2次元プラズモン共鳴型エミッターのテラヘルツ帯
電磁波放射機構に関する研究
著者
半田 大幸
学位授与機関
Tohoku University
修士学位論文
論文題目
2次元プラズモン共鳴型エミッターの
テラヘルツ帯電磁波放射機構に関する研究
東北大学大学院工学研究科
電気・通信工学専攻
尾辻・末光研究室 博士前記課程2年
A6TM2055
半田大幸
平成 20 年 2 月 20 日
目次
目次
目次
目次
目次
第 1 章 序論 ··· 1 1.1 本研究の背景と目的 ··· 1 1.2 本論文の構成 ··· 3 第 2 章 2次元プラズモン共鳴型エミッター ··· 4 2.1 プラズモン共鳴 ··· 4 2.1.1 プラズマ電子流体としての挙動と共鳴 ··· 4 2.1.2 直流バイアスによる励起 ··· 8 2.1.3 2光波照射による差周波励起 ··· 10 2.1.4 テラヘルツ波照射による励起 ··· 13 2.2 2次元プラズモン共鳴型エミッター ··· 16 2.2.1 基本構造と放射原理 ··· 16 2.2.2 特性周波数と構造設計 ··· 21 2.3 プラズモン共鳴型エミッターからの基本放射特性 ··· 25 2.3.1 放射エネルギー・フォトレスポンス測定結果 ··· 25 2.3.2 電気光学サンプリング測定結果 ··· 27 第 3 章 フーリエ赤外分光法(FTIR)··· 29 3.1 FTIR 基本原理 ··· 29 3.2 FTIR 計測装置の概要 ··· 33 第 4 章 実験 ··· 35 4.1 実験系の構築 ··· 35 4.2 直流バイアス励起による電磁波放射測定 ··· 42 4.1.1 シングルへテロタイプに対する測定 ··· 42 4.1.2 ダブルへテロタイプに対する測定 ··· 44 4.1.3 理論計算値との比較 ··· 45 4.2 フォトミキシング測定 ··· 49 第 5 章 考察 ··· 51 5.1 プラズモン共鳴状態の不均一性 ··· 51 5.2 熱励起プラズモンの影響 ··· 54 5.3 光励起効率 ··· 56 第 6 章 結論 ··· 59 謝辞 ··· 61 参考文献 ··· 62 研究業績 ··· 66第1章 序論
第1章
第1章
第1章
第1章
序論
序論
序論
序論
1.1
本研究の背景と目的
本研究の背景と目的
本研究の背景と目的
本研究の背景と目的
テラヘルツ波というのは主に 0.1THz から 100THz に相当する、周波数の高い“光波”と 周波数の低い“電波”の中間領域に存在する電磁波である(図 1.1)。光波技術、電波技術 はそれぞれ数百 THz を超える領域と 0.1THz を下回る領域に当たり、今日の生活に必要不可 欠な技術である一方、テラヘルツ帯技術は実用的な信号源・光源の開発の遅れもあって工 学的な応用が困難であった。そのため、テラヘルツ技術の利用は電波天文、フーリエ・ラ マン分光など、ごく限られた特殊な分野への応用に限られていた。電波と光波の中間領域 に存在するテラヘルツ(THz)帯は長い間その利用が困難であり、未開拓領域と呼ばれてきた。 図 1.1 周波数軸で見るテラヘルツ帯 しかし、テラヘルツ帯の電磁波は電波と光波の特長を併せ持つにとどまらず、この周波 数帯特有の、かつ有用性の高い性質を持つということから、近年のテラヘルツ技術の目覚 ましい発展に伴い、その革新技術への応用の可能性は様々な産業分野から注目を集めてい る。まず情報通信分野においては利用電磁波の高周波化が進んでいて、数百 GHz 帯の利用 も迫っており、微細加工技術・ナノテクノロジーの発展に伴い超高速な信号処理を実現する ような半導体デバイスも実現されつつある。他にもテラヘルツ帯は光学フォノン散乱・プ ラズマ周波数、イオン分極・配向分極などの誘電性、超伝送帯エネルギーギャップ、分子・ 固体中の各種振動・分子相互間作用などの特性をもっている。加えてその高い透過性能は X 線のような被曝危険性を伴わないため、医療用生体計測システムへの応用[1]が期待されてい る。有機化合物にはテラヘルツ帯にその物質固有のスペクトル(指紋スペクトル)を持つ物が 多く、物質の同定が可能であることから禁止薬物の探知・検出などセキュリティーシステ ムへの応用開発も進められている[2]。第1章 序論 現在、このようなテラヘルツ帯技術の応用を支える基礎的なデバイスとして、良質なテ ラヘルツ帯電磁波の発生・変調を行うための光源の研究開発が進められている。これには 主にレーザ・非線形光学など光デバイス技術からと、トランジスタ・ダイオードなど半導 体を用いた電子デバイス技術からの、周波数領域で言えば両側からのアプローチがある。 前者ではフェムト秒レーザにより極短電磁波パルスの生成と検出を行う THz-時間領域分光 法[3]、数百層の量子井戸構造でのサブバンド間光学遷移を用いる量子カスケードレーザ[4]、 非線形光学結晶による周波数変換であるテラヘルツパラメトリック発振器[5]など、後者では 共鳴トンネルダイオード[6]、単一走行キャリアホトダイオード[7]などが挙げられる。電子デ バイス技術からの光源開発アプローチの一つとして、動作周波数がテラヘルツ程度の高速 で動作するトランジスタからのテラヘルツ波の発振が考えられる。例えば電界効果型トラ ンジスタ(FET)にて高速動作を目指す場合、微細化によって電子走行層の距離を短くする短 チャネル化や、動作原理の改良により電子の移動度を高めた高電子移動度トランジスタ (HEMT; High Electron Mobility Transistor)[8]などが開発されており、現在では数百 GHz オーダ
ーで動作するようなトランジスタも報告されている[9]。しかしながら、高周波動作のための
微細化が進むと量子トンネル効果や短チャネル効果[10]と呼ばれる現象が問題になってくる
ため、電子走行型デバイスの微細化によるテラヘルツ動作は困難と見られている。
そのような電子走行型デバイスの本質的な問題に左右されずにトランジスタ構造内での 電子を高周波で変調できる可能性のある方法として、2次元電子プラズモン共鳴の利用が 着目されている。これは Dyakonov と Shur によって提唱された手法で、HEMT の電子走行 層内部に存在する2次元電子群の共鳴振動動作を利用するものである。FET チャネル内の 2次元電子プラズマは良好な電子輸送特性と共振器構造(チャネルが共振器に相当する)両 端の境界条件が整えば、直流電流成分によって不安定性が誘発され、プラズマ特性周波数 によって定まる共鳴振動を励起できることが彼らによって示された[11, 12]。この共鳴振動の 周波数はサブミクロン長 FET であればテラヘルツ帯に達することが可能であり、2次元電 子の電子濃度がゲートバイアスにより制御可能であることから共鳴周波数の可変性が期待 でき、これらの特長からテラヘルツ波の検出器、逓倍器としての応用可能性も理論的に示 され[11-16]、実験的にも研究が進められてきた[17-21]。 この理論を基礎として、我々の研究室では新型のテラヘルツ電磁波放射素子として、2 次元プラズモン共鳴型エミッターを提案している。これは先に挙げた特長の他、従来のエ ミッターと比較して非常に小型で集積化が容易であり、常温動作も可能であるという利点 も持つ。通常の HEMT との大きな相違点は格子状入れ子型ゲートを導入した点にある。こ れにより電子走行層中の複数のプラズモン領域と格子ゲート金属とのカップリングによる アンテナ動作が期待でき、高効率なテラヘルツ電磁波放射が可能になると考えられている。 現在、この新型エミッターから放射されるテラヘルツ電磁波の特性評価が進められており、 これまでに 4K-Si ボロメータによる放射エネルギー測定、フォトレスポンス測定や電気光学 サンプリング測定などによって本デバイスからの2次元電子プラズモン共鳴に起因するテ
第1章 序論
ラヘルツ波放射が確認されている。本研究においては、新たにフーリエ赤外分光法(FTIR; Fourier Transform Infrared Spectroscopy)による周波数応答の計測を行った。この実験を通し て本デバイスからのテラヘルツ放射機構を追究し、さらに今後の改善点や応用の可能性を 検討した。
1.2
本論文の構成
本論文の構成
本論文の構成
本論文の構成
本論文は、2次元電子プラズモンを利用したテラヘルツ帯電磁波放射デバイスに関する 研究についてまとめたものである。本論文は6章から構成されており、各章の概要は以下 のとおりである。 第1章では、本研究の背景と目的について述べている。 第2章では、2次元電子プラズモン共鳴型エミッターの動作原理について、プラズモンの 励起方法から電磁波放射へのモード変換機構等と、これまで確認されている基本的な放射 特性について述べている。 第3章では、フーリエ赤外分光法に関して、FTIR の基本原理と新たに構築した FTIR 装置 の構築について述べている。 第4章では、FTIR を用いて行った実験について、実験系の構築と試作されたデバイスのサ ンプルに対する直流バイアス励起、そして2光波照射による差周波励起によるテラヘルツ 波放射の計測結果について述べている。 第5章では、本実験で得られた結果に対する考察として、デバイスの構造的、放射機構的 な観点から問題点と改善策について述べている。 第6章では、今回述べた内容をまとめ、本論文を統括している。第2章 2次元プラズモン共鳴型エミッター
第2章
第2章
第2章
第2章
2次元プラズモン共鳴型エミッター
2次元プラズモン共鳴型エミッター
2次元プラズモン共鳴型エミッター
2次元プラズモン共鳴型エミッター
本章では本研究室で新型のテラヘルツエミッターとして開発している2次元電子プラズ モン共鳴型エミッターの動作原理について述べる。まずは基礎的な動作原理として2次元 プラズモン共鳴について、一般的な FET におけるプラズモン共鳴の発生原理と共鳴特性を Dyakonov の論文[1-3]の要点をまとめながら述べ、続いて2次元プラズモンエミッターの構造 と、プラズモン共鳴からテラヘルツ電磁波放射に至る動作原理について述べる。最後にこ れまでに計測されている本エミッターからの基本的な放射特性として、検出器(4K-Si ボ ロメータ)による放射エネルギー測定結果とフォトレスポンス測定結果について簡潔に述 べる。2.1
プラズモン共鳴
プラズモン共鳴
プラズモン共鳴
プラズモン共鳴
本研究室で開発している2次元プラズモン共鳴エミッターは2次元プラズモン共鳴をそ の主な動作原理としている。本節では2次元プラズモン共鳴は FET 内の電子の特性から流 体力学方程式にて扱える事、さらに方程式を解くことによる共鳴周波数の導出について述 べる。 2.1.1プラズマ電子流体としての挙動と共鳴プラズマ電子流体としての挙動と共鳴プラズマ電子流体としての挙動と共鳴プラズマ電子流体としての挙動と共鳴 HEMT 構造サブミクロンゲートのトランジスタ内部の電子走行層に存在する電子群は、 その電子濃度nsは非常に大きく、10 12 cm-1程度になる。このような高濃度な電子群はその平 均電子間距離が 100Å程度まで短くなり、これはボーア半径と同等の大きさになる。このよ うな環境では電子間衝突が常に生じる状態となり、電子単体としての挙動よりも流体とし ての性質が顕著になる。このことから、高電子濃度中の電子群プラズマ流体として扱われ、 その運動は流体力学方程式によって表現される。 このようなプラズマ流体に外的な励起を加えると、電子の粗密波、つまりプラズマ波が 発生する。これが共振器構造内部で発生することによって量子化されたものがプラズモン である。電子のドリフト速度が 107 cm/s 程度であるのに対し、プラズマ波の速度はおよそ 108cm/s 程度となりドリフト速度より 1~2 桁大きい値をとる。このことから、プラズマ波に第2章 2次元プラズモン共鳴型エミッター 起因して発生するプラズモンの共鳴周波数は、キャリア輸送を用いる従来のトランジスタ の遮断周波数よりも高速となり、数十 THz の周波数まで到達することが可能となる。 では FET 内部でのプラズモン共鳴発生までの過程を、実際に流体力学方程式を用いて説 明する。まず、ゲート・チャネル間距離がソース・ドレイン間距離(ゲート長)に比べて十 分に小さいとする。この場合ゲート長方向(x 方向)のポテンシャル分布はゲート・チャネ ル間方向のポテンシャル分布とは独立に与えられ、これは漸近チャネル近似と呼ばれる。 チャネルのゲート接合界面における表面電子濃度nsは、素電荷e、ゲート・チャネル間容量 C、実効ゲートチャネル間電位U(x,t)を用いて式(2.1)で表される。
ed
t
x
U
e
t
x
CU
n
s)
,
(
)
,
(
ε
=
=
(2.1) サブミクロンゲートを有する HEMT のようなトランジスタではこの電子濃度が 1012 cm-1程 度の非常に高濃度な状態となり、前述したようにプラズマ流体として扱われ、流体力学方 程式によってその挙動が表すことができ、チャネル方向(x方向)の1次元運動方程式は以 下の2式によって与えられる。τ
)
,
(
)
,
(
)
,
(
)
,
(
)
,
(
v
x
t
m
x
t
x
U
e
x
t
x
v
t
x
v
t
t
x
v
m
−
∂
∂
−
=
∂
∂
+
∂
∂
(2.2)0
))
,
(
)
,
(
(
)
,
(
=
∂
∂
+
∂
∂
x
t
x
v
t
x
U
t
t
x
U
(2.3) 式(2.2)はオイラーの流体方程式で、式(2.3)は連続の方程式である。流体方程式は力学に関す る方程式でありの右辺の第1項は外部電界による外力、右辺第2項は電子衝突による摩擦 力を示している。連続の方程式は質量の流入流出量が変化しないことを表している。vは電 子流体の速度、m は有効質量、τ は運動量緩和時間、ν は衝突周波数である。衝突周波数ν は外部摩擦と内部摩擦の影響による衝突周波数を示している。外部摩擦にはフォノン散乱 と不純物散乱があり、フォノン散乱は格子の熱振動により電子が格子と衝突する現象で、 不純物散乱は電子が半導体中の不純物と衝突する現象である。一方、内部摩擦には電子同 士の衝突である電子間散乱による摩擦がある。全体としての衝突周波数はνπηονον(フォノン 散乱の衝突周波数)、νimpurity(不純物散乱の衝突周波数)、νviscosity(電子間散乱の衝突周波数) の和で表され次のように表される。L
+
+
+
=
=
ν
ν
phononν
impurityν
viscosityτ
1
第2章 2次元プラズモン共鳴型エミッター 図 2.1.1 ソース接地/ドレイン開放状態 図 2.1.1に示すようなソース接地/ドレイン開放状態にある FET 内部でのプラズマ波の挙動 を考える。流体方程式の解としては以下のような線形結合解を仮定する。
)
exp(
|
)
,
(
|
)
,
(
, 2 2 ,2 0 1 1x
t
v
x
t
v
v
i
t
v
v
v
=
+
ωk+
ω k+
L
=
+
−
ω
(2.5))
exp(
|
)
,
(
|
)
,
(
, 2 2 ,2 0 1 1x
t
U
x
t
U
U
i
t
U
U
U
=
+
ωk+
ω k+
L
=
+
−
ω
(2.6) 境界条件は、ソース端(x=0)で短絡、ドレイン端(x=L)で開放であり、jを電流密度とし て次のように表される。U
t
U
(
0
,
)
=
(2.7)0
)
,
(
L
t
=
j
(2.8) 以上のような条件下での式(2.2)、式(2.3)の DC、1次成分を求めると以下のようになる。0
|
)
,
(
|
)
,
(
|
)
,
(
|
)
,
(
1 , 1 , 1 , 0 0 , 1+
+
=
∂
∂
+
∂
∂
+
∂
∂
τ
τ
ω ω ω ωv
x
t
v
x
t
x
u
x
t
x
v
v
t
t
x
v
k k k k (2.9)0
)
|
)
,
(
|
)
,
(
(
|
)
,
(
1 , 2 1 , 0 , 1=
∂
∂
+
∂
∂
+
∂
∂
x
t
x
v
s
x
t
x
u
v
t
t
x
u
ωk ωk ωk (2.10) ただしm
t
x
eU
t
x
u
(
,
)
1(
,
)
1=
、ε
e s em
d
n
e
m
eU
s
2 0=
=
であり、sはプラズマ波速度である。 式(2.9)、式(2.10)が u1(x,t)=v1(x,t)=0 以外の有意な解を持つための条件として、変数 u1(x,t)、 v1(x,t)に対する係数行列式が 0 となる必要がある。そこで、u1(x,t)、v1(x,t)が波数k、角周波数 ω の時間的、空間的繰り返しである観測可能な信号であると仮定し、以下のように表す。第2章 2次元プラズモン共鳴型エミッター
)
exp(
)
,
(
1x
t
A
ikx
i
t
u
=
−
ω
(2.11))
exp(
)
,
(
1x
t
B
ikx
i
t
v
=
−
ω
(2.12) 簡単のために衝突が無い場合(τ →∞)を仮定し、式(2.11)、式(2.12)を式(2.9)、式(2.10)に代 入すると各周波数ω
=
ω
′
+
i
ω
′′
に対して以下のような分散関係式が得られる。π
ω
Ls
v
s
2
2 0 2−
=
′
(2.13) 0 0 2 0 2ln
2
s
v
v
s
Ls
v
s
−
+
−
=
′′
ω
(2.14) 共振器構造内でのプラズマ波がこのような周波数で共鳴状態となるには、共振器構造が定 在波条件を満足しなければならない。ソース端接地、ドレイン端開放条件下での定在波条 件は図 2.1.2に表されるような状態が存在し、以下のように表される。L
l
λ
=
4
(l:整数) (2.15) プラズマ波速度s、電子ドリフト速度vを用いると、プラズモン共鳴周波数fは次のように 与えられる。sL
v
s
l
f
resonance4
)
)(
1
2
(
−
2−
02=
(2.16) 図 2.1.2 プラズモンの定在波第2章 2次元プラズモン共鳴型エミッター 2.1.2 直流バイアス直流バイアス直流バイアス直流バイアスによるによるによるによる励起励起励起 励起 直流バイアスの印加によるプラズモン共鳴の励起は一番基本的な励起手法であるといえ る。直流バイアスによってプラズマ不安定と呼ばれるような状況を作り出してプラズモン 共鳴状態を励起するもので、これを自励発振と呼ぶ。 図 2.1.3 ドレイン端での反射による波の重畳 トランジスタの電子走行層内において、図 2.1.3 に示すようにプラズマ波はソース・ドレ イン電流による電子ドリフト速度で流れる電子流体上を伝播する。プラズマ波の共振器境 界における反射を考慮し、プラズマ波とドリフト電流の重ねあわせによってその進行波と 後退波をそれぞれjforward(ω)、jbackward(ω)として以下のように表す。
)
)(
(
)
(
e
n
s
v
0j
forwardω
=
∆
forwardω
+
(2.17))
)(
(
)
(
e
n
s
v
0j
backwardω
=
∆
backwardω
−
(2.18) ∆nforward、∆nbackwardはプラズマ波振幅であり、それぞれ進行波、後退波濃度振幅に相当する。 さらにドレイン端における反射振幅が保存されることを考慮すれば、ドレイン端における 振幅反射係数∆nbackward/∆nforwardは 0 0v
s
v
s
n
n
forward backward−
+
=
∆
∆
(2.19) となる。共振器両端での反射係数は、ソース端では短絡による固定端反射なので-1、ドレイ ン端では開放でその反射係数は(3)式の通り、(s+v0)/(s-v0)である。これらの反射係数を考慮 して、時間tの間の多重反射によるドレイン端での重畳成分を求める。これは往復に要する 伝播時間をTcycle、プラズマ波振幅の初期値をfinitとすれば次のように表せる t i t init t i i init t i init t i T t inite
f
e
f
e
f
e
e
v
s
v
s
f
cycle ω ω ω ω ω ω′ − − ′+ ′′ ′′ − ′ −≡
⋅
≡
⋅
≡
⋅
⋅
−
+
( ) / 0 0 (2.20)第2章 2次元プラズモン共鳴型エミッター これにより、sとv0の関係によって波が増幅(不安定)するか減衰(安定)するかが決定さ れることが分かる。そこでsとv0の大小関係を示すパラメータとしてマッハ数Mp=v0/sを導 入し、不安定指数δ をω”によって定義すると、式(2.14)から不安定性が生じる条件は次のよ うに表せる。
0
1
1
ln
)
1
(
2
2>
−
+
−
=
′′
≡
p p pM
M
M
Ls
ω
δ
(2.21) 図 2.1.4 不安定指数δ のマッハ数 Mp依存性 不安定指数δ をマッハ数Mpに対してプロットした物が図 2.1.4である。この図より不安定性 を生じる増幅条件を満たすのはs
v
s
v
0<
−
,
0
<
0<
(2.22) の時であることが分かる。v0<-sはソース・ドレインの境界条件を反転した場合に相当するが、 |v0|>s である必要があるので実現は困難である。一方、通常の FET 内でのドリフト速度は 107cm/s であるのに対しプラズマ波速度は 108cm/s であるから0< v0<sは容易に実現できる。 以上より、ソース端短絡/ドレイン端開放の条件下ではプラズマ波の反射によるプラズ マ不安定性によってプラズモン共鳴の増幅減少が発生する事が分かる。ただし、実際には 電子の衝突による摩擦の影響があるので、単調な無限増幅にはならないことに注意が必要 である。第2章 2次元プラズモン共鳴型エミッター 2.1.3 2光波照射による差周波励起2光波照射による差周波励起2光波照射による差周波励起2光波照射による差周波励起 バンド間光励起は差周波励起を発生させる。トランジスタ素子の後方より照射される2 光の周波数はそれぞれf1、f2 ( f 1- f2 )でその差周波数∆fは∆f= f 1- f2となっている。これらの光 の偏光を合わせ同軸上に重ね合わせると、その照射強度は2光波のビート成分、すなわち 差周波数∆fで変化し[4]、共振器中の電子濃度は∆fによって変調される。 まず2光波を以下のように表す。
)
cos(
1 1 01 1E
k
x
t
E
=
−
ω
、E
2=
E
01cos(
k
2x
−
ω
2t
)
(2.23) k1>k2、ω1>ω2で簡単のために振幅、初期位相は等しいとしている(図 2.1.5)。 図 2.1.5 2光波 E1と E2 これらを重ね合わせると、その混合波は[
]
2
)
(
)
(
cos
2
)
(
)
(
cos
2
)
cos(
)
cos(
2 1 2 1 2 1 2 1 01 2 2 1 1 01t
x
k
k
t
x
k
k
E
t
x
k
t
x
k
E
E
ω
ω
ω
ω
ω
ω
+
−
+
+
−
+
=
−
+
−
=
(2.24) となる。ここで
2
2 1ω
ω
ω
≡
+
2
2 1ω
ω
ω
m≡
−
2
2 1k
k
k
≡
+
2
2 1k
k
k
m≡
−
とおけば、式(2.24)は以下のようになる。)
cos(
)
cos(
2
E
01k
x
t
k
x
t
E
=
m−
ω
m−
ω
(2.25) さらに2
E
01cos(
k
mx
−
ω
mt
)
=
E
0とおけば)
cos(
0k
x
t
E
E
=
−
ω
(2.26)第2章 2次元プラズモン共鳴型エミッター と表される。このようにしてこの混合波を、時間変化する振幅E0をもつ角周波数
ω
の進行 波であるとみなす。ω1とω2が十分に大きく、かつ非常に近い値をとればω
>>
ω
mとなり、 E そのものの変化に対してE0の変化が非常に遅くなることがわかる(図 2.1.6)。 図 2.1.6 混合波 E とその包絡成分 E0 この混合波の放射強度は[
1
cos(
2
2
)
]
2
)
(
cos
4
2 01 2 2 01 2 0t
x
k
E
t
x
k
E
E
m m m mω
ω
−
+
=
−
=
(2.27) に比例することになり、強度が2E01 2、角周波数 2ωm、つまりω1-ω2という2光波の差周波 成分に相当する周波数を持つ波になることがわかる(図 2.1.7)。 図 2.1.7 放射エネルギー強度の周波数成分は2光波の差周波数に相当する 図 2.1.8は一般的な HEMT のエネルギーバンド図を示している。デバイス後方から照射さ れた2光波により、光子-電子量子効率ηIBにて発生したキャリアは強い電界によってすぐに 2次元電子層に注入される(光伝導効果)。この際、前方から照射してしまうと光伝導効果 よりも光起電力効果の占める割合が大きくなること[5]や、ゲート電極による散乱、吸収が起 きてプラズモンの効率の良い誘発が遮られてしまうため、入射方向は重要となる。
第2章 2次元プラズモン共鳴型エミッター 図 2.1.8 後方からの励起光照射による光伝導効果 周波数がそれぞれ f1、f2の2光波は同軸上で偏光方向をそろえて照射されるので、その混 合波の強度は∆f=f1-f2のビート成分を持つ。当然、励起されたキャリアによる注入動作はこ の成分を含んでおり、2次元電子は∆f のタイミングで変調を受けることになる。共鳴周波 数が∆f 程度に設定され、定常的なドレイン電流が存在している共振器において、この変調 成分が加わる事によってその発振周波数が一律に、正確に∆f に引き寄せられてコヒーレン トなプラズモン共鳴を誘発する事が可能になると考えられる(図 2.1.9)。 図 2.1.9 光励起キャリアによる注入同期動作
第2章 2次元プラズモン共鳴型エミッター 2.1.4 テラヘルツ波照射による励起テラヘルツ波照射による励起テラヘルツ波照射による励起テラヘルツ波照射による励起 外部からのテラヘルツ波の照射によりプラズモン共鳴を励起する手法について考える。 プラズモンをテラヘルツ波で励起するには、伝導バンドでのサブバンド間遷移を用いる手 法が一般的である。 電子がチャネル厚方向へ閉じ込められているとき、これはクローニヒ・ペニイの矩形量子 井戸であると考えられる。井戸厚dが電子の平均自由行程 LMFPに対して十分短いとき、自 由反射運動により電子のエネルギー準位が離散的な値をとる。これにより伝導バンドが離 散化してサブバンドが形成される(図 2.1.10)。このようなサブバンド相互間のエネルギー バンドギャップは通常の伝導体下端~苛電子帯上端のバンドギャップに対して十分小さな 値をとる。無限障壁高の矩形量子井戸では、伝導体下端から第lサブバンドまでのエネルギ ーは次のように表される 2 2 2 2
2
md
l
E
l=
π
h
(E <<
lE
g) (2.28)h
はプランク定数、dchはチャネル厚(量子井戸厚に相当)である。サブバンド形成のため の量子化条件は井戸厚<<電子の平均自由行程であるからTm
k
e
v
L
d
MFP th2
Bµ
τ
=
⋅
=
<<
(2.29) となる。vthは熱速度、µは電子移動度、kBはボルツマン定数、Tは絶対温度である。 図 2.1.10 伝導帯のサブバンド化第2章 2次元プラズモン共鳴型エミッター 続いて、外部からのテラヘルツ波照射がデバイス内の各種直流ポテンシャルにどのよう な影響を与えるかを検証する。FET がソース端短絡/ドレイン端開放でゲートバイアス電 圧U0が与えられ、ソース端に振幅Ua、角周波数ω のテラヘルツ波が照射されている状態を 考える。ω 成分の吸収によって直流ドレイン・ソース間電位差が変調されると仮定すれば、 プラズモン共鳴の発生を直流ドレイン・ソース間電位差の増加という形で簡便に観測可能 である。 直流成分は式(2.5)、式(2.6)における
U
、ν
である。ω の高調波成分のうち、時間平均で 非零の値を持つのはω2 の成分であるから、2
1
)
2
cos
1
(
2
1
2
cos
2
2 0 2 0 2=
+
=
∫
∫
ω π ω πω
π
ω
ω
π
ω
dt
t
tdt
(2.30) 2 0 2,
a aU
U
U
U
−
∝
∝
ν
(2.31) となる。これより、直流成分について求めるためには Ua 2 (ω2)の成分について方程式を立て ればよいことがわかる。直流成分を求めるということは定常状態での解を求めることであ るので、時間微分の項を零(∂/∂t = 0)として求めることにする。式(2.2)、式(2.3)においてUa 2 に関する項を抽出すると、次の式を得る。0
2
2 1=
+
+
τ
v
v
U
dx
d
(2.32)(
s
2v
+
u
1v
1)
=
0
dx
d
(2.33) ここで、<>は時間平均を表している。いま、境界条件0
)
(
,
)
0
(
=
U
0v
L
=
m
e
U
e(2.34) を考慮して、ソース・ドレイン間の直流電位差変動分∆Uを求める。式(2.32)をxについて 0 からLまで積分し、かつ境界条件を考慮すると、次のようになる。
∫
−
=
−
=
∆
U
U
L
U
v
Lv
dx
0 2 11
)
0
(
2
1
)
0
(
)
(
τ
(2.35) さらに式(2.33)より 2 1 1s
v
u
v
=
−
(2.36) が得られ、∆Uをu1とv1で表すことができる。Dyakonov によれば、)
,
(
4
1
0 2 0 0U
F
U
U
U
U
aω
=
∆
(2.37)第2章 2次元プラズモン共鳴型エミッター
)
'
(
cos
)
''
(
sinh
)
'
2
cos(
1
1
)
,
(
0 2 0 2 0 0L
k
L
k
L
k
U
F
+
+
−
+
=
β
β
ω
(2.38)( )
21
2
ωτ
ωτ
β
+
=
(2.39)(
)
1/2 1/2 2 2 0 02
1
1
)
(
'
+
+
=
− −τ
ω
ω
U
s
k
(2.40)(
)
1/2 1/2 2 2 0 02
1
1
)
(
''
+
−
=
− −τ
ω
ω
U
s
k
(2.41) となる。式(16)の∆U/U0は吸収されたテラヘルツ波の電圧振幅Uaからドレイン・ソース間電 位の変動分∆U への変換効率を表す。つまり、感度関数 F(ω,U0)を変換効率の関数、プラズ モン共鳴強度の関数として扱えることが分かる。また、プラズモン共鳴を利用したエミッ ション/フォトミキシングでのテラヘルツ波の出力強度は量子効率を介して∆Uに依存する。 これによりを用いて定性的なテラヘルツ波出力特性を得ることが可能となる。第2章 2次元プラズモン共鳴型エミッター
2.2
2次元プラズモン共鳴型エミッター
2次元プラズモン共鳴型エミッター
2次元プラズモン共鳴型エミッター
2次元プラズモン共鳴型エミッター
本研究室で開発している2次元プラズモン共鳴型エミッターについて述べる。これは従 来の電子デバイスのようなキャリア走行型動作ではなく、電子の揺らぎである2次元電子 プラズモン共鳴を用いることによってトランジスタとしての遮断周波数よりも高い信号源 となり得るものであり、テラヘルツ電磁波の光源、検出器の他、様々な用途への応用が期 待されている。HEMT を基準にし、そこからの改良点、動作原理と放射までの手順につい て説明する。 2.2.1 基本構造と放射原理基本構造と放射原理基本構造と放射原理基本構造と放射原理本研究室で開発している2次元プラズモン共鳴型エミッター(PRE; Plasmon Resonant emitter)について説明する。まずはエミッターの概略図を図 2.2.1に示す。 図 2.2.1 2次元プラズモン共鳴型エミッター 基本的には従来の高電子移動度トランジスタ(HEMT)を踏襲しているが、新しい構造と して、2重入れ子型格子状ゲート電極と ITO テラヘルツミラーを導入している。2重格子 状ゲート電極はゲート1、ゲート2の2種類のゲート電極が複数、交互に並ぶことで格子 状を形成しており、2次元プラズモン領域を電子走行層中に局在化させると共に非放射モ ードである2次元電子プラズモン共鳴を放射モードの電磁波に変換する、いわゆるアンテ ナとしての役割を持っている。ITO ミラーは、2次元プラズモン領域とともに縦型共振器構 造を形成し、下向きに放射された電磁波を利用して共鳴振動の増幅に貢献する。 本デバイス内部で発生するプラズモン共鳴の励起メカニズムを、エネルギーバンド図に よって説明する。図 2.2.2はプラズモンエミッターの電子走行層内部のエネルギーバンド図 を示しており、ドレイン側に正バイアスを印加するとともにゲート1電極、ゲート2電極
第2章 2次元プラズモン共鳴型エミッター にそれぞれ異なるバイアスをかけ、ゲート1側を高電子濃度に、ゲート2側を低電子濃度 に設定している。ここに差周波数が THz に相当する励起光を照射する。ソース・ドレイン間 には定常的な電流が流れており、ゲート1直下の共振器構造がプラズマ波の定在波条件を 満足していると内部でプラズマ波の多重反射が起き、共振器寸法や電子濃度によって定ま る周波数でプラズモン共鳴が励起される。これを共鳴エミッターの自励発振と呼ぶ。 テラヘルツ帯の差周波成分∆fを有する2光波f0、f0+∆fが照射されると主に低電子濃度のゲ ート2側において、∆f に相当するビート成分の周期で格子欠陥準位を介したマルチステッ プによる光励起電子が生成される。電子濃度の差によってゲート1チャネル、ゲート2チ ャネル間には 1~10kV/cm オーダーの強電界が生じており、この励起電子は直ちにゲート1 側の領域に注入されてプラズモンを∆f の周波数で変調する。デバイス形成精度などの制約 から比較的ランダムな発振であると考えられる自励発振に差周波励起が加わることにより、 自励発振周波数が∆f に引き込まれてコヒーレンスが向上し、いわゆる光注入同期発振に至 ることが期待される。 図 2.2.2 エネルギーバンド図による放射機構の描写 自励発振や差周波光照射によって励起されたプラズモン共鳴は格子状ゲート電極による 放射モードへの変換が行われて空間にテラヘルツ電磁波として放射される。この変換メカ ニズムを図 2.2.3 に示す。これは格子状ゲート電極・周期プラズモン近傍領域を模式的に示 している。ソース・ドレイン方向にx軸、格子状ート電極平面に対して垂直方向にz軸をと り、格子ゲート平面をz=0、周期プラズモン平面をz=dとしている。文献[6]によると周期プ ラズモンから放射されるx方向の電界成分は以下のように与えられる。
第2章 2次元プラズモン共鳴型エミッター
)
exp(
)
(
)
0
(
z
<
E
xTHz,Gz
=
A
G+
κ
Gz
(2.42))
exp(
)
(
)
(
d
<
z
E
xTHz,Gz
=
D
G−
κ
Gz
(2.43) ここで式(2.42)は格子ゲート平面からデバイス外部へ、式(2.43)は周期プラズモン平面からデ バイス内部への放射を表し、AG、DGはそれぞれの放射電界強度を示している。κGは z 軸に 沿う波数ベクトルであり、次式によって与えられる。 2 2 2c
G
m Gε
ω
κ
=
−
⋅
(2.44) cは光速、Gは周期構造により量子化されたプラズモンの波数であり、次のように表される。a
m
G
=
2
π
(2.45) 単一のプラズモンはプラズモン共振器長Wで定まる波数を有する。本デバイスのようにプ ラズモンが周期配置されている場合には、プラズモン間カップリングの漏れ電界により回 折格子の周期で定まる波数 Gm(m=1,2,…)のプラズモンモードが生じる。しかし、プラズ モンの縦波振動が存在するために、その振動成分は微弱となる。また、mが1以上であるた め、a が空間伝播テラヘルツ波の波長より十分短いことから式(2.44)の根号内は正となるた めκGも正になる。このとき式(2.42)より発生した電界は周期プラズモン領域から離れるに従 い指数関数的に現象する、いわゆるエバネッセント波となる。これらのことから、単純な 周期プラズモン領域から直接有意なテラヘルツ電磁波の放射を得ることが困難であること が分かる。 図 2.2.3 プラズモン領域からの電磁界放射第2章 2次元プラズモン共鳴型エミッター プラズモンの縦波振動が含まれないプラズモン平面外では Gm(m=0)なる成分を生むこと ができるが、空間場のみではその強度はやはり極めて微妙である。そこで、プラズモン平 面近傍のエバネッセントな結合が可能な場所に回折格子状のゲート電極を配置することに よって、その格子ゲート面内にGm(m=0)なる波数の電場を形成する。この場合、式(2.44) 内の根号内は負となりκGは虚数となる。すなわち式(2.42)において exp 部は位相項となり、 デバイス外部方向・内部方向ともに波数|κG|の有意なテラヘルツ波放射が得られることにな る。 もうひとつの構造は縦型共振器構造である。半絶縁性バルク基板の側面部を低誘電率ク ラッド材で被覆し、基板裏面に透明金属である ITO(Indium Tin Oxide)によるテラヘルツ ミラーを形成することにより、下方向への放射テラヘルツ波に対する縦型共振器機構を形 成している。このデバイス内部での共振によって信号源であるプラズモン共鳴振動を再帰 的に励振することで、テラヘルツ波の増幅機構が実現できる。基板内部を共振器として動 作させるので、プラズモン領域・ITO ミラー間の距離は放射テラヘルツ波の(2l-1)/4波長(l; 自然数)に設定する。縦型共振器の共振器長は半絶縁性バルク層の厚みによって決まるた め共振周波数は固定される。しかし、プラズモン領域の反射率はそれほど高くなく、縦型 共振器の Q 値は低くなりプラズモン共鳴周波数近傍の比較的広範囲な周波数領域での増強 効果が期待できる。 本デバイスからのテラヘルツ放射までの動作について図 2.2.4を用いて説明する。 ① まずは直流バイアス励起のために、各電極(ソース、ドレイン、ゲート1、ゲート2) に共鳴条件に適したバイアスを印加する。続いて、フォトミキシング動作として差周波 数∆fがテラヘルツ帯に相当する2光波を素子下面より入射する。この励起光の偏光はソ ース・ドレイン方向の直線変更になるよう制御されている。 ② これらによって、電子走行層にて回折格子ゲート電極構造に対応した周期で共鳴周波数 が∆fに相当するプラズモン共鳴が励起される。 ③ このプラズモン共鳴と回折格子ゲート電極との静電気的な結合により、空間伝播するテ ラヘルツ電磁波に変換される。 ④ 素子内部方向へと放射されたテラヘルツ波は縦型共振器構造内に入り、その周波数が共 振器の定在波条件と合致すると、放射テラヘルツ波の ITO ミラーによる反射成分が重畳 される。これが更なるプラズモン共鳴の励起となり、プラズモン共鳴からテラヘルツ波 放射への正帰還につながる。
第2章 2次元プラズモン共鳴型エミッター
第2章 2次元プラズモン共鳴型エミッター 2.2.2 特性周波数と構造設計特性周波数と構造設計特性周波数と構造設計特性周波数と構造設計 本デバイスのように周期的なモード変換機構を備える場合、その変換効率を左右するパ ラメータとして、デバイス構造に依存する特性周波数というものが存在する。このパラメ ータを目的とする動作条件に対して最適化してデバイス設計を行うことにより意図した周 波数帯で、かつ効率的な動作が可能になる。 図 2.2.5 特性周波数 本デバイスにて考慮される特性周波数は図 2.2.5に示すように少なくとも3種類の回折格 子構造が存在しており、(Ⅰ)ゲート電極の特性周波数ωp1、 (Ⅱ)2次元プラズモン領域の特 性周波数ωp2 、(Ⅲ)その接続領域の特性周波数ωp3を考慮する必要がある。Mikhailov による と、これらの特性周波数ωpXは次の式で与えられる [6]。
⋅
′
≡
X X X pX pXa
L
η
ω
ω
2 2 (2.46) ここで、ω'pXはプラズモン周波数、X は共鳴発生源を示す添字で{1:ゲート電極、2:2次 元プラズモン領域、3:接続領域}というように対応する。ηX は周期構造によるプラズモン 特性周波数の摂動係数であり、周期間隔 aX、単一周期構造の幅(共振器長)LXで表される 回折格子充填率LX/aXによって定まる。ゲート電極で発生するような、アンゲーテッドな(電 極誘引されたものではない)プラズモンに関して、ω'pXは以下のように表される。 X X X X pm
n
e
L
l
ε
π
ω
1 22
2
=
(2.47) mXは電子有効質量、eは誘電率、nsXは電子濃度でありnsXは導電率に直接関係するパラメー タである。一方、2次元プラズモン領域の特性周波数ωp2、接続領域の特性周波数ωp3のよう第2章 2次元プラズモン共鳴型エミッター に、ゲーテッドな(電極誘引された)プラズモンに関しては、ωpXは次の式で与えられる。 X X X X p
m
d
n
e
L
l
ε
π
ω
2 22
2
=
(2.48) ここで、d はゲート電極・プラズモン領域間の距離である。アンゲーテッドなプラズモンで は周波数が単一周期構造の幅Lの-1/2 乗に比例するのに対し、ゲーテッドなプラズモンでは Lの-1 乗に比例することに注意が必要である。 また、縦型共振器構造の基本周波数ωLも本デバイス内に存在する重要な特性周波数の比 等であり、以下のように与えられる。 bulk c c bulk LL
c
L
v
ε
π
π
ω
2
4
2
=
=
(2.49) ここで、vbulkは縦型共振器内でのテラヘルツ波伝播速度、Lcは縦型共振器長、cは光速、εbulk は縦型共振器内での誘電率である。以上のようにプラズモン周波数に縦型共振器の基本周 波数を加えた4つの特性周波数、ωp1、ωp2、ωp3、ωLが重要なパラメータとなる。 ωp1、ωLはデバイス作成後には変更できない固定パラメータである。本デバイスの構造設 計時には、目的の動作周波数(=プラズモン共鳴周波数~ωp2)とωp1、ωL が極力一致するよ うに回折格子の寸法(単一プラズモン領域ならびに周期性)、縦型共振器量を設定する必要 がある。ωp2とωp1 が同程度であれば、この領域を通過する電磁波のエネルギーが表面プラ ズモンからのエネルギー供給を受けて増幅されることが期待される[6]。また、ω p2とωLが同 程度であれば縦型共振器の働きによりプラズモン共鳴周波数を含む比較的広い周波数領域 での高い電磁波放射効率が期待できる。また、共振器内へのプラズモンの閉じ込めのため には、チャネル領域と両脇の接続領域間に急峻な電子濃度差を与え、共振器境界を明瞭に 定義する必要がある。式(3)から、電子濃度差を大きくすることは特性周波数に格差を与え ることに相当するので、ωp3はωp2から大きく離調されなければならない。 本デバイスでのプラズモン共鳴をテラヘルツ帯にて動作させるためには、高い電子移動 度を実現する HEMT 構造と、その材料として GaAs 系や InP 系などのⅢ-Ⅴ族化合物の使用 が適していると考えられる。これらを用いることにより2次元プラズモン領域の電子濃度 nsを10 12 cm-1、プラズモン共振器長Lを0.1~1µm、共振器周期a2、縦型共振器長Lcを10µm のオーダーに設定でき、テラヘルツ帯での共鳴が可能になる。 基本的にはゲート電極としては金属(Ti/Au)を用い、これをシングルへテロストラクチ ャーと呼ぶ(図 2.2.6)。一方、電極として半導体材料を用いたものをダブルヘテロストラク チャーと呼ぶ。これはゲート電極の導電率が低い方が放射効率の向上が見込めるものであ り。ダブルへテロタイプではシングルへテロタイプのものよりも強度の高いテラヘルツ波 放射が期待される。本研究ではシングルへテロタイプ、ダブルへテロタイプ双方に対して 同様な計測を行うこととする。第2章 2次元プラズモン共鳴型エミッター 図 2.2.6 ダブルへテロストラクチャー 図 2.2.7 シングルへテロサンプルの電子顕微鏡写真 サンプルの代表的な電子顕微鏡写真を図 2.2.7 に示す。このサンプルはゲート1長さ LG1=70µm、ゲート2長さ LG2=1850µm、ゲート本数はゲート1;15 本、ゲート 2;16 本。 ゲートの縦方向の長さ;30µm、ソース・ドレイン間距離;75µmとなっている。サンプルの 構造は図 2.2.8、2.2.9に示す表のように複数用意され、状況に応じて使い分けている。
第2章 2次元プラズモン共鳴型エミッター
図 2.2.8 シングルへテロサイズ表
第2章 2次元プラズモン共鳴型エミッター
2.3 プ
プ
プ
プラズモン
ラズモン
ラズモン
ラズモン共鳴型
共鳴型
共鳴型エミッターからの基本放射特性
共鳴型
エミッターからの基本放射特性
エミッターからの基本放射特性
エミッターからの基本放射特性
本デバイスからのテラヘルツ放射の基本的な特性でこれまでに得られているものとして、 検出器による室温下での放射エネルギー、フォトレスポンス測定[7]と、電気光学サンプリン グによる計測[8]の結果について述べる。 2.3.1 放射エネルギー・フォトレスポンス測定放射エネルギー・フォトレスポンス測定放射エネルギー・フォトレスポンス測定放射エネルギー・フォトレスポンス測定結果結果結果結果 本デバイス内部でプラズモン共鳴が発生する際にはドレイン・ソース間の電位には∆U の 変化が生じ、これが実測可能な値としてプラズモン共鳴の観測に有意である事は既に述べ た通りである。この性質を利用して励起光照射時のソース・ドレイン間電圧の変化を測定し たものがフォトレスポンスである。 一方、放射エネルギーを直接測定するための検出器としては、テラヘルツ波の高感度検 出が可能な 4K-Si ボロメータを使用している。ボロメータはテラヘルツ波を含む遠赤外領域 の電磁波の高感度な検出に広く利用されている検出器である。これは抵抗体の抵抗値が温 度によって変化する性質を利用しており、特に 4K 付近の極低温で動作するものは温度の低 下によって抵抗値が急激に増大する性質を持つ抵抗体が使用され、波長 1000µm までの超遠 赤外領域で応答の早い検出器として活用されている。本測定では図 2.3.1に示すようなボロ メータ内臓の 0.5~3.0THz のフィルターを使用してテラヘルツ帯電磁波のみを検出してい る。 図 2.3.1 ボロメータのフィルター特性 実験系を図 2.3.2に示す。ソース接地、ドレイン開放条件下で素子下面より 1.55µm 帯の 半導体レーザを励起光として照射している。ロックイン検出の信号源として、この励起光 に 1.29kHz の変調をチョッパーにより機械的に与えている。測定素子は LG1=350nm、 LG2=70nmで、バイアス条件はVDS=1.0で固定の下、VG1・VG2を変化させて信号を検出してい る。テラヘルツ波は大気中の水蒸気による吸収が大きいため、ボロメータはエミッター近 傍に置かれ、エミッターより上方向に放射されたテラヘルツ波は方物面鏡により水平にコ リメートされてボロメータにて検出される(図 2.3.3)。フォトレスポンスのためのソース・ ドレイン間電圧の計測はナノボルトメータを用いる。2つの測定は同時に、室温下で行わ第2章 2次元プラズモン共鳴型エミッター れ、両者の相関性を調べている。 計測結果を図 2.3.4に示す。VG2=2.5Vの付近で両者が同調して高い反応を示していること が分かる。このように室温下でのテラヘルツ波放射、ならびに放射時の 1.55µm 帯の照射光 に対するプラズモンの光励起と思われる高い反応を示している事が確認されている。 図 2.3.2 実験系 図 2.3.3 実験系写真
第2章 2次元プラズモン共鳴型エミッター 図 2.3.4 放射エネルギー、フォトレスポンス測定結果 2.3.2 電気光学サンプリング電気光学サンプリング電気光学サンプリング電気光学サンプリング測定結果測定結果測定結果 測定結果 電気光学サンプリング法による測定結果について述べる。これは電気光学(EO)結晶の 電界に対する屈折率の変化を利用してポンプ・プローブ法により放射テラヘルツ波の検出 を行うものである。本エミッターに対しては高周波であるテラヘルツ波に対する計測のた めに時間分解能の高い反射型電気光学サンプリング(REOS;Reflection Electro Optic Sampling)による計測が行われており、その結果について簡単に述べる。 電気光学結晶を介したテラヘルツ波検出の概略図を図 2.3.5に示す。REOS 用の Si プリズ ムの下面に EO 結晶として CdTe が装着されている。エミッターはその下に配置され、下方 から EO 結晶にテラヘルツ波が放射される。EO 結晶の屈折率変化を検出するためのプロー ブ光は Si プリズム上方から入射され、プリズム内部の EO 結晶との境界面で全反射を起こ して再び上方に出射されて検出される。EO 結晶の屈折率変化はプローブ光の偏光方向の変 化という形で観測される。単一の 1.55µm の通信用半導体パルスレーザを2分してエミッタ ーへの励起光(ポンプ光)およびプローブ光として使用する。実験系の概略図を図 2.3.6に 示す。計測は全て室温下で行われた。 図 2.3.5 EO 結晶を介したテラヘルツ波放射の観測
第2章 2次元プラズモン共鳴型エミッター 図 2.3.6 REOS 実験系 REOS によって得られた典型的な計測結果を図 2.3.7に示す。右上のグラフ内に示してい る小さなグラフが計測されたテラヘルツ波の時間応答で、それをフーリエ変換したものが 大きなグラフである。変換後のグラフにはプラズモンのモードに対応するテラヘルツ波の 放射とみられるピークが確認され、さらに左下のグラフのようにバイアス条件を変化させ た場合、ピークの位置がシフトしていることが分かり、周波数可変性能も確認されている。 図 2.3.7 パルス光照射に対する周波数応答
第3章 フーリエ赤外分光法(FTIR)
第3章
第3章
第3章
第3章
フーリエ赤外分光法
フーリエ赤外分光法
フーリエ赤外分光法
フーリエ赤外分光法(
(
(FTIR)
(
)
)
)
本研究では2次元プラズモン共鳴型のテラヘルツエミッターに対して初めてフーリエ赤 外分光法(FTIR)による周波数特性を計測した。FTIR は赤外領域の光に対して有効な分光 測定法であり、非常に高精度で分解能の高い放射スペクトル測定が可能である。本章では まず FTIR の基本的な動作原理について Michelson 干渉計による手法を例にして述べる。さ らに、本エミッターからの放射測定に実際に使用した FTIR 装置について述べる。3.1
FTIR 基本原理
基本原理
基本原理
基本原理
フーリエ変換分光法は光の波動性を利用する干渉分光法の一種であり、本装置でも採用 している Michelson 干渉計に代表される2光波干渉計がよく使用されている。特に赤外領域 に対して行われるものがフーリエ赤外分光法(FTIR;Fourier Transform Infrared spectroscopy) であり、ここでは FTIR の基本的な原理について Michelson 干渉計を用いた系にて説明する。 S:光源、L1、L2:レンズ、BS:ビームスプリッター、M1: 固定鏡、M1’:固定鏡の虚像、M2:可動鏡、D:検知器S
L
1D
L
2BS
M
1M
2M
1’
図 3.1.1 干渉計での光路第3章 フーリエ赤外分光法(FTIR) まずは干渉計における光路について簡単に述べる。Michelson 干渉計はビームスプリッタ ー、固定鏡、可動鏡から構成される。図 3.1.1に示すように、光源から放射された光は平行 光になりビームスプリッターによって2光束に分けられる。一方の光束はビームスプリッ ターを透過し、固定鏡で反射されてビームスプリッターに戻る。もう一方はビームスプリ ッターで反射され、可動鏡で反射されてビームスプリッターに戻る。2光束は再合成され て検出器にて強度を検出される。 点光源からの単色光が干渉計に入力されると考え、入力される単色光は次のように表す。 x i t x i
Ue
Ae
u
1=
{2π(ν~−ν)+ϕ}≡
2πν~ (3.1) 今回は変位を考えるので実数部を扱うことになる。光路(S→BS→M1→BS→D)の光路長 をx1、光路(S→BS→M2→BS→D)の光路長を x2、ビームスプリッターの振幅透過率をt、 振幅反射率をrとすると、Michelson 干渉計から出射して検出器に到達する光束は以下のよ うに表される。 1 2 1 2 ~ 2 ~ 2 ~ 2)
1
(
i x i x x i x ie
e
rtU
rtUe
rtUe
u
=
πν+
πν=
+
πν πν (3.2) 検出器では強度が検出されるから、uの強度をIとして ∗= Kuu
I
(3.3) と表す。I0を入射光(光源)の強度、ビームスプリッターのエネルギー反射率、透過率をそ れぞれR、Tとして 0 0RTI
I
tt
rr
B
=
∗ ∗=
(3.4) とおけばIは以下のように表される。)
~
2
cos
1
(
2
)
(
x
B
x
I
=
+
π
ν
(3.5) では、光源からの光がある周波数領域にスペクトル分布を持つ場合を考える。スペクト ル強度分布をB(ν)とすれば、入射光の強度は次のように表すことができる。∫
∞+
=
0~
)
~
2
cos
1
)(
~
(
2
)
(
x
B
ν
π
ν
x
d
ν
I
(3.6) ここで∫
∞=
0~
)
~
(
4
)
0
(
B
ν
d
ν
I
(3.7)2
/
)
0
(
~
)
~
(
2
)
(
0B
d
I
I
∞
=
∫
∞ν
ν
=
(3.8) である。式(3.6)から非干渉成分である直流成分が引かれた干渉成分である交流成分を F(x) とおくと式(3.7)、式(3.8)からF(x)は次のように与えられる。∫
∞=
∞
−
=
−
=
0~
~
2
cos
)
~
(
2
)
(
)
(
2
/
)
0
(
)
(
)
(
x
I
x
I
I
x
I
B
ν
π
ν
xd
ν
F
(3.9)第3章 フーリエ赤外分光法(FTIR) このF(x)をインターフェログラムと呼ぶ。CW 光源の場合は干渉計を通過する全光束I(x)は x=0のときに全光束の和になって強くなるが、xの増大につれて余弦関数がxと波長によっ て正負をとるために強度が減少し図 3.1.2に示すような形状を示す。光路差 0 付近の大きい 信号はセンターバーストと呼ばれる。ここで、数学的取扱いの便利のために、B(ν)は B(ν)=B(-ν)である偶関数と考えてν を負の領域まで拡大する。
∫
∫
−∞∞=
∞=
0~
~
2
cos
)
~
(
2
~
~
2
cos
)
~
(
)
(
x
B
ν
π
ν
xd
ν
B
ν
π
ν
xd
ν
F
(3.10) この式はフーリエ余弦変換対として知られる対式の一方であり、もう一方は以下のように 書ける∫
∫
−∞∞=
∞=
0~
2
cos
)
(
2
~
2
cos
)
(
)
~
(
F
x
xdx
F
x
xdx
B
ν
π
ν
π
ν
(3.11) このことから、光路差xに対してインターフェログラムF(x)を測定、フーリエ変換すること により、光源のスペクトルB(ν) が得られることが分かる。 図 3.1.2 インターフェログラム 実際に光源の放射スペクトルが得られるまでの手順の概略図を図 3.1.3に示す。光源から の放射が無い場合のスペクトルを計測し、これをバックグラウンド測定と呼ぶ。続いて光 源から光を放射させてスペクトルを計測、これはサンプル測定と呼ぶ。サンプル測定の結 果をバックグラウンド測定の結果で割ることにより、光源以外の背景からの余分な放射ス ペクトルを除去し、光源から放射される光のみのスペクトルを得ることができる。第3章 フーリエ赤外分光法(FTIR)
第3章 フーリエ赤外分光法(FTIR)