「植物の小さなRNA がタンパク質合成を制御するしくみ」 1. 発表者:泊 幸秀(東京大学分子細胞生物学研究所 教授) 2. 発表のポイント: 植物の小さな RNA がタンパク質合成を制御するしくみを明らかにしました 植物の小さな RNA がはたらくために必要な条件を明らかにしました 将来人間に有用な作物を創出する際の基盤となることが期待されます 3. 発表概要: 植物がもつ小さなRNA の一つである microRNA は、特定の遺伝子のはたらきを制御するこ とにより、花や、茎、根などを作る過程や、水分、ミネラル量の変化に対する応答、また病原 体に対する抵抗性など、さまざまな生命現象に深く関わっています。しかし、植物の microRNA のはたらきについては、動物の microRNA と比べてまだ分かっていないことが多く ありました。 今回、東京大学分子細胞生物学研究所の岩川 弘宙 助教と泊 幸秀 教授は、試験管の中で microRNA のはたらきを再現することにより、植物の microRNA がタンパク質の合成過程を阻 害するしくみを明らかにしました。さらに、microRNA がはたらくために必要な条件を明らか にしました。 本研究は、植物の遺伝子のはたらきを制御する「影の支配者」であるmicroRNA が機能する メカニズムを解明した重要な成果であり、将来人間に有用な作物を創出する際の基盤となる可 能性が期待されます。 4. 発表内容: アミノ酸が連なったタンパク質は生物の最も重要な構成因子の一つです。タンパク質がどの ようなアミノ酸からできているかという設計図は遺伝子としてDNA に書き込まれています。 この情報は一度メッセンジャーRNA(mRNA)に写しとられます。そして、リボソームという タンパク質合成装置がmRNA 上を一方向に進むことにより、RNA に書かれた情報をアミノ酸 配列に「翻訳」し、タンパク質が生み出されます。 ここ十数年で、タンパク質の情報が書き込まれていないRNA(非コード RNA)が、動物や 植物の遺伝子のはたらきを広く制御していることが明らかとなってきました。約20 塩基の長 さを持つmicroRNA は、最も重要な非コード RNA の一つです。例えば、ヒトのゲノムには 2,000 種類以上の microRNA が存在し、ヒトのすべての遺伝子の半分程度を制御している可能 性があることが示唆されています。一方、植物研究のモデルとしてよく使われているシロイヌ ナズナのゲノム中には、現在までに約300 種類の microRNA が発見されており、それらは、花 や、茎、根などを作る過程や、水分量、ミネラル量の変化への応答など、さまざまな生命現象 に深く関わっています。 microRNA は単独ではたらくわけではなく、Argonaute(アルゴノート)と呼ばれる酵素と複 合体を形成してはじめて機能を発揮します。動物では、microRNA は自分自身の配列のごく一 部(7 塩基程度)と相補的な配列2)をもつ数多くの標的mRNA と結合し、タンパク質合成の初 期段階を阻害することが知られています。一方植物では、microRNA は自分自身の配列と完全 に相補的な配列を持つ標的mRNA を Argonaute の酵素活性を使って切断することが知られてい
ました。ところが最近になって、植物のmicroRNA も動物の microRNA と同じように標的 mRNA と結合することによりタンパク質合成も阻害することが分かってきました。しかし、 どのようなしくみで植物のmicroRNA が標的 mRNA に働きかけタンパク質の合成を阻害する のか、そして植物のmicroRNA がどの程度の相補的配列をもつ mRNA までを標的としうるの かは明らかになっていませんでした。 今回、東京大学分子細胞生物学研究所の岩川 弘宙 助教と泊 幸秀 教授は、植物細胞の抽出液 を用いることにより、microRNA が mRNA 上のリボソームの進行を物理的に阻害することで、 タンパク質合成を抑制することを明らかにしました。このしくみは世界で初めて発見された植 物microRNA による抑制機構です。次にどのような配列をもつ mRNA がタンパク質合成の阻 害を受けるかを調べました。すると、microRNA とほぼ完全に相補的な配列を持つ mRNA は強 く抑制されましたが、動物のようにmicroRNA の一部だけが相補的な配列を持つ mRNA は全 く抑制できませんでした。このように、標的mRNA を認識する条件が分かったことにより、 これまで謎であった、植物のmicroRNA が制御する遺伝子の全体像が明らかになる可能性があ ります。 本研究は、植物の遺伝子のはたらきを制御する「影の支配者」であるmicroRNA の機能の一 端を解明した重要な成果です。また、将来人間に有用な作物を創出する際の基盤となることが 期待されます。なお、本論文が掲載されるMolecular Cell 誌には、今回の研究成果を図案化し た表紙デザインが採用されました。本論文の研究成果が高く評価された結果と言えます。 5. 雑誌名: Molecular Cell (オンライン掲載:米国東部標準時間 11 月 21 日)
論文タイトル:Molecular insights into microRNA-mediated translational repression in plants 著者:Hiro-oki Iwakawa and Yukihide Tomari
6. 注意事項: 報道解禁は日本時間11 月 22 日午前 2:00(米国東部標準時間 11 月 21 日正午)となります。 この時間以前には報道しないようにご注意ください。 7. 問い合わせ先: 東京大学 分子細胞生物学研究所 教授 泊 幸秀(とまり ゆきひで) TEL : 03-5841-7839 FAX : 03-5871-8485 E-mail : [email protected] 8. 用語解説 :
1) RNA:日本語ではリボ核酸。一般的に知られている mRNA は、DNA(デオキシリボ核 酸)が持つ遺伝情報のコピーであり、タンパク質の設計図としてはたらく。一方、小さな RNA はタンパク質の設計図にはならない。
2) 相補的な配列:アデニン(A)、ウラシル(U)、グアニン(G)、シトシン(C)からな る RNA の核酸塩基は、A と U、G と C がそれぞれ塩基対を形成し、それら対をなす塩基 配列を相補的な配列と呼ぶ。