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教員養成カリキュラムにおける大学と附属学校の連携について -教育実地研究と教育実習を事例として-

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(1)教員養成カリキュラムにおける大学と附属学校の連携について. 論 考. 教員養成カリキュラムにおける大学と附属学校の連携について. − 教育実地研究と教育実習を事例として −. 横浜国立大学教育人間科学部附属鎌倉中学校. 中 田 朝 夫 はじめに. 1 教育実地研究について. 平成 21 年 11 月に公表された「児童生徒の問題行. 横浜国立大学教育人間科学部における教育実地研究. 動等生徒指導上の諸問題に関する調査」の結果から、. は、平成9年の学部改組に伴う新教育課程において構. 学校内外で起こした暴力行為の件数が、小・中学校で. 想され平成11年度より実施されている。その位置づ. 過去最多になったことが明らかとなった。報道による. けは、1年次の「基礎演習」における学校見学など教. と、調査を所管する文部科学省は、都道府県教育委員. 育現場での体験と問題関心とを、3年次の「教育実習」. 会からの聞き取りをもとに、その背景について、「感. へつなげることとされている 3)。. 情をコントロールできない子供が増えている」、「規範. 教育実習において、学生は指導内容、指導方法はも. 意識が低下している」、「コミュニケーション能力が不. ちろん、教育活動を構成する要素なども学ぶ機会とな. 1). 足している」ことを挙げている 。. る。この時、学生が、子どもたちを眼前にした自分自. 一方、教員の大量採用時代を迎え、「ベテランの技. 身の存在や役割、またその影響力などを真剣に考える. を若手に」というタイトルで、達人とされるベテラン. ようになるためには、教育実地研究での経験が、「単. 2). 教師の力を分析している教育委員会がある 。分析で. なる『うわの空の経験』や『擬似的経験』以上の経験. は、主に3つの「力」が示されていた。それは、教師. に練りあげる必要がある」4)と強調されることは当然. としての基本姿勢で「対話力」、そして、授業に関し. のことであろう。. て「子ども達への一瞬の対応力やユーモア」、「教材探. 学生が授業にかかわる姿には、いわゆる「観察」「参. しや教材研究」という「力」である。. 加」「実地授業」といった形態があるが、後に述べる. 学校教育の課題を論ずるとき、学校組織という基本. ように、教育実習で学生が変容するきっかけは、子ど. 的な枠組みの議論に及ぶこともある。このような議論. もたちとかかわる出来事の中にある。ここでは、カリ. も大切であるが、人と人とのかかわりが中心である「教. キュラム上の位置づけを十分に踏まえることで、大学. 育」においては、社会の変化を反映させた「子ども観」、. と附属学校が連携した教育実地研究の授業について紹. 「授業観」に着目し、必要とされる資質・能力を持つ. 介する 5)。. 教員の養成も課題解決の重要な方向性の一つであると 考えられる。本稿では、大学と附属学校が連携する教 員養成の一考として、教育実地研究と教育実習を事例 として論述していきたい。. 2 教育実地研究についての事例(理科教育) (1)目的 小・中学校の理科授業の参観を通して、学校におけ る子どもの学びの姿や教師の支援の方法と内容を具体 的に理解する。さらに、授業計画を立て実践する。. 引用文献 1)大西 誠、 「内外教育」No.5956、pp.2-5、時事通信社、2009 2)「読売新聞」11 月 28 日版、p.18、2009 3)木村昌彦・佐野 裕・遠藤千草、「教師養成教育としての『教育実地研究』 」 、pp.43-54、横浜国立大学教育人間科学部教育実 践研究指導センター紀要 17、2001 4)同上書 5)森本信也、平成 21 年度「教育実地研究」授業、横浜国立大学教育人間科学部. 48.

(2) (2)授業の期間 平成 21 年4月から7月まで、計 13 回の授業を行った。. 報も併せて収集することなどである。附属学校教員か らは、授業参観にかかわる授業の指導目標、指導計画、 指導の重点に加え、日頃の子ども達の学習活動への姿. (3)授業の概要. 勢や学習内容の理解状況などについても伝えられた。. 授業では、履修学生全員でのオリエンテーションや. 両者のやり取りの中で、教材の解釈や子ども達の考. 講義、施設・設備を中心とした学校見学に加え、小・. え方については、大学教員から「教師の発問によって. 中学校の授業を3回にわたって参観した後、どちらか. 喚起された子ども達の発言やつぶやき自体も、重要な. の学校で実際に授業を行う内容を取り入れた。小・中. 教材となっていく」、「子ども達の考えも、科学理論の. 学校での授業は、グループ内で 20 分程度の授業(導. 萌芽となる」といった理科教育に関する理論的視点も. 入部分)を計画し、グループの代表者が行った。指導. 提起された。また、附属学校教員にとっては、このよ. 案については、大学教員が提示した書式を参考にして、. うな理論的な指摘やアドバイスを受け、実際に学生が. 学生がグループ内で協議しながら作成した。. 参観する授業の展開、発問、子ども達の考え方を扱う 方法などについて、あらためて吟味し直す機会となっ. (4)授業参観と授業実施について 本事例における授業参観と学生による授業実施は、. た。一連のやり取りを模式化すると、図1のようにな る。. 本稿で紹介する教育実地研究の意義の中心をなすもの であり、今後、教員養成課程のカリキュラムがどのよ うな内容に改訂されるにしても、変わらぬ価値を有す ると考えられる。なぜならば、大学教員によるこの教 育実地研究の授業は、附属学校教員との綿密な連携の 上に成り立っており、これからの教員にとって必要不 可欠と思われる資質、能力に焦点を当てた実践だから である。大学と附属学校との連携をわかりやすく説明 するため、連携の内容を4つの場面(シーン)に分け て記述していく。 ①シーン1「打ち合わせ」 シーン1は、大学教員と附属学校教員が当該の教育 実地研究の授業に関する目的、意義、授業計画などに ついて意見交換を行う場である。この場は授業の進行 にかかわる内容を確認し合うと同時に、大学教員から は、教科教育に関する最新の理論などが、また、附属 学校教員からは実際的な教育課題、授業実践課題など が提起され、両者には貴重な情報交換の場となった。 本事例では、大学教員から教育実地研究の目的、意 義、計画に加え、今回の実践の特徴である学生による 授業を踏まえた授業参観のポイントについても附属学 校教員に伝えられた。例えば、授業参観時に学生は、 子どもの学びや教師の支援の実態について、「子ども の学習の実態」、 「教師の学習指導の実態」、 「教材・教具」 の3点に留意しながら記録を取ること、また、学生に よる授業実施の計画を立てる際に参考となるような情. 図1 シーン1「打合せ」 ②シーン2「実際の授業に学ぶ」 この場面では、学生が実際に附属学校教員の授業を 参観するため、大学教員、附属学校教員、学生の三者 が授業を行う教室に会することになる。先述したよう に、大学教員は参観のポイントとして3点の内容を学 生に伝えており、附属学校の教員はそれらの内容を意 識して授業を実践した。実際には、2学年の「生物」 と3学年の「電流」の授業を行った。教材として使用 したワークシートのイメージを図2に示す。 このシートは、本校の校内研究において議論し作成 したもので、子ども達が思考の変容を意識して記録す ることで、子ども達自身にその変容を認識させようと したものである。ここには、理科における科学的思考 力の育成を図るには、個人としての考えを基にしなが らも、他者とやり取りする中で他者の考えを柔軟に取. 教育デザイン研究 創刊号 49.

(3) 教員養成カリキュラムにおける大学と附属学校の連携について. り入れ自己の考えを深め広げていくことが重要である という認識があり、附属学校教員と大学教員の間では、 この点についても十分に共通理解が図られている。 学生は、大学教員から提起された参観のポイントを 意識しながら授業を参観し、「子どもの発言」、「ノー ト(ワークシート)」、「子ども達の活動の様子」、「板 書」等を熱心に記録していた。 3回の授業参観では、その都度、三者がそろって授 業後の協議を実施した。学生からは授業者に対して活 発な質問が出され、同時に、授業者からも発問の意図 や子ども達の応答について詳しい説明がなされた。具 体的な学生の記録には、たくさんの質問や質問しやす. 図3 シーン2「実際の授業に学ぶ」. い雰囲気が作り出されることからグループワークの利 点に気づいたり、子どもの発言に臨機応変に答える授. ③シーン3「授業の実施」. 業者の姿に目指すべき教師像を描いたり、また、ワー. 学生がグループで指導案を検討し、代表者が実際に. クシートという教材は授業のレールを引くと同時に、. 授業を行うのがこの場面である。指導案の検討に際し、. 活発な話し合いでは寧ろ邪魔なものになるのではない. 学生は、教材の解釈や提示の仕方などに関しては教科. かという教材の両面性にふれたり、どれも意欲的な内. 教育学(この事例では理科教育学)を、授業で実際に. 容が目立った。これまでのシーン2でのやり取りにつ. 扱う「生物」に関しては教科専門である生物学を、そ. いてまとめると図3のようになる。. して、発問、板書などに関しては教育に関する諸科学 を担当する大学教員からアドバイスを受けることがで きる。指導案を検討する過程はもちろん、授業を実施 したことによって、多くの学生が大学での授業の意味、 必然性を感じるのはこの場面である。また、後に示す とおり、学生は指導案を検討する過程で、実際の授業 をシミュレーションしながらも、つい理想が高い授業 を構想してしまったという反省を述べている。このこ とは、教師として教壇に立つという意気込みと緊張感 に加え、実際の授業には想像できないほどの流動性や 複雑性があることを身をもって体験したことの表れで あると考えられる。 実際の授業は、第2学年理科で学習する単元「動物. 図2 ワークシートのイメージ ( 太枠と文字は、流れを強調するため後から加筆 ). の生活と種類」の導入にあたる「動物の生活の観察」 を扱い、子どもたちに思いつく脊椎動物の名前を順番 に挙げさせることから始まった。一人一人の子ども達 から出された動物名は、授業者によってカードとして 黒板に貼られ、授業者と子ども達とで繰り広げられる 対話によって、グループ分けされていくことが授業展 開の中心となった。 大学教員によるアドバイスを受けながらグループと して授業の準備に取り組み、授業を実施する様子をま とめたものが図4である。. 50.

(4) 表1 大学教員、附属学校教員からの分析やアドバイス. 図4 シーン3「授業の実施」. ④シーン4「さらなるステップへ」 学生による授業の実施を受けて、大学教員、附属学 校教員、学生の三者が集まり、授業の振り返りや分析 を行ったのがこの場面である。この過程を経ることに より、学生は次のステップである教育実習に向けて自. この表に示された内容は、後に示す学生のふり返り. 分なりの課題を認識し、その解決に向けて大学での授. をもとに提起された授業の分析やアドバイスの一端で. 業などに取り組むことになる。. ある。大学教員からは授業論や教育研究の意義の視点. 実際の授業では、子ども達は意欲的で、かつ楽しそ. などから、また、附属学校教員からは指導方法、生徒. うに動物名を挙げていった。ただ、途中、順番に動物. 理解、さらには教員の職務にかかわる視点などから話. 名を挙げていく際にふざけてしまい、しりとりのよう. が出され、学生自身にとっても大学での授業とのつな. に動物名を発言していく様子もみられた。カードに掲. がりや教育実習を迎える上での心構えを意識できたの. 示された動物名やその分類について、授業者と子ども. ではないかと考えられる。このシーン4の構図をまと. 達との間でさまざまな対話が交わされた。学習活動の. めると図5のようになる。. 対象が「動物」ということで子ども達の知識も豊富で あり、笑顔や笑い声に満ちた授業となったが、話の内 容が脱線してしまう場面もあった。 授業後の三者による授業に関する協議では、大学教 員、附属学校教員それぞれの立場から分析やアドバイ スがなされた。例えば、大学教員、附属学校教員から は表1のような内容が示された。. 図5 シーン4「さらなるステップへ」. 教育デザイン研究 創刊号 51.

(5) 教員養成カリキュラムにおける大学と附属学校の連携について. (5)学生によるふり返り. 表3 学生による振り返り 「授業者として授業を考える」. 教育実地研究における各シーンでの協議やレポート によって明らかとなった学生のふり返りは、主に「子 どもの学習の実態について」、「教師の学習指導の実態 について」、「用具・教材について」という三つの視点 からなされている。これは、先述したように、大学教 員から提起された授業参観時における参観のポイント であり、学習者である子ども達は、何らかの媒介をもっ て、周りの世界や対象を認識していくということを意 味している。この媒介というのは、用具や教材であっ たり、自分なりの考えや友達の考えであったりして、 授業者である教師は、このような媒介が集団の中でい ろいろと共有化されることで学びの意味が深まると考 えている。このことは、ひとつの理科学習論を根拠に していることであり、教師の学習指導もこの点を基盤 になされていく。大学教員としては、この構造を意識. 表4 学生による振り返り 「指導方法が子どもの学 びとつながっていることがわかる」. して、参観のポイントを学生に指導していたのである。 学生による振り返りを先の3つのポイントで整理す ると、さらに3つの視点に分類できた。それらは、 「授 業を構成する要素に気づく」、「授業者として授業を考 える」、「指導方法が子どもの学びとつながっているこ とがわかる」である。これらの3つの視点を上位の分 類として代表的な内容を整理すると表2〜表4のよう になる。. 表2 学生による振り返り 「授業を構成する要素に気づく」. 表2は、「授業を構成する要素に気づく」という視 点のため、「子どもの学習」、「教師の学習指導」、「用 具・教材」のすべての視点にわたって、学生の振り返 りは言及されている。実際の授業やカリキュラムには、 課題が複合的に混合していることを、佐藤はシュワブ (Schwab,J.)が提唱した課題領域のマトリックスを用 いて指摘している 6)。すなわち、構成する要素を4つ として、そのうちの2つの要素の組み合わせだけでも 合計 10 の課題領域が成立するということである。こ のマトリックスの考え方に沿って、表2の学生による 振り返りを見てみると、「教師−子ども」、「子ども− 6)佐藤 学、「教育方法学」、pp.58-60、岩波書店、1997. 52.

(6) 子ども」、「教師−用具・教材」のどれかに対応するこ. に考えたのか」というメタレベルの視点をもつことが、. とがわかる。教師の仕事として考えられるマトリック. さらに学びの質を高めることを理解している。また、. ス、つまり課題領域と比べるとかなり少ないが、教育. 「机間指導」についてふれた内容では、単に正解へ向. 実地研究での経験であるため当然である。次年度の教. かわせるためのヒントを出す授業者ではなく、子ども. 育実習ではさらに多くの領域を経験するであろうし、. 達が考えやすいような状況、議論しやすいような状況. 実際に仕事に着いたならば数え切れないほどの領域を. を作り出していることを指摘している。そして、各班. 意識すると考えられる。このようなことからも、教育. からの発表時には、机間指導で把握したそれぞれの学. 実践の問題を技術学的な問題に人為的に単純化するべ. びの実態を踏まえながら、臨機応変に授業を進行させ. きではないという主張. 7). はもっともである。. ている授業者の振る舞いにも着目している。. 表3に示すような学生の振り返りが示された理由. このように指導方法と子どもの学びを一体となって. は、今回のようにグループで指導案を検討し代表者が. 考えられる視点は、「即興的思考」や「状況的思考」. 授業を行ったという実践の結果であると考えられる。. といった創造的な熟練教師特有の「実践的思考様式」9). 多くの学生が自分を授業者としてとらえることによ. の起点になるものであり、まさに教職の専門性の基底. り、授業を展開する責任感や緊張感を身をもって感じ. をなすと考えられる。. ることができたと推測できる。中でも、表3の記述に ある「子どもの意識の動きを予想して」という表現は、 まさに伝達すべき情報の提供者ではなく、子ども達が 考え吟味する機会や、考え直さざるをえないようなコ ミュニケーションの状況を作り出す教師の役割. 8). 3 教育実習について (1)教育実習の目的と意義について 教育実習の目的は、「教育の現場において、児童・. に. 生徒、および教師との接触を通して、児童・生徒その. とって不可欠な敏感さであると考えられる。また、 「逆. ものの実態を知り、教師として必要な基盤を確立する. に理想が高くなってしまったように思う」という表現. こと」10)とされ、具体的な目標として、 「教育理論」、 「教. は、附属学校教員の授業を参観したことにより、ある. 師としての基本的態度」、「教師としての専門的技術」、. 種の教師像や授業像をイメージでき、大学での授業や. 「自己の研究課題」、「教師としての自覚・使命」に関. 自分の経験を踏まえながら授業展開を構想してみたも. する項目が挙げられている。これらの目的・目標のた. のの、実際の授業の難しさに直面した感情を素直に述. めに、教育実習という経験学習の場が設けられるので. べたものであろう。ただ、理想を高くもつことは問題. あるが、この経験を単なる経験に終わらせないために. ではなく、逆に授業を構想することへの積極的な気持. は、教育実習生(以下「実習生」と表記)が教育実習. ちの表れであり奨励されることである。. におけるさまざまな経験をどう自分自身で反芻し、と. 表4の内容は、 「指導方法が子どもの学びとつながっ. らえ直すかということが重要になってくる。このよう. ていることがわかる」という視点であり、指導方法だ. な実習生の姿勢があってはじめて教育実習の意義が生. け、子どもの学びだけといった一元的な見方ではなく、. まれてくる。たとえば、教育実習の意義について、 「教. 指導方法と子どもの学びが密接に関連していることに. 育精神の把握」と「自己検証と変革」という二つの側. 焦点化させていることが特徴である。たとえば、「付. 面からとらえる指摘がある 11)。. け足す」という行為に着目した学生は、その行為の意. 前者については、教育について最も重要な要件とし. 味、すなわち、知識は単純に伝達されるのではなく、. て、「教育者のありよう=教育精神」12) を置き、「生. 他者とのやりとりの中で深まり、必然性をもっていく. 徒への教育愛=はっきりとした技術や方法に基礎づけ. ということを、「授業者−子ども」の関係性の中に見. られ、かつそれらを包含しての人間の発達や変革へ. い出している。さらには、子どもが「自分がどのよう. のかかわりの意欲」13) から教育が進められなければ. 7)同上書、p.60 8)大島 聡、『情報教育とは何か』「学校を変える情報教育」、p.23、国土社、1999 9)佐藤 学、前掲書、p.151 10)横浜国立大学教育人間科学部、 「平成 21 年度教育実習実施上のお願い教育実習Ⅱ(中学校)」、p.4、2009 11)専修大学教職課程協議会、「教育実習の手びき」、pp.6-7、芳文社、2005 12)同上書. 教育デザイン研究 創刊号 53.

(7) 教員養成カリキュラムにおける大学と附属学校の連携について. ならないという教育精神の一端にふれることができれ. 表5 質問紙の内容. ば、教育実習は意義あるものになるとしている。また、 後者については、人を考え指導することは、自己その ものが検証されることとし、いったん生徒に接し教壇 に立つとき、自分は何を学んだのか、何を自分の血肉 としてきたのかが問われる。つまり、教育実習は、 「自 己を検証する場=勉学の反省の契機」14) であると意 義付けている。 このように学校現場における教育実習の意義は、成 長しつつある生徒の存在、学校という組織の存在、そ して、学校にかかわる諸条件の存在など、さまざまな 関係性の中に実習生が身を置き、自らのかかわりの意 欲、自己検証が基点となって「教育」が進められてい. Q1は、計画性をもって取り組もうとしている附属. くことを認識することである。. 学校教員にとって障害となっていることについて問. ここでは、教育実習が、大学における教員養成カリ. い、Q2は、そのことに関連して、つけけてきてほし. キュラムの中にあって、その意義を果たすための条件. い姿勢や能力について聞いた質問である。次に、Q3. について考えていきたい。そのため、日頃より実習生. では、附属学校教員側の指導のポイントを教科領域と. の指導教員としてかかわっている附属学校教員に調査. その他の領域に分けて聞き、Q4とQ5は、そのこと. を行い、その結果を考察の足がかりとした。附属学校. に対する実習生の反応について、 「変容」、 「質問」をキー. 教員は、教育実習という経験学習のプロセスを準備す. ワードとして浮き彫りにしたものである。. るとともに、実習生にとって教育実習が先述したよう な意義あるものとなるよう、熱心にかかわりをもつ。. (3)結果と考察. その結果として、教員各々は教育実習や実習生に対し、. ①Q1とQ2について. さまざまな考えや思いをもつようになる。今回の調査. Q1に対する回答の半数が、「意欲・マナー」の問. では、附属学校教員側の具体的なかかわりと教育実習. 題で、内容は単に意欲がないことから、生徒との友達. 生からの反応を明らかにすることで考察を進めた。. 感覚、お洒落、非教育的な行動などと広がりがある。 次に多いのが、「実習体制の問題」で 27.3%、特に一. (2)調査方法. 人で担当している音楽科、美術科では、一クラスあた. ①対象者と実施時期. りに週、ほぼ1時間しか授業がないため、配属される. 調査は、横浜国立大学教育人間科学部附属鎌倉中学. 実習生が多くなると実習に必要な授業時間数も増え、. 校教員 22 名に質問紙により、平成 21 年 12 月に実. 実習生の授業時間を確保するためには、毎時間、実習. 施した。また、平成 21 年度後期に実習を行った教育. 生の授業が続くことになる。次に多い項目は、「授業. 実習生の実習記録も参考とした。. 実践のための基礎力」が 13.6%で、「教材研究」、「指 導案の書き方」などである。そして、「自信の喪失」. ②質問紙の内容 質問紙の内容は、表5に示すとおりである。. が 9.1%とは、実習中にうまくいかないことがあると、 「自分に力がないからだ」と自分を責めたり、一緒に 実習を行っている仲間と比較して自分に劣等感を感じ 悩んだりすることである。. 13)専修大学教職課程協議会、「教育実習の手びき」、pp.6-7、芳文社、2005 14)同上書. 54.

(8) の問題が、いかに大きいかがわかる。回答の中には、 「数時間の授業でつけられる力は限られていると思い ます。能力も必要ですが、本人の積極性や意欲による ところが大きいのではないでしょうか」という内容が あったように、「意欲・マナー」の問題は、教育実習 の質的な側面を決定づける要素であり、大学と附属学 校とが連携しながら取り組んでいく必要がある内容と 考えられる。大学のカリキュラムの中で、「子どもに かかわること」、「授業をつくること」への興味や関心 が喚起され、これらのことを進んで探究していこうと する姿勢が、学生にはぐくまれてほしいと願う。先述 した教育実地研究の事例は、そのひとつである。 ま た、「授業実践のための基礎力」については、Q1で 図6 Q1の回答結果. 13.6%、Q2で 41.6%と、教員の困り感はそれほど ではないものの、教育実習までにはつけてきてほしい. Q2は、「意欲・マナー」をつけてきてほしいと思. 力となっている。これは、より効果的、より発展的な. う割合がやはり半数で、次に「授業実践のための基礎. 教育実習を実現させるためには、この「授業実践のた. 力」が 41.6%。そして、「思いやり」5.6%、「人との. めの基礎力」が不可欠であることを示しているし、こ. コミュニケーション」が 2.8%という結果である。「授. の能力は本来、「意欲・マナー」と一体化しているも. 業実践のための基礎力」の内訳を示すと、「単元にか. のであると考えられる。. かわる知識・技能」などが 22.2%、「指導案の書き方・. Q1で明らかとなった「自分を無力」と悩む学生は. 学習指導要領の内容」などが 11.1%、 「授業の進め方、. 最近の傾向であると聞くことが多い。真面目に取り組. 話し方、板書の能力」などが 8.3%となっている。. もうとする姿勢は大切であるので、教育実習校でのサ ポートが必要である。Q2の結果に示された「思いや り」に関しては、子どもとかかわる仕事上、「意欲・ マナー」と同じことであるが、子ども達が教師を見る 目として最も敏感になる部分である。Q1の教育実習体 制に関しては、一週あたりの授業時間数が決まっている ため、物理的な問題でもあり、教育実習体制の見直しと ともに、大学と附属学校との綿密な連携が必要である。 ②Q3、Q4、Q5について Q3のうち「教科指導」に関しては、 「授業づくり」 が 50.0%、次に「単元・カリキュラム」が 36.7%、 「実 習生の思いや考え」が 13.3%であった。また、 「その他」 に関しては、 「生徒とのかかわり」が 41.2%、 「生徒理解」 が 23.6%というように、子ども達と実習生との関係に. 図7 Q2の回答結果. ついてが圧倒的に多く、 続いて「マナー」が 17.6%、 「教 員としての姿勢」が同じく 17.6%となっている。 Q3について、本来ならば「単元・カリキュラム」. Q1とQ2の結果から、教育実習の実情、そして教. が最も多い割合と考えられそうであるが、「授業づく. 育実習を行う上での前提として、学生の「意欲・マナー」. り」が 50.0%と多かったことは、本校での研究主題. 教育デザイン研究 創刊号 55.

(9) 教員養成カリキュラムにおける大学と附属学校の連携について. が「学力3要素を養う授業づくり」ということで、職 員が「授業づくり」に力を入れていることとも関連し ていると考えられる。「実習生の思いや考え」は、た ぶん、「その他」のどの項目でも重視されていること であろうが、あえて独立した項目となっているのは、 実習生の主体性を大切にすることで実習生が変容して いったからであると考えられる。また、「その他」に 関して、「生徒とのかかわり」と「生徒理解」が合わ せて 64.8%であったことは、実際の学校現場では、 教師と子ども達とのさまざまなかかわり合いから信頼 関係が生まれ、それがすべての教育活動の基盤になっ ていることの表れである。そうであるからこそ、教員. 図9 Q3の回答結果(その他). としての資質、マナー、意欲が求められるのである。 さて、指導教員の多様なはたらきかけに対して、実 習生の反応と思われることがQ4とQ5の内容であ る。Q4では、実習生の「変容」のきっかけを聞いて いる。最も多かったのが、「指導教員と実習生とのか かわり」で 36.4%、次に「授業へのかかわり」と「生 徒とのかかわり」が同じで 22.7%、そして「反省を バネ」が 18.2%となっている。. 図10 Q4の回答結果 指導教員が授業例をみせたり、実習生の話をじっく りと聴いたりしたときに大きな変容があるという。こ の点からも、指導教員と実習生との信頼関係が不可欠 であることがわかる。「授業へのかかわり」について は、実習生の中で授業を受け持つことへの緊張感や覚 悟がしっかりしている時であろう。早い時期に授業に かかわったり、生徒の発言を扱ったりした経験が変容 図8 Q3の回答結果(教科指導). のきっかけとなっている。「生徒とのかかわり」は、 「授 業へのかかわり」のさらに深い経験内容について述べ たものである。たとえば、自分が作成したワークシー トに生徒が一生懸命に取り組む姿を見た時や、自分の 話に生徒が熱心に聴き入ってくれたりしたときに、実 習生は生徒に受け入れられたと感じる。教員にとって も、同じことが日々の仕事の励みになっていることは 周知のとおりである。 Q5については、指導教員が実習生から受けた主な. 56.

(10) 「質問」について聞いたものである。実習生が主体的. おわりに. にかかわろうとした内容や、助言を求めた内容に関係. 教員養成カリキュラムについて、大学と附属学校の. すると思われる。結果をみると、さまざまな内容にわ. 連携のメリットを考えると、一般的には「学生が大学. たっていることがわかる。その中でも特に、 「授業の質」. の授業に必然性や発展性を持つことができる」、「学生. に関する内容が 43.8%と最も多く、次に「教材研究」. が教育実習に向けて見通しを持つことができる」、「大. で 18.8%、 「発問・板書」が同じく 18.8%、そして、 「教. 学教員と附属学校教員が連携しやすい」といった点が. 育課程等」と「生徒理解」がともに 9.3%という結果. 挙げられる。これらの内容が本質的な意味をもつ条件. であった。. を探るため、本稿では、教育実地研究の事例、教育実 習に関する調査という二つの柱を中心に議論を展開し てきた。 実習生が変容するきっかけで多かった内容は、「指 導教員と教育実習生とのかかわり」や「生徒とのかか わり」である。具体的には、授業例を見せられたり、 実習生の思いを聴いてもらったり、また、生徒とかか わる糸口をみつけたり、生徒に受け入れられたと感じ たりした場面である。いかにも人間臭い結果であるが、 先述したように、実習生自身が学校現場というさまざ まな関係性の中に身を置き、自己を見つめたことの証 左であろう。 実習生の多くは、教育実習期間の後半には明らかに 課題意識をもって実習に取り組み、自己のさまざまな 経験を総動員しようとする。教育実習で、はぐくみた い「臨床の知」とは、まさに理論的な知識と実践的な 図 11 Q5の回答結果. ここで、「授業の質」とは、「生徒の反応への適切な 対応」や、「思考力をはたらかせる授業」、「自発的な 動きを待つ展開」などである。「授業の質」が最も多 い割合になっているのは、Q3の結果と同じく、本校 の指導教員が「授業づくり」を重視して指導している. 知識を往還させる「力」である。 「教育実地研究」、「教育実習」といった一連の教員 養成カリキュラムの中で、学生が教育精神の一端にふ れ、自己を検証する場を認識してこそ、この「力」、 すなわち「臨床の知」が本人の中で芽吹いていくよう に思われる。そして、将来的に、教員人生を支え、拠 り所となるのも、この「力」であると断言できる。. からであろう。指導教員が行う指導の重要性について は、教育実習生の授業観に関する先行研究においても 指摘されている 15)。. 15)石井 勉、 「教育実習生の授業観に関する考察−質問紙調査を通して−」 、東京学芸大学附属学校研究紀要 第 36 集、 pp.75-85、2009. 教育デザイン研究 創刊号 57.

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