3 20 金沢 大学 十 全医 学 会 雑誌 第1 0 2巻 第3 号 32 0‑3 2 8(1 9 93 )
早 期 視 細 胞 電 位の波 長特性 の研 究と 先 天 性赤緑 色覚異常に おける臨床応 用
Ⅰ. 早 期 視 細 胞 電 位の波 長 特 性の検 討
金 沢 大 学医学 部眼 科学 講 座 (主任: 河 崎一 夫教 授)
田 辺 久 芳
祝 細胞 外 節レ ベ ルにおける先天性 赤 線色 覚異 常の他 覚 的 検査 法の確 立を 目的と して網 膜 電図 (ele ctr o r etin ogr a m , E R G ) の早 期 視 細胞 電 位(e a rlyr e c ep to rpote ntial・E R P) の波 長特 性の研 究が有 用である か否か を検 討し た. 先 天性 赤 線 色 覚 異 常 者を 検討 する準備 段 階と L て まず 視神 経 萎 縮症 例お よ び色 覚正常 者群におい て白色 光 刺 激お よ び単 色 光 刺激によ る E R P ( R2) を記 録し・ 単 色 光 刺 激によ る E R P ( R2) の波 長特 性を検 討し た・ 視神 経 萎 縮 症 例の患 限において ‑1 ・5log か ら ‑0.5log まで の白 色 刺激 光 強 度の範囲では白 色 刺激 光 強 度の対数 値と R2 振 幅の対 数 値との関 係ほ 一 次 関 数で近 似さ れ, 白 色 光 刺激によ る R2 割高 はこ の刺激 光 強 度の範 囲で ほ飽 和しなかった・ こ の刺 激 光強 度の範 囲 内である ‑1・0 8log の白 色 光刺 激によ る R2振 幅の平均 値 お よ び標 準偏 差は色 覚正常 者群2 1名21眼において は それ ぞれ 4 2・餌V お よ び 1 2・7〟V であった・ 単 色 光 刺 激によ る R2振 幅の分 光 応 答 曲線 (spe ctr alr e spo n s e c u r v e・S R C ) は色 覚正常 者 群3 3名3 3眼 全 例において 4 6 0n m か ら 6 00n m ま での範囲では単峰 性 であって その R2 振 幅の最 大を 示す 波 長( 入m・ X) は 5 0 0n m か ら 5 4 0n m ま での範 囲i こあl) , と くに3 3名 中2 2名において 52 0n m にあった・ 色 覚正常 者 群3 3名3 3眼の単 色光 刺 激によ る R2 振 幅の平 均 値は 5 20n 皿 で最 大(3 4 .7押) であり, 4 6 触m で1 3 .5
〟Ⅴ で,6 0 0n r n で 1 2・6pV であった・ 色 覚正常 者 群の単 色光 刺 激によ る R2 振幅の S R C は その 人m& X が 5 0 0n m か ら 5 4 0n m ま で の範囲にある単 峰 性の曲線であること が判明 し, R2 振 幅にほ錐 体と杵 体の両者が関 与して いる と考え ら れ た.
K ey w o rds ele ctro r etinogr a m , e arly r e c ep tor pote ntial, SpeCtr al cha ra cte ristic s, W hite stim ulu s
light, m OnO Chr om atic stim ulu s light
先天 性 赤 緑 色 覚 異 常ほ その発 生 頻 度が高く眼科 領 域で は最 も 重 要な先天異常の 一 つである. 先 天性 赤 線 色 覚異 常の研 究お よ び臨 床 検 査に おい ては, これ まで仮性 同 色 蓑の判 乱 色 相パネ
ルの配 札 ランタンテス ト ア ノ マ ロス コ ー プ お よ び分 光 視感 度測 定 (フリッ カ ー法) な どの被 倹老の自 覚 的 応 答に基づく 自 覚 的 色 覚 検査が主であった. し か L 被 検 者の応答が 不安 定な場 合に自 覚 的色 覚 検 査 法で は検査 結 果を信用 でき ず. 正確な診 断 が困 難である症 例が数 多く 存 在し, 他 覚 的 色覚 検 査 法の必要 性 が感じ られ ていた・ さ らにJ 先 天 性 赤緑 色 覚異 常で は視 覚 系の どの レ ベル に異 常が存 在 するのか を研 究 する際にも, 他 覚 的 色 覚 検 査法は ぜ ひ必 要と されて いた. 先 天性 赤 緑 色 覚異 常に関 す る他 覚的 検 査 法と し て, これ ま でに オ フ応答 急峻 部… , フ リ ッ
カ ー網 膜 電 図1、5 一(ele ctr o r etin ogr a m, E R G ), E R G の明所 祝 系b 波 … (photopic b 波, bp 波) な ど が 用いら れ ている が, これ ら
ほ色 覚 発 現の発端ともいうべき視 物 質そのものを評 価して いる わけで は な かった.
Br o w n ら川、はサル E R G の研 究においてa波よ り潜 時の短い
小 波を発 見し, こ の 小 波を早 期 視 細 胞 電 位 (e a rly r e c ep to r POte ntial, E R P) と命 名し た. その後の E R P の研 究においてシ
平 成5 年3 月5 日受付, 平 成5 年4 月2 日受 理 A b br evi atio n s ‥ A O H‑R‑R , A m erican Op tic al
ロ ネ ズミ の E R P のR2 の分 光感 度 曲 線は杵 体 視 物 質(ロ ド プシ ン)の吸光 度 曲線に対 応すること やシ ロネズ ミ の R2 振 幅ほ光刺 激によって韻 色さ れ るロ ド プシ ン量に比 例 することなど が 明 ら か と な り1 1 ), E R P は視 細胞 外 節で発 生し,E R P の発 生は視物 質
の変 化に緊 密に関 連して いる と現 在で は考え ら れて いる. 米村 らほほ 人眼において E R P を記 録 することに最 初に成 功し,
E R P を指 標と し た視細 胞 外 節レ ベルにおける他 覚 的 臨 床 検 査 法の道を開いた.
本 研 究の目的は, 先 天 性 赤 緑 色 覚 異 常におい て E R P の波 長 特 性の研 究が視 細 胞 外 節レ ベルにおける色 覚異 常の他覚 的 研究 法と して有 用である か 否 か を検 討 することである. 本 報では ま ず 視 神経 萎 縮 症 例におい て白 色 光 刺激お よ び 単色 光 刺 激によ る E R P ( R2) の態 度を調べることによって E R P の臨 床 応用の至 適 刺 激 条 件を求め, つ いでこ の刺激 条 件に準 拠して色 覚正常者に
おける E R P (R2) の波 長特 性を検 討 する.
対 象 および方 法
Ⅰ. 対 象
1 . 視 神 経 萎縮 症 例
H a rdy‑Rand‑R ittle r ; bp, photopic b; CI E, Co m mis sion
Inte rnatio nale de l'Eclairage ; E R G, ele ctr oretin ogr a m ; E R P, early recep to r pote ntial; Pa nel D‑15 , Fa r n s w o rth Dichoto m ous Te st P a n el D‑1 5 ;ノS P P・ Sta nda rd Ps e udois o chr o m atic Plate s ; S R C, Spe Ctr al r e spo n s e c u rve ;
視 神経萎縮 限で ほ 正常 眼に比べ光照 射 時の羞 明によ る眼 球 動 揮が少な く安 定し た E R G 波 形を待やす く, ま た広 範な光 刺 激 強 度範 囲におい て E R G 波 形を観 察 するの に好 都 合であるの
で, まず視 神 経 萎 縮 限において白 色 光 刺激お よ び単 色 光 刺激に ょ る E R P を記録し た・
外傷 性 視神 経 管 骨 折によ り片 眼 ( 右 眼)i こ視 神 経 萎 縮をきた した3 9歳の男性を対 象と し た. 被 検 眼(右眼) には視 神 経 乳 頭の 蒼白化 以 外に屈 折 異 常, 中 間透 光 体の異 常お よ び網 脈 絡 瑛の異 常を認め なかっ た・ 左 限には近 視 以外には眼 科 的に異 常を認め なかった. 視 力は右 眼零(矯正 不能), 左 眼0・7 (1・Ox ‑ 0・5 D ) であった. 左 眼で の色 覚一般 検査において は 石原 表を全義正託 し, ア ノ マロ ス コ ー プ で 正常 均 等を 示 し, し た が って色覚 異 常 は検出され な か った・
2 . 色 覚正 常 者 群
1 9歳か ら3 6歳まで(平 均年 齢2 4.0歳) の色 覚正常の男 性3 3名 33眼を対 象と した. これ らの被 検 者3 3名は 3 D 未満の屈 折 異常 以外には他の眼科 的お よ び全 身的 異 常を有し な かった・
Ⅰ. 方 法
1 . 色 覚 検 査法
仮 性 同色 表と し て T he Se rie s of P late s De sign ed a s a Te s t
f。r Colo r‑B lindn e s s (3 8 P late s E d itio n, 金 原 出 版, 東 京,
1 9 錮, 石原 表3 8蓑 版) ∴総 合 色 盲検 査 表 ( 半田畳, 東 風 発行 年 度無 記 載, 石原表(半田星)†, 東 京 医 科 大 学 式検 査 表(村上色彩 技術 研 究 所,̲東 京, 昭 和5 8年 度 版, Tokyo M ed ic al Co11ege
Ps e udois o chr o matic P late s, T M C), 標 準 色覚 検 査 表(第1 版第 1刷, 医 学 書 院, 東 京, 1 9 7 8 , Sta nda rd Ps e udois o chr o m a tic
P late s,S P P), 石原 ・ 大 熊 色 覚異 常 検 出 表 ・ 程 度 表(半田慶, 東 京, 1 9 7 7 , 石原・ 大 熊 表) お よ び A m e ric a n Optic al Ha rdy‑
Ra nd‑R it tle r Ps eudois o chr o ma tic P la t e s (第2 版, A m e ric a n
Op tic al, Ne w Yo rk, 米 臥 A O H‑R‑R) の 6種を 用いた・ ア ノ
マロ ス コ ー プ検 査にはナイツ ア ノマ ロス コ ー プ O T (ナイツ,
蒲郡) を 用いた. 太田 ら1 3、, 岡 島1 右は木 器の検査 結 果がナ ー ゲル
ア ノ マロ ス コ ー プ Ⅰ型( Schmidt u. Ha e n s ch, Be rlin, ド イツ) の検 査 結果 と 一致 する と報 告し た. こ の ほかに Fa r n s wo r th Dicho t o m o u s Te st Pa n el D‑1 5 ( Psychologic al As s o cia t e s,
Saint Lo uis, 米 国, Pa n el D‑1 5) お よ び Ichika wa
'
s Colo r
Pe r c ep tio n La n t e r n (高田 器札 束 京, ラン タン) を 用いた. 検 査は午前1 0暗か ら午後3 時ま での間に直射日光が 入 ら ない昼 光 色蛍 光ラン プ を点 灯し た 明婁(約2 0 0lu x) で行な わ れ た. 仮性同 色表を被 検着に呈 示する場 合, T M C は被 倹 者か ら約4 5c m の
距離で, 他の仮 性 同 色 表は約7 5c m の距 離で視 線と直 角を なす よ うに用いら れ た. ラン タンの指 標は被 検 着か ら 5m の距 離で 呈 示 さ れ た.
2 . E R P 用光 刺 激 装 置
刺激 光召酎こほ キセ ノ ン閃 光 放 電 管(1 .2×1 03J.5.7 ×1 03〃F,
6 5 肌r,C P‑1 2, コ メ ット, 東 京) を用い, これ を自 動安 定 化電 源 ( A R‑3 0 0 0, 岩 崎通 信, 東 京) よ り充 電し た. 光 路には 吸熱フ ィ
ル タ ー , 中 性フィ ル タ ー , 干渉フィ ル タ ー (4 6 0n m , 4 80n m,
5 0 0n m ,5 20n m ,5 4 0n m ,56 0n m ,5 80n m ,6 0 0n m の8枚, 半 値幅 2 6n m 〜3 8n m) お よ び集 光レ ンズ を阻み込ん だ. 直 径1 0m m の
硝子繊 維 束を介して刺 激 光を被 検 眼に照 射し た (図1). 真空 光 電 管( 5 6 53,R C A,Ha rris o n, 米 国) によ り澗 定し た刺 激 光 波 形の 頂 点 時 間は約3 0 0 マイクロ秒であった.
白 色 刺 激光の強 度を 1 回の放電 閃光の発 光に要 する放 電 管へ
の入力エ ネルギ ー をもっ て表 現し た. 単 色 刺 激 光の強度の測 定
にほ Pylo ele c t ricjo ule me t e r(J3‑0 5, モ レ ク トロ ン, 東 京) を 用
いた. さ らi こ閃 光 単色 刺激 光の強 度測 定 法の妥 当 性を以 下の方 法で確 認し た. すな わ ち, 持続 時 間がある程 度 以上に長い矩 形 波 刺 激 光の強 度の測 定は一 般に容 易であるので, 強 度をすで に Sa n s o Rad io M ete r( M ode1 47 0, ≡双製 作所, 東 京) によ り測 定
し た矩 形 波単 色 刺 激 光(持 続 時 間5 0ミリ秒) を 用いて ウサギで 1 0恥V の振 幅の b波を惹 起 するの に要 する刺 激 強 度を各 単 色 光に つ い てまず 実 測し た. つ ぎに同 一 のウサ ギにて 上記の E R P 用 閃光 単 色 刺 激光を 用いて, 各 単色 光において 1 0恥Ⅴ の
振 幅の b 波を惹起 する刺激 強 度を得る よ うに光 路に中性フ ィ ル タ ーを挿入 し た. こ のような中 性フ ィル タ ーを光 路に挿入 し た 状 態では E R P 用刺激 光は ウサギで1 0 0〃V の b波を惹 起する と
いう 点におい て, 上記の矩 形波 刺 激 光(刺 激 強 度は既 知) と等 価
である. こ の方 法はb波を指 標と し たいわ ば生物 学 的 方 法とも
いうべき ものであり, こ の方 法で強 度を測 定し た E R P 用 刺 激 光を 恥 、てウサギb 渡の分 光 感 度 曲線を実 測L た ところ, その
形は ウサギロ ド プシソの吸 光 度 曲線の形によ く対 応すること を 確 認したl う1.
E R P 用刺 激 光の強 度を各単 色 光におい て等 光 量子に揃え る た めに光路に中性フ ィ ル タ ニ を挿入 し, その最 大 刺 激 光 強 度 (0.0log u nit) は, 被 検 眼 角 膜 面に於いて 1 .0 8 X l O1 5 qu a nta/
c m2/fla sh であった. 3 . E R P 記 録 方 法
被 検眼瞳孔を0.5タ石トロピ カ ミド と0.5タ石塩 酸フ ユ ニレフリン の合剤(ミドリン P⑧, 参 天 製 軋 大 阪) の点 眼によ り直 径 約 8m m に散大さ せ た. 0.4% 塩 酸オ キ シ ブ プロ カイ ン (ベ ノキ
シ ー ル ⑧
, 参天製 薬) によ る点 眼 麻 酔の後に瞬目防止のた めに 閃 瞼器 ( 国際コ ンタ ク ト レンズ, 東 京)に て開 瞼し, 角膜 保 護の た めに2 % メチル セ ル ロ ー ス を閃 瞼器内に満た し た.
E R P 記録肝電 極には一 対の黒 綿 電 極を 用い,
一 方を関 電 極 と し て親水性ソフ トコ ン タ ク トレ ンズ ( M 5,H O Y A , 東 京) を介
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F ig.1. Sche m a tic ilIu s t r a tio n of s tim ulu s light s o u r c e t o e v oke the e arly r e c ep to r pote n tial ( E R P )・ F la sh stim ulu s
light w a s guided t o the eyethr o ugh a n op tic algla s sfibe r・
L S,1ight s o u r c e (x e n o n d is charge t ube,1.2xl O3 J,5・7 x
l O3 FLF,6 5 0 V );I F,in t e rfe r e n c e filte r s ( 4 60 n m 〜6 00 n m at2 0 n m inte r v als;half ba nd width,2 6 n m 〜3 8 n m); N F,
n e utr al de n sit y filte r s ; H F. he a t abs o rb ing filte r s; Ll a nd L2, C O nde n sing le n s e s; G F, OP tic al gla s sfibe r (1 0 m m in
dia.m ete r).
T M C, Tokyo M edic al C ollege; 石 原 ・ 大熊表, 石 原 ・ 大熊色覚異常検 出表 ・ 程度表; 石 原 表38表 版, T he Series Of Plate s D e sig
.n ed a s a T est for Color
‑Blindn e ss; 石 原表( 半田星), 総 合 色盲検 査 表; ラ ン タ ン ,=Ichika w a:s
Colo r P ercep tio n La nte r n