1970 年代の初めヨーロッパで 「リカレント教 育」 の時代の到来が言われたことがある。 人々の 人生が, 順次やってくる C (子供期) ・E (教育期) ・W (仕事期) ・R (引退期) の 4 つの時期から, 継時的になりたっていた時代は終わった。 これか らは E と W, さらには R の間を人々が自由に行 き来する時代が来るというのが, リカレント教育 の基本にある考え方である。 それは学校を出たら すぐに就職し, 定年まで (ひとつの仕事・ひとつ の会社で) 勤め上げるのが当然視されていた当時 の日本では, きわめて新鮮な, まさに 「目からウ ロコ的」 な考え方であった。 生涯学習論議のなか で, 早速に受け売りしたのだが, たいした反応は なかった。 その日本でも, いまや構造化された人 生の時代は終わり, 離・転職が大学卒の場合にも 常態化し, 学校や大学に戻って再度新しい知識や スキルを身につけることも珍しくなくなった。 そ れがいかに先見的な考え方であったかがわかる。 こうした変化は, E にあたる学校教育の在り方, さらには E と W の関係の問い直しを求めずには おかない。 問い直されるべき問題のもっとも重要 なひとつは, 「高等普通教育」 と 「職業教育」 の 在り方であろう。 学校教育法の規定によれば, こ の 2 つはこれまで高等学校の役割とされてきた。 しかしいまや, 高校の教育は 「高等」 どころか, ただの 「普通教育」 になってしまった。 職業高校 の卒業者の進路を見ても, 進学者が増える一方で あり, 職業教育自体が 「普通教育」 化しているこ とがわかる。 高等学校の役割とされてきた高等普 通教育や職業教育の場は, いまや実質的に, 大学・ 短大・専門学校へと移ってしまった。 大学は, これまで教養教育と専門教育, それに 専門職業教育の場とされてきた。 その大学で, 最 近はインターンシップ制の導入やキャリア教育, 職業教育の重要性が言われている。 学部では専門 基礎教育を重視すべきで, 専門職業教育は大学院 に委ねるべきだという主張も力を増している。 最 近のビジネス系の 「専門職大学院」 ブームは, そ の具体的な表れのひとつと見てよい。 さらに言え ば, 教養教育自体, ある世代に特有の旧制高校的 な教養教育へのノスタルジーとかかわりなく, そ の実質は, 基礎的な学力の保証から新しい 3 R's とも言うべき英語力や情報処理能力まで, まさに 「高等普通教育」 化せざるをえなくなっている。 学校教育法の規定とかかわりなく, 大学は学問の 府である以前に, まずは高等普通教育と職業教育 の場にならざるをえなくなったのである。 最近出された中央教育審議会の答申 「我が国の 高等教育の将来像」 も, これからの大学の学部教 育は, 主として 「幅広い職業人養成」 と 「総合的 教養教育」 の 2 つの役割を担うことになるだろう としている。 まさに, 高等普通教育と職業教育で ある。 実際にも, 多くの大学が, その 2 つを学部 教育の目的とする方向に動き始めている。 ただ, それが, どこまで実際のカリキュラム編成や, 日 常的な教育の課程に組み込まれ, 直接学生の教育 や指導に当たる教員の意識に浸透しているかとな ると, 話は別である。 否応なく 「リカレント」 化 していく仕事と教育の世界を, たくましく生き抜 いていくのに必要な, 基礎的な能力, 知識や技術 をどう若い世代に与えていくのか。 根本的な議論 のないまま, 職業教育や 「教養」 教育の重要性だ けが声高に叫ばれ, 対症療法的な改革の試みがさ れているというのが, どうやらいまの大学の現実 だからである。 アメリカのある研究者によれば, アメリカの大 学の学部教育の目的は, コミュニケーション, ク リティカル・シンキング, コンティニュアス・ラー ニング, クリエティビティの, 4 つの C を, 能 力として身につけさせることにあるという。 変化 し, 流動化する労働市場に出ていく新規学卒者に, どのような能力を付与すべきなのか。 教える側の 学問の論理もさることながら, 学ぶものの人生の 必要を考慮にいれた, 新しい教育の在り方を本格 的に検討すべき時がきている。 (あまの・いくお 独立行政法人 国立大学財務・経営センター研究部長) 1
リカレント化する社会の高等教育は(PDF:113KB)
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