<研究論文>結婚移住女性を対象とした現地事前教育におけるジェンダーとライフコース: ベトナムにおける「結婚移民者のための韓国文化教室」から
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(2) ていきたい。 韓国政府は2006年に「多文化・多民族社会への移行」を宣言し,2007 年に「在韓外国人基本法」を,2008年には「多文化家族支援法」5)を制定 した。この支援法にもとづき,全国に「多文化家族支援センター」を配置 された。移住後の韓国語教育,韓国文化理解教育,生活情報の提供,就業 支援,子女の学習支援等 6)が行われ,韓国社会での生活を支援している。. 2011年には,在留資格として,「結婚移民(F-6)」が新設された。同年, 7) 韓国に移住した女性を対象とした教育プログラム「ハッピースタート」. が開始され,2011年7月1日以降に韓国に入国した女性結婚移民者(F-6ビ ザ)を対象として,基礎的な生活情報や結婚移民者向けの支援政策につい て情報提供されている。 2000年代から急激に増加した国際結婚の中でも,2003年以降,その7割 以上を韓国人男性と外国人女性が占めており8),さらに外国人女性の国籍 の内訳をみると,2011年にベトナム出身の女性が最も多くなった 9)。韓国 人男性の配偶者としてのベトナム人女性が急増し,2011年には全体の四 分の一を占めている10)。このように,韓国社会が女性結婚移民をどう包摂 するかを考えたとき,ベトナム女性の存在を抜きにして語ることは難しい と考える。よって本稿では,移住女性の中でも,ベトナム人女性に焦点を 当てる。 ベトナムでの女性結婚移民者に対する現地での事前教育についての先行 研究は,管見の限り,多くない。チャン・ミョンソン(2011)は「国際 結婚を希望している人」(p357)にも拡大する必要があると主張している。 事前講座では,国際結婚の手続きや韓国政府の結婚移住者に関する政策, 移住女性が被害にあった事例,相互理解を深めるために韓国文化と簡単な 言葉を学ぶことを提案している。また,ベトナムではクアン(2006)が, ベトナム人女性の身体と権利を守るために,国際結婚に関する法を整備す ることを提起している。その中で,国際結婚を希望している人に対して, 社会組織やカウンセリングセンターでの講習に参加しなければならないと いう規定をもうけるべきと主張している。具体的な方法等の記述はないも のの,女性団体や青年団,農民団体などの社会組織の事業を積極的に生か しながら,女性を保護することにも言及している。 50. 研究論文.
(3) しかしながら,いずれも内容の言及や体制づくりの提起はあるものの, ある種表面的ともいえるような,法律の「知識」や事例にとどまっている ように思われる。チャン(2011)が,「相互理解を深めるために韓国文化 と簡単な言葉を学ぶこと」に言及してはいるものの,結婚移民女性が韓国 でどのような課題を抱えているのか,そのために何をどのように学ぶべき か,についての具体的な点には触れられていない。本稿では,移民女性が 抱える課題を具体的に明らかにした上で,事前教育がどのようにアプロー チしているのかを明らかにするものである。 調査方法は,前述の韓越文化交流センターのセンター長(当時)のキ ム・ヨンシン氏,職員(当時)のパク・インソン氏との面談,参加してい るベトナム人女性22名へのアンケート調査である。センターでのフィー ルドワークは基本的に韓国語で行い,アンケート調査はベトナム語で行っ た。なお,役職名はすべて当時のものである。 本文では,第1章において,ベトナム人女性が,韓国でかかえやすい問 題を整理する。第2章では,ベトナムにおける事前教育と位置付けられて いる,ベトナム女性への文化教室を概観する。第3章では,第2章にもと づき,文化教室を実施している職員のかたりや資料を加えながら,韓国に 移住したベトナム女性が抱える課題に対し,どうアプローチしているか, について考察する。第4章では,それまでの議論をふまえ,移民女性のラ イフコースという視点から,さらに考察を深めたい。. 1.結婚移住女性として抱える課題の整理 ベトナム女性をはじめとする,結婚移住女性は韓国社会で生活するうえ で,どのような困難を感じているのだろうか。当然ながら個別の生活環境 や経験等によって,それぞれに異なるわけだが,ここでは多くの移住女性 が苦悩すると想定される主なものを整理したい。 まずは,韓国語の習得である。韓国忠清南道公州市の公州多文化家族支 援センターの職員の聞き取り調査 11)によると,基本的に多くの女性結婚 移民が韓国語学習に苦戦しているが,特に移住直後のベトナム人女性の韓 国語能力は,中国人女性と比較すると,挨拶程度しかできない場合がほと 結婚移住女性を対象とした現地事前教育におけるジェンダーとライフコース. 51.
(4) んどだという。また,ソウル市江南区多文化家族支援センターにおけるベ トナム女性へのインタビュー 12)では,移住前に韓国語を勉強してこなか ったため,家族とのコミュニケーションがとれず,誤解が生まれたことが あったということだった。 つぎに身近な人やメディアによる,移住女性に対する否定的な眼差しで ある。安(2008)はメディアにおける移住女性の表象の分析から,韓国 社会が結婚移住女性によせる「『経済的理由で韓国人と結婚した貧しい国 の女性』という差別的な視線」があることに言及している。また,キム・ テウォン(2012)は,ベトナム人女性が「外国人だから貧しい」,「金の ために来た」などの言動に苦しんだ経験のかたりを取り上げている。この 他にも,90年代に韓国人男性と中国人女性の偽装結婚が社会問題化した という「事実」 (イ・ヘギョン2005)の影響から,韓国への渡航や国籍取 得のための手段だと批判的にとらえられることもあるという。このように 結婚移住女性たちは,ステレオタイプ化された国際結婚のイメージに苦悩 している。つまり国際結婚そのものに猜疑的な目を向けられ,同時に結婚 移住女性としての立場を批判的に受け止められていたりするのである。 最後に,先行研究での指摘もふまえ,移住女性がジェンダー規範に基づ く「役割」を果たすことが期待されている点も付け加えたい。筆者が聞き 取り調査を行ったベトナム人女性は,韓国では「義母が言ったことにはす べてYESと言わなければならないから,それがストレス(になった)」と 「嫁」として「ふさわしい」ふるまいを期待されていることに 語った 13)。 苦悩していることがうかがえた。 本稿では,上記のベトナム人女性が結婚移民として抱える問題に対し, 文化教室ではどのような取り組みを行っているのかについて検討を加える。. 2.結婚移民者のための韓国文化教室 文化教室では,韓国人男性と結婚が決まり,ビザの申請が済んだベトナ ム人女性を対象に行っている。 目的は, 「韓国社会に円滑に適応するための準備をすること」 (センター 長談)で,特に移住初期の段階において,移住女性がかかえやすい問題へ 52. 研究論文.
(5) の支援が主なものである。アンケートの項目で,なぜこの講座に参加した かを問う質問には,「韓国にわたって戸惑わないために,基本的な知識を もっていたかったから」,「韓国にわたって戸惑わないために,私自身が勉 強し,多くのことを知りたかった」 , 「渡韓前に,韓国文化を本当に学びた かったし,より深く知りたかった」という回答があった。受講者である女 性たちも,センターと同様に,韓国にわたった直後の時期を重要だと意識 し,両者の目的は合致している。 事前講座は,7月と8月を除く,毎月1回開催されており,一回に20名前 後が参加する。 参加者は広く一般から募集し,先着順の受付となっている 14)。講座の期 間は,2週間程度で,期間中は宿舎に滞在することになっている。日曜日 を除く,月曜日から土曜日まで毎日行われ,朝8時30分から夜8時までの8 時間(昼食休憩の2時間と夕食の1時間を含む)があてられている。 開講日には,オリエンテーションと開講式が行われている。具体的な講 座名と時間数は以下の通りである。表にした順番は,2週間の決められた 時間割の中で,開始される順に沿っている。つまり,番号が若い科目から 取り組み始め,遅い番号は後半に行われるということである。また回数が 示すように,ほとんどの科目が一回のみではなく,数回にわたり継続して 行われている。 科目. 時間×回数. ① 韓国語. 2 時間×15 回. ② 韓国ベトナム関係史、韓国ベトナム史. 2 時間×2 回. ③ 韓国料理(実習). 1 時間 30 分×8 回 1 時間×1 回. ④ 子女教育(子育て). 2 時間×2 回. ⑤ 韓国の教育制度について. 2 時間×2 回. ⑥ 女性の健康について. 3 時間×2 回. ⑦ 韓国の地理. 2 時間. ⑧ 相談. 2 時間×6 回. ⑨ 韓国の礼儀(しきたり). 2 時間×2 回. ⑩ 事例発表. 2 時間. ⑪ 結婚における責任について. 2 時間. ⑫ 遺跡地探訪. 6 時間 30 分. ⑬ 韓国大使激励訪問. 1 時間. 表 1 「結婚移民者のための韓国文化教室」時間割構成 ( 「韓国文化教室」16 期講義時間割より作成). 結婚移住女性を対象とした現地事前教育におけるジェンダーとライフコース. 53.
(6) 科目,カリキュラム,時間割は,センター長と職員とが話し合いによっ て決めている。講師はすべて,ハノイに滞在している韓国人が行う(職業, 性別などは不明)。センターのベトナム人職員が通訳として,授業に参加 している。 終了日には修了式と送別会が開かれる。受講後に参加した女性たちには, 「韓国多文化家庭和睦指針書」,「和やかで幸福な多文化家族のために」 , 「ベトナム人と韓国人の生活習慣におけるいくつかの差異について―ベト ナム人と比較して―」の3部が配布される。これらは,韓国とベトナムの 文化理解に関する内容が書かれており,移住後に夫の家族に渡したり,自 分で読み返したりするためのものである。 講座内容をジェンダー視角からながめてみると,家事・育児に関する内 容,ベトナム人女性のアイデンティティに関わる内容,結婚生活を維持す るための内容,その他の4項目に分類できる。 まず最初に,移住女性の家事・育児に関する内容は,③「韓国料理(実 習) 」 ,④「子女教育(子育て)」,⑤「韓国の教育制度について」 ,⑥「女 「言語より大切なものは料理」 性の健康について」の4つである。③では, (センター長談)と位置づけ,韓国料理の調理方法や調味料の使い方を教 え,実習をまじえて実践している。④と⑤では,韓国の子育てがどのよう に行われているかということと,韓国の学制について紹介している。⑥で は,医師を招き,妊娠・出産について基礎知識を学ぶ内容となっている。 2番目に,移住女性のベトナム人としてのアイデンティティに関わる内 容として,②「韓国ベトナム関係史,韓国ベトナム史」,⑦「韓国の地理」, ⑫「遺跡地探訪」の3つを分類したい。②では,ベトナムと韓国の両国の 関係を歴史的にみる中で,女性たちがベトナム人としての自らのアイデン ティティを再認識することにつながっている。また⑫は,ハノイに留学し ているベトナム文化専攻の韓国人留学生とともに,ベトナムの文化遺産を めぐり,韓国語による説明を受ける時間となっている。 3番目に,結婚生活を維持するための内容は,⑧「相談」,⑨「韓国の 礼儀(しきたり)」,⑩「事例発表」,⑪「結婚の責任について」である。 ⑧では,結婚後の生活を想定し,韓国人の夫が病気にかかった場合や生活 するうえで困難な場面に陥ったときに,どのように対処するか,というこ 54. 研究論文.
(7) とを個別のカウンセリングをうけながら学ぶ。⑨では,韓国の伝統的な衣 服の着衣方法と祭礼の際の挨拶の方法を体験する。⑩では,韓国人男性と. 下線!!! の結婚し韓国に居住した経験をもつベトナム人女性が,韓国での生活につ いて発表する時間である。ベトナム語で語られる実体験を聞く機会となっ ており,特に質問が多く出る科目となっているそうだ。⑪については,結 婚生活に責任を持ち,生活を続けるために努力することが重要ということ を教えるそうだ。 4番目に,その他として,⑬「韓国大使激励訪問」があげられる。駐ベ トナム韓国大使が,センターを訪問し,文化教室に参加したベトナム人女 性たちと交流する時間となっている。 最後に,①「韓国語」を別枠に分類したい。4つの分類のどこかにあて はめるというよりも,内容理解を支える基礎的な部分だと考えるからだ。 期間中は毎日行われており,最も多くの時間が組まれている。韓国人講師 とセンターのベトナム人職員が講師を担当する。教材はセンターが独自に 作成したものを使用し,最も初歩的な内容からはじめている。. 3.移住女性が抱える課題へのアプローチ これまで,ベトナムで行われている女性結婚移民への現地事前教育の内 容について概観し,ジェンダー的視角から分類を行った。すなわち家事・ 育児に関する内容,ベトナム人女性のアイデンティティに関わる内容,結 「はじめに」 婚生活を維持するための内容,その他の4項目に分類した。 で述べたように,移住女性がかかえる主な課題には,韓国語習得の困難さ, 周囲の人々やメディアからよせられる否定的なまなざしへの苦悩,ジェン ダー規範に基づく「役割」を遂行しなければならない社会的圧力があると 考える。これらに対し,文化教室はどのようにアプローチしているのだろ うか。 まず,韓国語学習について,事前講座の中でも,韓国語にあてられてい る時間は最も多く,女性の韓国語習得への期待が込められている。韓国へ 移住した後でも,多文化家族支援センターなどの講座で学ぶことはできる が,ベトナムだけでなく様々な国から韓国へ移住した女性たちが学んでお. 結婚移住女性を対象とした現地事前教育におけるジェンダーとライフコース. 55.
(8) り,韓国語で授業をうけることになる。そのため,もしハングルの読み書 きなどの基本的な知識を持っていなかった場合は,十分に理解することが 難しいという。ベトナムで,韓国語の基本的な文法構造や文字をひとまず 学習しておけば,韓国語習得の負担を軽減できるだけでなく,韓国へ移住 した後も円滑に韓国語学習を継続させていくことができるだろう。 ただし一方で,センターが韓国語学習の動機付けとして,育児との関連 を強調する点を指摘したい。「韓国多文化家庭和睦指針書」には, 「韓国で は大部分の女性たちが家で子育てをし,子どもたちに言葉を教えています。 そのため,ベトナム人女性は何よりも,子どもたちが韓国語がよくできる ように,家で空いている時間に韓国語を一生懸命学んでください。そうし てはじめて,子どもたちが韓国語によくなじむことができます。」 (波線部 筆者)と書かれている。ここからは,ベトナム女性の韓国語習得が,育児 とのかかわりから重要視されていることが読み取れる。移住先の言語を学 ぶことは,移住社会での生活や就業のために必要なことは言うまでもない。 しかしながらその動機付けとして,子女の韓国語能力の育成があげられて いることを指摘したい。これは言い換えれば,「母」としての役割を果た すことが強調されすぎており,女性自身が韓国社会に適応し自ら生活を築 いていくという観点からではないともいえるのではないだろうか。 ここで科目内容の〈移住女性の家事・育児に関する内容〉をみてみると, 家庭内における再生産領域での労働がきわめて重視されていることがわか る。すなわち,移住前と直後には,女性には韓国人男性の「妻,配偶者」 という立場が与えられ,その役割を果たすことが期待されている。移住か ら時間が経過すると,次は育児をすることが前提とされている中で,韓国 で生まれ育つ子女の「母」としての役割も果たすように求められ続けてい る。キム・ジニ(2011)は,政策における結婚移住女性は,「良き嫁とし て,良き妻としての『韓国人』になることが他のどんな価値よりも優先さ れている」状況に置かれていることを指摘しているが,まさにこのことが 文化教室の内容にも反映されていると考える。 センターでは,移住後に女性が困難を感じる韓国語習得について,移住 前のベトナム語による指導によって学習の障壁を下げようとする取り組み により,アプローチを試みている。しかし,その一方で学習の動機付けに 56. 研究論文.
(9) 育児を強調している点には,韓国政府の政策の中で期待されている「結婚 移住女性像」を取り込んでいると考えられる。 つぎに否定的な偏見について,文化教室がどのようにアプローチしてい るのかをみていきたい。これについては,直接的な対処法を教えるやり方 でアプローチする内容はない。 しかしセンター長への聞き取り調査により,移住女性に向けられるであ ろうステレオタイプ化された眼差しを想定し,設置した科目があることが わかった。 その一つ目は,第1章において「移住女性のベトナム人としてのアイデ ンティティに関わる内容」と分類した⑫遺跡地探訪という科目である。ベ トナムの文化遺産をめぐり,ベトナムの文化を韓国語で説明できるように なることを目標としている。この科目を設定した目的として,ベトナム人 16) であることを自 が「すばらしい文化を持っている民族」(センター長). 覚してもらい,且つ少しでも韓国語で説明できるようになることで,韓国 人と「対等な関係を築ける」(同上)ようになるためということだった。 実際に移住した後,ベトナム人女性が周囲の人々から「外国人だから貧し い」や「金のために来た」という偏見に満ちた視線に苦しんだことを証言 している(キム・テウン2012)ように,周囲の人々によるある種差別的 な意識にもとづく言動からわかる通り,「対等な関係」とは言い難い。こ のようにベトナム人女性が,周囲からの否定的な眼差しに落ち込むことな く,自尊心を保ち続けるために,間接的にアプローチをしているととらえ られる。 二つ目として,「結婚生活を維持するための内容」に分類した,⑪結婚 の責任について,という科目があげられる。すべての科目の中で,センタ ー長が最もその「意義」を強調していた科目である。センター長によれば, 一部のベトナム人女性にとって,韓国人男性との結婚が「韓国に行くため だけの手段になっており,今より豊かな生活の達成」(同上)が目的とな っている現状があるため,結婚生活を維持していかなければならないとい うことを説明するためということだった。韓国で移住女性を支援している 他の多文化家族支援センターにおいても,「仁川空港に着いた途端空港で 行方をくらました女性や金だけ稼いで帰った女性もいる」17)という発言が 結婚移住女性を対象とした現地事前教育におけるジェンダーとライフコース. 57.
(10) みられ,結婚が韓国に行くための「手段」となっているという認識は,韓 国で移住女性を支援する団体においてもある程度共有されている可能性が あり, 「コリアンドリーム」という言葉には結婚移住女性への否定的な眼 差しが内在化されているように考えられる。韓国人男性との結婚を決めた 動機は多様(後述する)である18) が,結婚が韓国に行くための「手段」 ではないかという偏見に対して,内在化された眼差しを持ちながらも,女 性たちには結婚生活を維持していくことの重要性を説明することで,間接 的にアプローチを試みている科目ということができる。ここで,「コリア ンドリーム」という言葉はどのようにとらえるべきか,移住女性の視点か ら考察してみたい。 文化教室に参加しているベトナム人女性はどのように考えているのだろ うか。アンケートの中で,なぜ韓国人男性と結婚したのか,という質問の 回答には, 「韓国に住みたかったから」,「韓国人との結婚や発展している 韓国という国がいいと思うから」,「発展している国である韓国人と結婚し たかったから」という理由を書いている女性がおり,韓国に行きたい・住 みたいという強い思いから,結婚によって「コリアンドリーム」を実現し ようとする女性がいることは,今回のアンケートからでもうかがえる。し かし,このような動機を否定的にとらえるべきだろうか。さらに言えば, 韓国という国にしばられず,ベトナム以外の国で「生活を変えたかったか ら」やベトナムから「離れたかったから。新しい地・場所に住みたかっ た」など生活環境の刷新を望む理由等があった。まったく新しい生活への 欲求が,ヨー(2007)が指摘するような「伝統的な家父長制家族の束縛 からの解放を望む,家庭/故郷(home)からの逃避(fight)」であるとす れば,ベトナム社会では実現することができなかった可能性を,国際結婚 によって達成しようという前向きな姿としてもとらえることができる。 Suzuki(2002)の,女性が越境することで出身国のジェンダー枠組みを打 ち破り,移住先でエンパワメントの実現と自身のエージェンシーを作り直 しているという指摘によれば,上記のような動機によって主体性の表示や エンパワメントのきっかけとなるとも考えられるからである。ベトナムで は,社会主義的イデオロギーのもと,女性の社会進出が積極的に行われて きたとされる一方で,公的空間と家庭内での二重労働が求められるように 58. 研究論文.
(11) なっており(ブ1996),現在でも「ジェンダー不平等がほとんど手つかず のまま残されている」(クアット2012)状態であるという。このように既 存のジェンダー枠組みや親の「束縛」から逃れ,「まったく異なる見知ら ぬ世界で新しい人生のチャンス」 (ヨー 2007)をつかもうとする女性の選 択肢ともいえる。 また,「コリアンドリーム」がどのように作られたのかを考えると,構 造的な要因が浮かび上がる。伊藤(2008)が指摘しているように,90年 代以降の「国際移動の女性化」の背景には,越境をともなう移動が,個々 の人々が個別に行う意思決定レベルをはるかに超え,送り出し社会と受け 入れ社会の双方の政策や組織化された商業的斡旋というかたちで進行して いるとしている。特に韓国とベトナム間の国際結婚には,商業的斡旋を目 的とした結婚仲介業者の介入が報告されており(コ・ヒョンウン2005, ,調査のアンケートの「韓国人の夫とどの キム・ヒョンミ2006,金2009) ように知り合ったか」という項目では,22名中9名の女性が「結婚仲介業 者」と回答している19)。このことから「コリアンドリーム」は,まさに韓 国―ベトナム間をおおう組織的なネットワークと,商業的斡旋の枠の中で, つくられ強化されてきたということもできるのではないか。 以上のように,移住女性のライフコースや主体性という側面,また構造 的な側面から「コリアンドリーム」について考えると,否定的にとらえる というよりも,ある面では,むしろ移住女性の積極的な自己実現のきっか けともいえる。当然のことながら,結婚生活を維持しようとするとき,必 要なのは女性側の努力だけではなく,夫や夫の家族が言語や生活習慣の異 なる女性と,共同で生活する上で相互理解のための努力が求められている ことを付け加えたい。 最後に,ジェンダー規範に基づき再生産領域での労働が求められている 問題に対しては,どの分類においても,調査の限り,それを改善する方向 でのアプローチは行われていない。逆に,第1章で「移住女性の家事・育 児に関する内容」に分類した③韓国料理(実習),④子女教育(子育て), ⑥女性の健康についての3項目は,いずれも家事と育児を教える内容にな っており,前述のとおり,家庭における再生産領域での労働が極めて強く 期待されている。 結婚移住女性を対象とした現地事前教育におけるジェンダーとライフコース. 59.
(12) 4. 移住女性のライフコースの視点から これまで,韓国に移住したベトナム人女性の抱える3つの課題に,移住 前の事前教育がどのようにアプローチしているか,ということを考察して きた。韓国語の習得と否定的な偏見とに奮闘しなければならない課題につ いては,直接的あるいは間接的なアプローチにより,移住女性への支援が 試みられているといえる。 しかしながら,再生産領域での労働が求められているという問題に対し ては,結果としてそれをさらに強く要求するような内容になっていること がわかり,移住女性にとって有効なアプローチとなっているとは言い難い のではないか。 たしかに伊藤(2008)が,移動した女性たちが移動先で担う活動とは, 「家事,子育て,高齢者ケア,看護」などの人間の再生産領域にかかわる 分野に集中していることを指摘している。特に「国際結婚」のケースでは 「家族形成にも深くかかわって」いるとも言及しており,移住女性が再生 産領域の労働に当事者として,直接的に加わっているといえる。しかしな がら,多くの先行研究が指摘しているように(武田2011,ナ・ユンギョ ン2008,柳2013,李2012),自らの言語能力や以前の就労経験などの社会 的資源をいかし,移住先でも多くの女性が就労している20)。このような事 例から,女性結婚移民として韓国社会で生活していく中で,家庭における 再生産領域での労働だけではなく,就労を通した社会参加を実現している ことから,このような面においても,文化教室がアプローチする必要性は 高い。 実際にアンケートの回答をみると,韓国への移住を前にして,韓国社会 でどのように生きていくかという見通しを立て,就業を希望している女性 がいることがわかる。「韓国にわたって何をしたいか」という項目では, 「韓国語を勉強して上手になったら,働く」,「家で韓国語を真面目に勉強 して,よくなったときには働く」,「韓国語を勉強して,それから働く。た だ家の中にいたくない」,「韓国語を勉強して,韓国の風習に本当によく慣 れた後で,私のようなベトナム人花嫁とその多文化家族を助ける」という 回答があり,言語や習慣に慣れるといった社会的資源の獲得の後,将来的 60. 研究論文.
(13) に就業を希望する者,同じような移民女性へのサポートをしたいという意 欲をもつ女性がいるのである。 また,ソウル市江南多文化家族支援センターでの調査で筆者が出会った のは,センターの就業支援講座でネイルアートの技術を身に付けた,ベト ナム出身の移住女性であった。センター内の一角で,流暢な韓国語を話し ながらネイルアートの仕事をこなしていた。彼女は韓国に移住してから, 家族関係や言葉の壁にぶつかり,「生きるとは何だろうか」と自分に問い 続け,うつ病にかかってしまうほどまでに追いつめられたという。しかし 「センターに通って韓国語を勉強した。人との接点を持てるようになった ことで,活動的になって,本来の自分を取り戻」すことができた。さらに センターでの韓国語講座や就業支援 21)にエンパワーされ,ネイルアート の仕事を得ることができたという 22)。このように精神的に追いつめられな がらも,多文化家族支援センターという社会との接点をもつことで,言語 と技術という社会的資源を得ることが可能となった。移住先で言語を習得 しながら,家族を形成し,家族以外の他者とのつながりを持ち,社会的ネ ットワークを広げていった様子がわかる。そして就業支援プログラムを受 講 し, 社 会 参 加 を 通 じ て 自 身 の 存 在 意 義 を 再 認 識 し た 経 緯 は, 武 田 (2011)による「就労は彼女(移民女性たち)のアイデンティティの再構 築と深く関わっている」(( )内筆者)という指摘とも重なる。また,多 文化家族支援センターでの職員へのインタビュー 23)では,「子どもを育て ながら仕事をしている移民者の方が,義理の母親や配偶者と良好な関係を 築いていることが多い。家族で協力しながら育児や家事を行っている」様 子が見られると言及があった。この語りからは,就労によって,家庭内に おける家族との連帯の発生や移住女性の役割の獲得につながっていくこと が示唆されている。彼女たちの経験をもとにし,移住女性のライフコース の視点から考えると,移住先の社会で就労することは,自身のアイデンテ ィティの再構築につながるもの(武田2011)であるだけでなく,「世帯内 で の 地 位 向 上, 家 庭 外 で の 社 会 的 地 位 や ネ ッ ト ワ ー ク 」 の 獲 得( 柳. 2013)を通して,移住先に「居場所」を築いていくことを意味している 24)。 移住女性が家庭内での再生産領域の労働にとどまらず,自身の生き方を選 び取ることのできる環境が,移民女性のライフコースを考えるときに,不. 結婚移住女性を対象とした現地事前教育におけるジェンダーとライフコース. 61.
(14) 可欠と考える。 文化教室では「移住の初期段階を支援すること」が目的であるため,初 期段階に必要と想定される具体的な内容について取り上げている特徴があ る。しかし,就労が女性をエンパワーしている様子をみると,移住前の段 階で,今後の韓国での生活に見通しや希望が持てるようなサポートも求め られていると考える。そのためには,韓国への移住と生活が,女性のライ フコースの一部であり,彼女たちの生き方が移住後も様々に多様な展開を みせていくことを想定していくべきである。. おわりに 本稿では,韓国に移住したベトナム女性が抱える問題に対し,ベトナム で行われている事前教育「ベトナム女性のための韓国文化教室」がどのよ うにアプローチしているかを検討してきた。 韓国語習得に苦戦する問題に対しては,習得の障壁が低くなるよう,ベ トナム語で基礎的な理解をうながす取り組みを行い,直接的なアプローチ をとっていた。反面,韓国語習得が女性自身の適応というよりも,子育て のレベルで語られ教えられている点は,韓国社会のジェンダー規範がその まま反映されていた。またステレオタイプ化された周囲からの眼差しに対 しては,ベトナムの文化遺産に触れることによって,自身の歴史や文化に 誇りを持つことを教え,支援されている。また,韓国に行くためだけの 「手段」としての国際結婚ではないかという猜疑的な視線に対し,結婚生 活を維持していくことの重要性が説明されていたが,結果的にはそのよう な取り組みそのものに,否定的な眼差しが内在化していることを指摘した。 移住女性に再生産領域での労働が顕著に求められている問題について,文 化教室でも同じように,その役割を女性に求めていることがわかった。 文化教室はあくまでも移住初期の段階の想定により内容が構成されてい るが,第4章でも述べてきたように,移民女性のライフコースをとらえ, 長期的な視点を加えることで,さらに移住女性の抱える問題に寄り添った 内容とすることができると考える。移住前の段階から,言語習得や就業の 見通しを持つことができるようなプログラムが作られることで,より円滑 62. 研究論文.
(15) に移住先での生活を開始することができるだろう。 今後の課題としては,文化教室で使用されている教材の分析とともに, すでに韓国に移住した女性にインタビューを行い,文化教室への参加がど のような意味を持っていたのか,を探りたい。そして今後は韓国の結婚移 住女性の事例を通して,日本の結婚移住女性のライフコースについて,ジ ェンダー視角と教育という視点から,さらに研究を深めていきたい。. 参考文献・資料. (日本語論文) 五十嵐泰正,2010「序章『越境する労働』の見取り図」『労働再審②越境する労働と〈移 民〉』 ,大月書店,pp11-50 伊藤るり・足立眞理子,2008『国際移動と〈連鎖するジェンダー〉─再生産領域のグロ ーバル化』作品社 李善姫,2012「グローバル化時代の仲介型結婚移民―東北農村の結婚移民女性たちにお けるトランスナショナル・アイデンティティ」大西仁・吉原直樹監修『移動の時代 を生きる―人・権力・コミュニティ』東信堂,pp3-41 大野恵理,2013「女性結婚移民のジェンダー,家族,再生産―韓国『多文化社会』にお けるベトナム人女性結婚移民を通して―」横浜国立大学大学院都市イノベーション 学府修士論文 嘉本伊都子,2014「結婚移住女性と多文化共生─震災と離婚という視点から─」『現代社 会研究科論集』京都女子大学大学院現代社会研究科博士課程後期研究紀要(8)pp1-. 33 金賢美,2009(岡田仁子 訳) 「誰のための統合なのか―韓国における結婚移民女性政策 と家父長制的発想」ヒューライツ大阪(財団法人アジア・太平洋人権情報センター 『アジア・太平洋人権レビュー 2009 女性の人権の視点から見る国際結婚』現代人 文社,pp86-98 クアット・チュン・ホン,ブイ・ティ・フォン,リ・バック・ズン,2012(戸梶民夫 訳) 「公的労働と家事労働をうまくこなすためには,三つの頭と六本の手が必要であ る─ベトナム『現代』女性のジレンマ」落合恵美子・赤枝香奈子編『アジア女性と 親密性の労働』京都大学出版会,pp175-196 工藤正子,2010「移民女性の就労にみるエスニシティとジェンダーの交差─在英パキス タン人ムスリム女性の事例から─」『青山学院女子短期大学総合文化研究所年報』, 第17巻,pp191-204 白井京,2008「韓国の多文化家族支援法―外国人統合政策の一環として」国立国会図書 館調査及び立法考査局『外国の立法』238,国立国会図書館,pp153-161 宋. 營,2010「韓国における国際結婚女性移住者に対する多文化政策の運営実態―自治 体の多文化家族支援センターの事業執行の事例からみる問題点―」『政策科学』17-2, pp97-111. 武田里子,2011『ムラの国際結婚再考―結婚移住女性と農村の社会変容』めこん 中川祐治・永島恭子,2014「地域の外国人住民に対する日本語支援のあり方―ある結婚. 結婚移住女性を対象とした現地事前教育におけるジェンダーとライフコース. 63.
(16) 移住女性の事例を手がかりに―」『福島大学地域創造』第25巻第2号,pp3-20 中嶋和夫監修,尹靖水・近藤理恵編著,2013『グローバル時代における結婚移住女性と その家族の国際比較研究』学術出版会 朴賢淑・坪田光平,2011「国際結婚家庭における家族支援の意義と課題―韓国の訪問教 育を事例にして―」 『東北大学大学院教育学研究科研究年報』第60集,第1号, pp477-495 朴賢淑,2012「結婚移民女性と就労支援─韓国の事例から─」『日本の社会教育─労働の 場のエンパワメント』日本社会教育学会,pp142-153 ブ・ティ・ミン・チィ,1996「変わるベトナム,変わる女性」関啓子・本木喜美子『ジ ェンダーから世界を読む』明石書店,pp204-230 ブレンダ・ヨー,2007(小ヶ谷千穂訳) 「女性化された移動と接続する場所─『家族』 『国家』 『市民社会』と交渉するトランスナショナルな移住女性」伊豫谷登士翁『移 動から場所を問う─現代移民研究の課題』有信堂,pp149-170 柳蓮淑,2013『韓国人女性の国際移動とジェンダー─グローバル化時代を生き抜く戦略』, 明石書店 (韓国語論文) キム・イソン他,2007『多文化・多民族社会への移行のための政策パラダイム構築(1) : 韓国社会の収容現実と政策課題』 ,韓国女性政策研究院 キム・ジニ,2011「国際結婚移住女性と移住女性労働者の教育参加現実と平生教育の方 向性模索」 『平生教育学研究journal of lifelong education 』vol.17, No.1, pp25-51 キム・テウン,2012『結婚移住女性の暮らしと適応』景仁文化社,p15 キム・ヒョンミ,2006「国際結婚の全地球的ジェンダー政治学―韓国人男性とベトナム 人女性の事例を中心に―」『経済と社会』通巻第70号,pp10-37 コ・ヒョンウン,2005『国際結婚仲介システム:ベトナム,フィリピン 現地実態調 査』大統領諮問貧富格差/差別是正委員会 チャン・ミョンソン,2011「韓国多文化家族に関連する法制度の考察」梨花女子大学ア ジアアカデミーセンター『移住とジェンダー』,ハンウルアカデミー,pp324-376 イ・ヘギョン,2005「婚姻移住と婚姻移住家庭の問題と対応」『韓国人口学』第28巻第1 号,pp73-106 (ベトナム語論文) ディン・ヴァン・クアン,2006「外国人と結婚するベトナム人女性の実態,解答と解決 案」 『人口と開発』第6号,63巻 (英語論文) Suzuki.N., 2002. “Gendered surveillance and sexual violence in Filipina pre-migration experiences to Japan”, Yeoh, Teo and Huang eds., Gender Politics in the Asian-Pacific Region. Routledge: 99-119 参考法令. 多文化家族支援法 国家法令情報センター 国籍法 国家法令情報センター. 64. 研究論文.
(17) 註. 1.. 本稿は,横浜国立大学都市イノベーション学府修士論文として提出した「女性結婚 移民のジェンダー,家族,再生産―韓国『多文化社会』におけるベトナム人女性結 婚移民を通して―」の一部を下敷きに,大幅に加筆したものである。. 2.. 本稿における「結婚移住女性」とは,国際結婚を契機とし,国境を超える移動を経 験する女性を意味する。これまで日本では,このような女性たちは「農村花嫁」や 「外国人花嫁」などと呼ばれることが多く(李2012),韓国においては,90年代半ば 以降に「結婚移民者」と呼ばれるようになり(キム・イソン他 2007),2007年に 制定された「在韓外国人基本法」の第2条第3号において,「結婚移民者」とは「大韓 民国の国民と婚姻を結んだことがある,または婚姻関係にある在韓外国人」と法的 にも定義された。李(2012)が指摘するように,「花嫁」という言葉には「日本人の 配偶者」である女性という意味合いが含まれており,彼女たち自身ではなく,常に 誰かによって語られ規定される存在となってしまう。本稿では上記の指摘に賛同す る。しかし,日本では「移民」という在留資格はまだないこと,また日本語で書か れた韓国の結婚移民女性に関する論文において「結婚移住女性」が多く用いられて いることから,本稿でも結婚移住女性あるいは移住女性という言葉を用いることと する。. 3.. 本稿では韓国人男性とベトナム人女性の結婚を,「国際結婚」という用語を用いるこ ととする。日本と同様,韓国の多くの研究論文でも「国際結婚(국제결혼)」という 用語が用いられており,字義どおり, 「国家」や「国籍(nationality)」の違いが前提 となっている。加えて,結婚をきっかけとして越境する行為を分析の対象とすえて いることから,この用語を用いる。. 4.. ソウルに本部をもつNPO団体で,2010年には外交通商部所管の社団法人に認定され ている。1995年より無料の韓国語教室の開設から事業を開始しており,現在は多文 化家族支援事業を主な事業としている。その中には,移民女性への現地事前教育の 場として「結婚移民者のための韓国文化教室」,ベトナムに住む韓国人とベトナム人 の国際結婚家庭を対象とした「ベトナム在住韓越多文化家庭支援」,「韓越夢の木教 室」等を主な事業として展開されている。また,2007年には「韓越多文化家族研究 所」を設立し,国際セミナーの開催や研究論文を発表するなどしている。韓越文化 交流センター ウェブサイト http://www.koviculture.net/(最終アクセス2014年11月). 5. 「多文化家族」とは,多文化家族支援法第2条で,「出生時からの大韓民国国籍者また は帰化許可を受けたものと結婚した外国人配偶者,およびその間に生まれた子ども により構成された家族」 (白井 2008)であったが,2011年4月の改正によって,出 生時から大韓民国国籍者に加えて,認知または帰化許可を受けた外国人と結婚移民 者の家族と認知または帰化許可を受けた外国人同士の家族も含まれるようになり, 「多文化家族」の範囲が拡大した(「多文化家族支援法」及び「国籍法」)。同時に, 家族の構成員に「子ども」のいない家族も「多文化家族」として定義されている点 が注目される。朴・坪田(2011)によれば,これにより支援対象が,留学生の家族, 外国人労働者家族,脱北者家族に広がっている。 6.. 多文化家族支援センター . 7.. 参加した女性は,初めて滞在を延長する時に,通常は1年延長のところを2年延長で きる。法務部社会統合情報ネット. http://www.liveinkorea.kr/kr/contents/contents_view.asp?idx=8(最終アクセス2014年9月). http://www.socinet.go.kr/soci/main/main.jsp?MENU_TYPE=S_TOP_SY(最終アクセス2014 年9月). 8.. 統計庁「人口動態年報(婚姻,離婚編)」各年度,2010. 9.. 統計庁「人口動態年報(婚姻,離婚編)」各年度,2010及びKOSIS社会統計局人口動. 結婚移住女性を対象とした現地事前教育におけるジェンダーとライフコース. 65.
(18) 向課「韓国人の夫の婚姻種類/外国人の妻の国籍別婚姻(婚姻)」2006年∼ 2010年. 10. 韓国統計庁統計及び出入国外国人政策本部年次報告書,2011 11. 公州市多文化家族支援センター職員への聞き取り調査より。2011年9月公州市多文 化家族支援センター(於 公州市)にて実施。公州市は,韓国忠清南道中央部に位 置している。センターでは韓国語教育事業,多文化社会理解教育,就・創業職業支 援,多文化家族子女支援プロジェクト等を実施している。(『希望のノック』第2号, 2010年) 12. ソウル市江南区多文化家族支援センターで働くベトナム人女性結婚移民者Qさんへ の聞き取りより。2011年12月ソウル市江南区多文化家族支援センター(於 ソウル 市)にて実施。ソウル市の江南区にあり,2006年に設立された。韓国語教育事業, 多文化社会理解教育事業,韓国社会適応教育,就業支援,多文化家族合同結婚式,2 泊3日の合同新婚旅行等を実施している。 13. 脚注12参照 14. 広く一般に門戸を開いているものの,大きく募集活動をしているわけではない。そ れでも希望者は多く,抽選になることもあるという。参加した女性は,以前参加し た知り合いや韓国文化センター(韓国大使館附属施設)の紹介による申し込みが多 い。 (2012年8月韓越文化交流センターでの聞き取り調査より) 15. 2012年8月訪問時に入手したものである。表は,時間割を講座名とコマ数,時間に わけ,構成し直したものである。 16. 韓越文化交流センター長への聞き取り調査より。2012年8月韓越文化交流センター (於 ハノイ)にて実施。 17. 公州市多文化家族支援センター職員への聞き取り調査より。2011年9月公州市多文 化家族支援センター(於 公州市)にて実施。 18. 今回の調査では,本文にあげた以外の理由として「彼と会ったとき,彼はいい人だ と感じた。お互いに愛し合っている」や「運命。縁があったから」などロマンティ ックラブイデオロギーに基づく理由や,複合的な理由の記述もあり,その理由は決 して単純なものではないことも明らかになっている。(大野2013) 19. その他の内訳は「家族/親類の紹介」が1名,「知り合い/友人の紹介」が11名,「そ 「知り合い/友人の紹介」と答えた女性の中には,「家族 の他」が1名となっている。 の中で韓国人と結婚している人が多いから,韓国に渡りたかった」や「故郷では, 多くの人が韓国人と結婚している」という理由で結婚したことを明かしている。韓 国−ベトナム間の国際結婚ネットワークは商業的斡旋だけではなく,人的ネットワ ークの広がりによっても,拡大してきたという一端が垣間見える。 20. ただし,すべての女性が社会的資源を活かした職業についているわけではない。出 身国では高い学歴とある業界で豊富な経験を有していても,移住先では言語習得や 経済資源の不足により,その経験を活かせず,工場での軽作業や派遣労働で働いて いる事例も報告されている。(柳2013,中川・永島2014) 21. 韓国の女性家族部や雇用労働部などでは,女性結婚移民を対象とした就業支援(イン ターンシップや職業訓練)を行っており,その範囲は再生産領域の労働に限られてい ない。また,各地に設置されている多文化家族支援センターでは独自の就業支援も行 われている。各地の特徴的な産業などを取り入れながら,韓国の企業文化の紹介や基 本的なビジネスマナー,コンピューター教育,ネイルアート技術などを学ぶことがで きるように制度が整備されている。ただし,実際にどのような分野で就労が行われて いるかについては,さらなる調査が必要である。多文化家族支援ポータル タヌリ 就 業支援ページhttp://liveinkorea.kr/global/contents/contents_view.asp?idx=128&lng=jp(最終アク セス2014年10月). 66. 研究論文.
(19) 22. 多文化家族支援センターのオープンカフェスペースが彼女の職場であった。ネイル アートの仕事で月に80万ウォン∼ 140万ウォンの収入を得ている。子どもが独立し たあとには,化粧品やネイルアートの店を開き,慈善事業にも取り組みたいと,今 後の展望を語ってくれた(2012年12月当時)。(大野2013) 23. 2011年9月に実施した公州多文化家族支援センターにおける職員への聞き取り調査 より。(大野2013) 24. 韓国の結婚移住女性の就労については,職業訓練センターに通ったとしても,現実 的には就職が難しい状況があるという(朴2012)。結婚移住女性の移住先での就労に ついては,言語的障壁,移住先の労働市場の編成,社会的階層構造などの構造的な 障壁,出身国・民族のジェンダー規範(五十嵐2010,工藤2010)などによって,厳 しい制約を受けることが明らかになっている。このことから,結婚移住女性にとっ て,就労することがすなわちエンパワメントにつながるという安易な図式でとらえ ることなく,様々な要因に複合的にアプローチしていく必要があるだろう。. (都市イノベーション学府博士後期課程・都市イノベーション専攻). 結婚移住女性を対象とした現地事前教育におけるジェンダーとライフコース. 67.
(20) Gender and Life Course Perspectives in the Pre-Education School for Marriage Migrant :Focusing on “Korean cultural school for Vietnamese marriage migrant” in Vietnam.. Ono Eri. From the middle of the 2000s, the number of international marriage. has been dramatically increasing in South Korea. Among them, Vietnamese women and South-Korean men couples are the second largest group in 2011.This paper focuses on “Korean cultural school for Vietnamese marriage migrant”, (hereafter; the school) preliminary short-term education held by a NPO in Vietnam for Vietnamese marriage migrant those who just married to South-Korean men and got entry visa to South Korea. This is a subject that has received little scholarly attention. The purpose of this study is to investigate how the school approaches to the problems that Vietnamese marriage migrant struggle after moving to South Korea. Analysis of an interview to the NPO staffs and questionnaire to participant women were performed from the perspective of gender and education; these revealed three findings. First, Korean language acquisition are attached much value in this school in the context of child rearing, not in the women’s own adaptation in new life. Second, some subjects are taught in order to keep individual identity as Vietnamese and to understand the importance of maintaining married life. The purpose is that overcome the stereotyped international marriage (migrant) images in South Korea. Third, reproduction labor such as housework and child rearing are strongly emphasized, consequently that is very linked to Korean gender norm. On the basis of these three findings, this paper made an assertion that is the possibility of this school in terms with the concept of migrant women’s Life Course so that they can have long-range perspective on their own in their future in South Korea. It includes building up their vocational career.. 68. 研究論文.
(21)
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