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概日時計分子の機能低下による細胞がん化のメカニ ズムの解析

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Academic year: 2021

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

概日時計分子の機能低下による細胞がん化のメカニ ズムの解析

片宗, 千春

http://hdl.handle.net/2324/2236160

出版情報:九州大学, 2018, 博士(創薬科学), 課程博士 バージョン:

権利関係:やむを得ない事由により本文ファイル非公開 (3)

(2)

(様式5) 氏 名 :片宗千春

論文題名 :概日時計分子の機能低下による細胞がん化のメカニズムの解析 区 分 :甲

論 文 内 容 の 要 旨

悪性新生物「がん」は,日本人の死亡率の約30%を占め,平成28年度における死亡者数は37万 人に達している。また,推計の罹患者数も150万人以上に及び,画期的な治療法や予防策の開発が 続けられている。がんは遺伝的な要因や環境的な要因が相まって発症するが,不規則な生活パター ンの繰り返しにより,その発症リスクが増大することが指摘されている。

一方,ヒトをはじめとする哺乳類動物には,様々な生体機能に24時間を1周期とした概日リズム が認められ,それらリズムは時計遺伝子と呼ばれる一連の遺伝子群が転写・翻訳フィードバックを 構成することにより制御されている。転写因子である CLOCKと BMAL1がヘテロダイマーを形成 し,E-boxを介して,Period (Per)遺伝子やCryptochrome (Cry)遺伝子の転写を促進する。これら遺伝 子の産物であるPERおよびCRYタンパクはCLOCK/BMAL1による自らの転写活性を抑制する。最 近の研究成果により,生体リズムの慢性的な変調によって発がんリスクが増大することが認識され つつあるが,時計遺伝子の転写促進因子と転写抑制因子の欠損動物においては,いずれも生体機能 の概日リズムに異常が生じるものの,放射線照射後の発がん率が大きく異なることが指摘されてい る。また,時計遺伝子は正常細胞のみならず,がん細胞内にも発現し,生存シグナルの伝達や抗が ん剤の感受性にも影響を及ぼしている。この所見は,生体機能の概日リズムの破綻の仕方やその原 因によって細胞のがん化や抗がん剤感受性が左右されることを示唆しているが,そのメカニズムは 未だ解明されていない。

本研究では,概日時計を構成する転写促進因子(Bmal1, Clock)の機能不全細胞と転写抑制因子

(Per2, Cry)機能不全細胞に,がん遺伝子を導入することで,概日リズムの変調と細胞がん化およ び抗がん剤感受性との関連性を検討した。

1 細胞のがん化における概日時計の転写促進因子と転写抑制因子の機能的差異の解析

時計遺伝子の転写促進因子および転写抑制因子の機能不全マウスから調製した胚線維芽細胞を用 い,がん遺伝子(H-Rasv12, SV40LT)を導入することで,細胞のがん化における概日時計分子の転写 促進因子と転写抑制因子の役割について検討を行った。転写抑制因子である Per2Cry1/2 の機能 不全細胞では,がん遺伝子の導入によってがん化が誘導されたが,転写促進因子である Bmal1

Clock の機能不全細胞では,がん化に対して抵抗性を示すことが明らかになった。Per2 機能不全細

胞とCry1/2機能不全細胞では,がん遺伝子の導入によりActivating Transcription Factor-4(ATF4)が 誘導され,細胞老化因子である p16Ink4ap19Arf の発現上昇が抑制されることにより細胞のがん

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化が促進された。一方,Bmal1機能不全細胞やClock機能不全細胞では,がん遺伝子を導入しても,

ATF4が誘導されず,p16Ink4aやp19Arfの発現が上昇して細胞老化が引き起こされることが明らか になった。

2 がん遺伝子を導入したPer2機能不全細胞における抗がん剤耐性獲得のメカニズム解析 がん遺伝子(H-Rasv12,SV40LT)の導入によって悪性形質転換させた野生型およびPer2機能不全 細胞にMethotrexate (MTX),Gemcitabine (GEM),Etoposide (VP-16),Oxaliplatin (L-OHP),Vincristine

(VCR)の各抗がん剤を曝露し,48 時間後の生存率を測定したところ,Per2 機能不全細胞において,

これら5種の抗がん剤の殺細胞効果に対し抵抗性が認められた。抗がん剤の殺細胞効果は細胞内へ の取り込み量と細胞の薬剤に対する感受性とによって決定されるが,野生型とPer2機能不全細胞内 への各種抗がん剤の取込み量には有意な差異は認められなかった。一方,がん化したPer2機能不全 細胞内で高発現していたAldehyde dehydrogenase 3a1(ALDH3A1)の発現をshRNAで抑制したとこ ろ,各抗がん剤に対する感受性が野生型細胞と同程度にまで回復した。また,がん化したPer2機能 不全細胞では野生型細胞に比べて Aldh3a1遺伝子の転写開始部位付近におけるヒストンの脱アセチ ル化が低減しており,その修飾状態が転写を活性化させる方向に変容していることが明らかとなっ た。

過去に行われた疫学的調査や遺伝子改変動物を用いた研究から,概日時計の機能低下による生体 リズムの乱れは,発がんリスクを増大させることが指摘されてきたが,本研究の結果から概日時計 の機能低下は細胞がん化の促進のみならず,抗がん剤の抵抗性獲得にも繋がることが明らかになっ た。これまで,がん細胞の多剤耐性能の獲得は薬物排泄型トランスポーターの高発現やストレス耐 性の増大などが主なメカニズムと考えられてきた。しかしながら,本研究で明らかにしたPer2機能 不全細胞におけるALDH3A1の機能亢進は,薬剤排泄型トランスポーターの発現変容など,従来ま で提唱されていた機構とは異なる新たなメカニズムを明示しており,Per2の機能不全がより悪性度 の高いがん細胞を出現させる危険性を示唆している。本研究で得られた成果や方法論が有効な薬剤 の開発に繋がり,難治性がん治療の一助になることが期待できる。

参照

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