歯科診療所に管理栄養士は必要か?新病名『口腔機
能低下症』への介入からみる存在意義
著者
井尻 吉信
雑誌名
研究紀要
巻
11
ページ
190
発行年
2021-01-29
URL
http://id.nii.ac.jp/1072/00004469/
大阪樟蔭女子大学研究紀要第 11 巻(2021) 【目的】 「口腔機能低下症」と栄養や食事の関連性ならびに本 疾患の予防・改善を目指した具体的なアプローチ法を 検討した研究は無く、かつ地域歯科診療所における「口 腔機能低下症」の実態を調査した成績もごくわずかで ある。そこで今回我々は、地域歯科診療所通院患者に おける高齢者の「口腔機能低下症」の実態と栄養素摂 取量ならびに栄養状態との関連性を明らかにすること を目的とした。 【方法】 O 歯科診療所に通院している患者のうち、研究の趣 旨に同意が得られた 65 歳以上の 100 名(男性 41 名、 女性 59 名、年齢 77.2 ± 6.0 歳)を対象とした。調査期 間は 2019 年 7 月 16 日~8 月 29 日(うち 20 日間)。調 査項目は、「口腔機能低下症」の診断項目 7 種、基本チ ェックリスト(KCL)を用いたフレイル判定、簡易型 自記式食事歴法質問票(BDHQ)を用いた栄養食事調 査、簡易栄養状態評価表(MNA®-SF)を用いた栄養評 価である。統計解析には、PASW Statistics18 を用い、 対応なしの t 検定を行った。 【結果】 7 項目中 3 項目以上に該当する「口腔機能低下症」 の患者は 50 名(50%)であり、特に診断基準に該当し た者が多かった項目は、口腔乾燥 57 名(57%)、咬合 力低下 51 名(51%)、舌口唇運動機能低下 75 名(75%)、 低舌圧 55 名(55%)であった。「口腔機能低下症」該 当、非該当で比較したところ、年齢および口腔機能の 多くに有意な差が認められた。一方、KCL を用いたフ レイル判定、MNA®-SF を用いた栄養評価には差は認 められなかった。BDHQ を用いた食事調査の結果、栄 養素摂取量には差がなかったものの、食品群別摂取量 の比較において、本症該当群は非該当群よりもいも類 の摂取量が有意に高値であった。 全患者を対象として KCL を用いたフレイル判定を 行ったところ、“ ロバスト(フレイルなし)” の該当割 合は 26%(26 名)、“ プレフレイル ” は 52%(52 名)、 “ フレイル ” は 22%(22 名)であり、4 人に 3 人が “ プ レフレイル ” “ フレイル ” に該当していた。さらに、 MNA®-SF を用いた栄養評価の結果、“ 栄養状態良好 ” の該当割合は 70%(70 名)、“At risk(低栄養の恐れあ り)” の割合は 30%(30 名)、“ 低栄養 ” の者はいなか った。他方、「口腔機能低下症」とフレイル判定、栄養 素摂取量、栄養状態との関連について、様々な角度か ら解析を試みたが、有意な関連は認められなかった。 【考察】 栄養食事調査の結果、本症該当群は非該当群に比 べ、いも類の摂取量が有意に高値であった。これは口 腔機能が低下することにより、比較的容易に噛み砕く ことができる炭水化物を中心とする食品に偏ることが 原因であると考えられる。歯の喪失に伴う、炭水化物 摂取量の増加を示した若井らの報告1)や、残存歯数が 少ないほど、炭水化物の摂取量が高値であるとした安 藤らの報告2)は、我々の結果を支持している。一方、 本川は噛む力が弱い者は、噛む力がある者に比べて、 いも類の摂取量が 10%以上低下することを報告してい る3)。そのため、今後は調査人数を増やすなどして詳 細を検討していく必要がある。 本研究の限界点は、①調査人数が十分でなかったこ と、②東大阪市の 1 施設のみに限られていたことによ り、得られる結果に偏りが生じていた可能性があるこ とである。今後は、より明確なエビデンスを得る為に 実態調査を継続し、口腔機能と栄養素摂取量ならびに 栄養状態との関連を明らかにしていきたい。 【引用文献】
1 .Wakai K et al. Community Dentisty and Oral Epidemiolgy. 38(1) : 43-49, 2010. 2 .安藤雄一.「歯の保有状況と食品群・栄養素の摂 取量との関連(その1)」.国立保健医療科学院 . 3 .本川佳子.日本老年歯科医学会誌.34(1):81-85, 2019.