氏 名 ( 本 籍 ) 古川 真帆 (佐賀県) 学 位 の 種 類 博士(生命科学) 学 位 記 番 号 博 甲第124号 学位授与の日付 2020年3月19日 学位授与の要件 学位規則第 4 条第 1 項該当 学 位 論 文 題 目 KintounとH10BH-BPの機能解析 論 文 審 査 委 員 (主査) 田中 弘文 教授 伊藤 昭博 教授 髙橋 勇二 教授 松下 暢子 准教授
論文内容の要旨
【背景・目的】 生体内でのタンパク質の寿命は、数分から数週間以上とされている。このとき不要になったタンパ ク質を選択的に分解していくのがユビキチンプロテアソーム系で、ユビキチン系には、ユビキチン活 性化酵素(E1)、ユビキチン結合酵素(E2)、ユビキチン転移酵素(E3)といった3種の酵素が関与する。 標的となったタンパク質をE1、E2 へとユビキチンが渡され、E3 の順に受け渡していき、E3 が最終 的にユビキチンのK48 で繋がった形でポリユビキチン化されたものをユビキチン化する。ユビキチン プロテアソームによって分解する。このシステムは、細胞周期の進行、シグナル伝達、および免疫応 答を含む多くの生物学的機能において重要な役割を果たすシステムである。で幅広く保存されており、多発性嚢胞腎の原因遺伝子である Kintoun(DNAAF2: dynein axonemal assembly factor 2)と呼ばれるタンパク質が報告され(Omran et al,Nature 2008)、その C 末端側部分 配列がH10BH-BP と一致することが分かった。しかし、HeLa 細胞には繊毛が発現せず、RT-PCR に よる解析からは部分配列であるH10BH-BP mRNA のみの検出はされたが、全長 Kintoun の mRNA は検出できなかった。これは、Kintoun は繊毛を持つ細胞のみ発現しているという報告と一致してお り、H10BH-BP は Kintoun とは異なる機能を持っている可能性があるのではないかと考えられる。 Kintoun の機能について報告されているものは Kintoun の N 末に関するものが多く、繊毛形成に関与 するという報告ばかりだった。しかしH10BH-BP の機能の詳細は、明らかとなっていない(Fig.1)。そ のため、Kintoun と H10BH-BP の細胞周期の進行における機能を解明することを本研究の目的とする。 <Fig.1> Kintoun と H10BH-BP 【結果】
1.Kintoun 遺伝子からは Kintoun と H10BH-BP の 2 つの mRNA が発現する
Kintoun は、繊毛を持たない細胞では発現しないため、実際に Kintoun 5’側を HeLa 細胞 cDNA か らクローニングすることはできなかった。そこで、HEK293T 細胞を用いて血清飢餓培地で一次繊毛 (primary cilia)を形成する際の Kintoun/ H10BH-BP の mRNA 量を検討した。HEK293T 細胞で血清 添加培地と血清飢餓培地で培養を行い、24 時間ごとに細胞を回収した。回収した細胞から RNA 精製 を行いKintoun 5’側領域 (全長 Kintoun 相当)、Kintoun 3’側領域 (H10BH-BP 相当)の各種プライマ ーを用いてRT-PCR による mRNA 量の解析を行った。結果、5’側領域は、血清飢餓培地で培養した細 胞において、著しくmRNA 量が増加を示したのに対し、3’側領域 (H10BH-BP 相当)において血清添 加培地と血清飢餓培地のmRNA 量に大きな変化は見られなかった。また、同様の実験を HeLa細胞を 用いて行ったが、H10BH-BP は HeLa 細胞で発現しているのに対し、Kintoun 5’ 側領域は発現量が 著しく低かった。この結果は、HeLa 細胞では繊毛を形成しないので Kintoun 5’ 側領域を含む全長 Kintoun が発現しないというこれまでの結果と一致しており、裏付ける結果となった。これらのこと から、Kintoun タンパク質の N 末側 C 末側とでは異なった機能を持っている可能性があると示唆され た。
2.5’-RACE, Oligo Capping 法により H10BH-BP mRNA の転写開始部位を同定
転写開始位置は、全長Kintoun cDNA の 1228 番目からという結果が得られた。5’-RACE で得られた 結果をもとにより正確な転写開始位置を調べるために、Oligo Capping 法を行った。その結果、HeLa 細胞で全長Kintoun cDNA の 1193〜1257 番目付近が H10BH-BP の mRNA 転写開始部位である事が 示された。また、HEK293T 細胞では、報告されている Kintoun 遺伝子の-29〜-11 番目付近が mRNA 転写開始部位で、1230〜1355 番目が H10BH-BP の mRNA 転写開始部位であることが示された(Fig.2)。 さらに、5’-RACE や Oligo Capping によって得られた結果よりも上流にプロモーター領域が存在する と考え、Luciferase assay を行った。その結果、H10H-BP は Kintoun cDNA 1〜1172bp 内にプロモ ーター領域を有することが示された。
<Fig.2> Oligo Capping によって得られた結果
3.内在性 H10BH-BP KD による影響
縮後の染色体を解く働きを行うのが TOP2A であることが知られている。(Ronan Broderick et al, Nature Communications 2015)そこで、H10BH-BP と TOP2A の関連性を推測し、TOP2A による核 の形態異常のレスキュー実験を行ったところ、核の形態異常は正常細胞と同程度まで回復を示した。 また、TOP2A 阻害剤である HU-331 と Etoposide において、内在性 H10BH-BP KD 時と類似した核 形態も多く観察された。さらに、細胞内において内在性H10BH-BP KD 時、TOP2A の発現量が正常 細胞と比較して減少を示した。これらの結果から、H10BH-BP と TOP2A の機能的関与が示唆された。
5.Kintoun/ H10BH-BP は TOP2A 酵素活性を促進させる機能を持つ