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フランスにおける初期「労働契約」論争の研究

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(1)論. 説. パテルナリストとコントラクチュアリスト. 論争のはじまり コルニル. ロッシ賞. 本. ユベルHヴァルル. 久. 洋. ﹁就業規則問題﹂から見たパテルナリスム. パテルナリスムの概念. パトロナージュからパテルナリスムヘ. ﹁社会問題﹂の淵源をめぐる争い. ﹁フランス革命﹂と﹁社会問題﹂. ソゼの﹁フランス産業立法史試論﹂. 三五七. 一. フランスにおける初期﹁労働契約﹂論争の研究. はじめに ﹁就業規則問題﹂. 一八 九 〇 年 代 か ら の ﹁ 社 会 問 題 ﹂. ﹁社会問題﹂とは何か. ω. 何が﹁問題﹂か. (1) (2). 一. 1. 働. 司法 に お け る ﹁ 就 業 規 則 問 題 ﹂. ﹁社会問題﹂の法的表象としての﹁就業規則問題﹂. ③. 立法 に お け る ﹁ 就 業 規 則 問 題 ﹂. 初期﹁労 働 契 約 ﹂ 論 争. ㈹. ω. 2 ﹁就業規則問題﹂とは何か. 二. フランスにおける初期﹁労働契約﹂論争の研究. 1 2 3. (3). (1) (2). (1) (2).

(2) 法律観の分裂. ω. コントラクチュアリスムの意義. コントラクチュアリストたち. コントラクチュアリストとは. 早法七一一巻 二 号 ︵ 一 九 九 七 ︶. ω. ⑥. ω おわりに. 法律観の転換. 4 法律による介入をめぐる争い. ω 5 労使関係の在り方をめぐる争い. はじめに. 三五八. 本稿は︑フランスにおける初期﹁労働契約﹂論争を分析するものである︒﹁初期﹂とは︑﹁労働契約﹂という契約. 類型の歴史的成立と同時期ということであって︑時代的には一九世紀末から二〇世紀初頭までの間を指す︒この時. 期︑就業規則法案の審議過程を背景にして﹁労働契約﹂という主題の下に法学者および経済学者の間で激烈な学際. 的論争が展開された︒本稿は︑この論争を分析することによって︑当時はじめて理論的反省の対象となった就業規. 則の何がどのように問題にされたのか︑その解決のためにどのような労使関係像が提起されたのかを明らかにする. ことを直接的な目的としている︒究極的には︑本稿は︑労使関係を規律する法制度の移行の論理を解明し﹁労働契 約﹂の歴史的成立をめぐる研究を一歩進めることもまた課題としている︒. 本稿には︑フランスにおける﹁労働契約﹂の歴史的成立をめぐる私のこれまでの研究成果を前提とする部分が少. なくない︒そこで︑はじめに本稿までの道筋の大略を示し︑なぜ初期﹁労働契約﹂論争に問題関心を抱くのかを明 確化する必要がある︒.

(3) ﹁労働契約﹂の歴史的成立という場合︑まず何を歴史的成立の指標とするのかが問題になるが︑本研究は︑労使. 関係に適用される法制度の構造変換ということに﹁労働契約﹂生成の指標を求めている︒労使関係をめぐる法制度. ︵1︶. の構造的な変化が当該法制度の適用対象画定基準を問題化し︑﹁労働契約﹂という契約類型を創出したと見るので ある︒. ﹁労働契約﹂以前において労使関係に適用された法制度は︑契約の自由︵労働の自由︶を前提としながらも︑自由. に締結された契約の履行における労働者の忠実と従属とを︑その限りで普通法の適用を除外して︑特別の諸措置に. よって確保するものであった︒本研究は︑こうした法制度を﹁ポリス﹂の法体制と呼んでいる︒労使関係について ︵2︶. は﹁ポリス﹂の法体制を特別に設けることによって︑国家は︑未だ自立に至らない使用者の権威に助力を与えてい たのである︒. ところが︑一九世紀の後半から末にかけて︑﹁ポリス﹂の法体制を構成する諸法律は︑すべて廃止され︑労使関. 係はいったんは普通法上の平面に載せられる︒同じ時期に︑破殿院は︑就業規則を契約の条項と分析し︑事実審判. 事による就業規則のコントロールを封じる判例を形成し確立する︒以上の事態は︑使用者の権威が﹁ポリス﹂の助. 力を必要としないまでに確立され︑その事実を判例が追認したことを表している︒背景には︑当該地域当該職業に ︵3︶. おける産業の秩序の判断者としての労働審判所の権威が失われ︑使用者が﹁自己の企業における唯一の判断者﹂と. しての権威を確立するという産業のかたちの変換があった︒ここが本稿までの到達地点である︒. 強大化した使用者の権威に対しては︑労働者の側からストライキというかたちで猛烈な異議申立がなされる︒一. 三五九. 九世紀末からの﹁社会問題﹂の時代の到来である︒本稿が対象とする初期﹁労働契約﹂論争は︑まさに﹁社会問 フランスにおける初期﹁労働契約﹂論争の研究.

(4) 早法七二巻二号︵一九九七︶. 三六〇. 題﹂への立法による対応としての就業規則法案の審議過程を意識しつつ︑新たな労使関係と法の在り方を追求して ︵4︶. 争われたものである︒現在の見地からは︑﹁ポリス﹂崩壊後に現れる新たな法体制は﹁社会法﹂の概念によって把. 握されるものであることが明らかになっている︒したがって︑初期﹁労働契約﹂論争の分析を通して︑﹁社会法﹂. へと労使関係を囲続する法制度が構造変換する移行の論理を把握することができれば︑本稿の究極の目的は果たさ れることになる︒. 本稿は︑この課題に向けて︑具体的には︑まず一九世紀末から二〇世紀初頭における﹁就業規則問題﹂とはいっ. たい何であったのかを明らかにし︵第一章︶︑初期﹁労働契約﹂論争を様々な角度から切り取って︑それぞれにつ. いて分析する︵第二章︶という作業を行う︒この作業の結果︑今後の課題として残された事項および新たに開拓さ. 労災補償に関する一八九八年四月九日の法律の適用対象画定基準として﹁法的従属性﹂概念が判例によって形成され︑労働契. れた問題群については︑おわりに総括を行う︒ ︵1︶. における労働契約概念について﹂法学雑誌二八巻一号︵一九八一︶二〇一頁以下および三井正信﹁フランスにおける労働契約概念. 約概念の形成を促したという史実がある︒一八九八年法を契機とした労働契約概念の形成過程については︑矢部恒夫﹁フランス法. 拙稿﹁フランスにおける﹃労働契約﹄の誕生・準備的諸考察﹂早稲田法学会誌四三巻︵一九九三︶参照︒. の形成とその展開・上﹂季刊労働法一四四号︵一九八七︶一八一頁以下参照︒ ︵2︶. ︵3︶ 拙稿﹁一九世紀フランスにおける就業規則−使用者の権威の確立過程﹂早稲田法学七〇巻三号︵一九九五︶参照︒. 牢き8虜国妻巴9卜廟躰蕊黛ミミ恥ミ. 9霧ω9お︒︒9エヴァルドについては︑今関源成﹁自由主義的合理性の変容と福祉国家の成立. ︵4︶ 一八九八年法︵前掲︵注1︶︶の立法過程の詳細な研究を踏まえ︑﹁社会法﹂概念を解明する極めて刺激的な業績として︑. 標準と正義﹂人文学報七六号︵一九九五︶参照︒. ーフランソワ・エヴァルド﹃福祉国家︵い.蜂葺蜜○く錠窪8︶﹄﹂大須賀明編﹃社会国家の憲法秩序﹄︵一九九五︑成文堂︶︑中山 竜一「.

(5) 一. ﹁就業規則問題﹂. 初期﹁労働契約﹂論争は︑当時の﹁社会問題﹂を背景に︑直接的には就業規則法案の審議過程を意識しながら︑. 新たな労使関係と法の在り方を求めて争われたものである︒ここでは︑初期﹁労働契約﹂論争の舞台を確認するた. めに︑まず一九世紀末からの﹁社会問題﹂とは何かを示し︵第1節︶︑﹁就業規則問題﹂を﹁社会問題﹂の法の世界. 1. 一入九〇年代からの﹁社会問題﹂. ﹁社会問題﹂とは何か. における共鳴現象と把握した上で︑司法レベルおよび立法レベルの﹁就業規則問題﹂を明らかにする︵第2節︶︒. ①. ︵5︶. 社会問題には︑労使関係に伴う常数としての社会問題と歴史現象としての﹁社会問題﹂2Φω江9ω○息巴①とが. ある︒ここで扱うのは︑後者であって︑フランスにおける一九世紀末からの﹁社会問題﹂である︒. ジャン・マリ・メイヤルは︑︸八九〇年代からの﹁社会問題﹂の特質を︑社会問題が政治上の第一課題として浮. 上してきたことに求めている︒一八七一年のパリ・コミューンでさえも動じなかったブルジョワが︑一八九〇年代 ︵6︶ の﹁社会問題﹂で初めて動揺するというのである︒この﹁社会間題﹂を準備したのは︑相対的に安定した構造を維 ︵7︶. 持してきた一九世紀フランス社会を根底から揺るがした一八八○ー九〇年の大不況である︒社会構造の変容を反映. 三六一. して︑社会運動も未曾有の規模に発展する︒実際︑﹁フランスの現代史を通して︑労働者の動員の強度が最も強烈 フランスにおける初期﹁労働契約﹂論争の研究.

(6) 早法七一一巻 二 号 ︵ 一 九 九 七 ︶. 何が﹁問題﹂か. 三六二. ︵8︶ であり︑当時の指導者階級を深い混乱に陥れたのが︑一八九〇年から一九一〇年にかけての二十年間なのである︒﹂. ③. ﹁社会問題﹂を個別的な現象面で代表するのがストライキである︒ストライキは︑二つの意味で﹁問題﹂である︒. すなわち︑ストライキは︑第一に︑企業における労働者の統治の失敗を︑第二に︑国家にとっては治安の不安定化 を表す︒. 当時のストライキは︑後代のストライキと比べると︑著しい特徴を有している︒この時期のストライキには︑賃. 金・労働時間等の狭義の労働条件をめぐる利益紛争としての性格よりも︑職場規律そのものを問題にする労働過程. 闘争としての性格が比較的に強いのである︒ミシェル・ペロによると︑一八七〇ー九〇年において﹁労働の組織お ︵9︶. ︵10︶. よび工場の規律﹂に関する要求を掲げるストライキは︑賃金に関する要求︵六六・六%︶に次いで︑一一・九%を. 占める︒また︑福原宏幸の一連の研究は︑一八九九年から一九一四年までのルノーの大争議が労働過程闘争から賃 金・労働時間闘争へと性格変化していくことを実証している︒. この時代のストライキは︑また︑それまで平穏な労使関係を維持してきた地方の大工場において同時多発的に勃. 発した点において画期的であった︒当時︑地方の大工場において行われた労務管理諸施策は︑﹁パテルナリスム﹂. 冨9旨鋤房日oと呼ばれる︒パテルナリスムについては後に詳しく検討するが︵第二章第2節︶︑その特質は︑労働 ︵11︶. 者住宅︑託児所︑従業員購買店︑職業教育学校︑貯蓄金庫︑疾病保険等からなる包括的な福利厚生活動に基づき︑. ﹁工場/都市﹂という用語を生むほどに大規模かつ徹底的な労働者政策を行うところにある︒パテルナリスムの名. 称は︑そのイデオロギーが労使関係を﹁父子関係﹂と構成することから来ている︵父たる雇主は︑自己に忠実な子た.

(7) る労働者に仕事を与え︑教え︑その安全を配慮する︶︒パテルナリスムの﹁工場/都市﹂におけるストライキは︑この. 伝統主義的な価値秩序を内側から食い破って生まれ出たという意味で︑まさに画期的なのである︒. ﹁社会問題﹂期のストライキが狭義の労働条件よりも労働過程そのものを問題にする性格が比較的に強かったこ. と︑および当時最も大規模かつ徹底的な労務管理諸施策を行っていたパテルナリスムの大工場においてストライキ. が籏生したことは︑労働市場の機能不全による需給の不均衡ということ以上に︑企業における労働者に対する統治. ︵12︶. の危機を表している︒言い換えると︑雇主の権威の正統性について労働者の側から重大な異議申立がなされてい る︒. ︵13︶. ストライキの籏生は︑最左翼の尖端にテロリスムの嵐︵一八九二−四年︶を生み︑最右翼に一八九三年総選挙か. らの議会内社会主義の伸張をもたらした﹁社会問題﹂の一角である︒前述のように政治上の第一課題として社会問. 題が表れるということは︑国家レベルの統治が脅かされているということである︒それまでの国家介入の在り方で. は︑﹁社会問題﹂に対処することができず︑他面︑新たな国家介入を基礎づける正統化根拠を未だ獲得できていな. いというところに︑国家の危機がある︵後述︑第二章第4節︶︒数多くの就業規則法案が提出され長期にわたって審 議されたのは︑こうした状況においてである︒. 三六三. ミ無導. 以上のようにして︑一八九〇年代からの﹁社会問題﹂は︑企業および国家における統治の失敗すなわち支配の正. 統性の危機を表している︒﹁就業規則問題﹂は︑これら二つの危機が交錯する点に位置する︒. 舅餌図費ρ一8伊. ︵5︶ 中世から現代に至る﹁労使関係の年代記﹂を﹁社会問題の変遷﹂として描く最近の業績として︑菊○び①昌O霧什9卜携. フランスにおける初期﹁労働契約﹂論争の研究. §o愚ぎ寵の魯闘Qミの織o§89匙鮮qミらミo蕊心ミ織ミ裟騨註§.

(8) 早法七二巻二号︵一九九七︶. 一8昌寓鼠Φ寓2Φ葦卜8薮辱ミ砺魯避ミ︒肉愚ミミミ奔ko・NN−NoQ鴇oo一密︒身ω︒巨口︒刈ωも﹂︒ω●. 竪辻こ℃︒ooω・. 三六四. O伽嬉こ乞○ぼ9卜携ミミ賊鳴誘§義騨︒り象敬蔵︾貸ミ&︒り魯舅Q−図図恥G︒酌貸魯国F血二ω①乱一口Oo︒9℃ワo︒ω9ω. 109876 き義 もPNO蒔Φ叶ω︐. 竃昌Φ貰堕魯 § . ︵ 8 8 ① ︶ も ︐ 一 ︒ ︒ ︒ ︒. ︵14︶. 遠藤輝明﹁資本主義の発展と﹃工場/都市﹄ール・タルーゾにおける﹃工場の規律﹄と労使関係﹂同編﹃地域と国家ーフ. ︵13︶. は︑カイユら同時代人にとってどのような意味をもつものだったのか︒. のレベル︵司法︑立法︑学説︶での討論状況を指すものとする︒では︑このような事項を含む﹁就業規則問題﹂と. において﹁就業規則問題﹂とは︑フランスにおける一九世紀末から二〇世紀初頭にかけての就業規則をめぐる種々. 論争︑破殿院の就業規則法理および就業規則法案の審議過程を整理している︒この同時代人の見方に従って︑本稿. エデュアル・カイユは︑﹁フランスにおける就業規則問題﹂︵一九〇一年︶という論文のなかで当時の﹁労働契約﹂. ① ﹁社会問題﹂の法的表象としての﹁就業規則問題﹂. 2 ﹁就業規則問題﹂とは何か. ︵12︶. ランス・ レジョナリスムの研究﹄︵一九九二︑日本経済評論社︶参照︒. ︵11︶. 1労使関係の成立過程⑥﹂ 経済学雑誌九三巻二号︵一九九二︶.. 闘争ー労使関係の成立過程③﹂経済経営論集二九巻三号︵一九八九︶︑同﹁ルノー工場の科学的管理法導入と企業内労使関係−. ︵一九八七︶︑同﹁形成期フランス自動車工業の時短 ス自動車工業の労働争議−労使関係の成立過程ω﹂季刊経済研究九巻四号. 福原宏幸﹁形成期フランス自動車工業の危機とルノi社の対応﹂経済学雑誌八六巻四・五号︵一九八五︶︑同﹁形成期フラン. 墨魯①一一①勺①畦o戸簿︒う︒ミ誉義§讐轡舞肉ミ§恥kQo謎−ko︒ε矯寓o暮Op一︒鐸け﹂も℃■ま︒−まH. 』.

(9) カイユは︑右の論文において︑雇主の権威に歯止めがないことがストライキおよび訴訟の原因であるとして︑ ︵15︶. ﹁社会問題﹂の淵源は就業規則にあり︑労使紛争は﹁就業規則問題﹂を解決することによって予防されると言い切. っている︒﹁社会問題﹂期のストライキの特質は使用者の権威そのものを問題にする労働過程闘争の性格が比較的. に強いことにあることは前に述べたが︑同時代人もまた︑このような認識を有している︒初期﹁労働契約﹂論争の. 当事者であるアンリ・デロワHデュHルルは︑﹃就業規則と労働契約ー工場における権威﹄︵一九一〇年︶という ︵16︶. 博士論文のなかで︑問題を次のように要約している︒﹁かくして︑﹃社会問題﹄または﹃労働問題﹄と呼ばれるもの は︑つまるところ︑権威の問題なのである︒﹂. ﹁就業規則問題﹂の当事者たちは︑このように﹁社会問題﹂の解決を究極の目的として設定し︑その淵源は使用. 者の権威にあると把握した上で︑就業規則の法規制という問題解決の方法をめぐって議論を立てている︒﹁就業規. 則問題﹂とは︑﹁社会問題﹂の法的表象なのである︒初期﹁労働契約﹂論争の究極的な目標が﹁社会問題﹂の法的. 解決にあるということは︑この論争を読み解く上で重要なポイントである︒というのは︑初期﹁労働契約﹂論争. は︑ある確立された体系から問題を考えるというよりも︑常に﹁社会問題﹂の法的解決という原点に立ち返って考. えるという思考方法によって貫かれており︑その思考方法が問題設定の徹底性と対象事項の学際的な広がりとをも たらしているからである︒. 初期﹁労働契約﹂論争は︑就業規則の法規制を討論するにあたって︑直接的には︑当時の就業規則に関する司法. 三六五. 判断および就業規則法案をめぐる審議過程に影響を及ぼすことを目的としている︒論争が深まらざるをえなかった のは︑判例も種々の法案もともに問題の解決から程遠いものであったことによる︒ フランスにおける初期﹁労働契約﹂論争の研究.

(10) ③. 早法七二巻二号︵一九九七︶. 司法における﹁就業規則問題﹂ ︵17︶. 三六六. 就業規則の法的問題化は︑一八六六年の破殿院の諸判決にはじまる︒一九世紀における就業規則判例の分析は前 稿の課題であったので︑ここでは結論のみを示す︒. 一九世紀後半から末にかけて確立した破殿院判例は︑就業規則を契約の条項と分析し︑﹁工場の最も判りやすい. 場所﹂への掲示を条件に︑就業規則に対する労働者の黙示の同意を推定するものである︒この考え方は︑労働審判. 所による就業規則に対するコントロール活動を封じ込める結果をもたらすことになった︒当時︑労働審判所は︑自. ら収集し判例というかたちで認定してきた所轄の地域におけるそれぞれの職業の慣行に基づき労使紛争の処理を行. っていた︒就業規則については︑労働審判所への登録または認可を義務づけ︑慣行または当該労働審判所の判例に. 反する就業規則には変更命令を発し︑従わない場合は当該就業規則を裁判において証拠として認めないというの. が︑何の法的根拠もないにもかかわらず︑当時の労働審判所の実務だったのである︒こうした実務は︑就業規則を. 契約の条項とみる破殿院からは︑合意の﹁適用拒絶﹂または契約条項の﹁変性﹂にほかならず︑就業規則にコント. ロールを及ぼした労働審判所の判決が︑意思自律原則に基づいて︑ことごとく破鍛されるという事態が出来した︒. この労働審判所と破致院との対立は︑破殿院判例の確立にもかかわらず︑労働審判所の活動が実際上の必要に根ざ. したものであっただけに︑二〇世紀初頭まで尾を引くことになる︒ ︵18︶ 就業規則に関する破殿院の裁判例において問題となった具体的な就業規則の条項を分類すると次のようになる︒. 第一に︑慣行︵主に解雇予告期間︶の就業規則による破棄︑第二に︑労働者の行動を綿密詳細に規制する禁止規定︑. 第三に︑罰金︑退職年金金庫および現物支給を名目とする賃金控除である︒.

(11) 右の条項が争いの対象となったことは︑パテルナリスムの法的問題化として整理できる︒第一の慣行の破棄問題. は︑パテルナリスムの産業秩序が地域あるいは職業を単位とするものではなく︑個別企業を中心とするものである ︵19︶ ことと関係がある︒第二の詳細な禁止規定の問題は︑その慣行と切れた個別企業の内部秩序の理想型を示す︒理想. 型というのは︑地域ないし職業の慣行との切断を達成した上で︑禁止規定を厳格に適用しないことによって温情を. 示すというところにパテルナリスムのパテルナリスムたるゆえんがあるからである︒第三の賃金控除問題は︑罰金. 問題において第二の問題と関連するが︑パテルナリスムの問題性を集約して表している︒パテルナリスムの福利厚. 生施設の巨大さについては前述したが︑住宅にせよ︑従業員購買店におけるチケットにせよ︑退職年金金庫への拠. 出金にせよ︑いずれも賃金控除というかたちをとる︒パテルナリスムは︑他面︑なるべく賃金を全額通貨で支払わ. ないようにしようとする体系であるのである︒この体系が不況期に直面した場合に︑最悪の抑圧の制度に転化する. ことは言うまでもない︒前述の一八八Ol九〇年の大不況を背景とする初期ストライキにおける就業規則紛争の中. 心性が示すように︑種々の名目の賃金控除によって人件費を削減し︑住宅の剥奪を弾圧の手段として用いることこ. そ︑就業規則の法的問題化の社会的背景であった︒この時期のパテルナリスムについては︑後で詳しく検討する ︵第二章第2節︶︒. 以上のような司法における﹁就業規則問題﹂の解決の方向としては︑労働審判所による就業規則コントロールの. 実務に何らかの形で法的保護を及ぼす行き方と間題となった就業規則の個々の条項について個別的に法的規制を及. ぼす行き方とがある︒前者の方向性については︑さらに︑上訴制限等によって労働審判所の権威を保護する司法制. 三六七. 度改革による方法と労働審判所による就業規則コントロールの実務にそのまま法的根拠を付与するという方法とが フランスにおける初期﹁労働契約﹂論争の研究.

(12) 早法七二巻二号︵一九九七︶. 三六八. ︵20︶ ある︒司法制度改革については︑前稿において検討した通り︑上訴制限等とは別の方向に進んでいく︒本稿で扱う. のは︑労働審判所の実務にそのまま法的根拠を付与しようとする行き方である︒. 就業規則をめぐる労働審判所と破致院との争いは︑労使関係をめぐる現行の法体制の限界を表す点で︑まさに. ﹁間題﹂を構成している︒労働審判所の活動は︑結果的妥当性の点で評価できるが︑法的根拠を欠く︒破致院のコ. ︵21︶. ントロールは︑意思自律原則によって︑結果的に使用者の権威の無条件的肯定をもたらす︒ここに立法の介入が要 請される︒. ⑬ 立法における﹁就業規則問題﹂. ﹁社会問題﹂期における就業規則法案の審議過程は︑一八九〇年五月二九日に提出された社会主義者フェルルの. 法律案にはじまる︒この法律案を起点として︑一八九〇年から一九〇九年の間︑種々の法律案が提出され︑両院問. の行ったり来たりを繰り返しながら︑結果的に成立したのは一九〇九年一二月七H八日の賃金の支払いに関する法. 律であり︑フェルル法案は跡形もなくなってしまう︒就業規則法案の審議過程は︑このように長期にわたるもので. あるが︑討論の流れは︑①フェルル法案←②下院委員会におけるフェルル法案の検討←下院委員会報告・下院委員. 会案←審議←下院案←③元老院委員会における下院案の検討←元老院委員会報告・元老院委員会案←審議←元老院. ︵22︶. 案という最初の一回転において︑基本的には決着がつく︒そこで︑以下では︑この両院間の行ったり来たりのはじ めの一回りのみを検討する︒. ① フェルル法案. 社会主義者フェルルが下院に上程した就業規則法案︵一八九〇年五月二九日︶は︑法案提出理由書の激烈な内容.

(13) と相侯って︑立法および学説に大きな波紋を投げかけた︒. フェルルは︑法案提出理由書において︑当時の企業における就業規則の実務を﹁資本主義的封建制﹂と名付けて. 批判している︒雇主は︑就業規則を一方的に作成して罪刑を定め︑自ら裁判し︑賃金控除というかたちで罰金を徴. 収する︒これは︑かつて封建領主が自己の領地で法律を定め︑かつ︑裁判を行っていたのと同じではないかという. のである︒一七八九年の革命が領主裁判所を廃止したのと同様に︑現代における﹁雇主裁判所﹂を廃止しなくては. らないというのがフェルルの主張である︒このように﹁社会問題﹂にフランス革命の帰結ではなく未了を見いだす. 言説のイデオロギi分析は後に行う︵第二章第3節︶︒ここで注目するのは︑フェルルが使用者による就業規則の一. 方的作成ということそれ自体を問題にしていることである︒. フェルル法案は︑罰金の一般的禁止と独自の﹁労働委員会﹂による就業規則のコントロール制度からなる︒すな. わち︑i違約金︵第一条︶および罰金︵第二条︶はともに禁止される︒・11すべての産業の中心地には労使同数構成. の﹁労働委貝会﹂が設立され︵第三条︶︑この労働委員会による当事者たる労使双方への諮問および審尋からなる. 審査を経なければ︑就業規則は成立しない︵第五条︶︒労働委員会には就業規則改訂権限が付与される︵第四条︶︒ 撮この法律に対する違反には刑事制裁︵罰金︶が科される︵第六条︶︒. 右の規定内容について︑まず︑就業規則に関わりなく違約金および罰金をそれ自体として禁止している点に注意. が必要である︒次に︑労働委員会による就業規則のコントロール制度は︑基本的には︑これまでの労働審判所の実. 務を︑労働委員会という独自の制度に置き換えたものと評価できる︒しかし︑就業規則の成立について労働委員会. 三六九. の審査を条件としたことは︑後述の下院委員会報告のように︑労働委員会を就業規則の作成主体にするものと受け フランスにおける初期﹁労働契約﹂論争の研究.

(14) 早法七二巻二号︵一九九七︶. 取られ︑激しい反棲を招いた︒. ② 下院案. ︵24︶. 三七〇. フェルル法案は下院委員会に移送される︒サンロロムによる下院委員会の報告および法律案︵一八九二年七月 ︵23︶. 六日︶を受けた審議の結果︑下院は以下のような法律案を可決する︵一八九二年二月一〇日︶︒. 下院案は︑就業規則における賃金控除の定めの禁止︑労働審判所による就業規則のコントロール制度および就業. 規則の個別的条項の規制からなる︒すなわち︑i﹁罰金その他いかなる名義においても︑賃金控除を定める就業規. 則の条項はすべて絶対的に禁止される﹂︵第二条︶︒但し︑﹁仕事の不手際または材料の欠損といった不完全な労働. あるいは雇主に損害を与えるその他すべての事由による賃金控除は︑罰金とはみなされないが︑損害賠償として︑. 紛争の際には労働審判所に︑それがない場合は治安判事に付託される﹂︵第三条︶︒・11就業規則の作成は任意である. が︵第一条︶︑就業規則の作成および変更は労働審判所︵ない場合は治安判事︶の認可を受けなくてはならない︒就. 業規則は︑認可を得た後は︑雇主および労働者を拘束する︵第四条第一項︶︒就業規則は︑大きな文字で印刷し︑工. 場内のよく見える場所に掲示されなくてはならなず︵同条第二項︶︑掲示の一カ月後でなければ認可は確定しない. ︵同条第三項︶︒⁝m期間の定めのない契約の場合︑解約予告期間は︑当該地域の慣行に従うものとするが︑一週間を. 下回ってはならない︒︵第五条︶︒.q雇主は︑少なくとも二週間毎に︵就業規則に定めがない場合は一週間毎に︶︑通貨. で︑製作所または作業場において︑労働者に対し賃金を支払わなければならない︵第六条第一項︶︒賃金控除は︑労. 働者と雇主との問の書面による合意によるほかは禁止される︒但し︑本法第三条の定める場合を除く︵同条第四 項︶︒vこの法律の違反には刑事制裁︵罰金︶が科される︵第八条﹀︒.

(15) 右の規定内容について検討すると︑第一に︑この法律案が違約金および罰金をどのように規制しようとしている. のかが問題になる︒まず︑違約金については︑就業規則に定めを置くことは許されない︵第二条︶が︑個別の﹁書. 面による合意﹂がなくても︑違約金の賃金控除そのものは禁止されない︵第三条および第六条第四項但書︶︒次に︑. 罰金についてもまた就業規則に定めを置くことは許されない︵第二条︶が︑個別の﹁書面による合意﹂があれば︑. 罰金の禁止は適用されない︵第六条第四項︶︒このように︑違約金および罰金の規制において︑下院案は︑フェルル ︵25︶. 法案からは明らかに後退している︒しかし︑審議のたたき台となった下院委員会案では罰金の禁止ではなく罰金額. の制限が提案されていたこと︑および罰金は就業規則における労働規律に関する詳細な禁則と一体となってこそ意. 味があることを考えると︑就業規則における罰金規定の禁止は妥協の産物としてはかなり労働者側に傾いていると いえる︒. 第二に︑労働審判所による就業規則のコントロール制度については︑労働審判所の実務にそのまま法的根拠を付. 与することを企図するものと評価できる︒この部分については︑下院案と下院委員会案との間に変更はない︒下院. 委員会報告は︑フェルル法案を労使同数構成の労働委員会を就業規則の作成主体とするものと評価し︑それに反対. している︒雇主こそが︑工場を提供し︑工場の適正な運営と安全を確保する責任を負うのであるから︑就業規則を. 作成するのは雇主であるというのである︒また︑同報告は︑就業規則の労働審判所による認可制を︑使用者の自由. ︵就業規則を作成するのは使用者︶と使用者の責任︵法律に違背する就業規則は労働審判所の認可を受けることができな. い︶とを両立させるものと自己評価している︒労働審判所による就業規則の認可制が下院において可決されたとい. 三七一. う出来事は︑歴史上特筆すべきであろう︒この出来事は︑﹁社会問題﹂の強度を表すものであるとともに︑フェル フランスにおける初期﹁労働契約﹂論争の研究.

(16) 早法七二巻二号︵一九九七︶. 三七二. ︵26︶ ル法案に対する雇主階級の反応が︑規定内容よりもイデオロギーに対するものであったことを物語っている︒. 第三に︑解約予告期間︵第五条︶および賃金支払い︵第六条︶の規制は︑前述の裁判例において問題となった就. 業規則条項の内容に対応している︒就業規則法の名目で︑問題となっている就業規則の個々の条項について個別的. に法的規制を及ぼそうとしているのである︒また︑ここでは罰金の場合とは違って就業規則の定めのみを規制する. ものではない︒解約予告期間は労使双方に適用される︒パテルナリスムがなるべく賃金を全額通貨で支払わないよ. うにする体系であることは前述の通りであるが︑通貨払いの強制および賃金控除の原則的禁止は︑この意味で︑パ テルナリスムの労務施策の中心的部分に介入するものである︒. 以上︑下院案は︑当時間題となっていた就業規則条項について個々的に規制を加えるとともに︑労働審判所の就. 業規則コントロールの実務にそのまま法的根拠を付与するというものであって︑司法における﹁就業規則問題﹂の. 元老院案. 直裁な解決を企図するものと評価できる︒. ③ ︵27︶. ︵28︶. ︵29︶. 下院案はハ元老院へと移送される︒マキシム・ルコントの二次にわたる元老院委員会報告および法律案︵一八九. 三年七月二〇日︑一入九四年三月一七日︶を受けての審議の結果︑以下のような元老院案︵一八九四年四月二七日︶が 可決される︒. 元老院案は︑これまで検討してきた法律案がいずれも﹁就業規則に関する﹂法律案であったのに対して︑﹁賃金. の支払いに関する﹂法律案と名称が変更されたことに表れているように︑賃金の支払い方法の規制に特化した規定. 内容となっている︒但し︑この段階においては︑まだ就業規則規制との関係は絶たれていない︒内容は次のような.

(17) ものである︒i賃金は︑通貨で支払われなければならない︒反対の約定はすべて無効である︵第一条︶︒・11賃金は︑. 一六aを超えない間隔で月二回以上支払われなければならない︒反対の書面による合意がある場合はこの限りでは. ないρ︵第二条︶︒血賃金は︑工場または工場の事務所のひとつで支払われなければならない︒︵第三条︶︒.W就業規. 則において﹁罰金その他の名義で﹂賃金控除を定め︑労働審判所︵ない場合は治安判事︶へ少なくとも一カ月前に. その就業規則が登録されている場合において︑一日の控除額がその日の賃金の四分の一を超えない場合に限り︑賃. 金控除は許される︵第三条第一項y︒賃金控除による収入は︑直接的に労働者の利益となる場合にのみ︑とくに当該. 工場の労働者のための救済金庫および共済金庫へ支払われる場合に︑許される︵同条第二項︶︒但し︑仕事の不手際. その他を理由として賃金控除を行い︑雇主に生じた損害を補償することに対しては︑本条は適用されない︵同条第 三項︶︒. まず︑元老院案において︑法律案の名称変更が示すように︑労働審判所による就業規則の認可制が削除され︑就 ︵30︶. 業規則に対する包括的なコントロール構想が放棄された点を検討する必要がある︒これについては︑前掲の元老院. 委員会報告が参考になる︒一八九四年の元老院委員会報告には︑下院案に関する商工会議所および労働審判所の答. 申が整理されているが︑そこでは当然のことながら下院案に否定的な意見に多くの紙幅が割かれている︒商工会議. 所の意見としては︑就業規則の認可制は﹁契約の自由﹂に反すること︑および個別の産業に適合的な内部制度を最. もよく知っているのは雇主であるから︑契約の自由が最上の方法であること等が挙げられている︒労働審判所の意. 見としては︑就業規則の認可は︑どのような意味で裁判官を拘束するのかという指摘が引用されている︒これらの. 三七三. 論拠は︑保守的な元老院において摘記されたものではあるものの︑下院案の本質的欠陥を鋭くつくものである︒下 フランスにおける初期﹁労働契約﹂論争の研究.

(18) 早法七二巻二号︵一九九七︶. 三七四. 院案は︑ストライキおよび裁判において問題となっていた就業規則条項について個々的に規制を加えるとともに︑. 破毅院との関係で間題化していた労働審判所の就業規則コントロールの実務にそのまま法的根拠を付与するという. ものであり︑彌縫的であって体系性を欠いている︒下院案における労働審判所による就業規則の認可制は︑第一. に︑私的自治との衝突︑第二に︑裁判官の審査の自由との抵触という重要な問題に関する十分な理論的反省に基づ くものではなく︑したがって元老院の審査に耐えうるものではなかったのである︒. 同様の理論的問題は︑罰金規制についても指摘できる︒前掲の一八九四年の元老院委員会報告によると︑商工会. 議所は︑罰金の禁止には反対だが︑規制には賛成している︒すなわち︑罰金という﹁軽い処分﹂が禁止されると︑. 戒告という不十分な手段と出勤停止または解雇という重い処分しか雇主には許されない︒戒告では労働の規律が維. 持できず︑他方︑出勤停止または解雇によると処分を受けた日について賃金の一部どころか全部が失われてしま. う︒結局︑罰金の禁止は労働者に不利に働くというのである︒商工会議所は︑さらに︑現実における罰金の濫用を. 認め︑罰金額の制限および罰金を搾取の手段とすることの禁止を提案している︒この論拠には︑誰弁と紙一重のと. ころで︑労働契約関係の継続的性格に注目しての懲戒処分の規範的根拠に関する実務家の洞察が表れている︒下院 案における対症療法的な罰金禁止は︑右の批判に耐えうるものではなかったのである︒. つぎに︑元老院案の規定内容を検討すると︑賃金支払い方法の規制については︑下院案と比べると︑通貨払い︑. 支払期日の間隔︑支払い場所および全額払い︵賃金控除︶の規制そのものは維持されている︒元老院案の特質は︑. その﹁賃金の支払いに関する﹂法律案という名称に関わらず︑就業規則規制と結びついた罰金規制にある︒罰金が. 許されるためには︑i就業規則に罰金を定めること︑鉱その就業規則を事業場内に掲示すること︑⁝m罰金を実行す.

(19) る少なくとも一ヵ月前にその就業規則を労働審判所︵ない場合は治安判事︶に登録すること︑.皿一日の控除額がそ. の日の賃金の四分の一を超えないことの四要件を満たさなくてはならない︒罰金は︑﹁就業規則問題﹂の中心であ. る︒この意味で︑元老院案は︑その規定内容においては依然として就業規則規制の姿勢を維持しているのである︒ 最後に︑元老院案では︑刑事制裁が採られていない点に注意が必要である︒. 以上のようにして︑元老院案は︑﹁賃金の支払いに関する﹂法律案という名称に表れているように︑就業規則に. 関する包括的なコントロールという構想を廃棄し︑就業規則をめぐる個別的問題を個別的に規制するという行き方. ︵31︶. を採用した︒しかし︑規定内容そのものを見ると︑罰金︵賃金控除︶規制を維持しており︑就業規則規制の性格を 多分に残すものであったと評価できる︒. ④工員および職員の賃金の支払いに関する一九〇九年一二月七目八日の法律. 元老院案によって﹁就業規則に関する﹂法律案から﹁賃金の支払いに関する﹂法律案へと転轍した就業規則法案. の審議は︑その後︑両院間の行ったり来たりを繰り返し︑さらに数度の審議延長の末に︑﹁工員および職員の賃金 の支払いに関する﹂法律として﹁結実﹂する︒. この法律の規定内容は︑元老院案から賃金控除︵罰金︶の規制という就業規則規制の残澤を払拭したものという. ことができる︒すなわち︑本法は︑賃金の通貨払い︵第一条︶︑賃金支払期日の間隔の規制︵第二条︒﹁工員﹂. 豊貫醇は月二回以上︑﹁職員﹂Φ旨覚○冷は月一回以上︶︑賃金支払場所の規制︵第三条︶からなる︒罰則については︑. 刑事制裁が定められる︵第四条第三項︶とともに︑﹁商工業において︑労働監督官は︑司法警察とともに︑本法の履. 三七五. 行を確保する責務を負う﹂︵同条第一項︶との規定が設けられている︒このように︑本法は︑﹁賃金の支払いに関す フランスにおける初期﹁労働契約﹂論争の研究.

(20) 早法七二巻二号︵一九九七︶. る﹂法律にふさわしい内容となっている︒. 三七六. この法律は︑賃金法のはじまりとしては重要な意義をもっている︒しかし︑一八九〇年から一九〇九年にわたっ. て︑学説の注目を集め︑初期﹁労働契約﹂論争を牽引してきた就業規則法案の審議過程の成果に︑就業規則法とし. ての性格が微塵も見られないのは︑歴史上注目すべき出来事である︒なぜ︑この時期において︑立法による就業規. 則の包括的規制の試みは失敗したのだろうか︒一言でいうと︑フェルル法案にしても︑下院案にしても︑問題化し. ている労使関係と法に代わる新たな労使関係と法の在り方を︑提示できなかったからである︒特に︑下院案のよう. に︑司法における﹁就業規則問題﹂を対症療法的に一挙に解決しようとすることは︑火に油を注ぐことにはなって. も︑決しても間題の解決にはならない︒前述のように︑﹁社会問題﹂が表しているのは︑企業および国家の統治の. 危機である︒従前の労使関係の在り方および労使関係に対する国家介入の在り方を変えなくては︑﹁就業規則間題﹂. は解決されない︒立法が採用した行き方は︑賃金の支払いに関する一九〇九年一二月七H八日の法律のように︑就. 業規則における個別的な条項について個別的に対処していくというものであった︒立法は︑その後︑この法律の通. ︵32︶. 貨払いの原則を補完するかたちで︑従業員購買店︵980B琶を廃止する法律を制定する︵一九一〇年三月二五日. の法律︶︒立法は︑パテルナリスムの労務諸施策を構成する個々の制度について︑個々的に規制を加えていく道を. 選んだのである︒他方︑立法や司法よりも相対的に自由な言説空間で争う学説は︑これまで検討してきた立法およ. 讐Φ一一R窪問箪糞Φ︾︶肉ミミ鳴駄︑魯oミoミ暗辱ミ魯避ミ狙8一も層o︒OO60斜も℃︒OO︒㎝. び司法における討論状況に刺激を受けながら︑より本格的な議論を展開することになる︒. 山OOO︒. ︵廻︶ 国α○仁鋤aO巴=窪〆︽びΩρg①ω鼠oβ留ω詰範ΦB①簿ωα.

(21) 15 16 17 18. き幾. 戸o︒8︒. 拙稿・前掲︵注3︶二二〇頁以下参照︒. ζΦ罫8一︸︽>o岳9. ︒9. 冨霞8巴ρ. 霞窪蔓UΦ曽・誘3幻・霞ρ卜就ミミ譲駄§︒うN§§ミ簿憶壁§鳴ミ駄ミ§ミ鳴ミミ︒ミミ妹魯ミミきけげら蝕ρ一︒一︒も●一︒︒. 一九世紀における就業規則の文言の示す企業秩序の理想型を整理した業績として︑︾一びR8. 同右論文二二二頁参照︒. ︵20︶. 拙稿・前 掲 ︵ 注 3 ︶ 二 五 九 頁 以 下 参 照 ︒. 魯ミ・︵8け巴 y. 就業規則法案の審議過程を分析した先行業績には以下のものがある︒同時代人の分析として︑=窪ユい毘ρ卜貸Oミ駐§魯の. Zき昌し88薯μ︒㌣に9現代の分析として︑冒き−男き一. 冒ミ§N◎笥蔦象一㎝餌○⇔=・︒︒ρ9蝉ヨぼρUo8ヨΦ簿ω評円一Φヨ①導巴おρ︾臣Φ図ΦZ︒㎝︒一もp︒︒ぎ9ω︐. 山①9&①ヨ釦卜︑︒ミミ魁避黛&ミ織§︐≧霧の§R職︾壕ミ跨魯奪爵愚鳶ミ飛暴帖ミ博U二8鼻お・︒Pも巳︒︒−一一8. ︒叩3合の8旙霧Uo一蒔づざト鳴s膏やミ鳴ミ魯暴ミ&き爵 づ℃︒80−8♪薯bo. 壁§恥ミω織蕊ミミ訴げも畳ρ一︒︒舎づロ︒①−目る裟︒鴇含勾・二β魯ミ.︵8け巴︒︶もpま−一8る毘一①員. ︵21︶. 08<・F・鑛き一ω蝕8︐窓笹Φヨ①暮ω山︑琶需①訂8R2Φα巴鋤ヨ卑甲α︑8二く器磐︶︿園①ω一豊Φ︾k鳴ミ︒ミ§鴨ミ⇔ミミも︒︒8一︒刈①︒. 19 独. 22 23 24 25. 一八九二年七月六日下院委員会案﹁第二条 就業規則が罰金を定める場合︑罰金として徴収された額は︑労働者の利益のため. S9る一念o一︒︒︒ρω曾鈴U8 評鼻>§Φ図Φ2︒一〇もP㎝︒一①酢ω︒. 三七七. >口︒一ρHくも℃●一ミ9ψ. /罰金の額は︑その日の賃金額の五分の一を超えてはならない︒﹂99︸o§§・﹇88器Hワ一認ε. とくに労働者の任命した委員会によって運営され当該工場の労働者に適用される救済金庫または共済金庫へと支払われるもの. ミ︐︵89No︒ン署●一〇〇①けψ. フランスに お け る 初 期 ﹁ 労 働 契 約 ﹂ 論 争 の 研 究. い○乙仁?︒︒激ρ一8︒ω広二Φ℃昌ヨ①旨α①ωω巴鉱おω山Φωo毫譜参g①ヨ巳○冷ρb. S9顯愚. S9る㎝薯﹃﹂o︒O倉ω9こ営①図けこ℃戸鴇㎝9ω●. S9るOヨ巴一〇︒O倉︐ω9 ∪○ρ勺巽一 ︾⇒希図ΦZ︒①ρO唱﹂OO9ω︐. S9口︒︒餌<﹃﹂o ︒︒倉ωひpuOo●評葺︾§Φ蓉Z︒︒︒︒恥もP①一①け9. 留○鋤&①ヨ霞︸息9§●︵8け①曽︶も﹂一ト. とする︒. _. S9﹂①8け一〇︒OρOFUOo●勺胃一こ︾づ霧図①Z︒器①ρも℃●一㎝鴇Φ什ω︐. に____. 26 27 28 29 30 31.

(22) 早法七二巻二号︵一九九七︶. 三七八. ︵ 3︶一〇一身謡導貰ω一︒一︒ω唇質冒磐二①ω伽88ヨ讐ω卑耳①益ωき3霞Φきロ・旨ξω8<①邑お爵8琶①簿鋤一Φ霞ωo仁琶①お9 2. なお︑賃金の支払いに関する一九〇九年法︵前掲︵注3 1︶︶および従業員購買店を廃止する本法に引き続いて︑﹁労働者法の法典. の3ロo冷ω8ω血雰み8Φ叶ヨ鋤零ぎ&一ω①ω血①∈Φ一2①轟ゴお2Φ8の○昼b︒知﹂︒員一くもPN㎝卑ψ. 化︵労働・社会保障法典第一篇︶を定める﹂一九一〇年一二月二八日の法律により︑フランスにおいて初めて﹁労働法典﹂が編纂. される︵いo一α仁拐血曾﹂旨Oもa蜜馨8&臨8賦o⇒8巴9ω○仁くユ酵8密く話一①.α二8留血二R蝉く巴一9号一9︒も鳳<o﹃聾昌88息巴ΦH. 豊>レ潭一篇くもP竃9ψ︶︒その第一篇は︑﹁労働に関する諸合意について﹂と題され︑第一部﹁見習い契約について﹂︑第二部. でいる︒一九一〇年労働法典においては︑規定内容から見て第三部の賃金法の部分が最も厚く︑その第二章第一節﹁賃金の支払方. ﹁労働契約︵8導﹃簿留9麩毘︶について﹂︑第三部﹁賃金について﹂および第四部﹁労働者に対する職業紹介について﹂を含ん. 法について﹂として一九〇九年法が︑その第五章﹁従業員購買店について﹂として本法が組み込まれている︒これらは︑一九一〇. 年労働法典を構成する最も新しい法律であり︑したがって︑ここで検討してきた就業規則法案の審議過程は︑﹁労働法﹂のはじま. りを構成する背景事情のひとつとしての価値もまた有しているのである︒さらに︑一九一〇年労働法典において︑﹁労働契約﹂. 初期﹁労働契約﹂論争. る﹁労働契約﹂という主題の中心性を表すものとして興味深い︒. 8葺吋象号賃巽毘という言葉が﹁労働に関する諸合意﹂の中核をなす契約類型として用いられているということは︑当時におけ. 二. 就業規則をめぐる司法および立法における討論状況は︑学説を刺激し︑論争を呼び起こす︒﹁就業規則問題﹂の. 構造に対応して︑学説における論争の対象は︑﹁社会問題﹂の淵源︵第3節︶︑労使関係に対する立法介入の在り方. ︵33︶. ︵第4節︶および労使関係の在り方︵第5節︶にわたる︒論争の当事者については︑現在の見地からは︑パテルナリ. スト︵冨掃醤筈の邑とコントラクチュアリスト︵8暮蚕︒ε呂ω邑との争いという構図が浮かび上がる︒この両者.

(23) の論争を初期﹁労働契約﹂論争と呼ぶのは︑彼らが﹁労働契約﹂8昌R簿号嘗零毘という主題の下に議論を展開. し︑労働契約論の基本問題に対して︑﹁初期﹂であるからこそ可能であるような徹底的かつ自由な探求を行ったこ とによる︒. ︵34︶ 初期﹁労働契約﹂論争は︑パテルナリストのユベル髄ヴァルルによる﹃労働契約﹄︵一八九五年︶を嗜矢とする︒. 以後の議論は︑ユベルHヴァルルを参照軸として︑多くの場合は批判の対象として展開される︒そこで︑初期﹁労. 働契約﹂論争の内容分析に入る前に︑まずユベルUヴァルルの所論︵第1節︶およびその母体としてのパテルナリ. 論争のはじまり. スム︵第2節yを検討し︑参照軸としてのパテルナリスムの意義を明確化する必要がある︒. 1. ① ロッシ賞 ︵35︶. 初期﹁労働契約﹂論争は︑パリ大学法学部が一入九二年と一入九四年の二回にわたって募集した懸賞論文︵ロッ. シ賞︶にはじまる︒一八九二年のロッシ賞の課題は︑﹁労務賃貸借について⁝工業における雇主と労働者との法. 的関係に関する研究﹂というものであった︒この年には四論文が提出されたものの該当者がいなかったので︑一八. 九四年に賞金を二倍にして再度募集が行われた︒今回は︑一〇論文が提出され︑二論文が採用された︒それがユベ. ︵36︶. ル月ヴァルルの前掲﹃労働契約ー工業における雇主と労働者との関係を規制する立法に関する研究﹄とジョルジ. 三七九. ユ・コルニル﹃労務賃貸借または労働契約について1工業における雇主と労働者との法的関係に関する研究﹄で ある︵いずれも一八九五年に公刊︶︒. フランスにおける初期﹁労働契約﹂論争の研究.

(24) 早法七二巻二号︵一九九七︶. 三八○. コルニルは︑右の公刊論文の前書きでロッシ賞の授賞報告を紹介している︒その授賞報告は︑ユベル日ヴァルル. の主張を法の下の平等に基づく自由の体制を保障することによって国家介入という社会主義的専制から成人労働者. を守ろうとするものと把握し︑コルニルの主張を労使間の事実上の不平等という問題を法律による介入によって解. 決しようとするものと解したうえで︑社会主義に立脚するコルニルの学説については明確に留保を表明すると断っ ている︒. 以上のように︑パリ大学法学部が︑懸賞論文の課題に﹁雇主と労働者との法的関係﹂を設定すること︑そして︑. 主張の異なる二つの論文を選んだうえで︑社会主義的と見なす論文に対して留保を表明することは︑﹁社会問題﹂. に対するアカデミズムのアプローチのはじまりを表すものとして興味深い︒また︑労使関係に対する立法介入をめ. ぐるユベル目ヴァルルとコルニルとの争いには︑すでに初期﹁労働契約﹂論争における対立の構図を看取できる︒. コルニル. そこで︑二つのロッシ賞受賞作品を照らし合わせることにより︑論争の最初期の状況を確認することにする︒ ω. 労使関係に対する立法介入をめぐるコルニルの所説は︑ロッシ賞の授賞報告が述べるような﹁社会主義﹂に依拠. するものではない︒コルニルは︑﹁社会問題﹂を労使間の法的平等と事実上の不平等との矛盾と捉える︒このよう. 7︶. な矛盾を解決する手段として︑コルニルは︑社会主義については賃労働制を廃止しようとするものとして反対し︑ ︵3 法律による賃労働制︵労働契約︶の補完という行き方を主張する︒国家による介入が必要とされるのは︑﹁社会問 題﹂に対して雇主の制度も労働者の制度もともに不十分だからである︒. コルニルのいう雇主の制度とは労働者住宅や共済金庫等のパテルナリスムの諸施策であり︑労働者の制度とはス.

(25) トライキおよび労働組合である︒コルニルは︑労働者の制度については︑ストライキが労働の自由の延長であるこ ︵38︶ と︑および労働組合にはストライキ予防機能があることを指摘するなど決して否定的ではないのに対し︑雇主の制 ︵39︶. 度に対しては概して批判的に捉えている︒すなわち︑パテルナリスムの諸施策は︑労働者に対して利益をもたらす. ものであると同時に︑﹁労働者の雇主に対する従属関係を加重する﹂ものである︒例えば︑労働者住宅制度に関し. ては一八九四年九月三日にストライキの制裁として一二九もの世帯が住宅を取り上げられるという実態が出来して ︵40︶ いるし︑共済金庫については︑解雇されると受給権が失われ拠出金の返済も認められないのが通例である︒このよ. うに︑パテルナリスムの諸施策には労働者の従属を強化する側面があることを認識し︑そこから国家介入の必要性. を導出するところに︑コルニルと後述のユベル ヴァルルとの基本的な対立点がある︒ ︵41︶ コルニルは︑さらに︑労使関係に対する立法介入の必要性を︑﹁民法典の欠飲﹂論によって基礎づけようとする︒ ︵42︶. すなわち︑労使関係については︑民法典の規定は無きに等しく︑事実審判事が民法典の欠敏を埋めるために積極的. な活動を行っているが︑これでは法的安定性が害される︒また︑事実上の不平等を是正するための立法介入は︑民. 法典がレジオンを定めていることに表れているように︑平等原則それ自体が絶対的なものではない以上︑平等原則 ︵43︶. に反しない︒そこで︑労使関係について︑任意規定を充実させるとともに︑民法典と同様に︑場合によっては強行 規定も設ける必要がある︒. 以上のようにして︑労使関係に対する立法介入をめぐるコルニルの所論は︑﹁社会問題﹂に対する労使の自主的. 解決とくに雇主の制度の問題性から国家介入の必要性を導出するとともに︑法律による賃労働制︵労働契約︶の補. 三八一. 完および﹁民法典の欠敏﹂の補充という規制理念によって︑﹁社会主義﹂の非難を回避しようとするものであった︒ フランスにおける初期﹁労働契約﹂論争の研究.

(26) 早法七二巻二号︵一九九七︶. 三八ニ. コルニルが具体的にどのような規定によって労使関係に関する民法典の欠歓を埋めようとしていたのかは︑明らか ︵44︶ ではない︒肝心の就業規則法についても︑審議過程を紹介し︑比較法的考察を行うのみで︑態度は明確ではない︒. したがって︑初期﹁労働契約﹂論争におけるコルニルのプレゼンスは︑ユベル目ヴァルルほどには高くない︒これ. ︵45︶. に対して︑ユベルHヴァルルの所論は︑当時進行していた就業規則法の立法動向に対するその激烈な批判によっ. ユベルHヴァルル. て︑論争の口火を切ることになる︒. ⑥. 同時代人のアンリ・デロワ目デュHルルから﹁決然たるパテルナリスト﹂と呼ばれるユベル髄ヴァルルの所論. は︑労使関係に対する国家介入一般を︑雇主の権威を損なうものであるという理由から︑すべて否定するものであ る︒. ユベルHヴァルルは︑前掲の懸賞論文﹃労働契約﹄以前から︑就業規則法の立法動向に対して活発な言論活動を. 行っている︒例えば︑フェルル法案および下院案については︑次のような言明がある︒﹁雇主に対して罰金の宣告. や就業規則の作成を禁止して雇主の地位を低下させることに執着する代わりに︑立法者は労働者を拘束することに. ︵46︶ よって︑労働者と雇主との地位の平等を実現すべきである﹂︵﹁労働者および雇主の契約上の地位﹂一入九二年︶︒﹃労. 働契約﹄では︑さらに調子が高くなっている︒﹁われわれは︑わが立法者と統治者に対して︑集団的圧力に抗して. 個人の自由を守ることを要求しなくてはならない︒われわれは︑立法者および統治者に対して︑雇主の自己の工場. における権威を︑この必要にして不可欠なる権威を維持することを要求する︒そして︑後で︑現実に可決された︑ ︵47︶ または準備作業中の諸々の法律が︑その権威を揺るがす傾向にあることを見るだろう︒﹂.

(27) 右の引用文中︑﹁集団的圧力﹂とは︑労働組合および議会における社会主義者を指す︒﹁集団的圧力に抗して個人. の自由を守る﹂とは︑典型的な自由主義の言説であるが︑この自由主義は︑ユベルHヴァルルにおいては︑﹁雇主. の自己の工場における権威﹂を維持することと同一視される︒すなわち︑﹁個人の自由﹂といっても︑その真の意. 味は︑雇主の国家からの自由ということにある︒このように︑パテルナリスムは︑国家権力からの自由を確保した. 領域の内部で︑雇主中心の秩序を築く︒ユベルHヴァルルの自由主義の伝統主義的特質は︑次の言説からも明らか である︒. ﹁法律は無力であり︑単なる自由は︑導きではなく︑手段にすぎない︒自由は︑それを望む人に対し︑良き行い. をすることを可能にする︒だから立法者に対しては自由を要求しなくてはならない︒立法者は︑魂を形成すること. はできず︑できることは︑為すことを助けることではなく︑為すことを妨げることなのであるから︒しかし︑何が. 契約当事者を良き方向に導き︑立法者および判事を良き方向に向かわせるのか︒それは︑良心でしかありえない︒. 良心だけが内心に対して権威を有し︑信仰と行いを為す︒では︑良心とは何であり︑何にしたがって良心は形成さ. れるのか︒⁝良心はもしそれが神の法に支えられていなければ︑魂に語りかける権威もなければ︑耳を傾けさせる. 力もなく︑何らの反響も得ることはないだろう︒⁝/したがって︑この必要なる神の法に執着することにしよう︒. この神の法だけが判事に衡平を付与し︑労働者を自らの労働において正確かつ忠実にし︑雇主を自己の労働者に対. して公正かつ温情深くするのである︒人間の法の力は︑非常に限られている︒人間の法の力は外面しか強制しな. 三八三. い︒ただ神の法だけが良心を形成し︑かつ︑いかなる強制機構にもよらずに︑心胸を回向し︑意思を従わせること ︵48︶ ができる︒全く技術的で取引関係的のように見える労働契約においてさえも︑神の法の助けが不可欠なのである︒﹂ フランスにおける初期﹁労働契約﹂論争の研究.

(28) 早法七二巻二号︵一九九七︶. 三八四. 右の引用文は︑パテルナリストがどのような秩序を立法介入から守ろうとしているのかを示している︒あれほど. 熱烈に擁護されていた﹁個人の自由﹂は︑﹁手段にすぎない﹂ものであって︑法律については︑﹁無力﹂が宣告され. る︒﹁全く技術的で取引関係的のように見える労働契約においてさえも︑神の法の助けが不可欠なのである﹂との. 一文は︑法的パテルナリスムを要約するものである︒パテルナリストにとって︑労働契約における﹁全く技術的で. 取引関係的﹂な側面は非本質的であって︑﹁労働者を自らの労働において正確かつ忠実にし︑雇主を自己の労働者. に対して公正かつ温情深くする﹂関係こそが本質的である︒この労働者の﹁忠実﹂と雇主の﹁温情﹂の関係が︑パ. テルナリストが法化の圧力から守ろうとする企業内の秩序なのである︒そこで︑後で述べるように︑コントラクチ. ュアリストは︑労働契約とは︑﹁全く技術的で取引関係的﹂でしかありえないと主張するのであるし︵本章第5節︶︑ ︵49︶. 急進共和主義者は︑社会主義者の﹁資本主義的封建制﹂論と共鳴するかたちで︑ライシテに基づく一連の共和主義. 改革の文脈で︑﹁神の法﹂によるパテルナリスムに対する批判を展開するのである︵本章第4節︶︒. ユベル目ヴァルルは︑就業規則法の立法動向に激しく反対するが︑独自の就業規則論を展開するわけではない︒. 彼の就業規則論は︑次のようなものである︒﹁これらの規則は︑小規模の産業においては単なる慣習であり︑習慣. の結果なのであるが︑一定程度の大きさの経営においては︑書面にされる︒この場合︑就業規則は︑企業長によっ. て起草されるが︑時に︑企業長が︑絶対的に雅量として︑かつ任意に︑自己の従業員に意見を聴くときがある︒就. ︵50︶. 業規則は︑印刷され︑工場内に掲示される︒そして︑各々の労働者は︑工場に入るという行為によって︑その就業. 1︶. 規則を承認したと見なされる︒契約が成立するのは︑この黙示の受容によってなのである︒﹂これは︑単に当時の ︵5 破致院判例をユベルHヴァルル流に要約したものである︒ところが︑大部な﹃労働契約﹄のなかで︑ここだけが注.

(29) ︵52︶. 目され︑批判の標的にされるのである︒初期﹁労働契約﹂論争は︑この一文からはじまるといっても言い過ぎでは ない︒. 破致院判例を祖述したにすぎない理論的に無内容な言説が大々的に取り上げられたという事実には︑分析が必要. である︒まず︑パテルナリストが就業規則について法理論的な反省を行わないのは︑前掲の﹁神の法﹂論と関係が. ある︒パテルナリスムにおいて︑使用者の権威は︑﹁神の法﹂によって︑言い換えると︑契約の外から︑法律外的. なものによって根拠づけられる︒使用者の権威は︑父子関係といった伝統的な関係モデルによって基礎づけられる ︵5 3 ︶. ものであって︑理論的正統化を必要としないのである︒パテルナリスムにおいて︑使用者の権威は﹁自然﹂に﹁正. 統﹂なものなのである︒次に︑なぜ原理からして理論的でないパテルナリストの言説が初期﹁労働契約﹂論争にお. いて批判の対象として執拗に取り上げられたのかというと︑パテルナリストの所論がパテルナリスムという当時の. 大工業において支配的であった労使関係の在り方を土台にして成り立つものであったからである︒そこで︑コント. ラクチュアリストによる批判は︑パテルナリストの所論そのものよりも︑その大本にあるパテルナリスムヘと向け られることになる︒. 以上が初期﹁労働契約﹂論争のはじまりの部分である︒論争の口火を切ったパテルナリストのユベル涯ヴァルル. の所論は︑その理論的内容よりもそれが代表するものによって重要であるような性質の言説であった︒したがっ. て︑論争の分析をはじめるにあたっての準備作業として︑パテルナリストの言説の背景にあるパテルナリスムとは. 三八五. 初期﹁労働契約﹂論争をパテルナリストとコントラクチュ・アリストとの争いとして描く先行業績には以下のものがある︒同時. いったい何かを検討する必要があるゆ ︵33︶. フランスにおける初期﹁労働契約﹂論争の研究.

(30) 早法七二巻二号︵一九九七︶. 〇〇㎝ >吋什﹃仁噌力O仁ωのΦ9二︸一〇. ﹄鳴oり魅犠妹80§の. ℃︒一〇︒. 駄こ℃◎﹈−斜.. 鳴蛛. N馬oり. もミ蝕§.鴨︑ω. 鴨ミ辱〜O量無の. 駄績§⇔. 偽噛警. ︵嵩○叶Φω㎝︶一℃︐﹀︵●. 唱唱讐一㎝qΦ叶ω●. ℃●ω一︒. OO同づ一一いO辱. 蝉賊亀. ㍉守賊織. ︵88邑も︐旨藤曾. O昏y℃︒ω刈N︒ ︼固仁ぴ①村けーく ㊤ = O 吋 ○ 仁 区 堕 O 感 ◎ ら 賊 妹 ● ︵ 昌 O 樽 ① Q. ︵第二章第4節︶︒. 三八六. ︽一巴o鼠︾は︑﹁政教分離﹂と訳されることが多いが︑その内容は︑共和主義理念に基づく社会秩序の脱カトリッタ化である︒. 国守軌駄4℃一︶● ω㎝1藤ω①. =仁びΦ﹃叶;<曽=①国○自図℃も昏9ら母︒︵50け①QQ群︶℃も︐O o O Q●. 一〇 〇〇卜o︸℃︐﹃斜一︒. =仁び①﹃什1く四一一〇﹃〇二図℃︽げ四ω一け償鋤ぼ○⇒﹃Φω℃ΦO賦くΦ伍のの○仁<﹃一Φ﹃ω①けα①ω℃帥け﹃OOのα餌づω一Φβ吋ωOO⇒け﹃㊤けωy卜︑輌らOミOミ賊のW恥斎§§精貸賊砺博一〇. U︒鷲・誘身犀︒ξρ魯●&. 』. 急進共和主義者のパテルナリスム批判については後で述べる ︵50︶. 織O§心黛賊N甜N鳴N鳴ωΣ愚感O轟ω鳴§臥狭鳴N鳴の魅貸㌧\◎ミ⇔鳴肺N恥のO黛魁\賊鳴Nω. N︑軌§織ミの妹\賊鳴導↓げO同凶P陣噛自ρ一〇QOq層℃℃じくー︶︵据. ロッシ賞の経緯については︑08茜霧OO9戸b黛融§題魯のミ竃R︒︒ミ8ミミ蛛魯妹ミミ蹄肉§魯のミ醇Σ§醤勢︑ミ載鳶ミの. N︑帖§駄黛ω妹\帖 鳴. 勺︒寓9σ①﹃叶ー<鋤=①暦○瓢図︶ト鴨らも遣妹Σ霜妹駄恥妹X貸魁匙焼N︒肉妹ミ織馬の黛鳩N食N爵軌GりN. 6ご宣8二①︒︒U曾N色o戸い︑軌ミ§誉蕊§ωミミ︒騨追のミや§ら§魯ω辱§軌§︒・唐§命ミの︸評醤具お︒︒斜もpば︒︒山㎝一ー. 代の分析として︑∪⑦霞o旨2肉8β魯ミ9︵88ま︶もや一8山愈︒現代の分析として︑号O翌8ヨ2愚﹄鋒︵8器曽︶もや霧. 織恥. ︵鈎︶. 鳴ミ殊狭輔. ︵35︶. も●一麻︐. 餅帖織←唱●NGρ︒. 魎帖駄. 』黛導. 』 ㌧竪焼. 国 〜竪軌織. この時期の﹁民法典の欠歓﹂論については︑拙稿・前掲︵注2︶三九八頁以下参照︒. 494847α4645444342414039383736 ) ) )ρ Φ㌧ ))) )))) )) ) ).

(31) ︵51︶. 当時の就業規則に関する破殿院判例とパテルナリスムとの関係を前稿では︑﹁破殿院が就業規則を契約と分析し︑意思自律の. 例えば︑O. 一一一窪き愚︒黛︾︵88に︶もPO︒O?G︒O一︐. ったといえる﹂と分析した︵拙稿・前掲︵注3︶二六五項︶︒. 原則によって事実審判事による介入︵契約改訂︶を禁止したことは︑結果的には︑パテルナリスムの﹃私化﹄と共鳴することにな. ︵52︶. パテルナリスムの概念. α餌霧一︑ぎ免霧賃一①日簿巴一貫讐ρ仁Φ津四昌R一ω①︾︶融ミも黛ミミ§蛛︒︒象箇ミ︸⇒︒に倉一〇〇︒oo鳩℃●一〇〇. ︵ 5︶Zoま鼻︽O蓑霊甫o轟αq①︾曽β︽℃簿①毎讐ωヨ①︾二巽①弩89冠mけ一9留ω略o§①ωα①αo包昌鋤け一8α①冨ヨ鋤冒α︑8二くお2琶曾Φ 3. 2. ユベルHヴァルルの登場からはじまった初期﹁労働契約﹂論争は︑以後︑パテルナリストに対する批判を原動力 ︵54︶. として展開していく︒実際︑﹁パテルナリスム﹂も碧R轟房ヨ①という言葉自体が︑論争の相手方の名付けによるも. のであって︑フランスの言説空問では︑軽蔑的な含意をもつ︒パテルナリスムという言葉が論争的な概念であると. いうことは︑その分析に特別の配慮が必要であることを意味する︒すなわち︑初期﹁労働契約﹂論争を読む場合に. 注意しなくてはならないのは︑パタ!ナリスティックな労務施策として記述されている同じ内容が歴史的文脈によ. って違う意味をもつにもかかわらず︑﹁論争﹂という土俵において︑論者が意識的に歴史的文脈の無視を行うこと があるということである︒. そこで︑以下では︑まず︑論争当事者が共通の指示対象として参照する﹁就業規則問題﹂からパテルナリスムの. 制度的側面を分析する︒次に︑その制度的側面に対するイメージのレベルを現在の見地から解明するための座標軸. 三八七. を獲得するために︑パテルナリスムに関する最近の歴史学の成果を利用して︑パテルナリスムの構造をできるだけ フランスにおける初期﹁労働契約﹂論争の研究.

(32) 早法七二巻二号︵一九九七︶. ﹁就業規則問題﹂から見たパテルナリスム. 明確化する︒. ①. 三八八. 前述のように︑司法において就業規則が問題化したのは︑具体的には︑i慣行︵主に解雇予告期間︶の就業規則. による破棄︑H労働者の行動を綿密詳細に規制する禁止規定および罰金の制裁︑そして⁝m罰金︑退職年金金庫およ. び現物支給を名目とする賃金控除であった︒立法における就業規則法案の審議過程がこれら司法における就業規則 へ. 問題の具体的事項に対応するものであったことも前述の通りである︒. この﹁就業規則問題﹂からは︑次のようなパテルナリスムの構造が浮かび上がる︒第一に︑地域的または職業的. な産業秩序から独立した企業秩序の雇主による創出である︒雇主は︑就業規則の制定によって︑当該地域当該職業. の慣行を破棄するとともに︑そこに定められた詳細な禁止規定により︑企業内部に独自の秩序を創出する︒第二. に︑賃金控除と相関して行われる賃金以外の給付の充実である︒パテルナリスムは︑﹁温情主義﹂または﹁経営家. 族主義﹂と訳されることがあるように︑福利厚生制度の充実によって特徴づけられる︒ところが︑退職年金金庫に ︵55︶. せよ︑労働者住宅にせよ︑従業員購買店にせよ︑その利用はいずれも賃金控除によって支払われる︒こうした賃金. 控除額は︑賃金のかなりの大きな部分を占めるものであった︒さらに罰金によって賃金控除額が加算されることも ︵56︶ ある︒ペロによると︑﹁罰金は︑多額に上ることが多く︑賃金の大部分を吸収してしまうこともあった覧. 右のような構造をもつパテルナリスムの問題性は︑パテルナリスムの福利厚生制度が賃金にプラスして与えられ. るのか︑むしろ賃金を通貨で全額支払わない口実であるのかというところに集約される︒﹁社会問題﹂のレベルで. 見ても︑例えば︑﹁一九〇五年ストで噴き出す坑夫の不満の根には︑名目賃金のなかから天引される控除額があま.

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