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1.本研究の総括

 人の一生において,幼児期は,生涯にわたる人間形成の基礎が培われる極めて重要な時 期である。幼児は,生活や遊びといった直接的・具体的な体験を通して,身体的・情緒崩・

知的な発達,あるいは社会性を身につけながら,入間として,社会の一員として,より良 く生きるための基礎を獲i得していくのである。しかし近年においては,幼児を取り巻く環 境の急激な変化によって,幼児がより良く生きるための基礎を獲i得していくことが困難と なっている。

 本論文1章第1節においては,幼児の取り巻く環境の変化や幼児の生活実態の変化等を 様々な資料を参照にし,幼児の取り巻く環境の変化によって,子どもの育ちにどのような 問題が起こっているのかを挙げている。さらに今後の幼児教育に求められる方向性につい て検討すると共に,具体的な取組としてプロジェクト・アプローチを挙げた。

 近年は少子化,核家族化が進行し,子ども同士が集団で遊びに熱中し,時には葛藤しな がら,互いに影響し合って活動する機会が減少し,様々な体験の機会が失われている。ま た,都市化や情報化の進展によって,子どもの生活空間の中に自然や広場などといった遊 び場が少なくなる一方で,テレビゲームやインターネット等の室内の遊びが増えるなど,

偏った体験を余儀なくされている。都市化された環境としての公園では,心動かされるよ うな自然に触れることは難しく,体験の多様性には十分に開かれているとはいえない。こ れらのことにより,「人間関係の希薄化」「体験の偏り」が課題となっていると言えるので

はないか。

 幼稚園等施設では,集団での活動を活かし,社会・文化・自然などに触れる多様な体験 を保障することで,これらの課題に対応できるものと考える。幼児教育の基本である「環 境を通しての教育」を,現代的な課題に即して,今後より一層組織的かつ計画的に推進し ていくことが求められるのではないだろうか。

 勤務園では,その保育の柱として畑活動を行い,その手法として,「プロジェクト・アプ ローチ」を取り入れ協同的な学びを実践している。プロジェクト・アプローチの特徴をま とめると,①断続的ではなく系統的な教育,②知的発達を促進する教育,③社会的感性・

情緒性的感性・道徳的感性も育てる教育,④幼児の内発的動機に基づく能動的な活動を通 じての教育,⑤幼児自らが活動内容を考え,活動の継続の中で試行錯誤し,それら一連の 過程を反省・評価し,協同的に学びを蓄積する教育である。さらに,プロジェクトワーク は,①プロジェクトの計画と始まりく活動の見通しを立てる),②プロジェクトの進行(調 査を行いそこでの学びを表現すう),③プロジェクトの反省と結論(振り返りによる評価と 報告を行う)の3つの段階で進められる。プロジェクト・アプローチは,幼児の内発的動 機に基づく能動的な活動によって展開され,幼児の自発性や主体性を第一としている。ま た,仲間と協力して,一つの課題に取り組み調査する活動を重視している。したがって脇 同的な学び」に直結するものと考えられる。

 ところで,協同的な学びとは,そもそも5歳児の発達に即したものであろうか。言い換 えると,5歳児に対する教育方法としてプロジェクト・アプローチはふさわしいものとな

りうるだろうか。「協同的な学び」とは,文宇通りとれば「協同性=社会性」と「学び=知」

との合成概念である。そこで,第2節では,5歳児の知と社会性の発達的特徴について,

Piaget(189611980)の議論を参考にまとめている。

 第2章では,畑プロジェクトの実際について論じている。まず,第1節では,本園での 畑プロジェクトの年間計画を提示した。第一段階「畑プロジェクトの計画とはじまり」で

は,幼児の内発的動機に基づく話し合いを通して,当該年度のおおよその計画を立てる。

第二段階「畑プロジェクトの進行」では,第一段階で立てたおおよその計画に基づいて,

実際に栽培から収穫を行う中で学びを蓄積していく段階である。本園では,幼児からの発

案に沿って,野菜作りと稲作を行っている。第三段階「畑プロジェクトの反省と結論」で は,幼児が,これまでの体験を振り返りの話し合いを行う。そのことによって,畑プロジ ェクトでの学びを確かなものとすると共に,次なる畑活動への見通しと意欲が持てるので

ある。

 第2節では,プロジェクトワークの3つの段階に分けて,協同的な学びがどのように深 まっていくのかについて,いくつかの事例を下に検討を行った。また,集団での活動に困 難を抱える幼児の事例を取り上げ,個の育ちをどのように保障していくのかを考察した。

さらに,畑プロジェクトと普段の保育のつながりについて,紹介した。最後に,それらを 踏まえ保育者の援助の在り方について検討した。

 以下では,今後の研究課題として,まず,3年保育での幼児の発達を踏まえた協同的な 学びのサイクルをモデルとして,提示する。次に,家庭や地域との連携事例を挙げながら,

より系統的な体制作りの必要性について論じていきたい。

2.畑プロジェクトにおける「協同的な学び」のサイクル:3年保育での幼児の発達を   踏まえて

 勤務園での畑プロジェクトでは,協同的な学びのサイクルがあると考えている。なぜな らば,協同的な学びは,内発的動機付けによって展開されており,その展開されている幼 児の育ちの部分とは,最近接領域だからである。最近接領域の課題は,仲間との協力や保 育者の援助によって達成可能であり,協同的な学びはまさにその部分に属している活動な のである。そして,最近接領域に属しているからこそ,繰り返しの中で幼児は発達を遂げ るのである。その畑プロジェクトの活動のサイクルの中で幼児がたどる姿は,

・子どもが自ら考える。

・周りの状況を見ながら子ども自ら行動し,その中で自分を発揮する。

・先に行う活動に対して期待感と見通しを持って活動する。

・仲間と話し合い,協力しながら活動を進める。

・自分の思いを仲間に伝えると共に,仲間の思いも受け入れながら活動の方向を決め,活  動を進める

・試行錯誤しながら最後まであきらめずにやり遂げる。

・やり遂げた喜びを次への新たな挑みにする

であり,それを分かりやすく示すものが,下図7−1『畑プロジェクトにおける脇同的

な学び」のサイクル』である。

やり遂げ た充実感

活動を 楽しむ

畑プロジェクトにおける

   「協同的な学び」

    のサイクル

状況 判断

活動 への 見通し

試行 錯誤

イ欝々

仲間との 話し合い

図7−1 畑プロジェクトにおける「協同的な学び」のサイクル

発達連関という視点からすると,図7−1の各項目は,①「活動を楽しむ」「やり遂げた充 実感」「新たな活動意欲」は『情動の発達』,②「自ら考える」「状況判断」「活動への見通 し」は『知の発達』,③「仲間との話し合い」「仲間との協力」「試行錯誤」は『社会性の発 達』として,分類することができるのではないだろうか。これを踏まえると,図7−1は,

以下の図7−2のように書き換えられる。

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