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予期せぬ科目誕生の記録 : 山梨大学スペイン語カリキュラムの創設過程(2012-18)を振り返って 利用統計を見る

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予期せぬ科目誕生の記録

-山梨大学スペイン語カリキュラムの創設過程(2012-18)を振り返って-

Crónica de los primeros seis años de

la enseñanza de la lengua española en la Universidad de Yamanashi

渡 辺   暁*1 1. 1 はじめに-本稿の目的-  山梨大学ではいわゆる第二外国語2として、ドイツ語・ フランス語・中国語の3つの言語の授業が提供されてき たが、2012 年度から4つめの英語以外の全学共通言語 科目としてスペイン語が導入された3。初級の受講生は 初年度の 85 名から4、2013 年度には 183 名、2014 年度 には 238 名へと順調に伸び、それ以降も多少の増減はあ るものの、220 名前後と、大学の入学定員(825 名)の 4分の1を上回る学生数を常に確保しており、山梨大学 の未修外国語の一つとして十分定着したといえるだろ う。  スペイン語科目のカリキュラムは、初代受講生が2年 生となった 2013 年に中級の授業が導入され、その後も 若干の修正を経てきたが、2018 年度に中級(コミュニ ケーション)と中級演習の二つの科目の導入をもって、 一応の完成を見たと言うことができる。これを区切り に本稿(2018 年8月執筆:ただし 10 月の校正時に一部 データを追加)では、6年半にわたるスペイン語の立ち 上げの過程を振り返ってみたい。  昨今、いくつかの大学で第二外国語科目が必修から 外されたり(デーゲン 2018)5、時間数が削減されたり6 あるいは第二外国語を教養科目として位置づけ、語学を きちんと学ぶ比較的少人数のグループと、教養科目とし て大人数の授業とし、教員数を削減するなど、様々なか たちで第二外国語の規模が縮小されている。その理由と してしばしばあげられるのは、第二外国語を授業でやっ ても、週に1度か2度の授業ではできるようにならな い。そうであれば最初から学ぶことは無駄である、ある いはその分を英語という将来より役立つ言語の教育に回 すべきであろう、という論理である。もちろんそれに対 する反論も多くあるものの(例えば、南條(2018)、特 に第4-6章)、科目の運営にかかるコストの削減の方 針、そして第二外国語教育が学生にとってなじみやすい ものではなくなってしまった、という事実とあいまって 7、第二外国語の削減への圧力が強まっていることは否 めない。こうした中、山梨大学スペイン語のような、新 しい第二外国語科目の導入はまれだと思われるが、今の 時代にあっても第二外国語を学ぶことには意義があるの だ、ということを再考して頂くきっかけとして、この科 目立ち上げの経験を記録として残しておきたいと考えた 次第である。  本稿の構成は以下の通りである。まず、山梨大学の第 二外国語の制度について、簡単に紹介し、後発のスペイ ン語とそれ以外の3つの言語との違いを述べる。続いて、 スペイン語のこれまでの受講生の伸びについて、受講生 のデータや彼らのコメントなどから振り返る。最後に、 それぞれの科目ごとに、方針を明らかにし、今後の展望 を述べる。 1. 2 山梨大学における第二外国語の授業  山梨大学では 2011 年度まで、ドイツ語・フランス語・ 中国語の3言語が第二外国語として開講されていた。全 学生の選択必修(どれか一つの外国語を選択)の初級の クラスも、2017 年までは全部で 29 クラス設置され、一 クラス平均 26.6 名と比較的恵まれた教育環境にあった (2018 年度より2クラス削減され、27 クラスとなる)。  選択必修科目となっているのはそれぞれの外国語の初 級Ⅰと初級Ⅱで、それぞれ前期と後期に週一コマ開講さ れている。単位数は2単位で、火曜2限・水曜1限・木 曜2限の時間帯に開講されており、学部学科により受講 する時間帯が指定されている。これら初級のクラスが必 修であるが、学生が希望すれば、1年次に初級のクラス と同時に演習の授業を取ることで、週に2回まで受講す ることができる。演習は初級の授業と同時に履修するこ とが義務づけられており(2年生になってから単独で履 修することはできない)、初級の内容を補完し、さらに 応用練習をするような授業と位置づけられている。  2年次以降については、それぞれの言語について、中 級科目が総合とコミュニケーションの授業が開講されて いたほか、教育人間科学部に国際共生社会課程があった 名残で、週に2回のインテンシブコースがあった(なお、 スペイン語に関しては 2013 年度に中級科目が2科目開 講されたのち、2014 年度以降は3科目開講されている が、インテンシブコースは設置されていない。)  なお、第二外国語の必修単位は前述の通り初級の4単 位であるが(医学部医学科は 2015 年まで、8単位必修 * 教養教育センター

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となっていたのを除く)、医学部以外の学部では最近ま で、英語と第二外国語の必修単位数がそれぞれ4単位、 語学全体の必修単位数が 12 ないし 14 単位という制度に なっていた8。この差分、つまり8単位を越える分につ いては、英語と第二外国語のどちらを選択してもよく、 さらには共通科目全体の要求単位のうちの自由単位(学 部によるが4~6単位)として充当することもできると いった制度があったことから、卒業要件の面でも、第二 外国語の選択授業の単位を取得することのインセンティ ブが存在している。 2 スペイン語カリキュラムの立ち上げと変遷  本項ではスペイン語カリキュラムの立ち上げとその後 の変遷について、(1) 初級の受講生の推移、(2) 初級の 内容、(3) 1年生向けのもう一つの授業である演習、(4) 中級科目群の3つに分けて記述していく。 2. 1 必修の初級の授業:受講生の推移  スペイン語初級の受講生は初年度の 85 名から、2013 年度には 183 名、2014 年度には 238 名へと順調に伸び、 2015 年 度 221 名、2016 年 度 216 名、2017 年 度 230 名、 2018 年度 209 名と、220 名前後(± 10 名程度)で推移 している。特に、教育学部では 2014 年から 17 年の4年 間においては履修者が例年定員の過半数をこえ、生命環 境学部でも 2016 年の改組後だけを見ても、150 人の定 員中、2016 年度は 62 名、2017 年度は 64 名、2018 年度 は 57 名と、4割前後の学生が履修している。なお前述 の通り、2017 年度まで一クラス当たりの平均は 26.6 名 (2018 年度からは 28.4 名)であるから、スペイン語は 開講以来、常にそれを上回る学生を受け入れてきたこと になる。  初級のクラス数は、2012 年の発足当初は火曜2限、 水曜1限、木曜2限の未修外国語の枠にそれぞれ1クラ スずつ、また演習も1クラスのみであったが、2013 年 の受講生急増を受けて、2014 年より少しずつ他の未修 外国語から非常勤講師の雇用枠を回して頂き、陣容を 充実させてきた。演習や中級等の選択科目においても、 2015 年度に演習の枠を1つ、2016 年度にも中級の枠を 1ついただき、2017 年度から中国語にならって初級の 再履修科目を導入し、そちらについても非常勤枠を回し てもらうなどして、3科目を非常勤講師の先生にお願い できるようになった。現在では専任教員の私が担当する 前後期合計 13 クラスを担当し、非常勤講師の先生方に 前後期とも、トータルで初級で4クラス、演習と中級等 の選択科目で3クラスをお願いしている。これらを合計 して、2018 年度現在、スペイン語の授業は 27 クラスと なっている。  スペイン語初級の受講生の伸びについては、おそらく は先輩からの口コミで「よい」評判が伝わったものと思 われる。「簡単」あるいは「単位が取りやすい」との噂 が立ってしまっている可能性もあるが、単純に授業が面 白い、あるいは簡単すぎも難しすぎもせず、難易度が ちょうどよくて勉強になる、といった好意的な声も、個 人的に仲良くなった学生からは耳にしている。もちろん バイアスはあると思うが、少なくとも単純に「簡単」と いう理由だけではないと信じている次第である9 2. 2 初級の授業の内容:落ちこぼれを出さずに着実     に進む  初級の授業は発足当初からそれほど変わっていない。 白水社の『スペイン語 12 課』という 1982 年に出版され た古い教科書を使い、それを自作のプリントで補うとい う形で授業を構成している。プリントを使うのは、スペ イン人ネイティブの著者による非常に簡潔な説明を補う のに加え、学生が復習をしやすくなるという意味合いも あるが、非常勤の先生方にもそれにそって授業を進めて 頂く、という意味でも有効と考えている。なお、この教 科書はもともと、筆者が 2007 年度より非常勤講師を務 める慶應義塾大学法学部で、スペイン語が苦手な2年生 向けの中級授業「講読各駅停車」向けにと、同校専任教 員の大久保教宏先生から指定されてはじめて使ったもの である。慶應の学生には易しすぎたものの、なかなか使 い勝手が良かったため、その後他のいくつかの大学でも 使用した。山梨大学での授業は、同じく非常勤講師を務 めていた日本大学商学部でこの教科書を使ったときの進 度をほぼそのまま踏襲し、内容を少しずつ充実させてき たものである。  前期は発音とスペイン語圏の紹介をゆっくりすぎる ほど丁寧にやるところから始める。文法的にはser, estar, tener(最初の二つは英語の be に、tener は have に対応)

表1 スペイン語初級履修者数の推移   初級(計) クラス 平均人数 2012 85 3 28.3 2013 175 3 58.3 2014 235 5 47.0 2015 223 6 37.2 2016 215 7 30.7 2017 230 7 32.9 2018 209 7 29.9

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の3つの動詞しか扱わないが、これらを用いて時間の表 現やカフェでの注文(第1課)や、八百屋での買い物の やりとり(第4課)などを学習する。かなり遅いペース ではあるが、語学では最初に躓いてしまうと落ちこぼれ てしまうため、そうした学生をなるべく減らそうという 意図から最初は非常にゆっくりスタートし、簡単な中間 テストを行ったあとくらいから、少しずつスピードを上 げるようにしている。  後期は同じ教科書の第5課から第7課までを扱い、最 後に第7課の本文のスペインの食文化について紹介する 文章を読んで終わる。動詞は現在形の不規則活用までを 教え、その他の時制は演習及び中級をとる学生にのみ教 えることにしている。  この教科書の標準的な進度は第6課までを前期で終え るというもので、内容も夏休みの雰囲気を感じさせるも のとなっているため、同じような文法内容を用いて「山 梨の秋」という文章を作成し、そちらを使うようにして いる。また、冬休みで間が空いてしまうため、12 月の 最後に行う中間テストの配点を高めにし、1月の期末テ ストでは試験範囲を前述の「スペインの食文化」につい ての文章に絞り、配点も少なくするなどの工夫もしてお り、学生にも試験の負担が分散されると好評である。ま た、ゆっくりすすむとは言っても、学期が終わる頃には かなりの単語を覚えることになっており、文法的により 高度で難易度が高いはずに演習の授業より、かえって難 しいという感想を漏らす学生も多い。  なお、2017 年度からは初級の再履修の授業を導入し、 初級の単位を落とした学生が、半年間待たなくても次の 学期から、スペイン語の勉強を再開できるようにした。 この 2018 年度前期に、初代の再履修クラス受講生が半 年遅れで単位を取得したが、彼らの感想は非常に好意的 で、「不合格になったときはもちろんがっかりしたが、 結果的に再履修の授業を取れて良かった」との感想が、 数名の学生から聞かれた。 2. 3 演習:1年生向けの二つ目の授業  演習の授業は週に一度、スペイン語では月曜5限に開 講されている。最初の2年間は全体の人数が少なかった こともあり、演習を希望する学生はそれほど多くはな かったが、3年目の 2014 年度に受講生が急増し、90 名 の受講生を集めたことから(抽選にはかけず、受講希 望者は筆者が全て受けいれ、本来5限1コマの授業を、 4,5,6限の3つの枠に分けて人数を分散させて対応し た)、翌 2015 年からクラスを1つ増やし、2クラスとし た。2015 年度までは、医学科の第二外国語の必修単位 が8単位で、1年生のうちになるべくそれを取ってし まいたいというニーズがあったため、2014/15 年は医学 部優先のクラスを設けていた。2016 年から医学科の必 修単位が8から4に減り、医学部生の受講はほぼ皆無と なったが、それにもかかわらず演習科目の人気は衰えて おらず、特に前期は必ず抽選が行われる人気科目となっ ている。  この演習の授業では、初級よりは少し進んだ文法内容 (前期は初級で習う動詞以外の動詞の活用を、後期は接 続法現在形や現在完了形などの時制を扱う)にくわえ、 語彙の充実を目指している。ただし、学生にとって自分 の関心のある単語の方が覚えやすいだろう、という考え から、情報センター出版局から発行されている『スペイ ン語指さし会話帳』(2017 年度まではペルー編 [佐々木 2005]、2018 年度はメキシコ編 [コララテ 2002])を用 いて、彼らの興味のある単語を覚えてもらうという方向 で、学生の意思を尊重しつつ、語彙の習得にも力を入れ ている。 2. 4 中級科目群の試行錯誤  中級の授業については、初年度の初級の授業を履修し た1年生達が2年生に進級した 2013 年より導入された。 他の外国語は中級の授業を「総合」と「コミュニケー ション」という一般的な分類をしていたが、この当時の 筆者は、文法がわからないまま、表面的に会話だけを やっても仕方ないと考えていたため、コミュニケーショ ン科目を立ち上げることには懐疑的だった。そのかわり に「スペイン語中級(総合A)」と「スペイン語中級(総 合B)」という二つの科目を立ち上げ、「総合 A」をスペ イン語文法重視、「総合B」を地域研究の要素重視の授 業とした。しかし、結果的には2つの科目の差別化が難 しく、またどちらか片方の科目しか取らない学生が多く を占める中、ありがたいことに両方の科目を受講してく れる学生もいて、1つのクラスの中で、その両方に向け て話をしなければならないという、予想外の問題が生じ た。  なお、この年から医学部キャンパスでも中級総合の授 表2 中級(甲府キャンパス)及び演習の履修者数の推移 中級 演習 再履修 前期 後期 前期 後期 クラス数 前期 後期 2012 33 33 1 2013 55 39 50 41 1 2014 66 24 89 87 1 2015 65 24 91 89 2 2016 71 12 110 78 2 2017 46 14 90 94 2 2 9 2018 50 31 99 92 2 14 未定

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業が開講された。初年度は一人非常に熱心かつ優秀な学 生がいて、実質的な個人指導の形でガルシア=マルケス の短編を読んだが、その後は 2014 年に一人(おそらく 共通科目の単位を必要としていた)受講生がいただけ で、2015 年度以降は受講生がいない。また、2016 年度 入学者からは医学科の要求単位数が減ったこともあり、 医学部キャンパスにおける中級科目は前期のみの開講と なった。  1年目の反省をもとに、2年目は中級科目を一つ増や すと同時に、「総合A」と「総合 B」の位置づけを変更 し、一般的な難易度の「総合A」を週2回同じ内容で開 講し、やる気のある学生にはよりレベルの高い週1回の 「総合B」を受講してもらうことにした。この中級の制 度はそれなりにうまくいったため 2017 年度まで続けた が、2016 年のあるとき、この2つの科目の関係は、実 は1年生の初級と演習の授業の関係と同じではないか、 ということに気づき、だとすれば難易度の高い授業を 「中級演習」とすればよいのではないかと考えた。また それまでの経験から、文法等の理解も重要だが、コミュ ニケーションを前面に押し出す授業もあっても良いの ではと考えが変わってきたため(別の言い方をすれば、 「コミュニケーション」の授業を作ってもなんとかなり そうだ、という自信がついたため)、中級の授業を総合 とコミュニケーションの2本立てにすることを考えた。  これら二つのカリキュラム改革案については、他の外 国語の先生方をはじめとする周囲の理解を得て、2017 年度入学生から実施することとした。当初の予定ではス ペイン語中級全体の科目数を1つ増やし、「総合」を週 に2回、「コミュニケーション」を週に1回開講し、第 二外国語中級の枠である「火曜1限・水曜2限・木曜1 限」の3つのコマに「総合」と「コミュニケーション」 のいずれかを1科目ずつ配置し、「演習」はこの「総合」 か「コミュニケーション」のいずれかと同時に履修して もらう、という案を考えていたが、他の外国語の先生方 の理解が得られず、また外国語全体の非常勤削減もあっ て、非常勤の枠を頂くことができなかったため、「総合」 「コミュニケーション」「演習」をそれぞれ1科目ずつ開 講することとした。  第二外国語の中級の授業は必修ではないため、履修し てくれる学生はかなり減るが、スペイン語の場合はそれ でも毎年、前期の段階で 50~60 名程度(多いときで 71 名、少ないときでも 45 名)の学生が受講してくれてい る。これは、前述の卒業要件面でのインセンティブもあ るが、1年次の授業を通じて、スペイン語に興味を持っ てくれているためであると考えても良いだろう。なお、 中級の教科書としては、初級の教科書とは対照的な、 『スペイン語文法の要点』(二宮 2014)という教科書を 用い、文法事項を重視した授業を行う一方で、年によっ てはサブテキストとして、私がスペイン語部分の翻訳に 携わった『おもてなし五カ国語会話帳』という本を使 い、そこに出てくるスペイン語のフレーズを暗記しても らったり、その構文を解説したりして、実際の文のなり たちを勉強してもらっている。  なお、2018 年4月に始まった、記念すべき「コミュ ニケーション」の初代講師は、国際流域環境研究セン ターの博士課程に所属するグアテマラ出身のルイス・ア ルファロ(Luis Alfaro)氏にお願いした。アルファロ氏 はこれまでも私の授業のTA を熱心に務めて頂き、私の 教育方針も非常に良く理解してくれているからこその人 選であった。この「コミュニケーション」の授業の期末 課題として、受講生全員に1分程度のスピーチをお願い した。学生の皆さんには事前に原稿を用意してもらい、 それをアルファロ先生と私がかなり手直しして最終原稿 を作成する10、という多少の「介入」はあったものの、 学生全員がきちんとそして堂々とそれを読み上げ、すば らしい発表をしてくれた。こうして中級コミュニケー ションの授業は成功裏に始まったことを、書き記してお きたい。 3 教育方針  本項では、全ての科目に通じるスペイン語の教育方針 について述べる。山梨大学のスペイン語では、語学その ものに加えてスペイン語圏について知ることを、また語 学の面では文法の理解を重視し、映像資料なども多用し て授業を展開している。 3. 1 スペイン語圏について知る  山梨大学の筆者は山梨大学着任以前より、首都圏の複 数の大学で非常勤講師として授業を担当し、さまざまな 学生を相手に授業をしながら、現代の日本における大学 生の第二外国語教育について、どんなことを学生に伝 えるべきなのかを考察してきた(渡辺 2012, Watanabe 2012, 2014)。そうした経験から筆者は、大学での語学 教育にとって重要なのは教養教育としての側面であり、 それはさらに言えば実用的な外国語スキルの習得よりも 現実的な目標ではないか、言い換えれば、第二外国語教 育においてはその言語を教えることも当然重要だが、そ の言語が話されている地域についての関心を育んだり、 それらの地域の文化について学ぶことも、おそらく語学 そのものと同等の重要性を持っているのではないか、と 考えている(渡辺 2017)。  山梨大学のスペイン語のカリキュラムは、まさにそう した思想に基づいて設計されている。もう少し具体的に いえば、週に一度しかないスペイン語の授業の中で、当 然語学そのものを教えつつも、広大なスペイン語圏の社 会と文化についての知識を、様々な地域を専門とする教 員が教えるというのが、開講当初からのスペイン語のカ リキュラムの特徴である。例えば専任教員の渡辺はメキ

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シコの政治と同国からアメリカへの移民を研究対象とし ており、また非常勤講師の皆さんも、スペイン、ウルグ アイ、ペルー、ボリビアなどさまざまな地域を専門と し、また学問分野の面でも、社会学、文学、文化人類学、 地理学といったさまざまな角度から研究を行っている。  なお、スペイン語の非常勤講師の先生方は、東京大学 名誉教授の木村秀雄先生を例外として、大学院生あるい は大学院を出て間もない若手研究者を中心にスカウトし てお願いしている。彼らの多くは山梨大学以前にスペイ ン語教育の経験は持たないが、山梨大学で熱心に教える 中で、教育者としての経験を積んで頂いており、また他 の大学で教えるようになって山梨大の仕事をやめていっ た人や、山梨大での仕事を半期休んで海外調査に行き、 再び復帰して下さった方もいる。彼らに代わる新しい人 材を連れてくるのは容易ではないし、また長年コンスタ ントに勤めて下さっているベテランの非常勤講師の先生 方に対して失礼な言い方になるかもしれないが、スペイ ン語の場合については、こうした回転の良さが授業に活 力を与えてくれていると、編成担当者としては考えてい る。 3. 2 文法を理解し学習に役立てる  さて、こうした「学生の視野を広げる」という目標を 掲げてはいるが、語学としてのスペイン語をもちろん軽 視するものではない。週に一度か二度の授業では限界は あるものの、学生達は1年の初級の授業では基本的な文 法を修得し、そして演習と中級の授業ではさらに進んだ 文法を扱うと同時に、前述の通り、1年生向けの演習で は情報センター出版局から発行されている『スペイン語 指さし会話帳』(2017 年度まではペルー編、2018 年度は メキシコ編)を用いて、彼らの興味のある単語を覚える という形で語彙を少しずつ増やしていってもらうなど、 学生の自由意思を尊重しつつ、言語としてのスペイン語 の習得にも当然ながら力を入れている。  特に私が学生の皆さんに理解してもらいたいと常々考 えているのは、「文法というのは学習者を手助けしてく れるものなのだ」という、教える側からするとあたり前 の事実である。もし文法という法則がなければ、成人し てから限られた時間の中で、しかもその言語が話されて いない環境の中で、他言語を修得しようとすることは非 常に困難である。文法という言語のもつ法則を理解し、 その「わかった」という感覚を励みにしながら語学を勉 強していってほしいと考えている11  ところで文法面で、スペイン語の学習者にとって最大 の難関となるのは、やはり動詞の時制と活用であるが (上田 2017)、これについても、直説法と接続法といっ た「法=mode」の概念や、過去時制と現在時制の区別 (例えば、現在完了と過去形はどう違うのか、など)を 理解してもらうことで、少しでも彼らにとって覚える努 力を軽減し、さらには英語など他の言語にも応用できる ような、体系としての文法の説明を行うようにしてい る。(たとえば、スペイン語の接続法は英語の仮定法と 基本的に同じ「法」であるが、この接続法はスペイン語 においては英語よりもはるかに広い範囲で用いられる。 つまり、スペイン語で接続法について理解を深めること は、英語の仮定法について断片的にしか理解できていな い学生にとって、格好の復習の場、むしろ新たな学びの 場ともなるであろう。) 3. 3 映像を通してスペイン語圏そして世界に触れる  私の授業では映像もよく用いる。その中でもよく使う のが、NHK の「世界ふれあい街歩き」のシリーズの番 組である。スペイン語圏の風景を紹介するだけでなく、 町で取材班に会う人々が、カメラに向かって自然体で話 しかける音声がそのまま録音されていて、学生にも部分 的にであれば聞き取れるようなケースも多い。個人的に は「バルセロナ」「グラナダ」「クスコ」「サンティアゴ 巡礼」編などが気に入っている。  料理番組も授業でよく使う教材の一つである。その中 でも繰り返し使っているのが、スペインの女性向け情 報ウェブサイトEn casa contigo(www.encasacontigo.com: 「家であなたと一緒に」)の中の料理番組シリーズの中 の、tortilla española(スペイン風オムレツ)を作る回で ある。話すスピードは速いため、全体を聞き取ることは 難しいが、食材の名前がテロップで出るのに加え、重要 な単語は何度も繰り返されるので、それらの単語は比較 的聞き取れるという楽しさがある。また、調理に関する 語彙については、日本にない調理法は日本語に呼び名が ないため、訳語がなかなか見つからない、など、翻訳の 難しさを実感できるなどの面白さがある。例えばスペイ ン語にはpochar という動詞があるが、これは「低温の 油でゆっくり揚げる」とでも訳すしかない単語である。 (日本でも知られる料理用語としては、語源は違うがフ ランス料理のコンフィなどがこれにあたる。)このスペ イン風オムレツについてはさらに、比較的簡単で材料が 手に入りやすいものであるため、実際に作ってみること ができるというメリットがあり、下宿生の多い梨大生に とって、非常に身近で重要な「身体的・経験的学習」の 機会を提供してくれる。  他にもスペイン語教育の一環として、多くの映像を授 業で使っているが、それらについては本紀要の第3号に 掲載された拙稿(渡辺 2017)で詳しく紹介しているの で、そちらを参照されたい。また、実はスペイン語では ないが学生によく見せる映像として、ニューヨークを 舞台にしたインド映画『マダムインニューヨーク』(語 学を学ぶことの楽しみがよく伝わってくる)、フランス 語圏カナダのモントリオールの小学校を舞台にした『僕 たちのムッシュ・ラザール』(教育学部の学生に機会が

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あれば見せる、教育とは何かについて考えさせられる映 画)、そして偉大なブラジル人写真家を追ったドキュメ ンタリー、『セバスチャン・サルガド-地球へのラブレ ター』などがある。どの映画も学生の皆さんの視野を広 げ、そして日本から遠く離れた場所で制作・撮影された ものでありながら、学生の皆さんにとって身近なテーマ を扱い、共感を呼ぶ映画であるため、この場を借りて紹 介しておく。 4. 結びにかえて  本稿では、2012 年から 2018 年前期までの山梨大学ス ペイン語のカリキュラム作成の過程と授業実践を振り 返ってきた。初級の授業は着任当初からそれほど変わっ ていないが、もちろん教科書以外の副教材については少 しずつ調整を加えてきたし、今後も工夫を重ねていく所 存である。また演習そして中級の授業については、これ まで行ってきた試行錯誤を、これからも繰り返していく ことになるだろう。特に人数が少ない後期の中級の授業 などでは、学生の希望を聞きながら、英語や日本語など の他の言語との比較を交えて、ことばそのものについて 考えてもらう時間を増やしたり、私のラテンアメリカ地 域研究者としての専門を生かして、政治学や移民研究と いった研究面での成果を生かした教育をしていくことに なるだろう。  日本の大学の多くで第二外国語の規模が縮小される 中、山梨大学で 2012 年という年にスペイン語という科 目が新設され、そして私自身が幸運にもその担当者とし て着任し、立ち上げの仕事をさせて頂けたことは僥倖で あった。今後もこの幸運に感謝し、学問することの喜び を学生の皆さんと分かち合いつつ、共に学んでいこうと 考える次第である。 参考文献 上田博人 2011.『スペイン語文法ハンドブック』研究 社. 上田博人 2017.「< 駒場をあとに > 教育・研究の「自 由」-セルバンテスの教え」『教養学部報』590 号. おもてなし会話研究会 2014.『おもてなし五カ国語会 話帳』双葉社. コララテ 2002.『旅の指さし会話帳 (28) メキシコ』情 報センター出版局. 佐々木直美 2005.『旅の指さし会話帳 (62) ペルー』情 報センター出版局. 佐藤直樹 2011.「理系学生にもっと第2外国語を-豊 かな国際化のために-」『教養学部報』539 号 . デーゲン、ラルフ 2018「学生は必修科目としての第二 外国語についてどのように考えているか」『言語文 化』54 号 pp.33-56. 南條竹則 2018.『英語とは何か』集英社インターナショ ナル新書. 西村君代 2014.『中級スペイン語-読み解く文法』白 水社. 二宮哲  2014.『スペイン語文法の要点』朝日出版社. マロト、テジョ・J. 1982.『スペイン語 12 講』白水社. 渡辺暁 2012.「地域研究者として教える第二外国語、 -ラテンアメリカ研究とスペイン語教育のあいだ」 『青山スタンダード論集』7, 107-122. 渡辺暁 2017.「教養教育としての第二外国語教育-東 京大学 2015 年度秋学期(A セメスター)の授業の 記録から-」『高等教育と国際化-山梨大学教育国 際化推進機構紀要年報』第3号 pp.28-32.

Watanabe, Akira. 2012. "La resonancia entre los estudios de área y la enseñanza de la lengua: cuando un politólogo da clase de español como segundo idioma," ponencia en el 1er congreso internacional de investigación y ciencias educativas, Universidad Autónoma del Carmen.

Watanabe, Akira. 2014. "Throw away the Textbook and Get a Paperback Instead: Reading García Márquez Short Stories and Sandra Cisneros’s La casa en Mango Street in Spanish with Limited Vocabulary and Grammatical Knowledge." The Journal of Literature in Language

Teaching, 3 (1), 8-19. 山梨大学便覧・シラバス(2011 年度~2018 年度) 脚注        1 山梨大学スペイン語科目を支えてきて下さった、受講 生の皆さん、事務の皆さん、そして歴代の非常勤講師の 先生方(深澤晴奈先生、濱田和範先生、古川勇気先生、 大橋麻里子先生、星川真樹先生、木村秀雄先生、Luis Alfaro 先生)に、この場を借りてお礼申し上げます。な お本稿のタイトルは、ガルシア=マルケスの『予告され た殺人の記録』(Crónica de una muerte anunciada)をもじっ たものです。 2 本学での呼称は未修外国語となっているが、より一般 的と思われるこの呼びかたを使う。なお、初習外国語と いう呼び方も多くの大学で用いられ、東京大学などで は、英語を「第一」とする序列化を連想させる、「第二」 という言い方をすべきでない、との見解を出している。 3 スペイン語の専任教員である私は、二人いたフランス 語専任教員の一人が退職したのを補うかたちで雇用され ることになった。なお、「全学共通の語学科目」とこと わったのは、教育学部の選択科目(学部共通啓発科目、 旧称ブリッジ科目)として「ポルトガル語入門」(加藤 順彦先生ご担当で同じく 2012 年に開講:2018 年度より 「ポルトガル語と多文化共生」と改称)という授業があ

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るためである。 4 初年度には正規の受講生である1年生に加えて、スペ イン語が初めて開講されたということで、2年生以上の 学生が4名、単位としては認定されないにもかかわらず 受講してくれたことを、書き添えておきたい。 5 こうした状況について、全国的な調査を目にしたこと はないが、これまで私が非常勤講師を務め、現在でもコ ンタクトを取っている大学の中では、駿河台大学と日本 大学国際関係学部で、一部の学部あるいは大学全体で、 第二外国語を必修から外した、あるいは今後必修を外れ る予定である、と聞いている。 6 例えば東京大学では、2015 年のターム制の導入によっ て一コマの授業時間が 105 分となったが、これに伴い、 従来前期後期とも文系で3科目、理系で2科目あった第 二外国語の授業が、前期のみ文系3科目、理系2科目と なり、後期は文系2科目、理系1科目となった。東大で はこの動きと前後して、2013 年度からいくつかの言語 でトライリンガルプログラムが導入されたほか、一部の 理系教員が全学自由ゼミという形で、第二外国語の科学 論文を読む授業を取り入れるなど(佐藤 2011)、やる気 のある学生が学ぶチャンスは確保されているようではあ るが、全体として第二外国語の科目数が減っていること は確かであろうし、また必修科目というしばりなしに、 どれほどの学生が英語以外の外国語と自分から接点を持 とうとしてくれるのか、についてはやはり疑問が残る。 7 私はこれまで色々な学生から(非常勤講師として勤め てきた他の大学でも山梨大学でも、またスペイン語受講 生もそうでない語学を選択した学生も含めて)、語学の 授業が厳しすぎたり、逆に簡単すぎて退屈だったり、あ るいは普段の授業はよくわからなかったのに単位はなぜ かついていて逆に釈然としなかった、といったコメント を多く聞かされてきた。また、慶應義塾大学や東京大学 の2年生あるいは必修以外のクラスを教えた経験から は、「1年生の時の先生(あるいは必修の文法科目の先生) がこんなふうに教えてくれたら良かったのに」というコ メントを何度も頂いたことがある。第二外国語の授業の 一部に問題があるのも事実だが、それを理由に第二外国 語科目を必修から外したりするのでなく、学生のニーズ と全体のカリキュラムの必要性にマッチしたかたちで第 二外国語の授業を設計しなおす、という方向で、必要と あれば授業の改善を進めるべきであろう。 8 近年は英語の必修単位が増加傾向にあり、工学部では 2013 年度より英語の必修が8単位に、教育人間科学部 では 2015 年に英語の必修が6単位となった。2012 年の スペイン語開講以降、英語の必修単位が4単位のまま、 つまり残りの単位を第二外国語で履修することができる のは、生命環境学部のみである。 9 スペイン語は「かんたん」である、という一種の迷信 が、大学新入生が第二外国語を決める際のインターネッ ト上でのアドバイスを見るとよく見られる。これについ ては、日本語ネイティブ話者にとって「かんたん」であ るのはスペイン語の発音だけであり、動詞の活用(主 語と時制による動詞の形の変化:一つの動詞につき何 と 87 個(!)の変化形がある)などを覚えなければ文 章を作ることができない、とわかった時点で、多くの学 生は認識を改めることになる。ただし、言語の習得がか んたんでないのは当たり前の話であり、その前提に立っ て、自分自身がスペイン語という言語を習得し、また十 数年間大学という場で教えてきた経験と、わずかにそし て表面的にではあるがフランス語・ポルトガル語・イタ リア語といった他言語を勉強した経験からいうと、スペ イン語は確かに比較的勉強しやすい言語ではあるのかも しれない、との考えを、私自身は抱くに至っている。(こ れについては機会があれば、稿を改めて論じたい。) 10 この中級コミュニケーションのプレゼンの添削の過程 では、昨年度非常勤先の東京大学で担当した「初級作 文」の授業の経験が非常に役に立った。何人かの学生さ んに集まってもらい、パソコンをモニターにつないでお いて、彼らの読み上げた作文を私がワードファイルに打 ち込んだ上で添削するという単純なスタイルではある が、受講生の皆さんにとっても同級生の前で自分の作文 がより自然なスペイン語になっていく過程を見るのは、 良い経験となったように思う。 11 上田 (2011) や西村 (2014) は、ともに言語学のエキ スパートによる、読んでいてこうした「わかった」とい う感覚が非常に良く伝わってくる、すばらしい文法書で ある。

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