平
成
二
十
三
年
度
学
位
請
求
論
文
『
源
氏
物
語
』
宇
治
十
帖
の
親
子
関
係
と
性
―
フ
ェ
ミ
ニ
ズ
ム
批
評
の
視
座
か
ら
龍
谷
大
学
大
学
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文
学
研
究
科
研
究
生
L
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六
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華
『
源
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語
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宇
治
十
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子
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性
―
フ
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ミ
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評
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ら
目
次
‥
‥
‥
‥
‥
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‥
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‥
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‥
‥
‥
‥
序
論
―
本
論
文
の
主
旨
と
手
法
1 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 一 、 フ ェ ミ ニ ズ ム 批 評 の 視 座 と 手 法 1 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 二 、 本 論 文 の 課 題3
‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 三 、 本 論 文 の 構 成 主 旨 と 各 章 の 課 題 5‥
‥
‥
‥
‥
‥
‥
‥
‥
‥
‥
‥
‥
第
一
部
宇
治
十
帖
に
お
け
る
〈
父
〉
と
子
の
問
題
系
―
宇
治
の
八
の
宮
家
を
中
心
に
24 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 一 章 宇 治 の 八 の 宮―
そ の 〈 男 性 性 〉 の 意 味 25 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 一 節 世 に 数 ま へ ら れ た ま は ぬ 古 宮 25 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 二 節 お ほ ど か な る 女 29 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 三 節 人 に だ に い か で 知 ら せ じ 33 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 二 章 不 婚 の 戦 術―
父 の 娘 ・ 宇 治 の 大 君 44 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 一 節 「 む く つ け し 」 の 思 惟 44 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 二 節 「 ね た し 」 の 思 惟 47‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 三 節 父 / 夫 権 を め ぐ る 攻 防 51 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 三 章 浮 舟 と 〈 父 〉
―
八 の 宮 と 「 宮 と 聞 こ え し 人 」 64 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 一 節 き よ げ / き よ ら の 線 65 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 二 節 物 の 怪 の 作 用 68 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 三 節 浮 舟 と 観 音 71 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 四 節 母 の 〈 男 〉 / 娘 の 〈 父 〉 74‥
‥
‥
‥
‥
‥
‥
‥
‥
‥
‥
‥
‥
第
二
部
宇
治
十
帖
に
お
け
る
〈
母
〉
と
子
の
問
題
系
―
母
の
〈
男
〉
/子
の
〈
父
〉
86 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 一 章 薫 と 母 ・ 女 三 の 宮―
〈 母 〉 と 〈 女 〉 を つ な ぐ 糸 87 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 一 節 〈 女 〉 で は な い 〈 母 〉 88 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 二 節 〈 父 〉 の 揺 ら ぎ 92 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 三 節 〈 女 源 氏 〉 と 八 の 宮 の 相 似 95 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 四 節 宇 治 の 八 の 宮 、 そ し て 大 君 へ 99‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 二 章 母 装 す る ひ と
―
浮 舟 の 母 ・ 中 将 の 君 108 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 一 節 召 人 ・ 中 将 の 君 109 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 二 節 諍 い の 火 種 113 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 三 節 〈 母 〉 よ り 〈 妻 〉 116 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 三 章 小 野 の 妹 尼 と 浮 舟―
〈 母 〉 と い う 制 度 130 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 一 節 異 郷 の 〈 母 〉 130 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 二 節 「 口 が た め 」 の 意 志 134 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 三 節 「 知 ら ぬ 人 」 を は ぐ く む 137 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 四 節 〈 世 〉 へ の 欲 求 141 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 五 節 〈 母 〉 と 鬼 146‥
‥
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‥
第
三
部
宇
治
十
帖
に
お
け
る
〈
女
の
身
〉
157 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 一 章 総 角 巻 の 一 場 面―
宇 治 の 中 君 と 薫 の 一 夜 158‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 一 節 「 や う や う 」 の 時 間 159 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 二 節 後 瀬 を 契 る 161 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 三 節 ざ れ た る 御 心 164 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 四 節 権 力 の エ ロ ス 化 166 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 二 章 宿 木 巻 の 中 君
―
「 腰 の し る し 」 を め ぐ る 考 察 176 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 一 節 「 腰 の し る し 」 諸 注 釈 の 解 釈 176 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 二 節 史 料 と 物 語 の 腹 帯 179 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 三 節 腹 帯 の 呪 術 性 183 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 四 節 再 び 中 君 の 「 腰 の し る し 」 186 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 三 章 浮 舟 の 〈 罪 〉―
桎 梏 か ら の 逃 避 199 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 一 節 〈 女 の 身 〉 の 〈 罪 〉 の 概 観 199 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 二 節 〈 罪 〉 の 構 造 203 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 三 節 桎 梏 か ら の 逃 避 208 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 四 節 非 抵 抗 と い う 戦 術 211‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 四 章 〈 狐 〉 の 喩 と 源 氏 物 語 217 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 一 節 物 の 怪 の 時 代 と 〈 狐 〉 217 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 二 節 夕 顔 巻 の 〈 狐 〉 221 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 三 節 〈 狐 〉 譚 の 擬 き 226 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 四 節 軽 微 な る 〈 狐 〉 229 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 第 五 節 手 習 巻 の 〈 狐 〉 231
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‥
結
語
243 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 一 、 フ ェ ミ ニ ズ ム 批 評 の 視 座 と 役 割 244 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 二 、 各 部 の 成 果 と ま と め 245 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 三 、 さ い ご に 250 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥初
出
一
覧
252【 凡 例 】 . 『 源 氏 物 語 』 の 本 文 は 原 則 と し て 『 新 編 日 本 古 典 文 学 全 集 』 ( 小 学 館 、 一 九 九 八 年 ) に 拠 っ た 。 1 . 『 源 氏 物 語 』 の 引 用 本 文 の 巻 名 と 頁 数 は 引 用 本 文 末 尾 の ( ) に 示 し た 。 2 . そ の 他 の 引 用 本 文 は 本 論 中 に 書 誌 情 報 を 示 し た 。 3 . 引 用 文 に お け る 表 記 は 私 に 改 め た 箇 所 が あ る 。 4 . 引 用 に 際 し て 複 数 行 に わ た る も の は 行 を 改 め 、 二 字 下 げ で 示 し た 。 5 . 引 用 に 際 し て 中 略 を 行 う 際 に は ( 中 略 ) 、 略 を 行 う 際 に は ( 略 ) と 示 し た 。 ま た 、 原 文 の 文 脈 を 明 確 に す る 6 た め に 言 葉 を 補 っ た 場 合 は ( 櫻 井 註 ) と 示 し た 。 . 引 用 文 に お け る 傍 線 、 波 線 、 二 重 傍 線 は 特 に 断 ら な い 限 り 、 私 に 付 し た も の で あ る 。 7 . 註 は 各 章 の 末 尾 に 付 し た 。 8 . 出 典 に 際 し 、 作 品 名 は 『 』 、 雑 誌 は 「 」 で 示 し た 。 な お 、 発 表 発 行 年 月 日 な ど は ( ) で 示 し た 。 9 . 一 頁 の 字 数 は 八 百 字 で あ る 。 10
序
論
一 、 フ ェ ミ ニ ズ ム 批 評 の 視 座 と 手 法 本 論 文 は 、 『 源 氏 物 語 』 宇 治 十 帖 を フ ェ ミ ニ ズ ム 批 評 の 視 座 か ら 分 析 す る こ と を 主 眼 と し て 書 か れ る 。 フ ェ ミ ニ ズ ム 批 評 の 方 法 に つ い て は 、 J ・ カ ラ ー が そ の 要 諦 を 三 点 に ま と め て い る 。 ( 1 ) ま ず 第 一 に 、 フ ェ ミ ニ ズ ム 批 評 は 女 性 と い う 立 場 か ら テ ク ス ト を 読 む こ と と 、 女 と し て の 体 験 の 連 続 性 を 想 定 し 、 「 個 々 の 作 家 、 ジ ャ ン ル 、 時 代 の 生 ん だ 諸 作 品 が 示 す 女 と い う も の の と ら え か た 、 「 「 女 の イ メ ー ジ 」 へ の 態 度 」 を 踏 ま え つ つ 「 女 性 の 登 場 人 物 の 置 か れ た 状 況 や 心 理 に 関 心 を 向 け る 」 こ と で 、 女 性 の 捉 え ら れ 方 や 、 女 性 の イ メ ー ジ に つ い て 批 判 す る も の で あ る 。 こ こ で い う 「 女 性 」 と は 、 読 み 手 の 性 別 に 限 定 さ れ な い 。 女 性 ・ 男 性 の 読 者 が 、 男 性 中 心 主 義 的 に 読 解 さ れ て き た テ ク ス ト に 対 し 、 そ の イ デ オ ロ ギ ー に 与 し な い 立 場 か ら 向 き 合 う と い う こ と を 意 味 す る 。 第 二 に 、 ( 読 み 手 の 性 別 に 関 わ ら ず ) 女 性 と し て テ ク ス ト を 読 み 直 す こ と に よ っ て 、 「 み ず か ら の 読 み を 支 え て き た 文 学 的 ・ 政 治 的 な 前 提 」 を 問 い な お し 、 さ ら に 「 男 性 の 読 み に ひ そ む 歪 曲 や 自 己 弁 護 を 具 体 的 に 指 摘 し 、 是 正 策 を 示 す 」 狙 い が あ る 。 こ れ は テ ク ス ト に 関 す る 先 行 研 究 に 潜 在 す る ジ ェ ン ダ ー バ イ ア ス を 発 見 し 、 そ の 男 性 中 心 主 義 的 思 想 を 指 摘 し 、 テ ク ス ト の 解 釈 更 新 を は か る た め に 有 効 で あ る 。第 三 は 、 テ ク ス ト を 読 む に あ た り 要 請 さ れ る 「 理 性 的 」 で あ る こ と な ど の 概 念 こ そ が 、 す で に 男 性 占 有 の 事 項 ( 特 質 ) で あ る と し て 、 「 男 性 の 権 威 が 産 み だ し た 諸 概 念 が 、 よ り 広 い テ ク ス ト の 体 系 の 中 に 中 立 的 に 再 定 位 さ れ る よ う な 批 判 の 様 式 を 追 及 し て み る 」 こ と に あ る 。 フ ェ ミ ニ ズ ム 批 評 と は 男 性 中 心 主 義 的 な 思 想 を 脱 し 、 そ の 一 面 性 を 批 判 す る と と も に 、 従 来 の 読 み の 営 為 に お い て 見 過 ご し に さ れ て き た も の 、 問 題 と す る に 値 し な い と み な さ れ て き た も の を 前 景 化 す る こ と に 目 的 が あ る 。 以 上 の 認 識 に 基 づ き 、 本 論 文 は 『 源 氏 物 語 』 宇 治 十 帖 を フ ェ ミ ニ ズ ム 批 評 の 視 座 か ら 読 み 解 く こ と を 目 的 と す る 。 『 源 氏 物 語 』 を は じ め と す る 平 安 期 の テ ク ス ト に 対 す る フ ェ ミ ニ ズ ム 批 評 の 蓄 積 に は 、 女 の 身 を 問 題 提 起 の 母 胎 と し て 、 エ ロ ス 、 セ ク シ ュ ア リ テ ィ 、 身 体 ま で を 射 程 に 皇 権 論 を 踏 ま え 物 語 の 根 源 的 暴 力 を 暴 い た 小 嶋 菜 温 子 『 か ぐ や 姫 幻 想
―
皇 権 と 禁 忌 』 、 同 著 者 に よ る 身 体 、 王 権 、 ジ ェ ン ダ ー 、 喩 の 視 点 か ら 物 語 の 固 有 の 論 理 ( 2 ) を 浮 き ぼ り に し た 『 源 氏 物 語 批 評 』 、 『 王 朝 の 性 と 身 体 』 が あ る 。 ( 3 ) ( 4 ) ま た 、 身 体 ( と く に 「 声 」 ) と エ ロ ス 、 語 り の 方 法 を 論 じ て 「 女 / 男 」 の 枠 組 み と そ こ か ら の 逸 脱 の 諸 相 を 解 き 明 か し た 吉 井 美 弥 子 『 読 む 源 氏 物 語 読 ま れ る 源 氏 物 語 』 、 さ ら に 近 年 で は 、 平 安 後 期 か ら 鎌 倉 期 に か け て ( 5 ) 成 立 し た 物 語 を お も な 分 析 対 象 に 取 り 上 げ 、 性 と 権 力 の 構 造 を 論 じ た 木 村 朗 子 『 恋 す る 物 語 の ホ モ セ ク シ ュ ア リ テ ィ―
宮 廷 社 会 と 権 力 』 、 同 著 者 に よ る 平 安 時 代 後 期 か ら 鎌 倉 期 の 物 語 に お け る 〈 母 〉 の 構 築 と 表 象 を 分 析 ( 6 ) し た 『 乳 房 は だ れ の も の か 』 な ど が あ る 。 ( 7 ) こ れ ら 先 学 の フ ェ ミ ニ ズ ム 批 評 は 、 セ ク シ ュ ア リ テ ィ 、 エ ロ ス 、 身 体 、 語 り 、 儀 礼 、 制 度 な ど を 考 察 の 対 象 とし て き た 。 こ れ ら の 業 績 を 踏 ま え 本 論 文 が 目 指 す の は 、 『 源 氏 物 語 』 宇 治 十 帖 に お け る 家 族 関 係 と 性 役 割 、 そ し て そ れ ら が 男 女 関 係 に 及 ぼ す 影 響 力 の 分 析 で あ る 。 フ ェ ミ ニ ズ ム 批 評 の 視 座 は 、 女 性 の 生 き 方 が 制 度 と の 関 わ り の 中 で 生 成 さ れ て い る と 理 解 す る 立 場 か ら は じ ま る 。 女 性 が 文 化 や 社 会 制 度 に 先 行 す る 本 質 を 持 つ の で は な く 、 女 性 の 本 質 と み な さ れ て き た も の が ま ず 男 性 中 心 主 義 社 会 の 中 、 文 化 や 社 会 制 度 に よ っ て 形 作 ら れ 、 内 面 化 さ れ て い っ た と 解 釈 す る の で あ る 。 こ の よ う な 性 制 度 が 創 造 さ れ た 過 程 と 男 性 の 参 画 、 さ ら に は 女 性 へ の 教 化 の 営 み を 指 摘 し 、 性 制 度 を 安 定 的 に 機 能 さ せ る ( よ う に 見 え る / あ る い は そ の よ う に あ ろ う と す る ) 権 力 の 配 置 を 解 明 す る こ と が 、 フ ェ ミ ニ ズ ム 批 評 の 目 的 で あ り 、 本 論 文 の 立 脚 点 で あ る 。 二 、 本 論 文 の 課 題 本 論 文 が 考 察 の 対 象 と す る 『 源 氏 物 語 』 宇 治 十 帖 は 、 宇 治 の 八 の 宮 家 の 女 性 た ち と 薫 の 関 係 を 主 軸 と し た 物 語 で あ る 。 薫 を 中 心 に 、 大 君 、 中 君 、 浮 舟 と の 関 係 が 順 を 追 っ て 語 ら れ て ゆ く が 、 い ず れ の 関 係 も 相 互 的 な 愛 情 関 係 を な さ ず 、 愛 情 関 係 の 成 立 と 継 続 の 困 難 が 個 々 の 条 件 に 沿 っ て 展 開 し て ゆ く 。 問 題 と な る の は 、 な ぜ こ の よ う な 困 難 が 『 源 氏 物 語 』 の 終 の 主 題 と さ れ た の か と い う 点 で あ る 。 愛 情 は 、 一 見 美 し い も の の よ う に 錯 覚 さ れ る 。 だ が 、 愛 情 と い う 名 で 象 ら れ た 神 話 を 支 え る の は 、 性 支 配 の 現 実 で あ る 。 大 君 は 愛 情 の 美 名 に 粉 飾 さ れ た 性 支 配 か ら 自 覚 的 に 距 離 を 置 き 、 そ の 配 下 に 下 る こ と を 拒 否 し た 。 中 君 は そ の 支 配 関 係 に 参 入 し 、 性 支 配 を 受 け 入 れ る こ と が 結 婚 生 活 を 安 定 に 導 き 、 「 幸 ひ 人 」 ( 宿 木 四 六 八 、 東 屋
三 六 ) と し て 称 賛 さ れ る こ と を 示 し た 。 そ し て 最 後 に 、 浮 舟 は 支 配 関 係 か ら 逸 脱 す る こ と を 選 択 し て 、 物 語 は 閉 じ ら れ る 。 三 人 の 女 性 た ち は 、 い ず れ も 固 有 の 問 題 に 直 面 す る こ と で 、 女 と い う 制 度 と 格 闘 す る 。 物 語 の 末 尾 、 浮 舟 が 逸 脱 を 選 択 し 、 出 家 を 選 ん で 男 不 要 の 世 界 ( 尼 た ち の 世 界 = 小 野 ) に 入 っ て ゆ く 物 語 は 、 表 面 的 に は 制 度 か ら 逸 脱 す る こ と で 救 い を 得 た 物 語 と 受 け 止 め る こ と も で き る 。 し か し 、 た と え 元 の 制 度 か ら 逸 脱 し て も 、 逸 脱 し て 逃 れ 出 た 先 で 、 ま た 新 た な 制 度 に 入 っ て ゆ く こ と を 見 れ ば 、 い か な る 形 態 に お い て も 、 女 性 が 真 に 制 度 そ の も の か ら 自 由 に な る こ と は 不 可 能 で あ る と 言 え る 。 な ぜ な ら 、 逸 脱 が そ の 定 義 の 根 拠 を 制 度 に 置 く 以 上 、 制 度 内 に 留 ま ろ う と 、 制 度 外 に 出 よ う と 、 実 際 の と こ ろ 、 制 度 そ の も の か ら 脱 す る こ と は で き な い か ら で あ る 。 愛 情 の 名 を 借 り て 発 揮 さ れ る 制 度 は 、 「 愛 」 の 名 ゆ え に も っ と も 自 覚 さ れ に く く 、 免 責 さ れ や す い 事 象 で あ る 。 愛 情 関 係 に 基 づ く 支 配 の 具 体 例 と し て は 、 男 女 関 係 と 親 子 関 係 が 認 定 さ れ る 。 両 項 目 は 個 別 的 問 題 で は な く 、 そ の 根 底 に お い て 分 か ち が た く 結 び つ い て い る 。 な ぜ な ら 、 一 対 の 男 女 の 関 係 を 主 題 と し た 物 語 も 、 そ の 深 層 を 辿 れ ば 女 性 の 、 そ し て 男 性 の 両 親 ( と い う 名 の 一 対 の 男 女 関 係 ) が 抱 え た 問 題 が 、 子 の 世 代 に 継 承 さ れ 、 そ の 対 人 関 係 に 現 象 し て い る こ と が 指 摘 で き る の で あ る 。 つ ま り 、 男 女 の 抱 え た 問 題 に は 、 世 代 間 の 連 鎖 が 見 出 せ る と い う こ と だ 。 よ っ て 、 一 対 の 男 女 が 構 築 す る ( し よ う と す る ) 愛 情 関 係 と そ の 基 盤 、 縺 れ か ら 生 じ る 種 々 の 問 題 の 分 析 に は 、 当 事 者 で あ る 男 女 の 親 の 関 係 ま で も 視 野 に 入 れ て な さ れ る 必 要 が あ る 。 そ れ と 同 時 に 、 物 語 に 語 ら れ る 愛 情 と い う 名 の 支 配 を 考 察 す る に あ た っ て は 、 登 場 人 物 の 個 々 の 特 質 や 性 格 よ
り も 、 物 語 に 語 ら れ る か れ ら の 思 惟 、 行 動 を 導 く 枠 組 み を 指 摘 す る こ と が 重 要 と な る 。 そ の 理 解 を 助 け る た め に は 、 物 語 が 語 ら れ た 時 代 社 会 の 性 の 制 度 と 不 文 律 の 慣 習 を 解 明 す る こ と が 求 め ら れ る 。 そ れ は か れ ら の 精 神 生 活 の 営 為 を 支 え た 平 安 期 の 宗 教 に つ い て も 触 れ る こ と を 求 め る だ ろ う 。 な ぜ な ら 、 宗 教 は 文 化 と 不 可 分 に 結 び つ き な が ら 性 差 別 の 構 造 を 形 作 り 、 こ れ を 合 理 化 す る 基 盤 と な っ て い た か ら で あ る 。 以 上 、 本 論 文 の 主 題 で あ る フ ェ ミ ニ ズ ム 批 評 の 立 脚 点 と 、 そ の 研 究 課 題 に つ い て 述 べ た 。 『 源 氏 物 語 』 宇 治 十 帖 に 語 ら れ る 、 愛 情 関 係 で 結 び つ く 人 物 た ち 、 お よ び そ の 親 子 関 係 を 分 析 す る こ と で 、 関 係 の 当 事 者 で あ る 女 性 、 男 性 が 、 ど の よ う な 社 会 構 造 、 思 想 、 慣 習 の 中 に お か れ て い た か を 検 証 し 、 宇 治 十 帖 を フ ェ ミ ニ ズ ム 批 評 す る こ と の 意 義 と 成 果 を 導 き た い 。 三 、 本 論 文 の 構 成 主 旨 と 各 章 の 課 題 次 に 、 本 論 文 各 部 の 構 成 主 旨 と 、 各 章 の 課 題 を 述 べ て お く 。 *
第
一
部
宇
治
十
帖
に
お
け
る
〈
父
〉
と
子
の
問
題
系
―
宇
治
の
八
の
宮
家
を
中
心
に
第 一 部 は 、 宇 治 の 八 の 宮 と 娘 の 関 係 に 焦 点 を 充 て て 考 察 す る 。 一 般 に フ ェ ミ ニ ズ ム 批 評 は 「 女 / 男 」 の 二 項 対 立 を 思 想 の お も な 鍵 概 念 と し て な さ れ る 。 し か し 、 こ の 二 項 対立 を す べ て の 事 象 に そ の ま ま あ て は め る こ と は 、 必 ず し も 有 効 と は 言 い 難 い 。 な ぜ な ら 、 「 女 / 男 」 の 二 項 の 性 差 は 、 個 々 人 の 置 か れ た 社 会 的 、 文 化 的 環 境 、 お よ び 立 場 に よ っ て 、 そ の 比 重 は 相 対 的 に 変 容 さ せ ら れ て ゆ く も の だ か ら で あ る 。 家 父 長 制 と は 家 族 の 内 で 年 長 者 の 男 性 が 権 力 を 行 使 す る 制 度 を い う 。 そ こ で は 年 齢 と 性 別 に よ っ て 家 族 が 序 列 化 さ れ 、 年 少 者 お よ び 女 性 は 家 長 の 従 属 者 と し て 扱 わ れ る 。 し か し 、 家 長 権 の 行 使 者 で あ る は ず の 男 が 、 社 会 に お い て 男 の 意 味 を 持 つ こ と が で き ず 、 家 族 と い う 私 領 域 で の み そ の 男 性 性 を 発 動 す る 状 況 が 、 八 の 宮 と そ の 娘 た ち の 物 語 に 語 ら れ る 。 家 族 と い う 私 領 域 は 、 父 権 に よ る 専 制 が も っ と も あ か ら さ ま に 発 動 し や す い 場 で あ る 。 そ れ と 同 時 に 、 家 族 が 愛 情 を 基 盤 に 構 成 さ れ た 共 同 体 で あ る ( と さ れ る ) た め に 、 そ の 専 横 は よ り 情 緒 的 に 美 化 、 神 話 化 さ れ や す い 。 ま た 、 家 族 は 私 領 域 で あ る が ゆ え に 、 そ こ で 発 生 す る 問 題 は 他 者 ( 社 会 ) の 目 に は 触 れ に く く 、 重 大 視 さ れ る こ と も な い 。 こ の よ う な 背 景 に あ っ て 、 家 族 が 抱 え る 問 題 系 が 解 体 さ れ る こ と は 容 易 で は な い の で あ る 。 娘 が 生 の 原 初 か ら 生 涯 に わ た り 深 く 関 わ る 他 者 の 男 が 〈 父 〉 で あ る 。 〈 父 〉 で あ る 男 が 娘 に 及 ぼ す 影 響 は 、 親 子 の 関 係 の 範 疇 に の み 留 ま ら な い 。 そ れ は 、 娘 の 生 と 性
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こ と に 異 性 関 係―
の 根 底 に 根 深 く 影 響 を 与 え 続 け る の で あ る 。 第 一 部 は こ の よ う な 視 座 に 基 づ き 展 開 し て ゆ く こ と に な る 。 第 一 章 は 八 の 宮 に 対 す る 評 価 、 「 女 の や う 」 ( 橋 姫 一 二 四 ) を 問 題 の 始 発 と し て 、 政 争 に 敗 れ 、 社 会 的 属 性 と 役 割 の 一 切 を 剥 奪 さ れ た 八 の 宮 の 〈 男 〉 の 意 味 を 考 察 す る 。 そ れ は 同 時 に 、 か れ の 男 性 性 の 機 能 と そ れ を 支 え る役 割 を 課 さ れ た 娘 ( 大 君 ) 、 次 い で 八 の 宮 か ら 娘 と し て 認 知 さ れ な か っ た 娘 ( 浮 舟 ) の 生 に 与 え る 影 響 力 と 牽 制 力 の 構 造 を 解 く こ と に も つ な が る 。 か れ の よ う に 社 会 的 な 男 性 性 を 持 た な い 人 物 を 家 長 と し て 構 成 す る 宮 家 に お い て 、 「 父 の 娘 」 大 君 と 、 〈 父 〉 に 認 知 さ れ な か っ た 娘 ・ 浮 舟 の 対 社 会 的 な 役 割 は お の ず と 差 が 生 じ て く る は ( 8 ) ず で あ る 。 そ の 差 は 恋 愛 関 係 と い う 最 も 個 人 的 な 問 題 に ま で も 影 響 を 及 ぼ す こ と に な る だ ろ う 。 こ の 影 響 力 の 構 造 を 分 析 す る こ と が 、 第 一 章 の 目 的 で あ る 。 右 に 記 し た 問 題 意 識 に 立 脚 し て 、 第 二 章 は 大 君 の 結 婚 拒 否 の 原 因 を 八 の 宮 と の 関 係 を 軸 に 考 察 す る 。 第 三 章 は 、 八 の 宮 の 実 娘 で あ り な が ら 認 知 さ れ な か っ た 浮 舟 が 、 〈 父 〉 の 非 在 ゆ え に 生 の 困 難 を 抱 え る こ と を 問 題 の 端 緒 と し 、 〈 父 〉 の 欠 落 を 贖 う べ く 墓 参 を 願 っ た 経 緯 を 、 〈 母 〉 と の 関 わ り か ら 解 く 。 こ の 考 察 を も と に 、 浮 舟 が 宮 家 出 奔 時 に 幻 視 し た 、 「 宮 と 聞 こ え し 人 」 ( 手 習 二 九 五 ) が 指 示 す る 人 物 を 具 体 的 に 特 定 し 、 浮 舟 の 抱 え た 独 自 の 生 の 困 難 を 、 父 母 が 抱 え た 確 執 に ま で 遡 及 し 、 解 明 す る こ と を 目 指 す 。 第 一 章 宇 治 の 八 の 宮
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そ の 〈 男 性 性 〉 の 意 味 第 一 章 は 八 の 宮 の 嘆 慨 「 す さ ま じ く も あ る べ き か な 」 ( 橋 姫 一 一 八 ) を 始 発 に 、 彼 の 男 性 性 の 意 味 と 機 能 を 考 察 す る こ と が 目 的 で あ る 。 本 考 察 に お い て は 、 「 お ほ ど か 」 ( 橋 姫 一 二 四 ) と 「 女 の や う 」 ( 同 ) の 二 表 現 が 鍵 と な る 。 『 源 氏 物 語 』 に お い て 「 お ほ ど か 」 表 現 は 主 に 女 性 に 与 え ら れ る 表 現 で あ り 、 男 性 に 対 し て 与 え ら れ る の は 、 八 の 宮 が 孤 例 で あ る 。 よ っ て 、 表 現 機 能 と し て は こ れ を 「 女 性 的 表 現 」 と 理 解 す る こ と が で き る 。 な らば 、 同 表 現 が 唯 一 、 八 の 宮 に 与 え ら れ た こ と の 意 味 を 解 明 す る こ と が 必 要 と な ろ う 。 「 女 の や う 」 表 現 に つ い て は 、 類 似 表 現 と み な さ れ て き た 「 女 に て 見 た て ま つ ら ま ほ し 」 ( 帚 木 六 一 、 賢 木 一 一 六 、 絵 合 三 七 二 ) 、 「 女 に て 見 ば や 」 ( 紅 葉 賀 三 一 九 ) 、 「 女 に て 見 む 」 ( 紅 葉 賀 三 一 八 ) な ど の 表 現 と 比 較 し な が ら 検 討 す る 。 八 の 宮 に 「 女 の や う 」 表 現 が あ て ら れ る こ と は 、 現 状 に お い て か れ が 王 権 か ら 隔 て ら れ 、〈 男 〉 の 意 義 を 喪 失 し た 人 物 で あ る こ と が 要 諦 と な る 。 ま た 、 八 の 宮 は 「 俗 聖 」 ( 橋 姫 一 二 八 ) と 評 さ れ る が 、 こ れ に 肯 定 的 な 意 味 が 読 み と れ な い こ と は 辻 和 良 に よ っ て 指 摘 さ れ て お り 、 首 肯 さ れ る 。 本 章 は 辻 の 指 摘 を 踏 ま え 、 ( 9 ) こ れ ら 八 の 宮 に 関 す る 表 現 を 支 え る 政 治 的 な 背 景 を 分 析 す る こ と が 主 題 で あ る 。 こ れ に よ り 、 八 の 宮 が 身 を 「 す さ ま じ 」 と 認 識 し た 背 景 が 明 ら か に な る だ ろ う 。 次 い で 、 右 の 考 察 に よ っ て 導 き 出 さ れ た 表 現 の 理 路 を 、 八 の 宮 が 娘 た ち に 遺 し た 遺 言 に 重 ね 、 そ の 解 釈 の 更 新 を は か る 。 そ れ と と も に 、 男 と は 、 そ し て 〈 父 〉 と は 何 か と い う 問 い に 対 す る 結 論 を 提 示 す る こ と が 本 章 の 課 題 で あ る 。 第 二 章 不 婚 の 戦 術
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父 の 娘 ・ 宇 治 の 大 君 第 二 章 は 大 君 の 結 婚 拒 否 に つ い て 考 察 す る 。 薫 の 求 愛 を 拒 否 し 、 独 身 を 決 意 す る 大 君 の 思 惟 に つ い て は 多 く の 先 行 研 究 の 蓄 積 が あ る 。 そ の 中 で 、 大 君 が 薫 に 愛 情 を 持 ち つ つ も 、 八 の 宮 の 遺 言 に 従 い 、 薫 の 求 愛 に 対 し 拒 否 を 貫 い た と い う 理 解 が 有 力 視 さ れ て き た 。た し か に 、 大 君 が 後 見 人 と し て 薫 を 肯 定 的 に 評 価 す る く だ り は 認 め ら れ る が 、 後 見 人 と し て の 評 価 と 、 婚 姻 の 対 象 と し て の 評 価 は 区 別 し て 考 え る べ き で あ ろ う 。 大 君 の 結 婚 拒 否 の 真 意 に つ い て 考 察 す る 際 、 そ の 思 惟 を 解 く の に 有 効 と な る 表 現 が 、 薫 が 大 君 の 寝 所 に 忍 ん だ 際 、 大 君 の 思 惟 に 用 い ら れ た 「 む く つ け し 」 ( 総 角 二 三 四 ) 表 現 と 、 「 ね た し 」 ( 同 ) 表 現 で あ る 。 本 章 は 、 両 表 現 の 用 例 分 析 を 通 し て 、 大 君 の 結 婚 拒 否 の 動 機 と 意 図 が 明 ら か に す る こ と が ね ら い で あ る 。 ま た 、 こ の 考 察 を 補 強 す る た め に 、 仮 に 大 君 が 薫 と 婚 姻 し た 場 合 に 想 定 さ れ る 待 遇 を 示 し 、 大 君 の 「 皇 女 」 ( 正 確 に は 二 世 女 王 だ が 、 往 時 八 の 宮 が 皇 位 に つ く 可 能 性 を 持 っ た 人 物 と し て 、 大 君 に も 自 身 に 「 皇 女 」 の 意 識 が あ っ た と 仮 定 す る ) と し て の 矜 持 と 重 ね た 考 察 を お こ な う 。 右 の 考 察 を 通 じ て 明 ら か と な る の は 、 八 の 宮 と 大 君 の 父 娘 関 係 を 支 え る 構 造 で あ る 。 こ の 成 果 を も と に 、 八 の 宮 の 遺 志 を 原 動 力 と し た 大 君 の 結 婚 拒 否 を 、 「 庇 護 者 を 持 た な い 女 の 〈 戦 術 〉 」 と し て 読 み 解 く こ と を 本 章 の 意 義 と す る 。 第 三 章 浮 舟 と 〈 父 〉
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八 の 宮 と 「 宮 と 聞 こ え し 人 」 第 三 章 は 、 浮 舟 が 宮 家 出 奔 時 に 幻 視 し た 「 宮 と 聞 こ え し 人 」 ( 手 習 二 九 六 ) が 誰 を 指 示 す る の か 、 具 体 的 に 特 定 す る こ と が 課 題 で あ る 。 当 該 表 現 が 指 示 す る 人 物 に つ い て は 、 先 行 研 究 に お い て い ま だ 解 釈 が 一 定 し て い な い 。 先 行 研 究 に 示 さ れ た 見 解 を お お ま か に 分 類 す れ ば 、 匂 宮 を 指 示 す る 立 場 を と る 説 と 、 薫 を 指 示 す る 立 場 を と る 説 に 二 分 し て お り 、 い ず れ も 男 女 の 二 者 関 係 を 軸 に 考 察 さ れ た 成 果 で あ る 。 本 章 は こ れ ら 先 行 研 究 の 成 果 を 踏ま え 、 「 宮 と 聞 こ え し 人 」 が 指 示 す る 人 物 を 八 の 宮 と 仮 定 し て 、 そ の 論 証 を お こ な う 。 具 体 的 な 方 法 に 表 現 の 分 析 が あ る 。 浮 舟 が 「 宮 と 聞 こ え し 人 」 を 「 い と き よ げ な る 男 」 ( 同 ) と 見 た こ と 、 ま た 「 宮 」 の 呼 称 が 充 て ら れ て い る こ と に 焦 点 を あ て 、 『 源 氏 物 語 』 に お け る 「 き よ げ / き よ ら 」 の 表 現 構 造 を 洗 い 出 す 。 次 い で 「 宮 」 の 呼 称 に 相 応 し い 人 物 と 、 浮 舟 の 認 識 を 照 合 す る 。 さ ら に 、 浮 舟 の 出 奔 は 法 師 の 物 の 怪 の 作 用 で あ る と 後 に 明 か さ れ る た め 、 こ の 物 の 怪 が ど こ ま で の 場 面 で 浮 舟 を 領 じ て い た の か 、 具 体 的 な 場 面 を 特 定 し 、 物 の 怪 か ら 浮 舟 を 護 っ た と さ れ る 、 観 音 の 働 き に つ い て も あ わ せ て 触 れ る こ と に な る 。 右 の よ う な 問 題 意 識 と 方 法 か ら 、 「 宮 と 聞 こ え し 人 」 を 八 の 宮 と 読 み 取 る 可 能 性 を 論 証 し 、 さ ら に そ の 成 果 を 浮 舟 の 物 語 に 還 元 す る こ と で 、 浮 舟 が 八 の 宮 の 墓 参 を 願 う こ と の 真 意 、 お よ び 浮 舟 に 対 し 〈 母 〉 が 為 す 詐 術 の 意 図 な ど を 明 ら か に す る こ と が 、 本 章 の 最 終 的 な 目 的 で あ る 。
第
二
部
宇
治
十
帖
に
お
け
る
〈
母
〉
と
子
の
問
題
系
―
母
の
〈
男
〉
/子
の
〈
父
〉
第 二 部 は 、 『 源 氏 物 語 』 宇 治 十 帖 に 語 ら れ る 〈 母 〉 と 子 の 関 係 を 取 り 上 げ る 。 〈 父 〉 の 権 力 が 全 面 的 で 重 要 な 局 面 を 担 う の に 比 べ 、 〈 母 〉 の 権 力 は 家 長 の 権 力 に 圧 さ れ て 全 面 に 出 る こ と が 無 い 。 全 般 的 に 言 っ て 、 〈 母 〉 は 重 要 な 事 柄 の 決 定 権 を 与 え ら れ ず 、 ま た そ の 場 か ら も 排 除 さ れ て い る こ と に そ の 原 因 が あ る と 考 え ら れ る 。 そ のた め 、 〈 母 〉 の 権 力 は 、 「 家 族 の 構 成 員 に お け る も っ と も 立 場 の 弱 い 者 = 子 」 に 、 そ の 発 動 先 の 矛 先 が 向 け ら れ る 。 ま た 、 〈 父 〉 の 権 力 が 具 体 的 な 目 標 や 戒 め を 厳 し く 与 え 、 子 を 律 す る の に 比 べ 、 〈 母 〉 の 権 力 は 抽 象 的 か つ 暗 示 的 で あ る 。 ま た 、 親 と し て 子 を 罰 す る と い う 点 に お い て は 、 〈 母 〉 は 〈 父 〉 の よ う に 即 物 的 な 罰 を 与 え ず 、 心 理 的 な 罪 悪 感 を 子 に 抱 か せ る と 言 う 点 が 特 徴 と し て 指 摘 さ れ る 。 そ れ は 、 〈 母 〉 の 力 の 戦 術 に 、 情 緒 的 拘 束 と い う 手 段 が 多 用 さ れ る た め で あ る 。 よ っ て 、 子 が 〈 母 〉 の 力 か ら 逃 れ る た め に は 、 相 当 の 心 理 的 葛 藤 を 経 な け れ ば な ら な い こ と 、 あ る い は そ の 葛 藤 を 経 て 〈 母 〉 か ら 逃 れ る こ と が で き た と し て も 、 な お 〈 母 〉 か ら 逃 れ た こ と に 対 す る 罪 悪 感 か ら は 自 由 に な れ な い と い う こ と が 指 摘 で き る 。 右 の よ う な 問 題 意 識 か ら 、 第 一 章 は 女 三 の 宮 と 薫 の 母 子 関 係 を 取 り 上 げ 、 女 三 の 宮 の 尼 姿 が 、 薫 の 道 心 志 向 の 動 機 と な っ た こ と を 指 摘 し 、 あ わ せ て 女 三 の 宮 が 薫 の 女 性 関 係 に 及 ぼ す 影 響 を 解 明 す る 。 こ れ に よ っ て 薫 の 対 人 関 係 の パ タ ー ン 構 造 を 明 ら か に し 、 女 二 宮 降 嫁 に あ た っ て の 独 白 、 「 后 腹 に お は せ ば し も 」 ( 宿 木 三 七 九 ) に 表 象 さ れ る 上 昇 婚 志 向 の 理 由 が 説 明 さ れ る だ ろ う 。 第 二 章 、 三 章 は 、 〈 母 〉 と 娘 の 関 係 を 中 心 に 論 じ る 。 母 娘 関 係 を 取 り 上 げ る こ と は 、 〈 父 〉 を 中 心 に 〈 父 〉 と 息 子 、 〈 父 〉 と 娘 、 〈 母 〉 と 息 子 と い う 、 男 性 中 心 の 家 族 構 成 ば か り が 考 察 の 対 象 と さ れ 、 女 と 女 の 関 係 が 軽 視 さ れ が ち で あ っ た フ ロ イ ト 的 研 究 史 の 偏 向 に 対 す る 異 議 か ら 生 ま れ た 視 座 で あ る 。 女 同 士 の 親 子 関 係 は 身 体 の 性 を 同 じ く す る こ と か ら 、 関 係 に 癒 着 が 生 じ や す く 、 自 他 の 同 一 化 が 息 子 と の 関 係 よ り も 一 層 容 易 に な さ れ る 。 そ の た め 、 自 他 の 越 境 や 精 神 生 活 へ の 積 極 的 か つ 過 剰 な 介 入 が 行 わ れ や す い こ と に
特 徴 が あ る 。 〈 母 〉 は 娘 に 、 「 あ な た の こ と は 私 が 一 番 理 解 し て い る 」 ( よ っ て 私 に 従 い な さ い ) 、 あ る い は 「 私 の 努 力 は す べ て あ な た の た め に あ る 」 ( よ っ て 私 の 望 み を 叶 え な さ い ) と い う 抑 圧 を 日 々 意 識 的 、 無 意 識 的 に 加 え 、 娘 に 対 し て 〈 母 〉 を 支 え る 立 場 を 取 る よ う 促 す 。 こ う し た 権 力 関 係 の 中 、 〈 母 〉 は 娘 の 自 我 を 専 有 し 、 自 己 の 願 望 を 娘 の 生 と 性 に 重 ね 、 そ の 成 果 を 略 取 し よ う と す る の で あ る 。 右 の 考 察 を 行 う に 当 た り 、 そ の 具 体 的 な 事 例 と し て 、 第 二 章 は 中 将 の 君 と 浮 舟 の 母 娘 関 係 を 取 り 上 げ る 。 浮 舟 の 物 語 に は 〈 母 〉 の 存 在 が 過 剰 に 語 ら れ る こ と が 池 田 節 子 に よ っ て 指 摘 さ れ て い る 。 だ が 、 他 の 母 娘 関 係 に 比 (10) べ 、 な ぜ 浮 舟 の 物 語 に 〈 母 〉 が 強 く 影 響 す る の か と い う 問 題 は 、 対 象 を 母 娘 の 二 者 関 係 に 限 定 せ ず 、 非 在 の 〈 父 〉 八 の 宮 も 射 程 に 入 れ て 考 察 さ れ る 必 要 が あ る 。 多 く の 親 子 問 題 は 、 親 子 二 者 の 葛 藤 に ば か り そ の 問 題 の 焦 点 が 充 て ら れ て き た 。 だ が 、 問 題 を 生 成 し た 母 胎 に は 、 そ の 場 に 居 合 わ せ な い も う 一 方 の 親 の 存 在 ( あ る い は 非 在 ) が 、 根 底 で 深 く 作 用 し て い る と 考 え る か ら で あ る 。 最 後 に 、 第 三 章 は 小 野 の 妹 尼 と 浮 舟 の 疑 似 母 娘 関 係 を 取 り 上 げ る 。 実 娘 と 死 別 し た 妹 尼 は 、 浮 舟 を 「 初 瀬 の 観 音 の 賜 へ る 人 」 ( 手 習 二 九 三 ) と 観 じ て 、 浮 舟 を 庇 護 す る 。 し か し 、 そ の た め に 妹 尼 が 取 っ た 行 為 は 、 「 口 が た め 」 ( 手 習 二 八 八 、 二 九 一 ) し て 浮 舟 を 世 間 か ら 隠 し 、 そ の 上 で 小 野 に 連 れ 去 る と い う 方 法 で あ っ た 。 こ の よ う な 行 為 は 、 妹 尼 の 浮 舟 救 助 を 仏 教 者 の 積 徳 行 為 と し て 読 む こ と を 困 難 に す る 。 そ こ に は 、 妹 尼 が か つ て 〈 母 〉 で あ っ た 時 代 の 再 現 願 望 、 お よ び 〈 世 〉 へ の 執 着 が 濃 厚 に 看 取 さ れ る か ら で あ る 。 『 源 氏 物 語 』 の 終 の 物 語 に 要 請 さ れ た 、 浮 舟 と 妹 尼 の 疑 似 母 娘 関 係 を 分 析 す る こ と に よ っ て 、 浮 舟 を め ぐ る 〈 母 〉
の 問 題 系 の 総 括 を 導 き 、 『 源 氏 物 語 』 に お け る 〈 母 〉 と は 何 か 、 子 と は 何 か と い う 問 い へ の 解 を 導 く こ と が 、 第 二 部 の 課 題 で あ る 。 第 一 章 薫 と 母 ・ 女 三 の 宮
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〈 母 〉 と 〈 女 〉 を つ な ぐ 糸 第 一 章 は 、 薫 と 女 三 の 宮 の 親 子 関 係 を 中 心 に 、 薫 の 仏 道 志 向 の 発 露 に つ い て 考 察 す る 。 先 行 研 究 で は 「 柏 木 の 犯 し 」 を 負 っ て 生 ま れ た こ と が 、 薫 の 仏 道 志 向 の 契 機 と し て 指 摘 さ れ て い る 。 だ が 、 非 在 の 〈 父 〉 よ り も 、 な (11) お 濃 密 に 薫 の 生 に 作 用 す る 問 題 の 根 幹 に 、 〈 母 〉 の 影 響 が 働 い て い る こ と を 提 起 す る の が 本 章 の 目 的 で あ る 。 右 の 考 察 に あ た っ て は 、 女 三 の 宮 の 尼 姿 が 幼 少 時 の 薫 に 与 え た 影 響 を 、 記 憶 の 原 初 〈 母 〉 が 尼 で あ っ た こ と に 求 め 、 こ れ が 薫 の 抱 く 「 わ が 身 に つ つ が あ る 心 地 」 ( 匂 兵 部 卿 二 四 ) の 原 因 と な る こ と を 示 し た 上 で 、 薫 を 仏 道 志 向 に 導 い た こ と を 論 じ る 。 ま た 、 女 三 の 宮 の 物 語 を 〈 女 源 氏 〉 の 物 語 と 認 定 し た 長 谷 川 政 春 の 指 摘 を 踏 ま え 、 八 の 宮 と 薫 の 親 密 な 関 係 (12) を 導 く 要 因 に 、 女 三 の 宮 と 薫 の 母 子 関 係 が あ る こ と を 指 摘 す る 。 こ れ に つ い て は 、 薫 が 仏 道 志 向 を 標 榜 す る 傍 ら 、 宇 治 の 大 君 、 中 君 、 浮 舟 に 次 々 と 恋 着 す る こ と が 、 ア イ デ ン テ ィ テ ィ の 矛 盾 や 自 己 欺 瞞 に あ た る こ と が 多 く の 先 行 研 究 に よ っ て 指 摘 さ れ て い る 。 だ が 、 薫 が 「 親 の 親 」 の 役 割 を 期 待 さ れ た 子 で あ る と い う 「 親 子 関 係 の ね じ (13) れ 」 を 押 さ え れ ば 、 仏 道 を 志 向 し な が ら 宇 治 の 姫 た ち に 恋 着 す る こ と は 、 本 章 に お い て は な ん ら 矛 盾 し た 現 象 で は な い こ と が 導 か れ る 。こ れ ら の 手 続 き を 経 た 上 で 、 薫 の 仏 道 志 向 を 〈 母 〉 と の 一 体 化 を 求 め る 手 段 と し 、 薫 に 課 さ れ た 「 親 の 親 」 役 割 の 内 実 を 明 ら か に す る こ と で 、 薫 の 生 の 志 向 と 対 人 関 係 の パ タ ー ン を 論 証 す る こ と が 本 章 の ね ら い で あ る 。 第 二 章 母 装 す る ひ と
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浮 舟 の 母 ・ 中 将 の 君 第 二 章 は 、 浮 舟 の 母 娘 関 係 に つ い て 取 り 上 げ る 。 考 察 の 主 眼 は 、 浮 舟 の 母 ・ 中 将 の 君 が 、 か つ て 八 の 宮 の 召 人 で あ っ た こ と に 置 か れ る 。 考 察 に あ た っ て 、 「 最 初 か ら 語 る 対 象 た り え な い 召 人 は 、 貴 人 た ち の 性 の 慰 み も の に 徹 し な く て は な ら な い 」 と の 東 原 伸 明 に よ る 召 人 定 義 を 踏 ま え な が ら 、 『 源 氏 物 語 』 に お け る 召 人 の 存 在 意 義 (14) と 性 の あ り よ う に つ い て 、 新 た な 見 解 を 打 ち 出 す こ と を 目 指 す 。 次 に 、 前 述 の 召 人 定 義 を 問 題 提 起 の 始 発 と し て 、 浮 舟 が 中 将 の 君 と 、 継 父 ・ 常 陸 介 の 夫 婦 関 係 に 及 ぼ す 影 響 を 、 物 語 に 語 ら れ る 常 陸 介 家 の 諸 相 か ら ひ も と く 。 従 来 、 中 将 の 君 に 関 す る 先 行 研 究 は 、 お も に 浮 舟 と の 母 娘 関 係 に の み 焦 点 を あ て て な さ れ て き た 。 だ が 本 章 は 、 子 の 人 格 形 成 お よ び 愛 情 生 活 に は 、 親 と い う 一 対 の 男 女 の 関 係 が 抜 き が た く 影 響 し て い る と の 立 場 か ら 、 考 察 の 射 程 を 親 の 夫 婦 関 係 に ま で 拡 張 し て お こ な う 。 召 人 と し て の 中 将 の 君 と 八 の 宮 、 そ し て 中 将 の 君 と 常 陸 介 と い う 「 〈 母 〉 の 男 性 関 係 」 か ら 、 〈 母 〉 と 娘 の 関 係 構 造 、 さ ら に 〈 母 〉 か ら 娘 に 発 動 さ れ る 権 力 の 自 覚 的 な 行 使 と そ の 影 響 力 に 注 視 す る こ と で 、 〈 母 〉 と い う 女 の 物 語 が 、 い か に 隠 微 な 形 で 娘 の 生 と 性 を 領 じ て ゆ く か 、 浮 舟 の 物 語 に 即 し て 指 摘 す る こ と が 本 章 の 課 題 で あ る 。第 三 章 小 野 の 妹 尼 と 浮 舟
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〈 母 〉 と い う 制 度 第 三 章 は 、 引 き 続 き 〈 母 〉 の 問 題 系 を 考 察 す る た め に 、 小 野 の 妹 尼 と 浮 舟 の 疑 似 母 娘 関 係 を 取 り 上 げ る 。 宇 治 の 宮 邸 を 出 奔 し た 浮 舟 は 、 横 川 の 僧 都 一 行 に 救 出 さ れ 、 小 野 の 山 里 に 匿 わ れ る 。 娘 と 死 別 し て い た 妹 尼 は 、 浮 舟 を 「 初 瀬 の 観 音 の 賜 へ る 人 」 ( 手 習 二 九 三 ) と 直 感 し 、 庇 護 す る 。 だ が 、 宇 治 に 宿 る そ も そ も の 原 因 と な っ た 高 齢 の 母 尼 に 対 す る 配 慮 が 、 浮 舟 発 見 以 後 の 妹 尼 に 一 切 語 ら れ な い こ と 、 ま た は 妹 尼 の 主 導 に よ っ て 浮 舟 の 件 を 周 囲 に 口 止 め し 、 外 部 へ の 情 報 流 出 を 阻 止 す る 様 子 な ど は 、 不 審 で あ る 。 妹 尼 が 浮 舟 を 私 も の と し た 動 機 が 娘 の 非 在 に あ る こ と か ら 、 そ の 形 代 を 求 め た 行 為 と す る 理 解 は 容 易 に 導 か れ る 。 だ が 、 そ れ だ け で は な お 不 足 で あ る 。 妹 尼 の 浮 舟 救 助 の 目 的 は 娘 を 失 っ た 悲 嘆 を 拭 う 〈 母 〉 の 心 理 に 基 づ く 情 緒 的 な も の で は な い 。 そ れ は 、 浮 舟 の 若 く 豊 饒 な 女 の 身 体 を 利 用 し て 、 妹 尼 と そ の 世 界 ( 小 野 の 庵 ) が 再 び 俗 世 と 繋 が る こ と に 要 諦 が あ っ た と の 結 論 を 導 く こ と が 、 本 章 の ね ら い で あ る 。 考 察 に あ た っ て は 、 母 尼 と 妹 尼 の 年 齢 に つ い て も 触 れ る 必 要 が あ る 。 母 尼 、 妹 尼 の 年 齢 に つ い て は 「 八 十 あ ま り の 母 、 五 十 ば か り の 妹 」 ( 手 習 二 九 七 ) と 語 ら れ て お り 、 年 齢 が 明 記 さ れ る 特 殊 な 事 例 で あ る 。 こ れ に つ い て は 永 井 和 子 が 源 信 の 准 拠 に 基 づ く も の と し 、 永 井 論 を 発 展 的 に 継 承 し た 外 山 敦 子 が 「 年 齢 に よ る 役 割 分 担 (15) (16) を 物 語 が 要 請 し た 」 と 論 じ て お り 首 肯 さ れ る 。 本 章 は 、 こ れ ら 先 行 研 究 の 指 摘 を 踏 ま え た 上 で 、 か の 女 た ち の 年 齢 が 明 記 さ れ る 理 由 を 「 女 の 性 の 期 限 」 に 求 め て 考 察 す る 。 こ れ に よ り 導 か れ る 妹 尼 の 企 て の 真 意 を 論 証 し つ つ 、 先 述 の 考 察 を 補 強 す る こ と を 目 指 す 。第
三
部
宇
治
十
帖
に
お
け
る
〈
女
の
身
〉
第 三 部 は 、 『 源 氏 物 語 』 宇 治 十 帖 に お け る 〈 女 の 身 〉 に ま つ わ る 言 説 と 制 度 を 主 題 と す る 。 あ ら ゆ る 関 係 性 の 中 で も 、 男 女 関 係 は も っ と も 私 的 な 領 域 で の 関 係 で あ る た め 、 閉 鎖 的 で 排 他 的 で あ る こ と に そ の 特 徴 が あ る 。 よ っ て 、 そ こ で 発 生 す る 性 差 別 、 お よ び そ れ に 基 づ く 問 題 は 、 も っ と も 当 事 者 た ち に 自 覚 さ れ る こ と が 困 難 で あ り 、 同 時 に 他 者 の 目 か ら 隠 蔽 す る こ と が 容 易 で あ る 。 第 三 部 が 主 題 と す る の は 、 常 に 男 に よ っ て 劣 っ た も の 、 卑 し い も の 、 あ る い は 穢 れ た も の と 見 な さ れ て き た 〈 女 の 身 〉 で あ る 。 だ が 、 こ こ で 〈 女 〉 を 性 の 一 枚 岩 と 見 な す こ と は で き な い 。〈 女 〉 は 生 育 段 階 と 身 体 の 役 割 に お い て 、 大 き く 三 段 階 に 分 類 さ れ て い る か ら で あ る 。 一 つ め の 〈 女 〉 は 、 未 だ 男 と 通 じ ぬ 身 体 ( 未 通 女 ) で あ る 。 二 つ め の 〈 女 〉 は 、 出 産 と 授 乳 の 力 を 行 使 す る ( あ る い は し た ) 豊 を と め 饒 の 身 体 ( 母 ) で あ る 。 三 つ め の 〈 女 〉 は 、 す で に 処 女 で も な く 、 い ま だ 母 で も な い 、 あ ら ゆ る 男 の 受 容 が 可 能 な 身 体 ( 現 在 進 行 形 の 女 ) で あ る 。 (17) さ て 、 す で に 処 女 で も な く 、 い ま だ 母 で も な い 〈 女 の 身 〉 が 、 い か な る 意 味 に お い て も 聖 性 が 与 え ら れ ず 、 も っ と も 卑 し ま れ る の は な ぜ か 。 こ の 時 期 の 〈 女 の 身 〉 は 、 物 語 に お い て は 恋 愛 譚 の 中 心 に な り 、 現 実 社 会 で は 男 の 求 愛 を 受 け る 時 期 に あ た る 。 つ ま り 、 男 と の 対 関 係 の 中 で 、 物 語 を 創 造 し て ゆ く 「 男 に 欲 望 さ れ る 身 体 」 で あ る 。 だ が そ の 一 方 で 、 盛 り を 過 ぎ た 女 や 、 醜 女 な ど の 男 の 欲 望 を 誘 う 魅 力 に 欠 け た 女 は 、 女 で あ る こ と と 、 男 に 欲 望 さ れ な い こ と に お い て 、 さ ら に 二 重 に 貶 め ら れ る こ と に な る 。 こ の よ う に し て 、 〈 女 の 身 体 〉 は 産 む 性 と して 母 性 を 全 う す る こ と で 崇 め ら れ な が ら 、 一 方 で は 劣 性 で あ る こ と に よ っ て 貶 め ら れ る と い う 二 重 基 準 に お か ダ ブ ル ス タ ン ダ ー ド れ て き た 。 女 が 男 に 比 し て 劣 る 性 で あ る と い う こ と は 、 生 物 学 的 に 立 証 さ れ る 事 実 で は な い 。 そ れ は 外 部 の 言 説 に よ っ て 構 築 さ れ 、 内 面 化 さ れ て き た い わ ば 「 男 に よ る 物 語 」 で あ る 。 こ の 「 外 部 の 言 説 」 と は 、 日 本 に お い て は 仏 教 思 想 を 指 す 。 平 安 時 代 、 も っ と も 女 性 に 受 容 さ れ た 経 典 は 『 法 華 経 』 で あ り 、 こ れ は 変 成 男 子 の 教 え が 説 か れ た 代 表 的 な 経 典 で あ る 。 変 成 男 子 は 本 来 女 性 救 済 の 思 想 と し て 編 み だ さ れ た 説 で あ っ た が 、 〈 女 の 身 〉 の ま ま で は 救 わ れ な い と い う 側 面 が 強 調 さ れ る あ ま り 、 か え っ て 女 性 を 蔑 視 す る 立 場 を 正 当 化 し て し ま う と い う 事 態 を 招 い た 背 景 が あ る 。 日 本 に お い て は 、 こ う し た 教 理 が 現 実 社 会 と 手 を 携 え て 、 女 性 蔑 視 の 現 実 を 強 化 し て い っ た の で あ る 。 第 三 部 で は 、 右 の よ う な 思 想 と 社 会 の 背 景 を 踏 ま え な が ら 、 〈 女 の 身 〉 に ま つ わ る 表 象 と 言 説 を 主 題 に 考 察 を 進 め る 。 第 一 章 は 、 中 君 と 薫 が 過 ご し た 一 夜 に 情 交 成 立 を 読 み 取 る こ と の 可 能 性 を 探 究 す る 。 第 二 章 は 、 二 条 院 で 薫 が 中 君 に 迫 っ た 際 に 目 に し た 、 「 腰 の し る し 」 ( 宿 木 四 二 九 ) の 周 辺 事 項 を 史 料 と 物 語 の 表 現 か ら 明 ら か に し 、 物 語 の 読 み に 還 元 す る こ と を 目 標 と す る 。 第 三 章 は 、 浮 舟 の 出 奔 か ら 出 家 に 至 る 物 語 を 軸 と し て 、 浮 舟 の 身 の 上 に 重 ね ら れ る 〈 女 の 身 〉 の 罪 障 観 と 、 そ の 構 造 に つ い て 述 べ る こ と に な る 。 そ し て 最 後 の 第 四 章 は 、 『 源 氏 物 語 』 に お け る 〈 狐 〉 の 喩 と 〈 女 の 身 〉 の 関 係 に 焦 点 を あ て て 考 察 を お こ な う 。 軽 微 な 妖 獣 と さ れ る 〈 狐 〉 が 、 ど の よ う な 要 件 に よ っ て 〈 女 の 身 〉 の 喩 と さ れ る よ う に な っ た の か を 、 個 々 の 事 例 を ひ も と き 明 ら か に し 、 〈 狐 〉
の 喩 の 発 動 基 盤 と 生 成 の 構 造 を 解 明 す る 。 第 一 章 総 角 巻 の 一 場 面
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宇 治 の 中 君 と 薫 の 一 夜 第 一 章 は 、 中 君 と 薫 が 一 夜 を 過 ご し た 総 角 巻 の 場 面 を 取 り 上 げ る 。 こ の 場 面 は 従 来 、 「 情 交 な き 一 夜 」 と 解 釈 さ れ て き た 。 同 解 釈 に つ い て は 、 本 居 宣 長 『 玉 の 小 櫛 』 が 施 し た 注 記 、 「 さ き に 姉 君 と 、 そ ひ ぶ し し 給 ひ し 時 の ご と く 、 例 の 実 事 は な く て 、 夜 を あ か し 給 也 」 に 以 後 の 注 釈 が 従 っ て き た こ と か ら 解 釈 の 主 流 と な っ た と 考 え ら れ る 。 ま た 、 中 君 が 薫 と 一 夜 を 過 ご し た 経 緯 に 関 し て は 、 先 行 研 究 に お い て も ほ ぼ 取 り 上 げ ら れ る こ と が な か っ た た め 、 注 釈 の 妥 当 性 を 検 討 す る 必 要 が あ る と 考 え る 。 本 論 は 、 中 君 と 薫 が 過 ご し た 一 夜 の 内 実 を 、 「 や う や う 」 ( 総 角 二 五 三 ) 、 「 あ さ ま し げ に あ き れ ま ど ふ 」 ( 同 ) 、 「 後 瀬 を 契 る 」 ( 総 角 二 五 五 ) な ど の 表 現 分 析 に よ っ て 解 明 し 、 注 釈 の 妥 当 性 を 検 証 す る こ と が 目 的 で あ る 。 先 行 研 究 に お い て 見 過 ご さ れ て き た 場 面 に 新 た な 解 釈 の 可 能 性 を 提 示 し 、 大 君 の 死 か ら 浮 舟 登 場 に 至 る ま で の 中 君 と 薫 の 交 誼 、 そ し て 匂 宮 を 加 え た 三 者 関 係 を 捉 え な お す こ と を 目 指 す 。 第 二 章 宿 木 巻 の 中 君―
「 腰 の し る し 」 を め ぐ る 考 察 第 二 章 は 、 宿 木 巻 に 語 ら れ る 中 君 の 「 腰 の し る し 」 ( 宿 木 四 二 九 ) を 主 題 と す る 。 薫 が 中 君 に 迫 っ た 際 、 彼 女 が ま と う 「 腰 の し る し ( 腹 帯 ) 」 を 見 て 懐 妊 を 知 り 、 そ れ 以 上 の 行 為 を 思 い と ど ま っ た と 語 ら れ る 。 同 場 面 につ い て は 現 代 注 、 先 行 研 究 共 に 、 中 君 が 衣 装 の 上 か ら 「 腰 の し る し 」 を つ け て お り 、 そ れ が 薫 の 目 に 触 れ た と 解 釈 し て い る 。 こ れ は 江 戸 中 期 に 成 立 し た 『 安 齋 随 筆 』 の 注 記 、 「 昔 は 衣 の 上 よ り 帯 し た る な る べ し 」 に 従 っ た も の で あ る 。 こ の 指 摘 に よ り 、 現 在 で は 平 安 時 代 の 腹 帯 は 、 衣 装 の 上 か ら つ け ら れ た と の 理 解 が 一 般 的 に な さ れ る よ う に な っ た 。 (18) 出 産 諸 儀 の 中 で 、 も っ と も 多 く の 研 究 が な さ れ て き た の は 産 養 で あ る 。 こ れ に 比 べ 、 着 帯 に つ い て は ほ ぼ 見 過 ご さ れ て き た と 言 っ て よ い 。 よ っ て 、 本 章 は ま ず 、 平 安 時 代 に お け る 腹 帯 の 着 用 法 を 明 ら か に す る こ と を 目 指 す 。 そ の 方 法 と し て 、 腹 帯 と 着 帯 の 儀 式 に 関 す る 史 料 と 他 の 物 語 に お け る 表 現 を た ど り 、 実 態 を 明 ら か に す る 。 次 に 、 現 在 で は 由 来 不 明 と さ れ る 腹 帯 の 着 用 意 義 を 、 五 行 陰 陽 思 想 を も と に 考 察 し 、 呪 術 の 具 と し て の 腹 帯 の 意 義 を 提 示 す る 。 最 後 に 、 右 の 成 果 を 『 源 氏 物 語 』 の 当 該 場 面 に 還 元 し 、 薫 が 中 君 に 迫 っ た 際 の 状 況 を よ り 詳 し く 解 明 す る 。 こ れ ら の 考 察 に よ り 、 薫 と の き わ ど い 関 係 を 切 り 抜 け な が ら 、 匂 宮 の 妻 ( の ひ と り ) と し て の 立 場 を 守 ろ う と す る 中 君 の 生 存 戦 術 と 、 そ れ に 基 づ く 中 君 物 語 の 独 自 性 を 提 示 す る こ と が 本 章 の 課 題 で あ る 。 第 三 章 浮 舟 の 〈 罪 〉
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桎 梏 か ら の 逃 避 第 三 章 は 、 浮 舟 の 身 の 上 に 語 ら れ る 〈 女 の 身 〉 の 〈 罪 〉 を 主 題 と す る 。 浮 舟 の 出 奔 と 出 家 に 関 し て 、 先 行 研 究 で は 、 「 女 の 身 に 宿 る 罪 を 自 ら 断 罪 し よ う と し た 行 為 」 等 と 論 じ ら れ て き た 。 先 行 研 究 が 指 摘 す る 「 女 の 身 の (19) 罪 」 と は 、 『 法 華 経 』 に 説 か れ る 女 人 の 五 障 三 従 お よ び 女 人 往 生 思 想 に 基 づ く 女 性 不 浄 観 と 、 そ こ か ら 派 生 す る女 性 蔑 視 の 言 説 を 指 す 。 女 人 往 生 思 想 は 別 名 変 成 男 子 と も 呼 ば れ る 教 理 で 、 女 が 〈 女 の 身 〉 の ま ま で は 往 生 で き な い た め 、 男 子 に 変 じ る こ と を 必 要 と す る と 説 く 教 え で あ る 。 同 思 想 は 、 『 法 華 経 』 が ひ ろ く 受 容 さ れ た 平 安 時 代 、 女 性 た ち を 教 化 し 、 内 面 化 さ せ る こ と に 貢 献 し た 。 男 性 僧 侶 集 団 の 戒 律 遵 守 の 意 図 か ら 発 生 し た こ の 教 理 は 、 以 後 日 本 社 会 に 深 く 根 付 き 、 女 性 の 生 き 難 さ を 形 成 し て い っ た 。 本 章 は 、 こ の よ う な 社 会 的 背 景 を 視 野 に 入 れ つ つ 、 浮 舟 の 身 に 語 ら れ る 〈 罪 〉 の 内 実 を 明 ら か に す る こ と 、 さ ら に は 〈 女 の 身 〉 の 〈 罪 〉 が 男 性 に よ る 、 女 性 へ の 抑 圧 の 表 象 と し て 機 能 す る 社 会 構 造 を 指 摘 し 、 浮 舟 の 出 奔 と 出 家 の 意 義 に つ い て 論 じ る 。 第 四 章 〈 狐 〉 の 喩 と 源 氏 物 語 第 四 章 は 、 『 源 氏 物 語 』 に お け る 〈 狐 〉 表 現 に つ い て 考 察 す る 。 『 源 氏 物 語 』 に お け る 〈 狐 〉 用 例 は 全 一 二 例 。 怪 異 の 一 種 と し て 語 ら れ て い る 〈 狐 〉 と は 、 登 場 人 物 の 意 識 の 前 面 に 浮 上 し て い な い も の を 語 る 、 喩 と し て 〈 狐 〉 使 用 さ れ る 表 現 で あ る 。 本 章 に お け る 喩 と は 、 「 こ と ば と こ と ば 、 イ メ ー ジ と イ メ ー ジ が 生 み だ す 、 言 語 表 現 の 第 一 次 的 な 指 示 機 能 か ら 拡 張 さ れ た 意 味 生 成 機 能 」 を 指 す 。 〈 狐 〉 の 喩 は 、 た ん な る 生 物 と し て の 〈 狐 〉 を 指 (20) 示 し な い 。 そ れ は 、 『 源 氏 物 語 』 と の 関 わ り に お い て そ の 意 味 の 領 域 を 拡 張 し 、 「 多 義 的 な 意 味 の 転 移 ・ 偏 差 ・ 増 殖 が 〈 読 み 〉 の 中 で 生 成 す る 動 的 な 運 動 性 」 を 持 つ 表 現 機 能 と し て 、 読 み 手 に 意 味 の 生 産 を 働 き か け る 機 能 を 持 つ 。
本 論 は 、 第 一 に 夕 顔 巻 に 語 ら れ る 〈 狐 〉 の 喩 を 『 任 氏 伝 』 と の 関 わ り か ら 考 察 し 、 第 二 に 説 話 集 に 語 ら れ る 狐 譚 を 参 考 に 、 蓬 生 巻 に 語 ら れ る 〈 狐 〉 の 喩 を 従 来 的 な 「 〈 狐 〉 譚 の 擬 き 」 と し て 読 み 解 く 。 第 三 に 、 〈 狐 〉 表 現 が 最 も 多 く 用 い ら れ る 浮 舟 の 物 語 に 、 『 古 事 談 』 、 『 今 昔 物 語 集 』 に 収 録 さ れ た 染 殿 后 の 説 話 を 重 ね 、 僧 侶 に と っ て の 〈 狐 〉 の 喩 が 示 す も の を 明 ら か に す る 。 こ れ ら の 考 察 を 通 じ て 、 男 性 中 心 主 義 社 会 に お け る 〈 女 の 身 〉 の 表 象 機 能 と 、 同 表 現 を 機 能 さ せ る 権 力 の 配 置 を 論 じ る こ と が 本 章 の 目 的 で あ る 。 〈 註 〉 ジ ョ ナ サ ン ・ カ ラ ー 『 新 版 デ ィ コ ン ス ト ラ ク シ ョ ン Ⅰ 』 ( 岩 波 現 代 文 庫 、 二 〇 〇 九 年 ) (1) 小 嶋 菜 温 子 『 か ぐ や 姫 幻 想
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皇 権 と 禁 忌 』 ( 森 話 社 、 一 九 九 五 年 ) (2) 小 嶋 菜 温 子 『 源 氏 物 語 批 評 』 ( 有 精 堂 、 一 九 九 五 年 ) (3) 『 王 朝 の 性 と 身 体 』 ( 小 嶋 菜 温 子 編 著 、 森 話 社 、 二 〇 〇 二 年 ) (4) 吉 井 美 弥 子 『 読 む 源 氏 物 語 読 ま れ る 源 氏 物 語 』 ( 森 話 社 、 二 〇 〇 八 年 ) (5) 木 村 朗 子 『 恋 す る 物 語 の ホ モ セ ク シ ュ ア リ テ ィ―
宮 廷 社 会 と 権 力 』 ( 青 土 社 、 二 〇 〇 八 年 ) (6) 木 村 朗 子 『 乳 房 は だ れ の も の か 』 ( 新 曜 社 、 二 〇 〇 九 年 ) (7) 田 中 貴 子 ( 『 日 本 フ ァ ザ コ ン 文 学 史 』 ( 紀 伊 国 屋 書 店 、 一 九 九 八 年 ) ) に よ る 用 語 ( 8 ) 辻 和 良 「 「 俗 / 聖 」 八 の 宮 」 ( 『 源 氏 物 語 宇 治 十 帖 の 企 て 』 お う ふ う 、 二 〇 〇 五 年 ) ( 9 )池 田 節 子 「 『 源 氏 物 語 』 の 母 覚 書
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「 母 」 の 呼 称―
」 ( 「 物 語 研 究 」 三 。 二 〇 〇 三 年 三 月 ) (10) 伊 藤 博 「 愛 執 の 薫 」 ( 『 源 氏 物 語 の 基 底 と 創 造 』 武 蔵 野 書 院 、 一 九 九 四 年 ) 、 三 枝 秀 彰 「 薫 試 論 」 ( 王 朝 物 語 研 (11) 究 会 編 『 研 究 講 座 源 氏 物 語 の 視 界 』 五 、 新 典 社 、 一 九 九 七 年 ) な ど 。 長 谷 川 政 春 「 女 源 氏 の 恋―
女 三 の 宮 」 ( 『 物 語 史 の 風 景 』 若 草 書 房 、 一 九 九 七 年 ) (12) 鈴 木 日 出 男 「 栄 華 と 憂 愁―
薫 論 」 ( 『 講 座 源 氏 物 語 の 世 界 』 八 、 有 斐 閣 、 一 九 八 三 年 ) 、 日 向 一 雅 「 柏 木 (13) ( 4 ) の 遺 文 」 ( 『 源 氏 物 語 の 王 権 と 流 離 』 新 典 社 、 一 九 八 九 年 ) 、 三 枝 秀 彰 「 罪 の 人 々 」 ( 王 朝 物 語 研 究 会 編 『 論 集 源 氏 物 語 と そ の 前 後 』 二 、 新 典 社 、 一 九 九 一 年 ) 、 山 田 利 博 「 負 性 を 帯 び た 主 人 公 と し て 」 ( 『 源 氏 物 語 の 構 造 研 究 』 新 典 社 、 二 〇 〇 四 年 ) な ど 多 数 。 東 原 伸 明 「 召 人 浮 舟 入 水 と 続 篇 の 主 題―
身 代 わ り の 〈 生 〉 の 反 復 と 離 脱―
」 ( 高 知 女 子 大 学 文 化 論 叢 八 、 (14) 二 〇 〇 六 年 三 月 ) 永 井 和 子 「 源 氏 物 語 の 老 人―
横 川 の 僧 都 の 母 尼 君―
」 ( 『 源 氏 物 語 と 老 い 』 笠 間 書 院 、 一 九 九 五 年 ) (15) 外 山 敦 子 「 「 八 十 あ ま り 」 の 小 野 の 母 尼―
『 源 氏 物 語 』 の 終 焉―
」 ( 『 源 氏 物 語 の 老 女 房 』 新 典 社 、 二 〇 〇 (16) 五 年 ) 〈 女 の 身 〉 の 分 類 に 際 し て は 、 「 老 女 」 の 存 在 も 本 来 考 慮 す べ き だ が 、 本 論 は 「 老 い 」 を 主 題 と し な い た め 、 (17) こ こ で は 分 類 か ら 除 外 す る 。 な お 「 老 女 」 に つ い て は 「 生 殖 の 期 限 と 能 力 を 喪 失 し 、 〈 女 〉 の ジ ェ ン ダ ー を 逸 脱 し た 存 在 」 と 定 義 し て お く 。出 産 諸 儀 に 関 わ る 民 族 史 、 お よ び 医 学 史 も 同 説 を 受 け 入 れ て い る 。 杉 立 義 一 『 お 産 の 歴 史 』 ( 集 英 社 新 書 、 二 (18) 〇 〇 二 年 ) 、 蔵 方 宏 昌 「 腹 帯 の 歴 史 」 ( 日 本 医 学 史 会 「 日 本 医 学 史 学 会 神 奈 川 地 方 会 だ よ り 」 一 九 九 五 年 四 月 ) な ど を 参 照 。 林 田 孝 和 「 贖 罪 の 女 君 」 ( 『 源 氏 物 語 の 発 想 』 桜 楓 社 、 一 九 八 〇 年 ) 、 日 向 一 雅 「 浮 舟 に つ い て の 覚 え 書 き ― 「 人 (19) 形 ( ひ と が た ) 」 の 方 法 と 主 題 的 意 味 ― 」 ( 「 日 本 文 学 」 三 〇 ‐ 七 、 一 九 八 一 年 七 月 ) 土 方 洋 一 「 喩 」 ( 「 國 文 學 」 五 八 八 、 學 燈 社 、 一 九 九 五 年 ) (20) 以 上