従業員と顧客間の態度の同質性と異質性に関する研究整理 ―組織論とサービス・マネジメント論の視点から―
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(2) 44. (304). 横浜国際社会科学研究 第 22 巻第 4・5・6 号(2018 年 2 月). 法で集約したものと考える2).顧客満足につい. 認識」と「サービ ス の 提供 プ ロ セ ス や 品質 に. て,Oliver(1997)は 期待不一致理論 を 示 し、. ついての顧客の認識」が類似することを予想. 顧客満足とは製品・サービスが顧客の期待以上. し,銀行支店での調査からその類似性を実証し. の効用をもたらすことだとしている.. た.また,支店ごとの従業員満足と支店ごとの. Ⅱ.従業員満足度と顧客満足度の関係. 顧客満足との間に正の相関があること示してい る.彼らは,類似性が生まれる理由として,顧. 従業員満足度 と 顧客満足度 の 関係性 に つ い. 客の要望に専念する自律的な現場部門を持ち逆. ては,Schneider など組織論者によるサービス. さまのピラミッドと呼ばれる組織構造があるこ. 風土研究 の 中 で 1980 年 に 問題提起 が な さ れ,. と,組織の境界があいまいで従業員と顧客が近. 1990 年代 に Heskett な ど サービ ス・マ ネ ジ メ. いことなどサービス組織の特徴や,顧客の反応. ントの研究者によりサービス・プロフィット・. に敏感なエンターテイメント型の性格特性の人. チェーンが提唱されて以降では多数の研究がな. 間がサービス業に集まることがあると指摘して. され,従業員満足度と顧客満足度の間の相関関. いる.そして,このような組織構造や性格特性. 係が検討された.2008 年にはメタ・アナリシ. を背景として,境界連結者としての現場の従業. スが行われ両者の満足度の間に正の相関がある. 員が(時には組織よりも)顧客に対し自己同一. ことが確認されている.近年では,従業員満足. 視することが多く,顧客の立場から組織を見て. 度と顧客満足度のモデレーターを想定した研究. いると述べている.特に,サービスに従事する. がなされるようになり,また,幾つかの研究で. 労働者は,Holland(1976)の社交的でエンター. は従業員満足度と顧客満足度の間に負の相関が. プライジングな人格を持つタイプに含まれるた. 生じることも報告され,満足度の不一致がどの. め,良いサービスを提供したいという願望を持. ような環境で起こるかに関して示唆を与えてい. つだろうと指摘している.そして,その良いサー. るが,不一致が生起するプロセスについてはい. ビスを提供したいという願望こそが,従業員に. まだに解明されていないと言える.. 対し,顧客がどのような視点でサービスを評価 しているのか,良いサービスを提供するために. 1. 従業員態度と顧客態度の関連性についての 問題提起. 支店がどのようなプロセスを持っているのかに 対し敏感になるようにしていると述べている.. Schneider, Parkington & Buxton( 1980)は. このような従業員と顧客の認識の類似性は,消. 組織行動論や消費者行動論の研究等から「サー. 費者行動論と組織行動論の統合的研究の基盤と. ビスの提供プロセスや品質についての従業員の. なると述べている. Schneider & Bowen( 1985) は,Schneider. . 2)集団単位の変数としての職務満足の定義に つ い て,Whitman et al.(2010) は,Brief(1998) を参考にしながら,「好ましい─好ましくないとい う度合いによる,共有された仕事経験の情緒的・ 認知的な評価によって示される内面的な状態」と 定義している.しかし,ほとんどの実証研究では, 集団レベルの分析であっても,Locke(1976)のよ うな個人の職務満足の定義が用いられているため, 本研究 で は Whitman et al.(2010)の 定義 を 用 い なかった.個人の職務満足の概念を従業員満足と して用いることの問題点については今後の研究課 題としたい.. et al.(1980)の 追試 を 行 い つ つ,組織 の 人的 資源管理への従業員による評価や,従業員及び 顧客の離転意図との関係について分析を拡張し ている.ここでは,①「サービス提供を支援す る組織のプロセスや手続きについての従業員 の認識」だけでなく,「組織の人的資源管理に ついての従業員の評価」(例:キャリア・ファ シ リ テーション や 教育・研修等)も,「顧客 に よるサービス品質評価」と相関していること, ②「顧客によるサービス評価」と,「彼らに対.
(3) 従業員と顧客間の態度の同質性と異質性に関する研究整理(木田). (305). 45. 応した従業員の離職意図」との相関と, 「ある. 客満足,収益性 と い う 一連 の 指標 が 循環的 に. 顧客に対応した従業員によるサービス評価の認. 高まると主張している.また,Heskett, Sasser. 識」と「顧客の離職意図」との相関は,どちら. & Schlesinger(1997)は「サティスファクショ. も有意に負の相関関係があることが示された. ン・ミラー」という概念を提起し,従業員満足. が, 前者の方が後者よりも大きいことを示した.. 度と顧客満足度は一致する傾向にあり,どちら. ②に関して,Schneider & Bowen(1985)は,. かの満足度を知れば他方のおよその満足度を知. サービス組織の従業員は,顧客に対し良いサー. ることができるという満足度の対称性を指摘し. ビスを提供したいという心理的欲求を持つた. ている.. め, 顧客によるサービス評価に対し敏感であり,. ま た,Wiley(1996)は,「リーダーシップ・. 顧客によいサービスを提供できていないという. プラクティス」によって,従業員満足・顧客満. 認識が離職率を高める可能性を指摘している.. 足・財務成果の循環的な向上を引き起こすこと. ②では,顧客の心理的態度が従業員の離職意図. ができると述べている.. に与える影響は,従業員の心理的態度が顧客の. ⑴ サービス・プロフィット・チェーン. 離転意図に与える影響よりも大きいことが示さ. Heskett et al.(1994)によるサービス・プロ. れている.Schneider & Bowen(1985)は,こ. フィット・チェーン と い う 枠組 み で は,優 れ. の理由について,顧客の心理的態度は従業員に. た企業では,従業員に向けた内部サービス,従. 対して明確に表現されるのに対して,従業員は. 業員満足,生産性と勤続率,顧客へのサービス. 監督や評価制度による制約を受けているのでそ. の 質,顧客満足,リ ピート 率,収益性 と い う. の心理的態度を顧客に対して明確に表現しにく. 一連の指標が循環的に高まるという関係性が. いためではないかとしている.このことは,顧. 主張されている(図 1).Heskett et al.(1994). 客満足が従業員満足に与える影響の方が,従業. の 著者 の 一人 で あ る Loveman は,Loveman. 員満足が顧客満足に与える影響よりも大きくな. (1998)に お い て,サービ ス・プ ロ フィット・. る可能性を示していると思われる.. チェーンにおける諸関係を図 2 の様に整理し,. 以上のように,Schneider らは従業員と顧客. アメリカの地方の銀行グループの 450 の支店か. の態度や認識の関係性について,心理学的・組. ら得られたデータを元に回帰分析を行った.結. 織的な視点から両者の態度の関連における複雑. 果として,図 2 の矢印で示されている 7 つの仮. さを描いているものだと言えよう.しかし,80. 説は部分的または完全に支持された(支店毎の. 年代には従業員満足と顧客満足の関係を論じた. 集計と銀行全体での集計の場合等,データの処. 研究はこの他にはほとんど見られない.そし. 理方法により違いが見られた).. て,以下に見るように 90 年代に入り Heskett. 従業員満足と顧客満足との直接の関係につい. et al.(1994)によりサービス・プロフィット・. ては,従業員の会社への満足と職務への満足が,. チェーンが提唱されて以降,実証研究は大幅に. 顧客の会社への満足と支店への満足に与える影. 増加するものの,両者の態度の関係性は単純化. 響が検証された.なお,この調査では,顧客満. されて理解されている面があると言える.. 足度について 1~7 の 7 段階で支店及び会社へ の満足度の評価が行われ,分析においては満足. 2. 支配的な枠組みの提唱と実証研究の増加. 構成比(各支店において,満足度が高い(7 ま. 90 年代 に 入 る と,Heskett et al.(1994)が. たは 6)と回答した人の割合)を用いた分析と. サービス・プロフィット・チェーンという枠組. 満足平均値(顧客の満足度の回答の各支店にお. みを提起し,優れた企業では,従業員に向けた. いての平均値)を用いた分析とが行われた.満. 内部サービス,従業員満足,サービスの質,顧. 足構成比を用いた分析では,従業員の会社への.
(4) 46. 横浜国際社会科学研究 第 22 巻第 4・5・6 号(2018 年 2 月). (306). 従業員 定着率. 従業員 満足. 内部サービス 品質. 顧客サー ビス品質. 顧客 満足. 顧客ロイ ヤリティ. 生産性 職場設計 職務設計 従業員の選抜・育成 従業員への報酬と認知 顧客サービス支援ツール. 売上と 成長. 収益性 サービス・コンセプト 顧客にとっての便益. ターゲットのニ ーズに適合した 設計・提供. 顧客維持率 繰り返し購入 新規顧客の紹介. ※Heskett et al. (1994, p.166) を翻訳して作成,フォントの太字化は本稿の筆者による.. 図 1 サービス・プロフィット・チェーン. 内部サー ビス品質. 従業員 満足. 従業員 ロイヤ リティ. 顧客サービス 品質. 顧客 満足. 顧客ロイ ヤリティ. 売上 成長率 と収益性. ※Loveman (1998, p.22) を翻訳して作成, 太字化は筆者による.. 図 2 Loveman(1998)によるサービス・プロフィット・チェーンの実証研究モデル. 満足と職務への満足が顧客の会社への満足に与. プ・プラクティスを向上させるという循環的モ. える影響は有意であったが,従業員の会社への. デルである.. 満足と職務への満足が顧客の支店への満足に与. なお,リンケージ・リサーチ・モデルにおけ. える影響は有意ではなかった.満足平均値を用. る「リーダーシップ・プラクティス」は,顧客. いた分析では,従業員満足から顧客満足への有. 志向,品質の強調,従業員のトレーニング,イ. 意な影響は見られなかった.. ンボルブメント・エンパワーメントという 4 要. ⑵ リンケージ・リサーチ・モデル. 素で構成されている.Wiley(1996)は銀行支. Wiley(1996)は,従業員と顧客の両者に対. 店を対象とした実証調査において,顧客数が多. して調査を行う方法をリンケージ・リサーチ. く競争も激しい都市部の支店では特に,リー. (Linkage Research)と名付けている.そして,. ダーシップ・プラクティスが充実している店舗. サービス・プロフィット・チェーンやサービス. では従業員満足も顧客満足も高くなるが,リー. 風土に関する研究等を参考にしてリンケージ・. ダーシップ・プラクティスが充実していない支. リ サーチ・モ デ ル(Linkage Research Model). 店では従業員満足も顧客満足も低くなる傾向が. を提唱している. これは, 図 3 のようにリーダー. あ る こ と を 見出 し,リーダーシップ・プ ラ ク. シップ・プラクティスが従業員成果を,従業員. ティスの重要性を強調した.. 成果 が 顧客成果 を,顧客成果 が 事業 パ フォー. ⑶ 従業員満足度と顧客満足度の相関のメタ・ア. マンスを,事業パフォーマンスがリーダーシッ. ナリシス.
(5) 従業員と顧客間の態度の同質性と異質性に関する研究整理(木田). (307). 47. リーダーシップ・プラクティス ・顧客志向 ・品質の強調 ・従業員のトレーニング ・インボルブメントとエンパワーメント. 事業パフォーマンス. 従業員成果. ・売上成長 ・マーケットシェア ・生産性 ・長期的収益性. ・知識と情報 ・チームワーク/協力 ・総合的な満足 ・定着. 顧客成果 経 間 時. 過. ・柔軟なサービス ・製品品質 ・総合的な満足 ・顧客維持. 仕事 (w ork )の 特. 性. ※ Wiley (1996, p.377) の図表を訳して作成. 図 3 リンケージ・リサーチ・モデル. Brown & Lam(2008)は,サービ ス・プ ロ. いう説明に一定の支持を与える結果となってい. フィット・チェーンにおける諸概念のうち,職. る.. 務満足度(個人および集団の満足度) ,サービ. ま た,Whitman et al.(2010)で は 職場単位. ス 品質,顧客満足度 の 関係性 に 着目 し 分析 を. の実証研究のメタ・アナリシスから,従業員満. 行っている.彼らは,1980 年から 2008 年まで. 足度が組織市民行動を媒介して顧客満足度を含. に行われたサービス業における従業員満足度と. む総合成果に影響を与えていることを示した. 顧客満足度の関係性の研究から,分析上必要な. が,従業員満足度が顧客満足度に直接与える影. データが得られた 21 本の統計的研究を抽出し. 響の方が大きいため,組織市民行動の媒介効果. メタ分析を行い,従業員満足度と顧客満足度の. は従業員満足度と総合成果の関係性のあくまで. 間の真の相関係数は 0.25 であり有意に正であ. 一部を説明するものだと示された.このことか. ることを示した.ただし,個々の調査結果間で. ら,従業員満足度が総合成果に影響を与えるの. 異質性があることが認められた.また,パス解. は多様な経路があることが示唆された.. 析によって,従業員満足度が顧客満足度に直接 与える影響と,従業員満足度がサービス品質を. 3. 理論と現実のギャップ. 介して顧客満足度に与える間接的影響の比較が. サービス・プロフィット・チェーンの特徴と. 行われ,間接的影響の方が大きいことが示され. しては,従業員満足と財務成果の関連性を,比. た.ここから,表情の模倣や追体験による従業. 較的測定 し 数値化 し や す い 指標(離職率・生. 員満足度の顧客満足度への直接的な情動伝染の. 産性・顧客満足度等)に 注目 し て 影響 の 経路. 効果も否定できないが,サービス・プロフィッ. を描いていることである.そのため,実務的. ト・チェーン に 基 づ く,職務満足 が サービ ス. な組織診断の枠組みとしては応用しやすい一方. の質を媒介として間接的に顧客満足を高めると. で,従業員満足度と顧客満足度の関係がいわば.
(6) 48. (308). 横浜国際社会科学研究 第 22 巻第 4・5・6 号(2018 年 2 月). ブ ラック ボック ス 化 し て し まって い る 面 が. 報告する研究を検討したい.. ある 3).このような両者の満足度の関係の単純 化は,Heskett et al.(1997)が「サティスファ クション・ミラー」として述べたような両者の 満足度の一致に関して疑問を投じる機会を狭め てしまったと思われる.ここで,現代の日本企. 4. 従業員満足度 と 顧客満足度 の 関係 の バ リ エーションについての研究 ⑴ 従業員満足度と顧客満足度の間のモデレー ターに関する研究. 業の実情を見れば,従業員と顧客の満足の好循. Brown & Lam(2008)によるメタ・アナリ. 環を起こし両者を満足させることができている. シスでは,分析対象となった調査結果間に無視. とは必ずしも思えない.たとえば,従業員と顧. できない程度の異質性が存在することが示され. 客のどちらか片方を満足させるための取り組み. た.そこで彼らは,どのような産業特性や調査. が,もう片方の満足度を低下させてしまう可能. 方法が従業員の職務満足度と顧客満足度の関係. 性もあるだろう.最近の日本社会では,宅配業. 性の強さを左右するモデレーターとなるのか検. 界や外食業界の大手企業で深夜労働やサービス. 討した.その結果,職務満足度と顧客満足度の. 残業などの労働問題が取り上げられているが,. 相関係数は,. こうした企業の柔軟な宅配サービスや昼夜を問. ①対人サービス(例:医療)の方が非対人サー. わず低価格で提供される食事が一部の顧客の支 持を得ているのも事実であろう.これらの企業 の顧客満足度は,従業員満足度の犠牲のもとに 向上していると見ることもできる. このように,. ビス(例:物品修理)よりも高く, ②集団単位で職務満足(従業員満足)を分析 した方が個人単位の分析よりも高く (※個人単位 の 分析 は,各従業員 X,Y…の 職. どちらかの満足度の向上がもう他方の満足度の. 務満足(ES)と 彼 ら が 対応 し た 顧客( 【X1,. 低下を要するトレードオフの関係となることも. X2...】 , 【Y1, Y2...】…の顧客満足(CS)を,組. あるだろう.以上のように,従業員満足度と顧. 織単位の分析は各組織 X,Y…における ES と. 客満足度の関係性は多様であり,顧客又は従業. 各組織 の 顧客( 【X1, X2...】 , 【Y1, Y2...】…の. 員どちらかの満足度は高くても他方の満足度は. CS の相関を調べている). 低いような状況,つまり両者の間の満足度の不 一致が生じることも考えられる. 以下では,従業員満足度と顧客満足度の関係 を,様々なコンテクストにおいて実態をより詳 しく捉えた研究として,従業員満足度と顧客満. ③全体的職務満足(仕事への総合的満足)の 方が個別的職務満足(多様な職務環境要因 含む)よりも高く ④公刊された研究の方が公刊されていない研 究より高く. 足度の間のモデレーターの研究や,従業員満足. なることが示された.また,BtoB のサービス. 度と顧客満足度の間に負の相関が生じたことを. でも BtoC のサービスでも職務満足と顧客満足. . 3)Heskett et al.(1994)に よ る サービ ス・プ ロフィット・チェーンの図では,内部サービスか ら従業員満足,そして顧客満足,売上へと向かう 矢印の他に,顧客サービス品質や顧客満足から内 部サービス品質に向かう逆向きの矢印も描かれて おりやや複雑なモデルとなっているが,Heskett et al.(1994)がこれらの矢印が持つ意味について ほとんど説明をしていないこともあり,Loveman (1998)など後続の研究ではこれら逆向きの矢印が ない形のモデルとなっている.. の相関は同程度(有意に異ならない)と示された. Brown & Lam(2008)は,組織単位 の 研究 の方が両者の満足の関係性が強いことの背景と して,シナジー効果(満足した従業員同士が共 同しあるいは刺激しあいながら顧客満足のため の行動や努力を行うこと)があると述べている. ま た,Whitman et al.(2010)は 職場単位 の 従業員満足度と顧客満足度の関係に関するモデ レーターの分析を行った.ここでは,顧客満足.
(7) 従業員と顧客間の態度の同質性と異質性に関する研究整理(木田). (309). 49. 表1 従業員満足と顧客満足の関係に影響する状況要因 分 類. 業界・業種. 研究方法. 立地環境. ES-CS の相関を高める状況. ES-CS の相関を低める状況. 文 献. 対人サービス(例:医療). 非対人サービス(例:物品修理). Brown & Lam(2008). 顧客コンタクト頻度が多い. 顧客コンタクト頻度が少ない. Brown & Mitchell(1993). 教育分野. ビジネス分野. Whitman et al.(2010). 集団単位の職務満足. 個人単位の職務満足. Brown & Lam(2008). 集団内での職務満足の合意指標が高い 集団内での職務満足の合意指標が低い. Whitman et al.(2010). 会社への満足感. 職務への満足感. Whitman et al.(2010). 全体的職務満足感. 個別的職務満足感. Brown & Lam(2008). 競争程度が高い. 競争程度が低い. Banker & Mashruwala(2007). 度等の組織成果と集団単位の職務満足度の相関. 上 記 の Brown & Lam( 2008)や Whitman. は,組織成果と個人単位の職務満足度の相関よ. et al.(2010)で検討されなかったモデレーターと. りも強いこと,職務満足度と組織成果との相関. し て,Banker & Mashruwala( 2007)は 従 業. は集団内での職務満足度の合意指標が高いほど. 員満足度から顧客満足度への影響,顧客満足度. 強くなることが示された.. から財務業績への影響という一連の関係を検証. また,その他のモデレーターに関しては,①. した結果,競争の激しい立地にある店舗では統. 会社への満足の方が仕事への満足よりも,②給. 計的に有意な一連の関係が見られたが,競争. 与への満足と同僚への満足の方が管理者への満. の激しくない立地では見られなかった. また,. 足よりも,③教育分野の方がビジネス分野より. Brown & Mitchell(1993)は顧客コンタクト頻. も従業員の満足と顧客満足などの組織成果への. 度が高い方が従業員満足度と顧客満足度の相関. 関わりが強いことが示された.. が高い傾向にあることを示した.以上,表1の. なお,営利企業によるサービス事業でも非営. ようなモデレーターの存在が指摘されている.. 利組織によるサービス事業でも,それらの間で. 従業員満足度と顧客満足度のモデレーターに. ほとんど差が見られなかったことが示された.. 関する研究では競争程度などの立地環境や業界. Whitman et al.(2010)は,合意指標 が 高 い. など組織の外的条件に関して,どのような状況. 集団の職務満足と組織成果の関係が強くなるこ. で満足度の不一致が生じやすいか示唆を与えて. とに関して,集団の職務満足は,集団内に,組. いると言える.一方で,同じような状況に直. 織の目的を共有し受け入れ協調する傾向を生み. 面している組織の間でも,なぜある組織では. 出し,集団構成員の行動を集団にとって望まし. 満足度が一致し,他の組織では不一致が生じる. いものになるように誘導し,その結果として組. のかは明らかにされていないと言える.従業員. 織レベルのパフォーマンスが高まるのではない. 満足度と顧客満足度の相関やそのモデレーター. かと主張している.反対に,低い職務満足は,. はサービス・マーケティング論などの領域で数. 集団内にコンフリクトをもたらす規範を作り上. 多く研究がなされてきたが,組織マネジメント. げ,人間関係を悪化させ,組織の目標を達成す. の観点からの更なる研究が求められると言えよ. る動機づけを弱めるとしている.. う..
(8) 50. (310). 横浜国際社会科学研究 第 22 巻第 4・5・6 号(2018 年 2 月). ⑵ 従業員満足度と顧客満足度の不一致に関す る研究. サービスとしての意思決定の幅が狭まったこと が,現場のオペレーション部門において良好な. 従業員満足度と顧客満足度の関係のメタ・ア. 顧客関係が職務満足に結びつかない背景とされ. ナリシスからは一般的には従業員満足度と顧客. ている.対照的に,スタッフの役割をマニュア. 満足度は一致する傾向にあると思われるが,両. ル化しサービスをシステム化するにあたり,顧. 者の満足の関係を調査した研究のなかでは両者. 客情報の組織的な蓄積が進み,間接部門に顧客. の満足度が一致しないことを示した研究もあ. 情報が集約され顧客の反応を認識しやすくなっ. る.. たことが,間接部門で顧客との良好な関係と職. たとえば,藤原(1997)は,病院における調. 務満足が関連していた背景とされている.. 査では,看護師が患者の要求に応えるほど仕事. これらの研究は,従業員満足度と顧客満足度. の負担が大きくなることから患者の顧客満足と. との関係を考察する上で立地などの条件の影響. 看護師の従業員満足との間には負の相関関係が. を考慮すべきことや,仕事の負担,顧客との接. あることを示した.Silvestro & Cross(2000). 触頻度の低下が不一致が生じる要因となる可能. がイギリスのスーパーで行った研究では,情報. 性を示している.一方で,従業員や顧客の満足. 技術を活用する戦略の一環でセルフスキャンの. 度に影響する要因は多様であり業界や職種ごと. レジが導入され対物業務が中心となっていたこ. に異なる面もあると思われるため,異なる文脈. となどもあり店舗スタッフの従業員満足度と顧. での調査の蓄積が必要と考えられる.また,不. 客満足度の間で負の相関が見られた.. 一致が生じたプロセスについても十分な説明が. 竹田(2009)は,和歌山県のあるホテルの従. なされていない.. 業員に対して質問紙調査を行い, 現場 (オペレー ション部門)と管理部門(間接部門)における. Ⅲ.まとめと今後の研究課題. 職務満足の要因を調査した.オペレーション部. 以上 で は,従業員満足度 と 顧客満足度 の 関. 門は,現場のサービスを実行する部門で,宿泊. 係について,Schneider et al.(1980)による従. 部門,調理部門,宴会部門などである.一方,. 業員と顧客の態度や認識の類似性という問題. 総務,人事など従業員をサポートする部門は間. 提起 に 始 ま り,Heskett et al.(1994)に お け. 接部門,もしくは管理部門と呼ばれる.間接部. るサービス・プロフィット・チェーンや Wiley. 門は,主にオペレーション部門と呼ばれるウェ. (1996)によるリンケージ・リサーチ・モデル. イターやフロントクラークを補佐するのが業務. という代表的な理論の提起をきっかけに多くの. であり,顧客と接する機会は現場部門ほど多く. 実証研究がなされるようになったことを指摘し. ない.. た.一方で,このような代表的理論の中で従業. 竹田(2009)の調査の結果,仮説に反して現. 員満足度 と 顧客満足度 の 関係 が や や 単純化 さ. 場のオペレーション部門の従業員では,顧客と. れて示されており,その結果として Heskett et. の良好な関係は職務満足に影響を与えず, 報酬,. al.(1997)で「サティスファクション・ミラー」. 他職種 と の 行動一致(連携) ,内発的満足(専. として指摘された従業員満足度と顧客満足度の. 門職としてのやりがい)が職務満足に影響して. 一致という図式が無批判に受け入れられてし. いることが分かった.一方で,間接部門では,. まった面がある.その影響もあり,現代の日本. 顧客との良好な関係と内発的満足が職務満足に. の一部のサービス業に存在すると思われる従業. 影響を与えていた.手続きの WEB 化・システ. 員と顧客の満足度の不一致のような現象につい. ム等でスタッフが直接に顧客と接する機会が. ては十分に研究がなされていないと言える.ま. 減ったこと,サービスがマニュアル化され対人. た,従業員満足度と顧客満足度の影響を規定す.
(9) 従業員と顧客間の態度の同質性と異質性に関する研究整理(木田). るモデレーターの研究では,環境上の要因につ. 参考文献. る組織間差異については検討がなされていない 負の相関があることを報告した研究でも,その ような満足度の不一致が生じたプロセスについ ては十分に吟味がなされていないと言えよう. 従業員満足度を無視して顧客満足度のみに焦 点を当てることは持続性を欠くであろう. 逆に, 従業員満度が高くても顧客満足度が低い状態で は,新規参入や競争激化が起これば顧客が離れ てしまう危険性がある.ここで,なぜある組織 の中において従業員満足度と顧客満足度の不一 致が生じてくるのか,それはどのようなプロセ スを経て生じるのか,今後の研究が必要だと言 えるであろう. また,顧客満足度の向上が従業員満足度の向 上をもたらし,それがさらに顧客満足度の向上 をもたらすという自己強化的な好循環,逆に双 方の満足度が低下していく悪循環,そして顧客 満足度向上が従業員満足度の低下をもたらす, あるいは従業員満足度向上が顧客満足度低下を もたらすというトレードオフなど,因果関係の あり方には様々なパターンが想定されうる.放 置すれば満足度が際限なく低下してしまうであ ろう悪循環や,満足度のトレードオフといった 問題は,サービス・マネジメントを行う際の袋 小路となりかねない.これら因果関係の方向性 や相互作用の問題については,定性的かつ長期 的な視点からの研究も必要となると思われる. さらに検討を要する点として,職場や組織 単位での満足を調査した先行研究でも,Locke (1976)のような個人を前提とした職務満足の 定義が用いられている.個人の職務満足の概念 を集団単位の満足として用いることの問題点に ついては今後の研究課題としたい.また、満足 と言う概念は曖昧性が高いため , 顧客 , 従業員 の満足ではなくリピートや離職などの行動面で の二者の関係に注目した研究 , コミットメント やエンゲージメントなどより洗練された概念を. 51. 用いた研究を行うことも有効と思われる.. いては検討されているものの,同一環境におけ と言えよう.従業員満足度と顧客満足度の間に. (311). 【外国語文献】 Banker, R. D. & Mashruwala, R. (2007). The moderating role of competition in the relationship between nonfinancial measures and future financial performance. Contemporary Accounting Research, 24(3), 763‒793. Brown, K. A., & Mitchell, T. R. (1993). Organizational obstacles: Links with financial performance, customer satisfaction, and job satisfaction in a service environment. Human Relations, 46(6), 725‒757. Brown, S. P. & Lam, S. K. (2008). A metaanalysis of relationships linking employee satisfaction to customer responses. Journal of Retailing, 84(3), 243‒255. Drucker, P. F. (1950). The New Society: The Anatomy of Industrial Order. New York: Harper & Brothers. ( 現代経営研究会訳 . 1957 年 .『新 しい社会と新しい経営』ダイヤモンド社 .) Heskett, J. L., Jones, T. O., Loveman, G. W., Sasser, W. E. & Schlesinger, L. A. (1994). Putting the service profit chain to work. Harvard Business Review, 72(March─April), 164‒74. Heskett, J. L., Sasser, W. E. & Schlesinger, L. A., (1997). Service Profit Chain. New York: Simon and Schuster. Holland, John. L. (1976). Vocational preferences. In M. D. Dunnette, (Ed.). Handbook of Industrial and Organizational Psychology, 1,521‒570. Chicago: Rand McNally. Locke, E. A. (1976). The nature and causes of job satisfaction. Handbook of Industrial and Organizational Psychology, 1, 1297‒1343. Loveman, G. W. (1998). Employee satisfaction, customer loyalty, and financial performance: An empirical examination of the service profit chain in retail banking. Journal of Service Research, 1(1), 18‒31. Oliver, R. L. (1997). Satisfaction: A behavioral perspective on the consumer. New York: IrwinMcGraw-Hill. Silvestro, R. & Cross, S. (2000), Applying the service profit chain in a retail environment: Challenging the ‘satisfaction mirror’, International Journal of Service Industries Management, 11(3), 244‒268..
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