社会を「分断」する租税政策 : 「隠れた福祉国家」の財政社会学的考察
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(2) ps. 課税措置などの性格を見せ始めるS).まte,「隠 れた福祉国家(hidden welfare state)」と表現さ. れるまでに各種の租税支出の利用が特に福祉面’. 図1租税特別措置の傾向(1gsa2000) 10. B 善fi. で進む結果となった4).. こうした福祉面での租税支出の利用は,貧困 対策に対して福祉でなく労働支援(pro−work〕. 蓑4 2 0. を進めることを目的としたものであった.この. ロ産業振興向け 租税特別措置 ■社会保障向け 租税特別措置 19SO lgE5 1990 1995 2000. 年度. ため,租税支出を利用した福祉政策は選SII的福. (出所)T凸由t〔tg99.412).. 祉を加速させ,包摂的な社会政策とは対比して. ‘注‘}2000年は推定値.. 〔注2)租税支出は、個人所掲税向け、法人税向け商方EAむ。. 描かれるものとなった.本稿では,1990年代 以降進んだとされる租税支出による福祉の進展 をアメリカの社会及び経済から捉えなおし.’そ. れがいかなる思考を下敷きにし,またそれゆえ. (出所)Toder(1999,412).. (注1)2000年は推定値。. (注2)租税支出は、個人所得税向け、法人税向け 両方を含む。. に,問題を内包したのかについて考察を加えた い.. 明な性格を有していることに批判的な研究を示. 本稿の要旨を簡単に述べるとすれば,まず,. したのは租税法学者のSurrey(1971)であった.. アメリカで福祉目的の租税支出が1990年代以 降増えた理由とされる予算制約の内容とその 租税政策との関係について整理を行う.次い. 彼の批判は,その後1974年に,連邦議会審. で,福祉目的に租税支出を利用しようとする概. の視点からは,そもそも複雑な税制そのものが. 念力Sアメリカの労働観に強く規定されている. 批判の的となり,1986年に行われた抜本的税 制z改革によって多くの租税支出が整理された. ことを指i摘しておく.じかし,これら労働観を. 支えていた労働環境は,1970年代以隆急速. 議へ租税支出のリxストとその算出データの提 出を義務付ける形で結実した5}.また,租税論. 6).. に不安定なものとなっていく.こうした中で,. Toder(1999, 2004)は租税支出の対GDP比. アメリカ社会では雇用が不安定化した地域の支. での推移を1980年代以降5年ごとに集計し明 らかにしている(図1参照).ここで,1980年 から1985年まで急激に増加した租税支出は, 抜本的税制改革以後の1990年に大きく下がっ. 持を共和党が取り付け,福祉削減と労働支援を 中心にすえた租税支出政策を展開するようにな る.この実態を,主にニューヨーク州の州所得 税における租税支出の進展からみることにした い.. 2.租税支出の利用の進展. ていることが読み取れる.Toderの貢献は,こ うした租税支出の規模を示したことだけでな く、その性格を主に社会保障向けと産業振興向 けの2つに区切り示したことであった.. アメリカにおいて.租税支出が連邦財政上,. それによれば,1980年から90年まで租税支. GDP比で見て非常に大きく,1その執行が不透 5)Congressional Budget and Impoundment Control Act(公法93−344)がその根拠法である. 3)この点については林(2008),および河音(2008) を参照.. 4)「隠れた福祉国家」について,詳しくは Howardを(1997)を参照.国内では岡本(2008) および,福祉国家の比較およびその性格について の記述など金澤(2006)に詳しい.. これを含め,アメリカを中心とした租税支出の歴 史を検討しているものとして渡瀬(2008)を参照 されたい.. 6)主要なものとして,投資税額控除や加速度償 却制度が挙げられる.ここまでは,景気対策や経 済振興に用いられる租税支出の割合も多かった..
(3) タP. 出は,社会保障向け,産業振興向けがそれぞれ. 還付可能な税額控除は,アメリカおよびイギ. ほぼ半分程度のシェアを占めていた.一方で,. リス等のアングロクソン諸国においてユ990年. 90年代を通じて租税支出の総額は再び増加し. 代を中心に拡大された政策である、理論的根拠. 始めたが,それは社会保障向けを中心とした増. となるのはフリードマン(2008=1962)が考察. 加であったとされる.このように,86年改革. した「負の所得税」であるが,これは,最低限. で一度整理された租税支出は,90年代に入り. 界税率以下の所得階層に対して,税を課す反対. 再び増加し始めたのであった.. に直接給付を段階的に実施することで福祉給付. その理由として指摘されるのが,1990年代. を代替しようとするアイデアであった.. に行われた財政再建とその手段とならた厳格な. 現実の段階では,給付水準を縦軸にとり所得. 予算制約であった.先行研究で既に述べられ. を横軸にとったとき,給付を表す線は台形を描. ている通り,1990年代のアメリカ財政政策の. くこととなる.すなわち,労働者は一定の稼得. 課題はそれまで急速に膨らんだ双子の赤字のう. 水準までは給付が上昇することで労働インセン. ち,財政赤字をいかに解消するかであった7}.. ティブを刺激される.さらに,それ以上の所得. この売め,アメリカ議会はそれまであった. については,給付を一定にし,閾値を越えたと. 予算制限措置であるGR且法(グラム=ラドマ. ころで徐々に給付を減少させていく.勤労所得. ン=ホドリングス法)から,義務的支出に対す. と税額控除による給付との合計が給付単独での. る上限規制であるCAP制の導入と,裁量的支. 所得を上回るように設計することで,労働市場. 出に対する均衡原則であるPay−as・yOU−90(以. への参加インセンティブを維持向上させようと. 下,PAYGO)の導入を行った.また,1990年 と1993年の2度にわたって連邦政府の基幹税. する制度設計がなされている.貧困家庭に対す. である所得税と法人税の引き上げを実施したの. な税額控除に代替されることで,福祉に依存す. であった.. る層が労働市場への参加を促されるというワー. る現金給付のような社会保障給付が、還付可能. 一方で,クリントン政権は民主党の伝統的な. クフェア原理に基づく政策である.. 福祉重視政策を維持する必要性にも駆られた.. EITCの成立を政治的な側面からスケッチす. 歳出増が財政再建および厳格化した予算統制の. るVentry(2000)によればEITCの思想的起 源は1960年代のジョンソン政権にさかのぼれ. 関係上利用できない中,CAP制の制限の無い 租税支出による社会福祉政策の実施を改革の. るという.「貧困の発見」が叫ばれ「偉大な政. 中心にすえたのであるS).その主要な手段とし. 府」が政治スローガンに掲げられたアメリカ福. て用いられた租税支出が,「還付可能な税額控. 祉国家のいわば本格的な開始時期に,こうした. 除(refUndable tax credit)」とよばれるEarned. ワークフェアに基づく考え方が登場した点は興. Income Tax Credit(以下, En℃)やChild Care. 味深いものといえる.その後,紆余曲折を経 ながらEITCは徐々にその実態的姿への議論を. Credit(以下, CCC)であった.. 3.還付可能な税額控除. 重ね1975年に制度化に至る.しかし,その実 体的姿は当初に連邦歳入において割合を増加さ. せてきた社会保障税が貧困家庭に過大な負 7)1990年代の連邦財政の再建課程については河 音(2006)を参照.. 8)伝統的に租税支出は直接歳出よりも立法. 担になっているとの批判を解消するための制度 であった.根岸(2004)でも示されるとおり,. 上,制定が容易であったとされる.The Century. 1970年代中のEITCは事実上,社会保障税負担. Foundation Working Group on Tax Expenditure. を柑殺するための限定的役割を負わされるに過. (2002)を参照.ただし,租税支出もPAYGO原則 が適用されるため財政規律の網から完全に自由で はない.. ぎなかった.. しかしながら,1980年代のレーガン政権.
(4) 10e. 図2ErlCの実額推移(100万ドル) ・. 図3EITCの歳出・歳入に占める割合の推移 t.60s. SOObO. 1.4酪. 4SCOb 40000. 120S. 品0口0. lDos. 30000 1sooo. 20000. ■支払 分 ■現額 瞭部分. 1S000. 100凹 5000. 0. leg51995 tD9719田1999 2edO 2DOT 20022003!OO420052DO62冊7. (出所)OMBAnalytica1 Perspective, various years、より. 中t入に占める閤合 O,fio曳. O.40S O,20S O、UO鮪. 1舶5t帖61舳7 1舶81弱92伽田均12tM㎜2DOd 1005卸oee 2〔OT. (出所)OMB, Analytical Perspective, various years、よ り作成。. 作成。 期において,Aid to Families with Dependent. ない部分あるいは,税額負担以上の給付を受け. Childre皿(以下, AFDC)などの実額所得保障. た部分になる.図2からも明らかなとおり,税. が切り詰められる中,EITCは増額されること となった.こうしたことは,いわば,EITCの. 額控除部分の額は1995年から2007年の間まで. 両党性あるいはそれがアメリカ国内においてあ. 一方で,一事実上の現金給付にあたる支出部分. る種の価値合理性を持っていた事を表すものだ. の額は増加傾向にある.実額給付部分が歳出に. と考えられる.. 占める割合は1999年まで一貫して上昇し1以 後はほぼ一定であることが読み取れる.この ように,EITCについて言えばその支出上,税. 1990年代のEITCの増加の理由について は,先にも述べたとおりであるが,1995年か ら2007年までのE工TC.の量的変動については 次の図に示す通りとなる.図2からも明らかな. ほとんど変化が無い.. 額控除という役割から現金給付としての役割を. とおり1995年から1997年の減税までを契機と. 90年代にかけて強め,その性格は2000年代も ほぼ持続したと考えられる(図3参照).続く. して,EITCの額は増加傾向にある.98年から. 節において,EITCを始めとする還付可能な税. 2001年までの期間は好況により額は横ばいと. 額控除が長くアメリカにおいて支持され広がっ. なるが9),その後は主に直接支出部分を中心に. ていった理由について考察を加える.. 増加傾向にある.. 4.アメリ力民主主義と貧困対策. EITCの額は,議会予算局による試算を元に している.Analytical Perspectiveの5章Tax. 本節での議論展開を始めに簡単にまとめてお. Expelditureに示されるi数値の中で表中に示さ. く.租税支出という手段がなぜアメリカで共和. れる数値は通常の税額控除として税額から還付. 党,民主党の別なく受け入れられ,福祉政策の. された額である.このため,その対比は歳出と. 代替的手段として隆盛したかについて,ここで. の比較から示したものとなる.. はアメリカの民主主義の性格についての議論を. 一方.支出から行われた部分は還付可能な税. 敷術し,租税支出という手段の役割と結びつけ. 額控除としての性格として,租税を負担してい. て議論したい.特に,アメリカ民主主義の参与 方,あるいは承認方の性格がし,社会への包摂. 9)実際に,この時期,需給世帯は減少傾向に ある.90年代の需給世帯の数は98年の2027万か ら2000年までに1927万まで落ちた.その後,再 び増加に転じ2006年には2304万まで増加してい. 方法としてターゲティングや集団への帰属とい う役割を強調する面があることを指摘したい. さらに,それらの役割が議論された時代には,. る (Tax PoHqy Cente耳http://vww.taxpolicycenter.. 現在のアメリカと比較して「強い労働」環境が. org/,20/12/08),. 存在していたこと,それが急速に失われつつも,.
(5) 工σ1. アメリカ的価値観である承認方の社会制度が,. うに,アメリカ民主主義はそれが草の根的自治. その後に強まることでの問題についても触れて. 集団によって担われることで,逆に,包摂され. おく.. ない層を外部へと押し出し,あるいはその参加. アメリカ社会における民主政治の性格とし. 承認をもって部分的な吸収を行ってきたと考え. て,一般的に草の根的運動にその本質があるこ. られる.. とが良く語られる.スコチプルの一連の研究で も,そうした草の根的社会集団がアメリカ民主. さらに,アメリカにおける「労働」そのも のの価値もワークフェアを中心とした社会的包. 主義のみならず,ソーシャル・キャピタルの. 摂を助けるものといえる.水町(2005,33ff)に. 役割を演じてきたことが実証的に語ちれている. よれば,アメリカにおいて労働環境が成熟して. (スコチプル,2007).また,そうした集団は往々. いく背景にあった要因を次の点から説明してい. にして階級横断的性格を備えており,中道的政. る.1つは「勤労」を旨とするピューリタニズ. 治の源泉である以上に,アメリカ的価値を伝播. ムのアメリカにおける浸透である.これらは,. させる役割を担ってきたとされる.加えて,近. ジェファソン的農本資本主義と結びつきながら. 年,こうした社会集団の性格が大きく変化した. アメリカ社会における独立自営・機会均等・自. ところにアメリカ民主主義の変遷や変質の原因. 由競争・成果といった価値体系を生み出して. があると主張する論者も登場しているIU).しか. いったとしている.次に,アメリカ革命の精神. し,アメリカ民主主義がこのようなソーシャル・. に基づく機会均等を保障する自由主義、3点目. キャピタルに依存しつつ育てられ,伝播したこ. にフロンティア開拓を中心とする競争主義,そ. とは同時に次の問題を内包したと松本(2008). して適者生存を旨とする社会進化論である.. は述べる.. こうした民主主義にまつわるレトリックと労. アメリカの民主主義という価値を,多様な 価値観を持つ国民へ伝えるための取り込み作業. 働価値は,租税支出を使って達成しようとする. が,草の根の社会集団によって担われること でtむしろ包摂されるメンバーと排除されるメ. を貧困世帯への直接的な現金給付であるAFD C から,労働を義務付けた租税支出によって実施. ンバーを形成することとなった.すなわち,ア. する意味合いの違いは,貧困世帯で労働市場に. 政策目的と符合する.貧困対策という政策目標. メリカ民主主義はその担い手と外部の排除者と. 参加しない排除された層を,労働を中心とし. いう形を持つことになったとなったのである.. た社会の中に包摂しようとする動きであるから. さらに,そうして排除された層は,常に再承. だ.. 認の場を戦争への参加や,あるいは模倣的な社 会集団の形成によって代替してきた11).このよ. アメリカの福祉社会が,労働および企業に よって担われてきた面が強いことは福祉国家研 究で古くから指摘されてきた事実である12).一. 10)その代表的な論者が政治学者のPall Pierson である.彼は,Jacob S. Hackerとの共同著作にお. いてブッシュ政権期に行われた高額所得者向けの 減税政策と世論調査から,アメリカにおいて中間 層の政治的な発言力が低下する申で,政策対象と しても置き去りになっていると主張する(Hacker &Pierson,2005a,b, 2006).現実政策的な面から言. えぱ,p三ersonとHackerが論証としている部分は,. 河音(2008)や待鳥(2008)の述べるように多分 に共和党の妥協的性格も散見される.その意味で は,恣意的な評価の面も見られるが,アメリカの 政治経済学的モデルの提示としては魅力的な面を 持っていると考えられる,. 方で,1960年代の貧困の発見以来,問題とさ 11)アメリカにおける市民権獲得については高 佐(2003)を参照.アメリカ内のアメリカニゼー ションについて主要な著作のリストは遠藤(2003,. p31−32の注1)を参照.また,スコチプルが民主 主義の草の根運動として評価している女性団体な どは,その多くがミドルクラスの白人婦人たちに よって担われてきた点を松本{2008)は指摘する、. さらに,黒人婦人団体が一方でこのような白人婦 人団体と似通った組織を形成してきた点に注意を 促している..
(6) le2. 図4 労働争議におけるi操業停止回数の推移 50e 450 400 350 300 250 200 1SO lOO. 50 ロ r. 声一却置ぷぜぷぷぷぶオず逮逮逮逮逮逮逮誠忠 (出所)U.S. Department of Co皿tnerce, Economics and Statistics Administration, Bureau of the Census,. itiaborForce, Employment & Ear血gs:Wbrk Stoppages, Union Membership 641−Work Stoppages: 1960 to 2006ti Ti:e 2008 Statistical AbStract(http:〃www.census.gov/compendia/statab/index.html),Dec11,2008.より作成。. うアメリカ福祉社会システムから排除された層. 労働争議の件数を表した図4からも明らかな とおり,1970年代まで一定数あった労働争議 におけるスト回数は1980年代に入って急減し,. を,どのようにそのシステムに組み込むか,す. 以後,景気変動を考慮してもほとんど増減がな. なわち,周辺部を内部に内包し,これをアメリ. い.労働組合組織率については,1980年代以. カの“一般的市民”へと変貌させるという点を. 降のデータしかないが1983年に20%程度で. れてきたのはシングル・マザーや福祉依存の 層であった(Ventry, 2000).こうした労働とい. 考慮すれば,租税支出によるインセンティブの. あった組織率は以後,一貫して低下している.. 設定は大いにその意義に適う政策であったとい. 問題は,アメリカにおいて労働への包摂とい. える.. う価値が高まり,政策へ応用された時期が,そ. このような意味で,アメリカの民主主義の型,. のような「強い労働」の時代であったというこ. あるいは参加と承認というモデルを考えると租. とである.租税支出の議論が展開した時期であ. 税支出による現金支給という政策方法が,アメ. る1960年代は,労使間のソフト・コーポラテイ. リカの全体的価値に適い,かつ合理的なものと. ズムの下でアメリカの「私的j福祉国家の性格. 判断できる.しかし,それゆえの問題点も少な. が最も強く展開した時代であった.. くない.. しかし,現実にはデータからも明らかなとお. まず、想定されてきた,あるいはかつてあっ. り強い労働,あるいは企業による社会的リスク. た労働市場観が既に実態的には大きく後退して. の軽減は著しく弱まっている.そうした1」スク. しまったということである.ライシュ(2008). は,個人に帰属され,かつ給付はかつての労働. が述べるように,かつてアメリカにあった製造. 包摂を前提とした部分の比率が上昇してきてい. 業を中心とした,企業福祉中心の労働環境「擬. る.すなわち,労働による社会への包摂の装置. 似黄金時代」は現代資本主義の高度に競争シス テムが張り巡らされた中では維持できない13).. また,1980年代以降の企業間競争の激化は, 労働組合の解体と労働者賃金の二極分化を生じ させた14).. 13)その原因について,ライシュは,一般消費 者の消費動向と投資動向から論理的に説明を行っ ている.詳しくは,ライシュ(2008,122・178)を 参照.. 14)労働組合の組織率の低下の原因として,こ のほか,組合内部の腐敗組合運動以外の社会運 12)例えば、岡本(2008).橘木(2005)など.. 動の台頭を挙げられる(水町,2005,103)..
(7) Je3. を前提とした租税支出という政策が,アメリカ. が,州政府レベルでは支給の受けにくいTAN F. 的価値に適いながらも既にその前提そのものが. からEITCによる実質的給付に政策がジフトし. 現代資本主義社会の中で存立がむずかしくなっ. ていった.. ているということである.. EITCは州所得税を持っている多くの州で実. 包摂を基軸とした租税支出政策の問題はも う1つある.それは,あくまでも中心への包摂. 施されたが,その増額は連邦政府レベルでの取. が政策の目的であるため,その周辺に排除され. 16).ニューヨーク州でも1994年に福祉カット. る層,すなわち,福祉へのアクセスが不可能 な層が作り出されてしまう点であ翫人種を中 心にEITCの受給について研究を行ったBrown. を前面に押し出すパタキ共和党州議会上院議員. が知事に当選することで租税支出,特にEITC. (2006)によれば,有色人種と白人種でその受. 負担を実質マイナスに押し下げる(すなわち,. 給に大きな隔たりがあることが明らかになって. 現金給付がなされる)こととなった.1994年に. いる.租税支出による福祉,あるいは社会的課. 開始されたニューヨーク州のEITCの総額は当 初の7,790万ドルから2001年までに5億90万. 題の解決はこのようにアメリカ的価値の裏づけ. り組みに追随する形で1990年代に進められた. とCCCの2つの額が急増し,低額所得者の税. を持つことで,民主・共和両党から一定の評価. ドルと7倍近く増加した.これにより,ニュー. を受け取りつつ拡大してきた.同時に,それは. ヨーク州の個人所得税の各所得階層別で見たと. 就労条件という点では古いシステムを前提に進. きの実効税率はいずれの階層でも低下し,かつ,. んできたものといえる.租税支出による選別的. 年収5,000ドル未満の実効税率は93年に一〇.17. 給付を中心とした福祉の展開は,アメリカにお. から一31.39%にまで低下しており低額所得者の. ける包括的福祉の不在と排除のメカニズムから. 税負担を相当程度緩和した結果となった.一方. 社会を分断する圧力を生じさせるのである.. で,中間層の税負担の軽減効果は高額所得者と. 続く節において,こうした政策がむしろかつ. 比較してやや低いものに留まった(Boughtwood,. て中間層であった国民の支持を得ている点を強. Frieds皿&Gugie,2001,吉弘2006).. 調しようtそれは,労働環境の悪化により,従. こうしたニューヨーク州でのEITCの増加は,. 来の企業福祉に存在していた層がそこからはじ. Income Tax Reduction Act of 1995によって実. き出される中で,減税政策と従来の社会保障の. 施されたのであるが,同減税政策は1994年に. 切り崩しを支持するという構図を見せている.. ニューヨーク州知事を争った民主党の当時現職. 5.地方政府における租税支出の進展r. ニューヨーク州を事例に. 1990年代の福祉から租税支出へという流れ は連邦政府レベルだけでなく,州レベルでの. 追随も生み出した.その理由として,AFDC からTemporary Assistance for Needy Families. (以下,TANF)へという福祉改革の影響があっ た15].期間的限定の無かった現金給付である. AFD Cは,1990年代に期間と適用回数制限を. 15)AFDCは1996年福祉改革の影響からTANF に切り替わった、詳しくは根岸(2001)などを参照.. また,Fisher(2003)によればTANFへの連邦補 助金がErrCへの補てん財源として利用可能であっ たことなども,州政府によるEITCの利用を進ませ た1つの要因とされた.. 16)片桐(2006.291)によれば,EITCを備え る州の数は1996年から増加し,16州とコロンビア 自治区において採用されているとしている.さら に,その額を拡充することで制度の充実を図って いるとしている.また,Johnson(2000)によれば,. 務付けるものであった.これらは,福祉から労. 州の低所得者向け租税負担軽減政策は,1980年代 には州売上税の軽減措置が申心であったが,1990 年代には連邦からの補助金も手伝ってEn℃など還 付可能な税額控除による租税負担軽減措置が進ん. 働支援へという流れを受け継いだものといえる. だとされる.. 有するTANFに切り替えられた. TANFは,さ らにその受給用件に就業支援を受けることを義.
(8) エe4. 表1. ニューヨーク知事選挙の郡別支持率および人口構成 1994. T990 郡名 Alban. 共. 民主. ,. 民主. 口. 人口. 共. 56.7%. 13、眺. 50.8%. 3ぱo%. 38,瑞. 17.7%. 白人比. 一2000. ン ス ヒスノニック比’. 人比’. 294565 了32帖 49927 1332650 222% 6て.5% 200536 69.9% 的955 69.9% 81963 139750 672% 65.6% 91070. 83.2%. 1t1%. 3.1%. 97.o%. 0.7%. ’0.9%. 29.9%. 35.6%. 4鼠4%. 9t3%. 3.3%. 2.o%. 94.6%. .t偶. 0.9%. 93.3%. 4.0%. 2.0%. 94.0%. 2.2%. 42%. 91.0%. 5.8%. 118%. 5140†. 97.6田. 0:8%. 1.1%. 432%. Bronx. 76.6%. 8.5晃. ,75.9%. 日roome Catta閉u. 56.9%. ’28.0%. 28.2%. 3a部. 30.6%. 22.2%. 3t6%. 24.5%. 2t6%. 39.5%. 25.4%. 49.0%. 28β%. Ch柏ヨno. 35.6曳. 40.3%. 旧.5%. G‖nton. 444%. 36.6%. 35.8%. 56.6%. 79894. 93.3%. 3.6瑞. 2.5%. Gdumbia. 38.1%. 20.4%. 29.7%. 65.胱. ・63094. 92.1%. 4.5%. 2.5%. Oort』nd Delawar自. 33B%. 34.4%. 22.3%. 69.8%. 96.9%. o.9%. 12%. 2乱5瑞. 3aO%. 195%. 75口%. 96.4%. 12%. 2.o%. D吐ch鵠s. 36.8%. 29.6%. 28.・1%. 66.7%. 83.7%. 9.3%. 6.4%. Erie. 56.惚. 17.1%. 41.9%. 5t7%. 48599 48055 28G150 950265. 82.2瑞. 13.0%. E田巳x. 32.1瑞. 45.4%. 24.8%. 69.6%. 、38851. 94.8%. 2.8%. 2.2%. Fr胡nklin’. 45.3%. 36B%. 35.4%. 57.跳. 84.服. 6.6%. 4.0%. Fu』n. 35.7%. 25.6%. 22.4%. G帥日see. 33.7鴉. 30.7%. 23.7%. Gr白e龍. 34.2%. .25.2%. Hami}ton. 20.5%. 366%. Herki鵬r. 34.眺. 」倍f括r畠on. Kin s. L母wis Livih ston. Caua. Ch臼utau Gh白r汕n. 27.4% ... 25.5%. 73.6% 1. 3.3%’. 71.3%. 51134 55073. 96.0%. 1:8%. 1.6%. 63.6%. ・60370. 94.7%. 2.1%. ’1石%. .23.5%. 71.0%. 48195. go.8%. 4β%. ?a9%. 97コ%. 0.4%. 1.1%. ・39」%. 」23.0%. 70コ%. 5379 64427. 5瑞. 15コ%. 97.8%. o.5%. 立9%. 43.4%. 32.4%. 29.9%. 56.4%. 11173呂. 8日7%. 5.8%. 4.2%. ?3.5%. 9.6%. 7tO%. 27.3%. 412%. 36.4%. 1918%. 28.9%. 46.9%. 18.0%. 73.3%. 98.2%. 0.4%. o.6%. 34.7%. 32.4%. 26.幌. 56.4%. 2465326 26944 64328. 94.0%. 3.田. 2.3%. Mヨdis品. 36.8%. 2a5%. 22.7%. 69.6%. ’69441. 96.5瑞. 1.3%. t].%. Monroe’. 50.7%. 19.9%. 34,816. 79.1%. 13.7%. 5.3%. 41.6%. 22.7%. 27.6%. 49.3%. 26.o%. 44.7%. Na5sau New York Nia ra. 735343 66.4% 4970B 51.4% 1田4544 17.5% 1537195 219846 620% 65.7% 235469 458336 6t1% 56β% 100224 ’65.5% 341367 43.o%. 78.6%. 8.8%. 80.8%. .42.4%. 22.4%. 29.9%. On白治. 40.3%. 33.4%. 26コ%. Onon由a. 47」%. 21.4%. 31.6%. 3邑.眺. 28.8%. 24.8%. O閉n白. 38」%. 2a眺. 29コ%. Orl田ns. 3乞6% 3α3%. 34.瑞. 20.5%. 28.4%. 一18.8%. ・73.6%. Otse o. 34.7%. 34.3%. 25.5%. 68.3%. P吐nam Que印5. 42.o%. 254%. 26.0%. 70.8%. 65.8%. ゴ3.臨. 62.鍋. 35.4%. R舶s鵠』e. 4tB%. †7.8%. 35.5%. 57.3%. Richmond. 57.4%. 16.6%. 47.幌. 50.2%. On舶Ho. .94.9%. 1.2%. 6.9%. 79.3%. 10.1%. 10.0%. 54.4%. 17.4%. 27.器. go.7瑞. 6」%. t3%. go2%. 5.7%. 3.2%. 84.8%. 94%. 2.4%. 95.o%. 2二瑞. 2.1%. 83」% 89」%. a1%. 11.筋. 7.3%. 乱9%. 972鮪. 0.6%. t3%. Rookbnd. 52.6%. 19コ%. .42.6%. 54.3%. St Lawre. .44.9%. 32.3%. ’3a2%. 59.4%. Sa由to a. 41」%. 2t7%. 30.2%. 62』%. Sche酷o. 5tO%. 1息1%. 39.9%. 53.0%. Sロhoha巾. 38.4%. 23.5%. 25.3%. 68コ%. 44171 1223η 61676 95745 2229379 152538 443728 286753 111931 200635 146555 31582. 96.6%. 113%. Schu ler. 36.0%. 36.6%. 22.0%. 69.B%. 192里4. 96.5%. 1.5%. ]2%. S引ec日 St創b聞. 27.9%. 35.0%. 20.9%. 68.1%. 33342. 95.0%. 2.3%. 2.倒. 34.o%. 37.娼. 17.8%. 73.8%. 98?26. 96.4%. t4%. o.8%. S凹ffblk. 46.3%. 30.5%. ・37.0%. 58.0%. 1419369 73966 51784. 84.6%. 6.9%. 10.5% 9.2%. 05w自o. ㍉. 66.0%. Sullivan. 34.部. 33.6%. 292%. 66.7%. Tio a. 44部. 35.2%. 18.4%. 70.9%. Tom klns. 58.2%. 242%. ’439%. ’49.o%. Ul☆已r. 39.3%. 25.0%. 30.7%. Warren Washin. 38.9%. 29.?%. 24.1%. 95.8%. 1」%. 1.9%. .9乱9%. 1.6%. 62%. 44」%. 20.o%. 25.0%. 9t瑞. 4.7%. 2.1%. 77.酷. 9.7%. 12.1%. 76.9%. 11.眺. 102%. 94.5%. 2.4%. 1.8%. 96.0%. 1.4%. 1.4%. 87.B%. 6.8%. 3.2% 1.9% w.. 85.3%. B.5%. ・97.5%. 0.5%. 1.o%. 田501. 85.5%. 3.6%. 乱1%. 64.3%. 177了49. 88.9%. 54%. 6.2%. 6乱5%. 63303. 97.5%. 0.6%. 1.o%. 2.瑞. 21.8%. 70.1%. . 61042. 95.o%. 2.9%. 40.9%. 1E.7%. 62.2%. 472%. 49.9%. 32% 142%. 15.6%. 29.鍋. 30.7%. 2て.1%. 9t8%. 5.5%. 2.9%. 31.5%. 36.0%. 20.6%. 692% 615%. 93765 923459 43424. 9乱8%. 20.7%. 24621. 97.9%. α6%. 0.9%. ’35.4%. 26.5%. 当ne Wε虻che. 28.o%. 543%. Wo而in. Y由s. 71.3%. 2.4%. 出所)Atlas ef・US. Plesidentia1 Electie皿(http:〃uselectionatlas.org/), ”Gubernatoria1 Genera 1 Election Data Graphs L New York 1990&1994i!&U.S. Census Bureau’(httP:/ノwww.c.ensus.govノつ,1「CensuS 2000 population, emographib, and hotising. informadon:New York countie’s” Dec16;2008,より作成6 . . 、. 注)1990年の共和党支持はリンフレット候補への得票、民主党支持はクオモ候補への得票を表す。1994年はそれぞれ バタ・キ、クオモ支持を表す。ま’た、’それ’以外の独立系候補が90年には5候補、94年には3候補存在するが、その部 分は省略した。 ..
(9) te∫. のクオモ氏とパタキ氏との間で争われた.. 書によれば1980年代に世界的な貿易不振に端. パタキは4年間の大幅な個人所得税減税を計. を発した製造業不況は州北部の大企業工場の撤. 画し,同時に州行政機関の合併や,福祉・教育・. 退を生じさせた.92−93&93−94のニュー. 矯正費用の改革を通じて歳出削減を行うことで. ヨーク州経済報告書は州北部の経済不振とレ. これを相殺するとしていた.その削減規模は,. イ・オフによって生じた不安定な雇用状況に警. 当初t4年聞で総額50億ドルに上った.一方,. 戒を発し,中産階級の経済的困窮に言及してい. 95年度予算で15億ドルの減税政策を行う案を. る.. 提示していた.結果的に,94年11月の選挙で. 94年選挙において製造業地域であり景気後. はわかりやすい政策を提示したパタキがニュー. 退の影響を大きく受けた地域での得票率を見る. ヨーク中北部地域の支持を受けて当選した.一. と.いずれもパタキへの支持が大きい(表1参. 方,民主党側は州知事戦での敗退の他、下院内. 照).例えば,グラマンの工場を抱えるロング. で4議席を失うことになる.こうした事態にい. アイランド地域のサフオーク郡や,GMの工場. たって,州下院多数党の民主党系議員で下院議. が存在したハドソン川中域 シラキュースを中. 長のSilver氏は,議会内民主党の統一性を保っ. 心とするオノンダガ郡.オスウェゴ郡,マディ. ため,パタキ提案の減税策に理解を見せること. ソン郡,テリータウンを有するウェチェスター. になる17).. 郡,コダック社のあったロチェスターを有する. 当選を果たしたパタキは95年にITRA95を. モンロー郡などである.こうした地域での雇用. 策定することになるのだが,その過程には多く. の消失はtその後不安定なパートタイムや給. の困難を伴った.パタキ当初の減税政策は4年. 与の低い職業によって代替される結果となった. 間で68億ドルの減税が行われる予定であった.. (New York State,1993−1997).. 計画では,こうした歳入減少を相殺するために. 一方で,1990年でのやはり民主党クオモと. 州政府機関,特に教育省を中心に,組織の整. 共和党リンフレットとの選挙では,クオモがこ. 理合理化が予定されており,加えてメディケイ. うした州中北部地域での得票も圧倒的な支持を. ド,住宅手当.社会サービスといった福祉支出. 持つか,あるいは人口の少ない小規模郡におい. の40%を削減する予定であった、. ても共和党と比較した場合の得票率の差が小さ. しかし,68億ドルという大規模な歳入減と. いことがわかる.このことから,かつて民主党. 福祉カットは一時彼を支持した下院民主党から. 支持が強い地域,あるいは両党の支持が拮抗し. 再び激しい抵抗を生じさせた.さらに,州移転. ていた地域での政治的傾向が,減税もしくは福. 歳出の減少とそれに伴う地方財政の増税圧力を. 祉を切り下げ,労働インセンティブを高めよう. 恐れた共和党系の郡首長などからも減税プログ. とする政策を支持していくことが見えてくる.. ラムの減速が求められたIB).こうして民主,共. やや事実を敷桁すればかつて「中間層」だっ. 和両党からの抵抗もあり.パタキ提案の原案は. た人々は,経済的な条件の悪化からむしろ,そ. 修正され成立することになる,. の社会的包摂に不向きな政策を選択する方向へ. 1994年の知事選で中北部地域の支持をパタ. 向かうこととなったと評価できよう19}.. キが集め,民主党が内部の統一性維持に苦しん だ理由について次のことが言える.州経済報告. 6.まとめと展望. ここまで,租税支出を利用したいわゆる「隠 17)Silverは個人所得税,エネルギー税,衣料品 売上税の減税などを提案している 18)ニューヨーク州の郡首長は州共和党の強力 な権力源であり,かつ,94年の知事選ではそのほ とんどがパタキの熱心な支持者であった. れた福祉国家」という状況が,アメリカにおい てどのようにして,またなぜ進展したについて 先行研究の整理を中心に議論してきた.そこに は,長らく労働への包摂,あるいはより根本的.
(10) iO6. にはアメリカにおける市民参加の方法論が関係. となった.しかし,先にも見たように租税支出. している.一方で,既にかつてのような製造業. の増加の根底が選別的性格を強めた点では,租. を中心とした労働組合,企業福祉を備えた大企. 税政策における中間層への関心の低下,あるい. 業がアメリカの中間層を安定的に支える時代で. は税制における公平と納税者の社会への包摂の. はない点を指摘した.最後に,そうした申間層. 弱化は,1990年代から一貫して続いたものと. が不安定化していく中にあって,むしろその再. 評価できる.さらに,・資産性所得減税について. 包摂を困難にする政策を掲げる共和党がどの様. も,その実質的な開始は1990年代初頭である.. に進出したのかをニュ三ヨーク州政府の租税政. その点で,1990年代以後のアメリカの租税政 策は,所得階層の上と下に傾斜することで分断. 策について確認した.. ここまでの考察及び観察を敷街すれば,概ね 次のようなことになろう.アメリカ社会はこれ. を助長してきたと評価できる.2008年選挙の 強い争点がアメリカの統一という視点になった. まで限定的な組織間での応答によって個人を社. のは,それ以前の租税政策が国民の社会への包. 会に包摂してきたという社会的伝統を有する国. 摂という視点とどのような関係にあったのかを. 家であった.さらに,戦後は急成長する製造業. 示す証左の1つといえよう.. を中心に労働および企業が社会包摂の重要な役. では.そのような統合という視点から語られ. 割を演じてきた.一方で,1960年代以降,貧 困の発見に伴う社会福祉の拡充においてもこ うした概念は大きな影響を及ぼし,1975年の. 付加価値税の導入が困難といわれるアメリカに. EITC成立に結実する結果となったといえる.. 税政策は連邦所得税の改革とそれによる所得再. しかしながら,それが:福祉を代替する主要な政. 分配の強化という点になろう.実際バラク・ オバマが掲げる連邦租税政策には資産性所得へ の課税強化や申間層の限界税率の引下げなどが. 策となっていくにつれて,むしろかつて前提条 件としていた労働や企業による社会的包摂の機 能は限定化される結果となった.このため,社. る租税政策とは何であろうか.連邦レベルでの おいて,事実上,社会的な包摂を回復しうる租. 会への包摂の装置を再設置する試みがとられな. 謡われている.同時に,EITCや児童,教育用 の還付可能な税額控除についても,減税政策の. いまま,アメリカは租税政策において「分断」. 目玉として掲げられている.こうした部分につ. を進める結果となったのである.. いて言えぱ,労働への包摂を社会参加の大きな. 20e1年以降のブッシュ政権下で取られた減 税政策は,資産性所得への減税が中心となり高. 根幹と位置づける思想そのものは,次期政権に. 額所得者に著しく有利なものとなった.この点. とすれば,アメリカにおいてかつてのような強. おいても同様に継続していると評価できる.だ. を批判して,租税政策の「中抜き」,すなわち,. い労働,あるいは広い包摂の装置としての労働. 政治の中間層に対する相対的関心の低下が問題. 環境が復活しない限り,貧困およびワーキング・. プワーを社会へと再包摂することが新に可能か ・19)ただし,アメリカの選挙において人種の要 因を排除して評価することは難しい.共和党の支 持が急増した地域の人口構成を見る限り,白人層. の多いことが読み取れる.試みに,1990年から 1994年の間で民主党への得票率がどれだけ増減し たかを被説明変数にとり,人口構成における白人 の割合を説明変数とした回帰式の結果を見ると, 両者に負の関係が見られた(y−−O.55x+O.44 , t,{i.73,. R2,0.42).人口構成およびその変化が政治決定に. 大きな意味合いを持つ可能性を指摘しつつ,この 点の検討は今後の課題としたい.. は疑問が持たれる2°}.. こうした中で,税制の公平性を立て直すため には,労働条件の改善と経済システムの規制,. 20)この点について加えるならばオバマ次 期政権は環境分野においてより大規模な雇用の 場を作り出そうとしている(金子tデウィヅト, 2008).租税政策の成否は,先に述べた理由からこ うした産業政策との兼ね合いによって評価するこ とが必要になるであろう..
(11) iOア. 公共サービスの水準という税制以外のシステム. フリードマン,ミルトン著,村井章子訳『資本主義. を含めての議論が必要となる.そして,それは. と自由」’日本経済新開社、2008=1962年.. 同時にアメリカと似通った企業による包摂,再. 待鳥聡史「コンセンサスなき協調 共和党多数期. 分配を進めてきたわが国にとっても重要な示唆. における予算編成の歴史的位相」紀平英作編. となって跳ね返ってくるものといえる.. 著『アメリカ民主主義の過去と現在 歴史か らの問い毒ミネルヴァ書房,2008年. 参考文献. 松本悠子「民主主義の「再生」を求めて 革新主. 加藤芳太郎F財政社会学ということ」伊藤半弥博. 義期における生活様式としての民主主義j紀. 士退官記念論文集『財政学の基本問題』千倉. 平藁作編著『アメリカ民主主義の過去と現在. 書房, 1960年.. 歴史からの問い』ミネルヴァ書房,2008年.. 遠藤泰生「「内的アメリカニゼーション」と多元社. 水町勇一郎『集団の再生 アメリカ労働法制の歴. 会の摸索」油井・遠藤編著『浸透するアメリカ.. 史と理論』有斐閣,2005年.. 拒まれるアメリカ』東京大学出版会.2003年.. 宮島洋『租税論の展開と日本の税制』日本評論社,. 岡本英男「アメリカ福祉国家システムの構造的特. 1986年。. 質とその起源」i新川敏光編著『多元主義社会. 諸富徹,門野圭司『地方財政システム論』有斐閣,. の福祉国家』ミネルヴァ書房,2008年.. 2007年、. 金澤史男編『財政学』有斐閣,2eo6年. ライシュ,ロバー.ト著,雨宮・今井訳爆走する資. 金子勝,アンドリュー・デウィット「グリーン・. 本主義』1東洋経済新報社,2008年.. ニェーディール オパマの目指す環境エネル. 渡瀬義男「租税優遇措置一米国におけるその実態. ギー革命」『世界』786号,2θ08年.. と統制を中心として」『レファレンス』58巻. 河音琢郎『アメリカの財政再建と予算過程』日本. 12号7∼27ページ,2008年.. 経済評論社f2006年.. Boughtwood, David, Friedson, Arthur&Gugie,. 「財政赤字への再転落の合意」河音琢郎・藤木剛. Nick“Social Tax Pellcies Directed the Working. 康『G・W・ブッシュ政権の経済政策一アメリ. Poo亡The New Ybrk State Expedence”ハ后τ’o舩I. カ保守主義の理念と現実』ミネルヴァ書房,. Tex Jeurna’, Vel53、 No3 part1,2000.. 2008年.. Brown, Dorethy A.“Race and Class Matters in. 渋谷博史『レーガン財政の研究1東京大学出版会,. Tax Policy”HTashitrgton Kr dεedeg elStudies. 1992年.. ResearChPaperSen“es, Accepted Paper. スコチプル,シーダ『失われた民主主義一メンバー. N{}.200515,2eo6. シップからマネージメントへ』慶懇義塾大学. Century Foundation, BadBreaks A’t Around’The. 出版会,2007年,高佐智美『アメリカにおけ. Report of the Centtt)y Feundation WorKing(iroup. る市民権一歴吏に揺らぐ「国籍」概念一』勤. on]』諏已nゴ’伽r踏, priority Pr Pubns,2002.. 草書房, 2003年.. Fisher, Ronald.’‘The Changing State−Lecal Fi$cal. 橘木俊詔f企業福祉の終焉』ちくま書房,2005年.. Environment:A25−years in State and Lecai. 根岸毅宏「アメリカの公的扶助と1996年福祉改革1. Finance under、Pressure, Massachusetts:Edward. 渋谷・内山・立岩編『福祉国家システムの構. Elgar翫blishi㎎, Inc,2003.. 造変化一日米における再編と国際的枠組み」. Gravell, Jlme. Tlie・E亡o刀ロ痂c聯c却{ぜ丑tl’illg{:apital. 東京大学出版会,2001年.. Income, MIT Press,1994.. ぎアメリカの福祉改革」日本経済評論杜,2006年.. HackeちJa{三〇b S and pierson, Paul,°Aband⑪n三㎎{he. 林正寿『アメリカの税財政政策』税務経理協会,. Middle:T』Bu曲Tax Cuts and the Limits of. 2007年.. Democratic Contro庁』ぽ虚榔θロ飽必泌罵.
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