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国語科「話すこと・聞くこと」を活用したコミュニケーション能力の育成

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国語科「話すこと・聞くこと」を活用したコミュニケーション能力の育成

―「協同的な学び」を支える対話力と支持的風土を創る―

高度学校教育実践専攻 実習責任教員 阪 根 健 二 教職実践力高度化コース 実習指導教員 金 児 正 史 柏 原 知 子

第1章 課題設定の理由・経緯 第1節 問題意識

1.「話すこと・聞くこと」に対する問題意識

『学習指導要領』「国語」には,「A 話すこと・

聞くこと」「B 書くこと」「C 読むこと」とあ るが,学校現場では「C 読むこと」に多くの時 間が費やされている傾向がある。『朝倉国語教育 講座 2読むことの教育』「まえがき」(小田・浜 本・松山,2006)には,「現行では、周知のよう に、〈A 話すこと・聞くこと、B 書くこと、C 読むこと〉とあるように表現活動を先行させる 示し方になっている。これは、国語科授業がな お戦前の傾向を受け継ぎ、依然として〈読むこ と〉中心におこなわれている状況に対処すべく、

表現能力の育成の重要性を強調する意図を示す ものである。」とあった。つまり,「話すこと・

聞くこと」指導の強化が,現在の学校教育に求 められていると言えるであろう。

2.コミュニケーション能力に対する問題意識 現代の子どもは,SNSや仲の良い友人間で は文字や会話によるコミュニケーションを充分 に取っているが,友人関係は希薄で本質的なコ ミュニケーションとは言い難い。日本経済団体 連合会の『新卒採用(2013 年4月入社対象)に 関するアンケート調査結果の概要』(2014 年1 月)によると,採用選考時に重視する要素は 10 年連続で「コミュニケーション能力」が第1位 であった。さらに近年,「コミュニケーション

能力」と「主体性」の比重がますます高まって おり,企業が採用選考にあたって,より重視し ていることが指摘されている。そのような社会 の要請を受けて,「コミュニケーション能力」の 育成は,社会に出る前の学校教育においても重 要なものになってきていると言えるだろう。

3.「支援を要する生徒」に対する問題意識 友人との付き合い方やコミュニケーションの 取り方が苦手な生徒同士がもめているケースを よく見かける。近年では発達障がいの生徒への 理解が進んできたが,境界線上の生徒も含めた 有効な手立てを考える必要がある。また,外国 にルーツを持つ生徒が増加してきた。会話に困 難を抱える生徒の場合,周囲とのコミュニケー ションがうまく取れず,不登校や問題行動につ ながることも考えられる。以上のような生徒に 限らず,様々な理由で学習面や人間関係上の「困 り感」を抱える「支援を要する生徒」に,授業 の中で人間関係を構築しつつ,「わかる」授業づ くりを工夫する必要がある。そのことが,他の 生徒にとっての「わかる」や,学級の支持的な 風土づくりにつながるのではないだろうか。

第2節 アセスメントの概要と実習校の課題 1.実習校の概要

実習校は,市の郊外に位置する中規模の中学 校である。校区内は近年マンションや一戸建て 住宅が急増している。一方で,児童養護施設や 低所得者向けの団地などが立地しており,厳し

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い家庭環境に育つ生徒が少なくない。

2.実習校の実態と課題

教職員は,キャリアを積んだベテランで困難 に対応できる人材が配属されている。新規採用 の中心は講師経験のある教員で,いわゆる即戦 力が赴任している中学校である。

生徒は,人なつこく元気で友だち思いが多く,

行事や部活動に熱心に取り組む。グループで学 習することを好み,成績を上げたいという前向 きな意欲はある。しかし,課題に粘り強く取り 組むことが苦手な生徒がおり,学習意欲に欠け たり授業規律が守られなかったりするなど,規 範意識に関することが一部で問題となってい る。また,家庭学習が不充分な生徒が多い。

実習校は,伝統的に人権学習と「なかまづく り」に力を入れて取り組んでいる。また,平成 25 年4月より「協同学習」の実践を全学年全教 科で行っている。「『協同的な学び』が成立する には,〈聴き合う関係〉を基盤とする対話的コミ ュニケーションが重要である」が,先に示した ような生徒の風潮が大きな課題になっている。

第3節 先行研究・先行事例

1.「話す・聞く」に関する先行研究・先行事例

『朝倉国語教育講座 3話し言葉の教育』の

「まえがき」(白石・山元,2004)には,「戦後第 二の教育改革といわれる平成の学習指導要領改 訂以来、教育界は、激変する時代の様相と子ど もの変化に対応した新たな教育のあり方を求め て変化し続けてきた。国語教育界も例外ではな く、読解を中心とした文学言語の学習に重点を 置いたものから、人と人とのコミュニケーショ ンの仲立ちを担う言語の役割に注目した、「伝え 合う」活動重視の学習への転換が模索されてい る。」とある。また,山元(2004)は,聞こうとす る意欲や話し合いを楽しむといった「土台を築

く」ことの大切さについても提唱している。

2.コミュ二ケーション能力の育成に関する先 行研究・先行事例

文部科学省のコミュニケーション教育推進会 議(審議経過報告)『子どもたちのコミュニケー ション能力を育むために~「話し合う・創る・

表現する」ワークショップへの取組~』が平成 23年8月に発表されている。その中に,「多文化 共生時代の21 世紀においては、このコミュニケ ーション能力を育むことが極めて重要であ」り,

「コミュニケーション能力を学校教育において 育むためには、①自分とは異なる他者を認識し、

理解すること、②他者認識を通して自己の存在 を見つめ、思考すること、③集団を形成し、他 者との協調、協働が図られる活動を行うこと、

④対話やディスカッション、身体表現等を活動 に取り入れつつ正解のない課題に取り組むこと、

などの要素で構成された機会や活動の場を意図 的、計画的に設定する必要がある。」とあった。

文科省では平成22年度から芸術家等を学校へ派 遣し,芸術表現体験活動を取り入れたワークシ ョップ型の授業を展開する事業を実施している。

第2章 実践の目的・実践の設定課題 第1節 目標の設定

「話すこと・聞くこと」の教材を活用しなが ら,生徒のコミュニケーション能力を育成する。

第2節 仮説の設定

①「話す・聞く」「伝え合う力」の能力の育成に 焦点を当て,コミュニケーションスキルを向上 させる。コミュニケーション能力の育成は他の 教科や道徳・学活・総合などにも活かされ,「協 同的な学び」の基盤になることが期待される。

②授業の中に「なかまづくり」「学級づくり」「学 習規律」の要素を盛り込み,傾聴や対話,討論 などを通して周囲との相互理解を深める。友人

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関係を構築することで集団の学習意欲が向上し,

学び合い支え合う支持的な風土のある学級組織 につながることが期待される。

第3章 実践の計画

1.学校課題FWでの授業実践対象学年の設定 1年生に焦点をしぼった理由は2つある。

①3小学校から入学する1年生は,これまで小 学校で構築した人間関係をリセットし,新しい 人間関係を構築する。コミュニケーションは欠 かせない能力であり,コミュニケーションスキ ルを養うには最適の時期と考えたからである。

②新しい友人との距離感がうまくとれず,コミ ュニケーションを苦手とする生徒が周囲ともめ ているケースがある。1年次にコミュニケーシ ョン能力を養うことは3年間の中学校生活を送 るうえで大変重要であり,周囲との人間関係を 構築することで不登校やいじめなどを未然に防 ぐことにもつながると考えたからである。

2.学校課題FWでの実践内容の具体例 国語科「話すこと・聞くこと」領域において 教科書を再構成する。週4回の授業のうち1時 間を「話す・聞く」の時間として固定し,系統 性を活かした授業を展開する。授業はすべて公 開とし,他教科の教員に見てもらうことで「言 語活動」の参考になればと考えた。FWⅠでは,

「協同的な学び」の基礎づくりとして相手の話 を「聞く(聴く)」ことと「話す」ことを徹底し て指導する。FWⅡでは,全教科で行っている

「協同的な学び」の学習形態に慣れた頃なので,

活発なグループ活動を行う。

第4章 実践の結果

第1節 学校課題フィールドワークⅠ 1.国語科「話す・聞く」の授業開発・実践

1年団の国語担当教員(新任講師)の授業に 週2日(水・金)T2として授業補助を行うか

たわら,週1回を目標にT1で授業実践を行う ことができた(計8回×1年4クラス)。

2.スキルの向上と「なかまづくり」

実習校で実践中の「協同的な学び」につなが る活動を国語の授業の中に取り入れた。NHK for School『お伝と伝じろう』の 10 分の放送時間 は,授業に無理なく取り入れることができた。

課題に根気よく取り組むことが苦手な生徒でも

『お伝と伝じろう』はしっかり視聴し,スキル の練習に取り組んでいた。また,番組主人公と 一緒に学んだコミュニケーションスキルを他の 時間でも活用していたことが,アンケート記述 からも見て取れた。「なかまづくり」は,行事の ときだけでなく日常の教育活動の中に入れるこ とを目指して取り組んだ。授業の中に5~10 分 程度の短時間でできるエクササイズや,教材の 中に活動を取り込んでいった。楽しむあまり国 語の授業から脱線しそうになるのが反省点だが,

学級全体が活発で明るくなったり,生徒同士の 話しやすい雰囲気をつくったりするなど,グル ープで活動する場面では大きな効果があった。

3.UDの視点を取り入れた教材等の工夫

「支援を要する生徒」にとって分かりやすい,

そしてみんなにとって分かりやすい教材・教具 等を工夫し作成した。ワークシートと板書をリ ンクさせることで,「どこに書くか分からない」

と言う生徒や未記入の生徒はほとんどいなかっ た。また,グループ活動時はホワイトボード等 の思考ツールを活用した。生徒に「学習形態カ ード」「指示カード」を見せることにより,大き な声での指示や注意が減った。「授業の流れ」は,

生徒に学習の見通しを持たせるために授業が始 まる前に板書した。黄色の磁石を左にずらすこ とで,今,何の活動をしているかひと目で分か るようにした。以前なら,授業中に何をするか

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分からず周囲に尋ねる声が聞こえていたが,こ れを板書するようになってからはなくなった。

第2節 学校課題フィールドワークⅡ

1.国語と学活・道徳・総合の授業開発・実践 国語の「話すこと・聞くこと」の授業を基礎・

基本とし,応用編として学級活動・道徳・総合 的な学習の時間でコミュニケーションに関する 授業実践を行い,学級担任や他教科の教員との 連携を図った(計6回×1年4クラス)。

2.スキルの向上と「なかまづくり」

コミュニ ケーシ ョンス キルを養 う教育 番組

『お伝と伝じろう』に加え,授業内容に応じて NHK(Eテレ)『学ぼうBOSAI』『道徳ドキ ュメント』等も活用した。映像があることで,

「支援を要する生徒」をはじめ,すべての生徒 が興味や関心を持って授業に取り組むことがで きた。「なかまづくり」は応用編として,授業中 の話し合いやバズセッションの「テーマ」とし て取り入れた。グループで意見を交流する中で 他者理解が促進され,友達の意外な一面を発見 したり,よいところに気づいたりすることがで きた。特にバズセッションに取り組んだ時期か らは, 学校行事等との相乗効果もあり,学級全 体の雰囲気が次第に温かいものになっていった。

3.UDの視点を取り入れた教材等の工夫 FWⅠに同じである。ホワイトボードに加え てコミュニケーションシートを班に1セット配 布し,付せん紙を使った意見の交換等を行った。

4.絵本の読み聞かせの実践

チャイムが鳴ったらすぐに読み聞かせを始め るため,生徒は速やかに着席し静かに話に聴き 入った。「聞くこと」指導だけでなく,落ち着い て授業を始めることにもつながった。

第5章 実践の成果と課題

第1節 アンケートと分析結果(生活・学び)

14 項目の質問(9項目は学校生活全般に関す るもの・5項目は筆者の授業に関するもの)に 4つの選択肢から1つ選ばせた。(数字は人数)

9月と 11 月を比較すると,すべての項目で肯 定的な回答が上昇した。特に「人の気持ちが分 かる人間になりたいと思う。」は「いいえ」が1 人もいなくなった。行事等とコミュニケーショ ンの学習が相乗効果をもたらし,自尊感情・学 習意欲ともに改善効果があったと言えるだろう。

スキルが定着し向上するにつれて,自信を持っ て友達と対話できるようになったと考えられる。

その結果,周囲から認められたり友達のよい面 を発見したりする機会が多くなることで学級の 温かい支持的な風土が構築され,「協同的な学び」

にもよい影響を与えているのではないだろうか。

第2節 アンケートの実施と分析結果(絵本)

どの絵本が心に残ったか複数回答で選ばせた ところ,一人平均 3.7 冊に○をつけた(全 13 冊)。

『チリンのすず』が最多の 51.1%から支持され,

読み聞かせ時に生徒の笑顔や反応がある絵本よ り,静かに聴き入っていた絵本が上位に入った。

【引用・参考文献】倉澤栄吉・野地潤家 監修(2004)

『朝倉国語教育講座 3話し言葉の教育』朝倉書店 40

23

70 56

22 44

7 18

0% 50% 100%

11月 9月

⑨生徒の間で話し合う活動を通じて、自分の考え を深めたり、広げたりすることができている。

はい どちらかといえば、はい どちらかといえば、いいえ いいえ

90 71

42 49

4 9

3 12

0% 50% 100%

11月 9月

⑬国語の「話す・聞く」の授業で学習したこと は、将来、社会に出たときに役に立つ。

はい どちらかといえば、はい どちらかといえば、いいえ いいえ

参照

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