではな く,時代にあるいは環境に主体的に働きかけることのできる生活能力の育成が必要となろ う。家庭科で扱う生活は,家庭生活・社会生活などへと個からの広がりを持ち,しかも生 涯を見通した時間的広がりのある生活場面でありたい。

 3.2小学校「家族の生活と住居」領域との関連

 小学校「家族の生活と住居」と家庭生活領域の指導内容との関連を,図1に時系列的に 表した。I SM教材構造化法7)の考えを利用して作成したもので,図中に用いた項目は,

学習指導要領から抜きだした。そして,それらの関連づけを線で結んで示した。

 この図は指導の順序を示すのではなく,指導内容の関連を示している。つまり,小学校 5年における各指導内容の関連を示し,そこで指導されたそれぞれの内容が6年のどの指 導内容に発展しているか,そのつながりを示した。さらに中学校の家庭生活領域の指導内 容とはどうつながっているかを示している。また,教科書の内容構造を構造化することに よって,指導内容の関連もつかむことができる。さらに,これらを基にして,教師の指導 観,生徒の実態,目標等を考慮して学習内容を決定し,適切な指導順序を模索するために 用いることもできる。

4. 「家庭生活」の指導方法と教育環境

4.1授業と教育環境

授業を教授学的に分析すれば,図2のように「意図」 「テーマ」 「方法」 「メディア」

(9)

赤暗:中学校技術・家庭科「家庭生活」に関する理論的一考察 75

の4つの部分に分けられる。そして,これらは相互に関連しあって決められ,実施された 授業の中に具体的に現れる。しかも,これらの4つが決定されるための大きな要因のひと つとして考えられるのは「教育環境」である。家庭生活領域の目標や指導内容から考える

と,物的な教育環境だけではなく,人的な教育環境が整っているか,あるいは整えられる かが,授業の成立に大きな影響を与えるといえる。

 先述したように,今回の改訂では生活が重視されている。学校教育と生活の関連をもっ と密接にすることによって,21世紀の教育を志向しようというものである。つまり,「家 庭生活」の授業をよりよいものにするためには,授業を組み立てる「方法」と「メディア」

の研究はもとより,学校内の教育環境だけでなく,学校外の人的・物的教育環境を整える ことがその授業成立の条件となる。

教育環境

「家庭生活

卵一一〇

↑       ↑

↓       ↓

◎〉一一@

図2 授業と教育環境

 ところで,家庭生活領域の目標に, 「家庭生活に関する実践的・体験的な学習を通して,

自己の生活と家族の生活との関係について理解させ,家庭生活をよりよくしようとする実 践的な態度を育てる」とある。実践的・体験的な学習を行うためには,調査・観察,事例 研究,シミュレーション,ロールプレイングなど,多様な学習指導方法が,その授業の意 図とテーマにそってうまく組み合わされて導入されることが大切である。これらが図2で いう「方法」であり,それらの学習方法をより効果的にするために,表2のような「メディ ア」が具体的に活用されることになる。

 表2の統合型の新しいメディアについては若干説明を加えておく。8)

 パソコン通信については,近年のコンピュータの技術発展と普及によって,遠隔地の学 校間で,共通のテーマにそった共同学習を進める実践が行われるようになった。パソコン

(10)

表2 教育メディアの種類

メディアの系統 具体的メディァ

非投影系視覚メディア 静止画 絵・図類 模型と実物

投影系視覚メディア 実物投影 オーバーヘッド投影 スライド

音声メディア 音声テープ レコードとコンパクトディスク ード・シート類

映画とビデォ 映画 ビデオ

放送教育 テレビ放送 ラジオ放送

統合型の新しいメディア パソコン通信 ミミ号の航海 文京文学館

今栄国晴著 教育の情報化と認知科学 福村出版より作成

通信を介して,海外との情報交換さえ即時に行えるというメリットを利用した授業も可能 である。

 ミミ号の航海は,アメリカのバンク・ストリート教育大学が開発した教材で,小学校高 学年から中学校低学年を対象とした科学教育のためのマルチメディア・パッケージであ

る。

 文京文学館は日本視聴覚教育協会によって開発されたハイパーメディアであり,映像や 音声,文字といった異なる表現様式を,統合的な環境で,しかも学習者との相互交渉をと

もないながら扱うことのできる教材である。

 今後,家庭科においてもこれらのメディアを利用した教材・教具の開発が望まれる。そ して,そのことが「家庭生活」領域における物的環境・人的環境を作り出すことさえ可能

にする。

 ところで,メディアや教材・教具が実際に使われはじめると,それらを評価することが 重要となる。ここでは,「家庭生活」という新領域のさまざまな授業で使われたり,開発 されたりしているメディアや教材・教具が,今後良いものとして活用されるかどうか,そ の評価の基準を表3にまとめた。授業後,必ず評価を行い,修正を加えることが,次のよ

りよいメディアや教材・教具を生み出し,ひいては指導方法を開発することにもつながっ ていくといえよう。

(11)

赤崎:中学校技術・家庭科「家庭生活」に関する理論的一考察 77

表3 「メディア(教材・教具)」の評価基準

A 教師の立場からみた教材の評価基準

①学習の目標や学習活動の流れが明確にされているか

②一人一人の教師の持ち味,個性,独自性,さらには教材に対する判断などが入り込む  余地があるか

③教材の内容や題材の展開に,理論的な無理や間違いがないか

④教材の収納,保管,再利用,共同利用などに配慮がされているか

⑤その教材を利用した学習活動に対して,評価の基準や目標が明らかにされているか

B 学習者からみた教材の評価基準

①学習者の興味,関心,好奇心をひきつけられるか

②あらかじめ学習の目標や展開のあらすじが明らかになっているか

③学習者の参加性が考慮されているか

④特別な指導者がいなくても,学習活動ができるか

⑤発展的な学習題材に関心が向けられるようになっているか

⑥学習活動の結果,自己評価ができるようになっているか

C 共通財産としての教材の評価基準

①教材の完結性,または完成度

②共同利用の可能性 D 教具の評価基準

①物の大きさ ディメンジョンは適切か

②材料は適切か

③機能と構造は単純,素朴であるか

④活用と運用面の配慮がされているか

東洋他編 現代教育評価辞典 金子書房 pl89〜192より作成

(12)

 4.2教育環境の整備

 家庭生活領域の指導には教育環境の整備が必要であることは述べた。

 臨教審の第1次答申においても教育改革の基本方向として「教育環境の人間化」をうたっ ている。そこには, 「学校の教育機能と家庭,地域の教育機能との相互の基本的在り方を 問い直し,新しい家庭や地域の在り方を模索すること」, 「教師ひとりひとりが子どもの 心や体を理解するよう努めること」,「教育のシステムを導入すること」や「子どもを取

り巻く学校や日常の様々な環境条件について配慮すること」などがあげられている。9〉

 一般に学校を取り巻く教育環境は,人的環境と物的環境とにわけられる。人的環境とし ては,教師や生徒のもっている価値観や雰囲気,教師の専門的研究能力,父母の教育期待,

学校の社会文化的風土としての校風,地域の雰囲気や経済的文化活動があげられる。また,

物的環境としては,学校の物理的条件としての校舎・校地・施設・設備,環境条件として の学校の立地・交通量・騒音・大気汚染などである。

 これらのうち,物的環境の整備も欠かせないが,家庭生活領域では人的環境の整備がそ れ以上に重要である。その理由は,人的環境としての心理的環境が人間の行動に直接影響 を与えるからである。さらに,この心理的環境は学習者が物的環境をどのように受け取る かによっても構成されるし,地域住民の教育的・文化的な活動によっても作り出される環 境であるからである。すなわち,心理的環境を作り出すのも人間であり,その作り出され た心理的環境に人間の行動が影響を受け,その行動によって心理的環境が新たに作りださ れる,という循環した系を持っているからである。よい循環系を目指せるかどうか,悪循 環を繰り返す系であるかどうかの適切な判断・評価が必要である。

 また,家庭科教師は人的環境をよりよくするために,地域とのつながりを密にしていく 必要がある。しかしそれは,子どもの思考を活性化させることができるようなものでなけ ればならない。

 子どもの自由な働きかけに対して,ヒトとかモノとかが適切に応答してくれることによっ て学習は続けられ,発展していく。近年の認知的な発達心理学や幼児教育の進歩のもとに 登場してきたのが「応答する環境」という教育の方法である。 o)

 認知的な理論では,認知する主体としての人間が,周囲のヒトやモノなどからなる環境,

つまり社会,文化,自然などの環境との,能動的な働きかけを基調とする相互作用により,

学習し発達していくとみるのである。したがって,子どもの能動的で自発的な働きかけに 対して,環境側が適切に応答してやると,子どもの知的好奇心などが喚起され,学習の動 機づけによいことが明らかにされている。そのとき,重要なのは,子どもの自由な働きか けに対して,ヒトとかモノとかが適切に応答してやることである。したがって,この考え 方でも教育環境の整備は非常に重要である。

 すなわち,ヒトは教師であり,親であり,地域社会の人々であり,しかも,子どもの自 由な働きかけに対して適切に応答できるような能力をも持たねばならない。また,モノと しては先に述べた教育メディアなど,適切な応答がなされるようなモノを教師側が工夫し,

用意しておかなければならない。特に, 「応答する環境」のうち,モノとしてコンピュー タの利用も欠かせなくなるだろう。

(13)

赤崎:中学校技術・家庭科「家庭生活」に関する理論的一考察 79

5.家庭生活領域の評価

 5.1学習指導と評価

 一般に,教育評価に対する批判として,現在の教育評価のあり方が教育自体にとっての 阻害要因になっているといわれ,その理由として次のような点があげられている。 1〉

 ①教育活動を通じて形成される学力の総体の中で,記憶と理解にかかわる部分を中心と   したごく狭い領域のみが実際には測定・評価されがちである。

 ②ある教育期問の成果を他の人たちとの優劣関係として位置づけるだけの査定的かつ総   括的性格の強いものになっており,教育活動自体の方針決定や改善にはほとんど役に   立つことがない。

 ③評価結果が児童・生徒や両親,教師などに対してもつ心理的重みが過大なものになっ   ており,教育のための評価ではなく,評価のための教育となっている場合も少なくな   いo

 ④入学試験や内申書の点数を上げるという目的に直結する学習のみが,教師にも生徒に   も重視されるという事態が生じている。

 このような点から考えると,技術・家庭科において目標としている生活の充実向上を図 る能力と実践的な態度の育成を評価することはむずかしく,また受験教科でないという理 由によって,子どもにも親にもさらには教師にも軽視される傾向にある。したがって,教 科本来の目標を達成するための認知的・情意的能力の育成に価値をおく指導には幾多の困 難がある。

 ところが,新設された「家庭生活」では,個人的価値観をともなった認知的・情意的能 力や態度の育成が望まれているといえる。

 したがって, 「家庭生活」の指導と評価は,これまでの領域のように知識や技能習得を 中心としたものに対する評価ではなく,学習者である生徒の人格形成面に視点をあてた,

意志決定をともなうような課題解決を行う内容を中心としたものに対する評価であるとい えよう。すなわち,テストの点数や作品の出来不出来ではなく,生徒の主体的な実践活動 そのものから表出されるものをよりどころとして評価していくことになる。

 たとえば,「家族のひとりひとりはその家族のためにそれぞれの役割を果たしているこ とを認識させる」ことを目標とする授業について考えてみよう。12)教師は,生徒に,異な る文化や社会の中で生活している家族の役割の共通点と相違点を理解させたいと思うであ ろうし,また,家族のそれぞれが互いに影響しあったり,その地域の他の人々やさまざま な集団によって影響されたりしていることを理解させたいと思う。

 これらのことを理解させるためのひとつの手段として,教科書や参考書やメディアを利 用することが考えられる。しかし,それらに書かれ,あらわされている内容は著者・製作 者の意図にそった表現やデータに限定されたものである。したがって,これらの学習メディ

アを使った学習の場合,子どもが家族生活について獲得できたことは,いわゆる一般概念 であり,また,きわめて制限された知識であるため,かなり特殊なものとしてあらわれ,

生徒自身の家族内に起こる複雑なくらしとの関係づけや関連性を見いだすことはきわめて むずかしい。

 それではどのような学習指導がよいのかといえば,まず,学んだことを自分自身の言葉

(14)

や,あるいはその他の方法(たとえば,絵,行動,作品,音楽など)で表現する。そして,

次に生徒間で討論を行うという方法が,家族についての学習にはもっとも効果的な指導方 法であろう。

 すなわち,「家族は大切である」というような,家族についての一般概念を表す表現方 法を取らないで,生徒が家族について学んだことや分かったことを,自分自身の方法で説 明できるようにすればよいのである。そうすれば,生徒は教科書のような説明でなく,そ れ以外の表現方法を使ったさまざまな考え方で,学んだことを述べることになる。それぞ れ学んだ道筋が異なるのである。そして,話合いによって,子どもたちはそれぞれどのよ うな情報を持っているのか,あるいはそれらがどの点でどのように共通しているのか,ま たは異なっているのかについて分かりあえることになる。さらに,互いの意見,問題の考 え方や解き方を把握でき,次にはそれぞれが持っている考えを組み合わせることによって できた新しい視点のよさなどを,総合的に考えることができるようになる。

 つまり,生徒自身が学んだことを,学んだ道筋を大切にして(同じである必要はない)

それについての概念を作り上げていく過程が家庭生活領域の学習となるべきであろう。し たがって,このような学習指導によって表現された事柄を,家庭生活領域では評価の対象 とするべきである。

 5.2家庭生活領域の観点別学習状況評価

 先に述べた評価が子どもたちに示されるのは,通知表といわれるものを通してであるが,

今回の改訂によって評価の方法が変更された。すなわち,これまでは「知識・理解」が最 も重視されていたが,今回は「関心・意欲・態度」が重視されることになったのである。

したがって,中学校生徒指導要録の観点別学習状況評価欄の項目と家庭生活領域における 評価基準は3表4のようになると考えられる。

 表4の,②生活を創意工夫する能力や,③生活の技能や④生活や技術についての知識・

理解の評価については,従来の作品の評価やペーパーテスト等によって測定できるが,① については測定と記録の仕方を工夫しなければならない。さらに,それぞれの項目の最初 にあげたように,学習の成果は自己表現力によって示され,それらが測定される客観的な 資料になるので,表現力を持っているかどうかも問われることになる。したがって,これ

まではあまり指導されていなかった自己表現力の能力も育成しなければならない。

 学習方法として取り上げられているローププレイングやシミュレーションなども,ただ 単に問題を明らかにしたり,興味関心を持たせるための導入の方法だけにしないで,学習 の最後である評価まで,影響力を持つような学習方法として使われるような工夫が必要で

ある。

6.おわりに

 「家庭生活」領域の新設にともなってさまざまな問題が考えられるが,その解決のため には,教師のよく吟味された授業計画・実践・評価の積み重ねが最も必要とされる。今後 はそれらの実践例の収集と分析を行い,問題解決の糸口を見つけ出したい。

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赤暗二中学校技術・家庭科「家庭生活」に関する理論的一考察 81

表4 中学校生徒指導要録の観点別学習状況評価欄の項目と基準

①生活や技術への関心・意欲・態度

 ・家庭生活をよりよくしようとする態度にどのように表現されているか  ・生徒各自の課題が異なるので評価の工夫が必要である

 ・変容の姿を短期的・長期的に把握することが大切である

②生活を創意工夫する能力

 ・自己の生活と家族の生活をよりよくしようとするために創意工夫が表現されているか  ・積極的な活用・工夫・創造する能力が育っているか

 ・物の見方,考え方が育っているか  ・表現活動や実践的活動及び作品でおこなう  ・多面的な評価をおこなう

③生活の技能

 ・身につけた家庭の仕事の技術が家庭生活をよりよくしようとするためにどのように  表現されているか

 ・多面的な生活の場面で必要とされる基礎的な技能が身についたか  ・目的が的確にとらえられたか,方法や準備ができたか

 ・積極的な参加,自己変容したか

④生活や技術についての知識・理解

 ・家庭生活に関する事項と地域とのかかわりの理解がどの程度身についているか  ・他者や環境への思いやり,やさしさなど心情面での評価をおこなう

       引用文献

1)文部省,中学校指導書技術・家庭編,開隆堂出版,p.2 2)教育研究会編,臨教審総覧,第一法規に詳しい

3)教員養成大学・学部教官研究集会 家庭科教育部会,家庭科教育の研究,学芸図書,1978,

 p.73〜78

4)櫛田真澄,中学校技術・家庭科について,We,VbL6Nol2,ウイ書房,1988年2月

5)赤崎真弓,中学校「技術・家庭」科における年問指導計画作成について,長崎大学教育学部教科  教育学研究報告第14号,1990

6)高部和子,家庭科教育の動向について,全国家庭科部門昭和63年度大会報告書,日本教育大学協  会全国家庭科部門,1989年2月,p.32〜33

7)佐藤隆博,I S M構造学習法』明治図書,1987

8)今栄国晴編著,教育の情報化と認知科学,福村出版,1992年,p,134〜135 9)教育研究会編,臨教審総覧,第一法規,1987,p,71

10)教育情報科学研究会編,講座教育情報科学 1.教育とシステム,1988,p.81〜83 11)東洋他編,現代教育評価辞典,金子書房,1988,p.177〜178

12)Elliot W.Eisner,教育課程と教育評価,建吊社,1990,P.88〜P.92を参考にした。

参照

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