別紙様式1
修 士 学 位 論 文
前立腺がん外部放射線治療に おける最適体位に関する研究
平成 25 年 1 月 11 日 提出
首都大学東京大学院
人間健康科学研究科 博士前期課程 人間健康科学専攻 放射線科学域 学修番号:11897605
氏 名: 岡野 智行
( 指導教員名: 齋藤 秀敏 )
別紙様式3
平成24年度 博士前期課程学位論文要旨
注: 1ページあたり 1,000 字程度(欧文の場合は 300 ワード程度)で、本様式1~2 枚(A4 版)程度とする。
前立腺がんは男性固有で高齢者に発生しやすいがんである。前立腺がんの治療法は手術 が圧倒的な割合を占めていたが、放射線治療と内分泌療法の併用は、手術療法と同等の成 績が得らており、標準治療となりつつある。前立腺がんの制御のためには 72 Gy を超える ような高線量投与が必要である。そのため、強度変調放射線治療(IMRT)や画像誘導放射線 治療(IGRT)など最新の照射技術が開発され、高精度な放射線治療が求められている。
前立腺がんの治療は、患者セットアップの容易さから、仰臥位により治療を行っている 施設が多数を占める。しかし過去の研究において、腹臥位が正常組織に与える線量を低減 できるとの報告もあり、腹臥位を選択し放射線治療を行っている施設も存在する。
骨盤内臓器は可動性があることから、体位を変換すると臓器の位置や形状は変化する。
前立腺の体位変化による移動の論文は存在するが、それらは、金マーカなどを挿入して前 立腺のみの移動を検討したものであった。そのため骨盤内臓器が照射中にどのように変化 するかを明らかにする必要がある。
本研究はマーカ挿入など侵襲性を伴わず前立腺の位置を非侵襲的に確認できる MRI を用 いて、骨盤内臓器の interfractional および intrafractional motion を、体位ごとに解析し 明らかにした。それにより、前立腺がん外部放射線治療における最適体位を導きだし、放 射線治療の精度向上に寄与することを目的とする。
Intrafractional motion の一部である前立腺の呼吸性移動は部位によって異なり、精嚢部
分が一番大きく動き、前後、頭尾方向に動き、左右方向にはほとんど動かない。腹臥位に 対して仰臥位での変位量は小さい。骨盤内臓器の変位についは膀胱容積の増加によって引 き起こされる。膀胱容積の増加により前立腺の位置は仰臥位、腹臥位ともに背尾側に変位 したが、膀胱容積の変化と前立腺の動きには体位による有意差はなかった。膀胱容積の変 化による前立腺の変位は、照合時間や照射時間を短縮することで、抑えることができる。
Interfractional motion は仰臥位に対し、腹臥位での変位量は小さい結果となった。理由
として腹臥位の場合、前立腺が恥骨の上に位置することで固定され、直腸ガスの影響を受 けづらいためである。
これらから、骨照合のみで放射線治療を行う場合は、治療計画時の位置再現性を考え、
腹臥位の方が適していると考えられる。ただし、呼吸による動きのマージンを仰臥位より も大きく取る必要がある。また IGRT による臓器の重心や辺縁位置を治療時に取得できる ような場合は、前立腺照合を行うことで Interfractional motion が解消されるため、呼吸性 移動が小さい仰臥位を選択した方が、精度の高い治療につながることが明らかになった。
学位論文題名 (注:学位論文題名が欧文の場合は和訳をつけること)
前立腺がん外部放射線治療における最適体位に関する研究
学位の種類: 修士(放射線学)
人間健康科学研究科 博士前期課程 人間健康科学専攻 放射線科学域 学修番号 11897605
氏 名: 岡野 智行
(指導教員名:齋藤 秀敏)
平成 24 年度 修士学位論文
前立腺がん外部放射線治療における最適体位に関する研究
目次
第1章 序論
1.1 前立腺がんの放射線治療・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
1.1.1 前立腺がん放射線治療の腫瘍制御と有害事象・・・・・・・・・・・・・・2
1.1.2 強度変調放射線治療・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
1.1.3 前立腺の生理的な移動・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
1.1.4 画像誘導放射線治療(IGRT)の有用性 ・・・・・・・・・・・・・・・・5
1.2 研究の主題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
1.3 本論文の構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
第2章 本研究に用いる画像誘導装置の基礎的事項
2.1 画像の決定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
2.1.1 組織分解能 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
2.1.2 撮像範囲・スライス厚の検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
2.1.3 pixel size の検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
第3章 interfractional motion の解析
3.1 目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
3.2 方法および使用機器・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
3.3 結果および考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
第4章 呼吸による intrafractional motion の解析
4.1 目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
4.2 方法および使用機器・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
4.3 結果および考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
第5章 尿量変化がもたらす intrafractional motion の解析
5.1 目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
5.2 方法および使用機器・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
5.3 結果および考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
第6章 IMRT における前立腺移動時の線量変化
6.1 目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
6.2 方法および使用機器・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
6.3 結果および考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
6.3.1 contouring ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
6.3.2 基準前立腺 IMRT プラン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
6.3.3 検証プラン ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28
第7章 総括 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
第8章 結語 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32
参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33
謝辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35
倫理審査判定通知書 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36
1
第 1 章 序論
1.1 前立腺がんの放射線治療
日本では、今や 2 人に 1 人ががんに罹患し、3 人に 1 人ががんで死亡すると推測されて いる。前立腺がんは男性固有のがんで高齢者に発生しやすい。2007 年における罹患者数
47,318 人と男性におけるがんの第 4 位、約 11%を占めているが、2020 年以降は 1 位にな
ると予想されている
1)。
前立腺がんの治療法はおもに、手術療法・内分泌療法・放射線療法の 3 つである。以前 は手術が圧倒的な割合を占めていた。現在では 5 年生存率は病期によって異なるが、放射 線治療と内分泌療法の併用は、手術療法と同等の成績が得らており、標準治療となりつつ ある
2)。
放射線治療は、図 1.1 に示すように外部照射と組織内照射があり、さらに、外部照射は 三次元原体照射(3-dimensional conformal radiotherapy ; 3D-CRT)と強度変調放射線治 療(intensity modulated radiotherapy ; IMRT)に分けられる。また組織内照射は
125I を 用いた低線量率組織内照射(low dose rate ; LDR)と
192Ir を用いた高線量率組織内照射
(high dose rate ; HDR)に分類される。
本論文は外部照射を対象とする。そのため以降、本論文で放射線治療を論ずる場合は、
外部照射をさすこととする。
図 1.1 前立腺がん放射線治療の分類
2
1.1.1 前立腺がん放射線治療の腫瘍制御と有害事象
前立腺がんは放射線の投与線量と局所制御率に正の相関関係が、生検の病理組織検査に基 づき認められており、72 Gy を超えるような高線量投与が必要である
3)。
また、前立腺がんでは高い生存率が得られていることから、外部照射を行う上で、腫瘍制 御だけでなく、有害事象についても考える必要がある。骨盤臓器の中でその耐容線量が問 題となる臓器は、直腸、膀胱、小腸そして大腿骨頭である。大腸、膀胱および大腿骨頭の 耐容線量を表 1.1 に示す
4)。
前立腺がん局所への投与線量は先にも述べたように 72 Gy 以上必要である。前立腺は解 剖学的に直腸と膀胱に挟まれており、周囲には大腿骨頭も存在する。臓器の体積がすべて 含まれて照射された場合 5 年で 50 % に有害事象が発生する線量(TD
50 / 5)は直腸では 55 Gy 大腿骨頭では 65 Gy とそれぞれ 72 Gy を下回っている。また 5 年で 5 % に有害事 象が発生する線量(TD
5 / 5)に至っては、直腸および大腿骨頭で約 50 Gy となっている。
膀胱に関しては TD
50 / 5は 80 Gy 以上と高い線量であるが、前立腺の内部を通っている尿 道については、TD
50 / 5は 65 Gy と 72 Gy を下回っている。そのため、有害事象を減らす ためにも直腸・膀胱と大腿骨頭はともに 70 Gy 以上照射される体積を最小に抑える必要が ある。
有害事象は、照射中から照射後 3 ヵ月以内に発生する急性のものと、それ以降に発生す る晩期のものに大きく分けられる。前立腺がんの場合、一般的に問題になるのは晩期の有 害事象であり、症状としては膀胱炎・尿路障害・直腸出血などがある
5)。症状は Grade 分 類されており、その中で重篤なものは Grade 3 以上で焼却術やバルーン拡張術など外科的 処置を必要とするものである。現在分類には Common Terminology Criteria for Adverse Events ver 4.0 (CTCAE ver4.0)か Radiation Therapy Oncology Group (RTOG) の分類が通常用いられている。
表 1.1 大腸、膀胱および大腿骨頭の耐容線量
1 / 3 2 / 3 3 / 3 1 / 3 2 / 3 3 / 3
大腸 55 Gy ― 45 Gy 65 Gy ― 55 Gy 閉塞・穿孔
潰瘍・瘻孔
膀胱 ― 80 Gy 65 Gy ― 85 Gy 80 Gy 膀胱萎縮・
体積減少
大腿骨頭 ― ― 52 Gy ― ― 65 Gy 壊死
有害事象
TD
5 / 5TD
50 / 5体積 体積
3
1.1.2 強度変調放射線治療
IMRT はリスク臓器に近接した複雑な標的体積に対しても自在に線量を調整投与する
ことができ、放射線治療の可能性を大きく広げる革新的治療法である。IMRT は 3D-CRT の進化形であり、逆方向治療計画(インバースプランニング)に基づき、空間的、時間的 に不均一な放射線強度を持つ照射ビームを多方向から照射することにより、病巣に最適な 線量分布を得る放射線療法である
6)。
この治療法では、標的体積とリスク臓器が非常に近い場所にある場合、線量分布を急峻に 変化させて線量差を生じさせる。これは、呼吸性の動きや、臓器の容積量の変化によって 標的体積やリスク臓器がずれた際には、想定外の部位に高線量や低線量部分ができる可能 性がある。そのため IMRT の際には高度な固定技術や、臓器の移動等を考えた放射線治療 計画が必要となってくる。
前立腺がんにおいては直腸と膀胱がリスク臓器となりその間に前立腺が存在する。
3D-CRT では標的体積の形状に合わせてマルチリーフコリメータをフィッティングするた
め、前立腺に接している直腸壁への線量を低下させることが困難であった。しかし IMRT を用いると標的体積内に強度の変調を行うことができる。図 1.2 にフルエンスマップを示 す。フルエンスとはある球の断面積あたりに粒子がどれだけ入射したかを示す量である
7)。
この図はカラーマップで表示され、フルエンスの大きいところは赤、小さいところは青 く表示されている。ターゲット内のフルエンスが変化している様子がわかる。さらにこれ らの強度変調ビームを多門で照射することにより、図 1.3 に示すよう前立腺の後ろにある 直腸壁への線量を抑えることが可能となっている。
(a) IMRT 正面ビームのフルエンス (b)IMRT 斜入ビームのフルエンス
図 1.2 IMRT による前立腺がん各門照射フルエンスマップ
4
図 1.3 前立腺 IMRT の前立腺および直腸部線量分布
5
1.1.3 前立腺の生理的な移動
放射線治療における臓器の移動は次の二つの要素に分類される
7)。
・interfractional motion… 治療期間中の移動
・intrafractional motion… 一回の照射中の移動
一般的に照射時の位置確認は、治療計画に取得した CT 画像や透視画像を基準画像とし、
照射する際に取得した画像から、骨や臓器の辺縁、前立腺にあらかじめ挿入した金マーカ の位置移動変位を確認することで行われる。
前立腺は、呼吸,直腸ガス,直腸内容物,膀胱容積,腸の蠕動運動によって移動する。
また、これらは仰臥位および腹臥位によって異なる移動をする。その理由としては重力の 影響や、呼吸時に腹部が圧迫されるかなどにより臓器自体の移動可能な範囲が限定される からである。
1.1.4 画像誘導放射線治療(IGRT)の有用性
画像誘導放射線治療(image guided radiotherapy ; IGRT)とは 2 方向以上の 2 次元照 合画像、または 3 次元照合画像に基づき、治療時の患者位置変位量を三次元的に計測、修 正し、治療計画で決定した照射位置を可能な限り再現する照合技術を意味すると定義され ている。
IGRT を施行するためには、放射線照射装置と位置照合装置が同室に設置されている必 要がある。その位置照合装置は骨格、基準マーカ、臓器の輪郭などを基に患者位置変位を 計測するための照合画像を取得できるシステムである。さらに、ソフトウェアなどを用い て基準画像と照合画像を比較し、治療寝台移動量を算出できることが必要ある。照合画像 を取得する装置としては以下の装置があげられる
9)。
2 方向以上の透視が可能な装置
治療室内の設置、放射線照射装置に付属の撮影装置
Electric portal imaging device ; EPID 床(天井)埋め込み型放射線透視装置
画像照合可能な CT 装置
治療室内に設置された CT 装置、放射線照射装置に付属のコーンビーム CT 装置 On rail CT , On board imaging ; OBI , Megavoltage CT
画像照合可能な超音波診断装置
IGRT は照射開始前に骨格や、臓器を基準画像に合わせこむことで毎回のセットアップ エラーを最小にし、照射精度を向上させる。
Zelefsciky らは Memorial Sloan-Kettering Cancer Center にて前立腺がんに IMRT で
86.4 Gy の治療を行った患者において、IGRT を使用した IGRT 群と使用しなかった
6
Non-IGRT 群での、直腸障害および尿路障害における晩期有害事象を比較検討し報告して
いる。それによると Grade 2 以上の直腸の障害は IGRT 群では 1.0 % , Non-IGRT 群では 1.6 %であり有意な差は生じなかった。 尿路障害は 3 年で IGRT 群では 10.4 % , Non-IGRT 群では 20.0 %で有意差があった ( p =0.02)
10)。つまり IGRT を用いることにより有害事 象は減らすことが可能である。
1.2 研究の主題
前立腺がんの放射線治療においては前立腺局所に対して 72 Gy 以上の高線量を投与する 必要があり、正常組織の有害事象を減少させるために IMRT などの照射技術を用いること が有用である。IMRT は腫瘍と正常組織との線量勾配が大きく、照射位置精度など高精度 を求められる治療法である。
前立腺がんの治療は、患者セットアップの容易さから、仰臥位により治療を行っている 施設が多数を占める。しかし過去の研究において、腹臥位が正常組織に与える線量を低減 できるとの報告
11.12.13.14)もあり、腹臥位を選択し放射線治療を行っている施設も存在する。
骨盤内臓器は可動性があることから、体位を変換すると臓器の位置や形状は変化する。
前立腺の体位変化による移動の論文は存在するが、それらは金マーカやコイルを挿入して 前立腺のみの移動を検討したものであった
15.16.17)。そのため骨盤内臓器が照射中にどのよ うに変化するかを明らかにする必要がある。
本研究はマーカ挿入などを伴わず前立腺の位置を非侵襲的に確認できる MRI を用い、
骨盤内臓器の interfractional および intrafractional motion を体位ごとに解析し明らかに する。それにより、前立腺がん外部放射線治療における最適体位を導きだし、放射線治療 の精度向上に寄与することを目的とする。
これらの研究に関して、都立広尾病院 2012 年度倫理審査委員会 (受付番号 12) および首
都大学東京人間健康科学研究科、研究安全倫理審査委員会(受理番号 12062)の承認を得て
実施した。倫理審査判定通知書を 36 ページに載せる。
7
1.3 本論文の構成
本論文中の研究は磁気共鳴画像(Magnetic resonance imaging ; MRI)装置を用いて行 っている。MRI 装置とは、核磁気共鳴現象(nuclear magnetic resonance ;NMR)を利用 して生体における分子構造の磁気特性を、断層像として得る装置である。 MRI の特徴とし て、任意の断面の選択が可能、組織分解能がよい、磁気の利用により生体への被ばくがな いなどが挙げられる
11)。
放射線治療に用いられる画像誘導装置は、ほとんどの場合 X 線を用いているため、被ば くを生じる。
本研究では、前立腺の動きを検討すること、位置特定に前立腺と他臓器との組織分解能 が高いことが必要であるため、画像取得には被ばくのない MRI を選択した。しかし、放 射線治療計画を実際に立てるために、第 6 章にて骨盤の CT 撮影を行っている。
第 2 章において、研究に用いる MRI の基礎的事項を検討し、実験に使用する MRI 画 像のマトリックスサイズや、撮像範囲、撮像シーケンス、加算回数などを検討したので報 告する。
第 3 章において、interfractional motion の解析について報告する。前立腺の放射線治 療は一般的に 25 回から 38 回程度照射を行う。前立腺の位置が毎回同じ位置にあればよ いが、直腸や膀胱など臓器の位置が変化をきたすと考えられることから、毎回の臓器位置 の変位を検討する必要がある。また臓器の位置は、体位によっても変化することを考え、
仰臥位および腹臥位にて、前立腺の4日間 interfractional motion を MRI 画像から解析 し、どちらの体位が有効なのかを明らかにした。
第 4 章において、前立腺の intrafractional motion の一部である呼吸性移動の解析につ いて報告する。呼吸で骨盤内臓器が動き、それに伴って前立腺が変位することを確認する ため MRI 画像を用いて前立腺の変位を算出した。 仰臥位および腹臥位にて解析を行った。
第 5 章において、intrafractional motion の一部である膀胱容積の変化が前立腺および 周囲の臓器に与える影響を解析し報告する。仰臥位および腹臥位にて、膀胱容積の増加を 経時的に撮像し、膀胱容積の増加による膀胱形状の変化と、それに伴い周囲の前立腺や小 腸がどのような影響を受けるのか、またどの程度変位をきたしたのかを解析し報告する。
第 6 章において、仰臥位前立腺 IMRT 治療時に前立腺が変位した場合、線量分布がど のように変化するか実際の骨盤 CT 画像を使用し、放射線治療計画を作成した。その際の 前立腺、直腸および膀胱の線量変化について解析し報告する。
第 7 章において、本論文でおこなった研究の解析結果を総括し、論文との比較検討を 行い、考察を述べた。 さらに、 前立腺がん外部放射線治療における最適体位を導き出した。
第 8 章において、本研究により明らかとなったことを結論づけた。
8
第 2 章 本研究に用いる画像誘導装置の基礎的事項
MRI の画質は、静磁場強度、スライス厚、pixel size、加算回数、などによって変化す る。高い信号強度を得るためには、高い静磁場強度、大きな voxel size、画像の加算回数 を増やすことが求められる。実験に MRI を使用するに当たり、pixel size、スライス厚、
撮像シーケンスの検討を行った。使用機器は SIEMENS 社製 1.5T MRI Avanto、
Symphony を用いた。
2.1 画像の決定
本研究に求められる要素として、前立腺の描出と、移動量を判断するための以下の要件 を満たす画像を検討した。
静磁場強度に関しては、実験を行った 2 施設の MRI 装置が 1.5 T のみであり、検討項目 としなかった。
・組織分解能が高く前立腺の境界が確認できる画像であること。
・高分解能のために、小さな pixel size であること。
・撮像範囲は前立腺から膀胱まで撮像できること。
・スライス厚は頭尾方向にアーチファクトを発生せず、信号の低下を起こさない厚さで あること。
・膀胱容積の変化確認のための時間的項目も有すこと。
2.1.1 組織分解能
前立腺の辺縁を描出するため、前立腺組織、周囲脂肪組織、膀胱、直腸壁とのコントラ ストがついている必要がある。そのため撮像シーケンスには、水および脂肪が描出される turbo spin T2 強調画像を選択した
18)。
2.1.2 撮像範囲・スライス厚
膀胱上縁から前立腺下縁までを十分に撮像するためには 11 cm 程度必要である。撮像範 囲は撮影スライス厚 × 撮像枚数によって決まる。
頭尾方向に対して高分解能を求める場合薄いスライスが必要になるが、スライス厚が薄 くなるほど信号強度は低下し S/N (signal to noise)が低下し、さらに撮像枚数を多くする 必要がある。今回は 3 mm および 2 mm にて比較を行った。
図 2.1 はスライス厚 3 mm の MRI 画像 (a)の axial 像では S/N が良く前立腺辺縁が明確 に描出されている。しかし(b)に示す再構成 sagittal 像において恥骨および膀胱部分で画像 の段差が目立つ。
図 2.2 はスライス厚 2 mm の画像 (a)の axial 像では 3 mm 画像に比べ少し S/N が低下 していることが確認できる。しかし、前立腺など周囲の臓器の辺縁を描出することはでき
る。 (b)に示す再構成 sagittal 像においては、前立腺、膀胱、直腸の辺縁が滑らかに描出さ
9 れ、骨盤内臓器の位置を確認することができる。
このことより、スライス厚は 2 mm を選択し撮像枚数は 55 枚と決定した。
(a) axial 像 (b) sagittal 像 図 2.1 スライス厚 3 mm MRI 画像
(a) axial 像 (b) sagittal 像 図 2.2 スライス厚 2 mm MRI 画像
2.1.3 pixel size の検討
骨盤領域の画像を得るために撮像範囲は 230 mm に設定した。本研究では前立腺の動き をミリ単位で計測するため、pixel size は 1 mm 以下に設定した。そのため、マトリック ス数 320×320 , pixel size 0.7×0.7 mm 、 446×446 , pixel size 0.5×0.5 mm にて比較した。
同一撮像範囲であるため、マトリックス数がそのまま pixel size に関わるが、同時に信
号強度にも影響を及ぼす。最も高分解能であるマトリックス数 446×446 で撮像したが信号
強度が落ちてしまい前立腺の辺縁を判別するためのコントラストが十分に得られなかった
ため、マトリックス数 320×320 で行ったところ前立腺の辺縁を判別することは可能であっ
た。その結果撮像範囲は 230 mm マトリックス数 320×320 pixel size を 0.7×0.7 mm に
決定した。
10
第 3 章 interfractional motion の解析
3.1 目的
骨盤を形成している骨は日々変動することはない。しかし骨盤内臓器の前立腺は、直腸 内容物や、膀胱容積の変化によって位置が変化する。つまり骨盤骨は位置の変化がなくて も、 内容物の臓器位置は変化するため、 骨に対して臓器は一定の位置にいないこととなる。
治療期間内の臓器位置変位は interfractional motion に分類され、日々の位置の変化は計 画に使用した画像と治療時に取得した画像から移動量を求めることができる。骨盤内臓器 の位置関係は X 線透視装置ではコントラストが付かないため正確な位置を確認することは できない。
多くの施設において、放射線治療時に臓器の位置が把握できない場合、治療計画時の骨 の位置と、治療時に取得した骨の位置を照合して照射が行われている。これは臓器の変位 を加味していないため、同じ位置にあると仮定して治療をしていることになる。放射線治 療計画時の臓器位置と毎回の照射時の臓器位置が同じにあるかを把握するためには CT や MRI によって得られる Volume データが必要である。
今回前立腺の interfractional motion が仰臥位および腹臥位によって変化するのかを、
被ばくの問題がなく、組織分解能の高い MRI にて Volume データを取得し、解析を行う。
それにより interfractional motion はどちらの体位が少なく、治療に有効なのかを明らか にする。
3.2 方法および使用機器
前立腺の interfractional motion を検討するため、MRI (1.5T Avanto SIEMENS) を用 い T2 強調画像 , スライス厚 2 mm , pixel size 0.7×0.7 mm の条件で撮像した。4 名の対 象ボランティアに対し、 4 回、別の日に腹臥位および仰臥位にて骨盤の MRI を撮像し比較 検討した。今回の撮像に対し排尿や排便などの前処置は行わなかった。
解析には治療計画装置 Eclipse Ver6.0 (VARIAN) を用い、4 回取得した MRI 画像は初 回の画像を基準画像としてフュージョンし、骨照合を行った。取得した各 MRI 画像の前
立腺を contouring し重心を求め、基準となる前立腺重心に対し、各回の前立腺重心が座標
上、腹背(Anterior-Posterior;AP) 頭尾(superior- inferior;SI) 左右(Left-Right;LR)
方向に移動した距離を算出した。
3.3 結果および考察
仰臥位および腹臥位の各方向の interfractional motion について、表 3.1 に示す。初日
の前立腺重心に対して各回における方向移動量を示す。 a-d は対象ボランティアで SD は
3 日間のものである。患者間の移動量平均は絶対値で示す。
11
(a) は AP 方向の interfractional motion を示した。仰臥位では最大 6.4 mm の変位が見
られ平均 2.6 mm の変位があった。腹臥位では最大 2.7 mm の変位が見られ、平均 1.7 mm
の変位があった。今回 AP 方向での interfractional motion は腹臥位の方が小さかった。
(b) は SI 方向の interfractional motion を示した。仰臥位では最大 3.0 mm の変位が見 られ、平均 1.0 mm の変位があった。 腹臥位では最大 2.3 mm の変位が見られ、平均 0.7 mm の変位があった。今回 SI 方向での interfractional motion は腹臥位の方が小さかった。
(c) は LR 方向の interfractional motion を示した。仰臥位では最大 2.1 mm の変位が見
られ平均 0.9 mm の変位があった。腹臥位では最大 1.1 mm の変位が見られ、平均 0.4 mm
の変位があった。今回 LR 方向での interfractional motion は腹臥位の方が小さかった。
表 3.2 に全方向体位についてまとめたものを示す。全方向において interfractional
motion は腹臥位での変位が少なかった。 SI,LR 方向では両体位とも変位は 1.0 mm 以下と
小さかった。大きく動くものは両体位とも AP 方向であった。
今回、排尿や排便などの前処置は行わなかったため膀胱や直腸容積が初日と異なること
が、前立腺の位置が膀胱内尿量の変化や直腸内のガス便による拡張の影響を受け AP 方向
に大きく変位したと考えられた。
12
表 3.1 interfractional motion (単位 mm)
(a) AP 方向
(b) SI 方向
(c) LR 方向
表 3.2 interfractional motion 各方向まとめ (単位 mm)
2day 3day 4day average SD 2day 3day 4day average SD a 0.40 1.00 -4.20 -0.93 2.84 0.50 1.00 -2.60 -0.37 1.95 b 2.90 1.90 2.10 2.30 0.53 -2.70 -2.30 -2.30 -2.43 0.23
c 3.30 4.40 2.60 3.43 0.91 1.50 2.50 2.50 2.17 0.58
d 0.70 6.40 3.50 3.53 2.85 2.30 1.70 1.80 1.93 0.32
絶対値平均
― ― ― 2.55 ―
― ― ―1.73
―σ ― ― ― ― 2.08 ― ― ― ― 1.04
対象 仰臥位 腹臥位
2day 3day 4day average SD 2day 3day 4day average SD a -0.20 0.80 3.00 1.20 1.64 0.50 2.30 0.50 1.10 1.04 b 1.10 2.20 0.90 1.40 0.70 0.40 0.40 1.00 0.60 0.35 c -2.40 -0.70 1.70 -0.47 2.06 -1.50 0.00 -0.50 -0.67 0.76 d -0.30 -1.10 -1.10 -0.83 0.46 -0.10 1.00 0.80 0.57 0.59
絶対値平均
― ― ― 0.98 ―
― ― ―0.73
―σ ― ― ― ― 1.38 ― ― ― ― 0.73
対象 仰臥位 腹臥位
2day 3day 4day average SD 2day 3day 4day average SD a 2.10 0.20 1.40 1.23 0.96 0.50 -0.40 -0.20 -0.03 0.47
b 0.20 1.00 2.10 1.10 0.95 -0.70 0.00 0.80 0.03 0.75
c -0.80 -0.20 -0.30 -0.43 0.32 0.60 0.90 0.90 0.80 0.17 d -0.70 -0.30 -1.20 -0.73 0.45 0.40 0.70 1.10 0.73 0.35
絶対値平均