Komazawa University 『
義
雲
録
』に
お
け
る
『宏
智
録
』引
用
の
意
義
二 七 六石
川
力
山
Kom 三1z三1w三1 Umversrty 一 、 は じ め に 建 長 五 年 ( 一 二 五 三 )道
元 滅 後 の 永 平寺
教 団 は 、 道 元 の弟
子 懐弉
・ 義 介 ・ 義 演等
が 相次
い で 永 平寺
に 晋 住 す る が 、 世 に 三 代 相 論 と 呼 ば れ る 内部
分
裂 や 、永
仁 五 年 ( 一 二 九 七 )、 山 門 と 方( 1 ) 丈 を 残 し て す べ て 焼 失 す る 火 災 を
経
過
し 、 さ ら に 正 和 初年
( = 二 → 二 頃 )義
演 が 永 平寺
を 退院
し 、 次 い で 示 寂 す る や 、 永 平寺
は つ い に 無 住 状 態 と な る に い た り 、 い わ ゆ る 「 大 破 滅 法( 2 ) に 及 ぶ 」 と 表 現 さ れ る 破 局 に 当 面 し た 。 こ の 事 態 に
際
し て 、 永 平 寺檀
越 波 多 野 氏 の懇
請 に よ り 荒 廃 し た 永 平 寺 に 晋 住 し 、 そ の 復 興 に 当 っ た の が 、 寂 円 の 法 嗣 で 宝慶
寺 二 世義
雲 ( = 一 五 三 〜 = 三 三 二 ) で あ る 。 さ て 、 正和
三 年 (;
= 四 ) 十 二 月 二 日 、 永 平 寺 に 晋 住 し た 義 雲 は 、 宝 慶 寺 の 什物
ま で 持 ち こ ん で 永 平 寺 の 復 興 に つ と ( 3 ) め 、 ま た 道 元 の 『 正 法 眼 蔵 』 ( 以 下 『 眼 蔵 』 と 略 称 ) の書
写 蒐 集 な ど に も努
力 し 、 後 世 、 永 平 寺 中 興 の 祖 と称
さ れ る こ と は 周 知 の ご と く であ
る 。 そ し て 、 こ の 義 雲 の宗
教 思 想 に つ い て の従
来
諸 先 学 の見
解
は 、 義 雲 は 終 始 一 貫 し て 道 元 の遺
風 顕彰
に つ と め 、 そ の宗
教 は 全 く道
元 の 思 想 宗 教 と 軌 を に す る も の で あ る と嬉
あ る い は ・義
雲 が 最 も 力 を そ そ い だ の は・ 道 元禅
の 再 興 で あ り 、 そ の 本領
は終
始 一貫
道 元 禅 の恢
興 を 願 う慕
( 5 ) 古 の 精 神 に 貫 か れ て い た と 評 価 さ れ 、 堂
塔
伽 藍 の復
興 と と も に 、 道 元 禅 の 再 興 と い う 、 ま さ に 物 心 両 面 に わ た る、名
実
共 に 中 興 た る に想
応 し い 人 と さ れ る の が 、今
日 の 一 般 的 義 雲 像 で あ る 。( 6 )
た し か に 義
雲
は 、 若 く し て道
元 の 『 眼 蔵 』 の浄
写
に志
し 、 諸 方 に 散 逸 し て い た 『 眼 蔵 』 を 蒐 集 し て 、 義 雲 本 と 呼 ぽ れ る 六 十 巻 本 の 『 眼 蔵 』 を 編 集 し た と さ れ る こ と や 、 あ る い は 、嘉
暦 四年
( → 三 二 九 ) 七 十 七 歳 の 時 、 『 眼蔵
』 の 一 巻毎
に 、 そ の 要 旨 を 端 的 に 詠 み こ ん だ い わ ゆ る 『 正 法 眼蔵
品 目 頌 』 を作
っ た が 、 そ の
序
に は、 正 法 眼 蔵 密 伝 密 付 、 古 之 与 今 嫡 仏 嫡 祖 。 永 平 元 祖 入 宋 穿 鑿 五 葉 之 根 帯、 帰 朝 能 為 一 天 之 蔭 凉。 怠 殺 婆 心、 以 和 字 柔 漢 語、 奇 妙 善 巧、 令 入 不 累 丈 言 。 如 石 含 玉、 似 地 繁 山 。 聊 綴 卑 語 述 其 大 旨 耳 。 後 昆 此 入 字 不 打 開、 妙 心 源 未 通 徹、 一 大 蔵 経 少 林 妙 訣 、 夢 也 未 見 在 矣。 嘉 暦 四 年 中 夏、 曽 孫 義 雲 和 南 拝 書。 ( 『 義 雲 録 』 巻 下、 日 . Q。 N 噂゜ ミ O 鵬 ) と あ り 、 後 昆 の者
が 宗 旨 の 根 幹 と し て 『 眼蔵
』 に 依 拠 す べ き こ と を 明 記 し て い る こ と 、 さ ら に は 、 道 元 の 山 居 の 偈 に な ら っ て自
ら 作 っ た 、 や は り 「 山 居 」 と 題 す る 偈 二 首 は 、 吉 祥 峯 頭 不 人 間 莫 作 四 時 遷 変 看 兀 坐 寥 寥 無 対 待 青 山 深 処 白 雲 閑 林 下 幽 閑 一 世 貧 無 由 向 外 間 疎 親 清 風 白 月 賓 兼 主 去 就 平 常 不 誑 人 ( → ° oob 。 戸 ま Q。 σ ) と い う も の であ
り、 世俗
の 紅 塵 を 避 け て 兀 々 と 深 山 に打
坐 す る道
元 の 風 格 と ま さ し く 一 枚 に な っ た 姿 を 髣髴
さ せ る も の が あ り 、 こ れ ら を 通 し て 見 る 限 り の 義 雲 像 は 、道
元 の 投 影 を 離 れ る こ と が でき
な い 。 し か し 、 こ こ で少
し く 厳 密 に こ れ ら の事
柄
を 検 討 し て み る な ら 、 こ の よ う な道
元 と 一 体 と し て と ら え ら れ る 義 雲像
と い 『 義 雲 録 』 に お け る 『 宏 智 録 』 引 用 の 意 義 ( 石 川 ) う も の は 、 あ く ま で も 義 雲 の 行動
な い し そ の 周 囲 を 形 成 す る 客 観状
況 か ら 推論
に よ っ て導
き 出 さ れ た 義 雲 像 であ
り 、 義 雲 の い か な る 思 想 的宗
教 的 面 が道
元 の 立 場 と 軌 を 一 にす
る の か と い う こ と に つ い て 、 具 体 的 に い う な ら 、 義雲
の宗
教
思 想 禅 思 想 を 知 る た め の唯
一 の 資 料 で あ る 『義
雲 和 尚 語録
』 ( 以 下 『 義 雲 録 』 と 略 称 ) の い か な る 点 が 道 元 の 宗 教 と 軌 を 一 に す る の か と い う 点 に つ い て は 、 さ ほ ど 明 確 な 論 証 が あ る わ け で は な い 。 逆 に 、 『 義 雲 録 』 を 読 ん で まず
驚
か さ れ る の は 、 中 国 曹 洞 宗 の 一 派 で あ る宏
智
派 の 祖宏
智
正 覚 ( 一 〇 九 一 〜 一 一 五 七 ) の 語 録 か ら の 引 用 が実
に 頻 繁 に 出 て く る と い う事
実
で あ る 。 道 元 の 語 録 か ら の引
用 も 多 く 見 ら れ る が 、 そ の頻
度
数
に お い て 『永
平 広 録 』 を は る か に 凌 駕 す る 『 宏智
録 』 か ら の 引 用 例 を無
視
し て 義 雲 の 宗教
思 想 を 論 ず る こ と は も は や で き な い で あ ろ う 。 ま た 、 道 元 が 『 眼蔵
』 ( 春秋
) で 、 あ る ひ は 野 猫 児、 あ る ひ は 田 庫 奴、 い ま だ 洞 山 の 堂 奥 を 参 究 せ ず、 か つ て 仏 法 の 道 闘 を 行 李 せ ざ る と も が ら、 あ や ま り て 洞 山 に 偏 正 等 の 五 位 あ り て、 人 を 接 す と い ふ 。 こ れ 胡 説 乱 説 な り 、 見 聞 す べ か ら ず。 た だ ま さ に 上 祖 の 正 法 眼 蔵 あ る こ と を 参 究 す べ し 。 ( 岩 波 丈 庫 本、 中、P
器 b。 ) と ま で 言 っ て 排 斥 す る 五 位 説 に つ い て も 、 義 雲 は し ば し ぽ こ れ を 用 い て 為 人 接 衆 し て お り 、 さ ら に 、道
元 が 『 眼蔵
』 ( 四 二 七 七Komazawa University Kom 三1z三1w三1 Umversrty 『 義 雲 録 』 に お け る 『 宏 智 録 』 引 用 の 意 義 ( 石 川 )
禅
比 丘 ) に お い て 、 こ の 語 が あ る こ と に よ っ て 『 六 祖 壇経
」 ( 7 レ を 偽 書 と ま で 断 号. 口 し た 「, 見 性 」 の 語 に つ い て も 、 義 雲 の 「 永 平 寺語
録 」 の 上 堂 語 に は 、 上 堂、 挙、 僧 問 雪 峰、 声 聞 人 見 性 如 夜 見 月、 菩 薩 人 見 性 如 昼 見 目 。 未 審 和 尚 見 性 如 何 。 峯 打 ゴ 、 下。 其 僧 後 問 岩 頭 。 頭 打 三 掌 。 雪 豆 拈 云、 応 病 設 楽。 且 与 三 下 。 若 拠 令 而 行、 合 打 幾 多。 師 日、 永 平 見 性 不 同 声 聞、 不 同 菩 薩、 不 同 三 大 老 漢。 諸 人 著 眼 見 取 。 卓 柱 杖 三 下、 乃 下 座。 ( 『 義 雲 録 』 巻 上、 → ° Q。 b。 ウ 膳 p。 ) と あ り、 決 し て 見 性 の 語 を 否 定 は し て い な い 。 こ の 外 、 従 来 義 雲編
集 と 見 ら れ て い た 六 十巻
本 「 眼 蔵 』 に つ い て も 、 近年
で は 道 元 親 集 の第
一 次 編集
の時
点 に ま で さ か の ぼ る 説 も提
起 ( 8 ) さ れ て お り 、義
雲 と 六 卜巻
本 『 眼 蔵 』 を結
ぶ 線 は 再 検 討 を せ ま ら れ て い る状
態 に あ る 。 こ の よ う に考
え て く る と 、 従 来 感 覚 的 心 情 的 に と ら え ら れ て い た 義 雲 の 人 間 像 、 な い し 禅 思 想 そ の も の に つ い て も 、 さ ら に 詳 細 な 分 析 検 討 を 通 し て 、 改 め て 整 理 し な お す 必 要 が 生 じ て く る 。 こ の こ と は と り も な お さ ず、 道 元 の 禅 が そ の 後 の 児 孫達
に い か に 受 け と め ら れ 、 い か に受
け 嗣 が れ た か と い う こ と の 実 態 を 究 明 す る た め の 、 換 言 す れ ば 、 中 世 禅 思 想 研 究 の た め の 基 礎 的 作 業 に 外 な ら な い 。 本 論 は、 こ れ ら 諸 問 題 の 整 理 の 第 一 段階
と し て 、 『 義 雲 録 』 に お け る 『 宏 智 録 』 か ら の 引 用 の 持 つ 意 味 を 検 討 す る こ と に 二 七 八 よ り 、義
雲 の 禅 思想
形 成 に お る 宏智
の禅
へ の か か わ り と い う も の を 探 っ て み よ う と す る も の で あ る 。 二 、 『 宏 智 録 』 引 用 の類
型 『 義 雲 録 』 に お け る 『 宏智
録 』 か ら の 引 用 例 は 、 そ の 主 な も の を 附録
と し て 後 に 一覧
に し 掲 載 し て お い た が 、 こ れ ら の引
用 は 、 お お よ そ 三 つ の 類 型 に 大 別 分 類 で き る と 思 わ れ る 。 そ の 第 一 の 類 型 は 、宏
智
の 文 学的
趣味
の 汪 温 し た 文 芸 性 豊 か な 詩 句 を そ の ま ま 借 り て 、 上 堂 や 小参
の 最 後 に 、 結 語 あ る い は 一 転 語 と し て使
用 し て い る 例 で あ る 。 所 で 、 元 来 、 言詮
を 絶 し 直 観 を 重 ん ず る 禅 宗 に お い て 、 言 語 を 象微
的 比 喩 的 に 用 い る 韻 文 に よ り禅
の 宗 旨 を 表 現 し よ う ( 9 ) と す る傾
向 は 唐 代 以 来 伝統
的 な も の であ
っ た 。 宋 代 ・ 元 代 に は禅
僧 と 士 大 夫 階 級 と の 接 触 も 深 ま り 、 さ ら に 、貴
族 ・官
僚 出身
の 禅 僧 も 多 く輩
出 し た こ と に よ り 、 漢 詩 は も と よ り 、 四 六 丈 な ど の 俗界
の 純 文 学 も そ の ま ま禅
林
に 移 植 さ れ 、禅
宗 と ( 10 ) 女 学 と の 密 接 な 関 係 は 助 長 さ れ た 。『
宏
智 録 』 に お い て も こ の 傾 向 は 顕 著 で 、 義 雲 は こ の 宏 智 の 詩 句 を 多 く 借 用 し て い る の で あ る 。 た と え ば 、 翡 翠 踏 翻 荷 葉 雨、 鷙 鷺 衝 破 竹 林 煙。 ( 附 録II
) と い う 句 は 、 『 宏 智 録 』 に は し ば し ば 出 て く る慣
用 句 で あ り、 他 に も 、清 白 十 分 江 上 雪、 鄭 中 雖 有 隠 形 術、 風 月 寒 清 古 渡 頭、 金 縄 捜 転 泥 牛 鼻、 水 自 竹 辺 流 出 緑、 莫 道 鯤 鯨 無 羽 翼、 謝 郎 満 意 釣 魚 船 。 争 似 全 身 入 帝 郷 。 夜 船 撥 転 瑠 璃 地 。 半 夜 馳 来 海 上 耕 。 風 従 花 裏 過 去 香。 今 月 親 従 鳥 道 回。 ( 附 録
Il
) ( 附 録11
) ( 附 録11
) ( 附 録11
) ( 附 録Il
) ( 附 録1
ー ) な ど の引
用 が あ る 。 こ れ ら は い ず れ も 、 真 如 の 世界
の 風 光 を 詩 的 に表
現
し た 句 句 で あ り 、 義 雲 は こ れ を そ の ま ま 引 用 し て 、 自 己 の 一 転 語 と し て 用 い て い る の で あ る 。 こ れ ら 慣 用 句 の 引 用 は、 義 雲 の 禅 と宏
智
の 禅 の 直 接 的 な 関 係 を 示 唆 す る も の で は な い が 、 義 雲 が 『宏
智 録 』 の内
容 を 熟 知 し 、 そ の 禅 に 深 く 傾 倒 し て い た こ と を 端 的 に物
語 っ て い る と い う こ と が で き よ う 。 第 二 の類
型 と し て は 、 宏智
の 上 堂 や 小参
の 語 を、 殆 ん ど そ の ま ま 引 用 し て 義 雲自
身 の 示 衆 語 と し て 説 示 し て い る例
で 、 附録
11
ω 圖 個 納 な ど は そ の 典 型 的 な も の で あ り 、 義 雲 独 自 の 宗 旨 の 挙 揚 は 何 も 見 ら れ な い 。 ま た 、 附 録Ii
圍 圃鱒 な ど も 、 や は り 宏 智 の 語 を 殆 ん ど そ の ま ま 引 用 し 、 さ ら に 義 雲 自 身 の 語 も あ る 程 度 含 む も の で あ る が 、 基 本 的 に は 宏 智 の 宗 旨 を 出 る も の で は な く 、
後
述 す る 瓦 位 説 に 関 す る 引 用 も こ の 部 類 に 属 す る も の と 見 ら れ る 。 第 三 の 類 型 と し て は 、 明 ら か に 宏 智 の 語 や 宏 智 の 主 張 を 意 『 義 雲 録 』 に お け る 『 宏 智 録 』 引 用 の 意 義 ( 石 川 ) 識 し な が ら 、 こ れ を自
家薬
籠 中 の も の と し て 充 分 に 咀 嚼 し 、 そ の 内 容 を 駆 使 し て自
己 の 宗 教 を 説 示 し て い る 例 で 、 附 録I
l
圃 鬮 な ど が こ の部
類 に 相 当 す る と 思 わ れ る 。 そ し て 、 こ の 第 二 ・ 第 三 の類
型 に 相 当 す る引
用 例 が 、 義 雲 の宗
教 思 想 を検
討
す る 上 で最
も 重 要 な 示 唆 を与
え て く れ る で あ ろ う 。 三 、 宏 智 の禅
と 義 雲 の 禅 さ て 次 に 、 こ れ ら の 宏 智 の 語 の引
用 例 を 通 し て 義 雲 の禅
思想
の 特 徴 を 検討
す る わ け で あ る が 、 そ の 前 に 、道
元 も 古 仏 と ま で 言 っ て 尊 崇 し 、 そ の 「 坐 禅箴
」 な ど も 高 く 評 価 す る 宏智
の禅
の 特 徴 に つ い て 略 述 し て お く 必 要 が あ る 。 そ の た め に は 、 や は り 当時
の禅
界 の 双 壁 と 目 さ れ る 臨 済 宗 楊 岐 派 大慧
宗 呆 ( 冖 〇 八 九 〜二
六 三 ) の禅
と 対 象 さ せ て 把 握 す る の が 至 当 で あ ろ う 。 所 で 、 こ の 宋代
看
話 禅 の 組織
を 大 成 し た 大 慧 の 禅 は 、 「 大 ( 11) 疑 の 下 に 大悟
あ り 」 と い う 前 提 の 下 に 、 た と え ば 『 大 慧 書 』 「 答 呂舎
人 」 に は 、 千 疑 万 疑 只 是 → 疑 。 話 頭 上 疑 破、 則 千 疑 万 疑 一 時 破。 話 頭 不 破、 則 且 就 上 面 与 之 厮 崖。 若 棄 了 話 頭、 却 去 別 文 字 上 起 疑、 経 教 上 起 疑、 古 人 公 案 上 起 疑、 日 用 塵 労 中 起 疑、 皆 是 邪 魔 谷 属 。 第 冖 不 得 向 挙 起 処 承 当。 叉 不 得 思 量 卜 度 。 但 著 意 就 不 可 思 量 処 思 量。 心 無 所 之、 老 鼠 入 牛 角 便 見 倒 断 也。 又 方 寸 若 閙 、 但 只 挙 狗 子 無 仏 性 性 二 七 九Komazawa University Kom 三1z三1w三1 Umversrty 『 義 雲 録 』 に お け る 『 宏 智 録 』 引 用 の 意 義 ( 石 川 ) 話 。 仏 語 祖 語 諸 方 老 宿 語、 千 差 万 別、 若 透 得 箇 無 字、 一 時 透 過、 不 著 問 人。 若 「 向 問 人 仏 語 叉 如 何、 祖 語 又 如 何、 諸 方 老 宿 語 又 如 何、 永 却 無 有 悟 時 也 。 ( → ・ ミ 唱・ ω O 蝉 ) と
あ
る よ う に 、 主 体 的 な 疑 問 を 起 こ し て 話 頭 を 思 量 す る 、徹
底 し た 看 話 に身
を 置 き、 ま た 『 同 』 「答
富
枢 密 」 に は 、 我 此 門 中、 不 論 初 機 晩 学、 亦 不 問 久 参 先 達、 若 要 真 箇 静、 須 是 生 死 心 破 、 不 著 做 工、 生 死 心 破 則 自 静 也 。 先 聖 所 説 寂 静 方 便、 正 為 此 也。 自 是 末 世 邪 師 輩、 不 会 先 聖 方 便 語 耳 。 左 右 若 信 得 山 僧 及、 試 向 悶 処 看 狗 子 無 仏 性 話 。 云 云 。 ( → ・ ミP
露 N 国 ) と あ る よ う に 、 す べ て の 活 動 が 生 死 の 問 題解
決 の た め に あ る と し 、 常 に こ の 生 死 の 岩 頭 に 立 っ て 盤 石 な る 悟 り の 上 に 腰 を お ち つ け 、 当 処 当 処 に そ の 悟 り の 境 界 を 実 現 せ し め て ゆ こ う とす
る 、 極 め て 動 的 な 、 大 機 大 用 的 な禅
と し て と ら え る こ と が で き る 。 こ れ に 対 し て 宏智
の禅
は 、 『 宏 智 録 』 ( 巻 八 ) 「 黙 照 銘 」 に は ・ 黙 黙 忘 言、 昭 昭 現 前 。 鑒 時 廓 爾、 体 処 霊 然 。 霊 然 独 照 。 照 中 還 妙 。 露 月 星 河、 雪 松 雲 嬌 。 晦 而 弥 明 、 隠 而 愈 顕 。 鶴 夢 煙 寒、 水 含 秋 遠。 浩 劫 空 空、 相 与 雷 同。 妙 存 黙 処、 功 忘 照 中。 ( → 」 ◎。 O 」 OO 餌 ) と あ り 、 ま た 『 同 』 (巻
六 ) に も 、 真 実 做 処 唯 静 坐 黙 究、 深 有 所 詣。 外 不 被 因 縁 流 転、 其 心 虚 則 容、 其 照 妙 則 準 。 内 無 攀 縁 之 思、 廓 然 独 存 而 不 昏、 霊 然 絶 待 而 自 得。 ( 漕 『 ° ト Q◎ 口. 刈 ω o ) 二 八 〇 と あ る よ う に 、 外 縁 に よ る 流 転 を被
ら ず 、 あ く ま で も 綿 密 安 祥 、黙
々 と 静 坐 し 深 く自
己 の 心 の内
に 契 当 す る 所 に こ そ 真 実 の 悟 り の 世 界 が あ り 、 そ れ は 晦 ま そ う と し て も い よ い よ 明 ら か に、 隠 そ う と し て も ま す ま す. 顕 わ れ る と い う 、個
人体
験 的 な 自 受 法 楽 の 世 界 を 説 く 、 極 め て 静 的 な 性 格 を 持 っ た 宗 風 と し て と ら え る こ と が で き る 。 こ の よ う な 宏 智 の禅
を 前 提 に し て 、 『義
雲
録
』 の 『 宏 智録
』 引 用 を み て み る と、 た と え ば 、 『 義 雲 録 』 ( 巻 上 ) 「 宝 慶 寺 語 録 」 の 、 上 堂、 廓 爾 而 霊、 本 当 自 照、 寂 然 而 応、 大 用 現 前。 木 馬 嘶 風 不 運 今 時 之 歩 、 泥 牛 出 海 耕 破 空 劫 之 春 。 諸 人 相 委 悉 麼 。 玉 人 招 手 処、 復 妙 在 廻 途。 ( → ° 。。 b。 》° & Oo ) ( 附 録11
ω 参 照 ) と い う 上 堂 語 は、 黙 々 と し て 外縁
に渉
ら ず 、 深 く自
己 に省
す る と こ ろ に 自 ら 寂 然 と し て 大 用 が 現 前 す る と い う 、 ま さ に 宏 智 の 黙 照禅
の 性 格 を 極 め て 端 的 に 示 し て い る箇
所 の引
用 で あ る が 、義
雲
は こ の 宏智
の 語 を 一 句 一 字 変 え る こ と な く 、 自 己 の 宗 旨 と し て 説 示 し て い る 。 ま た 同 じ く 「 宝慶
寺 語録
」 の 、 上 堂、 世 尊 有 密 語、 迦 葉 不 覆 蔵 。 死 中 有 活、 不 被 空 礙。 活 中 有 死、 不 被 物 礙。 有 不 是 有、 無 不 是 無 。 芭 蕉 和 尚 道、 禰 有 柱 杖 子 与 禰 柱 杖 子、 禰 無 挂 杖 子 奪 倆 柱 杖 子 。 畢 竟 作 麼 生。 心 地 含 諸 種、 普 雨 悉 皆 生、 既 悟 華 情 巳、 菩 提 果 自 成 。 ( 目 ゜ o。 b。 唱. & Oo 〜 一 甥 ) ( 附 録II
参 照 )と い う 上 堂 語 も 、 宏
智
の禅
の 、 生 死 ・ 有 無 の 二 見 対待
の境
に と ら わ れ ず 、 随 処 ・ 当 処 に 自 由 に 出 生 入 死 す る 世界
を そ の ま ま 借 用 し た も の で 、 こ こ で も義
雲 は 、 自 己 の 見 解 を 全 く 附 加 す る こ と が な い 。 さ ら に 「 宝慶
寺
語 録 」 の 、 結 夏 上 堂. 我 住 則 汝 同 住、 我 行 亦 汝 共 行 。 打 得 諸 仏 要 機 而 結 制、 拈 提 祖 師 心 印 而 護 生。 山 高 不 礙 雲 倚、 如 父 如 子 。 谷 虚 有 応 声 響、 為 弟 為 兄、 既 得 恁 麼 和 同、 還 有 什 麼 行 履 。 良 久 云、 瓊 樹 寸 寸 宝、 栴 檀 片 片 馨。 ( → ° Q。 b。 勺゜ 凸 No ) ( 附 録Il
ω 参 照 ) と い う結
夏 上 堂 の 語、 及 び 「 永 平 寺 語 録 」 の 、 結 夏 上 堂、 尽 乾 坤 大 法 界、 是 我 一 箇 身 便 能 禁 足 。 遍 塵 刹 諸 有 情 、 是 我 真 箇 漢 方 解 護 生。 禁 足 也、 歩 歩 不 妄 移、 護 生 也、 心 心 不 妄 動。 所 以 道、 以 大 円 覚 為 我 伽 藍、 身 心 安 居、 平 等 性 智。 仏 仏 到 此 同 帰 、 人 人 住 此 法 爾 。 還 要 委 悉 麼 。 一 輪 皎 月 大 円 覚、 刹 海 三 千 鉄 一 団 。 歩 歩 点 空 無 朕 跡、 人 人 喚 為 我 伽 藍 。 ( → ・ 。。 卜。 戸 & 鼻 ∩ ) ( 附 録 It 参 照 ) と い う結
夏 上 堂 の 語 は 、 い ず れ も 宏 智 の 「 天 童 山 上 堂語
録 」 の結
夏
上 堂 語 を 骨 子 と す る 示 衆 で 、 父 子 の 如 く、 兄 弟 の 如 く 、 衆僧
和合
す る こ と に よ っ て 安 居 の 成 就 を期
せ ん と し た も の で あ り 、 大 慧 の 禅 が 、 常 に 生 死 の 二 字 を 鼻尖
頭 上 に つ け 、 一 大 疑 国 を 起 こ し て 公 案 ・ 話頭
に 参 ず る 看 話 を 策 励 す る の と は 好 対 照 を な す、宏
智
の 綿 密 安 祥 の 宗 風 を、 義 雲 は 深 く肯
っ て ( 12 ) こ れ ら の 語 を 引 用 し た も の で あ る 。 『 義 雲 録 』 に お け る 『 宏 智 録 』 引 用 の 意 義 ( 石 川 ) こ の よ う な 『義
雲 録 』 に お け る 『 宏 智 録 』 か ら の引
用 を 通 し て 見 ら れ る 義雲
の 禅 思 想 は 、 そ の 殆 ん ど が 宏智
の 宗 旨 を 出 る も の で は な い が 、 こ れ に関
連 し て 、義
雲 が し ば し ば用
い る鏡
と像
の 比 喩 に つ い て 考 え て み た い 。 即 ち 、 「 宝 慶寺
語 録 」 の 入寺
開 堂 語 に 、 上 堂 云、 百 川 向 大 海 而 到、 到 了 無 異 名。 一 心 随 万 境 而 転、 転 後 住 本 位。 將 鏡 鋳 像、 鑑 照 不 得。 將 像 鋳 鏡、 光 明 自 新 。 主 不 出 閭 外 招 遍 身 之 手 接 往 来、 賓 受 用 途 中 活 通 身 之 眼 鑑 今 古。 ( → ° Q◎ N や゜ & Oo ) ( 13 ) と あ る 。 そ し て 、 こ こ で い う 照 ら し う つ し 出 さ れ る像
も 、照
ら す 主 体 で あ る 鏡 も、 決 し て 別 個 の も の で は な い と 解 さ れ る 。 す な わ ち 、 経 典 や 公案
・ 話 頭 と い う よ う な 鏡 で も っ て 心 地 を 照 ら し 、自
己 と い う 不 動 の 像 を 確 立 す る と い う意
味
で は な く 、 照 ら す 鏡 も、 実 は 自 己 本 具 の 用 で あ り 、 像 は そ の体
と考
え て よ い 。 而 し て 、 外 縁 に 渉 る こ と な く 、 静 坐 黙 究 す る と こ ろ に 、 自 己 の 光 明 ( 大 用 ) が お の ず と 顕 現 す る と い う意
に解
す べ き で あ ろ う 。 し た が っ て 、 こ の 鏡 と 像 の 比 喩 は 、鏡
と い う 用 の 面 を 立 て れ ば 、 か え っ て そ の は た ら き は く ら ま さ れ て し ま い 、 逆 に 、 一 切 処 に受
用 す る 本 源 の 体 に安
坐 す る と こ ろ に こ そ 光 明 が お の ず と 輝き
出 す 世 界 が あ る と い う 意味
で あ り 、 こ の よ う な禅
は 、 ま さ し く宏
智 の 黙 照 的 性格
を 極 め て よ く 表 現 し て い る と い え よ う 。 『 義 雲 録 』 の こ の 「 宝慶
寺
入寺
二 八 一Komazawa University Kom 三1z三1w三1 Umversrty 『 義 雲 録 』 に お け る 『 宏 智 録 』 引 用 の 意 義 ( 石 川 )
開
堂
録 」 の 上 堂 語 に 引 き 続 い て 、 「 上 堂 、 廓 爾 而 霊 、 本 光 自 照 、 寂 然 而 応 、 大 用 現 前 、 云 云 。 」 ( 附 録II
ω 参 照 ) と い う 、 『 宏 智 録 』 そ の ま ま の 引 用 の 上 党 語 が存
す る が 、 こ の 二 種 の 上 堂語
は 恐 ら く 同 一 時 期 の も の と 見 ら れ る か ら 、義
雲 が 鏡 と像
の 比 喩 を 用 い る の は 、 宏智
の こ の 語 が 前提
に な っ て い る と も 考 え ら れ る 。 こ の語
は 小 参 で も 引 用 さ れ る ( 附 録Il
参 照 ) 。 四 、 義 雲 の 禅 と 五 位 説 次 に 、 『 義 雲 録 』 に お け る 特 異 な 五 位 説 の受
容
に つ い て考
え て み る 。 周 知 の ご と く 五 位 説 と は 、 中 国 曹 洞宗
の 祖 洞 山 良 价 ( 八 〇 七 〜 八 六 九 ) ・曹
山 本 寂 ( 八 四 〇 〜 九 〇 一 ) に よ っ て 創 唱 唱 道 さ れ た 機 関 の → で 、曹
洞 宗 旨 の 指 標 と も な る も の で あ り、 日本
曹洞
宗 宏 智 派 の 東 明慧
日 ( = 一 七 二 〜 一 三 四 〇 ) や 東 陵 永 瑛 ( 14ゾ へ 〜 . 三 六 五 ) も 自 己 の 宗 旨 の 旗 印 と し て 挙 揚 し て お り 、 道 元 派下
に お い て も 、 瑩 山 紹 瑾 ( 一 二 六 八 〜 一 三 二 五 ) を は じ め 、特
に 峨 山 韶 碩 ( 一 二 七 五 〜 . 三 六 五 ) 以後
重 要 視 さ れ 、 中 世 に お け る 道 元 下 の曹
洞 宗 を 特 色 づ け る も の は 、 道 元 の 宗 旨 の 参究
で ぱ な く 、 こ の 五 位 に 重. 点 が 置 か れ て い た と も 言 い 得 る →面
が あ り 、 こ の よ う な 風 潮 が 近 世 初 頭 ま で 続 く の で あ る 。 し か し 、 既 に 見 た よ う に 、 こ の 五 位 説 を 道 元 は 、 少 く と も 形式
的
な 面 で は 宗 旨 の根
本 と す る こ と を 激 し く 嫌 っ て い る 。 と こ 二 八 二 う が、 あ れ ほ ど 道 元 を 追 慕 し た と さ れ る 義 雲 も 、 『 義 雲 録 』 に よ る かぎ
り 、 五 位 説 に 依 処 し て な し て い る 上 堂 示 衆 が い く つ か 見 ら れ る の で あ る 。 と こ ろ で 、 従 来 義 雲 の 五 位 説 に つ い て は 、 こ れ を 誰 か ら 承 け た か は 全 く 不 明 で あ り 、 ま た 内 容的
に も 、 峨 山 や 南 英謙
宗 ( = 二 八 七 〜 一 四 六 〇 ) に よ っ て さ か ん に 唱道
さ れ た 五 位 説 と 〔 154 も 異 な る と い わ れ て い る 。 す な わ ち 、 洞 山 ・ 曹 山 に よ っ て 創 唱 さ れ た 五 位 説 は、 正 中偏
・ 偏 中 正 ・ 正中
来 ・ 偏 中 至 ・ 兼 中 到 の 五 か ら な る、 内容
的 に も 元 来 は傍
提
・ 兼 帯 を特
色 と す る 偏 正 五 位 説 で あ る が 、 こ の 五位
説 が 臨 済 宗汾
陽善
昭 ( 九 四 七 〜 一 〇 二 四 ) や、 そ の 法 嗣 石 霜 楚 円 ( 九 八 六 〜 一 〇 三 九 ) に よ っ て 依 用 さ れ る と、 第 四 位 「 偏 中 至 」 の名
称 が 「 兼中
至 」 に 変 え ら れ、 さ ら に 内 容 的 に も 、 正 中来
中
心 の 著 る し く功
勲 的 な も の に 変貌
し て 、 中 国 の 大 陽 警 玄 ( 九 四 三 〜 一 〇. 一 七 ) や投
子 義 青 ( → 〇 三 二 〜 一 〇 八 三 ) ・ 宏 智 正 覚 ( 一 〇 九 一 〜=
五 七 ) を は じ め 、我
国 で 行 わ れ た 五 位 説 も 、殆
ん ど が 兼 中 至 ・ 偏 中 至 混 用 か 、 石 霜 五 位 を そ の ま ま 受 け 継 い だ功
勲 的 性格
が 強 い も の で 、 洞 山 ・ 曹 山 本 来 の 五 位 説 は 、 近 世 末 期 の 洞 水 月 湛 ( → 七 二 八 〜 } 八 〇 三 ) の 『 五 位 顕 訳 元 宇脚
』 に 至 る ま で 見 直 さ れ ( 16 ) な か っ た と さ れ る の が今
日 の 一 般 的見
解
で あ る 。所
が、 『 義 雲 録 』 の 「 宝 慶 寺 語 録 」 に は 、 上 堂、 衆 流 投 大 海、 鹹 淡 味 同。 四 夷 帰 一 朝 、 君 臣 道 合。 所 以 四 種分 主 賓、 五 位 列 偏 正 。 雕 然 如 是、 来、 出 則 便 為 人 。 立 偏 則 偏 外 無 正、 万 物 各 偏 中 至。 我 逢 人 則 便 出、 出 側 便 不 為 人。 立 正 則 正 外 無 偏、 五 位 倶 正 中 不 見
道
我 逢 人 則 便 不 出、 良 久 云. 偏 正 不 曽 離 本 位、 無 生 那 渉 語 因 縁。 ( → ’ QQ 卜∂ 眉゜ 虧 らo ) と あ り 、 第 四 位 を 明 ら か に 「偏
中 至 」 と し て お り 、名
称 ・ 形式
的 に は 勿 論 、 内 容 的 に も 、 正 位 を 立 て れ ば 偏 位 は 立 た ず 、偏
位 を 立 て れ ば 正 位 は 立 た な い 、 不 回 互 の 世 界 を 説 示 し て お り、 汾 陽 や 石 霜 の 正 中 来 中 心 の 五 位 と は 異 な る 、洞
山 ・ 曹 山 本 来 の 五 位 に 近 い 説 を 唱 え て い る と み ら れ る 。 こ の 五 位 説 を 義 雲 が誰
か ら 承 け た は 全 く 不 明 で あ り 、 た だ 義雲
の参
学 の 経 過 か ら み て 、 師 の 寂 円 ( 一 二 〇 七 〜 = 一 九 九 ) が 、従
来 比 定 可 ( 17 ) 能 な唯
一 の 人 で あ っ た 。 所 で 、 既 に 述 べ た よ う に 、 宏 智 に も 五 位 説 の挙
揚 が あ る が 、 そ の内
容 は 、 『宏
智 録 』 ( 巻 八 ) の 「 五 位 頌 」 に よ れ ば 正 中 偏 偏 中 正 正 中 来 兼 中 至 兼 中 到 と あ り 、 し 小 参、 霽 碧 星 河 冷 浸 乾、 海 雲 依 約 神 山 頂、 月 夜 長 鯤 蛻 甲 開、 覿 面 不 須 相 忌 諱、 斗 柄 横 斜 天 未 暁、名
称 の 上 で は や は り 石霜
五 位 を 踏襲
し て い る 。 『 宏智
録 』 を 子 細 に 検 討 し て み る と 、 僧 問、 如 何 是 正 中 偏 。 半 夜 木 童 敲 月 戸、 暗 中 驚 破 玉 人 眼 。 帰 人 鬢 髪 白 垂 絲、 羞 対 秦 台 寒 照 影 。 大 背 摩 天 振 雲 羽、 翔 游 鳥 道 類 難 該 。 風 化 無 傷 的 意 玄、 光 中 有 道 天 然 異。 鶴 夢 初 醒 露 気 寒、 旧 巣 飛 出 雲 松 倒。 し か巻
一 の 「 小 参 」 に 、 師 云、 天 共 白 雲 暁 。 進 云、 如 何 是 偏 『 義 雲 録 』 に お け る 『 宏 智 録 』 引 用 の 意 義 ( 石 川 ) 中 正。 師 云、 水 和 明 月 流。 進 云. 如 何 是 正 中 来。 師 云 、 莫 道 鯢 鯨 無 羽 翼、 今 日 親 従 鳥 道 廻。 進 云、 如 何 是 偏 中 至 。 師 云、 当 機 不 回 互 、 敵 面 無 後 先 。 進 云、 如 何 是 兼 中 到。 師 云、 宝 殿 無 人 不 侍 立、 不 種 梧 桐 免 鳳 来。 進 云、 五 位 巳 蒙 師 指 示、 向 上 還 更 有 事 也 無 。 師 云、 有。 進 云、 如 何 是 向 上 事 。 師 云 、 乍 可 截 舌、 誰 敢 当 頭 。 ( 、 『 ° ホ や゜ H 薗 ) と あ り 、 明 ら か に 第 四 位 を偏
中 至 と し、 不 回 互 を 内 容 と す る 問 答 が 見 ら れ る 。 し か も 、第
三 位 正 中 来 の 問 に 対 す る 宏 智 の答
語 「 莫 道 鯤 鯨無
羽 翼 、今
日 親 従 鳥 道 廻 」 と い う 句 を、 義 雲 は 他 所 で こ の ま ま 借 用 し 、 小 参 の 結語
と し て 用 い て お り ( 附 録1
ー0
参 照 ) 、 義 雲 は 宏智
の こ の 小 参 の 語 を 明 ら か に熟
知 し て い た も の と 解 す る こ と が で き る 。 さ ら に 、 義 雲 の 「 良 久 云 、 偏 正 不 曽離
本 位 、無
生 那 渉 語 因縁
」 と い う 句 も、 実 は 宏 智 の 小 参 の 結 語 を そ の ま ま 仮 り て 用 い て い る の で あ り、 義雲
は こ の 句 を 他 の 上 堂 の 結 語 と し て も 用 い て い る ( 附 録11
ω 参 照 ) 。 宏 智 の 五 位 説 に も と つ く と 見 ら れ る 説 示 を も う 一 例 掲 げ る と 、 や は り 「 宝慶
寺 語 録 」 に あ る、 上 堂、 裡 蔵 身。 万 機 休 罷、 千 聖 不 携。 冖 言 相 契、 古 今 】 揆。 借 位 明 功、 体 在 用 処、 借 功 明 位、 用 在 体 処。 暗 中 著 眼、 明 所 以 道、 矧 臨 臣 位 猶 帯 凝 然、 子 就 父 時 尚 存 孝 養。 玉 関 未 透 正 迷 一 色、 提 露 那 丈 彩 。 還 要 委 悉 麼 。 傍 観 者 噛、 当 局 者 迷。 二 八 三 宝 印 全Komazawa University Kom 三1z三1w三1 Umversrty 『 義 雲 録 』 に お け る 『 宏 智 録 』 引 用 の 意 義 ( 石 川 ) ( 酒 門 . o◎ 悼 ℃° 象 ω 曽 ) と い う 上 堂 語 は 、 所 謂 宏
智
の 四借
と よ ば れ る 機関
を 依 用 し た も の で あ る が 、 こ の 説 示 も 、 『 宏 智 録 』巻
四 の 、 上 堂、 問、 一 点 霊 然 不 覆 蔵、 明 明 老 蚌 夜 呑 光。 箇 時 撥 転 機 輪 也。 体 用 由 来 総 不 妨。 如 何 是 借 功 明 位、 用 在 体 処。 師 云、 光 在 体 時 常 湛 湛、 体 含 光 処 却 霊 霊 。 進 云、 如 何 是 借 位 明 功、 体 在 用 処 。 師 云、 紛 擾 擾 時 常 隠 隠、 閙 噌 噛 処 却 閑 閑 。 進 云、 夜 月 有 輝 含 古 渡、 白 雲 無 雨 裹 秋 山 。 師 云、 邯 鄲 学 唐 歩。 師 乃 云、 青 山 不 用 白 雲 朝、 白 雲 不 用 青 山 管 。 雲 常 在 山 山 在 雲 。 青 山 自 閑 雲 自 緩。 諸 禅 徳、 若 恁 麼 体 得 方 知 道、 借 功 明 位 、 用 在 体 処、 借 位 明 功、 体 在 用 処 。 体 用 無 私、 方 乃 唱 道 。 且道
作 麼 坐 是 体 用 無 私 底 時 節。 水 向 竹 辺 流 出 緑、 風 従 華 裏 過 来 香。 ( → ° お 娼゜ 虧 ド 凶 〜 げ ) と い う 上 堂語
を 前 提 し た も の で あ る こ と は 明 ら か で あ り 、 宏 智 の 「 水 向 竹 辺 流 出 緑 、 風 従 華裏
過
来
香 」 と い う 句 も 、 義 雲 は 他所
で こ の ま ま 借 用 し て 、 上 堂 の 結 語 と し て 用 い て い る ( 附 録Ii
矼 参 照 ) 。 し か も 、 義 雲 の 「 君 臨 臣 位 、 猶 帯 凝 然、 子就
父 時 、 尚 存孝
養
。 玉 関 未 透 正迷
一 色 、 宝 印 全 提 露 那 丈彩
」 と い う 語 も、 『宏
智 録 』 (巻
五 ) の 小 参 語 か ら の 引 用 であ
り ( 附 録II
参 照 ) 、 こ の 部 分 の 義 雲 の 上 堂 語 の 大 半 は、 宏智
の語
の 引 用 に よ っ て 構 成 さ れ て い る と い っ て よ い 。 こ の よ う に 見 て く る と 、 義 雲 に お け る 五 位 説 の 受 容 は、少
く と も 字 句 の 上 か ら は 、 宏 智 の 五 位 説 を 承 け た も の で あ り 、 二 八 四 極 論 す れ ば 、 宏智
の 語 そ の ま ま の 祖 述 と い っ て も 過 言 で は な い 一 面 を 持 っ て い る 。 従 っ て 、 義 雲 に と っ て 五 位 説 は 、 そ の 禅 の 特質
に 殆 ん ど か か わ ら な い も の で あ っ た と も い え よ う 。 五 、 お わ り に 以 上 、義
雲 の 語 録 に つ い て 、 『宏
智 録 』 か ら の引
用 と い う 点 に 限 っ て こ れ を 分 折 し 、 そ の 引 用 例 と 、 こ れ を も と に し た 若 干 の 考察
を 展 開 し て き た が 、 『 義 雲 録 』 の 上 堂 ・ 小 参等
が い か に 『 宏智
録 』 の 内 容 を 前提
に し て こ れ を ふ ま え て 説 示 さ れ て い る か が 理 解 で き よ う 。 こ れ ら諸
点 を 結 論 的 に ま と め る な ら、 第 ] に 、 義 雲 は 『 宏智
録
』 の内
容 に は 深 く 精 通 し て お り 、 そ の詩
的丈
学 的 表 現 を随
処 に 引 用 し て い る の は こ れ を 端 的 に 物 語 っ て い る こ と 、 第 二 に 、 『 義 雲 録 』 に は 宏智
の 語 を そ の ま ま 引 用 し て 自 己 の宗
旨 と し て 説 示 し て い る 例 が 極 め て 多 く、 そ の引
用 頻 度 数 か ら み て も 、 ま た 内 容的
に も 宏 智 の 禅 に 深 く 傾 倒 し て い た と 見 ら れ る こ と、 第 三 に 、 義 雲 は 道 元 が 否 定 し た 五 位 説 も 高 く 評 価 し 、 こ れ に よ っ て為
人 接 衆 し て い る 例 が い く つ か 存 す る が 、 そ れ ら は殆
ん ど 『宏
智 録 』 を前
提 す る も の で あ り 、 ま た宏
智
の 五 位 説 を そ の ま ま 祖 述 し た と 思 わ れ る部
分 も あ り 、義
雲 が 五 位 説 を 用 い る の は 、 結局
宏
智
が こ れ を 用 い た か ら に ほ か な ら な か っ た と み ら れ る こ と 、 以 上 の 三 点 に要
約 す る こ と が で き よ う 。と こ ろ で 、 五 山
丈
学 の 雄 と 目 さ れ る 中 岩 円 月 ( = 二 〇 〇 〜 一 三 七 五 ) は 、 自 ら そ の 『 自 歴 譜 』 の 中 で 、 丈 保 二 年 ( =三
八 ) 、 十 九歳
で 入 宋 し よ う と し て 果 さ ず 、 こ の 年 の 冬 、 永 平寺
の 義 雲 に 参 じ て ほ ぼ 洞 宗 の 語 言 に 通 達 し た と 述懐
し て い る が 、中
岩 が 義 雲 に参
じ て得
た 「 洞 宗 の 語 言 」 と は 具 体的
に何
を 指 す の で あ ろ う か 。 永 平 寺 で 洞 上 の 宗 旨 に 通 じ た と い え ぽ 、 常 識 的 に は道
元 の宗
旨 に 参 じ た と い う こ と に な る が 、丈
保 二年
と い え ば 、 義 雲 が 大 破 滅 法 に お ち い っ た 永 平寺
に 晋 住 し た 正 和 三 年 (;
= 四 ) 十 二 月 か ら 数 え て わ ず か 四年
目 であ
り 、 火 災 等 で 焼 失 衰 頽 し た 伽 藍 の 復 興 修 造 に 日 夜 渾 身 の 努 力 を し て い た時
期
に 相 当 し 、 永 平寺
自 体 混 迷 の 時 期 を よ う や く 脱 し つ つ あ っ た 頃 で 、 中 岩 が越
前 に ま で 赴 い て 参 じ な け れ ば な ら な い 必 然 性 が 見 当 ら な い 。 ま た 中 岩 は 、 後 に は 上 州 利 根 の吉
祥
寺
入 寺 陞 座 に 際 し て 、臨
済宗
大 慧 派 百 丈 山 の 東陽
徳輝
の 法 嗣 で あ る こ と を 表 明 し て 、 東 明 門 下 か ら 迫害
を 受 け 物議
( 18 ) を か も し 出 す が 、 こ の 時 期 は 終 始東
明 手 度 の弟
子 と し て行
動
( 19 ) し て お り、 入 宋 の 企 て な ど も東
明 の 指 示 に よ っ た と 見 ら れ る か ら 、 義 雲 参 学 も 当 然 東 明 の指
示 に 従 っ た も の と 思 わ れ る 。 そ し て 、 東 明 が中
岩 の 義 雲参
学 を勧
奨
し た と す れ ぽ、 そ れ は 同 じ 曹 洞 宗 の 流 れ を く む来
朝
者 と し て の 寂 円 の 系譜
に 連 な る 人 に 対 す る 接 近 と い う 線 が第
一 に 出 て く る 。 い っ た い 、 寂 円 と い う禅
僧 に 関 し て は 、蘭
渓 道 隆 ( 一 二 一 『 義 実 録 』 に お け る 『 宏 智 録 』 引 用 の 意 義 ( 石 川 ) 三 〜 一 二 七 八 ) や 子 元 祖 元 ( 一 二 二 六 〜 一 二 八 六 ) 以 前 に 来 朝 し た 、渡
来僧
と し て は最
も早
い 時 期 の 人 で あ る に も か か わ ら ず 、中
国 の 禅 の 相 承 を 受 け 嗣 がず
に 若 年 に し て渡
来
し た た め か 、 従 来 、渡
来 僧 と し て の 面 は往
々 に し て 看過
さ れ て い る よ う な 気 が す る 。 し か し 、 『 宝慶
由 緒 記 』 が 伝 え る よ う な 、如
浄
の 下 で得
悟 し 、 大 宋 国 の 諸 山 の 名 師 に 参 じ 、東
西 の 玄 奥 を 究 め た と い う 寂 円 像 を そ の ま ま首
肯
す る こ と は で ぎ な い に し て も、 明 ら か に 中 国曹
洞禅
の 流 れ の 系 譜 に 連 な る 人 で あ り 、 東 明 も 面識
は な か っ た と し て も、 同 じ 曹 洞 系 の来
朝
者 と し て の 同 胞 意 識 は 当 然 あ っ た と 見 ら れ る 。 し か し て 、中
岩
が 義 雲 に 求 め た洞
上 の 宗旨
、 換 言 す れ ば 、 東 明 が 寂 円 に求
め た 洞 上 の 宗 旨 と は 、 中 国曹
洞 禅 と し て の 宗 旨 に 相 違 な く 、 中 国 曹 洞 禅 の系
譜
に 連 な る 人 と し て 東 明 は 寂 円 の 系 統 の禅
者 と し て義
雲 を 推薦
し た も の と 思 わ れ る 。 ま た 、寂
円 の 禅 思想
に つ い て は 、 孤 雲 懐 弉 (=
九 八 〜 = 一 ( 20 ) 八 〇 ) と の 投 機 の 機 縁 以 外 全 く 知 ら れ て い な い が 、 義 雲 が 宏 智 の 禅 に 傾 倒 す る に 至 っ た 経 緯 は 、 寂 円 の 影響
に よ る と し か 考 え ら れ な い 。 し か し、 い ず れ に し て も こ れ ら 諸 点 は 資 料 的 に 推 測 の域
を 出 な い も の で 、教
団 史 ・ 思 想 史 を含
め た 中 世寂
円 派 の 研 究 は 多 く の 課 題 を 残 し て お り 、今
回 は 義 雲 の 禅 と宏
智 の 禅 と の 関 係 を指
摘 す る に と ど め て 擱 筆 す る 。 二 八 五Komazawa University Kom 三1z三1w三1 Unlverslty 『 義 雲 録 』 に お け る 『 宏 智 録 』 引 用 の 意 義 ( 石 川 ) 〔 註 〕 (
1
) 『 安 楽 山 産 福 禅 寺 年 代 記 』 に よ る 。 横 山 秀 哉 氏 「 曹 洞 宗 伽 藍 建 築 の 研 究 」 ω ( 『 東 北 大 学 建 築 学 科、 建 築 学 報 』 第 三 号、 ℃ 」 昭 和 三 十 年 三 月 ) 参 照。 (2
) 「 正 和 年 中、 永 平 寺 義 演 禅 師 遷 化、 斯 時 有. 二 代 相 論、 永 平 寺 及 大 破 滅 法、 云 云 」 ( 『 曹 洞 宗 古 丈 書 』 巻 下、 唱‘9
『 宝 慶 由 緒 記 』 ) (3
) 「 宝 慶 二 世 義 雲 禅 師 見 之、 乃 祖 道 元 禅 師 遣 跡 及 断 絶、 深 嘆 息 在 之、 命 嗣 子 曇 希 禅 師、 紹 宝 慶 之 主 席 〈 義 雲 禅 師、 命 曇 希 禅 師、 宝 慶 之 寺 物 取 持、 永 平 之 諸 堂 円 備 〉 」 ( 『 曹 洞 宗 古 文 書 』 巻 下 、 ウ 一 〇 『 宝 慶 由 紀 記 』 ) (4
) 佐 橋 法 竜 氏 「 義 雲 の 宗 教 と そ の 歴 史 的 地 位 」 ( 『 印 度 学 仏 教 学 研 究 』 二 巻 二 号、 昭 和 二 十 九 年 ) 参 照。 (5
) 鏡 島 元 隆 氏 編 『 道 元 禅 』 ( 第 } 巻 ) や゜ 鶏 ( 昭 和 三 十 五 年、 誠 心 書 房 刊 ) 参 照。 (6
) 『 正 法 眼 蔵 参 註 』 の 奥 書 に よ れ ぽ、 「 弘 安、 一 年 ( 一 二 七 九 ) 己 卯 五 月 十 七 日 在 同 国 中 浜 新 善 光 寺 書 写 之、 義 雲 」 ( 『 正 法 眼 蔵 註 解 全 書 』 巻 八、 ロ゜ ま ω 〜 心 ) と あ り、 『 同 安 居 参 註 』 の 奥 書 に は 「 弘 安 二 年 夏 安 居 五 月 念 日 同 国 中 浜 新 善 光 寺 書 写 之、 義 雲 」 ( 『 同 註 解 全 書 』 巻 八、 O」 臣 ) と あ り、 『 同 帰 依 三 宝 参 註 』 の 奥 書 に は 「 弘 安 二 年 己 卯 夏 安 居 五 月 二 十 一 日、 在 越 宇 中 浜 新 善 光 寺 書 写 之。 〈 諸 本 作 己 卯 写 誤、 後 建 長 五 年 癸 丑 巳 二 十 有 六 年. 蓋 義 雲 和 尚 至 今 歳 二 十 七 〉 」 ( 『 同 註 解 全 書 』 巻 九、 や も。 ミ ) と あ る 。 ( 7 ) 『 眼 蔵 』 ( 四 禅 比 丘 ) に は 「 仏 法 い ま だ 其 要 見 性 に あ ら ず、 七 二 八 六 仏 ・ 西 天 二 十 八 祖、 い つ れ の と こ ろ に か、 仏 法 た だ 見 性 の み な り と あ る 。 六 祖 壇 経 に 見 性 の 言 あ り、 か の 書、 こ れ 偽 書 な り、 付 法 蔵 の 書 に あ ら ず、 曹 渓 の 言 句 に あ ら ず、 仏 祖 の 児 孫 、 ま た く 依 用 せ ざ る 書 な り 。 」 ( 岩 波 文 庫 本、 下、 O 』 一 ら。 ) と あ り、 同 ( 山 水 経 ) に も、 「 転 境 転 心 は 大 聖 の 所 呵 な り、 説 心 説 性 は 仏 祖 の 所 不 肯 な り、 見 心 見 性 は 外 道 の 活 計 な り、 滞 言 滞 句 は 解 脱 の 道 著 に あ ら ず。 」 ( 岩 波 丈 庫 本、 上、 ℃』
一 ) と あ る、 (8
) 河 村 孝 道 氏 ¶ 『 正 法 眼 蔵 』 成 立 の 諸 問 題 ( 四 ) ー 60 巻 巻 本 『 正 法 眼 蔵 』 を 遶 っ て ω ー 」 ( 『 印 度 学 仏 教 学 研 究 』 二 卜 一 巻 二 号、 昭 和 四 卜 八 年 三 月 ) 、 同 氏 「 『 正 法 眼 蔵 』 成 立 の 諸 問 題 ( 五 )i
正 法 眼 蔵 新 輯 論 を 遶 っ て ー 」 ( 『 印 度 学 仏 教 学 研 究 』 二 十 二 巻 コ 号、 昭 和 四 十 九 年 三 月 ) 、 及 び 柳 田 聖 山 氏 「 仮 字 正 法 眼 蔵 の 秘 密 」 ( 『 展 望 』 二 百 十 号 、 … 九 七 六 年 六 月 ) 参 照。 (9
) 禅 僧 の 最 も 占 い 詩 歌 は、 三 祖 僧 燦 の 『 信 心 銘 』 と さ れ、 永 嘉 玄 覚 ( 六 匕 五 〜 匕 一 三 ) の 『 証 道 歌 』 . 石 頭 希 遷 ( 七 〇 〇 〜 七 九 一 ) の 『 参 同 契 』 . 洞 山 良 价 ( 八 〇 七 〜 八 六 九 ) の 『 宝 鏡 三 昧 歌 』 な ど も 有 名 で あ る。 ま た 中 国 の 隠 棲 の 伝 統 の 上 に 立 つ 山 居 修 道 の 禅 僧 に 「 楽 道 歌 」 と 呼 ぼ れ る 一 群 の 長 詩 が あ り、 南 嶽 懶 瑙 ・ 福 先 仁 倹 ・ 道 吾 円 智 ( 七 三 九 〜 八 三 五 ) な ど が 代 表 的 な 作 者 と し て 知 ら れ て い る 。 一 方、 詩 僧 と 呼 ぼ れ る 入 々 も 存 し、 主 に 詩 作 を 通 し て 士 大 夫 階 級 と 接 触 し て い た 。 さ ら に、 歴 代 禅 匠 の 開 悟 投 機 の 境 界 も 多 く 偈 頌 の 形 式 で 表 現 さ れ て い る が、 こ の よ う な 禅 僧 の 詩 作 が 一 般 化 し た 背 景 に は 「 伝 法 偈 」 の 成 立 が 重 要 な 役 割 り を 果 し て い る と 思 わ れ る 。市 原 亨 吉 氏 「 中 唐 初 期 に お け る 江 左 の 詩 僧 に つ い て 」 ( 『 東 方 学 報 』 京 都 第 二 十 八 冊、 昭 和 三 十 三 年 三 月 ) 、 木 下 一 真 氏 「 中 国 の 禅 籍 に あ ら わ れ た 詩 歌 の 研 究 」 ( 『 駒 沢 大 学 仏 教 卩 学 部 論 集 』 第 一 号、 昭 和 四 十 六 年 三 月 ) 等 参 照 。 (
10
) 玉 村 竹 二 氏 『 五 山 丈 学 』 ( 昭 和 四 十 一 年 十 一 月 ) ロ・ O ω (11
) 『 大 慧 普 説 』 に 「 今 時 学 道 者、 多 不 自 疑 却 疑 他 人 。 所 以 道、 大 疑 之 下 必 有 大 悟 。 且 道 悟 得 箇 甚 麼。 良 久 云、 我 不 敢 軽 於 汝 等、 汝 等 皆 当 作 仏 。 下 座 。 」 ( ハ 門 . 鼻 刈 口幽鬟
国 ) と あ る。 (12
) 『 大 慧 普 覚 禅 師 語 録 』 巻 二 「 径 山 能 仁 禅 院 語 録 」 の 結 夏 上 堂 に 「 結 夏 上 堂、 此 日 諸 方 叢 林、 莫 不 踞 菩 薩 乗 修 寂 滅 行。 以 大 円 覚 為 我 伽 藍、 身 心 安 居 平 等 性 智。 径 山 夊 且 不 然、 従 今 日 去 九 十 日 内、 与 諸 衲 子 共 喫 無 米 飯、 咬 優 曇 根、 飲 不 湿 水、 説 睡 夢 語 、 且 道 、 恁 麼 修 行 与 諸 方 結 制、 相 去 多 少 。 良 久 云、 将 此 深 心 奉 塵 刹 、 是 則 名 為 報 仏 恩。 下 座。 」 ( → 幽 鳶P
。。 一 り o ) と あ り、 黙 照 ・ 綿 密 安 祥 の 禅 の 裏 に ひ そ み が ち な 無 為 消 極 の 禅 風 に 対 す る 批 判 的 態 度 が 感 じ ら れ る。 (13
) 『 義 雲 録 』 「 宝 慶 寺 語 録 」 に 「 上 堂、 朝 打 三 千、 仏 祖 不 証、 暮 打 八 百、 狸 奴 悉 知 。 順 行 也、 達 磨 西 来 九 年 面 壁、 逆 行 也、 庭 前 柏 樹 枝 葉 成 堆。 一 念 万 年、 如 以 鏡 鋳 像、 万 年 一 念、 似 以 像 鋳 鏡。 為 甚 恁 麼。 大 衆 還 会 麼 。 良 久 云、 丙 丁 童 子 来 求 火、 天 上 斗 星 廓 照 空 」 ( 臼, ° Qobo ℃° 駐 H9 ) と あ り、 他 に も 「 鏡 」 の 比 喩 を 用 い た 示 衆 は 所 々 に 見 ら れ る 。 ( 14 ) 東 明 慧 日 の 語 録 『 白 雲 東 明 和 尚 語 録 』 に は、 洞 山 ・ 曹 山 の 語 や 『 宝 鏡 三 昧 』 を さ か ん に 引 用 し、 五 位 を 高 く 掲 げ て 宗 旨 を 挙 揚 し て お り、 東 陵 永 璃 に つ い て も、 後 に 入 元 し て 東 陽 徳 輝 『 義 雲 録 』 に お け る 『 宏 智 録 』 引 用 の 意 義 ( 石 川 ) の 法 を 嗣 ぐ 中 巌 円 月 ( 一 三 〇 〇 〜 = 二 七 五 ) は 若 く し て 東 陵 に つ い て 五 位 説 を 受 け て お り、 『 偏 正 五 位 図 説 』 を 著 わ し た 無 尽 省 燈 も 東 陵 の 下 で 久 し く 五 位 の 研 鑚 を し て い る。 詳 し く は 拙 稿 「 鎌 倉 に お け る 曹 洞 宗 宏 智 派 の 消 長 」 ( 『 印 度 学 仏 教 学 研 究 』 二 十 二 巻 二 号、 昭 和 四 卜 九 年 三 月 ) ・ 「 曹 洞 宗 宏 智 派 の 五 位 思 想 」 ( 『 宗 教 研 究 』 四 十 七 巻 三 輯、 昭 和 四 十 九 年 三 月 ) ・ 「 日 本 曹 洞 宗 宏 智 派 に お け る 東 陵 永 瑛 の 位 機 」 ( 『 宗 教 研 究 』 四 十 八 巻 三 輯、 昭 和 五 十 年. 二 月 ) 等 参 照 。 (15
) 佐 橋 法 竜 氏 前 掲 論 丈。 (16
) 佐 橋 法 竜 氏 「 五 偏 五 位 説 の 研 究 」 ( 『 宗 学 研 究 』 第 → 巻 第 一 号 、 昭 和 三 十 一 年 三 月 ) 、 石 附 勝 龍 氏 「 偏 正 五 位 異 説 の 源 流 」 ( 『 宗 学 研 究 』 第 十一 . 号、 昭 和 四 卜 五 年 三 月 ) ・ 「 大 陽 警 玄 禅 師 に お け る 中 国 曹 洞 宗 旨 復 古 の 位 置H
」 ( 『 宗 学 研 究 』 第 十 三 号、 昭 和 四 十 六 年 三 月 ) ・ 「 同 口 」 ( 『 同 』 誌 第 十 四 号、 昭 和 四 十 七 年 三 月 ) ・ 「 同 国 」 ( 『 同 』 誌 第 十 五 号、 昭 和 四 十 八 年 三 月 ) 及 び 同 氏 諸 論 考 参 照 。 (17
) 義 雲 の 伝 記 に つ い て は、 竜 堂 即 門 の 「 義 雲 和 尚 略 伝 」 ( 『 義 雲 録 』 附 ) ・ 『 建 撕 記 』 そ の 他 い ず れ も、 洛 陽 の 人 で 二 十 四 歳 も し く は 二 十 五 歳 で 寂 円 に 従 っ た と す る が、 そ れ ま で の 経 過 に つ い て は 全 く 不 明 で あ る 。 (18
) 中 岩 の 『 自 暦 譜 』 暦 応 二 年 己 卯 ( 二 三 二 九 ) 条 に 「 冬 下 上 州 利 根 剏 吉 祥 寺 。 十 二 月 初 三、 追 薦 江 州 陞 座 次、 表 法 嗣 百 丈 老 師 之 意 。 既 上 鎌 倉、 洞 宗 之 徒 憤 然 欲 害 予。 時 不 聞 在 京、 別 源 東 白 和 会 無 事 而 。 已 」 ( 『 五 山 丈 学 全 集 』 第 一 輯 O 」 緯 ) と あ る 。 二 八 七Komazawa University Kom 三1z三1w三1 Unlverslty 『 義 雲 録 』 に お け る 『 宏 智 録 』 引 用 の 意 義 ( 石 川 ) (
19
) こ の 時 期 の 中 岩 の 行 動 を 『 自 歴 譜 』 に よ っ て 見 て み る と 次 の 如 く で あ る 。 ( 正 和 ) 三 年 甲 寅 ( 一 三 一 四 ) 予 在 万 寿 雲 屋 和 尚 会 下 作 頌 甚 多。 雲 屋 称 奇 也。 是 歳 建 長 災。 仏 燈 退 院 。 冬 礼 円 覚 東 明 和 尚 為 受 業 師 。 四 年 乙 卯 ( = 二 一 五 ) 是 歳 十 六。 春 挂 搭 円 覚。 夏 三 日 病 。 五 年 丙 辰 ( =一 二 六 ) 象 外 援 予 於 東 明 和 尚、 扣 以 洞 下 之 旨 。 意 。 丈 保 元 年 丁 已 ( =一 二 七 ) 東 明 和 尚 遷 寿 福、 南 山 和 尚 上 円 覚 。 二 年 戊 午 ( = 二 一 八 ) 然 予 心 粗 不 達 其 密 予 十 九 歳 。 起 円 覚 到 博 多、 欲 出 江 南、 綱 司 不 許 上 舶 而 帰 。 夏 在 京 之 万 寿 絶 崖 和 尚 会 下 。 冬 到 越 前 参 永 平 義 雲、 略 通 洞 宗 語 言 。 是 歳 霊 山 和 尚 観 国 韶 石 門 同 帰 朝 。 後 醍 醐 天 皇 元 応 元 年 己 末 ( 二 二 一 九 ) 春 辞 永 平 帰 鎌 倉 参 浄 妙 玉 山 和 尚 不 契、 再 覲 東 明 和 尚 於 建 長 挂 搭 。 同 十 月、 東 明 和 尚 退. 霊 山 和 尚 住 建 長、 朝 夕 入 室 参 問 。 以 曽 在 円 覚 相 識 見 異 愛 。 常 作 頌 多 称 賞 。 (20
) 『 義 雲 録 』 ( 巻 下 ) の 「 拾 遣 義 雲 和 尚 永 平 禅 寺 語 録 」 に は 「 当 山 初 祖 云 」 と し て 道 元 の 語 録 か ら の 引 用 と 見 ら れ る 一 丈 が 存 す る が ( 附 録nlqO
参 照 ) 、 こ の 文 は 『 永 平 広 録 』 に は 該 当 箇 所 が 無 い 。 「 拾 遣 語 録 」 は 江 戸 時 代 正 徳 五 年 ( 一 七 一 五 ) の 『 義 雲 録 』 再 刊 の 際 に 宝 慶 寺 室 中 に 存 し た も の を 再 編 し て 収 二 八 八 録 し た も の で あ り、 も し こ れ が 宝 慶 寺 に お け る 語 録 が 混 入 し た も の と す れ ば、 極 め て 珍 ら し い 寂 円 の 語 の 引 用 と な る で あ ろ う 。〔 附 録 〕 『 義 雲 和
尚
語 録 』 の 引 用 語 録 対 照資
料 凡例 一 、 本 篇 は 、 『 義 雲 和 尚 語 録 』 に お け る 多 く の
引
用 語 録 の う ち 、 『 宏 智 録 』 か ら の 直接
の引
用 、 及 び 明 ら か に 『 宏智
録
』 を 前 提 す る と 見 ら れ る 語 句 に つ い て 、 こ れ を 対 照 さ せ て そ の引
用 状 況 を 明 ら か に し た も の で あ り 、 参 考 ま で に 、 『 永 平 広 録 』 及 び 『 如 浄 録 』 の 二 点 に つ い て も 、 同 様 の 方 法 で 該 当 箇 所 を 対 照 さ せ 示 し た 。 一 、 『義
雲
録 』 の 本丈
は 、 便 宜 上 、 大 正蔵
経 八 十 二 巻 所収
の 正 徳 五年
( 一 七 一 五 ) 本 に よ っ た が 、 巻 上 の 部 分 の 異 本 で あ る 内 閣 丈庫
所蔵
の 『 義 雲 録 』 と の 主 な 異 同 に つ い て は 、 ( ) 内 に 示 し て お い た 。 内 閣 文 庫 本 『 義 雲 和 尚 語 録 』 に つ い て は、拙
稿
「 内閣
丈 庫 本 『 義 雲 和尚
語 録 』 に つ い て 」 ( 『 印 度 学 仏 教 学研
究 』 第 二 十 四 巻 第 】 号 、 昭 和 五 十年
十 二 月 ) 、 及 び 「 内 閣 丈 庫 本 『 義雲
和 尚 語 録 』 」 ( 『曹
洞宗
研 究 員 研 究 生研
究紀
要 』第
八 号 、 昭 和 五 十 一 年 九 月 ) を 参 照 さ れ た い 。 一 、 『宏
智 録 』 の 本 文 は 、泉
福寺
所
蔵
の 宋 版 六 巻 本 を 用 い た が 、 大 正蔵
経 四 十 八 巻 所 収 の 宝 永 五年
( 一 七 〇 八 ) 『 義 雲 録 』 に お け る 『 宏 智 録 』 引 用 の 意 義 ( 石 川 )1
刊 行 九 巻 本 『 宏智
禅師
広 録 』 の所
在
箇
所 も 便 宜 上併
記 し て お い た 。 一 、 『 永 平 広 録 』 に つ い て は 、 延 宝 元 年 ( 一 六 七 三 ) 刊 行 の 流 布 本 広 録 に 比 し て 、 門 鶴 本 広 録 の 方 が 丈体
上 か ら 『義
雲 録 』 の引
用 に よ り 近 い の で 、 昭和
四 十 五年
刊 大 久保
道
舟 編 『 道 元禅
師 全 集 』 ( 下 巻 ) 所 収 の門
鶴 本 を 用 い た 。 、 『 如 浄 録 』 の 本 丈 は 、 大 正 蔵 経 四 十 八 巻 所 収 の 延 宝 八 年 ( 一 六 八 〇 ) 刊 行 本 に よ っ た 。 『 宏 智 録 』 の 引 用義
雲
録 ω 上 堂 、
廓
爾
而 霊 、 本 光 自 照 、 寂 然 而 応 、 大 用現
前 。 木 馬 嘶 風 不 運 今 時 之歩
、 泥 牛 出 海 耕 破 空 劫 之春
。諸
人 相 委 悉 麼 。 玉 人 招 手 処 、 復 妙 在 廻 途 。 ( 巻 上 、 → ° Q。 N畠
Oo ) 圖 半 夏 上 堂 、 ( 中 略 ) 作麼
生 宏智
録 上 堂 云 、好
諸 禅 徳 、 廓 尓 而 霊 、 本 光 自 照 、 寂 然 而 応 、 大 用 現 前 。 木 馬嘶
風 不運
今 時之
歩 、 泥 牛 出 海 耕 開 空劫
之 春 。 諸 人 還 相 委 悉 麼 。 良 久 云 、 玉 人 招 手 処 、復
妙 在 廻 途 。 (巻
一 、 六 丁 左 ) ( 巻 → 、 →』
◎。 O』
卑 ) 血 脈 不断
処 、 作 麼 生行
履
。還
二 八 九Komazawa University Kom 三1z三1w三1 Umversrty 『 義 雲 録 』 に お け る 是 第 一 義