腹腔鏡補助下胃切除術における
3D-CT による術前評価の有用性
竹 吉
泉, 吉 成 大 介, 戸 塚
統
戸 谷 裕 之, 小 川 博 臣, 平 井 圭太郎
高 橋 憲
, 田 中 和 美, 清 水
尚
荒 川 和 久, 須納瀬
豊, 川 手
進
要 旨 【目 的】 腹腔鏡補助下胃切除では, 術中に病変の局在を診断し, 適切な術式を決定することが困難である. そこで術前 3D-CT の有用性について検討した. 【方 法】 内視鏡を用い病変にクリップで印を付けた後, 動脈相と門脈相の CT を 0.5mm間隔で撮影し, 3D-CT を作成した. 【結 果】 術前の 3D-CT で胃周囲血 管との位置関係まで含めた胃癌の局在が描出できた. 5 mm程度以上のリンパ節が描出可能であった. また, 術式の決定 (幽門側胃切除か幽門保存胃切除か) に有用で, 症例によっては胃切除の際の切離線決定 に有用であった. 【結 語】 3D-CT を用いれば至適な胃切除範囲・リンパ節郭清範囲を決定できるので,よ り安全かつ過不足のない適切な手術が行える可能性がある.(Kitakanto Med J 2011;61:31∼35) キーワード: 3D-CT, 胃癌, 腹腔鏡 は じ め に 腹腔鏡補助下胃切除 (LAG) では, 術野を手で触れる ことができないため, 術中に病変の局在を診断し, 適切 な術式を決定することが困難である. 術前に 3D-CT を施行し, 胃周囲血管との位置関係ま で含めた胃癌の局在を描出し, 至適な胃切除範囲・リン パ節郭清範囲を決定すれば, より安全かつ過不足のない 手術が行えるのではないかと えられる. そこで3D-CT の有用性について検討した. 対 象 と 方 法 今回対象としたのは 2症例である. 症例 1は 41歳の 女性であり, 上部消化管内視鏡 (図 1) では胃前 部, 大 弯の 0-IIc で SM または MP程度の深達度で胃癌取扱い 規約第 13版での臨床病期は T1 or 2,N0,Stage IA or IB と えられていた.尚生検での組織は印環細胞癌 (sig)で あった. 症例 2は 58歳の男性であり, 内視鏡検査 (図 2) では胃体下部大弯の 0-IIc で, 深達度は M で臨床病期は T1, N0, Stage IA と診断されていた. 生検での組織は中 化管状腺癌 (tub2) であった. CT撮影方法: 1) 前もって上部消化管内視鏡検査で病 変の口側および肛門側縁にクリップを付ける. その後 2) 動脈相および門脈相の CT を 0.5mmのスライス厚 で撮影を行った. 撮影された 3D volume dataは専用の work station に転送された. ワーク ス テーション で の 3D-CT作 成:動 脈, 病 変 の マーキングクリップ, 胃, リンパ節の 3D-CT を個別に作 成し, その後これらの 3D-CT を適宜重ね合わせた (図 3). 結 果 症例 1の 3D-CT 画像 (図 4) であるが, 病変は右胃大 網領域にあり,そこ (4d)に比較的大きなリンパ節が認め 1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科臓器病態外科学 平成22年11月19日 受付 論文別刷請求先 〒371-8511 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科臓器病態外科学 竹吉 泉られたが扁平なため N0と診断した. ただ N1も否定で きず, 幽門からの距離もなく, 右胃動脈領域の病変のた め, 腹腔鏡補助下幽門側胃切除 (LADG) D2 郭清を行っ た. 病理組織学的には低 化腺癌 (por)>sig, 深達度 SS で 3D-CT で比較的大きく見えたリンパ節に転移が認め られ sig, SS, pN1 (4d), pStage II であった. 症例 2の 3D-CT 画像 (図 5) では, 病変は右胃大網動 脈の末梢にあり, リンパ節は認められるものの転移を疑 われるようなものはなかった. また病変は左胃動脈の領 域にあり, 幽門からの距離も十 あったため, 腹腔鏡補 助下幽門保存胃切除 (LAPPG) をし, 右胃動脈を温存 (3D-CT でリンパ節がみえなかった No.5は非郭清) し た D1+β郭清を行った (図 6). 病理組織学的には tub2, M, pN0, pStage I であった. 察 近年, CT 装置の撮影速度や解像度の進歩は著しい. Multi-detector row CT (MDCT) の出現により撮影 XY 平面と Z 軸方向のスライス厚がほぼ等しくなることで 1 ボクセルが立方体に近いボリュームデータが得られるよ うになった. また, 泌尿器科領域において, Kawamoto ら は腹腔鏡下生体腎摘術における MDCT による血管 解剖と手術所見は 93%の症例で一致していたと報告し ている. MDCT を用いた 3次元画像構築は, 機械の改 良と画像処理ソフトの開発により, 以前より鮮明な画像 が得られるようになった. 消化器外科領域においても 3D-CT の画像が実質臓器である肝胆膵領域で術式の決 定に利用されるようになり, 消化管領域においても3D-CT 画像が応用されはじめている. 胃の形は症例によって多様で小弯が短い場合や長い場 合があり, 胃角部が幽門に近い場合もあるが, 3D-CT を 作成することにより,形状が確実に判明する (図 7).術前 内視鏡での病変の局在診断は不正確である可能性があ り, 胃透視では早期の病変を描出できないことがある. また, たとえ病変が描出できた場合であっても, 胃全体 の形を描出した写真で同時に病変を描出できないことが ある. 鏡視下手術中の術中内視鏡診断でも胃全体が見え ないため病変の局在診断は困難なことがある. それに対 し術前 3D-CT ではあらゆる方向から胃を描出でき, 病 変の局在を容易に描出できる (図 4,5). 図1 症例 1: 内視鏡検査 図2 症例 2: 内視鏡検査 図4 症例 1: 3D-CT 図3 3D-CT の作成
LAPPG か LADG かの術式決定の際, われわれは 1) 幽門からの距離 2) 右胃動脈優位の病変か左胃動脈優位 の病変か 3) 右胃動脈領域のリンパ節腫大が重要と え ている. 症例 1の場合幽門からの距離がなく, N1も否定 できず, 右胃動脈領域の病変のため LADG を選択した. 一方症例 2の場合, 幽門からの距離は十 で, 左胃動脈 領域の病変で, 右胃動脈領域のリンパ節腫大がなかった ため, 右胃動脈領域への転移は稀と え, 右胃動脈領域 は十 に温存した LAPPG を行った. LAPPG での肛門側胃切離線の決定において病変の distal margin から 4 cm離して胃肛門側を切離したい場 合, 以前は術中内視鏡検査により病変の distal marginを 確認し, 胃切離線を決定していた. しかし, その場合準備 および術中操作が煩雑であり, 3D-CT を用いれば血管 を指標に, 症例によっては病変の distal marginを求める ことが可能である. 実際症例 2においても術中内視鏡検 査は行わず, 3D-CT の血管を指標に distal marginを求 めた (図 5,6). リンパ節描出において CT の原画は, 通常の 5 mm間 隔の 10倍の精度である 0.5mm間隔で再構成すると直径 5mm程度以上のリンパ節は同定可能である (図 8). 転移 かどうかの診断は現在のところ困難であるが, 開腹手術 で触診できるリンパ節は描出可能となる. 直径 5 mm程度のリンパ節の描出が可能になれば,No. 5や No.12aにリンパ節が描出されれば幽門保存胃切除 をしないといった判断も可能と思われる. 結 語 LAG の術前に 3D-CT を施行することにより, 胃周囲 血管との位置関係まで含めた胃癌の局在が描出でき, 至 適な胃切除範囲・リンパ節郭清範囲を決定できるので, より安全かつ過不足のない適切な手術が行える可能性が ある. 文 献 1. 滝内秀和, 中尾 篤, 丸山琢雄他 : T2腎腫瘍に対する鏡 視下腎摘術プランニングにおける 3D-CT 画像の有用性 に関する検討. Jpn J Endourol ESWL 18: 111-115, 2005.
2. Kawamoto S, Montogomery RA, Lawler LP : 図7 3D-CT による病変の局在の描出 図8 3D-CT によるリンパ節の描出
図6 症例 2: 切除標本 図5 症例 2: 3D-CT
genol 180: 1633-1638, 2003.
3. 竹内裕也,北川雄光 : 食道癌・胃癌における術前リンパ節 転移診断と Sentinel Node Navigation Surgery.日本外科
3DCT の意義. 胆と膵 25(10): 631-639, 2004.
5. 李 相雄, 篠原 尚, 野村栄治他 : 3D-CT 画像に基づく 腹腔鏡下胃癌手術. 手術 57: 679-684, 2003.
Efficacy of Preoperative Evaluation with 3-Dimensional
Computed Tomography in Laparoscopic Gastrectomy
Izumi Takeyoshi,
Daisuke Yoshinari,
Osamu Totsuka,
Hiroyuki Toya,
Hiroomi Ogawa,
Keitaro Hirai,
Norifumi Takahashi,
Kazumi Tanaka,
Hisashi Shimizu,
Kazuhisa Arakawa,
Yutaka Sunose
and Susumu Kawate
1 Department of Thoracic and Visceral Organ Surgery, Gunma University Graduate School of Medicine, 3-39-22 Showa-machi, Maebashi, Gunma 371-8511, Japan
Purpose: Diagnosis of the presence of local gastric carcinoma and determination of the appropriate method of gastric resection during laparoscopic surgery is difficult. Thus, we examined the efficacy of preoperative three-dimensional computed tomography(3D-CT)in laparoscopic gastrectomy. M ethod: Using an endoscope, we marked the lesion with a clip, photographed the arterial and portal venous aspects every 0.5 mm, and then created a 3D-CT image. Results: The 3D-CT image showed the presence of local stomach cancer, including its position in relation to circumferential blood vessels. It also revealed lymph nodes greater than 5 mm. Furthermore, it was possible to decide the surgical procedure(distal gastrectomy or pylorus-preserving gastrectomy)based on the 3D-CT image information. Conclusion : Preoperative planning, including determination of the appropriate surgical procedure (stomach excision range and lymph node dissection range) on the basis of 3D-CT image information, contributed greatly to successful surgery.(Kitakanto Med J 2011;61:31∼35)