第三 章 漢文 指導 の実 践
第一 節 新しい 学 習指導要
領 下 で の漢文 第一項
新し い「
高 等 学 校 学習 指導 要領」
の 課 題 本章
で 総 合学科 に おける漢文指導実践
を 述べるにあたり、今
次(平成二十~二十一
年 改 訂
) の 学 習指 導 要 領改 訂 の 経 緯 を確 認 し ておき た い
。 今 次 の 改 訂は、
平 成 一 七年
( 二
〇
〇 五)
二月
、「
二一世紀を生きる子どもた
ち の 教育の充実を図るため、
国 の教育課程の基
準 全 体 を 見 直 すこ と に つい て検 討 す るよ う要 請 す る
」 とい う趣 旨 の 文部科 学 大 臣 か ら の 諮 問 を 受けて 審 議が 開 始 さ れ た。こ の 諮 問 に対して
、中 央教 育 審 議会は 平 成二〇年
( 二
〇〇八)
一 月 に「
幼稚 園、
小学校
、 中学校、高等
学校及 び 特 別 支援学校
の学習指
導要領 答 の改 善に つい て」
答申 を行った。
本 答申 で 重 視されたの
は
、社会の
あらゆる領域
で 総 合的 な「
知」
や教 養 が 求め ら れ る、い わ ゆ る
「知 識 基 盤社 会
」 で活躍 す る 人 材を育 成 する こと であ る
。 こ れ を 踏 ま え て 高 等 学 校 国 語 科 で も 科 目 が 再 構 成 さ れ た が
、 中 で も 注 目 す べ き は
、「 国 語総 合
」 が 共 通必 履修科 目 とし て 設 置 さ れた こと であろう。
こ れは、社
会人とし
て必 要 な 国語の能力
の 基礎を 身 に付けると
同 時に、あ
らゆる学
習 の 基盤とな
る言語力
の水準を
確保 するために、
高等 学校国 語 にお い て も指 導内容の共
通 性を 重視した改
訂 である。
また、
「 国 語総 合
」 には現 代 文と古 典 の 両 分野 があるため
、 この改訂
に よ り すべ ての 生徒が古
典 を 学 習す るこ と と な っ た
。 その一方で
、 教育現 場 には 高等学 校 の多様 化 と い う 現 状がある。
従 来は、
「 国語表現
Ⅰ」
(二単位)
と
「 国 語 総 合」
( 四 単 位
)が 選択 必履 修科 目とな っ て お り、
どち ら か 一方を 選 択 し て 履修す る ことがで
きた。そのため、特に
、専門高等学校
( 商業・
工 業・農業・林
業・
水産業 な ど
) におい て は、カリ
キュ ラ ム 上
、 重要 な位置を占め
て い る専門科目や実
習 等の 授業 時間 を確保 す る た め に
「国語 表 現
Ⅰ
」を選択し、こ
れ をもって
国 語 の卒業認定単
位を 満た す場合もあった。そ
れ が、今次の改
訂に より、全
員が「
国 語 総 合」を履
修す ることに な っ たので あ る。つ ま り、今次
の「
高等学 校 学習指導
要領」には
、 生徒の多
様 性 を認めつ つ も
、指導内容の共通性
を 重視す る と い う 課題を抱えて
い る の で ある。
1
また、高校生の
古 典嫌い も 無 視 で き ない問題である。平成一
七 年 度
(二
〇〇五)
に 実 施 された
「 高等 学校教育課程実
施状況 調 査」
2(詳 細は
〈資 料6〉
を 参照の こ と
) によると
、 古文嫌いが
( 七二
.七
%)
、漢 文嫌 い が(七 一
.二%
)に のぼっ て いる。
こ れは
、数 学の
( 五 十七.四
%
) や物理 の
(五十六
.五%)を
お さえ て ワ ー ス ト1 で あ る。
こ の ような結
果が 出た にも かか わらず、今回の改訂では「国語
総合」
が 共通必 履 修科目 と なり、全員
が 古典 を学習す
ることにな
っ た。た だ で さ え生徒 の 古典離れ
や
、 現代社会における
古 典 学習の意 義が問題視され
て いる中、
すべて の 学校現場で古典の授業
が実 施される
ことになる。
そこで 次 に 注 目し た い のが
、今 次 改 訂「
高 等 学 校 学習 指 導 要領
」 の
「 国 語 総 合
」 4「内 容の取扱
い」
( 6
)「
教材に関す
る 事項」
イ
「 古 典の教材
」に 追 加 さ れ た次の 記 述 で ある
。
3
古 典 の教 材 に つい ては
、 表 記 を 工 夫 し、
注釈
、 傍 注、
解 説
、現代 語 訳 な どを 適 切 に 用い、特に
漢 文につ い ては訓点を
付 け、必要に応じ
て 書き下し文を
用 いるな ど 理解し
やす いよう に するこ と
。また、古
典 に関連す
る近代以
降 の文章を
含 めること
。 こ
の 中 で も
、「 古 典 に 関 連 す る 近 代 以 降 の 文 章 を 含 め る こ と
」 の 部 分 が 大 き な 意 味 を も つ。
これとほぼ同趣旨の記述
が「 古典A」
及び
「古典B」
に もあり、
それぞれ
「教 材には
、 古典に関
連する近代
以 降の文章
を 含 めるこ と
」
4、「
必要に 応 じ て 近 代 以降の文語
文 や漢詩 文
、 古 典 に つ い て の 評 論 文 な ど を 用 い る こ と が で き る こ と
」
5と な っ て い る
。 こ の よ う な 改訂が 行 わ れ た理由 の 一つには
、 生 徒の多 様 化に対 応 しなが ら 古 典 嫌いを 解 消す ることも 想定されて
い る の で あ る
。 で は
、 具 体 的 に ど の よ う な 改 善 点 が 考 え ら れ る の か
。 漢 文 の 授 業 で い え ば
、 た と え ば
、 中島 敦の「山
月記
」や「弟子」と
い った作品を扱
える ように な る。小説
だけで は なく
、近 代 以 降 に 書か れた 古典に 関 するエッ
セイ や評論等
も教 材と なり得る。
こ れ ま でも、
古 典 に 題材を得
た エ ッセイ 等 が古典の
教 科 書に載 る ことはあ
った が、それはあくまで
も
〈参 考
〉 や〈
コ ラ ム〉とい
う 扱 い に すぎな か った。それ
が
、今後は教
材 と し て 採 られることに
なる の で ある から、質量と
もに充実し
た 内容が 求 められる
。さらに、
教 材ともな
れ ば 教科書に もそ れ に 関連 する 設問等 が 設定され
る だ ろうか ら
、 学 習活 動の指示もよ
り 明 確に なる こと が期 待される。
以上のような改訂に
よ り、
生徒の多様性
と 古 典嫌い に 配慮 するとともに、小学
校から一 貫した指導目標
で あ る
、「
古典に親し
む 態度の育成」
を継承し、
発 展させ て いくことを目指 すの である。
(一)漢文改
訂のポイン
ト では、実際に、
漢 文につい
てどのよ
うな改訂が行
われたのか
を
、平成二一
年
「 高 等 学 校 学 習 指 導 要 領 国 語
」 に 基 づ いて そ の 主 な 内 容 を 示 す
。
6こ こ で
、 あ ら た め て 改 訂 箇 所 を 重 点 的 に 取 り上 げ る こと で、
今 次 の
「 学 習指導要
領
」 の ねらい を 確認し て い き たい
。 なお、
次 の
「古典A」
及 び
「 古典B」に付され
て い る「
A
」、
「 B」は、科目の性格
の 違 いを示して
お り、
「 A
」科目は
言 語 文化の 理 解を
、「 B
」 科目は 読 む 能 力の 育 成 を そ れ ぞ れ 中 心 的 な ねらい と し て い る
。こ れは、
「 現代 文A
」及 び「 現 代 文 B
」に おい ても同 様 である。
《主な改訂
箇 所》
(傍線は引用者によ
る
)。
「国 語総合」…総
合的な言
語能力の育
成 をねらい
と す る
・
古典 の 教 材につい
ては、表
記 を 工夫し
、 注釈、傍
注、
解 説
、 現 代 語 訳な ど を 適 切 に用い、特に漢文につ
い て は 訓 点を付け
、必要に応
じ て 書 き下 し文を用いるな
ど 理 解し や す いよ うに す る こと。
ま た、古典に関連
す る近代以降の文章を含め
る こ と
。
(3「内
容の取扱
い」
(6)
イ
)
「古典 A
」…言 語 文化の理解を中心とす
る
・
古 典 などを 読 んで
、言語 文 化の特 質 や我が 国 の 文 化と中 国 の文化と
の 関 係につ い て理解 す る こ と。
( 2
「 内 容
」 ウ)
・
伝統 的 な 言語文 化 に つ い て の 課 題を設定し
、 様々 な資 料を読ん
で探求し
て、
我 が 国の伝統と
文 化につ い て 理 解を深 め ること
。(同エ)
・ 古文 や 漢 文の調 子 な ど を味 わい ながら音
読、
朗読、
暗 唱をする
こと。
( 同( 1)
ア
) ・
日常の言
語生 活から我が
国 の伝統と
文化に関
連する表現を
集め、
そ の意味や特色、
由来な ど に つ い て 調 べ たこ と を 報 告 す る こ と
。( 同 イ
)
・
図 書 館を利用し
て 古典などを
読 み比べ、
そ こ に描かれた人物、
情景、心情など
に つ い て
、感 じ たこ と や 考え たこ と を 文 章 に ま と め た り 話 し 合 っ た り す る こ と
。(
同ウ
)
・
古典 を 読 む 楽 し さ を味わ っ た り
、伝統 的 言 語 文化 に触 れることの
意 義を理解
した りす るこ と を 重 視 し
、 古典な ど へ の 関 心 を 高 める よう に す るこ と
。
(3「内
容の取扱い」
(2)
)
・
教 材 は
、 古典に関
連 す る近 代以降の文章を含めるこ
と
。( 同(
3)イ)
「古典B」
… 読 む 能力 の育成を中
心 とする
・
辞 書 などを 用 い て 古典 の 言 葉と 現 代 の言葉と
を 比 較し、
そ の変遷な
ど に つ い て 分 かった こ とを報告
す る こと。
( 2「内容」
( 2)ア)
・
古典 を 読 ん で 関心 を も った 事 柄 などに つ い て 課題 を 設 定し、
様 々 な 資料 を調 べ、
その成果
を 発表したり
文章にま
と め たりす る こと。
( 同 エ
)
・
古典 を 読 み深 め る た め
、音 読、
朗読、
暗 唱 な どを取 り 入れるよ
うにする。
(3「内
容の取扱
い」
(2
))
・
教材には、日本漢
文を含めること。ま
た
、必要に
応 じ て 近 代以 降の文語
文や漢詩 文、古典につい
て の評 論文など
を用いる
こ と ができる
。( 同(4
) イ)
これ らを見 る と、ポイ
ン ト が三 点 ほ どあげられよ
う
。 一 つ は、話し合ったり、
報 告 し た り、文章
に ま と め た り と い う よ う に 言語 活 動 を充 実さ せて いるこ と で あ る
。 二 つ 目は、図 書館等 で の 調 べ学習 や 課 題を設 定 した学習な
ど
、従来 の よ うな 文 法 と読 解に 終 始 す る こと なく、探求する学習を重視し
て いる こと で あ る。三つ
目は、音読
、 朗読、暗唱
の 重要 性を 明示し て いることで
あ る。音読
等の学習は
従 来も示さ
れて いたが
、 こ の 改訂 に よ り読ん で 味 わ うだ けではなく
、 特に「古典
B
」 で は 何 度 も 繰り返 し 読み慣れる
こ とに よっ て
、 作品 の理解を深
め るとこ ろ まで 求めら れ るよ う に な っ た。
要 す るに 今回の改訂では、古典
の領域にお
い ても言語
教育に力を
入 れ、社会で
役立つ言 語能 力の基礎
固め や、
総 合 的 な「知
」や 教 養 を身 に付ける
ことを重視し
て い ると言 え よう。
こ の よう な
、 文法学 習 に偏重 せ ず
、 生徒の 言 語 能 力の 育 成 をねら う 指導内容は
、 筆者 が 総 合学科 で 試み て き た 実 践と 共通 して いる。
以 下 では
、進路 も 学力も多様性に富ん
だ 総合学科の
生 徒が、親しみを
も ち、主体
的 に 取 り組 める 漢 文 の 指 導 実 践を示し
、こ れらの 検 証をとお
して
、今後 の 漢文教育の
在 り方 につ いて 論 じ て い き た い
。 第二節
漢 字 の文化的背景―漢数
字 に対 するイメージの
日 中比較―
第一項
漢数字 の イメー ジ 日中比較
日本独自の
漢字の訓読みは、
漢字の意
味を限定的
に 用い て い る た め、
本来 の字義と
は 異なると
いうことは
第 一章及び
第 二 章で 述べ たとおりで
あ る。それ
以外 で も
、 日 本の 生 活 文化や風
土 の 中に根 付 いた漢字
使 用 をし て い るうち に
、中 国にお け る意味合
いと の間に差 異が生じて
く る場合が
ある。本
節では漢数字を例に取り上げなが
ら
、日中文化
の 違い を比 較し て い くことにす
る
。 まず、
現 代の日本
社会において
、日常生
活 の 中で 数字 に特別な
意 味 を込めて
使っ ている 例をあげて
み る。たと
えば、病院やマンション
で は、「
死
」を連 想 させる「
四」のつ
く部 屋番号を
欠番にしたり、目出度い婚
礼 の場で は
、離 別を連想
させる「二」
で 割 り切れ る 偶 数 を 避 け たり する ことが こ れに 該当 する だろう。
反対に、奇
数 の「七」・
「 五」・
「 三」
は縁起の良
い 数 と して いる。ま
た、同じ奇数であっ
て も
、
「九」は「苦」を連
想 させ るの で好まれな
い こともある。
こ れ らは 中 国 伝来の 陰 陽思想の
考え方と、日本古来の
伝 統 的な観念が
混 交して 成 立し て きた見 方 と 考 えられる。そ
のため、現代の日中両国
間 で
、 数 字 に込 め ら れ て いる意味
に も 何らかの
差異が生
じて いる 可能 性があり、こ
の差異を
見 落 とすと 様 々な 誤 解 を 生 ず る。高 等 学 校 の 漢文 の 授 業 で も、
この差異を考
慮 した 指 導 が行 われ なければ、
た とえ字 義 や 文 法 の知識 が あ っ た と して も 正 しい理 解 が得ら れ な い ことが 予 想される
。 そも そも
、 数 量を 量 っ たり順 序 を 数 え た り す るこ と は
、 伝 達 の 基 礎 的 かつ重 要 な 役割で ある。
前 者は
「基数詞」
( 1
・ 2
・ 3あるいは1個
・ 2 個
・ 3 個の類)
、後 者は序数詞
( 1 番・
2 番
・3 番 あ る い は 第 1・第 2
・ 第 3 の 類
) で
、 数 字 の 第 一 義 的 な 意 味 を 担 っ て い る
。 ここでは
、 国 語教育と
の関連から
数 字の中で
も漢数字
を 扱 うが、漢
数字の多く
は
、 こ の第 一 義 的意味に特
殊 な意味付
けをし て 成 立 した「指
事」文字
である。した
がっ て 漢 数 字 の 成 り 立 ちを検証
する ことは、抽
象 的概 念を字形化
する と い う漢字の造字方
法 をも明 ら か に す るこ と に 通 ず る
。 以 上 の理 由か ら
、
①
漢数字に
対 す る日中両国
の イメ ージ の共通点
と相違点
を 比 較検討 す る。
②
漢数字を字源に遡
っ て 字義 を 究 明 す る
。
③
古典 文 学 におけ る 使用例を
挙げて 検 証す る。
とい う三 点につい
て 論 じ、
これらを活用した高等学校における語
彙指導 法 や、漢文学習 指導法に
つ い て 提 言 し て み たい
。
(一)
中 国における
数 に関する
検証 北京 オリ ンピックは
、 二〇〇八年
八 月八日八時八分に開幕した。日本
で も、
「 八
」は 末 広が りで 縁 起 が 良 い と されて い る が
、中 国で は そ の理 由 が 異な って いる
。こ れ に つ い て は
、 葉舒憲・田
大 憲共著の『中国
神 秘数字』
7に、
「八」
と
「 発
」 の あ い だ の 近音 に よ る連 想に より、
「
『 発 財』
〔金 儲け
〕 し たければ
、
『八』から
離 れ て はな らな い」
いう「八」
崇 拝意識を
形 成 し て いる
。 とある
。「八」
と「発」
の 発音を 検 証し て み ると、
中 国中 世の推定
音では
「 八」
が〔
pu
t ʌ
〕 、
「 発
」 は p 〔
u ɪ
t ʌ
〕 と な り 近 似 し て い る
。( 本 項 に お い て 国 際 音 表 文 字
〔 I P A
〕 を 示 し たも のは
、 全 て 中 国 中 世 指 定 音 で あ る
8。
) 日 本 漢 字 音 で も
、 「
八
」 は
〔 呉 音
「 ハ チ
」 ・
漢 音
「ハツ
」〕
、「 発
」は
〔呉 音「ホ ツ
・ホ チ
」・ 漢 音「ハ ツ
」〕 で あ り
、 音の近 似 が 認 めら れ る
。 この こと から、
「 八」を
「 発財〔金儲
け
〕」 に通ず る 吉数 とした こ とが推察される。
また
、 日 本の
「 七 五三の 祝 い
」 も中国 に はなく、現
代 中国社 会 におい て は、祝うの
で あ れば、
八 歳、
十歳、二十歳
であるとい
う
。元来、
中国 で は 陰 陽 思 想 に基 づき 奇数 を尊 ん で い た が、その
一 方
、現在 で は偶数が好まれる傾
向 が あるよ う だ。漢語の
背 景にある
中 国 文 化や民俗を
考 証し て い る魯宝元
の『漢語与
中 国文化』
9には、
次 のような記述
がある。
(訳は筆者による)
。 中国人
還 有喜 歓 偶 数的心理。
受 古代素 朴 弁証思想
的影響、人
們 認為 世 上 万 物 都是 由 既対立又統一的両個方面構
成的。
「 天地
」、「日月」
、「
夫婦」
等 々。
最小的偶数是
「二」
、 代表着 既 対立而 又 統一的両個
方 面。因 此
「二」
意味着両方面
的 平衡、
和 諧、事物成
双 成対被 看 是一種美。
「 二」以上的偶数
都 可以分割成一組
一 組的「
二
」、 所以偶 数 為人們
(訳文) 所喜歓。
中国人 は 偶数を好
む。
古代の素
朴 な 弁証思想
の影響 を 受 け て
、 万 物 は全て対立もす れば統一も
し て い ると い う 二面的 創 造 で あ る と 考 え て いる。
「 天地」
、「日月」
、「 夫婦」
な ど が そ の 例 で あ る
。 最 小 の 偶 数 は
「 二
」 で
、 対 立
・ 統 一 と い う 二 面 性 を 具 体 的 に 示 し て いる
。 こ れによって
、「 二
」 は 二面のバラ
ン スと 調和を意味
し
、 物 事が 対 を 形成し 一種の美を
成 し て いると 考 えら れて いる
。「 二」
以上の偶数も、
全 て
「 二」
で 割 り切れ るの で 偶 数が好まれる
の である
。 つまり
、
「対の美」
の 思想から
偶数が尊
ば れ て い る の で あ る。ま た
、同書に
は、
1 0
中 国 人給 朋 友 送礼、
数 量一般是
偶 数
。(中 略
)中 国的 宴 会
、菜的 数 字常常是
四 個
、 八個、十
二 個 等、一般
不会是三
個
、 五個或七
個、這也
与中国人喜歓偶数有
関
。
(訳文)
中国人 が 知り合い
に贈り 物 を す る際、そ
の数量 は 一 般 的に偶数
で あ る。
《中略》
中 国 の 宴 会 で は 料理の数は常
に四品、
八品
、十二品等
で あり、
三 品、五品
、 七 品とい う ことはな
い。
これ も
、 中国人の偶数
好きと関係
が ある。
と あ り、
「 対
」の 思想 が 現 代 中 国に引 き 継 が れ て い る ことが見
てとれる。
宴 会の料理数
は 偶 数が好ま
れ る 傾向に つ い て
、中 国 社 会科学 院 言語 応用 研 究 所が 編纂 した論文
集
『 語 言
・社 会・文化』
1
中の蘇金智によ1
る
「数的灵
物崇拝(数の霊
物 崇拝)
」 に次のよ
うな 記述があ る。
( 傍 点 は
、
蘇金智氏による)。
《金瓶 梅 詞 話
》在 描 写 西門慶 為 其 児 子 訂 親 時 有這麼 一 段記 載:
「 早 往糖 餅 鋪
、早定 下 蒸酥 点心
、 多 用大方 盤
、要用四
、盤蒸 餅
: 両盤果餡
円餅、両
盤 玖瑰元 宵
; 買
四 、盤
鮮 果
: 一盤李 干
、一盤胡
桃
、一盤竜眼
、一盤茘
枝
;四
、盤羮肴
…
…四
、
個金石戒
指児。
」 這個「四」至
今 保 留在民 俗 中、東北
叫「四盒
礼
」。閩南叫「
吃 四色
」。
『金瓶梅 (訳文)
詞話』
1
(第四十二回)2
に 西門慶 が 息子のために縁談
を決 めた 一 段 に次 の よう な 記 載 が あ る
。
「朝早 く 菓子 屋に酥入り蒸
し菓子を注文させ、大
き な 角皿に蒸
し餅を四
、皿注 文 さ せ る。
これは果
物入 りの餅 を 二 皿 と二 皿の元宵だ。そ
れ から、
果 物を四
、皿。
こ れ は干 し スモモ一
皿 と
、クルミ
一皿と
、 龍眼一皿と
、 茘枝一皿
だ
。 それに 料 理を四
、皿……
金 台 の宝 石の 指 輪
四 、つ
買 わ せ た
。
」
この
「四」は今なお、民俗の中に残っ
ている。東北地
方の
「四盒 礼」や、
閩南地方の「吃四色」がそ
うである。
『金 瓶梅 詞話』
は明代の
長編小説
だ。
「対」の思想は
、 中世から近世の庶民文化を経
て
、 現代へと
受け継がれて
いると言え
よ う
。 その 一方 で
、 中 国 社会は
、 陰陽思想に
基 づき、陽 数 で ある 奇数を尊ぶ文化
・ 民俗も 併 存させて
きた。
こ れもまた、
「 重陽節」
に 代 表される五 節句等の形で中国社会に根付いて
い るの で あ る。
(二)数字全般
に 関する検
証 と まとめ 次に、
そ の他の数字
に つい て も 検証を加えて
おき た い
。『 漢語与中
国文化』
1
に、3
「“ 四”
与“
死
” 諧音
、 所 以用于 号 碼時、
往 往不 受歓 迎
。
(
「 四
」 と
「 死」
は 諧 音
( 発 音 が近似の 音)
で
、 番 号 に用いると
喜 ばれな い ことが あ る
。」と の 記 述 が あ り
、
『 中 国 神 秘 数 字
』
1 4
でも、「『
四
』 と いう 発音は『死
』 に似 て い るの で
、 もともと全く関係の
な いこの二
つの 概念のあ
いだに意味
上 のつなが
りがで き る の はきわ め て 容 易 で あ り
、 ひ い て は 避 諱や禁忌 さへ形成
さ れ て い る が 実際には
な ん ら 道 理が な い ので あ る
。」と 述 べられて
い る
。「四」
の発音は
、
〔 s i
〕、 i
「 死
」の 発 音 は
、
〔 s i
〕で i 同 音 で あ る
。 日 本 漢 字 音 で も
「 四
」 と
「死」は
、呉音・漢
音 ともに「
シ」
であるこ
とから、「
四
」から「死」を連
想する風潮
が ある。
また、『中国
神秘数字』
に は
、
「『六』は民俗
文 化で はめ で た い数 字に な っ て い る が
、 それは
『 六
』 と
『 禄』
の発音から来る連想と
かなり関
係がある。
」
1
とあり、5
「 六
」 を 福 禄喜 慶の象徴とし
て い る。
「六」
の 発音は
〔
l ɪ
uk 〕、「禄」の発音は〔luk 〕と近似し、 日 本 漢字音 で も、
「六」
は
〔 呉 音「ロク」・漢音
「 リ ク
」〕、
「 禄」
は〔
呉音・
漢 音
「 ロ ク」〕
で あ る から、
同 音 で あるこ と が確認で
きる。
さらに同
書で は、
中国で
「 九
」 が 尊 重され る 理由につ
いて
、 次 のように述べて
い る。
1 6
重陽節は「重九節」ともい
う。『
易 経』
は「九」を陽
数とし、
「九
」 が 二つ重なれ ば「重九」とい
う の で
、
「 重陽」は実
は
「重九」
である。
「九」と「久」
は 発音 が同 じ で あるうえ形
も 似 て おり、
「九九」の発音は
「 久 久
」と 完全 に一致 す る。人々
が こ
こか ら情感の
色 濃 い連想 を 引 き 出 す の は
、理の 当 然 で ある。
つまり、
「九」
の 発音が
「 長久」
の
「久」
と 同音 であ ることから
、 九月九日
の重陽節
に、
家族や友
人が「長久
」 で あ るこ と を 願う意 味 合いを込
め た と い う の だ
。
「九
」 の 発音は
〔k
ɪ ə
u 〕
、
「 久
」 の 発 音 は k 〔
ɪ ə
u 〕
で あ る か ら
、 同 音 で あ る
。 日 本 漢 字 音 に お い て も
、
「九」と「
久
」は共に漢音
が「
キュウ(キウ
)」
で
、 呉 音 が「ク」と一致して
い る。
こ れ らの ような諧音法
は中 国の 民 俗 の中に 多 く 存 在 す るが
、時代や
地域による
差 異が少 なか らず存在
する と 考 えられる。
以上の数字
に 関する 日 中両国の
イメー ジ を 表 にまと めると、次の
ようになる
。
(三)
高校 生の 数字に 対 するイメージ 高 等 学 校 の 国 語 の 授 業 で 漢 数 字 を 扱 う 際
、 ま ず
、 今 の 生 徒 が 持 っ て い る 数 字 に 対 す る イ メージ と
、日本の伝
統 的な数字
に対するイメ
ージ との間に、
ど のような差
異 が生じ て い る かを把握す
る必要 が あろう。生
徒 の実態を
探 る ためには
、アンケ
ート調査を
実 施 す る と よ い。こ の 調 査 結果を 生 徒自身に
分 析 させれ ば
、図 表の 読 解 力も 付く し、生徒
の 主 体的 な 学 習活 動にも 繋 がる。
次に第二段
階 とし て
、 漢数字の字源に遡って
、成り立ち
や 字義を明らかにして
い く。
こ れ は 生徒に漢
和 辞 典を使 っ て調べさせ
る
。(
利便 性 を 考慮し て 電子辞 書 を使 用し ても良 い だ ろう。しかし、電子辞
書の情報
量は紙媒体の辞書
と比 較すると少な
いの で
、 不十分な点
は 紙媒体の辞
書 で 確 認さ せる必要が
あ る。
)更 に そ れを分 類 し、
字義 それぞれに
対 応した熟語 を挙げさ
せ る
。こ のこ とに より 語 彙 力の向 上 を目指し
た い
。 第三段 階で は
、 古典 作 品 やこ と わ ざ
・ 故事 成 語 で の 用 例 を示し て
、ど のよう な 意味を持
九 六 四 八 数全体
音 が
「 苦
」 に 通 じ る の で 忌 む
。
音 が
「 死
」 に 通 じ る の で 忌 む
。
字 形 が 末 広 が り で 縁 起 が 良 い
。
奇 数 好 き
。 中 国 伝 来 の 陰 陽 道 の 影 響
。
( 七 五 三 の 祝 い
)
日本
音 が
「 久
」 に 通 じ る 吉 数
。
( 長 久
) 音 が
「 禄
」 に 通 じ る 吉 数
。
( 福 禄
)
時 代 や 地 域 で 差 が あ る
。
音 が
「 発 財
」 の
「 発
」 に 通 じ 縁 起 が よ い
。
偶 数 好 き
。
( 対 の 美
) 元 来 は 奇 数 崇 拝
。
( 陰 陽 道
)
中国
っ て い る かを一 つ 一つ検 証 し て いく。
こ の時、
已 に学習 済 み で 生徒に 馴 染 み のある教
材を 用いれば生
徒 の理解も
早く、漢
数字に着目す
る意義も
伝わり易い。
生徒には
、常に今学習
し て い る 内 容 の有効 性 を伝え、何のための学習かを理
解させる
こと が 重 要 で ある と考 える。
ま ず
、 第一 段階 とし て生 徒 の 言語 環 境 の実 態 を 把 握 するた め にア ンケート
調 査 を 実 施 し た。その
結果をまと
め ると次 の よう にな る
。
﹁漢字に関するアンケート調査(漢数字編)﹂結果と分析
調査対象
: 一 年生~三年生
二七四人 実施時期
: 二
〇〇九 年 九月
①
「 一
」
~
「 九
」 の 中 で 一 番 イ メ ー ジ の 良 い 数 字 と
、 そ の 理 由 を 答 え て く だ さ い
。
②
「 四
」 は「
死」
に通じ る とい うことを知っ
てい ま す か。
知って い る…四十一%(
知 っ て いるが 拘 らな い
… 八十%
) 知らな い
…五十九
%
③「九」は「苦」に通
じるということを知って
い ます か。
知っ て い る
… 二十六%
知らな い
…七十 四
%
④「
八」
は 末 広が りで 縁 起 が 良 いと いうこ と を知っ て います か
。
知っ て い る
… 三十五%
知らな い
…六十 五
% 日本社会で
生活し て いる生徒たち
なの で
、
「七」・
「五」・
「三」が好きだと
い う 回 答 が 多 いだ ろ う と 予 想 し て い たが
、 必 ずしも そ うで はな か っ た。意 外 だ っ たの は
、
「 四
」が 好きだと
答え た生徒が
二番目に
多 か った こ と だ
。 その 理 由 を見 て み ると
、ス ポーツや漫画
九 八 七 六 五 四 三 二 一
好きな数字
6 11 19 18 9
24 29 13 3 %
一 番 大 き い 数 だ か ら
。 算 用 数 字 の 形 が 好 き
( 横 に す る と 無 限 大
)
。 末 広 が り で 縁 起 が 良 い。
ラ ッ キ ー セ ブ ン だ か ら
。 V 6
( ア イ ド ル
)
、 シ ッ ク ス セ ン ス
( 映 画
)
、 第 六 感 で 霊 感 が あ り そ う
。 区 切 り が い い か ら
。 四 つ 葉 の ク ロ ー バ ー
、 野 球 の 四 番 打 者
、 F 4
( 漫 画 の 登 場 人 物
)
。
何 と な く
。 算 用 数 字 の 形 が 好 き
。 芸 能 界 で 流 行 っ て い る か ら
。
( お 笑 い 芸 人 の ネ タ
)
。
割 り 切 れ て 切 り が い い
。 ペ ア に な っ て い る か ら
。 一 番 だ か ら
。
理由
等、自分
たち の身近な
ものから
影 響 を受けて
いることがわ
かる。
四 つ葉のク
ローバー
も含 め、西洋
の 影 響も 大き いようだ
。 どの数 字 にも共 通 し て あ げ られ て い た の は、「自
分の誕生日
だ から」
や
「出 席番号 だ か ら」といっ
た
、伝統と
は関係のな
い 個人的な
理由 が多 いこと で あ っ た。
この アンケ ー ト調査結
果か ら、富岳
館高校 生 は、
日本の 伝 統 的 な数 字の 意味と は 違 っ た 感覚を持
って いるこ と がわ かっ た
。 また、
伝 統的な意
味づけは半
数 以上の者が
知 らず
、知 って いて も あ ま り 拘 ら な い こ と も わ か っ た
。 こ の 結 果 は
、 少な か ら ず 今 の 若 者 に 共 通 して 見られる
傾 向 で は な い かと 思わ れ る
。 生徒の 実 態をある程
度 把握したところで
、次に実際の授業
で の 指 導 法 を論じて
い き たい。
全 て の漢 数字について
取り上げて
い くこと は
、授業時間
数 の関係も
あっ て 困 難が伴 う
。そ こで
、より 効 果的に生
徒に提示で
き るよ う に
、①古典分
野 で の 使用例が多い、
② 日中両国 間 で 意味の違い
が顕 著 で ある。と
い う 視点から、
「 三」、
「 四」、「九」の三つの
漢 数 字 に焦点 を 絞っ て検 証し て い く こ とに する。
(四)
「 三」の字義と
使用例 最初に
、 生徒のアンケート
で も
「好き」と
い う回答が
一番多かった
「三」から見
てい き たい。「
三
」 は、中 国 の古典作
品中で の 使用例が多く
、漢詩等の
韻 文にも多く
登 場 す る数 字で あ る
。
1 7
『説文解字
』 に、
「三は、天、地、人の道な
り」
とある よ うに、中
国の伝統的な万
物 生 成の思想と関わる数と
され て い る
。 その理由は、
「二」
は
「天、
地
」 で あ り
、 こ れに
「人」
を加 えた「
三
」 で 万物 の構成要
素「天、地、
人」が そ ろ う から で あ る。
また、「
鼎
」 の三本 足 や「三脚
」 の よ う に
、
「三」は
安 定 を示す 数 で あ ると も 考 えられ る。支 え が 三 つあるこ
と で 安定 した状態とな
るからだ
。
「 三
」 の 字 義 を
、
「 会 意
。 一 と 二 と の 合 字
。 三 は 陰 陽 の 数 を 兼 ね て 言 う
。 転 じ て
、 三 以上の数
の義を表し
、 しばしばと
訓 ずる。
」 と説明して
い るのは
、『大漢和
辞 典
』 で ある。
ここから
、「三」
が 単 なる実数の三を表
す の ではなく
、「三以上の、多い
」 の意や、
「無 限」の意
をも内包す
る ことが 見 て と れる。
また、
漢 和辞典によっ
ては、
「 三」を
「 会意
」で は な く
、
「 指 事
」 で
「 一
」 を 三 つ重ね たも のと して いるも の も あ る
。
1
以上の8
こ とを高等
学校の授業
で 取り扱 う 際 は
、次 の 四 つ に分類して
生 徒に提 示 すると理
解しやす
い。
(一)みつ
。 二と三 の 間の数。
…「三角」
、「三脚」
(二)
み っつめ
。
…「三人称」
、「 三枚目」
(三)しば
し ば。たび
たび。数が
多 い。…「
三顧の礼
」、
「三省」
(四)その分野
を 代表する三つのもの。…「三大~」
この うち
、(三)の「三」
が「
しばしば・たびたび」のよ
うに三 以 上の数を
表すとい
う 概念は、
高 校 生の理 解 の中には
ほ と んどな い
。しかしな
が ら、中 国 の古典や
故事成語
では 頻繁 に登場 し て い る
。 そ こ で
、
「 国 語総合」
及び「古典」
で 扱 って い る 教 材 を中心に
、そ の使用例
を 見 てくこ と にする。
まず は
、『 論 語』
の 中 か ら 取り上げ
てみたい。
孔 子自 身も
『易経』
を愛 読し
「 韋 編 三 絶」
した ということが
『史 記』
・ 孔 子 世 家に記載され
て い るが
1
、『論語』中でも「三」は頻 9
繁に 使用 さ れ て い る の で 列 挙して み ると
、
①
「 吾 日三省吾身。」(私
は、毎日何度
も我が身
を 反 省し てい る。)〔
学而〕
②「
子在 斉 聞 韶三月
。 不知肉 味
。
」
(先 生 が 斉の国 に 滞在し数
ヶ月間韶の音楽を聞
き
、 肉 を食べ て も味が わ か ら な い く らい感 動 した。)〔述而〕
③
「 季文子三思而
後 行
。
」(季文子
は何度も
考 え て
、 その 後、
実 行 する。
)〔公冶
長
〕 等
が ある
。また、「
三 軍」を「
大軍」とす
る 例もある
。
④「三軍
可 奪 帥也
。 匹 夫 不 可奪 志也
。」
(大 軍で も
、 その総大将を奪いとる
ことはで
きる が、一人の人
間で もその志を奪
い 取るこ と はで きな い
。
)〔子罕
〕
、
⑤「
子行 三軍
、則誰 与
。」
( 先 生が 大軍 を率 い る と し たら 誰 と 一緒に な さ い ます か
。
)〔述 而
〕
『論語』
以外の
、 いわゆる定番
教 材 中からも
「三
」 を 実数として
で はなく
、「三以上の
、 多い」の意で
使用して
いると 考 え ら れる例 を 挙げて み ると、
①
「范増数目項王、挙
所 佩玦、以示之者三
。」
(范増はしばしば項王
に目く ば せし、腰にお
び て いる佩玦を挙げ
て
、何度も項
王 に 示した。
)
〔 史記・項
羽本紀〕
②
「 我嘗三仕三見逐於君。
(中略
) 我嘗 三戦三走。」
(私は嘗て
幾 度か主 君 に仕えて
、 そ の度に 主 君に追放
さ れ た。(
中 略)私は
嘗 て 幾 度か戦場
に 赴 き
、 そ の 度に 敗走 し た
。)
〔史記・
管晏列伝〕
③「
不期年
、千里馬
至 者三。」
(一年も
た た な い う ち に、千里
馬 を 連れて 来 る者が 何 人も いた。
) 〔十 八史 略・ 先従 隗 始
〕
④「呉三
戦 三 北。」
(呉は幾
度も戦 い
、 そ の度に敗北
し た。)
〔十 八史 略
・ 臥薪嘗 胆
〕
⑤「烽火
連 三 月、家 書 抵万金」
(戦 いの のろ しは何ヶ
月も続き
、 家 族から の 手紙は大
金にあたいす
〔春望 る。)
・ 杜 甫
〕 な
ど が あ る。
これ らの用 例 を見ると、
「 三
」 を 単 独 で 使 う よ り も、
「 三
~ 三
~」
と 連 用し た 場合の方が
、「度重な
る」と い う 意 味合いが
濃くなる
傾向がある
よ うだ。
また、
「 三」
の発展 形 で、
「三千」
が実 数 で は な く、
「白髪 三 千丈」
2
のよ0
うに誇張表 現と 考え ら れ る 場 合 も あ る
。
①「後 宮 佳 麗 三千 人 三千寵愛
在一身」
(後 宮の 美女三千人のあまたいるが
、そのあ
またの寵愛を一身に
受 けて いる
。
)
〔長 恨歌
・ 白 居易〕
②「
飛流 直 下 三千 尺 疑是銀河
落九天」
(激しいしぶきをあげて
、 まっす ぐ に流 れ 落 ちる こと 三 千 尺 も の 高 さ。まるで
、 銀 河 が大 空の て っ ぺんから落
下 したのか
と思 われた
。
)〔望廬
山瀑布・李白〕
2 1
③「
去矣三 千 里
、 送 君 生 暮 寒」
( 行 って し ま う が よ い
。 三 千 里 の 彼 方 へ
。 そ う 云 って 君 を 送 る と 寂 し く な り 夕 暮 れの 寒さが 身 に し みる
。
)
22。
以上①~③の例は、
実 数 で はな い可能性
が 高 い。
しか し、
「楚有神
亀、
死已三 千 歳矣
。
」
(楚に神
亀がい て
、死 ん で から已に三千年が
経っ て い る。
)〔 荘子
・ 秋 水〕
2
のように3
「三 千
」 が実数 と 思 わ れる場 合 も あ る。
これ らの 例 を 見 て くる と、
総じ て、
「 三 千」
は 慣 習 的 に「非常に
多 い」の意
味を表 す 可 能 性があ る ことがわ
かる。
では、
「 三」の 用 いられ方に日中間
での 異 同 は な い の かと言 え ば、多 少 の差異は見
ら れ る。例え
ば
、 日本で は
「三」を
「 取 るに足 ら な い も の
」 の意と し
、 その用例
と し て
「 早起 きは三文
の 得
」
、
「二 束三文」
等が 挙げら れ て い る。
2
しかし、4
『大漢和辞典』
を 始めと する、
日 本でお こ なわ れ て い る 漢和辞典にはこのよ
う な 記 述 は な い
。た だし、日
本の 用 例 とし て挙げられ
て いることはある。した
が っ て、
中国におい
て は
、
「三」を「
取 るに 足ら ない 価値の低い
も の」と す る感覚は、
日 本 よ り も 希薄 で あ った と 考 えられる。
(五)「
四」の字義と
使用例
「四」は、日中両国間で
の 好き 嫌 い 評価が異なり、
な お か つ、日本
国内にお
い て も世 代 間のイ メ ー ジ のギ ャ ッ プ が 激しい数
である。まず初めに、その字源に遡っ
て 検証し て い く こと、
『 大漢和辞典』には次のようにある。
指事
。 口 は 四 方
・ 四隅の形
に 象 り、八 は 之を分 か つ 意
。即ち
、 四は 四方 又 は 四隅を そ れぞれ四
つ の 部分に分
け た 形を 表 し
、陰の數
四の意を
示す
。 他にも
、「会意。
口と分かれ
る しるし
『 八
』 を合わ せ て
『 呼吸
』を 表し て い た字 で あ る
。」
2
とす5
る 解 釈もある。
意味を生
徒に提示
す る 際には、次
の 三つに分
類 す る。
(1) よ
。 よつ。
よ つ つ。…
「四角
」
、
「 四季
」 (2)
よたび
。 よたび す る
。
…「四拝
」 (3)
よも
。 周 囲 の どこ も
。
…「
「 四 顧
」
、「
四 散
」 この
(3)の よ う に
、
「 四
」 が「
周 囲 のす べて
。東 西 南 北 の 総 称
」と い う 意 味 を 持 つ 例 か ら 見て いく と
、
①「方且
四 顧 而物 應
。
」「方に
且 に 四顧 して 物をして
應 ぜ しめん と す
。
」
(あちこ
ち 見 まわ して 物が 應じる よ うにす る だろう。
)
〔荘子
・ 天地〕
②「昨夜
雲四散、千
里 同月色」
「 昨 夜 雲 四 散 し、千里
月 の 色を同 じ うす
」
(昨夜は
雲が 四方に 散 っ て
、千 里 の 彼方で も 同じ月の
色が眺めら
れ た。)
〔 白 居 易
・ 初 與 元 九別後云
云 帳 然感 慨因 以此 寄 詞
〕 などがあ
る
。 また、
「 四面楚 歌
」の「四面」ように、
「四
~」と 他 の 語 と 結 び つ い て
「周 囲
」 を表 す 場合 もある。
『史記』
では、
漢 代の大文章
家 の司 馬相如と、そ
の妻である卓文君
が駆 け落 ちし た く だり に こ の「四
」 の 用 例が登 場 する。
①家居徒
四壁 立。
(《 相 如 と 文 君は成都
に帰ったが
、》周囲には壁
が立 って いるだ け であった。
)
〔史記・司馬相如
伝第五十七〕
ここで 言 う
「 四壁」と
は、家の周
囲 の壁のこ
とで
、転 じて 家具の 無 い貧家を
意 味 する。
定番とな
って いる教材では、
『 説 苑
』 の
「圉 人之罪
」 にもこ の 様な 例がある
。
2
斉の景公6
に仕えた晏
子 の名宰 相 ぶりが伝え
ら れ て いる エピソードである。
②
「 汝使吾君以
馬 故殺 人、聞 於 四隣諸侯
。」
(お まえは吾
が君に馬ご
と きの こと で人 を殺した
とい う風聞 を 近隣の 諸 侯 に 広め さ せ る。)〔正諫〕
また、韻文に
も、
次のよ う なも のがある。
2 7
③「
天 似 穹 廬 籠蓋 四 野
」
(天はパオに似
て 周囲 を覆い尽くす。)
〔勅勒歌〕
「 穹 廬
」 とは、
内 蒙古の 遊 牧民の住
居 で ある丸 屋 根のテン
トの 意。当時、
天 とは、
パ オ のよ うに 円く地上を
覆 うもの と 想像され
て い たよ うで あ る
。 次に、
日 本での使
用例を見
て い き た い
。 教科書 で 取り上げられ
て い て、
また、生徒に
も よく 読ま れて いる 作 家
、夏 目 漱 石 の 作品中 か ら 指 摘す る
。
①「夜が
明 け て
、 四 隣
(あ たり
)が しずかな
所為 かと も 思 ったが
、
」
28
②「とう
に帰るべき
所 を、
わざと 尻 を据 えて 四方八方(
よ もやま
) の話をした。」
29
漢文に明る
か った漱石の作品
中 には、その
他 にも多数の
使 用例が 見 られる。
以上の こ と か ら、「四」を「周囲
」と捉え
る 用 法は中 日 両国間で
差異はな
いと 言えるだ ろう。しかし、
日 本で は、い つ 頃か ら
「 死」に通ず
る とし て忌 む よ うに なったのか不
明 で
ある。
(六)
「 九
」 の字義と
使用例 最後に「
九
」 について
検証した
い
。
「九」
は 元来
、「
重 陽 節」
で も 知られる
ように、
中 国で は 基 数 の 中で 一 番 大き い陽 数 と して 尊 ば れて いたが
、 現 在 の 日 本で は 逆 の 評 価が持 た れ て いる 数で ある。
し かし、古
代中国 で は
、 中国全土
を「九州」と
称し て い た程、「
九」
を尊ん で い た よ う で あ る。
字源につ
いて
『大漢 和 辞典』に
例 を 取れば
、 次 の よう に あ る。
指事
。屈 曲の形を
寫 し て
、 極 数
、即ちこ
こ の つ の 義 を 示す
。易で は 陽の数 と す
。
ま た
、「 九
」 を 曲 が っ た 臂 を 表 す
「 象 形
」 で あ る と し て い る 説 も あ る
。
3
意味は、0
おお よそ次の三
つ に分類さ
れる。
(1) ここ のつ
。 こ のたび
。
…「九 日
」 (2)
数の極 ま り。たく
さ ん
、数が 多 い こ と。
…「九死」
(3) あつま る
。あわせる
。 次に、
「 九
」 の使用例
を挙げ て いきたい。
ま ず、
(2)の例 か ら 見 て いく
。
『 楚辞
』の篇名 に
「 九 歌
」・
「 九 辯」が あ る が
、実 際
『 楚 辞
』 に は
「 九」
が頻 繁 に 使 用 さ れ て い る の で、
その中か
ら 例 を示す
。
①「亦 余 心 之 所善 兮 雖九死其
猶 未 悔」
「亦た余が
心 の善しとする所、九
死 すと雖も
其れ猶ほ
未だ 悔いず」
〔離 騒 第 六〕
こ の 部 分 に つ い て
、
『 文 選 六 臣 註
( 劉
良 注
) 』
に
、
「 九
、 數 之 極 也
、 以 此 遇 害
、 雖 九 死 無 一生
、未 足 悔 恨」(
九 は
、 數の 極 み な り
、此 を以て 害 に 遇 ひ
、 九 死 に 一生 無 し と雖も、未 だ 悔 恨 す る に 足らず)とある。こ
れ が、現 在 でも よく 使われ て いる「九死に
一生を得
る」
の出典 で あ る。
②
「 九折臂而
成醫兮」
「九たび
臂を折り
て 醫 と成り」
〔九 章
・ 惜 誦
〕 こ
の
「九 たび臂を折る
」は、転
じて
「経験を
積 む
」の意で
ある。こ
れには、「
三 た び 肱 を折る」
3
とい1
う言い方もある
が
、 こ の
「 九」
も
「 三」
も 実 数 で はなく、
「数 が多い
」 と いう 意 味 だ
。 こ の 他 に も
、
『 楚 辞
』 に は 枚 挙 に 暇 が な い ほ ど 多 く の 用 例 が み ら れ る の で
、 代 表 的 な もの を あ げておく。
③
「 忽 若去而 不 信 兮、至今
九 年 而不 復」