193
比較法制研究(国士舘大学)第22号(1999)193-212
《論説》
均等条約の促進と労基法の均等条項の再検討
一均等条項を拡大する立法改正試案の構想一
木下正義
はじめに
1均等待遇条約の採択と文書の形式 2111号条約発展のILO活動と促進援助
(1)均等条約促進のILOの活動
(2)均等条約・勧告の促進援助
3加盟国の差別排除の責任と立法例・排除の状況
(1)加盟国の差別排除の責任
(2)ILOの調査による加盟国の立法例・差別排除の状況 4人権規約に内包する国際基準と労基法の均等条項の見直し構想
(1)人権規約に内包する国際労働基準
(2)労基法上の均等条項の見直し構想 むすび
はじめに
国連総会によって世界人権宣言が採択されて以来,すでに50年が経過し,
人権と国際労働基準の関係は幾度となく議論され,国際労働基準は人権宣言 が採択される以前から,国際的に高く評価されてきたのである。ILO条約 および勧告は度合が異なるが,人権を促進し保護することに貢献してきた。
近時世界経済のグローバール化と競争の激化にともなうネオリベラリストの 規制緩和論の傾向から,人権と国際労働基準の主要な要素を再検討すること が,ニコラス・パルチコス欧州人権裁判所判事により提Ⅱ昌されていることを (1)
契機として,本稿はわが国が未批准のILO111号条約採択の経緯の展開を通 して,同条約を発展させるILOの活動と促進援助について概括的に素描し,
ついで加盟国の差別排除の責任と加盟国の立法例などについて吟味し,さら
に人権規約に内包する国際労働基準と現行労基法の均等条項の見直しについ て,若干検討を加えるものである。
1雇用・職業差別条約の採択と文書の形式
雇用.職業差別111号条約の成立は,1958年42回ILO総会において第4議 題として,差別待遇委員会から「雇用および職業の分野における差別待遇」
111号条約・勧告案に非本土地域に適用する条項を付加して討議がなされた。
オランダ政府顧問は本条約案に男女同一報酬が含まれているが,国内におけ る男女間の賃金格差が除去される理由で反対を表明し,また委員会の多くの 労働者委員は,非本土地域に適用する決議が委員会によって拒否された理由 で棄権したが,イギリスの使用者顧問を除き多数の政府代表および顧問は条 約案に賛成し,提案された条約案は30次本会議で,雇用および職業における 差別待遇の条約.勧告の最終採択について,条約は賛成189,反対24,棄権 13,勧告は万場一致で採択された。 (2)
なおつぎに,ILO111号条約の形式と構成について本条約は,前文および 1条から6条(批准手続の最終条項を除く)によって簡潔に構成し,極めて 網羅的にすべての差別を禁止しており,かなり一般`性をもった人権条項であ る。また勧告は前文で条約を補足する形式をとり,1項・2項・3項からな る。すでに論述されているように,本条約1条は差BlI待遇の意味,雇用.職 (3)
業の意味について,1項,2項で詳細に規定している。2条は各種差月Iを雇 (4)
用と職業の面において禁止し,採用における差別,採用後の差別や職業につ いて,機会及び近東待遇(例えば,職業訓練の差別なども含む)を促進する 国の方針を明にすることを確認している。第3条は,条約の適用をうける加 盟国は同条(a)~(f)の各号について,国内事情及び`慣行に適した方法により,
おこなうことを確認している。第4条は,国家の安全を脅かす行為に関与し ている者の除外規定について,限定的に解釈されねばならないのか,条約・
勧告適用専門家委員会の見解であるとし,公的利益など ̄般的な形で国家の
安全を定義しているような場合は,政治的意見による差別にあたるおそれが
均等条約の促進と労基法の均等条項の再検討(木下)195
十分にある点カゴ注目される。 (5)
注
(1)NValticos,“Internationallabourstandardsandhumanrights”:Appro‐
achingtheyear2000,InternatianalLabourReview,voL137,(No.2,31998),
P,135.
(2)労働省「42回国際労働機関総会報告書」79~80頁。
(3)中山和久「教材国際労働法」79頁。
(4)吾郷眞-「国際労働基準法一ILOと日本・アジアー」77頁。
(5)吾郷眞-「前掲」77頁。
2111号条約発展のILO活動と促進援助
前項の展開についで本項は,均等条約を発展せしめるILOの活動と同条 約・勧告の促進および援助について概要を素描する。
(1)均等条約促進のILOの活動
ILOは1989年以来,均等条約に関する活動および国運や他の組織により, (6)
企てられた諸活動の一般的な調査,またこの分野におけるILOの計画を発 展させることを持続してきた。人種差別の分野における事例では,南アフリ カ共和国に関するILOの活動があり,およそ30年間これらの活動は,アフ リカ人種制度の反対闘争に集中した。1964年の会議で,同共和国の人種差別 反対行動に関する宣言や行動計画を採択したが,いくつか起った原因も改善 した。1993年ILO理事会は行動宣言を保留したが,南アフリカは行動計画 を受けいれ積極的に変更し修正した。また理事会は,完全な民主主義への移 行と人種差別政策の効果を克服するにあたり,アフリカを援助するILOの 支援に対し,1993年に行動計画を是認した。さらに,女子に対する機会均等 (7)
および待遇の特別な保護策に関する専門家会議が,1989年10月に開催された。
とくに会議では,女性のために適用する男女間の均等待遇を保障する方法に
関して,保護策を再検討することを力説したが,この目的は社会集団の態度
や実施にあたり,基本的な変化がある場合にのみ達成することが可能である。
この傾向は女性の夜業に関して,極度に保護することを考慮し,また不必要 に女'性に有利な雇用機会を制限するため,女`性の夜業に関する基準の再検討 に反映されている。しかし組合組織強化が早い時期に,女'性の健康に対して 過度な苦痛や有害のある労働条件から,主として女性を保護することを確認 した。現在の風潮は,男女間の均等を促進することに最も大きい重要性を与 えている。男女間の雇用均等分野のなかで,この傾向の顕著な事例は,女」性 の夜業に関する基準を再検討することが企てられた活動がある。1990年国際 労働総会では,1948年の女性の夜業に関する89号条約を改正する原案を-増 柔軟にさせるため,1990年夜業に関する171号条約,178号勧告が採択されて,
夜業に必要な男女労働者に保護を与え,また妊娠期間中の女性や出産・分娩 後の母性に対し,すみやかに特BIの規定を設けた。 (8)
(2)均等条約・勧告の促進援助
①ILO111号条約・勧告の促進
ILO理事会は,4年に一度特別報告の手続きを導入することにより,条 約を批准しない加盟国内状況の定期的な調査を認め,批准を促進することを 望んだ。この決定は,1977年の総会で人権に関する決議案が採択されてうけ いれられた。とりわけ総会では,非差別待遇が国際労働憲章の基本原則であ り,かつすべての加盟国に対して,憲章義務の一部を構成するその促進に関 してリコールした。この決定にしたがって,条約の批准を確認する方法や憲 章から生じる一般的な義務に注目すべきである。条約の批准記録は別表統計 1,2に示したとおりであり,1958年6月に総会で111号条約・勧告を採択 (9)
し,1960年に効力が発行した。120加盟国は条約を批准したが,53ヵ国はい
まだ批准していない。政府による特別報告書や提出した報告書で提供された
情報に基づく記載では,9ヵ国が近い将来条約の批准を予測し,ある加盟国
は批准の可能性を検討しており,また二つの加盟国は,批准を妨げる大きな
経済的困難がないことを考慮している。しかしながら,ほかの加盟国は批准
に対して,手続をとることができなかったことを正式に表明し,また加盟6
均等条約の促進と労基法の均等条項の再検討(木下)197
ヵ国は条約の批准を遅延する経済的困難を表明した。さらに,加盟3ヵ国か ら批准を妨げる障害が言及され,他の加盟6ヵ国は,別の理由で批准を予想 することがなかった。1995年3月社会発展の世界サミットにおいて,採択し た宣言のなかに組みいれられた労働者の基本的権利を,維持促進する活動計 画にしたがい,言及しておく必要がある。理事会は,加盟国がいまだ批准し ていない基本的人権に関するそれらのILO条約に対して,カロ盟国政府から (10)
要請されている`情報に基づき,報告書の提出を事務総長が求めることを,
1995年3月262回会議で決定した。
②ILOによる条約・勧告を採択する援助
ILO事務局の積極的な協力政策によって,助言機関を目標にした方式で,
とくに基本条約のさらに効果的かつより完全な履行の構成要素のために,援 助を展開してきた。ILO事務局により提供された技術援助の長期形態の1 (11)
つは,国内労働立法の立案と存在する立法の修正を援助している。豊富な事 例もあるが,事務局は,専門委員会が究明した若干重要な例に言及するだけ にとどめ,1994年ILO事務局は,エジプト共和国労働規程(theEgyptian LabourCode)の修正のために,たえまない技術援助を提供した。効果的 な技術援助につき,この分野の潜在的な障害は,立法修正の方法が極端に導 入期間の長いときがあり,三者主義の活力がない状況における社会的パート ナー間で合意が不十分なこともありうる。1990年来ボリビア共和国における 一般労働法典の草案修正に対し,ILO事務局の技術援助で作成された場合 がある。しかし,労働者および使用者連合間の意見聴取がなく,援助が普及 した事実にもかかわらず,立法の草案修正に依然としてとりいれていない。
さらに,有効な立法の具体的な改正の採択について合意をえるため,加盟国 政府は,労働組合および使用者団体と討議を行った。技術援助は,ILO111 号条約の原則にしたがって,常に立法採択の結果に関係している加盟国の要 請に基づき,提供したことを強調する必要がある。ILO事務局による特定 (12)
加盟国内の雇用状況の調査もしくは,評価を実行するための技術的および物
質的援助は,さらに条約の効果的な適用により生じることもある。例えば,
マリ共和国は,有害で不健康な労働および深夜労働に反対し,基本的に女性 や児童保護に焦点を向け,女性および児童労働を評価する計画は,とくに ILO111号条約に関して,とりわけ教育や職業訓練,雇用や職業,また労働 条件の分野における均等待遇に対する男女の機会均等に関して,状況のより 明白な事情を収集した統計資料によって,可能にすることが必要であるとし ている。またILO事務局は,実質的に条約適用のなかで直面する経済的に 困難な問題に気づいて,これらの問題を解決する支援を望み,加盟国政府の 要請により技術援助を提供する。条約を適用するにあたり直面した問題を,
1995年6月ILO総会の開期中に専門委員会で討議されたとき,ブラジル政 府は,国内立法で条約をよりよく適用するために,三者国内セミナーシリー ズの開始と,近年導入した立法および条約に規定されている原則の社会的パ ートナー意識の向上のために,事務局で計画している特定の援助を要請した。
条約の原則およびそれらの適用意識を促進する政策の一部として,事務局は 教育目的に関して,雇用における機会均等や待遇を促進するため,個々の事 例いかんにより,政・労・使三者の地域セミナーまたは小地域セミナーを定 期的に開催するにいプこった。とりわけ,ILO活動のもうひとつの援助形態 (13)
は,例えば,オーストラリア政府により,資金が調達されたナンビア共和国 の差別撤廃措置に対する計画指針に対応している。同国は憲法で非差別待遇 の原則を実施するため,また雇用の均等分野における人種差別政策(post‐
apart-heid)を達成するため,この共和国を援助する計画と労働立法で実行 する技術援助が成立している。
(6)GeneralSurveybytheCommitteeofEexpertsontheApplicationofCon‐
ventionsandRecommendationsonequalityinemploymentandoccupation
(referredtointhepresentstudyastheGeneralsurveyofl988),ILO75thSes‐
sion,1988,paras3‐8and9-lO.
(7)ILO,EqualityinEmploymentandOccupation,1996.ILO,Geneva,p3.
(8)ILO,ibid.,p4.
(9)ILO,ibid.,pp7~8.
1959年から1995年における加盟国を条約批准の累積統計別表1.2で示した。
(10)ILO,轡EqualityinEmploymentandOccupation”ReportⅢ(partAB),I、‐
均等条約の促進と労基法の均等条項の再検討 (木下)199
tableL Cumu1ativetotalofmemberStateshavingratifiedtheConvention
Progresslonofratification
14, 140
--=
120 120
罰§・「『旦暮⑩o・ヨョ費・の旦同苔図苫
八U
nUnU nU
nv〈U1LOo
AU440白100
80
60
40
20
H Ⅱ
九九九九九九九九九九九九九 七七七七七八八八八八九九九 一三五七九一三五七九一三五 九九 六六
九六七
九六五 九六九
九五九
table2. AImualnumberofmemberStateshnvingratifiedtheConvention Progresslonofratification
8765432109876543210
111111111 8765432101111111119876543210リ■
閂白』宙。&氏①ばつ言
 ̄
=F存
両■P宙詞