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日本的組織間マネジメント・コントロール研究の課題

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日本的組織間マネジメント・コントロール研究の課題

坂 口 順 也* 河 合 隆 治** 上 總 康 行*** 要旨:本研究は,おもに日本企業を対象としたこれまでの研究を基礎として,日本企業の 組織間マネジメント・コントロールの特徴を抽出し,これをふまえて今後の研究課題を示 すことを目的とする。レビューの結果,本研究は,日本企業の組織間マネジメント・コン トロールが,①密接な取引関係,②インターラクティブな協働,③原価情報を含む多様な 情報の共有といった特徴を有するものとして,先行研究で記述されてきたことを明らかに した。また,本研究は,組織間マネジメント・コントロールの先行研究やこれに関連する 研究をもとに,日本的組織間マネジメント・コントロール研究の今後の課題をいくつか提 示した。 キーワード:組織間マネジメント・コントロール,情報共有,協働,日本的サプライヤー 関係,文献調査 1 はじめに 今日の熾烈な競争環境を背景として,限られた 経営資源を自社の得意分野に集中し,その他の分 野を外部企業に外注するアウトソーシングが企業 実務で広く普及している。例えば,わが国企業の 場合,内閣府(2013)の調査によると,外注費が 2000 年代半ばにかけて増加傾向にあり,2000 年 代末には売上高外注費比率で 10%程度に上昇し ていると報告されている。また,アウトソーシン グが普及するに伴い,経営学の各領域(戦略論, 組織論,マーケティング論など)において,組織 間におけるコントロールの問題が幅広く検討され ている。こうした動向を受けて,組織間での会計 情報を含む多様な情報の共有や,コントロール・ システムの構築と利用について検討する「組織間 マネジメント・コントロール」に関する管理会計 研 究 が,欧 米 を 中 心 と し て 蓄 積 さ れ て い る (Anderson and Dekker 2009 ; Caglio and Ditillo

2008)。

組織間マネジメント・コントロールに関する研 究は,次の二つの流れに沿って進展しているとい われている(Anderson and Dekker 2009)。一つ は,組織間マネジメント・コントロールの「設計」 に関する研究であり,ここでは,新たな取引相手 の選択やその段階での情報収集,および,取引相 手の機会主義的な行動を制御し相互に協力を促進 する役割を果たす組織間での契約などが,おもな 検討対象とされている(Anderson and Dekker 2005 ; Dekker 2008 ; Dekker and Van den Abbeele 2010)。もう一つは,組織間マネジメン ト・コントロールの「利用」に関する研究であり, ここでは,取引相手との情報共有とこれを基礎と した協力的なコストマネジメントの実施などが, お も な 検 討 対 象 と し て 取 り 上 げ ら れ て い る (Cooper and Slagmulder 1999, 2004 ; Cooper and Yoshikawa 1994 ; Mahama 2006 ; Mouritsen et al. 2001)。 これらの先行研究の中には,とくに組織間マネ * 関西大学大学院会計研究科 〒564-8680 大阪府吹田市山 手町 3-3-35 ** 同志社大学商学部 *** 京都大学名誉教授

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ジメント・コントロールの「利用」に関連して, 日本企業を対象としたケース研究などが見受けら れ て い る(Cooper and Slagmulder 1999, 2004 ; Cooper and Yoshikawa 1994)。しかし,これまで の研究で紹介される日本企業の組織間マネジメン ト・コントロールが,今日の日本企業の姿を反映 したものであるかどうかについては,近年の日本 企業における組織間関係の変貌を考慮すると疑問 が残る(Kawai et al. 2013)。また,日本企業の組 織間マネジメント・コントロールが,欧米の管理 会計領域だけでなく,日本の管理会計領域におい てどのように議論されてきたのかについては,十 分に整理されていない。 そこで本研究は,「日本的組織間マネジメント・ コントロール」の先行研究,すなわち,日本企業 を対象とした組織間マネジメント・コントロール に関する欧米やわが国の先行研究,および,これ に関連したわが国の管理会計研究を対象として, その特徴について整理する。これをふまえて,今 後検討すべき新たな研究機会を提供することを本 研究の目的とする。 2 日本的組織間マネジメント・コントロー ル研究の動向 わが国において,組織間マネジメント・コント ロールは,10 年ほど前から欧米の研究動向が紹介 され,今日では管理会計の主要な研究課題の一つ として認識されるに至っている(大浦 2006;木村 2011;窪 田 2012b;窪 田 ほ か 2008;小 林 2004, 2009;坂口・河合 2011;坂口ほか 2009)。しかし, 組織間でのコントロール・システムの利用につい ては,日本企業を対象とした①組織間関係,②原 価企画,③組織間コストマネジメントなどの「日 本的管理会計」にかかわる欧米の管理会計研究や, これに影響を受けたわが国の管理会計研究の中 で,20 年ほど前から取り上げられている(吉田ほ か 2012)。 例えば,①日本企業の「組織間関係」に関連し て,Munday(1992)は,英国の製造サプライヤー を対象とした質問票調査をもとに,日本企業と取 引するサプライヤーの方が,英国企業や米国企業 と取引するサプライヤーと比べて,原価情報を含 む多様な情報の提供が求められることを明らかに している。同様のことは,伝統的な自製・購入の 意思決定の再検討と,組織間マネジメント・コン ト ロ ー ル に 対 す る 注 目 の 必 要 性 を 指 摘 し た Gietzmann(1996)においても指摘されている。 その他,日本企業の組織間関係については,特定 の製造企業(G 工業)におけるサプライヤー関係 の実態について記述した坂手(1994),日本企業に おける組織間関係のオープン化やネットワーク化 の可能性について記述した岩淵(1996),園田 (1998),木村(2002,2003),および,2000 年以降 における日本企業のサプライヤー関係の変化につ いて調査した Kawai et al.(2013)などがあげられ る。 次に,②製品開発段階におけるコストマネジメ ントである「原価企画」に関連して,加登(1993) は,原価企画を支えるインフラストラクチャーの 一つとして「日本的サプライヤー関係」をあげ, その特徴として,メーカーの発注方式(複社発注 方式),取引の長期継続性に関する合意,取引を失 うことへの脅威,参入退出のバイヤーの四つを指 摘している1) 。続いて加登(1994)は,日本的サプ ライヤー関係のこれら四つの特徴が,バイヤー・ サプライヤー間での相互侵入と相互信頼,および, 情報拡散と情報共有を促進し,競争的かつ協力的 な組織間関係をバイヤー・サプライヤー間で成立 させていると記述している。これらの加登の一連 の記述は,日本の製造企業がサプライヤーとの長 期的な取引を維持する一方で,同種や類似の部品 を複数のサプライヤーから調達し,供給リスクの 縮減とサプライヤー同士の競争を両立させている こと,また,こうした取引を繰り返すことによっ て,競争的で協力的な組織間関係をバイヤー・サ プライヤー間で成立させていること,さらに,こ うした組織間関係が,原価企画における目標原価 の達成を支える重要な基盤になっていることを説 明しているといえる2) 。 また,Carr and Ng(1995)は,英国に進出した 日本の自動車企業(英国日産)が,現地で原価企

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画を実施する場合にも,サプライヤーで発生する 原価が製造原価全体の大きな部分を占めることか ら,自社だけでなくサプライヤーを巻き込んだ原 価低減活動の実施が重要になることを指摘してい る。彼らは,日本の自動車企業が,現地サプライ ヤーとの協力的な関係を構築するために,取引に 関するフィロソフィーを提示する一方で,サプラ イヤーを選択する段階での多元的な評価(品質, 原価,配送,開発,経営管理など)や,サプライ ヤーに対する能力開発の支援を実施し,原価情報 を含めた多様な情報をサプライヤーとの間で共有 していることを紹介している。その他,原価企画 の基盤としての日本的サプライヤー関係について は,原価企画を構成するエレメントについて整理 した谷(1996),サプライヤーの種類(貸与図メー カーと承認図メーカー)ごとでの目標原価の達成 度について調査した李・門田(2000),および,原 価企画に代表されるわが国の成長志向型のコスト マネジメントの特徴とその変化の可能性について 記述した上總(1995)などがあげられる。 さらに,原価企画の基盤としての日本的サプラ イヤー関係に加えて,③組織の枠を超えたコスト マネジメント活動である「組織間コストマネジメ ント」にかかわる研究において,日本企業のケー ス な ど が 幅 広 く 紹 介 さ れ て い る3) 。例 え ば, Cooper and Yoshikawa(1994)は,日本の自動車 企業のサプライチェーンであるトウキョウ・ヨコ ハマ・カマクラ・サプライチェーンを取り上げ, このサプライチェーンで実施されるコストマネジ メントの諸技法として,原価企画,品質・機能・ 価格トレードオフ,組織間原価調査が見受けられ ることを紹介している4) 。 また,Cooper(1995, 1996)は,これらの諸技法 から構成される組織間コストマネジメントが,日 本企業の戦略を支える重要な実務であることを主 張している。まず,彼は,日本企業の多くが,競 争を回避する欧米型の「競争戦略」ではなく,競 争に直面する「競争直面戦略」を採用していると 述べている。次に,リーン生産の世界的な普及に より,品質,機能,価格に関する競争が熾烈化し, 特定市場における企業の生存可能範囲(サバイバ ル・ゾーン)が狭隘化していることから,競争戦 略による持続的競争優位の確保ではなく,競争直 面戦略による一時的競争優位の獲得こそが,欧米 企業でも必要になっていると指摘している。さら に,彼は,こうした競争直面戦略を支える実務と して,日本企業で実施されるコストマネジメント を位置づけ,その一つとして,密接な組織間関係 を基盤とした製品開発段階での組織間コストマネ ジ メ ン ト を 紹 介 し て い る。続 く Cooper and Slagmulder(1999)は,こうした組織間コストマ ネジメントが,製品開発段階だけでなく,製造段 階でも日本企業で実施されていることを紹介して いる。さらに,Cooper and Slagmulder(2004)は, 組織間コストマネジメントにおける諸技法(品 質・機能・価格トレードオフ,最小原価調査,コ ンカレント・コストマネジメント)の利用が,組 織間関係のコンテクストに応じて異なることを説 明している。その他,組織間コストマネジメント については,組織間におけるコストマネジメント のタイプについて示した淺田(2005),組織間コス トマネジメントの実務と成果との関連性について 調査した窪田(2001,2012a)や坂口・原口(2004), および,組織間コストマネジメントの実務とその 影響要因との関連性について検討した坂口(2009) や Dekker et al.(2013)などがあげられる。 なお,表1は,日本的組織間マネジメント・コ ントロールにかかわる欧米やわが国での研究を年 代順にまとめたものである。この表から,1990 年 代は,わが国での原価企画や組織間関係にかかわ る記述の他に,欧米での日本的管理会計への注目 を背景として,日本企業のケースが欧米を中心に 見受けられたことが分かる(Carr and Ng 1995 ; Cooper 1995, 1996 ; Cooper and Slagmulder 1999 ; Cooper and Yoshikawa 1994)。そ の 後, 2000 年代に入り,欧米の組織間マネジメント・コ ントロールにかかわる研究動向がわが国でも紹介 され(大浦 2006;窪田ほか 2008;小林 2004,2009; 坂口ほか 2009),2010 年以降には,この研究動向 をふまえた質問票調査に基づく統計的実証研究が 蓄積していると理解することができる(窪田 2012a;Dekker et al. 2013)。それゆえ,これまで

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表1.日本的組織間マネジメント・コントロール研究の動向 著者 年代 概要 方法 1 神戸大学管理会計研究会 1992 原価企画の実態調査(サプライヤー関係を含む) 質問票 2 Munday 1992 日本,英国,米国企業と取引する製造サプライヤーの比較 質問票 3 加登 1993 原価企画の基盤としての日本企業の組織間関係の特徴の記述 文献 4 加登 1994 日本企業の組織間関係の特徴とその機能の記述 文献 5 坂手 1994 特定企業(G工業)における外注管理,計算方法の実態の紹介 ケース 6 Cooper and Yoshikawa 1994 日本企業の組織間コストマネジメント(諸技法)の紹介 ケース 7 上總 1995 日本企業のコストマネジメントの特徴(成長志向)の提示 文献 8 Carr and Ng 1995 特定企業(英国日産)におけるサプライヤーを含む原価企画の記述 ケース 9 Cooper 1995 日本企業の競争直面戦略とコストマネジメント実務の紹介 ケース 10 谷 1996 原価企画のエレメントの整理(サプライヤー関係を含む) 文献 11 岩淵 1996 日本企業の組織間関係の変容の可能性(オープン化)の提示 文献 12 Cooper 1996 日本企業の競争直面戦略とコストマネジメント実務の紹介 ケース 13 Gietzmann 1996 組織間マネジメント・コントロールの事例紹介とその特徴の提示 文献 14 園田 1998 伝統的な自製・購入の意思決定を超えた枠組みの提示 文献 15 Cooper and Slagmulder 1999 日本企業の組織間コストマネジメント(全体像)の紹介 ケース 16 清水 2000 Cooperによる組織間コストマネジメントの議論の紹介 文献 17 李・門田 2000 サプライヤーの種類と目標原価の達成度との関連性の分析 質問票 18 窪田 2001 組織間インターラクションと成果との関連性の分析 質問票 19 木村 2002 IT化やグローバル化に伴う管理会計の役割の提示 文献 20 木村 2003 組織間関係のパターンと管理会計の役割のとの関連の整理 文献 21 小林 2004 欧米での組織間マネジメント・コントロール研究の紹介(情報共有) 文献 22 坂口・原口 2004 戦略,組織間での情報共有,成果との関連性の分析 質問票 23 Cooper and Slagmulder 2004 組織間関係と組織間コストマネジメント実務との関連性の検討 ケース 24 浅田 2005 組織間におけるコストマネジメントのタイプの提示 文献 25 大浦 2006 欧米での組織間マネジメント・コントロール研究の紹介(信頼) 文献 26 窪田,大浦,西居 2008 欧米での組織間マネジメント・コントロール研究の紹介(全体像) 文献 27 小林 2009 欧米での組織間マネジメント・コントロール研究の紹介(相互作用) 文献 28 坂口 2009 部品特性,影響要因,組織間協働の関連性の分析 質問票 29 坂口・河合・デッカー 2009 欧米での組織間マネジメント・コントロール研究の紹介(オランダ) 文献 30 木村 2011 欧米での組織間マネジメント・コントロール研究の紹介(全体像) 文献 31 坂口・河合 2011 欧米での組織間マネジメント・コントロール研究と周辺研究の紹介 文献 32 窪田 2012a 組織間マネジメント・コントロールと成果との関連性の分析 質問票 33 窪田 2012b 欧米での組織間マネジメント・コントロール研究の紹介(原価管理) 文献 34 Dekker, Sakaguchi, Kawai 2013 取引リスクが組織間協働と信頼に与える影響に関する分析 質問票 35 Kawai, Sakaguchi, Shimizu 2013 2000年以降の日本企業の組織間関係の変化の提示 質問票

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の日本的組織間マネジメント・コントロールに関 する研究は,とくにコントロール・システムの「利 用」,すなわち,特定の組織間関係を前提とした上 での取引相手との情報共有や,これを基礎とする 協力的なコストマネジメント実務の実施に注目し て,文献研究やケース研究を通じた関連概念の整 理や実務の把握が初期の段階で行われ,その後, その一般性の検証が統計的実証研究を通じて行わ れるというかたちで進展してきたといえる。 3 日本的組織間マネジメント・コントロー ル研究の特徴と課題 3.1 日本的組織間マネジメント・コントロール 研究の特徴 日本的組織間マネジメント・コントロールに関 する研究は,日本企業における実務の記述やこれ に基づくわが国での議論など,現時点でも数多く 蓄積されている。これらの研究は,研究上の関心 がそれぞれ異なるものの,共通した点をいくつか 見出すことができる。ここでは,前節での日本的 組織間マネジメント・コントロールに関する研究 動向をふまえて,①基盤となる組織間関係の視点, ②バイヤー・サプライヤー間で利用されるコント ロール実務の視点,③バイヤー・サプライヤー間 で実現される情報共有の視点から,この特徴につ い て 整 理 す る(Caglio and Ditillo 2008 ; 加 登 1994)5) 。 まず,①基盤となる組織間関係の視点にかか わって,これまでの日本的組織間マネジメント・ コントロール研究は,サプライヤーとの関係の継 続性,安定性,相互依存性の高さといった密接な 組織間関係を念頭に置いてきたといえる(Cooper and Slagmulder 1999, 2004 ; 加 登 1993,1994)。 例えば,加登(1993,1994)は,日本的サプライ ヤー関係の特徴として,取引の長期継続性に関す る合意や参入退出のバイヤーをあげ,日本企業の 組織間関係が継続的で安定的であることを指摘し ている。また,彼は,メーカーの発注方式や取引 を失うことへの脅威を日本的サプライヤー関係の 特徴に加え,こうした特徴を合わせ持つ組織間関 係がサプライヤー間の競争と協力を促進し,原価 企画を支える重要な基盤になっていることを指摘 している。同様のことは,神戸大学管理会計研究 会(1992)や谷(1996)の他,日本企業の組織間 関係の特徴について記述した Gietzmann(1996), さらに,日本企業の組織間コストマネジメントの 内容について紹介したCooper and Slagmulder (1999)などでも見受けられる6)

次に,②コントロール実務の視点にかかわって, これまでの研究は,サプライヤーとの協働やイン ターラクションが広範に記述されている(Cooper 1995, 1996 ; Cooper and Slagmulder 1999, 2004 ; Cooper and Yoshikawa 1994 ; Dekker et al. 2013 ; 窪田 2001, 2012a ; 坂口 2009)。例えば,Cooper の一連の研究は,組織間コストマネジメントの諸 技法として,目標原価の設定だけでなく,目標原 価達成のための取り組みである品質・機能・価格 トレードオフ,組織間原価調査,コンカレント・ コストマネジメントをあげ,こうした諸技法の利 用を通じて,バイヤー・サプライヤー間の密接な インターラクションが日本企業で実現しているこ と を 紹 介 し て い る。加 え て,Cooper and Slagmulder(1999, 2004),および,Dekker et al. (2013)や坂口(2009)は,組織間における協働や インターラクションが取引関係要因の影響を受け る こ と を 指 摘 し て い る。さ ら に,Cooper and Slagmulder(1999)や Cooper and Yoshikawa (1994),および,窪田(2001,2012a)は,組織間 における協働やインターラクションが組織間コス トマネジメントや開発提携の成果を促進すること を明らかにしている。 最後に,③情報共有の視点に関連して,日本的 組織間マネジメント・コントロール研究は,サプ ライヤーから品質,配送,開発,経営管理などに 関する情報だけでなく,原価情報などの会計情報 を収集している点に重点を置いている(Cooper and Slagmulder 1999, 2004 ; Cooper and Yoshikawa 1994 ; Munday 1992 ; 加 登 1994 ; 坂 口・原口 2004)。例えば,加登(1994)は,日本的 サプライヤー関係のもとで,バイヤー・サプライ ヤー間での情報拡散や情報共有が進展することを

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説 明 し て い る。ま た,Cooper and Yoshikawa (1994)は,組織間コストマネジメントの諸技法の 利用を通じて,原価情報が組織間で共有されるこ とを指摘している。同様のことは,日本企業の組 織間関係の特徴について記述した Munday(1992) でも示唆されている。さらに,坂口・原口(2004) は,原価低減の成果をバイヤー・サプライヤー間 で共有する傾向が高い場合において,組織間にお ける情報共有がバイヤーの成果を促進することを 明らかにしている。 このように,日本的組織間マネジメント・コン トロールに関するこれまでの研究で,日本企業は, ①継続性,安定性,相互依存性が高い密接な組織 間関係を基盤とし,②組織と組織の壁を越えた目 標設定とその達成のためのインターラクティブな 協働を実施し,かつ,③原価情報を含めた多様な 情報の共有をバイヤー・サプライヤー間で実現し ていることが説明されてきた。また,こうした特 徴を有する日本企業の組織間マネジメント・コン トロールは,サプライチェーンを通じた大幅な原 価低減をもたらし,日本企業の競争力の高さに貢 献してきたことが述べられてきたといえる。図1 は,これらの特徴をまとめたものである。 3.2 日本的組織間マネジメント・コントロール 研究の課題 図1で示すように,日本的組織間マネジメン ト・コントロールに関するこれまでの研究は,組 織間でのインターラクティブな協働や広範な情報 共有が日本企業において積極的に実施されている ことだけでなく,これらが密接な組織間関係を基 礎としていることを説明してきた。しかし,本研 究の冒頭で指摘したように,日本企業はこれまで の組織間関係を大幅に見直してきたといわれてい る。例えば,Kawai et al.(2013)は,日本の加工 組立型企業を対象として 2000 年代初頭に実施し た質問票調査の結果から,回答企業の多くが従来 の取引関係の見直しに着手していることを明らか にしている7) 。また,トヨタでは,今日における調 達の基本方針の一つとして,国籍,企業規模,取 引実績を問わない「オープンドアポリシー」が掲 げられている(トヨタ自動車株式会社 2012)。そ の一方,上野(2011)は,日本企業そのものが多 角化とともに子会社化を進展させていることや, こうした事業単位の制度的独立性を高めることが 組織間(親会社・子会社間)での新たなコントロー ル問題をもたらしていることを示唆している8) 。 こうした内外の組織間関係を巡る日本企業の変容 をふまえれば,すでに存在する密接な組織間関係 を念頭に置いたコントロール実務や会計情報の利 用だけでなく,①外部の新規の取引企業や,②分 離・独立した子会社との組織間関係を構築する中 でのコントロール実務や会計情報の利用について 新たに検討することが,今後の課題としてあげら れるだろう。 例えば,①外部の新規の取引企業の場合,組織 間関係の新たな構築に伴う関係リスクや成果リス クを縮減するために,インターラクティブな協働 を実施する前の段階で日本企業がどのような取り 組みを行っているのかについて明らかにすること が必要になる。これについて,欧米の組織間マネ ジメント・コントロールに関する研究は,組織間 マネジメント・コントロールの設計にかかわって, コントロール実務としてのサプライヤー選択の重 図1.日本企業の組織間マネジメント・コントロールの特徴(出所:筆者作成)

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要性を指摘している。具体的に,Dekker(2008) は,サプライヤー選択にかける時間が取引上のリ スクの影響を受けて増加することを明らかにして いる。また,Dekker and Van den Abbeele(2010) は,取引上のリスクが高くなれば,サプライヤー 選択の段階で評価を積極的に実施し,かつ,関連 する情報(特有の工程技術や協力依存関係などに かかわる情報)を広範に収集することを示してい る。こうしたサプライヤーの選択実務やこれに伴 う情報共有に関する記述は,従来の協働と情報共 有に関する検討に加えて,取引関係を新たに構築 する日本企業の実態を検討する上での基礎になる と考えられる。なお,日本企業については,多元 的な基準(品質,原価,配送,開発,経営管理な ど)を用いてサプライヤーを評価することが先行 研究でも記述されている(上總 2014 ; 藤本 2001 ; Carr and Ng 1995)。それゆえ,こうした記述を 端緒として,サプライヤーの疲弊(加登 1993)な どを始めとした従来の問題に対応すべく,日本企 業でどのようなサプライヤーの選択実務が実施さ れ,どのような情報が共有されるのかを見ていく ことが必要になると思われる。 加えて,日本企業の中には,収益性の向上を目 的としたリストラクチャリングやグローバル化へ の対応を背景として,自社で製造してきた部品や 実施してきた業務を他の外部企業にアウトソース するだけでなく,自社内の特定部門を分離し,そ の組織にアウトソースするという方法を採用して いるものも見受けられる(淺田 2007;上野 2011; 内閣府 2013)9) 。こうした②分離・独立後の子会社 との取引においても,目標の共有と達成のための コントロール・システムや会計情報の利用が必要 になることから,組織間マネジメント・コントロー ルが同様に問題になるだろう10) 。具体的には,独 立後の子会社との間でどのような情報が共有され るのか,情報共有を促進するためにどのような目 標設定や業績評価が実施されるのか,さらに,独 立後の子会社と他の取引先とを比較する上でどの ような基準が開発されるのか,こうした基準が新 たなサプライヤーの選択基準として利用される可 能性はあるのかなどである。こうした問題を検討 することは,分社化が進展し複雑化する日本企業 の実態を管理会計の立場から解明する一助になる と考えられる。 さらに,分離・独立後の子会社へのコントロー ル・システムや会計情報の利用は,組織間マネジ メント・コントロールに関する研究全体がこれま で検討していた内容と異なるものであるといえ る。なぜなら,組織間マネジメント・コントロー ルに関する研究の多くは,欧米の研究も含めて, 異なる外部の企業がすでに協働している状況や, 異なる外部の企業が新たに協働する状況といった ように,組織と組織との「統合」の局面に焦点を 置いているためである。それゆえ,同一の組織の 異なる組織への「分離」の局面は,日本企業の実 態の把握に貢献するばかりでなく,組織間マネジ メント・コントロールに関連する研究全体に対し て,新たな研究機会を提供する可能性を有してい る。 図2は,本研究において示した日本的組織間マ ネジメント・コントロールに関する研究の方向性 を表現している。本研究で整理したように,これ までの日本企業を対象とした研究やこれを基礎と した議論の多くは,同一の組織内における伝統的 なマネジメント・コントロールに関する議論(図 の A)をふまえて,すでに存在する継続的,安定 的,相互依存的な組織間関係を前提に,製造段階 や製品開発段階で実施されるサプライヤーとのイ 図2.今後の研究の方向性(出所:筆者作成)

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ンターラクティブな協働や,原価情報を含む多様 な情報の共有が実施されていること(図の B)を 記述してきたといえる(加登ほか 2003)。これに 対して,近年の日本企業は,従来の取引関係を大 幅に見直し,新たな取引関係を組織間で構築しよ うとしていることから,これまでよりも幅広く「統 合」のプロセスを対象とし,取引相手であるサプ ライヤーの選択実務を含めて,その段階でのコン トロール実務や情報共有などについて検討するこ とが必要になると考えられる(図の C)。さらに, いくつかの日本企業においては自社内の特定の事 業単位を分離・独立させ,その子会社にアウトソー スするという方法が採用されていることから,「分 離」のプロセスという局面からも,情報共有やコ ントロール実務の利用について明らかにしていく ことが求められる(図の D)。こうした両方向の 検討を通じて,「これまで基盤としてきた組織間 関係が変容し,取引関係が複雑化する日本企業の 現状を考慮に入れた場合,組織間でのコントロー ル実務や情報共有は,従来と比べてどのように異 なった様相を呈してくるのか」という問いかけに 対する知見が獲得できると思われる。 4 結び 本研究は,おもに日本企業を対象とした組織間 マネジメント・コントロールに関する研究を基礎 として,日本企業の組織間マネジメント・コント ロールの特徴を抽出するとともに,今後の研究の 方向性を提示した。中でも今後の方向性として, 本研究は,すでに存在している密接な組織間関係 を前提とするだけでなく,新たな取引企業の選択 実務やその段階での情報収集,さらに,分離した 組織に対するコントロール・システムの利用など を検討することが求められることを指摘した。こ うした組織間における「統合」と「分離」という 二つの局面の考慮は,変化する日本企業の実態を 把握する上で有益であるだけでなく,組織間マネ ジメント・コントロールに関する研究全体にも新 たな研究機会を提供する可能性を持つといえる。 それゆえ,本研究を出発点として,戦略,マー ケティング,生産管理,国際経営といった管理会 計の関連領域についても追加的に調査するととも に,これら二つの局面に着目して,先行研究の枠 組みを超えたケースの記述や関連概念の整理など を着実に蓄積し,実務の実態や変化のプロセスを 記述していくことが,今後必要になると考えられ る。これにより,本研究で「日本的」とした組織 間マネジメント・コントロールの姿が,様々な要 因(戦略,組織構造,組織文化,国民文化,経験 など)のもとで成立し,かつ,変化し得るシステ ムであることを描き出すことが,今後の課題であ る。 参考文献 淺田孝幸.2005.「企業間提携と戦略的コストマネ ジメント」淺田孝幸編著.『企業間の戦略管理会 計』同文舘出版:31-42. 淺田孝幸.2007.「純粋持株会社の管理会計課題」 『企業会計』59(8):1076-1085. 浅沼萬里.1984.「自動車産業における部品取引の 構造―調整と革新的適応のメカニズム―」『季刊 現代経済』58:38-48. 浅沼萬里.1990.「日本におけるメーカーとサプラ イヤーとの関係―関係特殊的技能の概念の抽出と 定式化―」『経済論叢』145(1/2):1-45. 伊丹敬之.1988.「見える手による競争―部品供給 体制の効率性―」伊丹敬之・加護野忠男・小林孝 雄・榊原清則・伊藤元重著.『競争と革新―自動車 産業の企業成長―』東洋経済新報社:144-172. 岩淵吉秀.1996.「企業間ネットワークの形成と変 革―グローバル時代の戦略創造―」『ビジネス・イ ンサイト』4(2):38-47. 上野恭裕.2011.『戦略本社のマネジメント―多角 化戦略と組織構造の再検討―』白桃書房. 大浦啓輔.2006.「組織間におけるコントロール・ システムと『信頼』」『原価計算研究』30(2):63-71. 上總康行.1995.「成長志向型原価管理の終焉―現 代原価管理の動向―」『名城商学』45(3):29-55. 上總康行.2014.『ケースブック管理会計』新世社. 加登豊.1993.『原価企画―戦略的コストマネジメ

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5)例えば,Caglio and Ditillo(2008)は,組織間マネジメン ト・コントロールに関する研究を「コントロール・アーキタ イプ」,「マネジメント・コントロール」,「原価・会計管理」 の三つに分類している。

6)例えば,Cooper and Slagmulder(1999)は,「王国型」や 「領主型」の組織間関係が組織間コストマネジメント技法の 利 用 に 適 し て い る と 指 摘 し て い る。ま た,Cooper and Slagmulder(2004)は,設計変更を組織間で相互に支援する 「ファミリー・メンバー」が組織間コストマネジメント技法の 利用に適していると指摘している。 7)さらに,この研究は,組織間での協働とその成果との関連 性が組織間関係の選択に影響を与えていることを示唆してい る。 8)いわゆる「連結経営」が組織間マネジメント・コントロー ル研究の対象に含められるという主張は加登(1999)でも見 受けられている。しかし,具体的な検討は未だ十分ではない。 9)内閣府(2013)の調査では,2000 年代を通じて関係会社に

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対する外注費が増加傾向にあることも報告されている。 10)例えば,上野(2011)は,本社のマネジメント・スタイル

について,質問票調査に回答した198 社が,戦略管理型(58

社),戦略計画型(49 社),財務統制型(44 社),一体型(47 社)に分類されたことを報告している。

Issues in Japanese Inter-Firm Management Control Research

Junya Sakaguchi (Graduate School of Accountancy, Kansai University) Takaharu Kawai (Faculty of Commerce, Doshisha University)

Yasuyuki Kazusa (Professor Emeritus, Kyoto University)

Abstract : The aim of this research is to present the current state and future research opportunity

around Japanese inter-firm management control. Through comprehensive literature review, we find that prior research of Japanese inter-firm management control has mainly focused on (1) close relationships, (2) interactive collaborations, and (3) information sharing with partners. Additionally, we point out some future research opportunities in this field based on the relevant research of inter-firm management control.

Key words : Inter-firm management control, Information sharing, Interactive collaboration, Japanese

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