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緊急気管内挿管下両側ポリープ様声帯手術

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Academic year: 2021

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61 仙台医療センター医学雑誌 Vol. 9, 2019 緊急気管内挿管下両側ポリープ様声帯手術 1. はじめに ポリープ様声帯は喫煙者に好発し多くは両側性で 慢性に経過する。嗄声、咳、声の低音化をきたし、 重症例では呼吸困難を生じ緊急気管切開が必要にな る場合もある1,2,3)。今回両側のポリープ様声帯が原 因となり、前医にて緊急経鼻挿管が行われ、当科で 緊急直達喉頭鏡下ポリープ様声帯切除術にて気道を 確保した一例を経験したので報告する。ポリープ様 声帯は長期間の喫煙により徐々に増大する。緊急処 置の方針について検討した。 2. 症例 患 者:81 歳 主 訴:呼吸苦、喘鳴、嗄声 既往歴:高血圧、糖尿病、心筋梗塞 喫煙歴:10 本 / 日× 60 年 職業暦:スナックで 40 年程勤務あり 現病歴  20XX 年秋頃より時折呼吸苦を感じていたが経過 観察していた。数ヶ月後の某月某日、嗄声を自覚し、 その翌日かかりつけ医を受診、アジスロマイシンを 処方され帰宅した。受診翌日の1 時頃トイレに起 きた際に呼吸苦を自覚し前医へ緊急搬送された。 SpO2 は 98%(room air) であったが、喘鳴・呼吸苦 が強く認められた。時間経過とともに気道狭窄症状 の悪化を認めたため(図1)経鼻気管内挿管が施行

症例

緊急気管内挿管下に手術を施行した

両側ポリープ様声帯の一例

大井康平1)、舘田勝1)、石田英一1)、澤田朱里1)、小笠原真理1)、橋本省1) 1)国立病院機構仙台医療センター 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 抄録  耳鼻咽喉科疾患で緊急気道確保が必要になる症例はしばしば認めるが、良性疾患の気道確保のタイミング については議論が残されている。今回、緊急手術が必要になった両側声帯ポリープを経験した。症例は81 歳 女性、嗄声、呼吸苦を訴え、前医で経鼻気管内挿管が行われ当科に救急搬送となった。気管内挿管での鎮静 が困難であり、CT 上肺病変はなく、頸部が短いことから全身麻酔下での緊急ポリープ切除術を施行した。直 達喉頭鏡では両側ポリープ様声帯を認めた。喉頭周囲の浮腫は著明でないことから、直達喉頭鏡にてポリー プ切除術のみを施行した。術直後および切除後第1 病日の喉頭内視鏡検査にて気道確保は十分であった。 キーワード:ポリープ様声帯、緊急手術、気道確保 図1  前医での喉頭所見、両側のポリープ様声帯、特に左 声帯のポリープが大きい。

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62 仙台医療センター医学雑誌 Vol. 9, 2019 緊急気管内挿管下両側ポリープ様声帯手術 された。前医での入院対応が困難のため、デキサメ タゾン6.6mg、アンピシリン・スルバクタム配合 剤3g 投与後、当院に救急搬送となった。 入院時現症  150cm、60kg、BMI26.67。 経鼻気管内挿管が施行されていた。喉頭蓋腫脹は 軽度であったが、左仮声帯より声門上に覆いかぶさ るようにポリープ様声帯を認めた。挿管チューブ、 ポリープ様声帯で声門の空間は占拠されていた。 血液検査  白血球数:4.7 × 103/μl、好中球 :84.1%、リンパ 球:14.0%、単球 :1.9%、好酸球 :0%、CRP:0.1 mg/dl 入院後経過 来院当日(第1病日)、全身麻酔、経鼻挿管下に て直達喉頭鏡で喉頭展開したところ、両側ポリープ 様声帯が認められた(図2)。周囲の浮腫は著明で ないため、気管切開は施行せず直達喉頭鏡にて切除 術を施行した(図3)。術後酸素化に問題なく抜管し、 ICU にて 1 泊経過観察とした。第2病日に呼吸苦・ 喘鳴なく一般病床に転棟した。同日診察時、喉頭 ファイバーにて周囲の浮腫等なく(図4)、夕より経 口摂取を開始した。第5病日までアンピシリン・ス ルバクタム配合剤4.5g/day を投与した。同日夜よ り不穏症状あり、第6病日朝には軽度認知機能低下 が認められた。高齢に伴う入院による認知機能の低 下が考えられ、家族と相談の上同日退院となった。 3. 考察 発声障害をきたす疾患は多岐にわたる。発声障害 に加え呼吸困難をきたす疾患としては、喉頭の器質 的占拠性病変と声帯機能障害(声帯麻痺)を考える 必要があり、診断には喉頭内視鏡による観察が必須 である。占拠性病変は、ポリープや結節、腫瘍のよ うな隆起性病変、および急性喉頭蓋炎や急性声門下 喉頭炎のような炎症性病変に分けられる。一方、喉 頭内視鏡で声帯麻痺を確認した場合、声門周囲のみ ならず、頸胸部の腫瘍性病変や大動脈瘤などが声帯 麻痺の原因となっている可能性もある。そのため、 頸胸部のCT 検査も有用である1-3,5)。原因が隆起性 病変、炎症性病変のどちらにせよ最も防ぐべきは気 道閉塞である。様々な要素を考慮しながら気管切開 が必要か否か、いつ気管切開を行うべきかの判断が 求められる。 ポ リ ー プ 様 声 帯 は 粘 膜 固 有 層 浅 層(Reinke’s space)の浮腫性病変により、声帯膜様部が全長に 図3  ポリープ切除後の喉頭所見 図2  手術時の喉頭所見、両側にポリープ様声帯が充満し ている 図4  術後第一病日の喉頭所見

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63 仙台医療センター医学雑誌 Vol. 9, 2019 緊急気管内挿管下両側ポリープ様声帯手術 わたりびまん性の腫脹を来す1)。米川らは安静呼吸 時の形態学的特徴からポリープ様声帯をI ~ III 型 に分類している4)。I 型は声帯全体の主に上面の浮 腫性腫脹で、声門が十分開いているものである。II 型は浮腫性腫脹が上面、下面に及び両側声帯縁の一 部が接しているものである。III 型は腫脹が高度に なり、両側声帯縁の大部分が接し、あるいは重なり、 声門の後方にわずかに間隙がみられるものか、吸気 時に声門下方に垂れ下がる程に袋状に腫大したもの、 とされている。気管切開の報告はIII 型のポリープ 様声帯がほとんどであり、自験例もIII 型であった。 ポリープ様声帯では緊急手術が必要になる症例は まれだが、上気道感染や膿瘍形成により急激に呼吸 状態が不良になり気管切開が行われた報告が散見さ れる1,2,3)。緊急処置の方針としては①気管切開先行 の上、待機手術。②気管切開、ポリープ切除の同時 手術、③気管内挿管、ポリープ切除が挙げられる。 気道確保については各施設の対応状況等により異な るが、今回の当科の症例では肺に異常は無く声帯の 部分のみの狭窄であったこと、気管内挿管がすでに 施行されており、不穏が続いていたこと、頸部が短 く喉頭低位にて気管切開が施行しにくかったことか ら緊急手術でポリープ切除を行い十分に気道が確保 できた事を確認し抜管した。また抜管後も気道が十 分に確保されていることを確認した。肺病変の存在 や人工呼吸器管理が必要な場合には気管切開が必要 と考えられるが、高齢者の場合には喉頭低位である 事が多く、特に頸部が短い場合には自然脱落・自己 抜去等の問題もあり十分な適応の検討と管理が必要 である。緊急気管切開は重要な選択肢であるが、気 管切開時の気胸、縦隔気腫の報告もあり1,2)、気管 内挿管が施行されポリープ切除のみで気道が確保さ れるのであれば必ずしも予防的気管切開の必要は無 いと考える。しかし、喉頭出血のような視野が妨げ られるような状況下においては気管内挿管が困難で あるとともに、出血により窒息にいたる可能性も高 いので、迅速に気管切開に切り替える判断も重要で ある。 ポリープ様声帯の発症・再発には喫煙が深く関連 しており、特に40 歳以上の喫煙者に好発するとさ れている。その機序としては、加齢による声帯粘膜 の脆弱化と長期間の喫煙刺激により局所的循環障害 が生じポリープ様声帯をきたす、との説がある6)。 本症例でも長期の喫煙歴を認め、高齢であったこと から、慢性喫煙による局所的循環障害が誘引となっ て発症したと考えられる。また、再発だけでなく、 自覚的音声の改善期間も術後禁煙した場合により短 期間になるとの報告がある6)。そのため、再発や自 覚症状の改善には患者に対する禁煙教育が最重要で あると考えられる。 4. 結語 他院にて経鼻気管内挿管後、当科で緊急手術を施 行した両側ポリープ様声帯の一例を経験した。ポ リープ様声帯の診療においては、呼吸困難を来す前 に切除術の適応を判断することが肝要であるが、呼 吸困難時には施設や状況に応じた的確な気道確保法 の選択とポリープ様声帯に対する手術的介入が求め られる。先行感染を契機とし急激に気道閉塞を認め ることもあるため、大きいポリープ様声帯では緊急 手術の可能性、禁煙につき患者に教育を行うべきで ある。 5. 文献 1) 梅野好啓、門田英輝、安達一雄、他:緊急気 管切開術を要したポリープ様声帯の1 例 耳 鼻と臨床 2010;56:19-23 2) 田村裕也、太田康、鈴木光也:緊急気管切開 時に両側気胸を生じた巨大ポリープ様声帯例  耳鼻臨床2016;109:839-842 3) 楠威志:緊急手術を要したポリープ様声帯例  耳鼻臨床2012;105:414-415 4) 米川紘子、太田文彦、小池靖夫:ポリープ様 声帯の臨床 日気食会報1983;34:409-417 5) 本間明宏、鈴木崇祥:頭頸部悪性腫瘍の初期 症状とその対応、 ENTONI 2011;128:8-13 6) 中井百香、牧山清、中井孝尚、他:ポリープ 様声帯の臨床像と手術治療後の経過について、 日本気管食道科学会会報 2007;58:8-16

参照

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