STEM 教育における科学的思考の育成を目的とした
環境教育教材の開発
髙 田 優 介
† † 教科教育専攻 技術教育専修 指導教員:岳野公人 第1章 序論 1.1 本論文の目的 本論文の目的は,STEM 教育における科学的 思考の育成を目的とした環境教育教材の開発で ある。 1.2 研究の背景 現 在, 米 国 を 発 端 に, 各 国 で STEM 教 育 が 推 進 さ れ て い る。STEM と は,Science: 科 学,Technology:技術 , Engineering:工学 , Mathematics:数学が統合されたものであり, STEM に関する教育を STEM 教育と呼ぶ。STEM 教 育は科学・数学を基盤として展開する科学技術 に関する人材育成(理数,理工学系の人材育成) を目的とした戦略であると考えられ,児童・生 徒の科学技術への理解増進にはじまり,広く は,市民における科学技術リテラシーの普及・ 向上に及ぶものと考えられている1)。STEM 教 育は米国を発端としており,米国が STEM 教育 に取り組む理由として,より優れた工業製品の 開発やより良いヘルスケアの実現,またエネル ギー供給や環境の保全,経済の発展などの分野 で,米国のもつ世界各国に対する優位性を支え るのが科学・技術・工学・数学からなる STEM 分野であると認識されているからであると言わ れている2)。米国の大統領科学技術諮問委員会 が 2010 年 9 月に大統領に対して提出した議案 書「準備し触発せよ:米国の未来のための科学 技術工学数学における幼児教育−初等中等教育」 の中で次の 2 点を指摘している。 1. 全ての教科と年齢にまたがる学習,教育 と評価についての革新的技術とその技術 のプラットフォームを開発する。 2. STEM 教育に向けた効果的で全体が統合さ れ,コースが網羅する教材を開発する。 上記より,STEM 教育では国家発展のための 理工系人材育成が目的と考えられ,日本国内に おける人材育成に関する政策のうち,「理工系 人材育成戦略」3),「高度技術開発人材育成」4) 及び「グローバル経営戦略人材育成」5)がそれ に相当すると考えられる。これらの政策の目的 には,理工系人材育成を含んでおり,目的の達 成に向けた課題等についてはいくつかの提言が 存在する。 例えば,理工系人材育成戦略では,初等中等 教育に対して,創造性や探究心,主体性,チャ レンジ精神などを育むことが重点に置かれてお り,その中で観察・実験などの問題解決的な学 習を推進するとされている。高度技術開発人材 育成では大学修士段階までを見据えた教育改革 の重要性に関する指摘として,「日本では理工 農系の大学院進学率が高まり,技術系の新卒 採用の中心が学部から修士に移行してきてい る。この特徴を生かしつつ,直面する課題の克 服が重要である。」や,「初等教育から大学・大 学院教育までを一貫し,シームレスに理系の知 識を修得できるようなカリキュラムの構築に向 けて取り組むことが重要である。」が挙げられ る。さらに,「高度技術開発人材」及び「グロー バル経営戦略人材」の共通要素として,「数学, 自然科学の知識を用いて,公衆の健康・安全へ の考慮,文化的,社会的及び環境的な考慮を行 い,設計, 開発,課題解決活動を行うことので きる資質能力 ( 国際的な Engineer の技術資格 に相当する資質能力 ) の育成」が挙げられてい る。ここでの Engineer は,「数学,自然科学の 知識を用いて,公衆の健康・安全への考慮,文 化的,社会的及び環境的な考慮を行い,人類のために設計,開発,イノベーション又は解決の 活動を担う専門的職業人」と定義されている。 以上より,これらの政策の目的である理工系 人材育成を達成する上で,学校教育において STEM 教育を推進し,実践することは重要であ ると考える。そのため,日本国内においても, STEM 教育に関する研究は行われているものの, 具体的な授業実践に至る教材に関する研究は多 く見られない。そこで,本論文では,STEM 教 育を推進するための教材を開発することとす る。 第2章 科学的思考に関する調査 2.1 はじめに 理工系人材育成を目的とする STEM 教育を行 う上で,指導者が科学的な思考を有することは 重要である。科学的思考について,文部科学省 は科学的思考を戦略的に育成するとしており, その背景には,これまでの理数教育に関する課 題や全国学力・学習調査で明らかとなった課 題,社会と科学技術との関わりに関する我が国 全体の課題の 3 つを挙げている6)。これまでの 理数教育に関する課題には,例えば,「見通し を持ち,自ら観察・実験の方法を考案すること」 や,「観察実験の結果やデータを基にして考察 し,結論を導くこと」などを挙げている。全国 学力・学習調査で明らかとなった課題には,例 えば,「観察・実験の結果などを整理分析した 上で,解釈し,説明すること」を挙げている。 社会と科学技術との関わりに関する我が国全体 の課題には,例えば,「国民の科学技術リテラ シーや関心度が,諸外国と比べ低いこと」や,「原 子力事故においても,いわれなき偏見・差別・ 風評・健康不安に乗じた詐欺的商法の被害など に関し,科学的な根拠に基づく批判的思考の不 足等の指摘」などを挙げている。 さらに,教育上の課題の 1 つに,「科学的思 考習慣の育成」を挙げており,その対応として, 観察・実験や,日常との関連・応用を考えた質 の高い授業を通じ,思考力を育成すること(自 分の予想を基にした観察・実験の計画立案,結 果の考察振り返りを行うこと)や,質の高い観 察・実験等の授業を展開するため,教員の指導 力を向上させること(中学校では,観察・実験 に関し,仮説を基にした計画の立案,結果の考 察の指導を行うこと)などを挙げている。 そのため,学校教育においては,観察・実 験を取り入れた授業を実践し,さらに,その指 導者である教員は科学的思考を身につけている 必要があると考えられる。 そこで本章では,科学的思考について着目し, 現場教員と将来指導者となることが想定される 教員養成学部の理工系の大学生の考える科学的 思考の調査を実施した。 本調査の目的は,現場教員,及び大学生の考 える科学的思考の実態を明らかにすることであ る。 2.2 本章における科学的思考 科学的思考についての先行研究は多く実施 され,多様な定義が存在する。その中でも金田 ら7)は,科学的思考を図 1 のように捉え,推 論をするとき,科学の知識について考えるとき, 批判的な思考をするときに,客観性が保たれて いるか,実証性はあるか,合理性のある考え方 かなどを考える必要があることを意味し,「科 学の性質を保ちながら科学の方法を使い考える こと」を,科学的思考としている。本章では, この定義を採用し調査を進めることとした。 2.3 科学的思考の調査 2.3.1 調査の目的 本調査は,現場教員,及び大学生の考える 科学的思考の実態を明らかにすることを目的と した。
2.3.2 調査内容と分析方法 本章では,科学的思考に関する質問項目を 設定し,理科,技術科の現場教員 51 名,及び 教員養成学部の理工系の大学生 28 名を対象に 自由記述形式の調査を実施した。調査時期は 2016 年 5 月から 2016 年 9 月である。 回答の分析には,樋口8)の開発した,文字 情報を計量的に分析する機能を持つ「KH Coder ver.2」を用いた,テキストマイニング分析を 実施した。テキストマイニング分析ではまず, 抽出語の分析により,どのような語がどれほど の頻度で表出しているかを算出した。その後, それらの抽出語がどのような構造で構成されて いるのかを共起ネットワーク分析によって,科 学的思考に対する意識の構造分析を行った。な おこれらの分析は,KH Coderver.2 の分析機能 に含まれるものである。 分析前にはテキストデータの前処理として, 表現の統一,誤字などについて修正した。テキ ストマイニング分析に使用した語句の品詞は, 名詞(名詞 C を含む),サ変,動詞,形容詞, 副詞とし , 文末で頻出が多いと考えられる「思 う」は抽出しない語として設定した。また,同 じく文末で頻出が多いと考えられる「考える」 については,科学的思考を指す意味で用いられ ていることが推測されるため,ここでは抽出す ることとした。 2.3.3 分析結果 表1に抽出語の概要を示す。現場教員と大 学生の科学的思考に対する意識を把握するため に,現場教員と大学生がどのような語を使用し ているのか集計した。 表1 抽出後の概要 その結果,現場教員 51 名に対して,総抽出 使用語数は 617 語,異なり語数は 218 語,一人 当たりの文数は 2.1 文であった。最頻出語の上 位 3 語は「知識(10 語)」,「理解(8 語)」,「学 習(6 語)」であった。また,自由記述中にお いて,「知識」は「興味,関心を持ち,本質と 応用が結びついた考えかた(基本),学ぶため に必要な知識や技能(基礎)。」,「理解」は「物 理法則を理解し,様々な現象に適用できる事こ と。」,「学習」は「服装,態度,時間規律であり, 学習内容については学習指導要領の内容をふま え,応用,発展につながる内容が基礎基本です。」 のように使用されていた。共起ネットワーク分 析の結果を以下に図示する(図 2)。 また,大学生 28 名に対して,総抽出使用語 数は 258 語,異なり語数は 118 語,一人当たり の文数は 2.0 文であった。最頻出語の上位 3 語 は「考える(7 語)」,「解決(6 語)」,「自分(5 語)」であった。また,自由記述中において,「物 事を考える力。」,「ある物事を考え,解決する こと。」,「自分で問題を解決し,理論づけて説 明する力。」のように使用されていた。共起ネッ トワーク分析の結果を以下に図示する(図 3)。
図 2 共起ネットワーク(現場教員) 2.3.4 分析結果の考察 分析の結果より,現場教員は科学的思考に ついて,「法則」に対して意識しており,中学 校学習指導要領解説技術・家庭科編技術分野9) (以下,技術科と呼ぶ)における「小学校及び 中学校の理科等におけるエネルギーに関する学 習を踏まえ , 関連する原理や法則が具体的にど のような機器やシステムに生かされているかを 取り上げ , 科学的な根拠に基づいた指導となる よう配慮する。」というように中学校技術科の 学習指導要領の内容を示唆していることが考え られる。また,大学生の多くは高校までのテス トや授業で学習した知識を科学的思考の要素と 捉えていることが推測される。 2.4 おわりに 本章では,STEM 分野の現場教員,及び大学 生を対象に科学的思考に関する自由記述形式の 調査を実施した。得られた自由記述に対してテ キストマイニング分析を行った結果,科学的思 考について,現場教員の多くは学習指導要領程 度,また,大学生の多くは高校までのテストや 授業で学習した知識を科学的思考の要素と捉え ていることが推測された。今後は,科学的思考 の指導を視野におきながら,教員養成,教員の 研修も想定し,STEM 教育推進のために科学的 思考の定量的な評価方法について追究する必要 がある。 第 3 章 科学的思考の育成を目的とした小松菜 を用いた環境教育教材 3.1 はじめに STEM 教育では工学教育等に加えエネルギー 供給,環境の保全10)が注目されていることか ら,本章では,環境の保全に着目した教材開発 を行うこととした。環境問題の 1 つには資源の 枯渇問題を挙げることができ,資源の枯渇問題 は日本でも問題視されている。日本で使用され ている化学肥料は,すべて化石 ・ 鉱物資源から 作られており11),資源は消費し続けられてい るため,その代わりとなる有機肥料を用いる必 要がある。例えば,木質バイオマスに関して林 野庁12)では,資源の循環や効率的な利用を進 め,環境に対して負荷の小さい社会を築くこと を目的に,木質バイオマスの利活用が促進され ている。このことからも,木質バイオマスであ る流木の有効活用は重要であると言える。さら に地球温暖化防止に貢献することを目標に,廃 棄物を減らし,二酸化炭素の排出を極力抑制す る循環型社会の形成を目指していることから, 有機質資源である木質系堆肥を用いることで廃 棄物を減らすことは重要であると考えられる。 さらに, STEM 教育は,科学技術に関する人材
育成に向け,科学的思考の育成を目的としてい ることや,中学校学習指導要領解説技術・家庭 科編技術分野13)において,「科学的な根拠に基 づいた指導となるよう配慮する。(一部抜粋)」 と述べられていることからも,指導者は,児童・ 生徒に対し科学的な根拠を持つ教材を用いて授 業を進めることは重要である。そこで,本章で は,堆肥の生成をし,生成した堆肥の効果分析 を行うこととした。 3.2 滋賀県内の流木堆積問題 滋賀県における木質資源の廃棄問題は昨今 1 つの重要な環境問題となっている。滋賀県内の 関係機関に情報収集をした結果,野洲川の流木 や,琵琶湖周辺の河川の廃棄木材の存在が示さ れた。また野洲川は国土交通省の管轄であり, 職員にインタビューしたところ,これらの木材 の廃棄経費は数百万円かかるということであっ た。これらの流木は台風や大雨時には,河川の 氾濫の原因となるため,琵琶湖周辺の住民に とっても放置できない問題となっている14)。 3.3 教材開発の目的 本章では,ものづくり教育や中学校技術・家 庭科技術分野の授業を通して,子どもたちの環 境意識を向上させ,将来の環境保全に貢献でき る人材育成に役立つ教材開発を目的とした。教 材開発では,滋賀県内のダムや琵琶湖周辺の河 川の木質資源を利用した。従来では廃棄予定の 木質資源を有効活用し,生徒にとって身近な地 域から収集した木質資源を利用することで,地 域や森林,木質資源に愛着を持たせ,森林保全 への興味・関心の喚起に繋がると考えた。 3.4 教材開発の方法 先行研究14)において,ものづくり教育や技 術科の授業を通して子どもたちの環境意識を向 上させ,将来の環境保全に貢献できる人材育成 と廃棄処分予定の木質資源を有効活用すること で環境意識の変化を検討するために授業実践が 実施されている。そこでは,流木を使ったウォー ルフックの製作をテーマとして行われた。流木 を加工する際に排出される,廃棄物としてのお が屑も有効活用が可能な木質資源であることか ら,本章では,廃棄処分予定の木質資源の加工 時に排出されるおが屑の有効活用を目的として 教材開発を行った。おが屑の有効活用として, 日本産業技術教育学会小学校委員会「小学校教 員向け指導書」15)における,「2-4-2 小学校 3, 4 年生用題材 題材1:落ち葉を利用した堆肥 づくり」を参考に,おが屑を使った堆肥づくり とした。 3.5 堆肥づくり 本研究では,流木の加工時に排出されるおが 屑を資材として用い,以下の堆肥を生成した。 堆肥生成・熟成期間は 2016 年 3 月 5 日から 5 月 23 日までである。堆肥の材料には,おが 屑,落ち葉,米ぬか,EM 菌を用いた。各質量 はおが屑 800 g,落ち葉 2400 g,米ぬか 320 g, EM 菌 10 gである。道具には,ダンボール,ガ ムテープ,一輪車,バット,スコップ,計量器 などを使用した(表 4)。堆肥は大学内の木工 室内に保管し,適宜水を与え,2 週間に 1 回程 度かき混ぜることで堆肥内の温度が均等になる ようにした。以下に,堆肥づくりの工程表(表 5)を示す。 工程①「道具の準備」では,ダンボール,ガ ムテープ,一輪車,容器,スコップ,計量器を 用意した。スコップ(大)と一輪車はかき集め
られた落ち葉を運ぶため,容器,スコップ(小), 計量器は堆肥を作ることに使用した。 工程②「落ち葉をかき集める」では,学内で かき集められ,堆積された落ち葉をスコップ (大)と一輪車を使用し,作業場まで運搬した(写 真 1)。 工程③「ダンボールを組み立てる」では,ダ ンボールは折りたたまれていたため,完成した 堆肥を保管し,腐熟させるために箱の状態に組 み立てた。その際,繋ぎ目に隙間ができること から,隙間から堆肥が漏れるのを防ぐため,ま た,ダンボールの強度を増すためにガムテープ で補強した。 工程④「おが屑と落ち葉を混ぜる」では,流 木を加工する際に排出されるおが屑(600g)と 落ち葉(1800g)を計量器で重さ測り,容器の 中で混ぜ合わせた(写真 2)。この時,木の枝 や木片などの堆肥化されにくいものがあった場 合は取り除く。また,手で混ぜる際は木片など で手を怪我しないよう,十分に注意する。 工程⑤「④に米ぬかを混ぜる」では,工程④ で混ぜ合わせた,おが屑と落ち葉(計 2400g) に米ぬか(240g)を混ぜ合わせる(写真 3,4)。 米ぬかの量は,おが屑と落ち葉を合わせた質量 の 10%とした。さらに,堆肥の腐熟を促すた めに,EM 菌を 10 g程度混ぜた。 工程⑥「⑤に水を混ぜる」では,工程⑤で 混ぜ合わせた,おが屑と落ち葉,米ぬか(計 2650g)に水を少しずつ混ぜる(写真 5)。水の 散布は堆肥を手で掴み握った時に,指の隙間か ら水が漏れるのを確認できるまでとした。 工程①から⑥を終えた後は,工程③で組み立 てたダンボールに製作した堆肥を移し,日の当 たらない屋内で保管し,腐熟の経過を待つこと とした。また,腐熟をさせる期間,2 週間に 1 回の頻度で堆肥中の温度を均一にするため,ス コップで全体を攪拌した。写真 6 は生成した堆 肥である。 写真 1 落ち葉集め 写真 2 資材の計量 写真 3 資材の混合
写真 4 資材の攪拌 写真 5 水の散布 写真 6 完成した堆肥 3.6 小松菜を使用した生育試験 本項では,生成した堆肥の生物育成に与える 効果を検討するために,小松菜の生育試験を実 施した。小松菜を採択したのは,一年を通して, 安定した成長を見越せるためである。また,本 項では,計 3 度の生育試験を実施し,ここでは 主として,3 度目の生育試験と取り上げること とした。3 度目の小松菜の生育試験は,過去 2 度の生育試験の課題を参考に,実施した。以下 に,1 度目と 2 度目の試験結果から得た課題を 挙げる。 1 度目:すべての試験区で発芽は認められた (写真 7)。しかし,水の与えすぎにより土壌が 固まってしまったことで生育が止まってしまっ た試験区が認められたことや,堆肥を混合した 土壌においては他の試験区と比べ,小松菜の生 育が認められなかったことにより,統計分析に 必要とされる標本数を得ることができなかった (表 6)。 2 度目:発芽が認められない試験区が認めら れた(写真 8)。しかし,小松菜の葉が害虫の 被害に遭ったことで,統計分析に必要とされる 標本数を得ることができなかった(表 7)。 そこで,3度目の本研究では,以前の課題を 踏まえ,生育試験期間中の朝夕に水やりを行い, 害虫対策として防虫ネット(写真 9)を張るこ とにより,課題を解決できると仮定し,生育試 験を実施した。 写真 7 1 度目の生育試験
写真 8 2 度目の生育試験 生育試験期間は,2016 年 5 月 23 日から 2016 年 6 月 17 日までとした。試験区には,学内の 畑の土,培養土,牛ふん,生成した堆肥を用い た 7 区画 35 ポット,培養土,牛ふん,生成し た堆肥を用いた7区画 35 ポットの計 14 区画, 70 ポットを設定し,それぞれ異なる混合比で 生育試験を実施した。試験区の詳細を表 8 に示 す。 写真 9 3 度目の生育試験(防虫ネット)
3.7 試験結果及び考察 小松菜の生育試験を行った結果,これまでの 生育試験と比べ,すべての試験区において発芽 が認められ ( 表 9),さらに害虫からの被害を 抑制することができた(写真 10)。表 10 に,3 度目の生育試験の結果(最大葉長 ・ 葉幅)を示 す。 また,有意差検定を行った結果,全試験区内 では,第 13 試験区(培養土:牛ふん= 9:1) における小松菜の平均葉長・葉幅が,他の試験 区と比べて有意であることが示唆された(表 11)。また,生成した堆肥を含む試験区(2,3, 4,9,10,11)内においては,第 10 試験区(培 養土:堆肥= 9:1)に最も生育が認められた。 第 2 試験区,第 3 試験区,第 4 試験区は,培養 土や牛ふんなどの栄養を十分に含む資材を用い られていないことから,他の試験区と比べ生育 があまり認められなかったと考えられる。さら に,小松菜の生育を促すことができなかった課 題として,堆肥の腐熟が十分でなかったことが 考えられる。本生育試験においては,培養土: 牛ふん= 9:1 の試験区が,小松菜の生育へ有 効的であったことが認められたが,学校教育に おいて,毎年これらの資材を揃えることは,環 境への影響やコスト面で懸念されることが推測 される。先行研究では,木質系堆肥生成のため の有益な資料は少ないことから,今後は培養土 や牛ふんなどの資材に代わる,木質系堆肥につ いて検討する必要があると考える。 写真 10 小松菜(3 度目の生育試験時) 3.8 おわりに 本章では,科学的な根拠を持つ環境教育教材 について検討した。今回の堆肥化,生育試験は 中学生を対象とした教材として実施した。生育 試験までの学習過程は,道具の準備,落ち葉拾 い,その他資材収集,堆肥づくり,試験区の設置, 小松菜の生育試験,堆肥の評価であった。この 過程を学習過程と想定することで,環境教育教 材として活用可能であることが推測される。 本教材は問題解決の過程を経ていることや, 栽培計画を立て,材料や道具を用いて実際に堆 肥をつくり,小松菜を生育する中で問題解決を 行ってきたことから,学校教育において問題解 決学習として実践できることが示唆される 本生育試験においては,生成した堆肥を含む
試験区には,作物の生育に有効な効果は十分に 認められなかったものの,数値を測定し,結果 を分析し,課題を検討する学習の機会を設ける ことができると推測される。現行の中学校学習 指導要領技術・家庭科技術分野4)の内容にお ける,C 生物育成に関する技術には,(1)ア「生 物の育成に適する条件と生物の育成環境を管理 する方法を知ること。」,(1)イ「生物育成に関 する技術の適切な評価・活用について考えるこ と。」,(2)ア「目的とする生物の育成計画を立 て,生物の栽培又は飼育ができること。」と記 されている。また,同学習指導要領解説の,(1) ア「生物の育成に適する条件と生物の育成環境 を管理する方法を知ること。」では,気象的要 素や,土壌的要素,生物的要因といった環境要 因や,種まき,除草など収穫までの育成環境の 管理技術を知るようにとされている。(1)イ「生 物育成に関する技術の適切な評価・活用につい て考えること。」では,自然の生態系を維持し よりよい社会を築くことなど,持続可能な社会 の構築のための生物育成に関する技術が果たす 役割について理解させるとされている。(2)ア 「目的とする生物の育成計画を立て,生物の栽 培又は飼育ができること。」では,栽培計画を 立て,準備物などを知り,目的を明確にした実 習を行うとされている。よって,本章で開発し た教材は,技術科の生物育成に関する技術にお いて,問題解決学習の教材として用いることが できると考えられる。さらに,STEM 教育では, 仮説を立て,実証する学習が行われていること から,環境教育教材を用いた,STEM 教育の実 践も可能であることが期待される16)。 今後は,教材の持つ科学的思考力の育成に関 する評価をすべく,中学校技術科で本教材を使 用した授業実践を行い、その教育効果を検討す る必要がある。 第 4 章 結論 4.1 本論文のまとめ 本論文では,STEM 教育を推進するための教 材開発を目的とし,研究を行ってきた。第 2 章 では, STEM 分野の現場教員,及び大学生を対 象に科学的思考に関する自由記述形式の調査を 実施した。得られた自由記述に対してテキスト マイニング分析を行った結果,科学的思考につ いて,現場教員の多くは学習指導要領程度,ま た,大学生の多くは高校までのテストや授業で 学習した知識を科学的思考の要素と捉えている ことが推測される。 また,第 3 章では,小松菜の生育試験を用い た環境教育教材の提案を実施した。生育試験の 試験区には,自らで生成した木質系堆肥を使用 し,合計3度に渡る生育試験を実施し,その効 果と課題を検討した。木質系堆肥は,小松菜に 対して有効的な効果は示さなかったものの,生 育試験までの過程を学習課定と想定した場合, 環境教育教材になり得ることが推測される。ま た,先行研究17),18)において,仮説,実証を繰 り返し行っている教材を用いて STEM 教育を実 践していたことから,本試験過程は,科学的思 考の育成を目的とする STEM 教育の教材になり 得ることが期待される。 4.2 本論文の今後の展望 本論文の今後の展望について,第 2 章では, 今後は科学的思考の指導を視野におきながら, 教員養成,教員の研修も想定し,STEM 教育推 進のために科学的思考の定量的な評価方法につ いて追究する必要がある。また,第 3 章で提案 した教材を学校教育現場で実際に使用し,中学 校技術科の授業計画内に本教材を題材とした授 業を組み込んだ実践を行なうことで,教育効果 を検討する必要がある。 その他の研究に関わる活動
・口頭発表(Oral English):「Examination of
STEM Educational Program Using a Growth Test of Komatsuna」,International Con-ference on Science, Technology & Educa-tion(Technology, Hand-making, Engineering Education, Energy & Environment) 2016,会 場 :Siam Bayshore Resort & Spa Hotel Pat-taya,Chonburi, Thailand,2016 年 9 月 1 日(木)
・口頭発表:「現場教員と大学生を対象とした
STEM 教育に関する科学的思考の調査報告」,日
本産業技術教育学会近畿支部 平成 28 年度総
2016 年 12 月 18 日(日) ・共同著者:岳野公人,高田優介,山本利一: STEM 教育を Design する−技術教育の視点から−, iBooks:https://itunes.apple.com/us/book/ stem-jiao-yu/id1198893139?ls=1&mt=11 引用文献 1 ) 国立国会図書館 調査及び立法考査局:科学 技術政策の国際的な動向 [ 本編 ],科学技術に関す る調査プロジェクト調査報告書,調査資料 2010-3, pp.121-134,2011 2 ) 丸山恭司,磯崎哲夫,古賀信吉,三好美織, 影山和也,渡辺健次:STEM 教育の展開可能性に関す る研究,広島大学大学院教育学研究科共同研究プロ ジェクト報告書,第 13 巻,pp.23-30,2015 3 ) 文部科学省:理工系人材育成戦略, 2015,http://www.mext.go.jp/component/a_ menu/education/detail/__icsFiles/afieldfi le/2015/03/13/1351892_02.pdf 2017/02/02 閲覧 4 ) 総合科学技術会議基本政策専門調査会:将来 の産業社会の基盤を支える科学技術系大学院生のた めの教育改革(平成 22 年 1 月 27 日)http://www8. cao.go.jp/cstp/project/jinzai/ 2017/01/05 閲覧 5 ) 産業競争力懇談会:産業基盤を支える人材育 成と技術者教育,(2010 年 3 月 12 日 ), http://www. cocn.jp/thema27-L.pdf 2017/01/05 閲覧 6 ) 文部科学省:資料 5-7 科学的思考の戦略 的育成について,教育課程部会第 83 回配布資料, http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/ chukyo3/004/siryo/1324984.htm,2017/01/03 7 ) 金田真弥,川崎弘作 ,稲田佳彦:理科学習で 科学的思考力を育成するために必要な条件に関する 研究,岡山大学教師教育開発センター紀要,第 6 号, pp.97-105,2016 8 ) 樋口耕一:テキスト型データの渓流的分析 -2 つのアプローチの峻別と統合 -,理論と方法,数理 社会学会,Vol.19,pp.101-115,2004 9 ) 文部科学省 : 中学校学習指導要領解説 技術・ 家庭編,( 株 ) 教育図書,2008 10 ) 丸山恭司:STEM 教育の展開可能性に関する 研究,広島大学大学院教育学研究科共同研究プロジェ クト報告書,13 巻,pp.23-30,2015 11 ) 農林水産省:堆肥を巡る事情,http://www. maff.go.jp/j/seisan/kankyo/sehi/,2016/07/04 閲 覧 12 ) 林野庁:木質バイオマスの利用推進について, http://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/biomass/ index.html 2017/01/05 閲覧 13 ) 文部科学省:中学校学習指導要領解説 技術・ 家庭編,(株)教育図書,2008 14 ) 岳野公人,馬場雄介,奥野信一:「滋賀県の 木質資源を利用した環境教育教材の開発」,滋賀大 学環境総合研究センター研究年報,第 12 巻第 1 号, pp. 55-61,2015 15 ) 日本産業技術教育学会小学校委員会:小学校 ものづくり学習教員向け指導書~小学校図画工作科 と中学校技術家庭科との連携~,pp.102-110,2015 16 ) 内之倉真吾,石崎友規,齊藤智樹,Irma RahmaSUWARMA,今村哲史,熊野喜介,長洲南海男: アメリカにおける STEM 教育推進の活動事例報告 - ア イオワ州での取り組みに着目して -,日本科学教育 学会研究報告,Vol.29 No.1,2014 17 ) 内之倉真吾,石崎友規,齊藤智樹,Irma RahmaSUWARMA,今村哲史,熊野喜介,長洲南海男: アメリカにおける STEM 教育推進の活動事例報告 - ア イオワ州での取り組みに着目して -,日本科学教育 学会研究報告,Vol.29 No.1,2014 18 ) 角和博,岳野公人,白濱弘幸:EbyDk 教育に おける STEM 教育の実践ーミシガン州のレイク・フェ
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