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在宅緩和薬物治療中の注射剤に沈澱を生じた症例

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Academic year: 2021

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サマリー

【患者】 49 歳男性  【家族背景】 中学生の娘との 2 人暮らし. 両親は健在,しばらく母が付きそう. 離婚した妻とは連絡は取っているが介護はしてくれ ない. 娘と母の関係が悪く,母は夜中まで患者宅にいられ ない. 【診断】 膵尾部癌:腹膜播種,胃浸潤,腹腔神経叢浸潤 【病歴】 2020 年 7 月腹痛出現,8 月上記診断,化学療法効果な く BSC(best supportive care)の方針.

【入院中 / 退院時の状況】 〇告知 初診時に月単位の予後は告知されている.娘も知っ ている. 初診時の本人の病状認識は悪そう. 〇現症 疼痛も強いが一番つらいのはお腹の張り. 8 月末には腹腔神経叢ブロックを行っている. 〇使用薬(入院時―退院時) 10 月に嘔気食欲不振で入院してからオピオイドは一 貫してオキシコドンを使用. オキシコドン錠 300 mg / 日からオキシコドン注 240 mg / 日にスイッチ. デカドロン注追加で嘔気は改善. そのままオキシコドン注で退院予定であったが,前 日になり本人が内服でのコントロールを希望し,オ キシコドン錠 360 mg / 日に変更となった. セレコキシブ錠,アセトアミノフェン錠も処方. レスキューは,オキシコドン散は量が多くて飲めな いとのことで,内服で徐放剤のオキシコドン錠 40 mg を処方. 更にロキソプロフェン錠を 1 日 3 回まで頓服となっ ている. 制吐剤はデカドロン錠 2 mg. 入院中,不眠対策はハロペリドール注+フルニトラ ゼパム注を眠前に静注されていたが,退院時にはオ ランザピン錠,クエチアピン錠が処方されている. 〇生活 まだ普通に歩ける.介護が必要な状況ではない. 食事は,食べられたり食べられなかったりする. 飲水は 500 mL/ 日ほど. 便通は,退院前に浣腸したがあまり出なかった. 腹水は,ドレナージしたことはない. 〇問題点と方針 外来受診は終了.本人は絶対に入院はしたくないと 言うが,有事の際は受診する. 苦痛なく残された時間を自宅で過ごしたい. 問題は介護力.娘は日本語が流暢ではなく,本人の 介護看護に関わるのは無理そう. 頼れるのは母親だが,娘は母親との関係が悪い.

退院からお看取りまで

【往診医初診 1 日目】 疼痛よりも嘔気の苦痛が強い状況. 嘔気に対してはハロペリドール注 1A 筋注が効果あ り. 飲水はなるべくしないように指導されているが,自 由に炭酸水を飲んだりしている様子. 〇処方(自宅の近くの薬局を利用) オキシコドン NX 錠 20 mg 疼痛時 14 回分 サン薬局在宅療養支援部 *〒 233-0012 横浜市港南区上永谷 2 丁目 11-1 いずみプラザ TEL: 045-353-9814 E-mail: [email protected] 本論文は,クリエイティブ・コモンズ CC-BY-NC-ND(表示-営利利 用不可-改変禁止)の条件下で利用できる.©2021 日本在宅薬学会

奈良 健

在宅緩和薬物治療中の注射剤に沈澱を生じた症例

事例プラザ

在宅薬学 2021;8:36–39 在宅薬学 J-STAGE 早期公開 2021 年 2 月 10 日 doi: 10.32228/jjcmps.2021.5004

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奈良:在宅緩和薬物治療中の注射剤に沈澱を生じた症例 37 【往診医診察 退院後 3 日目】 入院中より排便がない(5 日目). 昨晩,下剤を使用したが,腹部が張っていて苦し く,食事も水分もとれていない. 下剤の処方を希望. 一昨日の夜にうどんわずかなど,食事はごくわずか. 入院中より食べていない. レスキューは,オキシコドン NX 錠 20 mg 定時内服 とロキソプロフェン錠を服用していた.一応効く. お腹が張っていて仰臥位になれない.お腹も苦しく て息苦しくもなる. 腹部は膨隆著明,bs サイレント,鼓音なし. むくみなし. エコー:腹水多量,腸管は固まっている感じ,ガスは ほぼない. 腹腔穿刺施行 今後はオキシコドン NX 錠 20 mg をレスキューとし て 2 錠内服. 1 時間空ければ追加可能と説明.ロキソプロフェン錠 は必要に応じて内服. 本人,母に対して「最後はどこで過ごしたいか?」と問 いかけ. 「考えたことなかったなあ,できれば自宅かなあ」と本 人.現実感はない様子. 【往診医診察 退院後 4 日目】 ドレナージ後,少し楽になったが食事は取れていな い. 【往診医診察 退院後 7 日目】 昨日から嘔気強い. オキシコドン NX 錠 20 mg は昨日 2 回しか服用でき ず. 今日はまだ 1 回のみ服用,痛みは取れるが腹満は楽 にならない. 今日の昼久しぶりに食事が取れた.天ぷらそば 1/3 く らい. 食後は張りが強くなった.嘔気は軽度. 先週ドレナージは 1 L だったが楽にはなった.今週木 曜に再度ドレナージ希望あり. 嘔気に対しては頓用でオランザピン錠,便秘にナル デメジン錠が処方追加. 明日訪看入り,浣腸予定. 〇処方(自宅の近くの薬局を利用) オランザピン OD 錠 2.5 mg 1 日 1 回就寝前 ナルデメジン 0.2 mg 1 日 1 回朝食後 ドンペリドン OD 錠 10 mg 嘔気時 10 回分 オキシコドン NX 錠 20 mg 1 日 3 回毎食後 【往診医診察 退院後 10 日目】 かなり調子悪そう. 嘔気あり,食事とれていないが水分 1 L は飲んでい る. 尿もまずまず出ている. 腹部は膨隆著明,bs サイレント. 腹腔穿刺施行. 今後のペインコントロールについて相談. 現状維持,オキシコドンを貼付剤・持続皮下注射へス イッチなど. 持続注が望ましいが,本人は入院中の持続注が嫌 だったようで,まずは貼付剤希望. フェンタニル貼付導入開始(12 mg から). 本日昼と夜のオキシコドンは服用してもらい,明日 午前からスタート.他の内服薬はスキップ可と伝え られる. 「予後は 1 カ月ない,もっと早いかもしれない,水が 飲めなくなったら早い」と母親に IC あり. 〇処方 フェンタニルテープ 6 mg 1 日 1 回貼付.1 回に 12 mg を体幹に貼付. 薬剤師訪問 退院後 11 日目 当薬局初介入 S/O) 定時内服薬気持ち悪くて今朝から定時オキシコドン 錠含めて全く内服できていない. 痛みもあるが,一番つらいのは悪心.嘔気頻繁. A/P) 到着時にフェンタニル 12 mg 貼付開始.母親と一緒 に貼付練習. 明日以降毎日 11 時に母が貼り替え予定(11/5 貼り替 え分まで自宅在庫) ドンペリドン坐薬 60 mg,母親に坐薬の使い方を説明 しながら挿肛した(残 3 個). モルヒネ坐薬 10 mg 残 5 個 オランザピン OD 錠 2.5 mg 残 12 錠

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在宅薬学 2021 Vol. 8 No. 1 38 以 前 処 方 さ れ た 内 服 薬, 自 宅 在 庫 あ る が, レ ス キュー薬や制吐薬含めて内服困難な様子. 週末も控えているので,午後に医師の往診を希望(主 治医に連絡). 【往診医診察 退院後 11 日目】 「今朝から嘔気強く内服できておらず調子悪い」午前中 訪問した訪問薬剤師から報告あり,往診要請あった ため往診. 今朝から嘔気強く内服できておらず調子悪い. 昨日往診時に腹水 2.5 L 抜いて,お腹は多少楽には なったが嘔気は改善していない. 薬剤師が訪問時にドンペリドン坐薬入れてくれたが 効果乏しい. 昨日は注射拒否された.今日は辛くて,何でもいい ので楽にしてほしいという希望あるが,持続皮下注 射に関する抵抗感は依然としてある様子. 入院だけは拒否される. この場ではハロペリドール 1A 筋肉注射,皮下注射開 始となる. 〇処方 皮下注射スタート ただし,投与ルートはできるだけ少なくして欲しい という本人の希望(入院中の持続注射に対する抵抗感 が関係していると思われる)と家族の介護力があまり 期待できないことなどから,ハロペリドール注をク リニックから預かり,当薬局においてヒドロモル ファン注と混注(医師と協議のうえ,酸性度等を参考 に混合可と判断した). フェンタニルテープ 12 mg からの切り替え. 〇処方 ヒドロモルフォン 14.4 mg/ 日 + ハロペリドール 20 mg/ 日 流速:0.3 mL/hr で医師に処方提案 総量:ヒドロモルフォン 200 mg+ ハロペリドール 275 mg/100 mL 薬剤師訪問 退院後 11 日目(同日訪問) 医師と同行,皮下注射スタート手伝い(患者体位確保  ルート固定など). CADD − PCA 開始 1 PCA 1 回,本人に押してもらい,自分でレスキュー スイッチ押せることを確認. トイレに行く際は肩からポンプ掛けてもらう.午前 中にドンペリドン坐剤使用後からは坐薬の使用はな く,医師に打ってもらったハロペリドールのおかげ か少し眠れたとのこと. フェンタニルテープ 6 mg 1 回 2 枚(12 mg/ 日)  11:00 交換 モルヒネ坐剤 10 mg 残 3 + 10 個 ドンペリドン坐剤 60 mg 残 3 + 10 個 ジアゼパム坐剤 6 mg  残 2 + 10 個 アルカリ単 3 乾電池の用意を母親にお願い(1 週間ご とに交換). アラーム音等異常が出たら主治医または薬局に連絡 していただくように説明. (本来ファーストコール対応の訪問看護師がこのポン プの取り扱いに慣れていないため) 【往診医診察 退院後 13 日目(未明)】 訪問看護より閉塞アラームが鳴ってしまう.ルート 差し替えてみても解決せず. 3:20 往診 まだ訪問看護師在室,ベッド臥位. 意識やや眠そう,腹部膨満著明. 結局ルート差し替えても閉塞アラームがすぐに鳴っ てしまう. 確認すると,チューブにはところどころ結晶成分の ような白いものが見える. 試しにエクステンションチューブに交換してみても やはりプライミングできない.大元部分から結晶化 で詰まってしまっている模様. 現在嘔気再発症とのことで,ハロペリドール 1 A i.m. 暫くすると傾眠で辛そうではなくなる. 現行のカセットは一旦抜針. 薬局に緊急コールし協議. 結晶化の問題を解決するため,患者さんの承諾を得 て 2 ルートとすることにした. 薬剤師訪問 退院後 13 日目(未明) 5:00 無菌室入室 CADD ポンプ 50 mL ヒドロモルフォン 20 mg/2 mL 6A 生食 50 mL 1 瓶(実質 38 mL) DIB ポンプ 100 mL ハロペリドール 5 mg/mL 32A

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奈良:在宅緩和薬物治療中の注射剤に沈澱を生じた症例 39 生食 100 mL 1 瓶(実質 68 mL) にて緊急調製(注射混注確認票 麻薬金庫から出庫ア ンプル確認は担当薬剤師に写真で確認してもらった). 調製後,医師に同行して,ダブルルートで皮下注射 開始. その後,嘔気疼痛安定. 【往診医診察 退院後 14 日目】 呼吸停止にて家族からコールあり. 死亡確認. 薬剤師訪問 退院後 15 日目 モルヒネ注射液等医療用麻薬回収 ご霊前に合掌し,母親と娘さんと一緒に,生前の話 や自宅療養時の苦労など聞かせていただいた.

考察

 ハロペリドール注射液はブドウ糖や乳酸に溶解してい るが,生理食塩水と混和すると 24 時間以内に結晶が析 出する1)  これは,ヒドロモルフォンが溶解している生食中の水 がこれらのブドウ糖や乳酸に水和して電離しにくくな り,酸性状態を保つのが難しくなったために pH が少し 塩基性側にずれ,それによって Henderson-Hasselbalch の式で表現されるように分子型の比率が高くなり,溶解 度が下がって析出しやすくなったと考えられる.  結果として,ハロペリドールが生理食塩水によって沈 澱したと考えられる.  退院後,BSC 方針で自宅看取りを目指す患者だから こそ,そのニーズは個々の患者によって細かく異なるし 希望も強いものになる.また,療養の舞台である居室の 構造から家族関連に至るまでも患者によって千差万別で ある.また,治療に専念する場であり医療資源も豊かな 院内ではなく,生活の場を療養の場とすることによっ て,薬物療法の指針は大きく左右される.  そんな中においても,薬剤師が他職種と連携して最新 の情報を収集,薬学的能力を使って総合的に判断した薬 物治療戦略を医師に提案することは,家庭における薬物 治療の質を向上させ,特に退院後の地域医療にとって重 要である. 参考文献 1) 加藤恭郎,久須美房子,大林 準,ヒドロモルフォン塩酸 塩とハロペリドールの持続皮下注時の皮下硬結についての 検討,Pelliat Care Res, 2020, 15, 129–134.

参照

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