アルミニウム合金の熱伝導率について
(昭和45年10月20日 原稿受理)
金属工学教室中尾善信
〃 村 上 信 義
金属工学大学院伊崎紘一
AStudy of Thermal Conductivity of Aluminium Alloys
by Yoshinobu NAKAO
Nobuyoshi MURAKAMI
and Koichi IZAKI
The thermal conductivities of pure aluminium, A1−Si−alloy, ALCu−alloy and A1−
Si−Cu−alloy were measured. In all cases, thermal conductivity decreased with in−
creasing amount of alloying element. In the series of pure aluminium and A1−Cu−
alloy, the specimen consisting of columnar crystals showed the highest value・In
the series of A1−Si−alloy, however, the specimen slowly solidified showed higher value than rapidly solidified one. But the lower value of the specimen recovered by reheating. The thermal conductivity of A1−Si−alloy slowly solidi丘ed and modified by natrium or phosphorus showed lower value than normal one.1.緒 言 2.実験方法
アルミニウム合金の熱伝導率は鋳鉄に比べ3倍 2.1.実験試料
くらい大きいので,内燃機関のシリンダーなどを 所定の配合の合金を電気炉中にて溶製し,
アルミニウム合金で製作すれば重量が小さくなる (1)鋳鉄製の金型中にて凝固させる方法 ほか,シリングー内壁温度の低下,温度分布の均 (2)一方向から水冷して凝固させる方法 一化などの長所がある。本研究は純アルミニウム ③ 予熱したアスベスト鋳型中にて徐冷し凝固 およびアルミニウム合金の組織と熱伝導率との関 させる方法
係についての知見を得るため行なったものであ 以上の3種類の凝固方法により直径4.5cmの る。 円柱形の試料をつくった。以下(1)の方法による 純アルミニウム,A1−Si合金, A1−Cu合金 試料をM試料,(2)をD試料・③をS試料と略 およびA1−si−Cu合金を3種類の凝固方法, 記する。
すなわち金型凝固法,一方向凝固法および徐冷凝 試料の化学組成は測定結果とともに表1,表 固法によりちがった組織の試料をつくった。また 2,表3に示す。純アルミニウムの試料は99.996 A1−Si合金とA1−Si−Cu合金についてはナ %と99・7%の2種類で・合金試料はすべて99・7
トリウムおよびリンにて処理を行なったものも試 %のアルミニウムをベースとして中間合金を配合
料とした。これらの試料について常温付近の熱伝 した。中間合金としてはA1−29・7%Si・A1一
導率を測定した。 35・5%Cuを用いた。 A1−Si合金・A1−SLCu
合金に対してはナトリウム処理およびリン処理を
行なった。ナトリウム処理の方法としては金属ナ
表1 鋳鉄製の金型中にて凝固した 一丁}…』一一一..一…一一一一一一一『¶一}…一一一一 試料の熱伝導率
化学組成 (%)
C・|Sil Al 処 理 熱 伝 導 率
(ca1/cm sec°C)
99,996 0,518
99.7 0,501
2 98
0,440
4 96
0,385
8 92
0,352
3 97
0,410
6 94
0,388
12 88
0,377
24 76
0,347
2 6
920,345
4
6
90 0,3ユ32 12 86
0,326
4 12 84
0,297
2 24 74
0,287
4 24 72
0,264
6
94 ナトリウム処理0,394
ユ2 88 ナトリウム処理0,379
12 88 リ ン 処 理0,369
24 76 リ ン 処 理0,330 2 6
92 ナトリウム処理0,347
46
90 ナトリウム処理0,323
2 ユ2 86 ナトリウム処理0,343
4 12 84 ナトリウム処理0,308 2
24 74 リ ン 処 理0,284
4 24 72 リ ン 処 理0,264
2
42
42
424
6
12 12 246 6
12ユ2
24 24
72 94 88 88 76 92 90 86 84 74 72
ナトリウム処理 ナトリウム処理 リ ン 処 理 リ ン 処 理 ナトリウム処理 ナトリウム処理 ナトリウム処理 ナトリウム処理 リ ン 処 理 リ ン 処 理
0.247 0.378 0.366 0.354 0.318 0.346 0.335 0.336 0.311 0.275 0.253
表3 アスベスト鋳型中にて徐冷し 凝固した試料の熱伝導率 0.3ユ3 化学組成(%)
α326 @C・ISiい1 処 理 熱伝導率 (ca1/cm cec°C)
表2 一方向から水冷して凝固した試料の熱伝導率
化学組成(%)
C・ISiい1
2 4 8
2
42
42
3
6
12 246 6
12 12 2499.996 99.7
98 96 92 97 94 88 76 92 90 86 84 74処 理
熱 伝導 率
(ca1/cm sec°C)
0.568
0.556 2 0.459 4 0.417 2 0.360 4 0.390 2 0.367 4
0.359
0.326
0.353 トリウム1%を,6%Si合金に対しては730℃
o.321 にて,12%si合金に対しては680℃にて添加し 0.334 た。リン処理の方法としては赤リン0・1%を,12
0・292
@ %si合金に対しては730℃にて,24%si合金゜・277 @に対しては87ぴCにて添加した.このようにし
〉 1−一一一 一.
99,996 0,527
99.7 0,505
2
980,430
4 96
0,390
8 92
0,352
3 97
0,450
6 94
0,440
12 88
0,417
24 76
0,396
2 6
920,359
4 6 90
0,333
2
12 860,347
4 12 84
0,324
2
24 740,300
4 24 72
0,268
6 94 ナトリウム処理
0,401
12 88 ナトリウム処理0,383
12 88 リ ン 処 理0,373
24 76 リ ン 処 理0,346
2
6 92 ナ}リウム処理0,348
4 6 90 ナトリウム処理0,312
2
ユ2 86 ナトリウム処理0,341
4 12 84 ナトリウム処理0,320
2
24 74 リ ン 処 理0,281
4 24 72 リ ン 処 理0,241
て溶製した試料を直径4cm,高さ12 cmに仕上 {
げて試験試料とした試料は熱伝導率を測定したのち,縦断しマクロ 1 組織およびミクロ組織をしらべた写真1は純ア 為
試料では試料の中心軸に向って柱状晶が発達して いる D試料では試料の軸方向と平行に柱状晶が
シ ト ま
発達している。S試料は方向性がランダムな大き 臨 な結晶粒から成り立っている !Al−Si合金は凝
固法がちがってもマク戸組織はbまり変らない、1
喧2は・2%S恰鈴苦諦につし・撫魍
およびナトリウiム処理…迦kを㌔った試料;
の》・繊を示す写真3はALCu合金試 ぷ酬ぷ .方;」(D) 締(S)
料のマクロ組織を示す。Al−Cu合金では純アル 写真1純アルミニウムの試料(99.996%)
ミニウムとちがい銅が多くなるとともにM試料 のマクロ組織 では柱状晶がなくなり微細粒状晶となる.D試料
は銅2%では柱状晶が明瞭であるが銅が多くなる ひも状のアスベストを充填した
とともに羽毛状晶があらわれ銅8%となると柱状 熱流が定常になったことを確認したのちマイク 晶,羽毛状晶はなくなり微細粒状晶のみとなる Pボルトメータで標準試料および試験試料の温度
2.2. 実験装置 勾配を測定し(1)式により試料の熱伝導率を求め熱伝導率の測定は純銅製円柱形の標準試料と試 た
㌶㌶㌶欝㌻麓罐;鍾 瓦袈1一㌶: (・)
を示す.標準試料の下方に試験試料を取付け,こ ただし1(は熱伝導率,4θ/4Xは温度勾配で添字 の下端をニクロム線発熱体で加熱し標準試料の上 1,2はそれぞれ標準試料および試験試料をあら 端を水冷して一定温度に保った.熱が試料の表面 わす なお標準試料(純銅)の熱伝導率として
から外部へ移動するのを防ぐため試料の周辺にも 0.934cal/cm sec℃1)を採用した,発熱体を設け,この発熱体の内側の温度と試料表 面の温度が同じになる様にした.また空間部には
徐 冷 (無処理) ナトリウム処理 リ ン 処 理 写真2 A1−12%Si合金試料のミクロ組織 (\75)
シ
灘
鱒、
・ 藷 ,ジ 芯
s
諺 τ 遊 灘
懇
金型(M) 一方向(D) 金型(M) 一方向(D) 金型(M) 一方向(D)
Al−2%Cu合金 AL4%Cu合金 A1−8%Cu合金 写真3 A1−Cu合金試料のマクロ組織
0。6
り
む三ご㌻三:三芦モξチラ2。
i窪.1邊 3 i
霧゜婁違 4 言u
パロコ クコほ む カ グ グ
:三il:孝1… 5葺o・3
.㌘ ㌧ ● 二ご● 柵
ジ コの
:lli }ll: 6 墓
7(99.996%Aユ)Si, wt%
8 図2純アルミニウムおよび
9 A1−Si合金の熱伝導率
6
D M 金 型
D 一方 向 S 、
S 徐 冷 5 M
、、
S
4
● M
、 、
一 〜 一
「b「、〜 、、一」■ 一 、 3
(99。7%A1)6
1218 24
図1 実験装置 3.2.純アルミニウムおよびAl−Si合金に ①冷却水 ②標準試料 ついて
躍ス㌶総㌶;孔 純アルミーウムおよびA1−Si合金の熱鱒率
⑦銅 板 ⑧発熱体 を図2に示す・純アルミニウムの熱伝導率はD
⑨イソライトレンガ 試料がもっとも大きく,M試料, S試料はD試 料に比べ約10%小さい。写真1に示すようにD
3. 実験結果および考察試料は柱状晶のみからなり,この柱状晶の長さの 3.1.熱伝導率の測定結果 方向はよく知られているように[100]方向と一致 M試料(金型),D試料(一方向), S試料(徐 している2 。このことは著者の1人が前に報告し 冷)の熱伝導率の測定結果をそれぞれ表1,表 た3)4)。またD試料では熱流が抵抗の大きな結晶
2,表3に示す。 粒の境界を通過することがすくない。これに対し
M試料では[100]方向は熱の流れに対し直角の
方向に向いており,また熱流が結晶粒の境界を通 o.5 過することが多く,このため熱伝導率が小さいと
思われる。また図2に示すように純アルミニウム
0。4 にケイソを添加するとその熱伝導率は小さくな
る。ALSi合金ではS試料の熱伝導率がもっと
も大きく,M試料, D試料の順となる。 A1−si o.3 合金はその凝固法がちがってもマクロ組織はあま
り変らないが,S試料に比べD試料やM試料の ⇔ o°5 熱伝導率が小さいのは冷却速度が大きいため,α : 固溶体中に強制固溶するケイソが多くなり,初晶 臼 o&
および共晶中のα固溶体の熱伝導率が小さくな 〉
べ る
るためと思われる。これを確かめるためにM試 。 料を400℃に8時間焼鈍したのち,熱伝導率を測 葺 o°3
定した。その結果を図3に示す。このように焼鈍 脚 o.5 鴫
によりM試料の熱伝導率は大きくなり,S試料 涙とほとんど同じとなる。
O。4
。O O。5M金型Aぺぷ 掾A、 A焼鈍 ℃
N
M金型(無処理)
mナトリウム処理 oリン処理
q唱■〜 M、P
,
⊃一方向 (無処理)
Nナトリウム処理 Pリン処理 N
一 一 〜 D
、P 、
o ① O・3
06121824掛の
Si,w七%
沖臼 O.4
ぺ 図4㌶慧響ξ曇篇馨
漏irl
㊦ 導率の測定値が(2)式による計算値とよく一致す
oることを報告している。
O。3
0 6 12 瓦一K、些±(・−1)盈d・一理(K!−K・)−
Si,w七% K・+(η一1)K1+ち(K1一瓦)
図3焼糺たALSi合金の熱伝導率 〆(2)
η一3/〜ρ, ψ一ぷo/8κ
3・3・ ナトリウム処理およびリン処理を行な K:混合物の熱伝導率 ったA1−Si合金 Kl:連続相の熱伝導率
AL 6%Si合金・AL12%Si合金にナトリ K、:第2相(不連続相)の熱伝導率 ウム処理を行なったもの・およびAL12%Si合 ψ:形状係数(sphericity)
金・A1−24%Si合金にリン処理を行なったもの 8。:球の表面積
の熱伝導率の測定結果を図4に示す。M試料お 5。:球と同一体積の物体の表面積 よびD試料についてはナトリウム処理およびリ γ1:第2相の体積分率
ン処理を行なっても熱伝導率はあまりかわらな またBrophy, Sinnott6>はダクタィル鋳鉄の い。これに対しS試料はナトリウム処理および 熱伝導率の測定値が(3)式による計算値とよく一
リン処理によりその熱伝導率は約10%小さくな 致することを報告している。
る;相混合物の}}いてH。miltαエ K一磯濃煮緩欝(3)
Crosser5)はアルミニウムとゴムの混合物の熱伝 α:常数
S徐冷 (無処理)
S
Nナトリウム処理 Pリン処理 N「、、〜 、
P
これらの研究を参考としてALSi合金の熱伝 o。6 導率を計算することを試みた。(2)式により熱伝
導率を計算するためには連続相(α固溶体)の熱 ゜。
伝導率1ζ1と第2相(ケイソ)の熱伝導率1(,の ;o・
値が必要である。ケイソの熱伝導率として0.2 日 む ca1/cm sec℃7)をとり,α相の熱伝導率は計算 ご
により求めた。 50°4
写真2に示すように処理を行なわないAL12 ば%si合金3試料のミクロ組織はα固溶体と針状 勲 0。5 のケイソとの共晶混合物である.このケイソを糸田 嚢
い丸棒と仮定し,その長さ(L)と直径(4)との
比をmとすれば,共晶中のケイソはm>10が 。・
大部分である。そこでm−10とすれば計算によ c馬w七% ・
りψ一〇.579,η一5.179となる。またこの試料の ._ 図5 A1−Cu合金の熱伝導率 熱伝導率の測定値は表3に不すように0.417ca1/
cm sec℃であるから(2)式に, K−0.417,1(、一 が析出することによる熱伝導率の変化がAl−S O.20,η一5.179,γ、−0.136を代入すればα相 合金では大きくAl−Cu合金では小さいことが
の熱伝導率K、−0.455が得られる。 原因と思われる。
ナトリウム処理したAL12%Si合金ではケ
イソはほぼ球形となるので,(2)式rこκ1−。.455 4総 括
κ、−o.20,η一3.oを代入して計算すると1ζ一 純アルミニウム, ALSi合金, ALCu合金 o.414が得られる。これに対し測定値は表3に示 およびALSi−Cu合金の熱伝導率を測定して すように0.383cal/cm sec℃で計算値よりか つぎのような結果を得た。
なり小さい。これはケイソが単に球状化するのみ (1) 3種類の凝固方法(金型凝固,一方向凝 ならず微細化すること,α固溶体が晶出するこ 固,徐冷凝固)により試料の組織をかえそれらの と,ナトリウムがα固溶体にわずか固溶するこ 熱伝導率を測定した。添加元素の増加とともに熱 となど』が原因と思われる。 伝導率は小さくなる。測定値を表1,表2,表3 3.4.A1−Cu合金の熱伝導率 に示す。
A1−Cu合金の熱伝導率を図5に示す。このよ (2)純アルミニウムおよびA1−Cu合金にお うにアルミニウムに銅を添加するとその熱伝導率 いては,柱状晶からなる試料の熱伝導率がもっと は小さくなる。銅2%,4%の合金では純アルミ も大きい。
ニウムの場合と同じくD試料の熱伝導率がもっ (3)ALSi合金では徐冷した試料の熱伝導率 とも大きく,M試料とS試料とはあまりちがわ がもっとも大きい。大きな冷却速度で凝固した試 ない。銅8%の合金では3種類の試料とも熱伝導 料の熱伝導率は小さいが焼鈍により大きくなる。
率はあまりちがわない。これは写真3に示すよう ④ ナトリウム処理やリン処理を行なった に銅2%,4%の場合はD試料のマクロ組織に A1−Si合金の熱伝i導率は無処理のものより小さ 柱状晶が見られるが,銅8%となると粒状晶のみ い。
となり,凝固法のちがいによる組織のちがいはあ
まりないためと思われる。またALSi合金では 後記 本研究の費用の一部は文部省科学研究費 前に述べたようにS試料の熱伝導率がもっとも によった。
大きいが,ALCu合金ではD試料の熱伝導率
がもっとも大きい。これはα固溶体より第2相
6
M 金
型D 一方向
\、
S 徐
冷\
、
D、 、
S
、4,
、 、、 、
5
No.7, p.607.
参 考 文 献
5) R.LHamilton,0. K. Crosser:Iand EC 1)ASM:Metals Handbook(8th Ed.)Vo1.1 (Fundamentals)Vo1・1(1962)No・3, P・187・
(1969)P.55. 6) J・H・Brophy・M・J・Sinnott:Transactions of 2)C.S. Barrett:Structure of Metals(1952) The ASM Vol・52(1960)P・567・
P.511. 7)ASM:Metals Handbook(8th Ed・)Vo1.1 3) 中尾:軽金属Vol.6(1956)No.20, P.25. (1969)P・1221・
4)中尾,小林:水曜会誌Vol.13(1955−1959)