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畑プロジェクトにおける協同的な学びに関する研究 -5歳児の知と社会性の発達に注目して-

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(1)平成十九年度 畑プロジェクトにおける協同的な学びに関する研究. 一5歳児の知と社会性の発達に注目して一. 兵庫教育大学大学院修士課程. 学校教育専攻 幼年教育コース. 片岡章彦 MO5081G.

(2) 目 次. 第1章 なぜ幼児期に畑プロジェクトか 1.現代の幼児を取り巻く状況とプロジェクト・アプローチ. 1. 2.5歳児の知と社会性の発達的特徴から見た「協同的な学び」の位置づけ. 10. 3.勤務園の幼児の実態を踏まえた「畑プロジェクト」の提案. 12. 第2章畑プロジェクトの実際 1.畑プロジェクトの年間計顧. 14. 1−1.畑プロジェクトの計画とはじまり. 14. 1−2.畑プロジェクトの進行. 15. 1−3.畑プロジェクトの反省と結論. 21. 22. 2.畑プロジェクトの実践事例と考察. 2−1.プロジェクトの3段階における5歳児の協同的な学び. 23. 2−2.個の育ちをいかに捉えるか. 33. 2−3.畑プロジェクトと普段の園生活の繋がりについて. 36 37. 3.保育者の援助の在り方について. 第3章総合考察 1.本研究の総括. 40. 2.畑プロジェクトにおける脇同的な学び」のサイクル:3年保育での幼児の発達を. 踏まえて 3.家庭や地域との体系的な連携に向けて. 引用・参考文献. 42 47. 49.

(3) 第1章 なぜ幼児期に畑プロジェクトか 1.現代の幼児を取り巻く状況とプロジェクト・アプローチ 人の一生において,幼児期は,生涯にわたる人間形成の基礎が培われる極めて重要な時 期である。幼児は,生活や遊びといった直接的・具体的な体験を通して,身体的・情緒的・. 知的な発達,あるいは社会性を身につけながら,人間として,社会の一員として,より良 く生きるための基礎を獲得していくのである。. しかし近年においては,幼児を取り巻く環境の急激な変化によって,幼児がより良く生 きるための基礎を獲得していくことが困難となっている。このような状況を指して,岡本 (2005)は「幼児劾の空洞化」と述べている。では具体的に幼児期の空洞化を招いている. 環境の変化とは,どのようなものなのだろうか。中央教育審議会答申「子どもを取り巻く. 環境の変化を踏まえた今後の幼児教育の在り方について」(平成17年1月28目)によれ ば,「子どもの育ちをめぐる環境の変化:地域社会の教育力の低下」として,以下のように 述べられている。“地域社会などにおいて子どもが育つ環境が変化している。子どもが成長 し自立する上で,実現や成功などのプラス体験はもとより,葛藤(かっとう)や挫(ざ) 折などのマイナス体験も含め,「心の原(げん)風景」となる多様な体験を経験することが. 不可欠である。しかしながら,少子化,核家族化が進行し,子どもどうしが集団で遊びに 熱中し,時には葛藤しながら,互いに影響し合って活動する機会が減少するなど,様々な 体験の機会が失われている。また,都市化や情報化の進展によって,子どもの生活空間の 中に自然や広場などといった遊び場が少なくなる一方で,テレビゲームやインターネット 等の室内の遊びが増えるなど,偏った体験を余儀なくされている。”. ここで述べられている内容について,実際に確認してみよう。まず,少子化や核家族化 の進展については,厚生労働省「平成18年人口動態統計月報年計(概数:〉の概況」〈2007. 年6月6目)によると,出生数,合計特殊出生率共に過表最低を記録した昨年に比べ,平 成18年はやや上昇に転じたものの,依然低い水準で推移していることが分かる(図1)。. 1.

(4) 万人第1次ベビーブーム 第2次ベビーブーム. (昭和22∼24年) 300. 5. 4A ロ. 計. 200. 出. 3特 殊. 生. 出. 2生. 数. 率. 100 1. 園出生数. 一合計特殊出生率 0 22. 30. 40. ・. 50. ・. 60. 2. 18. 7. 平成・年. 昭和・・年. 三1 出生数・合計特殊出生率の変化. さらに,核家族化については,厚生労働省「平成18年国民生活調査の概況」(2007年5 ,月30日)によると,児童のいる世帯において核家族世帯の割合は増加傾向にある。さら に,児童のいる世帯の割合そのものが大幅に減少しており,ここにも少子化の影響が強く 見て取れるだろう(表1)。. 表1 児童のいる世帯について 全世帯にしめる児童. 核家族世帯 三世代同居 平均児童数. フいる. フ ム. 昭061 ・成一. 4 7 10 13 16 17 18. の審ム. 462 417 364 333 302 288. 69.6. 695 691 693 700. 27.9. 263 273. 「 の客△ 27.0. 1.83. 26.9. 1.81. 272 269. 1.80. 1.78. 26.4. 1.77. 71.2 74.2. 24.7 22.5. 1.75. 73.4. 23.8. 1.72. 21.3. 1.72. 756. 1.73. こうした大きな社会的変化は,幼児の遊びや生活に,どのような影響を与えているのだ. ろうか。ここでは,Benesse教育開発研究所が,首都圏の0歳6か月∼6歳就学前の乳幼 児をもつ保護者を対象に行った『第3回幼児の生活アンケート報告書』(2005)の結果を参 照しながら検討していきたい。. 2.

(5) まず,平日幼稚園や保育所以外でよく遊ぶ友達の数を示したものが図2である。平日に 遊ぶ友達がいないという幼児の割合が少しずつ増加していることが分かる。また,10年間. を通じて,4人以上で遊ぶ幼児の割合は半数を超えない。このことから,幼稚園や保育所 以外では,幼児が集団で遊ぶ機会は少ないということが分かるだろう。. 特に決,っていない 0人. 無籍不明 4∼5人6人以上. 2∼3人. 1人. 〔36》. 断(贈人)脚下費 00年(1601人). ’慧脚『. 05年(2297人〉. 飛禽. 40ρ. 17.4. 3翫7. 脆・. 響俵3. 一1.8. 一懲. ゆ哺1,1. }1二璽…r’.血盟一・2. 図2 平日に遊ぶ友達の人数(10年比較). 次に,遊ぶ場所について見てみたいと思う。図3によると「自宅」で遊ぶことが一番多 いものの,近年減少傾向にあるようだ。その一方で,「友達の家」という回答は増加してお り,両回答の割合を合わせると,幼児の遊ぶ場所が室内中心であることが窺い知れる。. また,「近所の空き地や公園」で遊ぶという回答はこの10年間,割合的にほぼ変わりなく 推移している。都市化が進む中でも幼児は屋外で遊ぶことを好むようである。しかし,そ こで展開されている遊びの内容にも注意が必要であろう。私の住む地域では,近年爆発的 にブームである,携帯型ゲームを公園などで各自が手に持って遊んでいる姿を良く見かけ る。また,後に表3で確認するが,やはり都市化された環境としての公園では,心動かさ れるような自然に触れることは難しく,体験の多様性には十分に開かれていないように思 われる。. 3.

(6) 面. 域. 職. 藏. §邸. 爲 宅. 訪. 魏. @岬山. 瓢1継. 鏑の空毒搬や公劉. !1鈴灘 !舗藩 $7日 2乳3頚. 歳だちの憲. +鰭奪難磁2瀬 幽。圏一難劔慧λ} 一嗣一・薦驚‘鋤7人葦. 戸轟. 避∼. 7.鴫. 学楓幼姻曝育欝螂漁鶏. 建.お. 1鴇 選瀬⑳穣鳩目鶏 塾講. 資竃⑳薩. 轟.窃. 蔵3織. 鋤内鍛遊び壌. 董鋤. 謙鞍醗壌を蟹鵡6項§面φお・彗簸ぶこと澱奉い矯欝を量飾瀦畿. 図3 遊ぶ場所(10年比較). では,どのような遊びを幼児は展開しているのだろうか。ギよくする遊び」の割合を年齢. 別に示したものが表2である。幼児期にあたる3∼6歳児の部分に着目したい。この年齢 幅で一貫して5割以上の高い割合を示している項目を挙げると,「公園の遊具」「絵や漫画 を描く」「自転車,一輪車三輪車:などを使った遊び」である。屋外遊びではあっても,公 園の遊具では遊びのレパートリーは限られてくるだろう。また,お絵描きや自転車などは,. 基本的に一人でもできる遊びである。これらのことから,近年の幼児は,集団で遊びに熱 中し,時には葛藤しながら,互いに影響し合って活動する機会が減少していることが窺え る。こうした機会を体験できる遊びとしては,たとえば「カードゲームやトランプなどを 使った遊び」「おにごっこ,缶けりなどの外遊び」「なわとび,ゴムとび」などが挙げられ. るだろう。それらは,友達と一緒ではないとなかなかできず,勝敗がはっきりしていて葛. 藤を味わうことも予想される遊びだからである。そしてその割合は,5∼6歳児で急速に 高くなっている。しかし,いずれも半数を超えるものではなく,幼児が「よくする遊び」 というわけではないようである。. 4.

(7) 表2 年齢別に見た幼児がよくする遊びの種類 《9嚇. 10醜61●0書霞62歳02霞6. 麟. 勇子馬歯謡曲鑑鑑蹴・餓・船岡 2角 か月 ρ月 ,月 ,月. 抱鱒。八}. 公禰の遊具‘寸べりだい、 68」. {鯛ooλ〕1:鷺●oλ}:3彪人}1363人)2B却 :4鳩ムき12髄入〕起340人目コ雪2人目32駄)12賜人1. 68」. 68魯. dD 4&2 71β. 89β 0諏4 ●&7 1陰3. 705 ●脳6. 儲L¶ 7監5 7雪』 672. 腿の 3●4. 冒. ブランコなど}謄使,麦遊ぴ. つみ木、ラロック. 69,3. 壷3場などで0どろんこ遊び. 673>549. 5tつ. 51.5 50,7. 379 66◎ 菰2 a5 294 8駄書. 冨富=詔. 一. 6,.7 62. 鯉2 鰍。 引隠4 ●9』 ■■■■. ●騨■口・. 6柵 総5. ●6』 醐5 ●■◎ 69. 魯人猶遊び、22ごとなど 50の のごっこ遵ぴ. 2ag〈762. 02 27.7 ‘鳳9. 絵4Pマンガ癒繍く. 37.7〈61」D. 03 雪1.0 329. 47.魯 442 6駄7 665. ℃2 書。.8 22.8. 365 40.3 620 ●02. 一一. 625 6巴6 50温 46.1. 3乳0 2訊9. 622 随動 6』 ω. 4&6 乙77. 49.5. 賄寧、→騨、三輪靴砥61⑱2. “。1 1. ど董使った遊び ミニカー、プラモデルなど、44。9. 71.5>169. 30.7 駿4 6&2. 55」>2●5. 7」 罰』 dL9. 孕野馳など}. マンガや傘借傘}壷聾七 424 40.0〈45.O I 石ころ孕ホの楯など画態の342 382>30D. ■■■■陰. 一. カードゲーム雫トランプなど. を使,た遊び 敏ご,こ、昏‘,りなどの. 弼遊び. 訟・. 演チ翻. 22.30 2」L5. 20.1. 薯 ,8.0. 18.9. ,7」. 1. 6&7 ●●4. 鎚. 一. o■■蘭陰 魑■■騙9. 202 37.1 436. 引β 475. 3」 292 327. 創」 4乳9. もの。使った遊び ジグソーパズル. 673 67」奪. 一. −. 8もち?を使うた遊び. ボー麗使・樋び{サ・カーω1. 嘲騨脚旧. O,. 33. 棚 “ 州. 4峨1 47.耀. 鋤. 29.4 25」. ■一. 43.4. 一詔 40』. 6]2 23」ヒ 3℃2. 一■ 0ρ 09. 0ゆ. 42. 13. 6」3. 3.1. 5」. 7£. 9.0. ¶&o. 1“. 一 閲2. 3へ¶ 29」. 423 45 一 1■■■■■. 30β 367. 23』. 一. なわとび、ゴムとび. 1&4h鳥く加. テレビゲ・一ム. ,2」. σ.9> 7.5. その軸. 132. 13。6 12.9. 1. 一. oρ. 03. 03. 2お. 4.8. z81&7里』に. OO. 0ゆ. 0.7. 1.,.. 2.3. 6,9 tOβ 282 3斜. 36β. 鳳8. 一 ■■■■■. 這1}鱒融蹴、「そ。ウ輸3を禽心16唄目の中,6書駅。旨. 1to. 85. 13.0. つ42. 驚33. 163. ,3.7. 達2)0融6”月侮畢霞5”月の乳幼艶Oもつ録口審の日鴇壷含心。 註3,くは子どもの惟斜にδ亀と創こ、5ψ「イント以よ露が畠るものG 這4)=¢,年醐らこ轟」とと8の●力陰、一纏凄5=★8、鵯魯示↑” 建5》子どもの引馬罰に鋤て、3096脇」の項目日脚い綱醤謄、50篤以上0顕昌醤温い■鵬07にしてい番曙. そして,近年の幼児にとって,多くの時間を費やすのがテレビ等の視聴時間である。こ の10年間で,わずかにテレビ等の視聴時間の減少が見られるが(図4),一貫して,多く の時間を費やしているのに変わりない。. また,年齢別でみると,テレビ等の平均視聴時間にほとんど差はない(図5)。これまで 長かった低年齢児の視聴時間が,やや減少していることが分かる。4歳以上児については,. この10年間,ほとんど変化が認められず,長時間視聴が続いている。この時期の子の多 くは幼稚園や保育所等に通っており,自宅にいる時間が少ないことを考えると,より問題. 5.

(8) o. 05. 20. 15. 1ρ. 25. 19頓1,. 35. &o. 4◎. テレビ. ビデオ. 95隼(1605人). 2謝馳紛. 1剛■03分. 00年(1520人}. 3鱒綱03分. 45 能争. 3簿鱒56分. 4鱒需oo分. 57分. D D 05年(2060人). 2■鵬4粉. 3鱒釦駒0分. 引分 27分. 注)∫テレビjlヒデオ」「ovoj奄使う顧慶に働■寸る謝闘で「ごくた21ご」「ぜんぜん8わらない。鹸わない」 r使わせない・晃健ないjr塞にない」と國寄し疫岨台魑、「0鱒■ljとして畢均禰■鏑欄壷算出した.宮た. 鰍答不明の人“分噺から除外しτいる曙. 図4 メディアの平均視聴時間(10年比較). o. 1謝鋤. 05. 1o. 15. 2◎. 25. 30. 3.5. 4乃. 4、5. 5.o. −糧3時闘56分. mlii難li 全体. 4出納oo分. 3關40分. …[難i. 鞭騨 ヒ鞭騨騨警轡騨騨響.灘・紬・分 4時開03分 31騨融38分. ・鞭. m讐i欝i. 4時閣21分 40●縄04分. 蛛E騙・・錫. m蓑i霧li. 4嗣31分. ・鰻. 4繭11分. …[≡三i義li. .,・、,・・.矯...演,騨美・帆… 置. 隔. d39●閥46分 3剛蹴45分 .3鱒簡57分. ・醜. m灘li. ・鰍. 浮演T際, 3剛瞬45分 .3鱒縄35分. 囎・關鮒. ・戟 m難}. 3剛■36分. 3凹凹219 注のテレビ此上鱒闘.ヒデオ棚驚鋤蘭の含計{05驚鱈OVD視■饒蘭壷禽む}。 注2)「テレビ」rヒデオ」「OVO j壷使う山窟5こ口顧る御側で「ごくた35こ」τぜんぜん8わらない・使わない」「使わセ ない・髭世ない」「竃にない」と賂した場合墜、ro時簡」としてヨF均糧驚時闘奄欝出した。,た、儀審不明の人 は分斬から篠錦しτいる。. 図5 年齢別に見たテレビ等の平均視聴時間. 6.

(9) は根深いと言えるのではないだろうか。さらに表2で見たように,この時期の幼児は,徐々. にテレビゲームで遊ぶようになる。また項目には含まれていないが,携帯型ゲームを持つ 幼児も増えているように思われる。それらを合わせると,現代の幼児は,相当長時間にわ たって,ディスプレイから一方的に流れてくる情報によって,受身の状態で過ごしている と言えるのではないだろうか。. このように,現代の情報化は,幼児の遊びや生活に深く浸透していることが分かる。岡 本(2005>は,そのことがもたらす危機について,以下のように論じている。情報化社会は,. 人々の生活を圧倒的に便利で効率の良いものにする一方で,人間同士の交わりや直接的な コミュニケーションを奪い,たとえば話手の思いや相手の考えを汲み取ったり,踏まえた りしながら自分の考えを構築していくといったことを省き,自分の思いだけによって自分 の考えを構築することにつながっていった。結果として,機器操作に欠かせない瓢一ドや ルールの使用には熟達しながら,人間同士が共に生活する共同者として生きていくための コードやルールについてはほとんど無知な子どもの増加を生み出しているように思われる。. ここまでの議論で,現代の幼児を取り巻く環境の変化と,それが幼児の遊びや生活にどの ように反映しているのかを,いくつかのデータによって確認してきた。少子化や核家族化 という大きな社会的変化の中で,幼児は集団で遊ぶ体験を失いつつある。また,都市化を 反映して,幼児がよく遊ぶ場所は屋内であり,よくする遊びの種類も一人でもできる固定 したものが多い。さらに,情報化の進展は,幼児の生活にも入り込み,テレビ等の長時間 視聴等を招いている。つまり,「人問関係の希薄化」「体験の偏り」が課題となっていると 言えるのではないか。.. 上記答申では,「子どもの育ちの現状」として,“近年の幼児の育ちについては,基本的 な生活習慣や態度が身に付いていない,他者とのかかわりが苦手である,自制心や耐陸, 規範意識が十分に育っていない,運動能力が低下しているなどの課題が指摘されている。 ……. チえて,近年の子どもたちは,多くの情報に囲まれた環境にいるため,世の中につい. ての知識は増えているものの,その知識は断片的で受け身的なものが多く,学びに対する 意欲や関心が低いとの指摘がある”と論じている。こうした幼児の育ちの変化も,これま で述べてきた環境の変化を踏まえると,当然のように招いてしまった結果なのかもしれな い。. では,このような「幼児期の空洞化」に対して,幼児教育としてどのように取組が必要 だろうか。幼児教育とは,幼児に対する教育を意味し,家庭における教育,地域社会にお. 7.

(10) ける教育,幼稚園等施設く幼児に鮒する教育機能を担う幼稚園や保育所等の施設を指す) における教育を含んだものであり,三者の連携によって推進されていくべきものである。. しかし一方で,家庭と地域の教育力の低下が指摘され,幼稚園等施設には,これまでのノ ウハウや成果等を活かし,子育て支援や預かり保育等を通じて,それらの再生・向上に取. り組むことが期待されている。それらの必要性は疑い得ないものの,まずはやはり七二 減等施設における教育の充実」を図ることが重要であると考える。では,その特徴とは何 か。上記答申では,家庭・地域社会・幼稚園等施設における教育の特徴を,各々以下のよ うにまとめている。“家庭は,愛情やしつけなどを通して幼児の成長の最も基礎となる心身. の基盤を形成する場である。また,地域社会は,様々な人々との交流や身近な自然との触 れ合いを通して豊かな体験が得られる場である。そして,幼稚園等施設は,幼児が家庭で の成長を受け,集団活動を通して,家庭では体験できない社会・文化・自然などに触れ, 教員等に支えられながら,幼児期なりの豊かさに出会う場である”。先に,「幼児期の空洞 化」をめぐる主たる課題は,「人間関係の希薄化」「体験の偏り」であると述べた。幼稚園. 等施設では,集団での活動を活かし,社会・文化・自然などに触れる多様な体験を保障す ることで,これらの課題に対応できるものと考える(後述するように,著者の勤務園では,. 幼児の屋外での自然体験が不足している現状に鑑み,「畑」を環境として導入し教育に取り. 組んできた)。幼児教育の基本である環境を通しての教育」を,現代的な課題に即して, 今後より一層組織的かつ計画的に推進していくことが求められるのではないだろうか。. さらに,幼稚園等施設における教育は,小学校移行の教育との連携・接続の強化・改善 を図ることで,その内容の充実を図る必要があるだろう。上記答申では,「教育内容におけ る接続の改善」として,以下のような提言が行われている。“幼稚園等施設において,小学. 校入学前の主に5歳児を対象として,幼児どうしが,教師の援助の下で,共通の目的・挑 戦的な課題など,一つの目標を作り出し,協力工夫して解決していく活動を「協同的な学 び」として位置付け,その取組を推奨する必要がある。遊びの中での興味や関心に沿った 活動から,興味や関心を生かした学びへ,さらに教科等を中心とした学習へのつながりを 踏まえ,幼児期から児童期への教育の流れを意識して,幼児教育における教育内容や方法 を充実する必要がある”。. 先に,現代の幼児の課題に対応して,集団での多様な体験を充実していく必要があると 述べた。ここでは,そのような目標を,小学校以降の教育も視野に入れて,教育内容にど のように反映させていくべきかが問われている。つまり,発達や学びの連続陸を確保して. 8.

(11) いくために,幼稚園等施設では,まず遊びを通じて幼児の自発性や主体性等を育てること,. さらにそれらをベースとして,主に5歳児を対象として協同的な体験を重ねることが重要 になるものと考えられる。. これまでに,現代の幼児を取り巻く状況を踏まえて,今後「協同的な学び」を核として 組織的かつ計画的に,教育内容の充実を図る必要があるという基本的な方向性を確認して きた。では,具体的にどのような取組が求められるだろうか。本論では,その手がかりを 「プロジェクト・アプローチ」に見出していきたい。. プロジェクト・アプローチの特徴をまとめると,以下の5点になる。Katz& Chard(200012004)①断続的ではなく系統的な教育,②知的発達を促進する教育,③社会 的感性・情緒性的感性・道徳的感性も育てる教育,④幼児の内発的動機に基づく能動的な 活動を通じての教育,⑤幼児自らが活動内容を考え,活動の継続の中で試行錯誤し,それ ら一連の過程を反省・評価し,協同的に学びを蓄積する教育である。. さらに,プロジェクトワークは,以下の3つの段階によって進められる。①プロジェク トの計画とはじまり(活動の見通しを立てる),②プロジェクトの進行(調査を行いそこで の学びを表現する),③プロジェクトの反省と結論(振り返りによる評価と報告を行う)。. 各段階における具体的な活動は,通常,小グループによる分かれて行われ,①話し合い,. ②フィールドワーク,③表現,④調査,⑤展示という5つの要素が含まれる。このうち, プロジェクト・アプローチを最も特徴付けているのは,調査である。調査を進めていくう ちに生じた疑問や幼児自身が感じた疑問,保育者と協力して考えた疑問に対する回答を求 めて行われる。その活動は数日間か数週間にわたって継続して行われるのが一般的である。 プロジェクト・アプローチは,系統的な教育であり,. 組織的かつ計画的に行われる必要がある。ただし,. それは,幼児の内発的動機に基づく能動的な活動に よって展開されることから,幼児の自発性や主体性 を第一としている。また,仲間と協力して,一つの 課題に取り組み調査する活動を重視していることか らも,「協同的な学び」に直結するものと考えられる。. さらに,具体的な活動をはじめるに当たっては,必 ず話し合いが行われる。幼児が,自分達だけで話し 合い,活動を進めていくということは簡単なことで. 9.

(12) はなく,そこには多分に葛藤が含まれる。それらを乗り越えられるよう支えるのは保育者 の重要な役割である。そして,これらを進めるには,何よりも,幼児自身が夢中になれる ような活動の中で多様な体験を得られることが必要であろう。そのための環境を充実させ るのが保育者の重要な役割である。. 本章では,幼児を取り巻く環境の変化による「幼児期の空洞化」を確認してきた。そし て,幼稚園等施設でどのように取り組むべきなのかという課題に対する,具体的な取組の 手がかりがプ灘ジェクト・アプローチにあると論じてきた。その具体的な実践内容につい ては,第2章で述べることとする。. 2.5歳児の知と社会性の発達的特徴から見た「協同的な学び」の位置づけ 前節では,現代の幼児を取り巻く状況を踏まえ,「協同的な学び」の必要性を確認し,具 体的な取組として,プロジェクト・アプローチを提案した。 上記答申「子どもを取り巻く環境の変化を踏まえた今後の幼児教育の在り方について」 の中では,協同的な学びとは,「主に5歳児が,教師の援助の下で,共通の目標を作り出し,. 協力工夫して解決していく活動」とされていた。プロジェクト・アプローチの5つの特徴 も,この規定にほぼ沿うものである。. ところで,協同的な学びとは,そもそも5歳児の発達に即したものであろうか。言い換 えると,5歳児に対する教育方法としてプロジェクト・アプローチはふさわしいものとな りうるだろうか。脇岡的な学び」とは,文字通りとれば「協同性謀社会性」と「学び謙知」. との合成概念である。そこで以下では,5歳児の知と社会性の発達的特徴について,Piaget (1896!1980)の議論を参考にまとめていきたい。. Piagetによる知能の発達段階論(発生的認識論)によれば,5歳という時期は,前操作 期における「象徴的思考段階」から「直観的思考段階」の移行期に当たる。象徴的思考段 階においては,感覚運動的なシェマが内面化されイメージが発生し,それに基づく象徴遊 び(見立てやふり遊び)が盛んになる。言葉も急速に獲得されるが,それらは個々の幼児 のイメージを反映したものであって,類と個,一般と特殊など,概念的関係の把握は難し い。これに対して,直観的思考段階においては,事物を分類したり関連づけたりするなど,. 概念的な把握が進む。ただし,その際の推理や判断がいまだ直観作用(知覚的に目立つ特 徴に基づく外界の理解や把握)に依存している。論理的な思考の枠組ができあがりつつも 知覚の束縛から抜けきれないのが,この段階の特徴である。. 10.

(13) では,このような知の発達段階の移行が可能になるのは何故であろうか。そこで,鍵に なるのが「言葉」である。5歳頃から本格的に機能しはじめる言葉は,知を構造化すると 共に,社会的な相互作用を織りなす手段となるものでもある。したがって,この時期の幼 児の知と社会性とは,相互に深く関連しながら発達していくのである。詳しく見ていこう。. 2歳頃からはじまる象徴的思考段階においては,言葉が著しく獲得される。それと共に,. それまでの感覚に拘束されていた状態から,新たにイメージを介した相互作用が現れ,こ のことが個人の思考を豊かにしたり,変えたりする。しかし,この段階では,言葉は抽象 的に過ぎて,幼児の思考を十分に表現できる手段とはならない。そこで,幼児は,話すだ けでは満足しないで,考えているものを動作や模倣などで「実演」したり,絵や工作など で象徴的に事物を再現する。. また,この段階での書葉やイメージは,幼児個人の記憶に根ざしているので,基本的に 自己中心的である。イメージが重なり合いかかわりながら遊びが発展していく場面が見ら れるようになることもある。他方で,互いのイメージがずれることで,幼児同士のトラブ ルが目立つようになる。こうして,幼児は,自分の考えに同意されたり,反対されたりす ることを通して,自分の思考を深めると共に,自分以外に色々な考え方のあることに気づ いていくのである。. これに対して,5歳頃からはじまる直:観的思考段階において,幼児は,象徴遊びをお話. 作りや劇表現に近しいものに構造化するとともに,集団でのルールのある遊びを徐々に好 むようになる。こうした変化に伴い,それまでのイメージに代わって,言葉による表現が 中心的な役割を担いはじめる。言葉は,分類や関係に関する体系を幼児個人に伝達する。. これに伴い,幼児は,論理的に思考することを学びはじめるのだが,自分の視点や経験に 中心化して物事を捉える傾向があるため,操作の素性体を作り上げるには至らない。. では,幼児は,どのようにして論理を作り上げていくのだろうか。その際,社会的な相 互作用が欠かせない。なぜなら,幼児は,他児とのかかわりを通じて,他人の視点に自分 が立ったり,自他の経験の相対化したり,自分と事物との間の関係性を捉えて判断するこ とが可能になるからである。こうした体験を通して,幼児は「自己中心性」を徐々に脱し, 社会化されていくのである。 以上を踏まえ,Piagetは,幼児期から児童期に至る過程で,論理をつくりあげるものは,. 社会的協同関係だけであると結論づけている。個人が論理的に思考し自他の視点を区別す ることではじめて集団による協同は成立し,逆に,他者との協同し様々な視点があること. 11.

(14) を理解することを通して論理的思考が育まれていく。こうした関連性は,ある意味で当然 のことだと言える。なぜなら,5歳頃から芽生える論理的な知と社会性は,少なくとも「客 観性」「証明の欲求」「言葉や思考内容について,その意味を一定に保っておこうとする態 度」という3つの点で,共通するものがあるからである。 以上のことから,5歳頃からはじまる直:観的思考段階においては,知と社会性はともに. 関連しながら発達するものであり,どちらか一方のみが発達することはありえない。もち ろん,この時期の幼児は「自己中心性」を特徴としているが,そこから脱するためにも知 の社会化が必要なのである。Piagetが指摘するように,社会的な協同(coopefation)と は知の共同操作(oo・operation)であり,論理的思考は社会的な規範としても求められる. のである。そして,脇同的な学び」とは,5回忌の発達段階に即したものであり,幼児の 知と社会性の発達を促す,一葉を介した社会的相互作用のある活動だといえる。. 3.勤務園の幼児の実態を踏まえた「畑プロジエクト」の提案 前節では,協同的な学びが5歳児の発達に即したものであり,特に,言葉を介した相互 作用が,幼児期における知と社会性の発達において重要であることを確認してきた。この ように,幼児期から児童期の発達において知の社会化が求められることから,教育の具体 的な取組として,プロジェクト・アプローチを導入することが有効でありうることを,あ る程度示しえたと思う。. 著者の勤務園においては,プロジェクト・アプローチを取り入れて保育を展開し,脇同 的な学び」を重視している。では,色々なプロジェクトワークが考えられる中で,なぜ幼 児の「協同的な学び」を,畑プロジェクトとして実践するのかについて論じていきたい。. まず,物的環境として,勤務園の敷地の隣に畑が既存しており,以前より畑での活動を 行ってきたことが,畑プロジェクトを実践するきっかけとなった。そして,畑での活動を 単なる栽培活動に終わらせず,より幼児が積極的に働きかけ学びの場としたいという思い があった中で,教育課程の中に位置づけなおすことを試み,畑プロジェクトとして再構成 してきた歴史がある。上述のように,幼児期の知の発達には,感覚やイメージの豊かさが 欠かせない。畑においては,栽培物のみならず,土や水,昆虫などの生物など自然に直に 触れることができる。さらにオープンなスペースの中でイメージを膨らませるきっかけと なる。その意味でも,物的環境として畑を活かすことには,十分な意義があるものと考え る。. 12.

(15) 次に,「二二」という視点を挙げることができる。2005年に「食育基本法」が制定され た。その背景には,目本の食文化に関する危機感がある。もともと日本の食文化は春夏秋 冬の季節の恵みに満ち溢れていた。しかし,現代の都市化した大量消費社会においては, そうした日本特有の食文化が見失われつつあり,幼児の食生活の乱れも指摘されている。. 生きる力の基礎を育む幼児期において,教育の基礎にある食置を実践することは,生粋の 課題であると言える。勤務園での畑プロジェクトでは,数ある食育の取組の中でも,食農 を中心に据えている。そのことで,消費中心の生活をしている幼児にとって,畑作(稲作). や調理など,食を生産の方向に広げることは,未知の生活を創造していくものとなる。幼 児は,畑プロジェクトにおいて,幼稚園という生活の場を舞台にして,自然に親しみ,栽 培・収穫し,調理することで,命に触れると共に食に対する理解が深まるものと考える。. さらに,上述のように,プロジェクト・アプローチの特徴の一つとして,断続的ではな く系統的な教育を実践する必要があることが挙げられる。畑での活動は決して断続的に取 り組むことができず,系統的なものとならざるを得ない。当然そこでは,一年間を通して の自然の変化等を味わい,実感を通して理解を深めることが期待される。また,畑活動は, すぐに結果の出るものではない。大量:消費社会の下,幼児は,何でも望めば与えられたり,. 手に入れたりすることが当たり前になっているように思える。この点を踏まえても,系統 的な畑での活動は,継続的に学ぶ意欲を支えるものでもある。. 最後に,勤務園において,近年,幼児の育ちが課題となっていたことが挙げられる。具 体的には,自分の思いを上手く伝えられない幼児や,その逆に自分の思いや考えだけを言 い,相手の思いにはまったく関心を持とうとさえしない幼児が増えてきたということであ る。畑プロジェクトでは,育てる野菜を決めるのも,途中の世話にしても,全てを協同で 行う。話し合ったり,協力したり,教えあったりする中で,おのずと,幼児は相互交渉を する場が増えてくる。すると,自分の欲求や,行動の動機を意識する場面が,必然的に多 くなってくるし,場合によっては,三児. 狭^×、艦. 照『驚…. に理解できるよう伝える必要がでてくる。. つまり,畑プロジェクトでは,自他の視 点をメタ的に認知し,言葉で表現するこ. 灘懇…:癬. とが求められるのである。こうした場の. 設定が,5歳児の知と社会性の発達に大 きな影響を及ぼすことは言うまでもない。. 轟 13.

(16) 以上を踏まえ,勤務園では,畑においてプロジェクトワークを展開し,幼児の協同的な 学びを促している。. 第2章畑プロジェクトの実際 1.畑プロジェクトの年間計画 本章では,畑プロジェクトの実際について,実践事例を交えながら論じる。まず,著者. が勤務しているH県A幼稚園(以下,勤務園と表記)での畑プロジェクトの年間計画の概 略を示す。. 先述のように,プロジェクト・アプローチの特徴として活動の3段階を挙げることがで きる。具体的には,①プロジェクトの計画とはじまり(活動の見通しを立てる),②プロジ ェクトの進行く調査を行いそこでの学びを表現する),③プロジェクトの反省と結論(振り. 返りによる評価と報告を行う)であった。これに即して,勤務園の畑プロジェクトの年間 計画を明らかにすると以下のようになる.. 1−1,畑プロジェクトの計画とはじまり 新年度の畑プロジェクトをはじめるに当たって,4月には,春野菜の収穫が行われる。 この春野菜は,昨年度の年長組が植えた野菜と自分達が年中組のときに植えた野菜とがあ る。この春野菜の収穫は,幼児が,畑における収穫の喜びを味わい,そこでの活動への興 味関心を持ちはじめることを意図したものである。そして,4月下旬,植わっているもの が何もなく,畝だけが並ぶ畑に幼児を連れていく。幼児は,畑には何かがあると予測して いるのだろう,多くの場合口々に「何にもない」と訴えてくる。これに対して,保育者は,. それはなぜなのかを考えるように問いかける。その上で,昨年度の畑の様子や年長組の幼 児の姿(たとえば,畑で収穫した野菜を使って一緒に調理したこと,年長組が育てた野菜 を見せてもらったり,収穫させてもらったりしたこと等)や自分達が年中組のときに春野 菜を植えて収穫できたということを思い出せるように話しかける。すると,幼児の側から,. 自然と「何かを育ててみたい」「今度は自分達の番だ」などといった声が上がる。この間,. 保育者は,畑での活動を促すような直接的な働きかけはしない。あくまでも,幼児自身が 畑に向かう気持ちを持つことが重要である。このような内発的動機づけによって,この畑 で具体的に何をするのか,何がしたいのかを話し合う。そこではどんな野菜を育てたいの. 14.

(17) かというところまで話し合う。通常,名前が挙がる野菜は昨年度の年長組が育てていたも のがほとんどである。中には,昨年の年長組が何を育てていたのかを指を折って挙げてい ったり,保育者に聞いてきたりする子もいる。一方で,今までに畑で育てたことのない野 菜の名前も出てくる。その際には,栽培の本などで,いつ種を蒔いたり苗を植えたりする のかを幼児と一緒に調べて,春先で可能かどうかを確かめる。そのことで,春植で可能で あれば,自分達の思いを実際に行動に移せることができることを喜び,他の時期に植える ものであれば,その時期までの楽しみとして幼児の気持ちの中にとっておくことができる。. このようにして,第1段階では,幼児の内発的動機づけを大切にし,保育者と共に話し合 いを通して,当該年度のおおよその計画を立てるのである。. 1−2.畑プロジェクトの進行 第1段階で立てたおおよその計画に基づいて,実際に栽培から収穫を行う中で,学びを 蓄積していく段階である。勤務園では,幼児からの発案に沿って,野菜作りと稲作を行っ ているが,その概要を以下に述べていく。. O野菜作り ・苗植え,種植え. 苗や種は幼児との話し合いによって決まっ たものを保育者が購入する。しかし,ただ購 入してきたものを幼児に持たせて植えるので はなく,野菜の種類を明かさずに幼児の前に 種苗を置き,何の苗や種なのかを推測させるということを行う。はじめのうちは,幼児は 何の根拠もなく,ただ闇雲に名前を挙げるだけである。そこで,幼児に何か調べる方法(そ. れぞれの種苗を比べて違いに気づいたりする方法)はないのかを考えるよう促す。その問 いかけに対して,「良く観てみる」「触る」「匂いを嗅ぐ」など,いくつかの方法が出される。. さらに,それらの方法を整理することで,今後行われる畑での活動や観察記録において, 生かしていく。. ところで,幼児全員が全て種類の野菜の種苗を植えることができるわけではない。これ は,種苗の数量や畑の広さ等,物理的な制約があることはもちろんだが,幼児自身が,自 分で何を植えたいのかを選択し,何の生長を調べたいのかを考えることを重視しているか らである。. 15.

(18) ・肥料やり,水やり. 肥糧と水は野菜栽培に不可欠なものだが,そこでもなぜやらなければいけないのかを,. 幼児が考えられるように問いかける。ただ「やらなければいけないと決まっているからや る」というようなことではなく,自分達で活動に対しての意味づけ,必要感を持って取り 組めるようにする。. 肥料やりでは,意識的に嗅がなくても漂ってくる臭気に,幼児は一体何の匂いなのかに ついて疑問に持つ。そこで肥料の袋の成分表示を見せることで,色々なものが入っている ことを気づくようになる。さらに肥料について調べることで,たとえば「鶏糞」のことや,. かつては人間の糞尿も肥料として使っていたことなどを知るきっかけとなる。 ・わき芽取り,間引き. 観察をする中で,幼児は,同じ場所にたくさん芽が出ていたり,一つの野菜の茎から多 くのわき芽が生えていたりすることに気づく。それは,野菜の生長を示すものではあるが,. そのままにしておいては大きくは育たない。もちろん,今の幼児の生活状況からして,こ のような知識があることの方が少ない。そこで,保育者は幼児と共に考える機会を設け,. わき芽取りや間引きという方法があることを知らせると共に,その必要性を実感し共有で きるようにしている。. わき弓取りや間引きについて話し合うとき,幼児は,自分たちが栽培している野菜がせ っかく育ってきているのにかわいそうだという感情を抱くことが多い。その感情を大切に しつつ,なおこれらの作業の必要性を実感することが,命の尊さに気づくきっかけとなる のではないだろうかと考えている。 ・観察記録. 幼児は,自分が植えた苗や種の観察記録を2週間毎. に1枚程度書く。記録用紙のサイズはB5である。記 録内容は,①観察目,②当日の気温,③観察した野菜 の絵,④観察した野菜の背丈(実のある野菜の場合は その数),⑤気づいたことの自由記録である。その他の. 準備物としては,色鉛筆,温度計,メジャー,五十音 表などがある。記録用紙の一例を以下の図6で示す。. 16.

(19) 6がつ題‘ちす即りうど. ‘がつ翠筋と・くようびC分ど. 難. ’駕・.. ひ騨・. 聴蘇d_ち. .蹉. ボ1. 1ワq警 ℃か蓄。霧秘匹. トマト①為. (. }こ ヒ. と. つ. ・_マ. ,、 」. ,. 図6 幼児が記入した録用紙の一例. 記録内容の中で,当日の気温,観察した野菜の背丈については,準備物の使用法さえ分 かれば,誰もが共通して計測可能である。気温からは野菜の生長にとって必要な環境につ いて関心を持つことができるし,野菜の背丈は一目で生長を実感できる指標である。. これに対して,観察した野菜の絵,気づいたことの自由記録については,生長や変化に ついての「幼児個人の気づき」が必要になるが,これが意外に難しい。実際,観察記録を 書きはじめた頃の幼児は,この2つの欄に何を書けばいいのか迷っていたり,野菜の絵と はいっても自分のイメージに基づく図式的な描画で終わったりする場合も少なくない。そ こで保育者は,たとえば,野菜の葉や茎に触った感触や以前がどのように変わったのかを 聞くことで,幼児個人の気づきを促していく。そうすることで,幼児は,自分なりに観察 するすべを身につけていくようになる。また,互いの気づきを発表し聞く機会を設けるこ とで,その子なりの観察に基づく絵や自由記録が生まれてくるようになる。. なお「気づいたことの自由記録」は文字で書くことを基本としているが,当然,文字が 書けない幼児もいる。そういう子については,はじめのうちは保育者が気づきを聞きそれ を書き取ったり,保育者が書いた文字の上を幼児になぞらせたりするなどしている。その うち,幼児が自分で書いて,その子が書けない文字については保育者が書くなどの対応も とる。さらに,先述の五十音表を使うことで,保育者が教えたり,幼児同士が教え合った りする過程を大切にし,文字への関心を高めることを目指している。. 17.

(20) ・収穫と調理. 自分たちで栽培した野菜を収穫することで,幼児は特別な喜びを体験する(少なくとも,. 幼児の表情から読み取れる限りは,そのように感じられる。この特別な喜びが,一体なぜ 生じ,どのようなものであるのかについては,今後検討の余地がある)。こうした体験の中. で,幼児はそれぞれの野菜の旬の時期を知ることにな る。さらに,勤務園では,栽培した野菜のうち,生食 できるものについては,できるかぎりその場で食べる 経験もできるようにしている。そのことで野菜本来の 持つ甘みや瑞々しさを感じると共に,翻ってそれが収 穫の喜びや充実感を確かなものにする。. その後,収穫した野菜を食材として,調理を行うよ うにしている。調理についても,多くの幼児が,普段 の生活の中ではほとんど経験していないので,大切な 機会である。簡単な調理法を知ると共に,自分できた という達成感が,家庭での生活に変化をもたらすことを期待している。また,不思議なこ とだが,それまでは苦手な食材であっても,自分で調理したものについては,幼児はすす んで食べることが多い。現在問題になっている,偏食等の幼児の食生活の乱れを緩和する 機会となるのではないだろうか。. o稲作 勤務園での稲作については,3年前の「畑プロジェクトの計画とはじまり」段階での話 し合いの中で,ある幼児が「お米を作りたい」という意見を出し,実現したものである。 当初は,保育者も試行錯誤の連続であったが,地域の方の協力もあって現在に至っている。. なお,具体的なプロジェクトワークについては,野菜作りと重複する部分が多いので, ここでは,稲作に独自のものを中心に取り上げる。 ・発芽と苗床作り. 発芽作業をする前に,稲作の図鑑を見せながら発芽とはどういうものなのか,稲作はど ういう過程ですすむのかを幼児に知らせることで,幼児は稲作に見通しをもって関わるこ とができるようになる。また,稲作をしながら自分達がしていることがどの過程にあるの かということを幼児自らが確認する(振り返りを行う)ことにもつながる。. 発芽を促すために容器に水を入れて籾を浸す。予め稲作の図鑑で籾から根が出てくるこ. 18.

(21) とを知っていることで,籾の様子を見ることを毎日楽しみする。芽が出るなど変化があっ た際には,保育者や仲間に興奮して伝える姿が見られる。その際発見したことに対して保 育者が十分に幼児を認めることで,伝え伝わる喜びを持たせ,それ以降の活動においても 発見等を積極的に言葉で表現する気持ちを持つきっかけをつくる。. 籾が発芽した後は,別の容器に土を盛り,二上に水がくるくらいに水を入れ苗床を用意 する。そこに,発芽した籾を蒔き,苗の生育を待つ。苗床作りの際には,定規を用意し,. 芽が15センチぐらいになったら田植えをすることを幼児に伝えておく。そのことで幼児 自身が定規を使ってどれくらい伸びたのかを測り,植え時を自ら判断することができるよ うになる。定規という客観的な判断手段を幼児に持たせることで,幼児がお互いに測った 長さを伝え合ったり,育ち方の違う苗があることに気づいたりして,なぜなのかを考え状 況も生まれる。つまり,長さという客観的な判断手段が内発的な動機を与え,幼児は,植 え時を自ら判断し田植えをしょうとする気持ちが高まるのである。 ・田植え. 田植えの際にいきなり田んぼに入ると,幼児は,泥の感触を嫌がったり上手く身動きが 取れない状況に陥ったりする。そこで,田植えをする日までに国んぼの中での泥遊びを何 度か行う。最初は不安そうな様子を見せるが,徐々に泥になじみ,活発な遊びを展開する ようになる。このように泥や水と思い切りかかわる体験自体,今の幼児にとっては意味が あるように思われる。さらに,こうした遊びを通じて,田んぼに入った時のイメージを持 つことができ,田植えに進んで取り組めるようになる。. 田植えでは,幼児は,一人おおよそ4苗ずつの苗を植えることになる。保育者がモデル となって行うのであるが,すぐに上手く植えられるわけではない。試行錯誤を繰り返しな がら進めることで,例えば泥の中では足をゆっくり動かしたほうが歩きやすいということ を教えあったり,泥の感触を嫌がる子の手を持ってあげたりするなど,幼児は協力し合う ことの大切さを知る。また,普段簡単に口に入るお米について,最初から生産過程を経験 することで,食に対する理解が深まったり,感謝の念を抱いたりすることが予想される。 ・田んぼでの発見. 田んぼには,おたまじゃくしやかえる,やご,かぶとえびなどが生息しはじめる。いず れも,普段の生活の中ではなかなか目にすることのできなくなった生き物である。幼児は,. それらの発見を喜び,仲間に「○○がいたぞ!」と伝え合ったり,一緒に捕まえたりして.. 楽しむ。また,何かを捕まえた子の手の中を覗き込み,捕まえたものの特徴や,捕まえた. 19.

(22) ものが弱なのかを言葉を交わしながら情報交換をしたりする。さらに,保育室に帰り図鑑 などで調べることで,生き物に対する思いや理解が深まっていく。 ・案山子作り. 稲穂がつきはじめ半年間の成果が実感できる頃,幼児は,田んぼに鳥が飛来してついば む状況を目にすることになる。そこで,折角実りはじめた「お米」を守るために良い方法 はないのかを話し合う。幼児にとって,そのようなことを考えることはもちろんはじめて であるため,どうずれば良いのかなかなか決まらない。そこで,稲作の本を読んだり家(η 人に闘いてみたりするなど,実際に調査を行う。調査の後の話し合いでは,網をかける,. 光るものをぶら下げる,案山子を作るなどの意見が出るようになり,実際に作ることで試 してみることになる。 ・稲刈り. 稲穂が垂れるようになると,幼児は,収穫への期待に胸を膨らませる。. 稲刈りは,のこぎり釜を使い一人5株ずつぐらい刈り取ることになっている。ただし, ほぼ全員がのこぎり鎌を使ったことがないので,まずは実物を見せるところがらはじまる。. そして,なぜ「のこぎり鎌」と呼ばれているのか,どのように刈り取ればいいかなどを話 し合う場を持つ。これは道具に対する関心や安全意識を高めるために行うものである。最 後に,保育者が使い方を知らせて稲刈りをはじめる。幼児は,収穫の喜びもあり,のこぎ り鎌で一生懸命稲を刈ろうとするが,これもまた意外なほど難しい。使い方を前もって教 わっていても,実際に自由に使いこなせるとは限らない。保育者は,必要に応じて,個々 の幼児に対する援助を行う。. 中にはのこぎり鎌をとても上手に使いこなす幼児もいる。個人的にその幼児を十分に認 めるのはもちろんであるが,それだけに終えず,見本となって稲刈りをしてもらい,どう ずれば上手に刈れるのかをみんなの前で話してもらうようにする。それは,保育者の側か ら大人の言葉で伝えるだけではなく,幼児同士の言葉で伝え合い納得することを大切にし ているからである。そのことが,友達同士認め合い,励まし合い,試行錯誤を繰り返しな がら,共に最後までやり遂げる姿につながると考える。 ・脱穀. まずは,幼児と共に稲穂から手で一粒ずつお米を採る作業をあえてしてみる。さらに, お米の数を数えてみると,一つの稲穂から100粒以上採れることを知り驚く姿が見られる。. その作業の大変さを知った上で,保育者が50年以上も前から使われている「足踏み式脱. 20.

(23) 穀機」を紹介する。手作業ではあれだけ大変だった脱穀作業が,機械を使えばあっという 間に脱穀できることを目にすることで,幼児は驚きや面白みを感じたり,その仕組みに興 味を持ったりする。. ・精米と試食. 試食を行う際,保育者は前もってコイン精米機で大部分の精米を行っておく。一部取り 置いた分については,幼児の目の前で家庭用の精米機を用いて行う。. 幼児の前で精米を行うに当たって,自分たちの手で脱穀した少し茶色いお米が,どのよ うにすればいつも目にする白米になるのかを問いかけ,話し合いを行う。ほとんどの幼児 は精米について知らないが,それでも磨けばいい,削ればいいなどの意見が出される。そ こで,保育者が精米器について説明し,実際に精米を行う。少し茶色いお米が真っ白いお 米になって出てくることに,幼児は喜びの声を上げ,精米器の仕掛けに関心を持つ。. 試食に当たっては,炊飯器ではなく,あえて鍋でご飯を炊く。これは,ご飯ができてく る時の吹きこぼれや匂いを,五感を通して体験して欲しいという思いからである。約半年 かけての稲作活動の区切りを,心躍らせて期待と喜びで胸膨らませて迎えることになる。. また,天日干し,新米といった様々な条件の下での白米の味わいを比較することも試みて いる。. 稲作は,野菜作りよりも手間を要することが多い。 しかしだからこそ,実際に食するときの喜びは大きく,. また感謝の念を育むことへもつながるように思われる。. また,一連のプロジェクトワークを,幼児が試行錯誤 しながら協力して行うことで,協同的な学びにもつな がっていくのではないだろうか。. 1−3.畑プロジェクトの反省と結論 ・振り返りの話し合いと報告. 上述のようにプロジェクト・アプローチでは,振り 返りによる評価と報告を重視している。なぜなら,前 段階でのプロジェクトの進行における数多くの体験は,. 言葉にすることを通してはじめて,学びとして確かなものとなると考えられているからで ある。しかし,ただ「楽しかった」「面白かった」「おいしかった」など断片的な言語化で. 済ませてしまうと,却って体験で得たものの豊かさを損ないかねない。そこで,話し合い. 21.

(24) と報告は,じっくりと行う必要がある。なお,こうした作業は,言葉を通じての知の社会 化が求められる5歳児の発達的特徴に即したものでもある。 話し合いは,保育者からの「野菜ができた のは,畑でどのようなことを行ってきたから. の転靴轍恥 駒》い騙し、. か?」「お米作りでは,どのようなことを行っ. 蜘せ伽し 隔論. てきたのか?」などといった発問から開始さ れる。幼児は,それぞれに意見を出し合いな. 馳1溢ズ. がら振り返ることで,畑プロジェクトで何を してきたのかを言葉にしていく。幼児にとっ. ては,特にお米作りが印象に残っているケー スが多いように思われる。これは, 1年に1度しか収穫がなく,その過程で非常に手間が かかり,. さらに10月の精米と試食のワークで一応の区切りを見せるからであるかもしれ. ない。. そこで最近は,ちょうど11月の初旬に行われる参観目を利用し,特にお米作りについ てドキュメンテーションを保護者に対して行うようになっている。保護者の方には,ただ 聞くだけでなく何人かの方に感想も言ってもらう。幼児は自分達が行ってきた取り組みへ の評価をしてもらうことで自信や充実感を味わい,それがどのようなものであったのかに ついて,改めて具体的に振り返る機会となる。 ・見通しをもっての更なる栽培への挑戦. 幼児は,野菜の苗や種を植えるところがら,収穫そして食べるという一連のプロジェク トワークを体験することで,野菜作りに対してある程度の見通しを持つことができるよう になる。そして,以前のようにただ何を育てたいのかということではなく,先に目的をも. ってこの野菜を育てたいという姿となる。たとえば12月のもちつきの時にいつも使って いる大根おろしの大根を自分達で作ろうと考えたり,給食の献立にあった白菜の漬物を自 分達で育てた白菜で作ろうと考えたりする。この姿は,先に見通しを持てるからこその姿 である。こうなると,幼児にとって野菜作りは,全く未知のものではなく,生活の一部と して取り込まれたということになるだろう。. 2 畑プロジェクトの実践事例と考察 本節では,いくつかの事例を提示しながら,畑プロジェクトにおける協同的な学びにつ. 22.

(25) いて具体的に考察してみることとする。まず,2−1では,一般に5歳児としての協同的 な学びがどのようなかたちで現れ,深まりを見せるのか,プロジェクトの3段階に沿って 見ていきたい。また,これまでの議論と事例の考察を踏まえて,各段階での「評価の観点」 を提示しておきたい。. 2−1.プロジェクトの3段階における5歳児の協同的な学び O畑プロジェクトの計画とはじまり 畑プロジェクトの第一段階では,幼児同士が,畑で具体的に何をするのか,どんな野菜. を育てたいのかなどを話し合う。そして,当該年度のおおよその計画を立てる。Katz& Chard(2004)によれば,プロジェクト・アプローチでは,幼児自らが活動内容を考え話し. 合うことが求められている。しかし,実際には5歳児といえども,幼児だけでそれらを全 て行うことは難しく,保育者の援助も必要である。つまり,どこまでを幼児に任せどこか. ら保育者が介入するのか,その判断の根拠となるのは,年度当初の山鼠的な学び」の芽 にあると考える。具体的に事例を挙げよう。. 4月下旬,年長組となった幼児と共に畑に行った。そして,畑に育っている春野菜(じ ゃが芋,玉ねぎ,えんどう豆,いちご等)を収穫した。その春野菜は,昨年度の年長児 が植えたものと,現在の年長児が年中組の時に植えたものである。それらは,北側の畑 の畝に栽培されていた。敷地の南側と東側は収穫後の田んぼになっており,この時点で は水も張られていない。西側の畑は何もない畝があるだけである。畑と田んぼのある敷 地の入口は南側にあるため,春野菜を収穫するために北側の畝に行くためには,その田 んぼと何も植わっていないいくつかの畝の間を行きも帰りもおのずと通ることとなる。 その途上で「なんか,ここは土だけや」「なんにもできてへん」という幼児の声が漏れ. 聞こえてくる。そして,何人かの幼児が「先生,何でここは何にも植えてないの?ここ に何か植えへんの?」「ここに何か植えるの?」と,保育者に尋ねてくる。それを聞いた 別の幼児が「ほんとや。なんか植えようよ」「去年の大きい組の子は,色々な野菜を植え. てたやん」と,口々に自分の思いを言いはじめたのである。そこで,保育者は幼児を集 めて,話し合いの場を持った。畑プロジェクトのスタートが切られたのである。 保育者「みんなは,どうしたいの?」 幼児「何か植えたい」「何か育ててみたい」. 保育者「それじゃ一,何か植えてみるか」と投げかける。. 幼児「植える!植える!」とやる気に満ちた笑顔で即答する。しかし,中には「でも. 23.

(26) どうするか分からへんやん」という子や,特別に何も言わない子もいる。 保育者「ここで野菜を育てるためには,まず何をする必要があるの?」 幼児「まず土を掘る」「種を植える」「ちょっと待って,まず種を買ってくる」と,口々 に思ったことを保育者に言う。. 保育者「まだ何もないのに植えられへんな。どうしたらいいだろ?」 幼児「だから種を買ってきたらいい」「そうそうどこかで買ってくるねん」. 保育者「種を買って来たらいいっていうけど,何の種を買ってこればいいの」 幼児「野菜やん」「野菜に決まってるやん」. 保育者「野菜,野菜いうけどお店に行って,「野菜の種下さい」で買ってこれるか?」 幼児「あかん」「何の種か分からへんから買われへん。」. 保育者「いいことに気づいたな。そうや言う通りや,何の種か分からへんのに買わらへ んわ。どうしたらいいやろ?」 幼児「何の種か決めたらいい」「何の野菜を育てるか決めたらいい」 保育者「でもどうやって決めるの?」. 幼児「みんなで決めたらいい」という言葉に,他の幼児も「そうする!」と,ほぼ一様 に同調する。. 保育者「皆もそれがいいのか?」と,確認のため問いかける。 幼児「そうする!」と,ほぼ全員が意気込んで答えた。. その後,何も植わっていない畑の畝を目の前に,幼児と共に何を植えるのかを話し合 った。多くの幼児が,昨年度の年長組の植えた野菜の印象が残っているのか,春植の野 菜の名前を挙げた。しかし,中には,春植でない野菜の名前を挙げる幼児もいた。 幼児の「先生,何でここは何にも植えてないの?ここに何か植えへんの?」「ここに何か. 植えるの?」という問いかけからはじまった話し合いは,5歳児の直観的思考の特徴がよ く現れているように思われる。それは,自分が直接知覚しているものと,過去の体験の記 憶に基づいて,多少なりとも論理的に思考しようとする態度の萌芽が見られる点である。. 上記の事例で言えば,「比較」と「類抽がこれに当たる。. まず「比較」について述べる。春野菜を収穫に来た畑には,2種類の畝がある。一つは 春野菜が植わっている畝で,もう一つは何も植わっていない畝である。その2つの畝は, 見た目にも一目瞭然で,幼児が疑問を持つのも当然のことだと言える。. さらに,この場面で,幼児は自分達が年中組の時に植えた春野菜を収穫に来ている。幼. 24.

(27) 児は,自分達で植えた春野菜の収穫の喜びを味わっており,「植える→育つ→収穫」という. ある程度の見通しを,体験上持つことができている。その過去の記憶があって,それとの 比較で上記の疑問が生まれたのであろう。その疑問に対して,他の幼児は「去年の大きい 組の子は,色々な野菜を植えてたやん」と過去の体験の記憶について書及し,現在の状態 と比較する中で,何かを植えたいと内発的に動機づけられている。. 次に噸推」はどうであろうか。今は何も植わっていないが,幼児は,これらの畝に野 菜がたくさん育っている様子をこれまでに見てきた経緯がある。また,昨年度,年中組の 時に,畑での野菜の生長の様子や年長児の活動を見せてもらってもいる。また,当時の年 長児が育てた野菜を収穫させてもらい,収穫した野菜を使って一緒に調理もしている。こ のように昨年度の年長組と畑を介しての接点を持つことで,実際に畑で野菜の栽培はして いなくても,昨年度の畑の様子や年長児の活動が十分に頭の中に残っているのであろう。 この過去の体験の記憶は,畝に何もないということに疑問を持つことだけに留まらず, 今後何の野菜を育てるのかということに話し合いにおいても,生かされている。それは,. 幼児が挙げた野菜の名前のほとんどが,春植の野菜であったという事実である。現代の生 活においては,スーパーに行けば,温室栽培や輸入野菜など季節に関係なく,いつでも,. ほぼ全種類の色々な野菜が陳列され売られている。そ々な季節感がなくなった現代の生活 の中で,植える時期が適切な野菜の名前だけを挙げることは,幼児にとっては実に困難な ことのはずである。しかし,幼児は,適切な時期の春植の野菜の名前を挙げている。これ は,昨年度の畑の様子や年長児の活動についての過去の記憶に基づいて,幼児が類推を行 っていることを示しているのではないだろうか。. このように,5歳児は,自分が直接知覚しているものや過去の体験の記憶に基づいて, 比較や類推など論理的に思考しているわけであるが,それらが,社会的な相互作用に基づ いてなされていることに注意が必要である。個々の幼児は,自己中心的に,思い思いに語 っているように思われる。それらの言葉が積み重なることで,比較や類推がより高次のも のとなっている。過去の記憶についても,昨年度の年長組の幼児とのかかわりが重要な要 因として機能している。つまり,そこには,協同的な思考の芽が見出せると考えられる。. 見方を変えれば,プロジェクト・アプローチの要件である教育期間内の系統的な取組の重 要性が示唆されていると言えるのではないだろうか。. もっとも,5歳児の論理的思考は,やはり限界がある。話し合いの場面での個々の幼児 の言葉は,やはり自己中心的なものに止まっている。幼児だけでは,筋道立てて話し合い. 25.

(28) を深めることは難しいであろう。もっとも,これは年長組の4月の段階では,当然のこと である。そこで,事例の幼児と保育者の話の流れのように,幼児の言葉の間に,保育者が 認めたり発問したりすることで,論理的に考えながら筋道立てて話題が展開するよう援助 しているのである。この時期においては,保育者が幼児の言葉を引き出しながら,幼児自. 身が活動を決定付け,主体的に進めているのだという雰囲気を作り出すかことが大切なの ではないだろうか。そのことで,幼児はさらに言葉を紡ぎ出し,論理的に思考すると共に, 三会的な相互作用を織りなしていくように思われる。. また,野菜の種類を決める話し合いの中でも,春植でない野菜の名前が出てくることが あった。この時期の幼児は,個人的な体験に基づいて,とりあえず知っている野菜の名前 を列挙することもあるだろう。例えば,ここでは白菜やキャベツといった野菜の名前も挙 がっていた。そういう発言もまた,協同的な学びにつながっていくものである。例えば,. 植えたい野菜が全て出そろったところで,改めて「野菜の栽培事典」といった本で調べる ことで,種まきと収穫の時期を知ることができる。春植の野菜を挙げた幼児は,自らの意 見について裏付けを得ることができる。さらに,白菜やキャベツについては,寒くなる前 の秋に植えることを知り,全ての幼児が,秋に今とは違う野菜を育てることを楽しみにし, 見通しを得ることができるのである。. 以上を踏まえると,本:事例には,協同的な学びの芽が見出せることが分かる。知覚や記. 憶に基づいて,比較や類推といった基本的な論理的思考が見られるものの,集団で筋道立 てて話題を深めるには至っていない。その意味では,将来,本格的に協同的な学びが深ま っていく過程での準備段階に当たると言える。この段階で重視されるべきは,例えば,話 し合いの進め方を知るとか,自分の意見や思いを言うことなどにあると考えられる。F 〈第一段階(畑プロジェクトの計画とはじまり)の評価の観点〉 ・自分の意見を言葉にしているか。 ・他の幼児の意見を聞き,理解しているか。. ・自分の意見と相手の意見とを比べたり,合わせたりしながら活動に見通しを持った 意見を持てているか。. ・何をするのかを理解し,活動の見通しを持てているか。. *ただし,上記の観点の扱いに当たっては,積極的に意見を言うことだけが評価の対象 とならないよう注意が必要である。なぜなら,幼児によっては自分では言葉にして. 26.

(29) 意見は言っていなくても,周りの幼児の意見を聞きながら,自分なりに見通しを持て ている子もいるからである。しかし,その辺りを的確に保育者が捉えるのは,かなり 難しいことである。. O畑プロジェクトの進行 前節でも述べたように,畑プロジェクトの第二段階は,数多くのプロジェクトワークが 含まれており,中核をなすものである。幼児は,「野菜と稲を育てる」「野菜と稲を観察し,. 観察記録を書く」「畑と田んぼで,色々な発見をする」「野菜と稲を収穫,調理し試食をす る」「一連の活動での気付きや学びを,仲間や保育者に伝える,伝え合う」といった活動を 展開していく。. プロジェクトが進行していくにつれ,幼児は,ある程度根拠を持って相手に対して自ら の意見を言うようになる。また,自分達で話し合おうとする態度も見られる。つまり,論 理的思考と社会的相互作用が共に高次のものとなり,協同的な学びの深まりが感じられる ようになる。さらに,その学びを確かなものとするのが,プロジェクト・アプローチの要 素の一つ「調査」である。幼児は,実際に野菜や稲を栽培し観察する中で,自分達の意見 を確かめることができるのである。以下,具体的な事例を挙げよう。. 肥料やりと間引きが必要な時期になった。しかし,保育者がそれを幼児に直接的に指示 することはない。そこで,野菜がどんどん大きくなるために何が必要なのかを話し合う場 を設ける。. 幸いなことに,勤務園の畑は,地域の方の畑と隣接している。そして,保育の貝程の都 合上,地域の方の畑よりも栽培時期が少しずつ遅れている。そのため,比較して考えるの にはちょうど良い。大根を見せれば,地域の方の畑の方が,先に植えた分大きくなってい る。その差を見て,どうずれば大きくなるのかという保育者の開いかけから話し合いがは じまった。. まず「水をもっとあげたらいい」という意見と,「あのな,僕たちはご飯を食べるやろう,. そして大きくなるやろ,だから野菜にもご飯みたいなものをあげたらいい」という意見が 出た。それを受けて,別の幼児が「それ知ってる肥料って言うんや,肥料をあげたらいい と思う」と言う。幼児同士の話し合いの中で,肥料の必要性に気づくことができた。保育 者はそれを認める言葉がけをした。. 27.

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(注)